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ギアポンプの「大東工業株式会社」―「人に人格、製品に品格あり、品格すなわち人格に通ず」(2)
ギアポンプの「大東工業株式会社」―「人に人格、製品に品格あり、品格すなわち人格に通ず」(1)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年04月15日

ギアポンプの「大東工業株式会社」―「人に人格、製品に品格あり、品格すなわち人格に通ず」(2)


 (前回からの続き)

 (4)【経営革新計画】大東工業は平成23年に経営革新計画を取得した。当時はリーマン・ショックの影響で売上高が2割ほど落ちており、そこから回復するためのシナリオを描いたものである。ただ、井上社長によれば、経営「革新」と言っているが、実際には経営「改善」であるそうだ。

 当時の石原慎太郎知事は「革新」という言葉が非常に好きであり、一獲千金の匂いがするものでないと認定されないと言われていた。関係者の間では、東京都では「魚屋がフルーツパーラーを始める」という計画なら認定が下りるけれども、「果物屋がフルーツパーラを始める」という計画では認定が下りないと、まことしやかにささやかれていた。

 井上社長は、「革新」という言葉に対してやや懐疑的である。本当にダメなところまで落ちた企業には革新が必要だろう。例えば、富士フィルムのように自社がターゲットとしていた市場が消滅したようなケースがそうである。また、革新の代表例として挙げられるビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグは皆、学生の時に起業しているが、彼らは失うものがないからこそ思い切ったことをやることができた。しかし、社員を食べさせなければならないというプレッシャーの中で、そこまでのリスクを冒すことが本当に得策かどうかは疑問だと井上社長は言う。

 (5)【海外の競合他社】圧力の標準は10kg単位であり、JISにも「JIS10kg」というものがある。日本のメーカーは、10kg、20kg、30kg・・・の圧力に対応できるポンプを、1品ものであっても顧客の要望に合わせて作る。ところが、アメリカには10kgの圧力に対応した汎用品しかない(汎用品を中国の工場で安く製造している)。20kgの圧力に対応したポンプを作ってほしいとお願いすると、「そんなものは設計ミスだ」とメーカーから突き返されてしまうという。

 もうちょっと話を聞いてくれるメーカーであっても、「何個ほしいのか?500台か?」と聞かれて「いや、1台だけです」と答えようものなら、「今すぐここから出ていけ」と言われてしまうそうだ。日本人は、「お客様は神様」と当たり前のように考えるけれども、アメリカ人にはそこまでの意識はない。日本人は「そこを何とかお願いします」と言ってメーカーと交渉するが、英語には「そこを何とか・・・」にあたる言葉がない。

 スイスにも有力なギアポンプメーカーがあり、極めて精密な製品を作っているが、日本ではあまり販売されていない。スイス人の国民性なのか、彼らはあまりあくせくと働かない。カタログに載っているものしか生産せず、融通の利かない計画生産に従っている。だから、この製品がすぐにほしいとお願いしても、「納期は6か月先です」ときっぱり言われてしまう。アメリカもスイスもこんな状態なので、大東工業はほとんど海外のライバルがいない状態で戦うことができている。

 (6)【社員教育】大東工業のモットーは、「高仕様、短納期、高価格」である。売上高に占める原材料費・外注加工費の割合は約3割であり、粗利率が非常に高い。同社は1人あたりの付加価値額が世界一になることを目指しており、しかも付加価値額をできるだけ社員に還元している。退職金は勤続40年で約2,000万円に上り、昨年の冬のボーナスは約80万円であった。この金額は、中小企業としては異例である。井上社長は、「社員の待遇をよくして、優秀な人材を集めて定着させ、大変な仕事をさせる(笑)」と述べており、この戦略を昨今何かと話題の「ブラック企業」の逆ということで、「ホワイト企業戦略」と呼んでいる。

 社歴は79年と長いが、社員の平均年齢は30代である。井上社長は、「リーマン・ショックで就職難の時代にいい人材を採用することができた」と振り返っている。ただし、いたずらに規模を追うことはしない。リーマン・ショックの時にも、1人採用するのに100枚以上の履歴書に目を通した。井上社長によれば、現在は優秀な人材を採用しやすい環境にあるという。景気回復に伴う買い手市場であることに加え、ハローワークの全国ネットワークが完成したことで、全国から人材を集めることが可能になったのがその理由だという。

2014年04月14日

ギアポンプの「大東工業株式会社」―「人に人格、製品に品格あり、品格すなわち人格に通ず」(1)


 昭和10年に創業し、今年で79年目を迎えた大東工業株式会社。79年間「ギアポンプ」だけを作り続けており、しかも独立系のメーカーで一度も下請をしたことがないという稀有な中小企業である。同社の井上社長による講演内容をまとめた。なお、記事タイトルは同社の社訓である。

 (1)【市場特性】ポンプには大きく分けて「水用ポンプ」と「水以外用ポンプ」の2つがある。水用ポンプは、種類は少ないが市場規模が大きく、荏原製作所を筆頭に数十社がひしめき合っている。逆に、水以外用ポンプは、種類が多い上に市場規模が小さく、日本には大東工業と島津製作所(ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏がいらっしゃる会社)ぐらいしかない。市場規模は約30億円であり、大東工業と島津製作所がそれぞれ売上高約13億円、残りの約6億円は海外勢やコピー製品が占めている。

 ニッチな市場である上に種類が多いことから、1ロット1台から生産するのが基本となっている。しかも、1台せいぜい数百万円にしかならないため、大手企業は参入してこない。厳密に言うと、かつて川崎重工や日立製作所などが参入したことがあったが、採算が合わず撤退した。大東工業が得意とするのは「ギアポンプ(歯車式ポンプ)」である。これは水車が上下に2つ並んでいるようなイメージであり、上下の歯車の間を液体が高圧で流れる仕組みとなっている。

 (2)【戦略】同社の戦略は、「その時々で羽振りのいい会社に製品を販売する」というものである。創業間もない昭和10年代は、帝国陸海軍が主な顧客であった。終戦と同時に軍需が途絶えると、今度は化学繊維業界が顧客となった。化学繊維は、原材料をところてん方式で押し出して製造するため、ポンプが必要となる。もう1つの重要顧客は製鉄業界である。新日鉄やJFEなどの製鉄所で冷却・潤滑用のオイルを流すために、同社のポンプが使われた。

 1980年代、オイルショックをきっかけに日本全体が重厚長大から軽薄短小へと転換すると、ソニーが新しい顧客となった。ビデオテープの製造過程で、磁性体塗料(鉄粉が混じった塗料)をテープに吹きつけるのに同社のポンプが活躍した。当時、ソニーだけで売上高が1億円ほどあったという。同社のポンプがソニーに売れると、競合他社のTDKや日立マクセルなどにも売れた。

 バブル崩壊後は、インフラ・電力業界が主たる顧客となった。顧客が求めていたのは、非常発電用装置のポンプである。通常、高層ビルの非常発電装置は屋上に設置される。しかし、その燃料は、消防法の定めにより地下に貯蓄しなければならない。そこで、その燃料を地下から屋上に送り出すためにポンプが必要となる。昨年度の顧客別売上高の第1位は川崎重工であった。「その時々で羽振りのいい会社に製品を販売する」と言うと、あまり聞こえはよくないが、「そのぐらいやらないと79年も同じ製品だけでやっていけない」と井上社長は繰り返していた。

 同社の戦略の特徴は、「川上を抑えること」と、「川下の企業にとって必ずしも重要でない工程を担うこと」にあるように思える。川上を抑えるだけでも戦略的には十分にインパクトがあることは、旧ブログの記事「【ビジネスモデル変革のパターン(第18回)】プロセスを分解して特定プロセスを独占する(1)(2)」でも述べたが、同社の場合には後者の要因が非常に重要である。

 単に川上を抑えるだけでは、川下のライバル企業に製品を販売することができない。トヨタのエンジンメーカーは、日産やホンダにエンジンを売るわけにはいかない。ところが、ギアポンプは、それがあるからと言って川下企業の競争優位性につながるわけではない。新日鉄でもJFEでも製鉄所を冷却しなければならないし、ソニーでもTDKでも日立マクセルでも、磁性体塗料をテープに吹きつける工程に差はない。ライバル企業が等しく必要とする製品を作ることで、川下の企業に幅広く製品を提供することが可能となっている。その結果、同社は単独ユーザだけで売上高の5%以上を占めることがないくらいに、顧客が多様化している。

 (3)【研究開発】中小企業は、大企業のように研究開発部門を設けたり、研究開発費を確保したりすることができない。そこで同社が実践しているのが、「8割理論」というものである。これは、「8割の実績に2割の開発努力」を意味する言葉であり、8割方は過去の実績でどうにかできそうだが、2割ぐらいは新たに努力しないと製造できないような製品を積極的に受注することである。いわば、顧客のお金で研究開発をするということだ。これが5:5だと苦しいが、8:2ならば何とかなる、というのが井上社長の主張である。

 実は、ソニー向けのポンプも8割理論によって生まれたものである。液体が流れるポンプはもちろん実績があるが、液体の中に鉄粉が含まれるケースは取り組んだことがなかった。案の定最初は失敗続きだったものの、開発努力を重ねることでソニーに認められた。最近で言うと、日本経団連のビルの非常用発電装置のポンプも、この8割理論の産物である。発電用燃料を180メートル上まで押し上げた後、液体が上から戻ってくる圧力にも耐えうるポンプを作らなければならない。そこまでの圧力を想定したポンプは過去に例がなかったが、これも8割理論で可能にした。

 成功している中小企業には、8割理論を実践している企業が多いと井上社長は指摘する。東京ドームのドームを作った太陽工業株式会社は、もともと万博用のテントなどを製造していた企業であり、東京ドームのような大きなテントは実績がなかった。しかし、そこを8割理論で乗り越えることで、今では世界中の野球場やイベント会場から引き合いが来るようになっている。

 また、ノーベル物理学賞を受賞した東京大学の小柴昌俊教授がニュートリノ研究で使用した真空管は、口径が58cmという巨大なものであった。そんな特注品を8割理論で実現したのが、浜松ホトニクス株式会社である。浜松ホトニクスの関係者は、「学者は10割の確信が持てないと動けない。我々は8割の実績で決断できる。だから我々は学者より偉いのだ」と自慢していたそうだ。

 (続く)




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