2016年12月09日
『チームの力(DHBR2016年12月号)』―多様性を理解するための「5つの会話」に自分で答えてみた
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す) ダイヤモンド社 2016-11-10 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
《参考記事》
(メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理―『異文化トレーニング』(1)|(2)
人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』
年明けということで、改めて自分の価値観を棚卸ししてみた
私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)|(2)|(3)
エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
他者と一緒に仕事をする場合、相手と自分の価値観を十分に理解し、それらができるだけ一致する方向に持って行くこと、価値観が衝突しそうな時には事前に対立解消のメカニズムを確立しておくことが大切であることは言うまでもない。価値観とは、「重要な意思決定が求められる局面において、判断を下すための基準」と言い換えられる。ただし、そのように言い換えたとしても、価値観という概念は非常に曖昧で、相手や自分の価値観を知ることは容易ではない。
価値観については、異文化コミュニケーションの分野で研究が行われている。冒頭の参考記事では、トロンペナールス&ターナー、クラックホーン&ストロッドベック、ホフステードの古典的な研究、そして、エリン・メイヤーの最近の研究を紹介した。彼らは価値観を示す指標を開発し、各国の国民がどんな傾向を示すか定量的に調査している。ただし、これらの研究は、国ごとの大まかな傾向を知る手がかりにはなるものの、今目の前にいる相手や自分自身のことを理解するには十分ではない。研究結果を鵜呑みにしすぎると、よからぬステレオタイプを抱きかねない。
個人の価値観を深く探求するためのツールは、私の知る限りほとんどない。冒頭の記事で私自身の価値観を整理したものがあるが、いずれも発散的な書き方にとどまっており、およそ体系的とは言えない。その点、本号のギンガ・トーゲル、ジャン=ルイ・バルスー「仕事開始前の「5つの会話」で摩擦の芽をつむ 多様なメンバーの「違い」に気づく技術」という論文では、個人の価値観を深掘りする5つの視点が提供されており、興味深い。
我々は、メンバーの人の見方、行動の仕方、話し方、考え方、感じ方という5つの領域に重点を置いた方法論を開発し、テストした。チームリーダーは20~30分の会話の進行役を務めながら、メンバーに対して、それぞれの領域における嗜好や期待を表明し、不整合や摩擦が最も起きやすい領域を特定し、異なる期待を持った人々が上手くやっていくための提言を考えるよう促す。お互いを批判しない形でアイデアやフィードバックの交換を行うことにより、チームは信頼・理解の基礎を築き、効果的な協力のための基本ルールを定めることができる。ということで、論文中の問いに従って、私の価値観を整理してみた。今から述べる内容は、いわば私という人間を扱うためのトリセツである(「トリセツ」と言ってみたかっただけ)。
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【①人物の見方】
Q.第一印象のよさ、悪さは何で決まりますか?
はっきりと挨拶をしてくれること。こちらの目を見て話してくれること。(直接対面した場合)名刺を両手で渡してくれること。(電話で初めて話した場合)最初に「もしもし」と言わず、「お世話になっております」と言ってくれること。(メールの場合)長文を改行せずにダラダラと書くのではなく、要件を整理してこちらが読みやすいように改行して書いてくれること。
Q.他人のどこにまず目が行きますか?(服装、話し方、態度)
目に力があるか?年齢相応のしわが顔に表れているか?服装のサイズが体形に合っているか?服装やカバンがきれいすぎないか?話し方が乱暴ではなく、ゆとりが感じられるか?私が年下だからという理由ですぐに敬語を放棄するようなことがないか?椅子にドカッと座らず、姿勢正しく座っているか?鼻毛や耳毛が処理されているか?
Q.それによってその人のことをどう思いますか?(厳格、押しが強い、怠け者)
目に力がなく、年齢相応のしわが顔に表れていない人は、仕事で大変な経験をしたことがない人、楽な人生を送ってきた人だと判断する。服装のサイズが体型に合っていない人は、見た目に無頓着だと判断する。かといって、きれいなスーツやカバンを使っていればよいというわけではない。新品をアピールする人は見た目でごまかそうとしている人だと感じる。スーツやカバンは使い込まれているが、丁寧に手入れされているのが望ましい。話し方が乱暴だったり、敬語が使えなかったりする人は、相手に対する敬意がなく、相手を道具のように使い倒す傾向があると警戒する。鼻毛や耳毛が処理されていない人は論外である。
Q.目に見えないどんな資質を重視しますか?(教育、経験、人脈)
日本に関する教養があること。欧米流のビジネスのやり方を表面的に真似するのではなく、それを日本の歴史・伝統・文化・風土・人間観などに照らし合わせて再解釈し、自分なりの理論へと昇華することができていること(経営者のインタビュー記事を読むと、その人が単なる欧米かぶれなのか、日本のことを真剣に考えて経営しているかがよく解る)。
Q.地位の差をどう考えますか?
地位が高いから偉いとは考えない。地位はその組織が内部の評価で定めた結果であり、私がその人間をどう評価するかということとは別だからである。
【②行動の仕方】
Q.時間厳守や期限はどの程度大切ですか?
非常に重要である。時間は万人に平等に与えられた経営資源である。ドラッカーは『経営者の条件』の中で、時間の使い方について意思決定する者をエグゼクティブ(経営者)と呼んだ。時間や期限を守れない人は、時間という私の貴重な経営資源を浪費する攻撃者である。
Q.遅刻や納期遅れの影響がありますか?
影響がある。遅刻や納期遅れによって、私の別の仕事が押したり、本来できるはずだった仕事ができなくなったりする。後者は明らかに私にとって損失であり、損害賠償を請求したい。
Q.職場で他人とやり取りをするのに心地よい物理的距離はどれくらいですか?
エドワード・ホールは、動物と人間との観察に基づき、人間が次のような対人距離の意識を持つと主張している。(1)密接距離(intimate distance)=15~45cm。愛撫、格闘、慰め、保護の意識をもつ距離、(2)個人的距離(personal space)=45cm~1.2m。相手の気持ちを察しながら、個人的関心や関係を話し合うことができる距離、(3)社会的距離(social distance)=1.2~3.6m。秘書や応接係が客と応対する距離、あるいは、人前でも自分の仕事に集中できる距離、(4)公衆距離(public distance)=3.6m以上。公演会の場合など、公衆との間にとる距離。
私の場合、最低50cmは離れてほしいと思う。それ以内に入られると、不躾な人だと感じる。
Q.仕事に志願すべきですか、任命されるのを待つべきですか?
しばしば、「私はこういう仕事がしたい」と周囲に宣言すると、そういう仕事が舞い込んでくると主張する成功者(?)がいるが、私の場合は自分がやりたいと思った仕事がその通りに入ってくることはまずない。むしろ、意外なオーダーの方が圧倒的に多い。「自分にはこういう強みがあるからこういう仕事ができるはずだ」と私が思っていることと、周囲の人が私に対して「あの人はこういう強みがあるからこういう仕事を任せたい」と考えていることは異なる。そして、正しいのは後者である。仕事に志願する場合は、私の考えている枠内でしか自己成長できない。一方、任命されるのを待っていると、予想外の方向へと自分を成長させてくれる可能性がある。
Q.どんなグループ行動が尊重されますか?(他人を助ける、不平を言わない)
上からの命令に唯々諾々と従うだけでなく、創意工夫を凝らしてよりよい方法を模索すること。問題を早期に発見し、自主的に解決すること。チーム内の仕事を標準化・効率化するようなルールや仕組みを構築すること。チームで守ると決めたルールからの逸脱を容易には認めないこと。どうしても逸脱が必要な場合、ルールが現実に合致していないのではないかと考え、ルールの方の変更を検討すること。仕事以外のことも含めて頻繁に顔と顔を合わせたコミュニケーションをとること。ネガティブな発言や問題行動でチームの雰囲気を壊さないこと。
【③話し方】
Q.「約束する」という言葉は抱負ですか、それとも保証ですか?
「約束する」は保証である。だから、軽々しく口にしてはいけない。
Q.率直な物言いと他人との調和、どちらが大切ですか?
チームや特定の個人に問題が生じた場合、他人との調和を気にしてそれを指摘しないことはチーム全体にとって損失である。だから、率直に指摘する。その際、感情的にならず、事実を淡々と指摘することが重要である。また、犯人捜しや個人攻撃をするのではなく、どうすれば問題が二度と起きないかという創造的な議論に集中する。
Q.皮肉や風刺は理解されますか?
私は皮肉や風刺を全く理解しない。言いたいことはストレートに表現すべきである。皮肉や風刺を考える余裕があるならば、その脳のエネルギーを問題解決の方に注いだ方がよい(旧ブログの記事「部下にだって「上司に物申す時の流儀」ってものがある」を参照)。
Q.話をさえぎるのは関心の証ですか、無礼な振る舞いですか?
無礼な振る舞いである。こちらがまだ言いたいことを全部言い終わっていないのに話を差し挟んでくるということは、こちらの話の全体像をとらえずに、部分を捕まえているにすぎない。この状態で論理的なコミュニケーションが成立するはずがない。以前、ある病院に私の家族が脳の病気で入院した際、院長が家族に対して「あなたの脳は死んでいる」、「頭がバカになっている」などとひどいことを言ったというので、私がクレームの電話を入れたことがある。しかし、院長が私の話を何度もさえぎるから、全く話がかみ合わなかった(それで余計に腹が立った)。
Q.沈黙が意味するのは熟考ですか、やる気のなさですか?
(この質問は難しい・・・)本当に相手にやる気がない場合もあるのだろうが、多くの場合は熟考だと考える。だから、相手が再び話し始めるまで我慢するべきだと思う。ある人から、沈黙に耐えるための効果的な方法を1つ教えてもらった。それは、1対1で話し合う時には、必ず双方に飲み物を用意するというものである。沈黙状態になると、お互いに飲み物に手を伸ばす。不思議なことに、飲み終わると会話が再開されることが多いという。
Q.反対意見は公表すべきですか、個別に話し合うべきですか?
チーム全体の方針や仕事の進め方に関する反対意見については、その人が勇気を持って反対の意を表明してくれたことに賛辞を示した上で、チーム内での議論を促す。仮に反対意見が通らなくても、全体の場で取り上げてくれたという事実をその人は評価してくれるはずだ。一方、メンバー間の個人的なトラブルについては、個別に話し合う。そのような問題は、他のメンバーが自分の業務を進める上で知る必要がないからだ。個人的なトラブルについては、他のメンバーに知られないように十分注意する。他のメンバーが知ると噂になり、チーム運営に悪影響が出る。
Q.一方的なフィードバックは歓迎されますか?
前述の通り、時間や納期の厳守については私は厳しいので、もし納期遅れなどが生じたら一方的に否定的なフィードバックをする。それ以外のケースでは、その問題について私が感じたことを率直に述べると同時に、相手はその問題についてどう考えているのかを聞くようにする。
【④考え方】
Q.「不確かさ」は脅威と見なされますか、それともチャンスと見なされますか?
不確かさは「やむを得ないもの」である。コンサルティングの仕事をしているとよく解るが、プロジェクトの終盤になって、クライアント企業から「我々が望んでいるのはこういう成果物ではない」とちゃぶ台返しを食らうことがよくある。コンサルティングは、目に見えないサービスを売り物にしている。そして、これは日本人の特性だが、目に見えないもののよしあしを事前に評価することが非常に苦手である。成果物という形で目に見えるようになって初めて、クライアント企業は自社の本当の要求が解るようになる。コンサルティングのこういう特性を理解しない人、特に、当初の計画通りに進まないと気が済まない人とは、一緒に仕事をすることが難しい。
Q.全体像と細部のどちらが重要ですか?
どちらも重要である。コンサルティングの報告書では、全体のストーリーが論理的でなければならない。私がパワーポイントで報告書を作成する際には、各スライドのメッセージラインに書いた文章だけを順番に読んでいけば、報告内容が解るように気を配っている。一方で、細部も重要である。パワーポイントの図で、テキストボックスの大きさが違う、位置が等間隔に揃っていない、フォントサイズがバラバラになっている、色使いに一貫性がないなどといった点は、私には許せない。製造業は、1ミクロンの公差の世界で勝負をしている。それなのに、コンサルタントがミリ単位でずれた図を使っていては、いい笑い者である。
Q.信頼性と柔軟性のどちらが大切ですか?
英語の「信頼性」は、日本語では「確実性」と言った方が適切である。前述のように、コンサルティングという仕事には不確かさがつきものであるから、柔軟性が重要である。
Q.失敗に対してはどんな考え方がされますか?
考えた結果生じた失敗であれば責めない。当初、どんな前提を置いて計画を立てたのか、実際にはどんなことが起きたのか、前提と現実の間にはどのような差が生じたのかを検証する。そして、今回の失敗から教訓を導き出す。一方で、考えずに起きた失敗は厳しく叱責する。
Q.計画からのズレはどの程度許容されますか?
私の場合、端から計画通りに進むとは思っていないため、計画からどれだけずれようと構わないと考える。ただし、繰り返しになるが、計画当初はどのようなことを前提としていたのか、それに対して実際には何が起きたのか、具体的にはどのような予期せぬ成功と予期せぬ失敗が起きたのかをチームで振り返る。計画の精度を上げるよりも、こういう議論を大切にしたい。
【⑤感じ方】
Q.ビジネスの場でどんな感情(ポジティブ、ネガティブ)を表に出してよい、あるいは出してはいけないとされていますか?
チームメンバーの成功に対してはポジティブな感情を表に出す。一方で、チームや個々のメンバーが失敗したり問題を起こしたりしても、(時間や納期を守らなかった場合は例外として)基本的には感情を表に出さない。ネガティブな感情は他のメンバーに伝染して、チーム全体を沈没させるからである。落合元中日監督のように、ベンチに黙って座っていたい。
Q.人々は怒りや情熱をどのように表現しますか?
(※この設問の「人々」は「私」と解釈した)今までの話を総合すると、私が怒るのは、時間や納期を守らなかった時と、考えずに行動した結果失敗した時の2つだけである。それ以外は、何が起きようとも感情を表に出さないようにしている。ネガティブな感情もそうだが、ポジティブな感情もほとんど表に出さない。チームメンバーが成功すれば私も一緒に喜ぶが、例えば私が何かいいアイデアを相手に提案する時、決して熱心には勧めない。こちらが熱心になると、相手がその熱意に引いてしまうことがある。逆に、こちらの熱意が相手に伝染したとすると、今度は相手が熱狂のあまり合理的で冷静な意思決定ができなくなってしまう。私としてはそれは避けたい。
Q.チームメートにいら立った時、どのように反応しますか?(沈黙、ボディランゲージ、ユーモア、第三者経由)
昔の私は、同僚に対してすぐに苛立つ傾向があり、それが私の精神を蝕んでいた。その原因を分析した結果、私は同僚に対して「これぐらいはできて当然だろう」と勝手な期待をかけており、その期待が裏切られるから苛立つのだと思うようになった。そこで私は、「相手にあれこと期待しない」という戦略をとるようになった。それ以来、前述の例外を除いて、ちょっとやそっとのことではイライラしなくなった。こういう私は相手に甘いと思われるかもしれないが、逆に厳しくしたからと言って、相手が簡単に変わるとも思えないのである。