2015年08月14日
「陸のASEANセミナー」に行ってきた(2/2)
前回「「陸のASEANセミナー」に行ってきた(1/2)」の続き。
(2)デンソーのASEAN戦略について
デンソーの役員から、ASEANにおける生産戦略の話があった。デンソーは全世界に24の生産拠点を持ち、約36,000人の従業員を抱える大企業であるが、意外なことに海外で工場を設立する際には自社工場ではなく、レンタル工場から始めることが多いそうだ。セミナーで紹介されたミャンマー、カンボジアの工場は、いずれも100人弱のレンタル工場であった。F/S(フィージビリティ・スタディ)をすると、自社工場では全くペイしないからというのがその理由らしい。
(a)ミャンマーは国内市場のポテンシャルが高い一方で、克服すべき課題も多い。例えば、SEZ(経済特区)法など個別の優遇政策は示されているが、全体を俯瞰した一貫した考え方が不明である。また、会社設立などに関するワンストップサービスは存在せず、政府関連の手続きのためには、その都度首都ネーピードーまで行かなければならない。
インフラに関しては、電力供給が不安定である。まずは手作業工程をミャンマーに移管したものの、本格的な加工工程を稼働させるには不安があると漏らしていた。さらに、交通網にも課題がある。タイのカンジャナブリからダウェイまで南部回廊を通って輸送するには、四輪駆動車を使わなければならない。この点は、カンボジア―タイ間の道路事情に比べるとかなり見劣りする。
人口が多いからと言って、社員がすぐに集まるわけではない。デンソーは社員の通勤用自転車に会社のロゴをつけて走らせることで、徐々に会社の認知度を上げていったそうだ。
(b)カンボジアはタイプラスワンを狙った外資誘致に積極的で、インフラ、ワンストップサービスの整備も進んでいる。デンソーとしては、カンボジア人の手先の器用さを磨き、タイの成熟製品の玉突き先として活用する予定だという。カンボジアで社員を採用する場合には、集落の村長に直接会って十分に説明しなければならない。ただ、中国・韓国の企業が社員を使い捨てにするのに対し、日本企業は社員を大切にするという点で現地からは高く評価されている。
2015年3月、カンボジアのネアックルンに日本が支援した「つばさ橋」が完成したことで、カンボジアとベトナムが陸路でつながった。以前から南部回廊によってタイとカンボジアはつながっていたとはいえ、両国だけではどうしてもビジネスに限界があった。つばさ橋によって、ホーチミンの仕入れ先企業を開拓できるようになったことが大きいと語っていた。
(3)経済回廊について
陸のASEANの3つの経済回廊=東西経済回廊、南北経済回廊、南部経済回廊の実情について、日通総合研究所のコンサルタントによる講演があった。メコン地域の国々では、CBTA(Cross Border Transportation Agreement、越境交通協定)が締結されている。CBTAとは、メコン地域の越境交通円滑化に関する多国間協定で、2003年にメコン地域5カ国(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)+中国の6カ国が署名した。
具体的にはシングル・ストップ/シングル・ウィンドウの税関手続き、交通機関に従事する労働者の越境移動、検疫などの各種検査の免除要件、越境車両の条件、トランジット輸送、道路や橋の設計基準、道路標識や信号に関する事項などについて規定されている。
(a)東西経済回廊
・CBTAによるシングル・ウィンドウ/シングル・ストップは、従来は輸出国側・輸入国側双方で実施していた手続きを、輸入国側のコモンコントロールエリアにおいて1回で済ませることを想定している。この場合、輸出手続きを相手側で実施することになるが、例えばタイの公務員は法律により他国での業務が禁止されているために、タイからの輸出手続きの障害となっている。
・サワナケット―ムクダハンの通関は8:00-18:00、デンサワン―ラオパオの通関は7:00-22:00の間しか開いていないなど、24時間通行ができないことに注意が必要である。
・3か国相互通行ライセンスは、CBTAで規定されるルートに限定される。しかし、当初の規定では、バンコク、ビエンチャン、ハノイ、ハイフォンなど、東西経済回廊上にはないが、各国の首都や主要貨物集積地にあたる都市が含まれておらず、3か国ライセンスを使う意味がなかった。2012年、これらの都市を追加する覚書が締結されたものの、未だ運用には至っていない。そのため、現在はタイ―ラオス、ラオス―ベトナムの2か国間協定/ライセンスでカバーされている。なお、タイ―ミャンマー間は2国間協定が未締結であり、車両の相互通行は実現していない。
(b)南北経済回廊
・中国とタイが開発の中心となっている。また、定期的な輸送サービスを提供しているのは中国やタイのローカル企業であり、日欧米の企業は進出していない。あるローカル企業によれば、昆明―バンコク間のリードタイムは3日らしい。生鮮品を輸送している場合、日曜日でも受け付けてもらえるなど、通関手続きで優遇される。
・タイ―ラオス―中国での相互通行やトランジット通関手続きに関する覚書が締結の最終調整段階まで来ているとのことだが、未だ具体的な動きはない。なお、CBTAは導入されていない。
・ラオス国内の道路は、タイと中国が半分ずつ整備している。しかし、カーブが多く危険である。道路脇には、横転、脱輪した車両が放置されている。そのためか、中国の車両はラオス国内を走りたがらない。それでも、タイ―中国間の陸路貿易は、ラオスルートが主であり、ミャンマールートの実績はほとんどない(ミャンマールートは、主にタイ―ミャンマー間の陸路貿易用である)。
・タイ―ラオス―中国を輸送する場合は、2国間協定に基づいて、ラオスと中国の国境で積み替えを行う必要がある。その際、中国側よりラオス側で積み替えた方が安い。しかし、ラオス側は人力で作業を行い、しかも貨物を一旦開梱してしまう。そのため、生鮮品であれば品質上の問題は少ないかもしれないが、半製品などの場合は注意しなければならない。
(c)南部経済回廊
・南部経済回廊では、シングル・ストップ/シングル・ウィンドウは行われていない。コモンコントロールスペースを設置する場所がなく、東西経済回廊以上に実施のハードルが高いと言われる。また、3か国間協定も締結されていないため、3か国通行ライセンスも発行されていない。したがって、2か国ライセンスの組み合わせによって走行することになるが、ライセンス数に限りがある。しかも、ライセンスの大半は旅客に割り当てられることから、貨物用は非常に少ないとされる。その少ないライセンスも、ローカル企業に優先的に交付されている。
・複数の日経物流事業者がサービスを提供している。バンコクからホーチミンまでのリードタイムは3日である。実は、海上輸送と比較した場合、リードタイム優位性が低いため、越境輸送貿易は少ない。越境輸送貿易は、陸路輸送の方が付加価値をつけやすいコールドチェーンなどに限定される。荷動きとしては、2か国間(タイ―カンボジア、カンボジア―ベトナム)が主流である。