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DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(2)
DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(1)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年08月15日

DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(2)


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-08-10

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 (前回の続き)

 (4)業績のモニタリング
 仕事をすればその結果を知り、改善につなげていくことはマネジメントの基本である。よって、業績のモニタリングもトップマネジメントチームの重要な仕事である。トップマネジメントチームは、価値観の浸透度合い、戦略の進捗、製品・サービスの販売量や品質に関する指標、研究開発、マーケティング、購買、製造、物流、営業、販売などの各種業務プロセスや、組織構造、人事制度、予算制度、情報システムといった企業のインフラがどの程度上手く機能しているかを判定する指標を持たなければならない。指標は多すぎても少なすぎてもダメである。デルはコックピット経営を導入していることで有名であったが、トップマネジメントチームがモニタリングしなければならない指標は100以上に上っていたという。これは人間の理解力を超えているだろう。

 仮に、先ほど挙げた各分野について、1分野につき3個の指標を設定したとすると(例えば、価値観の浸透度合いを測る指標を3個設定する)、全部で15分野×3個=45個となる。これでもまだ多い方かもしれない。同じくコックピット経営を導入しているカルビーが設定している指標の数はわずか20である。トップマネジメントチームが各指標について十分に議論するためには、このぐらいの数に絞った方がよさそうだ。目標管理制度が機能していれば、トップマネジメントチームの指標はミドルマネジメント、現場社員へと適切に展開されているはずであるから、細かい指標のモニタリングと改善については、ミドルマネジメントや現場社員に任せられるはずである。

 (5)日常業務の問題解決
 トップマネジメントチームがどんなに現場への権限移譲を進めても、現場では解決できない問題は生じる。こうした問題はトップマネジメントチームが解決するしかない。最近、フレデリック・ラルーの『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)という本が注目されている。同書については機会を改めて書こうと思うが、一言で言うと、ティール(進化型)組織では社員が皆経営者であり、各部門、各チームが自主経営を行っている点に特徴がある(同書は、権限はトップから部門・チームに委譲されるのではなく、初めから各部門・チームにあるという考えに立っているため、権限移譲という言葉を使っていない)。

 部門・チーム内、あるいは部門・チーム間の問題解決も、基本的には当事者に委ねられる。だから、トップマネジメントの仕事は非常に少ない。とはいえ、当事者だけではどうしても解決できない問題もあるから、ティール組織では「紛争解決メカニズム」という公式の手続きが定められており、トップマネジメントがこの手続きにコミットしていることが多いという。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 トップマネジメントチームが日常業務の細かい問題にまで首を突っ込むのはやりすぎだと思われるかもしれない。しかし、トップマネジメントチームによる日常業務の問題解決には重要な側面がある。それは、悪い情報が現場から上がってくるルートを作っておくということである。言うまでもなく、衰退する組織では、現場がトップマネジメントチームにとって都合の悪い情報を隠蔽する体質ができ上がっている。それを防ぐために、トップマネジメントチームは日常業務の問題に関与し、組織に悪い芽が芽生えていないか目を光らせておかなければならない。

 もう1つの重要な側面として、現場からの例外情報を吸い上げるという点がある。前述の「(4)業績のモニタリング」で、トップマネジメントチームがモニタリングできる指標の数はせいぜい数十程度だと書いた。すると、トップマネジメントチームはその数十の指標に関する情報のみに敏感になり、それ以外の情報には疎くなる傾向がある。もしかすると、指標には表れないが、自社の経営を脅かす重要な兆候・変化が現場で起きているかもしれない。日常業務の問題解決に関与することは、そうした例外情報をキャッチする絶好の機会となる。重要な例外情報があれば、トップマネジメントチームはその情報が意味するところを議論し、必要に応じて価値観や戦略を見直して、それに伴い各種指標も再設定する必要がある。

 (6)取締役会・株主への対応
 取締役会はトップマネジメントチームの上司である。株主の代表として企業に送り込まれた取締役に対して、株主が投資した資金がどのように使われ、どのようなリターンを生み出したのかを説明する責任がトップマネジメントチームにはある。さらに、インプットとアウトプットのみに着目するのではなく、アウトプットを創出するプロセスが合理的であったかについても、取締役会に対して保証しなければならない。換言すれば、適切な部統制システムを整備し、運用するということである。加えて、トップマネジメントチームが新たな投資で資金を必要とする場合も、目的と目指すべき成果は何か、その成果をどのようなプロセスで創出するのか、成果を得るためにはいくらの資金が必要なのかを、取締役会に対して論理的に説明する義務を負う。

 ただし、特に日本企業の場合はそうだが、トップマネジメントチームのメンバーが取締役を兼ねているケースが多く、上記のような説明責任が上手く果たせないことがある。その場合は、直接株主に対して説明責任を果たす(それでも、中小企業のように、株主=代表取締役社長となっているオーナー企業では難しい)。株主と経営者の関係は、プリンシパル(本人)とエージェント(代理人)の関係に例えられることがある。この場合、プリンシパル=株主のエージェントである経営陣は、株主の意向通りに企業を経営しなければならないことになる。しかし、実際には、経営陣に一定の裁量が認められているのが普通である。トップマネジメントチームは、どういう考えの下にその裁量を発揮したのか、株主に対して適切に説明することが求められる。

 (7)社会的責任(CSR)の遂行
 企業に社会的責任を要求する声はますます高まっている。社会的責任の概念自体はさほど新しいものではなく、ドラッカーが半世紀近く前に既に言及している。ドラッカーは、「自社が責任を持てない分野には手を出すべきではない」と述べて、社会的責任の範囲をかなり限定していた。だが、資本主義の機能不全により社会問題が噴出すると、そうも言っていられなくなった。資本主義の担い手は企業である。だから、昨今の社会問題を引き起こしている原因も企業にある。これまで、そのような社会問題は、行政やNPOが解決するものとされてきた。ところが、行政の考え方は、弱者を救済するという目的で価格を安く設定する代わりに、NPOに対して補助金を与えるというものである。しかし、私が知る限り、補助金頼みのビジネスは例外なく腐敗する。というのも、顧客が市民なのか補助金をもらっている行政なのかが解らなくなるからだ。

 結局、社会問題の解決は、その問題を生み出した企業に期待されることになった。ドラッカーは資本主義は富の偏在を招くとして敬遠していたものの、近代以前から続く自由市場主義のことは信頼していた。社会問題はなかなかお金にならない領域であるが、企業はマネタイズの方法を知っており、事業のマネジメントのノウハウを持っている。企業は、自由市場主義の原則に基づいて、社会問題の解決に乗り出さなければならない。社会問題の解決とは、今まで市場にならなかった分野を市場化するという意味で新市場の創造であり、イノベーションの一種である。したがって、前述の「(2)戦略の構想」の延長線上で、トップマネジメントチームの仕事となる。CSR部門を作って、そこに一任しておけばよいという話ではない。

 社会問題はなかなかお金にならないと述べた。ということは、企業が社会問題の分野で自社の事業規模に見合った事業を育て上げるためには、相当広範囲にまたがって社会問題の解決に取り組む必要があることを意味する。本号には、ロバート・キャプラン、ジョージ・セラフェイム、エドゥアルド・トゥーゲントハット「企業の枠を超えたパートナーシップを構築する インクルーシブ・グロース実現への道」という論文がある。本論文によれば、企業のCSR活動の多くが失敗したのは、規模が小さすぎる、もっと単刀直入に言えば「野心」が足りなさすぎるためだという。その場しのぎの対処療法ではなく、政府やNPO/NGOなど異なるセクターのプレイヤーと手を取り合って、社会全体の新しいエコシステムを描き直すくらいのつもりでなければならない。こうしたイノベーションを実行できるのは、トップマネジメントチームしかいない。

 以上が、私の考えるトップマネジメントチームに固有の7つの仕事である。次の問題は、これらの仕事をチームメンバー間でどのように分担するかということである。個人的には、厳格な役割分担をしない方がよいのではないかと思っている。

 本号の後半には、性格テストに関する論文が収められていた。性格テストと言うとMBTIやFFMなどが有名であるが、近年は脳科学をベースとした性格テストが登場しているようだ。スザンヌ・M・ジョンソン・ビックバーグ、キム・クライストフォート「脳科学で見極める4つの性格タイプ」によると、人間の性格は①パイオニア(先導役)、②ドライバー(牽引役)、③ガーディアン(見守り役)、④インテグレーター(まとめ役)という4つに分けられる。例えばパイオニアとガーディアンは対立関係にあるが、チームに両者が存在するとお互いの役割を補完し合い、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができるという。

 また、ヘレン・フィッシャー「脳の働きを理解すれば誰とでもうまくやっていける」によると、人間の性格特性には、①ドーパミン/ノルアドレナリン、②セロトニン、③テストステロン、④エストロゲン/オキシトシンという4種類のホルモンが関係しているそうだ。ドーパミン系が多い人は好奇心、創造性、自発性、熱意にあふれている。セロトニンが多い人は社交性が強く、集団に帰属しようとする傾向が強い。テストステロンが多い人は現実的、率直、決然、疑い深い、きっぱりと主張するといった特徴があり、エンジニアリング、力学、数学など規則性のある分野で力を発揮しやすい。エストロゲン/オキシトシンが多い人は直感的、想像にふける、信じやすい、共感しやすい、状況を基に長い目で物事を考えるという傾向が見られる。ここでも、それぞれのホルモンの特徴を活かしてチームを構成することが重要であるとされている。

 ただ、私は個人の性格をまるでパズルのように組み合わせるという考え方はあまり受け入れられない。パズルが静的で完全であれば、各ピースを隙間なく並べられるだろう。だが、トップマネジメントチームの仕事は動的である。チームの仕事が変化したのに、あるメンバーが「自分の仕事はこれだけである」と限定してしまうと、メンバーの誰も手をつけない仕事が生じる恐れがある。だから、一見非効率かもしれないが、メンバーの仕事はある程度重複していた方がよい。やや異なる分野の研究になるものの、新製品開発においては、マーケティング担当者と開発担当者のタスクが重複している方が、そうでない場合よりも高い成果を上げられるという報告もある(川上智子『顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス』〔有斐閣、2005年〕)。トップマネジメントチームの仕事にとっても示唆的な内容だと思う。

顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス
川上 智子

有斐閣 2005-08-01

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2018年08月14日

DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(1)


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-08-10

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 20代の初めにピーター・ドラッカーの著書を読んだ時、「トップマネジメントはチームで仕事をしなければならない」という記述を見て、社会人経験の浅い私は、「トップマネジメントと言えば社長もしくはCEO1人なのではないか?」と素朴な疑問を持ったものである。もちろん、今ではトップマネジメントはチームでなければ機能しないことを十分に理解している。CEOの他にCFO、CIO、CISO(最高セキュリティ責任者)、CMO、CDO(最高デジタル責任者)、CHRO(最高人事責任者)、CTO(最高技術責任者)、CKO(最高知識責任者)、CPO(最高購買責任者)、CSRO(最高社会的責任担当者)など、様々なCスイート人材がチームを組んで経営にあたっている。

 トップマネジメントチームの仕事は、一言で言えばもちろんマネジメントなのだが、マネジメントに関する業務を全て引き受けていてはチームがパンクする。ミドルマネジメントや現場社員に権限移譲できる仕事はどんどん委譲し、トップマネジメントチームはトップマネジメントチームでなければ遂行できない業務に注力するべきである。では、トップマネジメントチーム固有の仕事とは一体何であろうか?ドラッカーは、経営者が答えるべき問いとして、①我々のミッションは何か、②我々の顧客は誰か、③顧客にとっての価値は何か、④我々の成果は何か、⑤我々の計画は何か、という5つを挙げたが、この5つの質問に答えることだけが仕事ではないと思う。

 本号には、競争戦略論で有名なマイケル・ポーターと、ハーバード・ビジネス・スクール学長であるニティン・ノーリアによる「延べ6万時間のデータ分析から見える理想と現実 CEOの時間管理」という興味深い論文が掲載されていた。ポーターは近年、経済的価値と社会的価値の創出を両立させる「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」という概念を提唱しているのだが、その傍らで、2006年から大企業のCEOの時間の使い方を調査していたようだ。

 ドラッカーも、「時間の使い方をマネジメントするのが経営者である」と述べていたもののの、実際にCEOがどのように自らの時間をそれぞれの業務に配分しているのかという点に関する研究は少ない。ポーターによれば、ヘンリー・ミンツバーグが5人のCEOに5日間密着した研究と、ラファエラ・サドゥンが114人のCEOに1週間にわたって毎日電話をかけて実施した研究があるぐらいだそうだ(ただ、私の記憶によれば、変革リーダーシップ論で知られるジョン・コッタ―も、若い頃にCEOの仕事に密着した研究を実施したことがある。その研究結果は、1984年の『ザ・ゼネラル・マネジャー』の復刊本にあたる『J. P. コッター ビジネス・リーダー論』〔ダイヤモンド社、2009年〕で知ることができる)。ポーターの調査は、27人のCEOに3か月間密着した研究であり、調査期間の長さに特徴がある。収集したデータは延べ6万時間分に上る。

J. P. コッター ビジネス・リーダー論J. P. コッター ビジネス・リーダー論
ジョン P.コッター 金井 壽宏

ダイヤモンド社 2009-03-13

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 調査結果の具体的な中身は論文に譲るとして、この調査から明らかになったCEOの時間の使い方、すなわちCEOが実際に行っている仕事の種類をベースに、私がトップマネジメントチームにしかできないと考える仕事を7つ挙げてみたい。

 (1)企業文化の醸成
 私は、トップマネジメントチームが真っ先に取り組まなければならないのは、次に述べる戦略の立案よりも、この企業文化の醸成であると思う。具体的には、自社がよりどころとする価値観を定め、それを組織の隅々まで浸透させる。とはいえ、価値観は決して普遍・不変ではなく、トップマネジメントチームから現場社員に対して一方的に伝達されるものではない。トップマネジメントチームは価値観について社員と積極的に対話し、価値観に対する理解を深め、時に価値観を修正する必要がある。言い換えれば、価値観は組織的な学習プロセスを通じて進化する。

 価値観とは、自社が意思決定を下さなければならない時に判断の基準となるものである。ブログ別館の記事「稲盛和夫『生き方―人間として一番大切なこと』―当たり前の道徳を実践することの重要性」で書いたように、人間として当然守らなければならない基本的な道徳・倫理を価値観としている企業もあれば、もう少し複雑な価値観を持っている企業もあるだろう。重要なのは、価値観を組織の中に埋もれたままにするのではなく、全て可視化することである。トップマネジメントチームが我が社の価値観はこれで十分だろうと思っても、細かい価値観が業務慣行や職場環境などの中に埋め込まれていることがある。そのような価値観を発掘し、価値観同士の間で矛盾がないようにするのがトップマネジメントチームの仕事である。

 そして、その価値観を企業文化へと昇華させなければならない。つまり、価値観を戦略や製品・サービスといった企業の基本的要素、研究開発、マーケティング、購買、製造、物流、営業、販売などの各種業務プロセス、組織構造、人事制度、予算制度、情報システムといった企業のインフラに浸透させ、それぞれのコンポーネントが自社の価値観を完全に体現するものにすると同時に、各コンポーネント間で価値観をめぐる矛盾や対立がないようにする必要がある。これは非常に重要であるが、価値観が首尾一貫している企業は少ない。例えば、マスコミにとっては、国民の生命を守るための情報を提供することが重要な価値観の1つである。だが、NHKはニュースで「熱中症の危険があるため、日中の運動は避けよ」と呼びかける一方で、灼熱の甲子園で試合をする高校野球を放映して視聴率を稼いでいる。これは大きな矛盾である。

 (2)戦略の構想
 戦略にはマーケティング戦略とイノベーション戦略の2つがある。マーケティングとは、既存市場のパイを奪い合う行為である。これに対してイノベーションとは、新しい市場を創造するか、既存市場の産業構造やビジネスモデルを抜本的に破壊する行為である。トップマネジメントチームは常にこの2つの戦略を意識する必要がある。

 ただ、ブログ別館の記事「河合忠彦『複雑適応系リーダーシップ―変革モデルとケース分析』―複雑系の理論を取り入れたことで論理展開がカオスに」で述べたように、マーケティングに関しては、既に事業構造やビジネスモデルが確立しているから、現場への権限移譲を積極的に進めるべきである。既存の市場・顧客に関する情報は、トップよりも現場の方がたくさん持っている。もし、現場社員が生の情報に基づいて、製品・サービスの改良、価格の改定、販売チャネルの再構築、プロモーションの改善を思いついた場合には、そのアイデアをトップマネジメントチームが吸い上げ、マーケティング戦略を改善する。

 その過程で、トップマネジメントチームも受動的になっていてはダメであり、普段から定期的に重要顧客に会いに行き、ニーズを汲み取っておく必要がある。現場社員が個別の顧客から得た局所的なアイデアと、トップマネジメントチームが重要顧客から得た大局的なアイデアを突き合わせて、マーケティング戦略を高度化させる。ポーターの調査によれば、CEOが重要顧客のために費やす時間はわずか平均3%であり、これでは少なすぎるであろう。

 トップマネジメントチームがより注力すべきなのは、イノベーション戦略である。だが、これも非常に難しい。以前の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた「新市場開拓戦略」は、既存市場に新たな市場を付加するものであるからそれほど問題は起きない。だが、「代替品開発戦略」は、既存事業の製品・サービスに取って代わる非連続的な技術を用いた製品、顧客のニーズを別の形で満たす新製品・サービス、あるいは破壊的イノベーションなど、既存事業を脅かすものである。トップマネジメントチームのメンバーは、基本的に既存事業で成功を収めたことで現在の地位に上り詰めた人たちばかりである。イノベーション戦略は、彼らに自らの過去の成功を否定せよと迫るわけである。

 しかし、トップマネジメントチームがイノベーション戦略から目を逸らし、既存事業のマーケティング戦略に安住していれば、やがて新興企業がゲームのルールを破壊しながら参入し、自社を窮地に追いやるであろう。そして、トップマネジメントチームは業績不振の責任を取らなければならない。だとすれば、裏を返せば、自社が新興企業のイノベーションによって業績不振にならないよう、自ら能動的にイノベーション戦略に着手し、自社の構造を抜本的に刷新して経営の維持、業績の拡大を図ることは、トップマネジメントチームの責任に他ならない。

 (3)コア人材の育成
 日本企業も経営幹部の後継者育成に着手し、Aクラス人材を選抜して集中的に教育するプログラムを展開しているところが増えている。だが、後継者育成プログラムの対象となる社員数は、せいぜい数十人程度であろう。エド・マイケルズらの『ウォー・フォー・タレント―人材育成競争』(翔泳社、2002年)によると、海外の企業のトップマネジメントは、自社の300~500程度の重要なポジションについて、現在そのポジションについている社員(マネジャー)を育成し、彼らのその後のキャリアパスを想定すると同時に、彼らの後継者として誰を据えるかについて、事業部門のトップ、人事部門などを巻き込みながらかなりの時間をかけて議論をしているという。これらのポジションは、価値観を組織内に浸透させ企業文化を醸成するとともに、戦略の立案・実行において重要な役割を果たすから、トップマネジメントが育成に注力しているわけである。

 (※)『ウォー・フォー・タレント―人材育成競争』は、そのタイトルからして、労働市場において優秀な人材を奪い合う方法について書かれた本なのだろうと勝手に思い込んでいた。最近、アメリカではGoogleやApple、Facebookなど一部の強力な企業が優秀な人材を囲い込んだ結果、ますます企業間の競争力の差が拡大し、それが賃金格差の広がりにつながっているとして問題になっている。だが、本書を読んでみると、実際には内部人材をいかに育成するかに焦点が当てられているように感じた。だから、副題が「人材”獲得”競争」ではなく、「人材”育成”競争」になっているのであろう。本書については、ブログ別館でも取り上げる予定である。

ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)
エド・マイケルズ ヘレン・ハンドフィールド=ジョーンズ ベス・アクセルロッド マッキンゼー・アンド・カンパニー

翔泳社 2002-05-18

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 アメリカの場合、元々本社の人事部門の力が弱く、給与計算や福利厚生、全社共通の基礎的な研修の運営などが中心である。採用、配置、異動、評価の権限は、それぞれの事業部門の中に配置された人事部が持っている。だから、全社的に人材育成を行おうとすると、本社の人事部門に頼ることはできずに、各地に散らばっている事業部門のトップや人事部を一堂に集めて議論しなければならない。そのため、どうしても時間がかかる(トップマネジメントチームが重要顧客に会う時間が少ない要因の1つになっているかもしれない)。逆に、日本の場合は、本社の人事部に強大な権限がある。よって、トップマネジメントチームがコア人材の育成を行うには、本社人事部の力を大いに借りるとよい。本社人事部は、各社員の能力・経歴・キャリア志向などに関する情報をたくさん集めている。トップマネジメントチームはその情報を活用して、数百名のコア人材を育成する。そうすれば、アメリカ企業ほど時間はかからないであろう。

 (続く)




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