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【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2017年08月23日

【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア


インドネシア国旗

 インドネシアの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・インドネシアには「パンチャシラ」という建国5原則があり、憲法より上に位置づけられている。5原則とは、①唯一神の信仰、②公正で文化的な人道主義、③インドネシアの統一、④合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、⑤全インドネシア国民に対する社会的公正、である。なお、①唯一神の信仰とは、同じイスラーム圏であるマレーシアのようにイスラームを国教としているわけではなく、国民は誰しもどれか1つの宗教を持つべきであるとの意味である。2017年より、6月1日がパンチャシラの日に制定された。近年、パンチャシラの精神が薄れてきているとの危惧から、パンチャシラの精神をもう一度強化しようというものである。

 ・インドネシアを理解するキーワードとして、上記の①パンチャシラ(Pancasila)の他に、②多様性の中の統一(Bhineka Tunggal Ika)、③ムシャワラ(Musyawarah、話し合いの意)、④ムファカット(Mufakat、全会一致の意)がある。これらの言葉はインドネシアの会社法、労働法など様々な法律に登場する。例えば、会社法においては、株主総会の決議は、全会一致の精神が望ましくムシャワラによって採択されるべきだと規定されている。全会一致ができなかった場合には、過半数の決議が有効となる。また、労働法においても、会社と労働組合が締結する労働協約に関しては、ムシャワラで合意に達するべきだと定められている。

 ・インドネシアは過去石油の輸出国であったが、現在は石油の純輸入国に転じている。また、中国経済の減速の影響もあって、インドネシアの輸出額は2012年以降減少傾向にある。そのため、政府は鉱物の輸入を制限するなどの策を打った。にもかかわらず、2013~2015年の貿易収支は赤字であり、これがGDP成長率の鈍化に影響を与えている。2016年のインフレ率は3.02%、GDP成長率は5.0%であるが、肌感覚ではデフレ、マイナス成長のように感じられる。ユドヨノ政権が絶頂だった2011年は、GDP成長率が6.5%であり、7%も夢ではないと言われていたが、今やその目標は遠のいてしまっている。

 ・インドネシアの二輪車市場、四輪車市場における日本企業のシェアはそれぞれ99%、95%であり、圧倒的に日本企業が強い。ただ、二輪車の年間販売台数はユドヨノ政権が絶頂だった2011年に800万台を超えて以降減少傾向にあり、2016年には590万台にまで落ち込んでいる。四輪車の年間販売台数は2012年に初めて100万台を超えた。インドネシアの1人あたりGDPは3,570ドル(2016年)であるが、一般に1人あたりGDPが3,500ドルを超えると二輪車から四輪車への移行が進むと言われている。ところが、2013年以降の四輪車の販売台数は横ばいであり、政府が目標とする150万台の達成にはまだまだ時間がかかりそうである。

 ・外資企業の投資要件は、最低資本金額25億ルピア(約2,000万円)、資産規模100億ルピア(約8,000万円)とされている。インドネシアは、外資企業の中でも大企業を誘致したいと考えている。インドネシアの外国投資政策は、景気が悪くなると外資比率が上がり、景気がよくなると外資比率が下がるという解りやすい特徴がある。ただし、最後の砦と言われているのが小売業であり、よほどインドネシアの経済が悪化しない限り、外資には開放されないだろうと言われる。

 ・インドネシアでは毎年約220万人の新規労働者が労働市場に参入してくる。これをカバーするためにはGDP成長率が6%以上必要とされるものの、2013年以降GDP成長率は6%を下回っている。ということは、失業率が悪化しているはずだが、失業率は2013年以降ずっと5%台で推移している。ただし、この統計にはからくりがあって、政府は週に働いた時間が1時間未満の者を失業者と定義している。これを、週に働いた時間が35時間未満の者を失業者と定義して統計を取り直すと、2010年以降の失業率はずっと35%前後という高い水準になる。

 ・インドネシアのフォーマルセクターの構成は次の通りである。税務番号取得者は2,750万人(21%)、そのうち納税者は1,020万人(8%)、社会保険加入者は3,860万人(30%)、労働組合加入者は170万人(1%)、35時間以上就労している者は8,700万人(66%)である。逆に言えば、税務番号を持たないインフォーマルセクターが70%以上存在する。ただし、政府は貧困さえなければインフォーマルセクターを容認する考えを示している。政府が恐れているのは、インフォーマルセクターの貧困化にオイル価格の上昇が重なって、政府への批判が高まることである。

 ・インドネシア労働法の第46条は、人事に関する業務に外国人が就くことを禁じている。これは労働法の最大の欠点である。政令では、階級、役職、勤続年数、学歴、能力などに応じた賃金テーブルの作成が義務づけられているが、外国人はこの作業を実施できない。また、社長、取締役であっても、外国人が人事関連の業務を行うことはできないと認識されている。人材育成は企業にとって重要な課題であるにもかかわらず、インドネシア人に任せるしかないという問題がある。とはいえ、インドネシア人に人材育成の能力が十分にあるとは必ずしも言えない。

 ・インドネシアの最低賃金は、2000年以降地域別、事業分野別に定められてきたものの、近年は特に複雑化しており、地域、事業分野ごとの整合性をとるのが困難になっている。そこで、2016年に方針転換し、原則として賃金上昇率をインフレ率+経済成長率(2017年の場合、3.07+5.18=8.25%)で定めることとした。しかし、この足し算にどのような意味があるのかは不明である。また、これはあくまでも原則であり、実際には地域、事業分野ごとに労働組合と交渉しなければならない。本来、最低賃金は1月1日に発表しなければならないのに、ブカシ市内では3月に、カラワン県では6月に発表がずれ込んだというケースもある。

 ・一般ワーカーの月給を見ると、ASEAN新興国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の賃金が急上昇しているため、インドネシアの賃金も未だに競争力がある。労働集約型である縫製業もまだまだインドネシアでは盛んである。製造マネジャー、営業マネジャーの月給を見ると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンでは、2011年に比べて2016年の方が月給が下がっている(フィリピンの営業マネジャーのみ例外)。一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは、製造マネジャー、営業マネジャーの人材不足によって賃金が高騰しており、月給ベースでは先の5か国とあまり変わらない状況になっている。

 ・インドネシアでは、物品を輸入した段階で前払い法人税が発生する。期末に法人税額が確定した結果、予納額を下回った場合、日本であれば喜んで還付請求をするところだが、インドネシアの場合は還付請求をすると必ず税務調査を受けることになる。この税務調査が非常に厳しく、例えばインドネシア子会社が日本の親会社に支払っているロイヤリティーが利益移転だとして否認される(※1)、為替差損が利益の過小評価だと見なされる(ルピアは弱い通貨なのでこのリスクが高い)、機械装置の減価償却期間が8年から16年に変更される(※2)、旅費交通費や接待交際費などが否認される、といったケースが報告されている。

 (※1)ロイヤリティーは、概ね3%を超えると否認される傾向がある。通常、ロイヤルティーは付加価値額に対してかかるものだが、インドネシアの税務局は売上高をベースに見ている。よって、売上高の3%を超えるロイヤリティーは否認される可能性が高い。最近は、パテントの裏づけがあっても否認されるケースが増えている。
 (※2)日本の減価償却は数百種類存在するのに対し、インドネシアにはグループ1からグループ4までの4種類しかなく、多くの場合はグループ3の16年が適用される。

 確定額が予納額を上回った場合は、確定額と予納額の差額を納めれば終わりというわけではない。翌年は、前年の確定額と予納額の差額の12分の1を毎月前納しなければならない。結果的に、前年の法人税と同じ額を前払いすることになる。確定した法人税額が予納額を下回れば、還付申請はできるが税務調査を受けなければならない。したがって、インドネシアではいかにして毎年利益を確保し続けるかが非常に重要な課題となる。

 ・過去のスハルト政権は非常に国民思いであり、石油の輸出と対外債務で政府の財源を賄おうとした。ところが、スハルト政権が倒れた後、ルピアが暴落したため、国の作り方が間違っていたという反省が生まれた。政府にとってきれいな収入とは税収しかないということで、現在のインドネシアの国家歳入の85%以上は税収が占めている。ここにきて、ジョコ大統領がシンガポールを意識して、法人税率を現行の25%からシンガポール並みの17%に引き下げる方針を打ち出している。ということは、今後ますます税務調査が厳しくなる可能性がある。

 ・労務問題に関しては、労使間で日頃から密にコミュニケーションが取れている企業ではさほど問題は生じない。ソニーのインドネシア子会社は、現地社員から「牛乳を1本つけてほしい」という要望を受けたが、本社はこれを否認した上、インドネシアでのビジネスを諦めてしまった。もっと労使間で意思疎通が取れていれば、こんな事態にはならなかったであろう。労使間の関係が良好な企業では、労働組合が結成されることは少ない。万が一、労働組合、しかも上部組織とつながりのある労働組合が結成された場合には、会社と労働組合に労働局を交えて、いかにしてストライキを回避するか議論する必要がある。労使問題が起きた場合、経営者側が悪いケースが7割である。悪い社員を育ててしまった企業側の責任であると思った方がよい。




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