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DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見
『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2017年12月26日

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 今回の記事は、以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で課題としていたことに対する、現時点での私の見解を述べるものである。

 人事の分野でGEが注目を集めているのは、伝統的な「セッションC」や「9ブロック」を廃止したからである。より具体的に言うと、GEはグレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、私は半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 先日の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で述べたように、改正職業能力開発促進法の施行により、企業が社員に対してキャリアコンサルティングの機会を提供することが義務づけられた。キャリアコンサルタントには、従来の面談の機能に加えて、組織開発コンサルタントとしての役割が追加される。私はさらに、社員がやりたいことや社員にできること、社員の価値観をベースとした戦略立案、言い換えれば内部環境アプローチによる戦略立案の支援を行うコンサルタントとしての役割も上乗せされると考えている。今回の記事では、その内部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについて、現時点での試案を述べてみたいと思う(ちなみに、外部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについては、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。

 ①最低到達目標の明確化
 以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、私は生活給と年功制の昇進制度を支持している。これは、現在の社員を最大限に活用し、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えるためである。そこで、内部環境アプローチではまず、現在の社員が順調に昇進し、またそれに伴って新卒社員を順調に採用した場合、3~5年後にどのような人員構成になるかを予測する。そして、その人員構成を維持するために必要な売上高、利益(率)をはじき出す。これが、企業が3~5年後に最低限到達していなければならない目標となる。

 ②「やりたいこと―できること―価値観」のセット=事業機会の洗い出し
 次に、キャリアコンサルティングなどの機会を活用して、現在の社員に対し幅広くヒアリングを実施し、それぞれの社員がどんなことをやりたいと思っているのか、どんな能力を持っているのか、どういう価値観で仕事をしているのかを詳細に把握する。それぞれの社員のやりたいこと、できること、価値観はバラバラであっても、組み合わせてみると一貫性が取れるケースが出てくる。例えば、若手社員はある仕事をやりたいと思っているが、それを遂行するだけの能力が不足している場合に、ミドル社員がその能力を補える、といった具合である。こうして、一貫性の取れた「やりたいこと―できること―価値観」のセットを事業機会として抽出する。一例としては、「AIを活用した融資業務の高度化に取り組みたい―スコアリング融資のノウハウ、与信管理の暗黙知―新しい技術に対する進取性、迅速な意思決定、チームワークの重視」が挙げられる。

 私はしばしば、日本企業の特徴は下の階層から上の階層に対する「下剋上(山本七平からの借用)」が起きることにあると述べてきた。つまり、上司からの命令に唯々諾々と従うのではなく、「こうすればもっと上手くできる」と部下が積極的に提案する。それを聞いた上司は、「俺の命令に逆らうな」と言わず、「君がそう言うのならばやってみよ。責任は自分が取る」と言って部下に権限移譲する。これが組織階層の中で繰り返されていくと、最終的には、組織の最下層にあって現場に一番近い社員が最も大きな権限を持ち、組織の最上部にいる経営陣は責任を丸抱えするという構図になる。これはまさに、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」で事例発表をしたサントリーの「見てくんなはれ」と「やってみなはれ」の精神に相当する。

 私は、現場に近いところにいる若手社員から積極的にやりたいことの提案が上がってくる組織が望ましいと考えている。業績が好調な企業というのは、やはり若手や現場が元気である。逆に、若手や現場が活力を失っている企業は、組織全体のムードも沈滞しがちであり、業績も芳しくない。とはいえ、若手社員があれをやりたい、これをやりたいと言っても、彼らはまだ能力的に十分成熟しておらず、確固たる価値観を持っていないケースがほとんどである。そこで、ミドル・シニア社員が登場し、能力と価値観の面で若手の思いを下支えする。こうしたスクラムがいくつも成立すると、企業は多様な戦略オプションを手にすることができる。

 なお、このステップの作業を効率化するために、やりたいこと、できること、価値観をあらかじめ類型化し、どのカテゴリに該当する社員が多いかを定量的に可視化したいという誘惑に駆られることがある。しかし、私はこうしたやり方をお勧めしない。手間はかかるが、社員の生の声をできるだけ丹念に拾っていき、「やりたいこと―できること―価値観」のセットを丁寧に織り上げることが重要である。というのも、やりたいことなどを類型化してしまうと、想定される事業機会が各カテゴリの組み合わせの数に限定され、創造的なアイデアが出てこないからである。

 ③事業機会の選択
 ②で抽出した事業機会のうち、企業としてどれに取り組むかを絞り込む。外部環境アプローチでは、PEST分析をカスタマイズしたPET分析を用いたが、内部環境アプローチでは、J・B・バーニーの「VRIOフレームワーク」を用いるとよいだろう。

 ⅰ)Value(経済価値に関する問い)
 その企業の保有する経営資源やケイパビリティによって、その企業は外部環境における脅威や機会に適応することが可能となるか?
 ⅱ)Rarity(希少性に関する問い)
 その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合他社のみか?
 ⅲ)Inimitability(模倣困難性に関する問い)
 その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 ⅳ)Organization(組織に関する問い)
 企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?

 通常、VRIOフレームワークを用いる際には、主に組織能力を経営資源の中心として評価するが、内部環境アプローチにおいては、経営資源として価値観も重視するべきである。つまり、その価値観は市場や顧客に向けた価値の創造に貢献するか?その価値観を醸成している企業は希少であるか?その価値観を模倣・学習するのは困難であるか?その価値観を活用する組織的な方針や手順は整っているか?といった問いにも答えていく。

 ④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ⑤ビジネスモデルのデザイン
 これらは外部環境アプローチと同じである。

 ⑥ビジネスプロセスのデザイン
 外部環境アプローチとの違いは、まず、③で絞り込んだ「やりたいこと―できること―価値観」セットの価値観を共有価値観として、ビジネスプロセスのあるべき姿をデザインする際の基本的な方向性に含めるという点である。ここで価値観とビジネスプロセスを結びつけておくことで、強固な組織文化に支えられた事業を展開することが可能となる。

 また、外部環境アプローチでは、求められる成果を最も効果的・効率的に上げられるビジネスプロセスをデザインし、効率性、生産性を重視した上でそれぞれの社員に割り当てる仕事の単位を決めていくが、内部環境アプローチでは社員のモチベーションアップに配慮しながらビジネスプロセスを決めていく。モチベーションが上がる仕事の要件は、以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」でも書いたように、

 ⅰ)顧客からのフィードバックがあること
 ⅱ)一定の裁量を与えられていること
 ⅲ)複数の能力を使わなければならないこと
 ⅳ)能力のストレッチが要求されること
 ⅴ)周囲の社員との協業が必要であること

の5つである。よって、本来は生産性を重視して職務を専門化した方がよいところを、敢えて複数の仕事を同じ人にやらせたり、敢えて同僚や他部門との協業が必要となるように仕事の境界線を調整したり、顧客(社内顧客を含む)からのフィードバックの機会を多く設けたりする、といった工夫を施すこととなる。短期的な効率性は犠牲にされるかもしれないが、中長期的には社員のモチベーションアップと企業の業績向上を両立させることができるに違いないと考える。

 ⑦施策の投資対効果の試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書、貸借対照表のシミュレーション
 これらも外部環境アプローチと同じである。⑧を通じて、今回選択した戦略が①の最低到達目標をクリアしていることを確認する。

 ⑨不足する人材の採用
 たいていの場合、今回選択した戦略を実現し、⑦の施策を実行するには、現有の社員だけでは社員が不足することが明らかになる。その場合には、新しい人材を採用しなければならない。この点は外部環境アプローチでも同様である。外部環境アプローチの場合は、企業に不足している能力を保有している人材をピンポイントで採用するのに対し、内部環境アプローチの場合は、敢えてダイバーシティを重視する。後述するように、ダイバーシティが新しい戦略を構想する上での源泉となるからである。とはいえ、野放図に採用すればよいわけではなく、新卒採用の場合は基本的な性格が備わっているか、中途採用の場合はその人の価値観が自社の共有価値観と合致しているか、という点は見極めておきたい(新卒作用で性格を、中途採用で価値観を重視する理由については、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ⑩継続的な戦略的組織学習
 ⑨で新しい人材が入ってくることにより組織構成が変わるため、①の最低到達目標が変化する。また、⑨でダイバーシティを重視し、多様な意思、能力、価値観を持った人を採用したため、企業の「やりたいこと―できること―価値観」セットに変化を及ぼす可能性が生まれる。よって、企業は①の最低到達目標を再計算した上で、主に新しく入社した社員を対象にキャリアコンサルティングなどを実施し、②の「やりたいこと―できること―価値観」セットの洗い出しをやり直さなければならない。そして、③~⑨のプロセスを踏む。その後も、企業は新しく人材を採用する度に内部環境アプローチのプロセスを一からやり直す必要がある。つまり、企業は継続的に戦略的組織学習を行わなければならないということである。

 上記はまだラフなアイデアの段階にとどまっている。私の今後の課題は、上記の一連のプロセスをさらにブラッシュアップさせるとともに、外部環境アプローチと内部環境アプローチを統合した総合的な戦略立案プロセスを構築することである。


2017年10月31日

【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見


グリーンアーミーメン

事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー
坂本 雅明

同文舘出版 2016-07-01

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 戦略の立案プロセスについては、坂本雅明『事業戦略策定ガイドブック―理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016年)が比較的解りやすかった。本書の最初は、事業アイデアの検討から始まり、ここではSWOT分析が用いられている。「強み(Strength)」と「機会(Opportunity)」が合致する事業アイデアが最も望ましいが、「強み」を活かす事業アイデア、「機会」に乗じる事業アイデアでもよいとされている。ただ、これだと「弱み(Weakness)」や「脅威(Threat)」を検討した意味があまりないのではないかと個人的には感じた。

 SWOT分析はもう半世紀ぐらい前に開発されたフレームワークで、戦略立案の場面ではおそらく最も多く利用されているものであろう。しかし、フレームワークの自由度が高すぎるがゆえに、目的を明確にせずに分析すると、「使ってはみたものの、結局何が言いたかったのか解らない」という状況に陥りやすい。欧米には、「SWOT分析をやってみたが、SO WHAT?(それで何なの?)」というジョークがあるそうだ(このジョークも本ブログでこれまでに何度用いたことか)。

 私は一応中小企業診断士の資格を持っているのだが、中小企業診断士の2次試験(筆記試験+口述試験)に合格すると、「実務補習」と呼ばれる一種の実地研修を受けることになっている。実務補習では、基本的に5名程度のチームを組んで、実際に中小企業の経営を診断し、経営課題とそれに対する解決策の提言をまとめて、5日間で100ページぐらいの報告書を作成する。診断プロセスは中小企業庁や(一社)中小企業診断協会の意向を受けて概ね標準化されており、プロセスの最初にSWOT分析が位置づけられている。

 だが、実務補習に参加登録しても、診断対象企業の情報は事前には与えられず、実務補習当日の午前中になって初めて指導員(診断士の先輩)から教えられる。そして、診断対象企業についての事前調査がほとんどできないまま、その日の午後にはその企業の経営者にヒアリングをすることになる。翌日には、ヒアリングの結果をSWOT分析でまとめて、経営課題を導き出す。残りの3日間は課題の掘り下げと報告書の作成にあてられるというのが大体のケースである。私は、このやり方には大きく2つの問題があると考えている。

 まず、事前調査なしにヒアリングをするため、どうしても質問が総花的になりやすいということである。私は、1回目の実務補習では、灯油の巡回販売と水道工事、リフォーム事業という3つの事業を行っている中小企業を診断し、3回目の実務補習では、信号の工事とLED照明の製造・販売という2つの事業を行っている中小企業を診断したが、限られた時間の中で、全ての事業について事業環境から組織構造まで万遍なく質問しようとすると、表面的なことしか聞くことができない。2つ目の問題は、SWOT分析から課題を導く際に、往々にして、S、W、O、Tの内容の単なる要約になってしまうということである。特に、弱みを裏返しただけの課題になることが多い。ヒアリングで得た情報が表面的であるがゆえに、導かれる課題も底が浅いものになりがちである。私はどうも、実務補習におけるSWOT分析の使い方には納得がいかない。

 SWOT分析は、何を目的にするかによって、結果が全く違うものになる。冒頭で紹介した書籍では、事業アイデアの検討が目的となっている。これに対して、実務補習では、単なる事業環境の整理が目的になっているのではないかと思われる。私は、SWOT分析をこのような目的では使わない。SWOT分析は、事業のCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を導くために用いる。このことを説明するためには、私が考える「事業戦略の立案プロセス」について述べる必要がある。このプロセスは8つのプロセスから成り立っている。

 (1)事業機会の抽出と選択
 自社を取り巻く事業環境を観察して、事業機会(=儲けの機会)を洗い出し、自社にとって最も実現可能性が高そうな機会、取り組む価値の高い機会を特定する。
 (2)ターゲット顧客・差別化要因の決定
 (1)で選択した事業機会における顕在的/潜在的な競合他社を分析し、自社はどの顧客をターゲットとするのか、また競合他社とどのように差別化を図るのか決定する。当然のことながら、差別化要因は顧客にとって意味のあるもの、価値を生むものでなければならない。
 (3)戦略目標の設定
 (1)で選択した事業機会の推定市場規模や将来的な市場の伸び率、(2)で分析した競合他社の数や各社の市場シェア、市場におけるパワー、および各社が今後とるであろう戦略の予測などから、自社の中長期的な戦略目標を設定する。具体的には、「○○年後に、市場シェア○○%/売上高○○億円/販売数量○○個を達成する」といった目標を立てる。
 (4)CSFの特定
 (3)で設定した戦略目標を達成するために、カギとなる要素=CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を特定する。CSFは重要な経営課題と言い換えてもよいだろう。
 (5)ビジネスモデルの設計
 (2)のターゲット顧客に対して、競合他社と差別化を図りながら、(5)の戦略目標を達成するためのビジネスモデルを設計する。ビジネスモデルとは、自社を中心として、外部のどのようなプレイヤーと協力しながら儲けを生み出すのか、その仕組みを可視化したものである。重要なのは、ビジネスモデルは、(4)で特定したCSFを実現するものにしなければならないということである。CSFを反映したビジネスモデルを設計すると、その実現のために必要な施策が見えてくる。
 (6)ビジネスプロセスの設計
 (5)のビジネスプロセスが、業界における川上から川下までの全体像であったのに対し、(6)は自社内部の業務プロセスを設計するものである。ここでも(5)と同様に、(4)のCSFを反映したビジネスプロセスをデザインしなければならない。すると、(5)と同じように、そのビジネスプロセスを実現するために実施しなければならない施策が明らかになる。
 (7)施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 (5)と(6)から導かれた各種施策は、多くの場合一気に実行することが難しい。そこで、優先順位をつけて取り組む必要がある。優先順位の1つの目安となるのが投資対効果の大小である。言うまでもなく、投資対効果が高い施策の優先度が高い。ただし、投資対効果を試算しなくても、例えばBという施策を実行するためには先にAという施策を実行しなければならないという施策間の因果関係がある場合には、施策Aが優先される。施策間の優先順位がつくと、施策の実行計画を作ることができるようになる。実行計画では、必ず各施策の責任者を明確にしておく。
 (8)将来の損益計算書の作成
 (5)と(6)の各種施策を実行した場合の将来の損益計算書(A)をシミュレーションする。その際、新しい戦略を何も実行せず、成り行きに任せた場合の予想損益計算書(B)も合わせて作成するのが望ましい。(A)と(B)を比較した場合に、例えば向こう5年間の累積経常利益は、確かに(A)>(B)となっていることを確認する(ごく稀に、各種施策の投資は回収できるものの、累積経常利益ベースで見ると、成り行きのケースを下回ることがあるので要注意である)。また、損益計算書とは別に資金繰り表を作成すると、どのタイミングでいくらの資金(投資)が必要となるのかが明らかとなり、資金調達の必要性を認識することもできる。

 (1)の事業機会の抽出については、以前の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた。複数の事業機会の中から自社が取り組むべき機会を選択するには、PEST分析を用いるとよい。ただ、PEST分析は元々産業構造をマクロ的に分析するためのものであり、E(Economics)では景気動向や為替の変動など、S(Society)では文化や価値観などを分析するのが一般的である。しかし、ここでは事業機会をミクロ的に分析するのが目的であり、Eは市場・顧客分析に近い。すると、Sとの違いがほとんどなくなるため、Sを省略してPET分析としても構わないと考える。

PET分析による戦略機会の評価

 PET分析におけるP、E、Tの切り口の例を上に示す。Eの「市場ニーズはあるか?」、「関連・支援産業は成熟しているか?」、「競争はどのくらい激しいか?」、「人材は豊富に存在するか?」という4つの視点は、競争戦略論で有名なマイケル・ポーターの「ダイヤモンドモデル」を参考にしている。PとTの切り口は私が考えた例であり、これ以外の視点で評価しても全く構わない。(1)で抽出したそれぞれの事業機会について、P、E、Tの視点から採点をした結果、最も得点が高いものが自社にとって魅力的な選択肢となる。

 (2)、(3)については今回は省略させていただく。競合他社の分析方法や、より効果的に差別化を実現ためのポイントがいくつかあるのだが、機会を改めて書くことにしたい。

 さて、問題の(4)である。SWOT分析には2つのポイントがある。SWOT分析については、どういう切り口でどんな情報を書けばよいのかが解らないという声をよく聞く。そこで、1つ目のポイントは、まずはOとTの欄に、(1)のPET分析や(2)の競合他社分析で明らかになった情報を書き込むことである。そして、それらの情報について、できればもっと突っ込んだ調査を行う。OとTを埋めた上で、そのOとTに照らし合わせて自社の経営資源を見た場合に、何がSやWになるのかを書き込んでいく。こういう手順で作成すれば、少なくとも「社長のリーダーシップが強い」などという意味不明な強み(あるいは「社長がワンマンである」などという弱み)を書くことはなくなる。

 2つ目のポイントは、単にSWOT分析をするのではなく、”クロス”SWOT分析を行うことである。つまり、SとO、SとT、WとO、WとTを掛け合わせて、この事業機会で成功するためには何がカギを握るのかを明らかにすることである。これがつまり、CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)である。以下に、加工野菜工場を運営する中小企業のクロスSWOT分析の架空の事例を掲載する。ここでは6つのCSFが列挙されている。

クロスSWOT分析によるCSFの特定

 気をつけなければならないのは、クロスSWOT分析の段階で施策(ソリューション)を先取りしないことである。例えば、「○○システムの導入」、「○○人事制度の構築」などといった施策を書き込んではならない。施策は手段であって目的ではない。CSFとして書くべきなのは、あくまでも目的にあたる経営課題である。ある経営課題を実現する手段(ソリューション)は1つとは限らない。例えば、「営業プロセスの標準化」という経営課題があった場合、ITベンダーの人はすぐに「SFA/KMSの導入」というソリューションを提案したくなるかもしれない。だが、「営業プロセスの標準化」を実現するには、他にも「提案書雛形集の整備」、「チームセリングの実施」、「OJTの強化」、「マネジャーによる日報チェックの強化」など、様々な施策が考えうる。これらのうち、どれが最適なのかは、この後でデザインするビジネスモデルやビジネスプロセスによって決まる。

 CSFが特定できたら、そのCSFを実現するビジネスモデルとビジネスプロセスをデザインする。ビジネスモデルの例を以下に示す。これは、「食品スーパーが、これから料理を始める男性をターゲットに、『初心者お助けセット』という調味料のパッケージをPBで販売する」という架空の戦略に基づくビジネスモデルである。ビジネスモデルであるから、モノとカネの流れは最低限押さえておかなければならない。加えて、情報の流れも書いておくとなおよい。下段にある「外部企業を巻き込んだ低価格のセット製品開発」、「消費者ニーズのきめ細かい分析と製品への反映」、「facebookを活用したレシピ情報の自動増殖」、「SNSを活用したレシピ情報の自動増殖」、「消費者が納得する低価格と高品質の両立」の4つがCSFである。CSFの下に書かれている黄色い四角の内容が、CSFを実現するための各種施策となっている。

ビジネスモデルのデザイン

 ビジネスプロセスについても同様に、CSFを実現するためにはどのようなビジネス(業務)プロセスにするべきか、という視点で検討する。ビジネスモデルは業界全体を俯瞰的に描写するものであるのに対し、ビジネスプロセスは自社内部の業務プロセスを割と細かく設計するものである。よって、CSFからいきなりビジネスプロセスを導くのではなく、間に「ビジネスプロセスのあるべき姿の方向性」というワンクッションを挟むとよい。これは、CSFを1段階ブレイクダウンしたものであり、ビジネスプロセスをデザインする上での基本的な考え方、基軸を表している。

ビジネスプロセスのデザイン~あるべき姿の方向性

 上記の例では、「組織営業力の強化」というCSFに基づいて営業部門のビジネスプロセスをデザインしようとしている。そこで、まずは、自社にとって「組織営業力の強化」とは何を意味しているのかを咀嚼している。その結果、「A.組織連携を通じて、中長期的な視点で顧客とのリレーションを強化」、「B.顧客ニーズを深く理解し、製品価値を的確に訴求する提案営業の実施」、「C.標準的な営業プロセスの確立・浸透と、全体のマネジメントサイクルの確立」という3つの方向性を定めた。これらの方向性に基づいて、ビジネスプロセスをデザインしようとしているのが下図である。各プロセスのA~Cは、あるべき姿の方向性のA~Cに対応している。あるべきビジネスプロセスが固まれば、ビジネスモデルの場合と同様に、施策の検討へと移る。

あるべき姿のデザイン

 ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計の仕方については、今回はこれ以上は踏み込まない。別の機会にまた解説できればと考えている。また、今回全く触れなかった(7)と(8)についても、別途記事を書く予定である。今回の記事では、事業戦略立案プロセスにおけるクロスSWOT分析の位置づけとその使い方についてご理解いただければ幸いである。


2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法


一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!



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