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【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察
DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他
DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

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(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年05月22日

【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察


アイデア

 《参考記事》
 (a)【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)
 (b)【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見
 (c)DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
 (d)DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)
 (e)DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他

 今回の記事は、上記の参考記事の内容をまとめ直したものである。企業の目的は何かと問われれば、私はピーター・ドラッカーの「顧客の創造」という説を真っ先に支持する。ここで言う顧客の創造とは、顧客の人数を量的に増加させることと、顧客に対する提供価値(顧客価値)を質的に増大させることの両方を含む。アメリカ人であれば、企業の目的は株主価値を増大させることだと即答するだろう。しかし、私はこの考え方を採用しない。なぜならば、株主価値の増大が目的であればその手段は何でもよいことになり、極端なことを言うと株主から預かった資金を全て投資に回して大きなリターンを得ることでも正当化されてしまう。仮に、全ての企業がこのような行動を取ったら、経済が回らなくなるのは目に見えている。

 企業の目的は顧客、社員、取引先、株主、金融機関、教育・研究機関、地域社会などステークホルダーの利益を最適化することだという立場もある。昨今、欧米から株主至上主義が流れ込んできても、日本企業にはこうした考え方が根強い。多様なステークホルダーのバランスを取ろうというわけだ。ただ、この場合、例えば顧客の利益を犠牲にして社員や取引先など他のステークホルダーの利益を調整することが正当化されてしまう。私はこうしたやり方にも与しない。

 企業にしかできないことは、経済を機能させるために顧客を創造することである。だから、企業の目的は顧客の創造という1点に尽きる。しかしながら、企業には様々なステークホルダーが関わっているのも事実であり、彼らは彼らなりの目的を持ち、存続を願っている。その点に配慮することが、企業が遵守しなければならないルールである。つまり、企業は、ステークホルダーを存続させるという要請から発生するルールを守りながら、顧客の創造という目的を達成しなければならない。例えて言うならば、100m走の目的は「他のランナーよりも速く走ること」という1点であり、スターティングブロックを使うこと、ラインの内側を走ることなどは絶対に破ってはならないルールであるのと同じである。これは、ステークホルダー間の利害を調整することとは全く異なる。

 以下、戦略立案プロセスを概観しながら、企業が守るべきルールを整理してみたい。

 ①事業機会の抽出
 外部環境アプローチに従う場合は、参考記事(a)で示したように、アンゾフの成長ベクトルを拡張したフレームワークを活用して事業機会を網羅的に洗い出す。内部環境アプローチに従う場合には、マクロの視点とミクロの視点の2つがある。マクロの視点に立つ場合は、資源ベース理論を活用して自社のコア・コンピタンスを特定し、それを活用し得る事業機会を考案する。ミクロの視点に立つ場合は、参考記事(c)で示したように、社員に対するキャリアコンサルティングの結果を活用して、社員の「『価値観―できること(能力)―やりたいこと』セット」を摘出する。

 ②事業機会の評価
 ①で抽出した事業機会のうち、どの事業機会に取り組むかを決定する。外部環境アプローチで用いられるPEST分析と、内部環境アプローチで用いられるVRIOフレームワークを用いる(ただし、参考記事(b)で書いたように、PEST分析はS(Society)を省略してPET分析としてもよい)。外部環境アプローチで抽出した事業機会についてはVRIOフレームワークによる分析を、内部環境アプローチで抽出した事業機会についてはPE(S)T分析を特に重点的に行う。

 ③競合他社の特定とその戦略の変化の予測
 ②で事業機会を絞り込んだら、競合他社を特定する必要がある。競合他社には、ⅰ)全く同じカテゴリに属する製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばビール会社)、ⅱ)類似の製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばチューハイ、カクテル、日本酒、焼酎、ワインなどの会社)、ⅲ)顧客が同じニーズを満たすことのできる別の製品・サービスを提供する企業(例:ビールを飲むのがストレス発散のためであれば、ストレス発散のためのカラオケ、レジャー施設、スポーツクラブなどが競合他社にあたる)の3種類がある。この3種類のカテゴリについて主要な競合他社を数社ずつピックアップした上で、その競合他社を取り巻く環境変化を分析し、競合他社がどのように戦略やポジショニングを変更してくるかを予測する。

 ④差別化要因・ポジショニングの決定
 ③の予測に基づいて、自社は②で選択した事業機会において、競合他社とどのような点で差別化を図るのか、どのようなポジショニングを取るのかを決定する。競合他社の戦略も変化する点はしばしば見落とされるので注意が必要である。現在の競合他社のポジショニングを参考に自社のポジショニングを決定した場合、競合他社が環境変化に伴って将来的にポジショニングを変更したら、自社のポジショニングが無効になってしまう。

 ⑤戦略的目標の決定
 ②で市場規模を、③で競合他社の数を把握しているので、その数値を基に、④のポジショニングに従って戦略を実行した場合の目標売上高、利益、市場シェアといった目標を設定する。

 ⑥CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ①の分析で外部環境・内部環境に関する情報はある程度収集できているが、参考記事(b)で書いたように、改めてクロスSWOT分析を用いてその情報を整理し直す。クロスSWOT分析は、「機会×強み」、「機会×弱み」、「脅威×強み」、「脅威×弱み」といった具合にクロスで見ることが重要であり、この4つの視点から、新しい事業を成功させるための要因(CSF)を導き出す。

 ⑦ビジネスモデルのデザイン
 ビジネスモデルとは利益創出の図式であるが、ヒト・モノ・カネ・情報・知識といった経営資源がどのように流通するのかも図式化した方がよい。一時期「ビジネスモデルキャンパス」が流行ったものの、要素間の関係が不透明で、ビジネスが筋の通った物語になっているかを検証できないという弱点がある。やはり、自社をはじめとする各プレイヤーと、プレイヤー間の関係を丁寧に図に落とし込んでいくのがよい。その際、モノを供給する取引先を描くことはもちろんのこと、ヒトを供給する家族、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関も描くのが望ましい。描かれたビジネスモデルは、⑥で特定したCSFが達成されていなければならない。

 ⑧ビジネスプロセスのデザイン
 ビジネスモデルは新しい事業に関与するあらゆるプレイヤーを描き込んだ全体像であるが、今度は自社の具体的なビジネスプロセス(業務プロセス)を設計する。ここでも、⑥で特定したCSFを達成することができるビジネスプロセスをデザインする必要がある。まずは、マイケル・ポーターの「バリューチェーン」のフレームワークを使って、各部門の大まかな機能を列記する。次に、それぞれの部門の機能を具体的な業務プロセスへと落とし込んでいく。

 ⑨目指すべき企業文化の定義
 参考記事(e)で述べたように、新しい戦略の実行には、企業文化の変化を伴うものである。ただし、企業文化は組織や社員に深く根を下ろしており、一気に変えることは大きな困難を伴う。企業文化は漸次的に変化させるしかない。まず、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現することができる企業文化とは何かと問う。次に、現在の自社の企業文化を分析する。両者のギャップが小さい場合には、簡単な行動変容プログラムを策定すれば十分であろう。しかし、両者のギャップが大きい場合には、せっかくの戦略も実行段階で頓挫する恐れがある。その場合には、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現するプロセスに段階(フェーズ)を設け、徐々に企業文化を変革するように配慮する必要がある。

 ⑩課題解決のための戦略的打ち手の導出
 ⑦のビジネスモデルを実現するための課題、⑧のビジネスプロセスを実現するための課題、⑨の企業文化を実現するための課題を整理し、これらの課題を解決するための戦略的打ち手を定義する。課題は、例えば単に「営業力の強化」と抽象的に掲げるのではなく、「既存顧客の購買履歴を活用するITの構築」といった具合に具体化する必要がある。課題を掘り下げるコツは、ビジネスモデルやビジネスプロセスに経営資源を投入する際の「仕組み」に着目することである。ヒト・知識であれば組織編成や人事・教育制度、モノであれば調達制度や物流の仕組み、カネであれば資金調達の仕組みや予算配分の制度、情報であればITの切り口から検討する。

 ⑪戦略的打ち手の優先順位づけ
 ⑩で出てきた複数の戦略的打ち手に優先順位をつけるには、「投資対効果の大小」と「導入の難易度の高低」という2軸でマトリクスを作り、それぞれの打ち手をマッピングするとよい。投資対効果が大きく、導入の難易度も低い打ち手があれば最優先で取りかかるべきだ。逆に、投資対効果は小さいのに導入の難易度が高い打ち手は思い切って捨てる。多くの打ち手は、「投資対効果が大きいが導入の難易度も高い」ものであるか、「投資対効果が小さく導入の難易度も低い」ものである。優先すべきは前者であるが、前者は効果が出るまでに時間がかかり、変革の取り組みが途中で息切れすることがある。そこで、後者の打ち手を適切に織り交ぜることで、早期に変革の効果を演出することがある。後者のような打ち手をクイックウィンと呼ぶ。

 ⑫実行スケジュールの策定とプロジェクトチームの結成
 戦略的打ち手に優先順位がついたら、その優先順位に基づいて実行スケジュールを作成する。同時に、新しい戦略の実現に向けたプロジェクトチームを結成し、誰がどの打ち手に責任を持つのか、誰がその責任者の下で実務的な作業を担うのかを決定する。

 ⑬将来の損益計算書、貸借対照表の試算
 ⑪でそれぞれの戦略的打ち手の投資対効果を試算し、⑫で実行スケジュールを策定しているので、これらの情報を踏まえて、将来(向こう5年程度)の損益計算書、貸借対照表を作成する。その際、新しい戦略を実行しなかった場合(既存事業をそのまま続けた場合)の損益計算書と貸借対照表も作る。両者を見比べて、新しい戦略を実施した方が累積利益が大きくなることをチェックする(稀に、新しい戦略を実行すると、初期投資がかさむ関係で、既存事業をそのまま経営した方が累積利益が大きくなるということがあるため要注意である)。また、⑤で設定した戦略的目標(売上高、利益、市場シェアなど)が達成できることも合わせて確認する。

 ⑭競合他社のアクションに対するリアクション
 新しい戦略を実行すると競合他社もそれに反応して新しい戦略を仕掛けてくる。競合他社の反応が③で想定した範囲内に収まっていれば問題ないが、想定と大きく異なる場合には、④のポジショニングをやり直す必要がある。さらに、競合他社が思いのほか強力で、とても勝ち目がない場合には、①に戻って事業機会の抽出からやり直さなければならないかもしれない。

 ⑮新入社員の入社に伴う組織学習
 新しい戦略の実行に伴って、新入社員(新卒・中途)が入社してくる。彼らは自社の価値観と一致し、自社が要求する能力を身につけていることが前提で入社してくるが、自社の価値観からははみ出る価値観や意外な能力を持っている可能性がある。よって、①に戻ってミクロ視点での内部環境アプローチにより、再び事業機会の探索を始めなければならない。

 ここからが企業が従うべきルールの話。従来の企業は、「経済的なニーズ」を「経済的な方法」で充足していれば十分であった。ところが、企業の社会的責任が強調されるに従って、「経済的なニーズ」を「社会的な方法」で充足しなければならないという流れになった。近年は、マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)というコンセプトを提唱しており、企業は「社会的なニーズ」の充足を事業化する方法を模索する必要性に迫られている。つまり、21世紀の理想の企業とは、「社会的なニーズ」を「社会的な方法」で充足する企業である。

 よって、まずは②で特定した事業機会が、私が「社会的ニーズのテスト」と呼ぶものに合格するかを問わなければならない。具体的には、新しく生み出そうとしている製品・サービスが、

 (1)顧客の健康をサポートするものであるか?
 (2)顧客の生活の衛生面を保つものであるか?
 (3)顧客の安全・安心な生活の実現に資するものであるか?
 (4)顧客が貧困から脱却するのを助けるものであるか?
 (5)顧客の自尊心を支えるものであるか?
 (6)顧客が他者との人間的な絆を構築するのに役立つか?
 (7)顧客の人間的・精神的成長を支援するか?
 (8)顧客に有意義な時間の使い方を提供するものであるか?
 (9)人的資源・地球資源の節約に貢献するものであるか?
 (10)顧客の人生を社会的規範・道徳的価値観と合致せしめるものであるか?

などと問う必要がある。もちろん、これら全てを満たすことは難しい。だが、できるだけ多くの項目に該当する社会的ニーズに企業は取り組む必要がある(参考記事(d))。

 社会的ニーズのテストを経た後は、その社会的ニーズを社会的な方法で実現するビジネスを設計する。⑦でビジネスモデルを、⑧でビジネスプロセスを設計する際、単に⑥で特定したCSFを反映させるだけでなく、社会的要請も汲み取る必要がある。1つのヒントとなるのが「SDGs(Sutainable Development Goals)」である。SDGsとは国連が地球規模の社会的課題について17の目標と169のサブ目標を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、下図の通りである。企業はこの中から、自社で取り組めそうな課題を選択し、ビジネスモデルやビジネスプロセスに反映させる(参考記事(d))。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 ⑧のビジネスプロセスの設計においては、社員のモチベーションにも配慮する必要がある。本来、社員は企業からお金をもらう立場であり、企業にモチベーションを上げてもらうのはおかしな話である。企業に対してお金を払う顧客が企業のモチベーションを上げようとはしないことを考えれば自明である。ただし、顧客はその企業が気にくわなければ別の企業に乗り換えれば済むが、企業の場合は社員に問題があっても簡単に首を挿げ替えることができない。今いる社員に頑張ってもらうしかない。ここから、社員のモチベーションに配慮すべき理由が生まれる。

 とはいえ、社員のモチベーションを上げることは、社員を甘やかしたり、社員におもねったりすることではない。社員が自分の力ではどうしようもできない職場環境については社員を満足させる必要があるが、社員の力が及ぶ範囲においては逆に不満足を感じさせた方が、かえって社員のモチベーションが上がるのではないかというのが私の考えである。ここから、職場環境と仕事の内容について次のようなルールが導かれる。

 <職場環境>
 (1)本人に裁量や権限を与える。
 (2)仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などを整える。
 (3)十分な研修、トレーニングの機会を与える。
 (4)必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられるようにする。
 (5)福利厚生制度を充実させる。

 <仕事の内容>
 (1)仕事の量を多くして忙しくさせる。
 (2)企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップを感じさせる。
 (3)難しい部下や後輩の育成を任せる。
 (4)顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを与える。
 (5)今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描くことを難しくさせる。

 ⑤に戻るが、⑤で設定した戦略的目標は企業の人員数の増加をカバーできるものになっているかも点検しなければならない。普通に考えれば、3~5年後には昇進によって管理職が増加し、新入社員も入ってくるため、企業の人員数や人件費は増える。彼らに対して十分な仕事やポスト、給与を支払うことができる戦略的目標になっているかどうかを確かめる必要がある。もちろん、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」でも書いたように、全員を昇進させ、無制限に新入社員を受け入れることは現実的に不可能であることは私も重々承知している。

 私は年功制は支持するが終身雇用は支持していない。企業は一定のルールに従って、一部の社員を退職させなければならない。以前は子会社が退職する社員の受け皿になっていたのだが、連結決算で子会社の業績が親会社の業績にも影響するようになると、子会社を単なる余剰人員の受け皿として使うことが難しくなった。そこで私は、一定の年齢に達した一部の社員を退職させる代わりに、彼らが起業や転職をする際の資金を提供する仕組みを作ってはどうかと考えている。具体的には、業界の各企業が資金を出し合って基金を組成するイメージである。もちろん、企業が解雇権を濫用することがあってはならない。今後は、企業の合理的な成長スピードを設定し、それでもなお仕事やポストをあてがうことができない社員は、公正な手続きの下に退職してもらうことになるだろう(この点だけは企業にとって有利なルールである)。

 ⑬の損益計算書、貸借対照表の作成まで終わったら、新事業の全体を総チェックする。

20180523_企業の目的と遵守すべきルール

 これからのビジネスは、1社単独で全てをまかなうことが難しくなり、他社(異業種の他社や時に競合他社)と水平連携する局面が増える。また、企業が社会的ニーズを充足するためにNPOとも水平連携する機会も出てくるだろう。他社やNPOも自社と同様に、「顧客の創造(量的・質的)」を目的としている。自社は他社やNPOから必要な時に必要な協力を仰ぐだけでなく、他社やNPOの事業にも貢献し、Win-Winの関係を構築しなければならない。具体的には、「他社/NPOの顧客増に貢献すること(顧客の量的創造)」、「他社/NPOの顧客価値の増大に貢献すること(顧客の質的創造)」というルールが課されることになる。

 自社にヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関に関しても、企業はルールを課される。家族の目的は、家族構成員の健康を保つことと家計を維持することである。よって、企業は家族の目的達成を支援するために、「社員の健康に配慮すること」、「生計を維持できるだけの給与を支払うこと」というルールに従う必要がある。取引先の目的は、顧客の創造である。取引先の顧客とは自社のことである。よって、取引先の目的達成を支援するために、「取引先との取引量を増やすこと(量的創造)」、「取引先の顧客価値(=自社にとっての価値)向上を支援すること(質的創造)」というルールに従う必要がある。親会社が下請会社の品質向上・人材育成を支援するのは一例である。

 株主・金融機関の目的は、投資に見合ったリターンを得ることと、社会的に責任ある投資家となることである。よって、企業は株主・金融機関の目的達成を支援するために、「資本コストを上回るリターンを上げること」、「経営資源の調達から顧客価値の創造に至るプロセスを透明・公正に保つこと」というルールに従う必要がある。最後に、教育・研究機関の目的は、有益な知を社会に提供することと、有益な人材を社会に輩出することである。よって、企業は教育・研究機関の目的達成を支援するために、「企業の知をフィードバックすること」、「教育・人材育成の取り組みを支援すること」というルールに従う必要がある。これらのルールは、産学連携をしている企業にとってはとりわけ重要な意味合いを持つ。

 上図のように、ヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関を自社よりも1つ下のレイヤーに位置づけている(欧米ならば株主を自社よりも上のレイヤーに位置づけるだろうが、私は株主は他の経営資源を供給するプレイヤーと同列に扱うべきだと考える)。自社はこれらのプレイヤーの上に位置するのだから、彼らに対して自由に要求すればよいように思える。しかし私は敢えて、下位に位置するプレイヤーの目的達成を支援することをルール化している。これを山本七平の言葉を借りて「下問」と呼んでいる。「あなた方の目的を達成するために我が社が支援すべきことは何か?」と問うことである。結局のところ、下位のプレイヤーの目的(アウトプット)=自社のインプットであり、下位のプレイヤーの目的達成を支援することは、自社にとってメリットとなって跳ね返ってくるのである。


2018年04月18日

DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

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 (1)
 車運転をする世界中の人々が、自動運転の恩恵によって1時間を自由に使えるようになった場合、この膨大な商業的機会を活かすのは、どのような企業だろうか。真っ先に名前が挙がるのは、アルファベットやアップルのようなハブ企業である。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ「グーグル、アップル、アマゾン、アリババ・・・ ハブ・エコノミー:少数のデジタル企業が世界を牛耳る時代」)
 《参考記事》
 「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)
 『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 「ハブ企業」とはプラットフォーム企業と言い換えてよいだろう。上図については《参考記事》を参照していただきたいが、プラットフォーム企業は元々左上の<象限③>で生まれたものである。<象限③>は多産多死のイノベーションの世界である。イノベーターは自分が愛するイノベーションを何とかして世界中に普及させたがっており、そのためなら自分がお金を払ってもよいとさえ思っている。こうしたイノベーターのニーズに目をつけて、多数のイノベーターを束ねてプラットフォームを形成し、世界中の顧客に対してイノベーションの選択肢を提供するようになったのがプラットフォーム企業である。Amazonは書籍や音楽、GoogleとAppleは音楽やスマホアプリの分野でプラットフォームを提供している。スマホアプリの例で言うと、本来GoogleやAppleはスマホアプリの仕入れ側であるから、アプリ開発者に対してお金を払わなければならないはずだ。ところが、両社はアプリ開発者からお金を取ることに成功している。

 このプラットフォームが、近年は<象限①>や<象限②>にも浸透し始めている。というのも、世界的な供給過多により、サプライヤは先のイノベーターと同様に、自社の製品・サービスを購入してもらうためなら自らお金を払ってもよいと考えるようになってきているからだ。こうしたサプライヤのニーズに最もよく対応しているのがAmazonである。Amazonの品揃えは今や書籍、音楽、映像、ゲーム、家電、家庭用品、アパレル、ベビー用品、食料品にまで広がっている。

 <象限②>について言えば、IoTによるプラットフォーム企業が登場するだろう。自動車を例にとると、今までは自動車が故障したら、修理工場は適切な部品を見繕って修理を行っていた。だが、自動車にIoTが搭載されれば、修理やメンテナンスの際にはIoTに対応した部品と交換される。これは、部品メーカーにとっては、IoTのプラットフォームに載っていなければ、大きな商機を失うことを意味する。その商機を逃さないために、部品メーカーはプラットフォーム企業(おそらくは自動車メーカーであるが、Googleもこの座を狙っている)にお金を払ってもよいと考える。

 冒頭の引用文に戻ろう。プラットフォーム企業(ハブ企業)は、自動運転によって手が空いた1時間だけを狙っているとは考えにくい。手が空いた1時間でできることと言えば、アプリでゲームをするか、映画やドラマを観るぐらいのものであろう。それでは大した商機にならない。プラットフォーム企業の真の狙いは次の文に現れていると思う。
 両社(※アルファベットやアップル)はすでに、地図や広告網のようなボトルネック資産を大規模に展開しており、車内にいる人にふさわしいばかりか現在位置にも適した、極めて的を射た広告を表示する準備を整えている。自動運転車に当然のように装備すべきアドオン機能は、表示された広告を見て「この店に行きたい」と思った時に押す、「ここへ行く」ボタンである(カーナビアプリのWazeはすでにこれを実現している)。ボタンを押すと、表示された場所へ向かうよう車に指示が出される。
 「OK Google、この近辺でおいしいお店を教えて?」と尋ねると、自動運転車にインストールされているアプリが、データベースに蓄積された口コミ情報と広告主が支払った広告料を総合して、レストランを一覧表示する。また、自動運転中は、位置情報を参考に、同じく口コミ情報と広告料を総合して、「この近くに○○が安いお店があります。寄りますか?」と提案する。ユーザがどのお店を選択したかによって、GoogleのAIは賢くなり、ユーザに対してより最適な提案ができるようになる。こんな世の中が到来するであろう。飲食店などの企業は、Googleのプラットフォームに載っていればユーザに紹介されるが、載っていなければ完全に無視される。さらに、プラットフォームを通じてユーザに提案される回数を増やすためには、広告料を払う必要がある。

 「Google Home」や「Amazon Echo」が登場した時、個人的には「何だこれは?」と思ったが、スマートスピーカーは来るべき自動運転時代のプラットフォームを握るための壮大な実験と考えれば納得がいく。Googleなどは、スマートスピーカーに対してユーザがどのような質問をするのか、どのような回答をするとユーザの満足度が高いのか、満足度を上げるためにはアルゴリズムをどのように改善すればよいのか、広告料は取れるのか、取れるとしたらいくらぐらいが妥当なのか、といったことを調査しているのではないかと考える。

 (2)
 お仕着せの企業戦略のほとんどが、社風として根付いた慣習や姿勢と相容れない。経営幹部は、社風との相性次第で戦略の効果がどれほど違ってくるかを、甘く見積もっているのだろう。戦略よりも社風のほうが、常に大きな力を発揮するのだ。
(ジョン・R・カッツェンバック、イローナ・シュテフェン、キャロライン・クロンリー「組織文化こそ競争力の源泉 社風を活かして変革する企業」)
 《参考記事》
 【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見(戦略立案の外部環境アプローチ)
 DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)

 戦略を立案する際には、企業文化をそれと整合させることが必要だということである。新しい戦略は、既存の企業文化とぴったり整合性が取れているのが最も望ましい。しかし、そのようなケースは稀であり、多くの場合は新しい戦略が企業文化に対して変革を求める。この点を考慮しないと、せっかくの新しい戦略が企業文化によって足を引っ張られることになる。上記の《参考記事》で、戦略立案の外部環境/内部環境アプローチについて整理してみたが、企業文化の観点がすっぽりと抜け落ちていることに気づき、反省した。そこで、手始めに外部環境アプローチの中に企業文化の変革を組み込んでみたいと思う。

 外部環境アプローチは、以下の8ステップで構成される。
 ①事業機会の抽出と選択
 ②ターゲット顧客・差別化要因の決定
 ③戦略目標の設定
 ④CSFの特定
 ⑤ビジネスモデルの設計
 ⑥ビジネスプロセスの設計
 ⑦施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書の作成

 企業文化について問う必要があるのは、⑥のビジネスプロセスの設計が終わった段階である。⑤のビジネスモデル、⑥のビジネスプロセスを見て、これらの実現に必要な企業文化とは何かと問う。この問いが抽象的であると感じるならば、「このビジネスを実現するために、我が社の社員が重視すべき価値観・行動規範は何か?」と問うとよい。協働が盛んである、革新性が高い、能力主義が徹底している、リスクを取る、品質を重視するなど、様々な答えが出るだろう。その上で、現在の企業文化についても振り返る。すると、望ましい企業文化と現在の企業文化のギャップが見えてくる。このギャップが大きいほど、新しい戦略の実行は困難になる。

 企業文化は定性的で多義的であるため、実際にはギャップを見つけようとしてもなかなか難しい。そこで、ギャップを発見する1つの手助けとなり得るのが、ボリス・グロイスバーグ、ジェレミア・リー、ジェシー・プライス、J・ヨー=ジュド・チェン「社風を変えるうえで知っておくべき8つの特性 変革は企業文化に従う」で紹介されている企業文化の8類型である。同論文では、「柔軟性―安定性」、「独立性―相互依存性」という2軸でマトリクスを作り、企業文化を8つのタイプに分けている。この8つは、お互いに距離が近いほど変革が容易であることを示している。例えば、「目的意識」が強い企業が「学習」重視の企業文化に変化するのは簡単である。一方で、「楽しさ」を重視する企業が「秩序」を重視する企業に変化するのは非常に困難を伴う。

企業文化の8類型

 企業文化のギャップが大きいことが判明した時、取り得る選択肢は2つある。1つは、企業文化のギャップが大きいと解っていても新しい戦略を遂行する場合である。自社が競合他社からの激しい攻撃にさらされていたり、技術革新によって業界全体が大きく様変わりしようとしていたりして、その戦略を実行しなければ生き残りが難しくなるようなケースがこれにあたる。ただし、その場合でも、いきなり企業文化の大変革を目指すのではなく、段階を踏む必要がある。例えば、「楽しさ」を重視する企業を「秩序」を重視する企業へと変革する場合には、いきなり「秩序」を目指すのではなく、まずは「権力」を目指す。その上で、「秩序」を目指すといった具合だ。

 そして、「楽しさ」を重視する企業が「権力」を重視する企業へと生まれ変わるには、経営陣や社員がどのような行動を取るべきかと問う。バーゲニングパワーを行使して取引先に対する交渉力を強化する、マネジャーの権限を拡大する、トップ主導で営業方針を現場に浸透させる、などといったものが出てくるだろう(ちょうど、現場の裁量に任せて自由に仕事をさせていたベンチャー企業が、企業の成長に伴って組織の仕組みづくりをしなければならない場面を思い浮かべていただくとよい)。そうしたら、⑤ビジネスモデルの設計、⑥ビジネスプロセスの設計に立ち戻って、これらの行動を意図的にビジネスモデルとビジネスプロセスに反映し、修正する。

 企業文化のギャップが大きい場合にとり得るもう1つの選択肢は、①に戻って事業機会の選択をやり直すことである。自社の既存の文化との親和性がより高いと思われる事業機会へと切り換えるわけだ。本当は、①事業機会の抽出と選択の段階で、企業文化とのギャップの大きさが解るとよいのだが(前述のリンク先の記事ではPEST分析を簡略化したPET分析を用いている)、事業機会だけを見て、その事業を支える企業文化とは何かを見極めるのは至難の業である。ビジネスモデルやビジネスプロセスを具体的に描いてみて初めて、必要な企業文化が明らかになるものである。よって、大幅な作業のやり直しとなるが、この方法が最善であると考える。

 ただし、あまりに既存の企業文化との整合性を重視すると、結局のところ既存文化との親和性が高いのは既存事業であるということになって、何も変化が生まれなくなる。既存文化を尊重しつつも、新しい戦略の実行にはある程度企業文化の変革が伴うと腹をくくる必要がある。この場合でも、⑥ビジネスプロセスの設計が終わった段階で、前述のように新しいビジネスモデルやビジネスプロセスを下支えする企業文化は何かと問い、既存文化とのギャップを分析して、ギャップを埋めるための新しい行動をビジネスモデルとビジネスプロセスに組み込んでいく。

 以上が、戦略立案の外部環境アプローチに企業文化の変革を埋め込む方法の素案である。重要なのは、一足飛びに新しい企業文化を構築しようとしないことである。慣れ親しんだ行動を変えるのは簡単ではない。行動は少しずつ変えていく。上記のアプローチで言えば、まずAという文化を築きaという行動を習得するために、こういうビジネスモデルやビジネスプロセスにする。次にBという文化を築きbという行動を習得するために、こういうビジネスモデル、ビジネスプロセスにする・・・こうした漸次的変化を繰り返すことで、本来実現したかった戦略を最終的に達成する。これを「漸次的変革」と呼ぶことにしよう。少しずつ変化を繰り返した結果、後から振り返ると、以前とは全然違う姿に生まれ変わっていたという状態である。私も一介のコンサルタントとして、お仕着せの戦略ではなく、こういう粘り腰の戦略を作らなければならないと覚悟した。


2017年12月26日

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 今回の記事は、以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で課題としていたことに対する、現時点での私の見解を述べるものである。

 人事の分野でGEが注目を集めているのは、伝統的な「セッションC」や「9ブロック」を廃止したからである。より具体的に言うと、GEはグレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、私は半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 先日の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で述べたように、改正職業能力開発促進法の施行により、企業が社員に対してキャリアコンサルティングの機会を提供することが義務づけられた。キャリアコンサルタントには、従来の面談の機能に加えて、組織開発コンサルタントとしての役割が追加される。私はさらに、社員がやりたいことや社員にできること、社員の価値観をベースとした戦略立案、言い換えれば内部環境アプローチによる戦略立案の支援を行うコンサルタントとしての役割も上乗せされると考えている。今回の記事では、その内部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについて、現時点での試案を述べてみたいと思う(ちなみに、外部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについては、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。

 ①最低到達目標の明確化
 以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、私は生活給と年功制の昇進制度を支持している。これは、現在の社員を最大限に活用し、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えるためである。そこで、内部環境アプローチではまず、現在の社員が順調に昇進し、またそれに伴って新卒社員を順調に採用した場合、3~5年後にどのような人員構成になるかを予測する。そして、その人員構成を維持するために必要な売上高、利益(率)をはじき出す。これが、企業が3~5年後に最低限到達していなければならない目標となる。

 ②「やりたいこと―できること―価値観」のセット=事業機会の洗い出し
 次に、キャリアコンサルティングなどの機会を活用して、現在の社員に対し幅広くヒアリングを実施し、それぞれの社員がどんなことをやりたいと思っているのか、どんな能力を持っているのか、どういう価値観で仕事をしているのかを詳細に把握する。それぞれの社員のやりたいこと、できること、価値観はバラバラであっても、組み合わせてみると一貫性が取れるケースが出てくる。例えば、若手社員はある仕事をやりたいと思っているが、それを遂行するだけの能力が不足している場合に、ミドル社員がその能力を補える、といった具合である。こうして、一貫性の取れた「やりたいこと―できること―価値観」のセットを事業機会として抽出する。一例としては、「AIを活用した融資業務の高度化に取り組みたい―スコアリング融資のノウハウ、与信管理の暗黙知―新しい技術に対する進取性、迅速な意思決定、チームワークの重視」が挙げられる。

 私はしばしば、日本企業の特徴は下の階層から上の階層に対する「下剋上(山本七平からの借用)」が起きることにあると述べてきた。つまり、上司からの命令に唯々諾々と従うのではなく、「こうすればもっと上手くできる」と部下が積極的に提案する。それを聞いた上司は、「俺の命令に逆らうな」と言わず、「君がそう言うのならばやってみよ。責任は自分が取る」と言って部下に権限移譲する。これが組織階層の中で繰り返されていくと、最終的には、組織の最下層にあって現場に一番近い社員が最も大きな権限を持ち、組織の最上部にいる経営陣は責任を丸抱えするという構図になる。これはまさに、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」で事例発表をしたサントリーの「見てくんなはれ」と「やってみなはれ」の精神に相当する。

 私は、現場に近いところにいる若手社員から積極的にやりたいことの提案が上がってくる組織が望ましいと考えている。業績が好調な企業というのは、やはり若手や現場が元気である。逆に、若手や現場が活力を失っている企業は、組織全体のムードも沈滞しがちであり、業績も芳しくない。とはいえ、若手社員があれをやりたい、これをやりたいと言っても、彼らはまだ能力的に十分成熟しておらず、確固たる価値観を持っていないケースがほとんどである。そこで、ミドル・シニア社員が登場し、能力と価値観の面で若手の思いを下支えする。こうしたスクラムがいくつも成立すると、企業は多様な戦略オプションを手にすることができる。

 なお、このステップの作業を効率化するために、やりたいこと、できること、価値観をあらかじめ類型化し、どのカテゴリに該当する社員が多いかを定量的に可視化したいという誘惑に駆られることがある。しかし、私はこうしたやり方をお勧めしない。手間はかかるが、社員の生の声をできるだけ丹念に拾っていき、「やりたいこと―できること―価値観」のセットを丁寧に織り上げることが重要である。というのも、やりたいことなどを類型化してしまうと、想定される事業機会が各カテゴリの組み合わせの数に限定され、創造的なアイデアが出てこないからである。

 ③事業機会の選択
 ②で抽出した事業機会のうち、企業としてどれに取り組むかを絞り込む。外部環境アプローチでは、PEST分析をカスタマイズしたPET分析を用いたが、内部環境アプローチでは、J・B・バーニーの「VRIOフレームワーク」を用いるとよいだろう。

 ⅰ)Value(経済価値に関する問い)
 その企業の保有する経営資源やケイパビリティによって、その企業は外部環境における脅威や機会に適応することが可能となるか?
 ⅱ)Rarity(希少性に関する問い)
 その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合他社のみか?
 ⅲ)Inimitability(模倣困難性に関する問い)
 その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 ⅳ)Organization(組織に関する問い)
 企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?

 通常、VRIOフレームワークを用いる際には、主に組織能力を経営資源の中心として評価するが、内部環境アプローチにおいては、経営資源として価値観も重視するべきである。つまり、その価値観は市場や顧客に向けた価値の創造に貢献するか?その価値観を醸成している企業は希少であるか?その価値観を模倣・学習するのは困難であるか?その価値観を活用する組織的な方針や手順は整っているか?といった問いにも答えていく。

 ④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ⑤ビジネスモデルのデザイン
 これらは外部環境アプローチと同じである。

 ⑥ビジネスプロセスのデザイン
 外部環境アプローチとの違いは、まず、③で絞り込んだ「やりたいこと―できること―価値観」セットの価値観を共有価値観として、ビジネスプロセスのあるべき姿をデザインする際の基本的な方向性に含めるという点である。ここで価値観とビジネスプロセスを結びつけておくことで、強固な組織文化に支えられた事業を展開することが可能となる。

 また、外部環境アプローチでは、求められる成果を最も効果的・効率的に上げられるビジネスプロセスをデザインし、効率性、生産性を重視した上でそれぞれの社員に割り当てる仕事の単位を決めていくが、内部環境アプローチでは社員のモチベーションアップに配慮しながらビジネスプロセスを決めていく。モチベーションが上がる仕事の要件は、以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」でも書いたように、

 ⅰ)顧客からのフィードバックがあること
 ⅱ)一定の裁量を与えられていること
 ⅲ)複数の能力を使わなければならないこと
 ⅳ)能力のストレッチが要求されること
 ⅴ)周囲の社員との協業が必要であること

の5つである。よって、本来は生産性を重視して職務を専門化した方がよいところを、敢えて複数の仕事を同じ人にやらせたり、敢えて同僚や他部門との協業が必要となるように仕事の境界線を調整したり、顧客(社内顧客を含む)からのフィードバックの機会を多く設けたりする、といった工夫を施すこととなる。短期的な効率性は犠牲にされるかもしれないが、中長期的には社員のモチベーションアップと企業の業績向上を両立させることができるに違いないと考える。

 ⑦施策の投資対効果の試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書、貸借対照表のシミュレーション
 これらも外部環境アプローチと同じである。⑧を通じて、今回選択した戦略が①の最低到達目標をクリアしていることを確認する。

 ⑨不足する人材の採用
 たいていの場合、今回選択した戦略を実現し、⑦の施策を実行するには、現有の社員だけでは社員が不足することが明らかになる。その場合には、新しい人材を採用しなければならない。この点は外部環境アプローチでも同様である。外部環境アプローチの場合は、企業に不足している能力を保有している人材をピンポイントで採用するのに対し、内部環境アプローチの場合は、敢えてダイバーシティを重視する。後述するように、ダイバーシティが新しい戦略を構想する上での源泉となるからである。とはいえ、野放図に採用すればよいわけではなく、新卒採用の場合は基本的な性格が備わっているか、中途採用の場合はその人の価値観が自社の共有価値観と合致しているか、という点は見極めておきたい(新卒作用で性格を、中途採用で価値観を重視する理由については、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ⑩継続的な戦略的組織学習
 ⑨で新しい人材が入ってくることにより組織構成が変わるため、①の最低到達目標が変化する。また、⑨でダイバーシティを重視し、多様な意思、能力、価値観を持った人を採用したため、企業の「やりたいこと―できること―価値観」セットに変化を及ぼす可能性が生まれる。よって、企業は①の最低到達目標を再計算した上で、主に新しく入社した社員を対象にキャリアコンサルティングなどを実施し、②の「やりたいこと―できること―価値観」セットの洗い出しをやり直さなければならない。そして、③~⑨のプロセスを踏む。その後も、企業は新しく人材を採用する度に内部環境アプローチのプロセスを一からやり直す必要がある。つまり、企業は継続的に戦略的組織学習を行わなければならないということである。

 上記はまだラフなアイデアの段階にとどまっている。私の今後の課題は、上記の一連のプロセスをさらにブラッシュアップさせるとともに、外部環境アプローチと内部環境アプローチを統合した総合的な戦略立案プロセスを構築することである。



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