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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年10月31日

【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見


グリーンアーミーメン

事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー
坂本 雅明

同文舘出版 2016-07-01

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 戦略の立案プロセスについては、坂本雅明『事業戦略策定ガイドブック―理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016年)が比較的解りやすかった。本書の最初は、事業アイデアの検討から始まり、ここではSWOT分析が用いられている。「強み(Strength)」と「機会(Opportunity)」が合致する事業アイデアが最も望ましいが、「強み」を活かす事業アイデア、「機会」に乗じる事業アイデアでもよいとされている。ただ、これだと「弱み(Weakness)」や「脅威(Threat)」を検討した意味があまりないのではないかと個人的には感じた。

 SWOT分析はもう半世紀ぐらい前に開発されたフレームワークで、戦略立案の場面ではおそらく最も多く利用されているものであろう。しかし、フレームワークの自由度が高すぎるがゆえに、目的を明確にせずに分析すると、「使ってはみたものの、結局何が言いたかったのか解らない」という状況に陥りやすい。欧米には、「SWOT分析をやってみたが、SO WHAT?(それで何なの?)」というジョークがあるそうだ(このジョークも本ブログでこれまでに何度用いたことか)。

 私は一応中小企業診断士の資格を持っているのだが、中小企業診断士の2次試験(筆記試験+口述試験)に合格すると、「実務補習」と呼ばれる一種の実地研修を受けることになっている。実務補習では、基本的に5名程度のチームを組んで、実際に中小企業の経営を診断し、経営課題とそれに対する解決策の提言をまとめて、5日間で100ページぐらいの報告書を作成する。診断プロセスは中小企業庁や(一社)中小企業診断協会の意向を受けて概ね標準化されており、プロセスの最初にSWOT分析が位置づけられている。

 だが、実務補習に参加登録しても、診断対象企業の情報は事前には与えられず、実務補習当日の午前中になって初めて指導員(診断士の先輩)から教えられる。そして、診断対象企業についての事前調査がほとんどできないまま、その日の午後にはその企業の経営者にヒアリングをすることになる。翌日には、ヒアリングの結果をSWOT分析でまとめて、経営課題を導き出す。残りの3日間は課題の掘り下げと報告書の作成にあてられるというのが大体のケースである。私は、このやり方には大きく2つの問題があると考えている。

 まず、事前調査なしにヒアリングをするため、どうしても質問が総花的になりやすいということである。私は、1回目の実務補習では、灯油の巡回販売と水道工事、リフォーム事業という3つの事業を行っている中小企業を診断し、3回目の実務補習では、信号の工事とLED照明の製造・販売という2つの事業を行っている中小企業を診断したが、限られた時間の中で、全ての事業について事業環境から組織構造まで万遍なく質問しようとすると、表面的なことしか聞くことができない。2つ目の問題は、SWOT分析から課題を導く際に、往々にして、S、W、O、Tの内容の単なる要約になってしまうということである。特に、弱みを裏返しただけの課題になることが多い。ヒアリングで得た情報が表面的であるがゆえに、導かれる課題も底が浅いものになりがちである。私はどうも、実務補習におけるSWOT分析の使い方には納得がいかない。

 SWOT分析は、何を目的にするかによって、結果が全く違うものになる。冒頭で紹介した書籍では、事業アイデアの検討が目的となっている。これに対して、実務補習では、単なる事業環境の整理が目的になっているのではないかと思われる。私は、SWOT分析をこのような目的では使わない。SWOT分析は、事業のCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を導くために用いる。このことを説明するためには、私が考える「事業戦略の立案プロセス」について述べる必要がある。このプロセスは8つのプロセスから成り立っている。

 (1)事業機会の抽出と選択
 自社を取り巻く事業環境を観察して、事業機会(=儲けの機会)を洗い出し、自社にとって最も実現可能性が高そうな機会、取り組む価値の高い機会を特定する。
 (2)ターゲット顧客・差別化要因の決定
 (1)で選択した事業機会における顕在的/潜在的な競合他社を分析し、自社はどの顧客をターゲットとするのか、また競合他社とどのように差別化を図るのか決定する。当然のことながら、差別化要因は顧客にとって意味のあるもの、価値を生むものでなければならない。
 (3)戦略目標の設定
 (1)で選択した事業機会の推定市場規模や将来的な市場の伸び率、(2)で分析した競合他社の数や各社の市場シェア、市場におけるパワー、および各社が今後とるであろう戦略の予測などから、自社の中長期的な戦略目標を設定する。具体的には、「○○年後に、市場シェア○○%/売上高○○億円/販売数量○○個を達成する」といった目標を立てる。
 (4)CSFの特定
 (3)で設定した戦略目標を達成するために、カギとなる要素=CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を特定する。CSFは重要な経営課題と言い換えてもよいだろう。
 (5)ビジネスモデルの設計
 (2)のターゲット顧客に対して、競合他社と差別化を図りながら、(5)の戦略目標を達成するためのビジネスモデルを設計する。ビジネスモデルとは、自社を中心として、外部のどのようなプレイヤーと協力しながら儲けを生み出すのか、その仕組みを可視化したものである。重要なのは、ビジネスモデルは、(4)で特定したCSFを実現するものにしなければならないということである。CSFを反映したビジネスモデルを設計すると、その実現のために必要な施策が見えてくる。
 (6)ビジネスプロセスの設計
 (5)のビジネスプロセスが、業界における川上から川下までの全体像であったのに対し、(6)は自社内部の業務プロセスを設計するものである。ここでも(5)と同様に、(4)のCSFを反映したビジネスプロセスをデザインしなければならない。すると、(5)と同じように、そのビジネスプロセスを実現するために実施しなければならない施策が明らかになる。
 (7)施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 (5)と(6)から導かれた各種施策は、多くの場合一気に実行することが難しい。そこで、優先順位をつけて取り組む必要がある。優先順位の1つの目安となるのが投資対効果の大小である。言うまでもなく、投資対効果が高い施策の優先度が高い。ただし、投資対効果を試算しなくても、例えばBという施策を実行するためには先にAという施策を実行しなければならないという施策間の因果関係がある場合には、施策Aが優先される。施策間の優先順位がつくと、施策の実行計画を作ることができるようになる。実行計画では、必ず各施策の責任者を明確にしておく。
 (8)将来の損益計算書の作成
 (5)と(6)の各種施策を実行した場合の将来の損益計算書(A)をシミュレーションする。その際、新しい戦略を何も実行せず、成り行きに任せた場合の予想損益計算書(B)も合わせて作成するのが望ましい。(A)と(B)を比較した場合に、例えば向こう5年間の累積経常利益は、確かに(A)>(B)となっていることを確認する(ごく稀に、各種施策の投資は回収できるものの、累積経常利益ベースで見ると、成り行きのケースを下回ることがあるので要注意である)。また、損益計算書とは別に資金繰り表を作成すると、どのタイミングでいくらの資金(投資)が必要となるのかが明らかとなり、資金調達の必要性を認識することもできる。

 (1)の事業機会の抽出については、以前の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた。複数の事業機会の中から自社が取り組むべき機会を選択するには、PEST分析を用いるとよい。ただ、PEST分析は元々産業構造をマクロ的に分析するためのものであり、E(Economics)では景気動向や為替の変動など、S(Society)では文化や価値観などを分析するのが一般的である。しかし、ここでは事業機会をミクロ的に分析するのが目的であり、Eは市場・顧客分析に近い。すると、Sとの違いがほとんどなくなるため、Sを省略してPET分析としても構わないと考える。

PET分析による戦略機会の評価

 PET分析におけるP、E、Tの切り口の例を上に示す。Eの「市場ニーズはあるか?」、「関連・支援産業は成熟しているか?」、「競争はどのくらい激しいか?」、「人材は豊富に存在するか?」という4つの視点は、競争戦略論で有名なマイケル・ポーターの「ダイヤモンドモデル」を参考にしている。PとTの切り口は私が考えた例であり、これ以外の視点で評価しても全く構わない。(1)で抽出したそれぞれの事業機会について、P、E、Tの視点から採点をした結果、最も得点が高いものが自社にとって魅力的な選択肢となる。

 (2)、(3)については今回は省略させていただく。競合他社の分析方法や、より効果的に差別化を実現ためのポイントがいくつかあるのだが、機会を改めて書くことにしたい。

 さて、問題の(4)である。SWOT分析には2つのポイントがある。SWOT分析については、どういう切り口でどんな情報を書けばよいのかが解らないという声をよく聞く。そこで、1つ目のポイントは、まずはOとTの欄に、(1)のPET分析や(2)の競合他社分析で明らかになった情報を書き込むことである。そして、それらの情報について、できればもっと突っ込んだ調査を行う。OとTを埋めた上で、そのOとTに照らし合わせて自社の経営資源を見た場合に、何がSやWになるのかを書き込んでいく。こういう手順で作成すれば、少なくとも「社長のリーダーシップが強い」などという意味不明な強み(あるいは「社長がワンマンである」などという弱み)を書くことはなくなる。

 2つ目のポイントは、単にSWOT分析をするのではなく、”クロス”SWOT分析を行うことである。つまり、SとO、SとT、WとO、WとTを掛け合わせて、この事業機会で成功するためには何がカギを握るのかを明らかにすることである。これがつまり、CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)である。以下に、加工野菜工場を運営する中小企業のクロスSWOT分析の架空の事例を掲載する。ここでは6つのCSFが列挙されている。

クロスSWOT分析によるCSFの特定

 気をつけなければならないのは、クロスSWOT分析の段階で施策(ソリューション)を先取りしないことである。例えば、「○○システムの導入」、「○○人事制度の構築」などといった施策を書き込んではならない。施策は手段であって目的ではない。CSFとして書くべきなのは、あくまでも目的にあたる経営課題である。ある経営課題を実現する手段(ソリューション)は1つとは限らない。例えば、「営業プロセスの標準化」という経営課題があった場合、ITベンダーの人はすぐに「SFA/KMSの導入」というソリューションを提案したくなるかもしれない。だが、「営業プロセスの標準化」を実現するには、他にも「提案書雛形集の整備」、「チームセリングの実施」、「OJTの強化」、「マネジャーによる日報チェックの強化」など、様々な施策が考えうる。これらのうち、どれが最適なのかは、この後でデザインするビジネスモデルやビジネスプロセスによって決まる。

 CSFが特定できたら、そのCSFを実現するビジネスモデルとビジネスプロセスをデザインする。ビジネスモデルの例を以下に示す。これは、「食品スーパーが、これから料理を始める男性をターゲットに、『初心者お助けセット』という調味料のパッケージをPBで販売する」という架空の戦略に基づくビジネスモデルである。ビジネスモデルであるから、モノとカネの流れは最低限押さえておかなければならない。加えて、情報の流れも書いておくとなおよい。下段にある「外部企業を巻き込んだ低価格のセット製品開発」、「消費者ニーズのきめ細かい分析と製品への反映」、「facebookを活用したレシピ情報の自動増殖」、「SNSを活用したレシピ情報の自動増殖」、「消費者が納得する低価格と高品質の両立」の4つがCSFである。CSFの下に書かれている黄色い四角の内容が、CSFを実現するための各種施策となっている。

ビジネスモデルのデザイン

 ビジネスプロセスについても同様に、CSFを実現するためにはどのようなビジネス(業務)プロセスにするべきか、という視点で検討する。ビジネスモデルは業界全体を俯瞰的に描写するものであるのに対し、ビジネスプロセスは自社内部の業務プロセスを割と細かく設計するものである。よって、CSFからいきなりビジネスプロセスを導くのではなく、間に「ビジネスプロセスのあるべき姿の方向性」というワンクッションを挟むとよい。これは、CSFを1段階ブレイクダウンしたものであり、ビジネスプロセスをデザインする上での基本的な考え方、基軸を表している。

ビジネスプロセスのデザイン~あるべき姿の方向性

 上記の例では、「組織営業力の強化」というCSFに基づいて営業部門のビジネスプロセスをデザインしようとしている。そこで、まずは、自社にとって「組織営業力の強化」とは何を意味しているのかを咀嚼している。その結果、「A.組織連携を通じて、中長期的な視点で顧客とのリレーションを強化」、「B.顧客ニーズを深く理解し、製品価値を的確に訴求する提案営業の実施」、「C.標準的な営業プロセスの確立・浸透と、全体のマネジメントサイクルの確立」という3つの方向性を定めた。これらの方向性に基づいて、ビジネスプロセスをデザインしようとしているのが下図である。各プロセスのA~Cは、あるべき姿の方向性のA~Cに対応している。あるべきビジネスプロセスが固まれば、ビジネスモデルの場合と同様に、施策の検討へと移る。

あるべき姿のデザイン

 ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計の仕方については、今回はこれ以上は踏み込まない。別の機会にまた解説できればと考えている。また、今回全く触れなかった(7)と(8)についても、別途記事を書く予定である。今回の記事では、事業戦略立案プロセスにおけるクロスSWOT分析の位置づけとその使い方についてご理解いただければ幸いである。


2014年09月01日

創業補助金の書面審査をして感じた7つのこと


 平成25年度の補正予算で実施されている「創業促進補助金(創業補助金、予算44億円)」の書面審査員をやった。ここ半年ぐらいで3回引き受けて、約150社の事業計画書を審査したが、当分この手の仕事はいいかな・・・。申請者が補助金とは無関係に起業するのであれば、どんな計画書であっても知ったことではないのだが、税金が原資の200万円(=補助金の上限額)がほしいのならば、もうちょっとしっかり計画書を作ってもらいたいと思うことが少なからずあった。

 今日は、「もっとこうした方がいい」と私が感じた7つのポイントを整理してみたい。来年度以降も創業補助金があるかどうか不明だが、申請を検討している方の参考になれば幸いである。

《関連記事》
 とある中小企業向け補助金の書面審査員をやってみて感じた3つのこと(申請企業に対して)
 とある中小企業向け補助金の書面審査員をやってみて感じた3つのこと(国に対して)
 「うさんくさい補助金申請書」を見極める7つの審査ポイント(その1~3)
 「うさんくさい補助金申請書」を見極める7つの審査ポイント(その4~7)
 ある経済産業省関連補助金の面接審査官をやってきた
 採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その1~5)
 採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その6~10)

(1)製品・サービスの全体像が解りにくい
 これは一番審査に困った。製品・サービスの中身が解らないと、どのくらいのニーズがあるのか?何と競合しそうなのか?競合他社と何が違うのか?といった点が評価できない。例えば飲食店の場合、「○○(=産地名)から仕入れた独自の食材を使った料理」、「○○という調理法を用いて工夫をした」などと文章で説明されるが、文章だけでは正直言ってイメージが湧かない。こういう場合は、添付資料として食材や調理法、完成品などの写真をつけた方がよい。

 エステも申請が多かったが、サービスの中身が解らなくて困った。「○○というオイルを使うことで従来の手法よりも効果がアップする」などと書かれても、本当かどうか判断できない。個人で勝手に事業展開する場合であれば、そのような曖昧な書き方でもプロモーションとして成り立つのかもしれない。しかし、国のお金を使うのであれば客観的なエビデンスがほしいところである。また、コンサルティングなどのBtoBビジネスも、無形のサービスであるがゆえに、サービスの可視化が必要である。例えば、提案書や成果物サンプルを添付する、というのも一つの手だろう。

(2)右から左へモノを流すだけの事業
 「地域のよい製品・サービスを全国展開する」、「日本のよいものを世界に発信する」というケースである。単にものを右から左へ流すだけならば、申請者の企業にはどのような付加価値があるというのだろうか?一番苦労して付加価値を創造しているメーカーなどの利益を、単に横取りしようとしているだけではないだろうか?いわゆるAmazonの「せどり」で申請してきた人もいたが、さすがに申請書を投げつけてやろうかと思った(苦笑)。そんな事業に税金を投入できるか??

 そもそも、本当によいものであれば、既に全国や世界に向けて提供されているはずだ。それができない何らかの要因があるから、全国や世界へ出ていくことができないのである。そういう業界構造の分析もなく、販売方法に特段の工夫がない事業は、低く評価せざるを得ない。

(3)役員報酬や社員の給与が低く抑えられている起業貧乏
 以前の記事「「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁」で、先進国では開業率が上がると、一人あたりGDPが伸びる傾向があると書いた。成熟市場に大企業が集まってパイの取り合いをしているうちは、社員1人あたりの給与が減少する。そこで、大企業の一部の社員が大企業から転出して成長著しい市場に参入すれば、大企業の社員も、ベンチャー企業の社員も1人あたり給与が増える、という理屈である。

 だが、申請書の内容に基づいて計算すると、役員報酬が十分に捻出できていなかったり、社員1人あたりの年俸が不当に低く抑えられていたりするケースが散見される。確かに、開業間もない頃は十分な報酬を支払うことが難しかもしれない。だが、3年経っても役員報酬が500万円に満たないとか、社員の年俸が200万円しかないという企業は、あまりに魅力に乏しい。それだったら、企業に勤め続けてもらった方がよっぽどよい。

 やはり、リスクを冒して起業するからには、創業メンバーが将来的に年俸2,000~3,000万円とは言わないまでも、1,000万円ぐらいはもらえるような事業をしてもらいたいし、それが実現可能なビジネスモデルをデザインすべきではないだろうか?国は、いわゆるブラック企業を増やすために補助金を出しているわけではない。

(4)ビジネスモデルデザインが不十分で目標売上高が達成できない
 申請書には3か年の売上目標を書くのだが、目標通りに事業を回すとキャパシティを超えてしまうことがある。例えば、飲食店やコミュニティスペース、レンタルオフィスで、申請者が目標としている顧客数を本当に獲得してしまうと、店舗からあふれる顧客が出てきてしまう、といった具合だ。

 もう少し複雑な例で言うと、ある申請者がメーカーとして起業しようとしているとする。製品は販売パートナーを通じて販売する。この場合、単に最終顧客の目標数を設定するだけでは不十分である。販売パートナー1社あたり年間何個卸すのか?納入ロットはどのくらいか?納入回数はどのくらいか?納入ロットとスケジュールに適合した物流業者は確保できているか?といったことも考えなければならない。予想以上に大きなロットを販売パートナーから要求された場合は、想定外の運転資金が必要となる。あるいは、物流業者がこちらの希望する小口配送に応じてくれなければ、販売パートナーに迷惑をかけることになる。

 原材料の仕入先についても検討が必要だ。販売先への納入ロットや納入スケジュールに合わせて生産計画を策定し、仕入ロットや仕入スケジュールを仕入先と詰めなければならない。また、それに合わせて物流業者も選定する必要がある。仕入先や物流業者がこちらの要望に応えてくれない場合は、生産計画が頓挫する。事業計画は、売上高だけを考えればよいわけではない。

(5)資金計画が不明確ですぐに資金がショートしそう
 申請書には、次のような「資金計画」を記入する欄がある。補助事業期間(だいたい1年ぐらい)の必要経費を洗い出し、その資金をどのように調達するのかを記述するものである。

創業補助金_資金計画

 調達方法を見ると、「将来の売上」が必要資金の大半を占めているケースがよくある。例えば、店舗改装・設備費などの初期投資が大きいケースや、ソフトウェア業のように固定費である人件費の割合が大きいケースでは、売上が立つよりも前に多額の支出が必要となる。それなのに、将来の売上をあてにしているようでは、資金ショートは時間の問題である。国が用意したこのフォーマットも悪いのだが、資金計画は月ごとに立てて、最も資金が必要となるのは何月なのか?金融機関からいくら借り入れる必要があるのか?を明らかにしなければならない。

 また、個人的には「親族からの借入」が多額に上るのもあまり感心しない。親族は身内だからという理由で簡単に貸してくれる反面、返済で揉めると本業に支障をきたすほどドロドロの争いになる。やはり面倒でも金融機関から借入をすべきだと思う。金融機関と話をすれば、事業計画を精査して改善ポイントを教えてくれる。これは親族からの借入では得られないメリットだ。金融機関の力を借りて事業計画をブラッシュアップさせる、という考え方が必要ではないだろうか?

(6)3年間1つのアプリだけで勝負しようとする
 審査した約150社の中には、スマートフォン向けアプリの開発で起業するケースが非常に多かった。しかし、ほとんどの計画が、3年間アプリ1本で勝負しようとしている。ゲームアプリが3年間も持つとは到底思えない。パズドラやモンスターストライクでさえ、3年持つか微妙である。サイバー・バズの調査によると、1アプリあたりのプレイ日数で最も多かったのが「1日未満」(22%)だったという(「ソーシャルアプリの寿命が二極化|MarkeZine」を参照)。そのぐらい、アプリの寿命は短い。だから、開業時に第2弾、第3弾のコンセプトがないと、すぐに行き詰まる。

 もちろん、中には半年、1年と使い続けてもらえるアプリもあるだろう。先ほどの調査によれば、「1日未満」に続いて高かったのは、「2~3か月程度」(20%)、「半年以上」(19%)である。だが、長く使い続けてもらうためには、「利用者の生活に密着していて、それなしに過ごすことは考えられない」と思わせる必要がある。私が見る限り、そこまでの魅力を感じるアプリは皆無だった。

(7)既に国などから庇護を受けているのにさらに補助金を重ねる
 こういう補助金事業をやると、必ず制度を乱用しようとする輩が出てくる。国が規制で保護している業界で起業したり、既に他の補助金を受けたりしているのに、さらに補助金を申請してくる人がいる。私が最も辟易したのは、太陽光発電事業での起業である。事業用太陽光発電装置の設置には、自治体から補助金が出る。また、国の「固定価格買取制度」によって、電力会社による買い取りが約束され、またその価格も法律で維持されている。ここまで優遇されているのに、さらに創業補助金を受けようというのだから、図々しいにもほどがある。


2014年04月10日

『ビジネスモデル 儲かる仕組み(DHBR2014年4月号)』―悲しいかな中小企業診断士に破壊的イノベーションは訪れない、他


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 04月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-03-10

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 ビジネスモデルと戦略の違いについて整理したジョアン・マグレッタの論文「コンセプトのあいまいさが失敗を招く ビジネスモデルの正しい定義」は12年前の論文の再掲だが、一読の価値がある。サム・ウォルトンが描いたのは戦略であり、マイケル・デルが描いたのはビジネスモデルであるという説明は非常に解りやすい。
 ビジネスモデルとは、事業というパズルの各片がどのように組み合わさるのかを一つの体系として説明するものである。

 しかしここには、売上げを左右するきわめて重要な要素の一つが織り込まれていない。その要素とは『競争』である。遅かれ早かれ(今日では早いことが多いが)、どんな企業も必ず競争に巻き込まれる。このような現実に対処するのが『戦略』の役割だ。競争戦略とは、どうしたらライバルよりも優位に立てるかを説明するものである。
 本号からはあと2つほど論文を取り上げたいと思う。

○グローバル・ファームも淘汰の時代 コンサルティング業界は変われるか(クレイトン・クリステンセン、ディナ・ワン、デレク・バン・ビーバー)
 破壊的イノベーションで有名なクリステンセンの最新論文。著者は、今までブラックボックスであったコンサルティング業界にも、破壊的イノベーションが訪れる兆しが見られると指摘している。事実、マッキンゼーは、「マッキンゼー・ソリューションズ」という、ソフトウェアとテクノロジーを土台としたサービスを提供し始めており、破壊的イノベーションの脅威に備えているらしい。

 従来、コンサルティングというと、優秀だが単価の高いコンサルタントを何人かファームから顧客企業に送り込み、ファームに蓄積されたマル秘の事例集と独自のノウハウに基づいて質の高い包括的なアウトプット(報告書)を出す、というのが一般的だった。ところが、マッキンゼー・ソリューションを使うと、特定の経営課題にフォーカスして、これまでよりもはるかに安いコストでソリューションを導き出すことが可能となる。

 また、著者によると、別の形でコンサルティング業務の分業化が進んでいるという。競合他社をはるかに下回る価格で、顧客企業にフリーランス・コンサルタントからなるプロジェクトチームを派遣するプロフェッショナル派遣企業が登場している。彼らの大多数は、一流コンサルティング・ファームの中・上流ポストの経験者である。彼らの頭の中には、前職で培ったノウハウが蓄積されている。だから、人材育成への投資がそれほど必要ではなく、それが低価格につながっている。マッキンゼーなどは、自社から優秀な人材が世の中に巣立っていくことをよしとしてきた。ところが、世の中に輩出した人材が増えてきて、彼らが自社にとっての脅威となり始めた、というわけだ。

 では、中小企業診断士にも破壊的イノベーションは襲いかかるのだろうか?結論から言うと、非常に悲しい理由から、中小企業診断士の業界に破壊的イノベーションは当分訪れないだろう。破壊的イノベーションが成立する条件は、(1)業界全体が非常に成熟していること、(2)製品・サービスの品質が、一部の顧客の期待水準を上回っていること、の2つだと私は考える。このうち、(1)に関して、中小企業診断士の業界はまだまだ未熟であると感じる。

 業界の成熟度を測るモデルとしては、マイケル・ポーターの「ダイヤモンド・モデル」が役に立つ。本来は産業集積の魅力を測るのを目的としたモデルだが、産業集積が魅力的である≒業界が成熟していると捉えることができるだろう。

(1)需要条件
 顧客のニーズが洗練されているかどうかが需要条件である。もともと日本は自前主義が強い国民性であり、外部のコンサルタントから助言を受けようという気質が弱い。大企業や中堅企業ではようやくコンサルティングを受け入れる文化が整ってきたが、中小企業では未だに「コンサルティングって何?」と言われてしまう。また、コンサルティングに対して適切なフィーを支払うという感覚も薄い。公的機関が無料で提供しているコンサルティングなら受けてもいいが、自社が身銭を切ることには抵抗を覚える企業が少なくない。サービスに関して相応の金額のやり取りがなければ、企業側もコンサルタント側も本気になれないのではないかと思う。

(2)要素条件
 製品・サービスに投入する要素の品質や専門性の度合いが要素条件である。だが、投入要素=中小企業診断士自身の品質はかなりブラックボックスであり、おそらく非常にばらつきがある。中小企業診断士は会合などで頻繁に集まる機会があるにもかかわらず、お互いがどのような専門性・能力を持っているのか、驚くほど知らない。先ほど紹介したプロフェッショナル派遣企業では、顧客企業の経営課題に合ったフリーランス・コンサルタントをアサインするために、コンサルタントのデータベースが完備されていると推測される。中小企業診断士も、そのようなデータベースを構築しようという動きがもう何年も前からあるが、未だに完成を見ない。

(3)関連産業・支援産業
 有能な供給業者の存在や、競争力のある関連産業の存在が、業界を成熟させる。中小企業診断士の関連業界には、同じ士業である税理士や弁護士、信用組合や信用金庫などの金融機関、中小企業基盤整備機構や商工会議所などの公的機関がある。中小企業庁は、中小企業診断士がだらしないものだから、中小企業にコンサルティングサービスを提供する際に、関連業界のプレイヤーが多数関わるスキームを考える。だが、彼らは必ずしもコンサルティングが専門ではないため、チームの方向性がぶれやすい。しかも、(1)で見たように報酬は限られているから、プレイヤー同士が少ないパイをめぐって醜い奪い合いをする。これでは顧客志向とは言えない。

(4)競争環境
 中小企業診断士は投入要素であると同時に、お互いがライバルの関係にある。また、最近は中小企業庁が税理士や金融機関にもコンサルティング能力を要求しているから、関連産業のプレイヤーもまたライバルである。ところが、中小企業に対するコンサルティングはどう進めるべきで、そのためにはどのような能力・知識が求められるのかという標準が業界として確立されていないため、プレイヤー同士が同じ土俵の上に立って競争できない。中小企業診断士の中には、「中小企業にはいろんな課題があって、コンサルティングのやり方も様々だ」とおっしゃる方がいるのだが、自分の能力を客観的に評価されたくないという逃げの口実でしかないように思える。

○経済合理性だけでは、苦しい時に粘れない 【インタビュー】ビジネスモデルとは『やりたいこと』の確信である(スマイルズ代表取締役社長・遠山正道)
 主語はビジネスではなく、『やりたいこと』なのです。(中略)どんなに苦しくても撤退はしませんでした。なぜなら、私たちには『やりたいことをやりたい気持ち』、そして『やりたいことをやるべき意義』があったからです。
 前職の会社で、皆が「やりたいこと」をやった結果、皆沈んでいったという苦い経験を持つ私からすると、どこかきれいごとのような気がしてならない。どんなに「やりたいこと」であっても、それを顧客が求めていなければ意味がない。もっとも、スマイルズ社の場合、単に「やりたいこと」を追求するのではなく、それを社会的な使命にまで昇華させる段階で、市場の試練を受けていると解釈できるのかもしれない。

 「やりたいこと」を軸に戦略やビジネスモデルを構築するというのは、実は戦略論にほとんど見られない考え方である。戦略論にあるのは、「できること」を軸としたアプローチである。ゲイリー・ハメルらが提唱したコア・コンピタンスや、ジョージ・ストークらが提唱したケイパビリティといった概念は、このアプローチから生まれた。「やりたいこと」から戦略を構想するというアプローチを、少なくとも私は知らない。20世紀の戦略論を体系的に整理したヘンリー・ミンツバーグの著書『戦略サファリ』にも、そのようなカテゴリはなかったと記憶している。

戦略サファリ 第2版 -戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック戦略サファリ 第2版 -戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック
ヘンリー ミンツバーグ ブルース アルストランド ジョセフ ランペル 齋藤 嘉則

東洋経済新報社 2012-12-21

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 《10学派一覧(旧ブログにジャンプします)》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール

 「やりたいこと」が市場に受け入れられるかどうかは、一種の賭けである。「やりたい」と思っている自分が熱くなっているだけで、市場はそんなものを全く求めていない可能性もある。「やりたいこと」に共感してくれる顧客がどこにどれだけいるのか、時間をかけてその答えを見つけ出さなければならない。よって、結果が出るまで体力勝負となる。事実、スマイルズ社の事業の中には、収益化までに8年を要したものもいくつかあるそうだ。結果的に顧客が見つかり、一定の成功を収めているからよいものの、もっと上手に戦略を構築すれば、もっと早く黒字化することができたのではないか?とも思う。



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