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【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)
『熱と誠(『致知』2017年2月号)』―顧客が「下問」してくれる企業こそ真の顧客志向を体現している
戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(2/2)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年08月21日

【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)


戦略オプション

 以前の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」の焼き直し記事。敢えて図を使わなくても7つの戦略を説明できると思い、書き直すことにした。企業は持続的に成長を続けるために、常に新しい戦略機会(ビジネスオポチュニティ)を模索しなければならない。戦略機会を抽出するためのフレームワークとしてよく知られているのが、ロシアの経営学者イゴール・アンゾフが考案した「成長ベクトル」である。

 アンゾフの成長ベクトルでは、横軸に「顧客(既存―新規)」、縦軸に「製品・サービス(既存―新規)」という2軸を取り、マトリクス図を作成する。左下の象限は、既存の顧客に対して既存の製品・サービスを販売するものであり、「①リピート購入戦略(アンゾフの言葉では「市場浸透戦略」)」と呼ぶ。右下の象限は、新規の顧客に対して既存の製品・サービスを販売するものであり、「②市場シェア拡大戦略(同「新市場開拓戦略」)」と呼ぶ。左上の象限は、既存の顧客に対して新規の製品・サービスを販売するものであり、「③ウォレットシェア拡大戦略(同「新製品開発戦略」)」と呼ぶ。ウォレットシェアとは、顧客の財布に占める自社のシェアという意味である。最後に、右上の象限は、新規の顧客に対して新規の製品・サービスを販売するものであり、「④多角化戦略」と呼ぶ(アンゾフの用語でも同じ)。

アンゾフの成長ベクトル

 ①リピート購入戦略と②市場シェア拡大戦略は、既存事業の強化である。事業機会を抽出する場合、既存事業も候補の1つであることを忘れてはならない。①リピート購入戦略においては、製品・サービスの改善、技術改良、リピート購入を促すプロモーションなどが展開される。②市場シェア拡大戦略においては、差別化要因の強化、魅力的な価格の提示など、競合他社からの乗り換えを促すプロモーションが実施される。

 ③ウォレットシェア拡大戦略と④多角化戦略は、新規事業にあたる。③ウォレットシェア拡大戦略には2つの方法がある。1つ目は、既存の製品・サービスと類似カテゴリの製品・サービスを開発するというものである。例えば、清酒メーカーであれば、ワインや焼酎の製造・販売への進出が思いつく。2つ目は、顧客が既存の製品・サービスを消費するプロセスの前後を押さえる、つまり、顧客が既存の製品・サービスと一緒に消費する製品・サービスを開発するというものである。清酒メーカーの場合、清酒と一緒に消費される惣菜や酒のつまみを開発する、あるいは清酒が消費される飲食店を経営するという選択肢がある。自動車メーカーの場合、アフターマーケット市場への進出は、顧客の消費プロセスの「後ろ」を押さえることになる。さらに、自動車の出発点と到着点に該当する住宅と商業施設、観光施設の開発に乗り出すのも一手である。

 ④多角化戦略には、大きく分けて、外部環境アプローチと内部環境アプローチの2つがある。外部環境アプローチはさらに3つに分かれており、ⅰ)成長市場に着目する、ⅱ)労働力が不足している業界に注目する、ⅲ)海外で流行しているものを日本に輸入する、という視点がある。ⅰ)に従えば、医療・介護業界に進出するというオプションが出てくるし、ⅱ)に従えば、建設業界や飲食チェーン業界に進出するというオプションが導かれる。

 一方の内部環境アプローチも同じく3つに分かれており、ⅳ)経営理念から導かれる領域、ⅴ)自社の強みを活かせる領域、ⅵ)経営陣がやりたいと思っている領域、という切り口がある。例えば、バイオ研究に力を入れている清酒メーカーは、化粧品分野に進出することがある。また、人間の鋭敏な味覚は、最新の分析機器でも検出できない何億分の1レベルの微量物質を感知する能力を持つため、清酒メーカーは分析機器の精度を超えたレベルの酒質設計を行っている。このノウハウを活かして、分析測定機器の開発・販売に乗り出すという手も考えられる。

アンゾフの成長ベクトル(拡張版)

 ただ、個人的には、この4つだけでは事業機会としては不十分だと思う。そこで、「⑤新市場開拓戦略」、「⑥代替品開発戦略」、「⑦完全なるイノベーション戦略」という3つを加えた。⑤新市場開拓戦略では、既存の製品・サービスを非顧客に販売することを目的とする。考え方としては、まず、既存顧客と反対の属性を持っている人々に販売するという方法がある。例えば、男性向けだったものを女性向けに、若者向けだったものを高齢者向けに、BtoC向けだったものをBtoB向けに提供するということである。アメリカは、軍需品を民生に転換することを得意としている。

 女性向けだったものを男性向けに販売している例として、生理用ナプキンが挙げられる。男性は痔に悩んでいる人が多い。そこで、出血を抑えるために生理用ナプキンを使用している人がいるという。また、長時間座って運転をしなければならない物流業界のドライバーは、お尻が座席との摩擦で痛くなるのを防ぐために生理用ナプキンを使っているらしい。さらに、医療現場では、お尻を手術した患者に対し、出血や膿を吸収する目的で生理用ナプキンを用いている。

 ⑤新市場開拓戦略の2つ目の考え方として、既存の製品・サービスを意外な方法で使用している人々に着目するというものがある。例えば清酒の場合、調味料の代わりとして清酒を使用する人がいる。もちろん、既に料理酒は存在するが、お米をふっくらと炊き上げたり、お餅をふっくらと焼き上げたりするために清酒を使っている人がいるらしい。こういうニーズに着目すると、既存の料理酒とはまた違った調味料が生まれるかもしれない。また、清酒を入浴剤代わりに使っている人もいる。ここから、清酒の成分を含んだ入浴剤の分野に進出するということも考えられる。

 ⑤新市場開拓戦略の3つ目の考え方は、既存の製品・サービスを海外に展開するというものである。しかも、単に海外展開するのではなく、まだその製品・サービスが一般的になっていない国・地域に持っていくことで先行者利益を狙うというものである。⑤新市場開拓戦略は、非顧客に着目することで、市場のパイそのものを拡大することを目指している。

 ⑥代替品開発戦略は、文字通り既存の製品・サービスを脅かす代替品を、先手を打って開発する戦略である。1つ目として、技術的に非連続的なイノベーションが挙げられる。自動車業界で言えば、燃料電池自動車(FCV)がこれに該当する。FCVが完成すると、既存のガソリン車とは全く異なる部品構成やビジネスモデルが必要となり、業界構造が一変する。既存の市場や業界を丸ごと吹き飛ばすほどの威力を持つ非連続的なイノベーションは、代替品である。

 2つ目は、クレイトン・クリステンセンが提唱した「破壊的イノベーション」である。再び自動車業界に目を向けると、電気自動車(EV)は破壊的イノベーションになり得る可能性があると言われている。破壊的イノベーションとは、既存の製品・サービスに比べると技術的には”劣る”が、コストパフォーマンスが高いため、顧客の期待水準を大幅に上回ってしまった既存の製品・サービスに顧客が見切りをつけて、市場の大多数が破壊的イノベーションに流れ込むというものである。破壊的イノベーションも、既存の製品・サービスを駆逐するから、やはり代替品である。

 3つ目は、顧客のニーズを別の手段で満たす製品・サービスの開発である。顧客はその製品・サービスそのものがほしいのではなく、その製品・サービスによって何かを実現することを欲している。マーケティングの格言に「顧客が欲しているのはドリルではない。ドリルの穴だ」というものがある。もし、ドリルよりも効率的に穴を開けられる製品が登場したら、ドリルにとって脅威的な代替品となるだろう。清酒の場合、清酒を飲むのはストレスを発散するためである。よって、「ストレス発散ドリンク」のようなものを開発すると、清酒にとっての代替品となる。また、自動車の場合、顧客が欲しているのは「移動すること」である。よって、バスやタクシー、鉄道、飛行機は自動車にとっての代替品となる。「ワープ技術」が完成したら、自動車にとって相当の脅威になるだろうが、物理学ではワープ技術は不可能という結論に達しているらしい。空間を歪めて近道を作るのに、宇宙に存在する全エネルギー以上のエネルギーが必要だというのがその理由である。

 私が思うに、代替品には意外と十分な注意が払われていない。代替品が現れると、既存の製品・サービスの市場は一瞬で消える。そのぐらい過激な存在である。だから、代替品が現れてからどうしようかと慌てふためくのではなく、普段から自社の製品・サービスにとっての代替品とは何かを熟考し、対策を打っておく必要がある。代替品開発戦略を考えるには、次のような問いを発するとよい。「今、我が社を潰すとしたら、どんな製品・サービスを開発すればよいか?」

 最後が「⑦完全なるイノベーション戦略」である。技術的に全く新しい製品・サービスを開発したり、今まで存在していなかった市場ニーズを掘り起こしたりする。ただ、これはほとんど発明に近い領域であるため、私もどういう論点で検討をすればよいかアイデアがない。1つだけ例を挙げるとすれば、清酒メーカーの場合、「酔っぱらうが判断能力は落ちない日本酒」なるものを発明すると、飲食業界は大喜びするかもしれない(危険ドラッグのような製品だが・・・)。

 以上、7つの戦略を見てきたが、①から⑦の順で難易度が上がる。また、繰り返しになるが、①リピート購入戦略と②市場シェア拡大戦略が既存事業の強化であるのに対し、③ウォレットシェア拡大戦略から⑦完全なるイノベーション戦略は新規事業の開発にあたる。さらに、①リピート購入戦略から④多角化戦略は、既に存在する市場シェアの拡大を目的としている点でマーケティングであるのに対し、⑤新市場開拓戦略、⑥代替品開発戦略、⑦完全なるイノベーション戦略は、新しい市場を創出するイノベーションである。これまで述べてきた観点で自社の事業機会を検討すると、非常に幅広いチャンスがあることに気づく。次は、それらの事業機会のうち、どれに着手するかを決めなければならないが、その方法については機会を改めることとしたい。


2017年02月02日

『熱と誠(『致知』2017年2月号)』―顧客が「下問」してくれる企業こそ真の顧客志向を体現している


致知2017年2月号熱と誠 致知2017年2月号

致知出版社 2017-02


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 ―スーパースター団員(※ラッキーピエロで導入されているポイント会員制度)の方はどれくらいいらっしゃるのですか。
 王:累計では3700人は超えています。自主的に店内のトイレットペーパーを交換してくださったり、「王さん、○○店の草取り、そろそろしたほうがいいんじゃないの?」などと、直接電話が掛かってくることもよくあります。おそらく自分が「ラッキーピエロを育てているんだ」という気持ちからなのだと思います。そのように当店を心から愛してくださっている方がいらっしゃるということは本当にありがたいことです。
(王一郎「愛こそが、私の人生と経営を導いてきた」)
 やや教科書的な説明になるが、マーケティングのコンセプトは20世紀から21世紀にかけて何度か変遷を遂げてきた。最初が「生産志向」と呼ばれる時代で、おおよそ1900~1930年頃を指す。この時期は慢性的なモノ不足であり、作れば作った分だけモノが売れた。次に訪れたのが「販売志向」の時代である。1930~1950年頃には技術革新による大量生産が実現し、消費者の所得水準が上昇した。企業は顧客から選ばれるために、販売活動に注力した。ただし、依然として需要が供給を上回っており、企業はプロダクト・アウト的な発想をとっていた。

 1950年~現在に至る時代は「消費者志向」、「顧客志向」の時代である。経済が成熟化し、消費者の嗜好が多様化した。また、初めて供給が需要を上回るようになり、企業は消費者のニーズにきめ細かく寄り添って製品・サービスを製造・販売しなければ、過剰在庫を抱えるリスクに直面した。企業はそれまでのプロダクト・アウトの発想からマーケット・インの発想へ転換することを迫られた。そして、この時代にマーケティングの理論は最も発達した。

 現代はさらに、「経験志向」、「個客志向」の時代であると言われる。企業は今までセグメント単位で市場と向き合ってきたが、これからは1人1人の顧客のニーズの違いを汲み取り、それぞれの顧客にとって特別な経験を味わってもらうことが重要とされるようになった。ただし、企業が抱える全ての顧客に対して「個客志向」を貫くと、企業側のコストが膨大になる。そこで、企業は「個客対応」に値する顧客を選別するようになった。典型的な手法が小売店などで実施されている「FSP分析」であり、FSP分析に将来という時間軸を加えて、その顧客が生涯に渡ってどのくらいの利益を自社にもたらしてくれるかを分析する「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」である。これらの分析によって選ばれた重要顧客を「CRM(Customer Relation Management:顧客関係維持)システム」で管理し、いわゆる「One to One マーケティング」を実践していく。

 ただし、これらの取り組みはあくまでも企業側から顧客を一方的に分析し、管理する関係である。「顧客志向」、「One to One マーケティング」には、さらに次の段階が存在すると考えられる。それが「顧客との協創志向」のマーケティングである。企業は製品・サービスを提供する側、顧客はそれを受け取る側という役割分担が崩れ、企業と顧客が協働して顧客価値を創造していくフェーズである。そのキーワードとなるのが、顧客による「下問」である。

 以前の記事「山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1)(2)」でも書いたが、日本社会は垂直・水平方向に細かく区切られた巨大なピラミッド社会である。垂直方向の関係を大まかにスケッチすると、「(神?⇒)天皇⇒立法府⇒行政府⇒市場/社会⇒企業/NPO⇒学校⇒家庭⇒個人」となる。上の階層は下の階層に指揮命令する関係にあるが、ここで私は山本七平の言葉を借りて「下問」という言葉を導入した。

 上の階層は、全てのことを熟知した上で下の階層に命令しているわけではない。そこで、その命令の不足を下の階層に直接尋ねる。そして、下の階層が成果を上げるために何か支援できないかと申し出る。つまり、上の階層が下の階層に降りてくるのである。こうした上の階層の下問は、下の階層による「下剋上」(これも山本七平の言葉)を誘発する。すなわち、下の階層は、上の階層の命令通りにやるよりも、もっと優れた方法があると上の階層に提案するのである。ただし、通常の意味における下剋上とは異なり、山本七平の言う下剋上は、上の階層を打倒することを目指していない。上の階層から指揮命令を受ける、あるいは下問を受けるというその関係の中において、下の階層にとどまりながら下剋上を果たす。

 こうした「下問」―「下剋上」は、主に企業内における関係を想定していた。上司が部下に下問し、部下が上司に対して下剋上する。すると、提案を受けた上司は「よし解った。じゃあ君がやってみなさい。責任は私が取る」と言って提案を採用してくれる。トップダウンのリーダーシップに慣れ切ってしまい、社員が皆受け身になっている組織と、それぞれの社員が自分の持ち場で自律的に奮闘し、組織全体が活性化している企業との違いはここにある。

 「顧客との協創志向」のマーケティングにおいては、顧客と企業の関係に「下問」―「下剋上」を持ち込む。顧客は、単に「自分はこれがほしい」と企業にオーダーするだけではなく、「企業が事業の目的を達成するために、顧客としてできることは何か?」と問い、企業のために支援活動を行う。だから、ラッキーピエロでは、スーパースター団員が自主的に店舗のトイレのトイレットペーパーを交換してくれたり、他店舗の清掃具合いを気にしてくれたりする。顧客の下問は、クレームとは明らかに違う。クレームは、自分の不満を企業に解消してもらうことを目的としている。これに対して顧客の下問は、他の顧客のためになることをしたいという動機に支えられている。

 顧客が下問してくれるようになると、顧客との間で双方向の関係ができ上がる。この段階になると初めて、「個客志向」や「One to One マーケティング」は「顧客との協創志向」へと成熟する。さらに言えば、顧客からの下問に対して、企業が下剋上するようになるとなおよい。「顧客との協創」と書くと、顧客と企業が仲良くすればよいというイメージが抜け切らなくて個人的にはあまり好きではないのだが、「下問」と「下剋上」の関係と書けば、顧客と企業との間に一種の緊張感が生まれる。その緊張感がより優れた顧客価値、より強固な顧客と企業の絆を生み出すと信じる。

 ここに至って、顧客と企業は上下関係ではなく、対等のパートナーとなる。ところで、このパートナーという言葉について、本号で1か所だけ気になる記述があった。
 新井:で、これらのことを機会のあることにルミネの社員のみならず、お付き合いしているショップスタッフ、そこのオーナーさんにも徹底しているんです。従来のディベロッパーとテナント、という上下関係ではなく、我われはパートナーだと思っています。
(新井良亮、松井忠三「熱と誠が経営の道を開く」)
 新井良亮氏はJR東日本で駅ナカなどの生活サービス事業を担当した後、ルミネ社長になった方である。ディベロッパーであるルミネと、ルミネに入店しているテナントはパートナー関係だというわけだが、ルミネにとってテナントは流通チャネルであり、重要な顧客である。通常、「私はあなたのパートナーである」と言う時、元々上の地位にいた者が下位の者のところにまで降りてきて対等の関係を宣言するものであり、その逆ではない。

 ところが、引用文では、下の立場にあるはずのルミネが上の立場にあるテナントをパートナーと呼んでいる。厳しい言い方になるが、これはルミネの思い上がりではないかと思う。引用文中において、ディベロッパーが上で、テナントが下だと明言されていることも影響しているのだろう。ディベロッパーは一等地を押さえて、どんなテナントでも大抵は成功する下地を作ってやったのだから、テナントはディベロッパーに感謝せよとでも言いたげである。そして今度は、ルミネがパートナーとしてテナントの目線まで降りてきてやったというわけだ。

 本号の記事によると、ルミネは全てのショップスタッフにルミネ主催の接客研修を受けてもらったり、ショップスタッフの研修会を定期的に開催したり、モノづくりの現場を見学させたりするなど、優れた取り組みを色々と行っている。しかし、根本のところでテナントとの関係に関する意識を改めない限り、テナントとの共存共栄は成り立たないと思う。ディベロッパーは、テナントに「出店していただいている」と思わなければならない。その上で、テナントはディベロッパーに下問し、ディベロッパーはテナントに下剋上する。つまり、テナントは「ルミネ全体の価値を高めるために我が店舗にできることは何か?」と問い、ディベロッパーは「テナントが顧客に対してよりよい価値を提供するためにはこうするべきだ」と提案する。これが真のパートナー関係であると考える。

 《2017年2月8日追記》
 本ブログで最初に「下問」という言葉を使ったのは、「山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』―階層社会における「下剋上」と「下問」」という記事だったと思う。この時は、唐の太宗が臣下である魏徴や房玄齢らに対して、自らの能力不足を認め、自分がこの国をよりよく統治するためにはどうすればよいか意見を求めるという意味で「下問」という言葉を用いた。つまり、「下問」の目的は太宗自身のためであった。ところが、「下問」に関する記事を何本か書いているうちに、「下問」の意味が変質していたことに気づいた。

 今回の記事でも解るように、上司は部下に一方的に命令するだけでなく、部下が成果を出せるように上司として何か支援できることはないかと「下問」する。あるいは、顧客は企業に対し一方的にニーズを伝えるのではなく、企業が成果を上げる=他の大勢の顧客の役に立つために一顧客として何か支援できることはないかと「下問」する。すなわち、「下問」は下位に位置する部下や企業のためになされるのである。山本七平が用いた「下問」の意味からは外れるが、日本人は重層的な階層社会において、垂直・水平方向に自由に移動し、自らに課された目的だけでなく、他者の目的の達成をも支援する目的の多重性という観点から、「下問」という言葉を、自分より下の階層の者の成果創出をサポートするという意味で使いたいと思う。



2015年06月25日

戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(2/2)


 (前回の続き)

 《参考記事(旧ブログ)》
 【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回予定)

戦略を立案する7つの視点

 ⑤新市場開拓戦略とは、既存の製品を活用して、新規の市場を切り開く戦略である。ただし、既存の製品がそのまま新規の市場に通用するとは考えにくいため、既存の製品を多少変更する必要はある。新市場開拓戦略としてまず挙げられるのが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンの「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」である。企業は製品の付加価値向上を狙い、こぞって性能アップを目指す。ところが、あまりに性能が上がりすぎると、そこまでのレベルを期待していない顧客層が生まれる。彼らをターゲットに、既存製品の性能を落としたり、機能を絞り込んだりした製品を販売すると、一気に受け入れられることがある。

 「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」は、個人的には意外と高度な戦略であると思う。もっと手軽にできる方法としては、旧ブログの記事「【第4回】全く異なる属性の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン」で述べたように、反対の属性の顧客に狙いを定める、というものがある。非常に安直な発想だが、男性向けの製品を女性向けに、若者向けの製品を高齢者向けに販売する、といった具合だ。だが、中には比較的成功しやすい逆転の発想のパターンもある。

 例えば、BtoBから始まった企業がBtoCでも成功することがある。一般的に、法人顧客は個人顧客に比べて要求水準が厳しいため、製品の完成度が高くなる。それを、個人顧客の要求レベルに合わせて上手く調整すれば、個人顧客にも受け入れられるようになる。日本通運は、陸運元会社として創業し、法人向けの貨物輸送・物流業務を得意としていたが、一方で1977年に開始した「ペリカン便」でも成功した(その後、JPエクスプレスに移管)。もちろん、顔の見える限られた顧客とじっくりビジネスを行うBtoBと、不特定多数の顧客を相手に迅速にビジネスをしなければならないBtoCでは、求められるビジネスモデルが異なる点は言うまでもない。

 富裕層向けの製品を一般消費者向けに展開するという方法もある。リチャード・コニフ『金持ちと上手につきあう法』(講談社、2004年)によると、富裕層の「顕示的消費」が人々の生活を豊かにしたという。富裕層は、プラスティック、水洗トイレ、陶器、ガラス、自動車などの最初の購入者となった。それをうらやましく思った多数の一般消費者からのプレッシャーによって、数多くの高級技術が実用技術へと変容し、やがて一般消費者にも手が届くようになったというのだ。よって、今は富裕層しか消費していない製品の中に、将来のヒット製品が隠れている可能性がある。

金持ちと上手につきあう法  「ザ・リッチ」の不思議な世界へ金持ちと上手につきあう法 「ザ・リッチ」の不思議な世界へ
R・コニフ

講談社 2004-03-16

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 軍事技術を民生技術に転用するという道もある。コンピュータはもともと弾道計算が目的であったし、電子レンジはアメリカのレイセオン社のレーダー開発が発端である。インターネットについても、ソ連からの核攻撃を想定し、仮に核攻撃を受けても指揮能力を喪失しないようにするために、分散処理システムとしての現在のインターネットの原型が誕生したという俗説がある。アメリカは財政赤字などを理由に軍事費を削減しているが、軍需産業を手放すことは絶対にないだろう。軍事技術から重要なイノベーションが生まれることをよく知っているからだ。

 既存の製品を未知の市場で展開する方法には、海外展開も含まれる。ただし、日本ではよく知られた製品でも、海外では初めて見る製品であるから、それが受け入れられるには長い時間がかかるし、場合によっては大幅なローカライズも必要である。日本のコンビニは今や世界各国に進出しているが、現地の習慣に合わせてカスタマイズされている。例えば、インドネシアでは家族で買い物に出かけ、お店で買ったものをその場で食べる習慣がある。そこで、インドネシアに進出したコンビニは2階建てとし、2階を食事スペースとしている。

 逆に、インドネシアに進出したある100円ショップから、1つ失敗談を聞いたことがある。この100円ショップは、オペレーション効率を優先し、日本とほとんど同じ製品ラインナップにした。ところが、その中にはカブトムシ用の虫かごと虫取り網が含まれていた。現地のインドネシア人によれば、インドネシアにはカブトムシはいないし、昆虫を捕まえて家で飼うという習慣もないという。

 ⑥代替品開発戦略は、新規市場開拓と同時に既存市場を破壊するという意味で、非常に危険な戦略である。しかし、放っておけば誰かが代替品を開発して、自社のビジネスを破壊するに違いない。よって、痛みを伴うとしても、着手せざるを得ない領域である。最も予測しやすい代替品は、大幅な技術革新によって、性能などが飛躍的に変化するものである。ガソリン自動車から電気・水素自動車への転換は最たる例だろう。顧客層自体は変化しないが、技術的には全く別物となる。しかも、電気・水素自動車は、ガソリン自動車に取って代わる存在である。

 2つ目のパターンは、顧客の同じニーズを別の手段で満たすような代替品の開発である。以前、マンガ雑誌社の人から、「社会人男性に雑誌が売れなくなった」という嘆きを聞いたことがある。雑誌不況も一因なのだが、一番の原因は「スマホが普及したこと」であると分析していた。結局、電車でマンガ雑誌を読んでいる大人にとって、マンガの中身が重要なのではなくて、目的地に着くまでの暇つぶしができることが重要だったわけだ。そして、スマホは暇つぶしの道具として最適であり、マンガ雑誌を駆逐してしまった。この教訓から学ぶことは多いと思う。

 ここまでの2つの話は、既存顧客のニーズをいわば対処療法的に解決するものである。代替品開発戦略の3番目は、顧客ニーズを根源的に解決する。最近、電車で髭剃りの広告をよく見かけるのだが、髭剃りの広告は10年前から切れ味のよさを訴求するだけで、内容的にはあまり変わっていないように感じる。髭剃りは、「伸びた髭を剃る」というニーズを解決するものである。しかし、顧客の根本的なニーズは、「髭が生えないようにする」ことかもしれない。よって、髭を毛根から死滅させる塗り薬が発明されたら、髭剃り市場は一気に縮小するのではないだろうか?

 未知の市場を今までに存在しなかった製品で開拓するのは、⑦完全なるイノベーションである。この分野ははるかに難易度が高く、どんなアプローチがあるのか、私には十分なアイデアがない。顧客の潜在ニーズから出発するか、先行する技術シーズから出発するか、そのどちらかなのだが、具体的にどう検討すればよいのか、今後もっと詰める必要がある。ただ1つ、完全なるイノベーションとは言えないかもしれないけれども、「日本には存在しないが海外に存在する製品を日本に持ち込むことで、日本国内の市場を切り開く」という方法があることを指摘しておきたい。


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