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【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―マネジメントへの参画から責任へ、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年11月28日

【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―マネジメントへの参画から責任へ、他


企業とは何か企業とは何か
P.F.ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2005-01-29

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 発禁処分を食らった禁断の書
 『経済人の終わり』、『産業人の未来』を発表し、政治学者として活躍していたピーター・ドラッカーに、「我が社のことを研究してほしい」と声をかけたのがGMであった。本書はドラッカーがGMを1年余りに渡って詳細に研究し、その結果をまとめて1946年に発表したものである。ところが、調査を依頼したGMの経営陣が本書の内容をを拒否したため、本書は長らく発禁状態にあった。本書が復刻されるまでには40年近くの期間を置かなければならなかった。

 GMの経営陣が本書に対して拒絶反応を示した理由を、ドラッカーは1983年版のエピローグで次の3つにまとめている。それは、①GMが第2次世界大戦後に平時生産に復帰するにあたって、経営政策を見直すべきだとしたこと。どんな政策も万能ではなく、せいぜいもって10年~20年であるから、常に政策を変えていかなければならないと提案したこと。②労働力はコストではなく資源としてとらえるべきだと指摘したこと。労働者を経営に参画させることで、彼らの意欲を高める必要があるとしたこと。③企業は公益に関わりがあり、社会の問題に責任があると主張したこと。現在の言葉で言うところのCSRを提唱したこと、の3つであった。

 特に②へのアレルギー反応が凄まじいかったらしく、ドラッカーは次のように述べている。
 当時は、GMだけでなくアメリカの産業界の経営幹部のほとんどが、仕事改善プログラムやQCサークルの類を経営陣に対する越権と見ていた。「マネジメントの専門家はわれわれである」「経験や教育のない者よりも仕事を知っているからマネジメントの任にある。責任はわれわれにある」「われわれは生産性について、企業、株主、顧客、労働者に責任がある。われわれが責任を果たさなければ、どうして満足な賃金を払えるか」と言っていた。
 しかし②こそが、ドラッカーをしてドラッカーたらしめた主張であると言えるだろう。ドラッカーはGMを研究した際、工場で働いた経験のない肉体労働者が責任感を持って連帯し、製品や工程の改善を行っている姿に感銘を受けた。これを戦時中の一時的な現象として片づけるのではなく、平時においても行うべきだとしたわけである(戦争が我々の生活を豊かにした様々なイノベーションの源泉であったことはよく知られているが、ドラッカーのマネジメントもまた、戦争の産物であるというのは、私をやや複雑な心境にさせる)。

 本書の中では、社員を経営に参画させ、社員に連帯感や責任感を持たせるための方策がいくつか挙げられている。その最たるものが、職場コミュニティ活動への参画である。本書の発表と近い時期に書かれた別の論文では、社員を職場コミュニティの余暇活動、スポーツ・チームや趣味のサークル、社員旅行やパーティ、研修活動、社内報、社員食堂、医療厚生、生産性向上プログラムなどに参画させることが、社員のマネジメント意識を醸成する上で有効であると述べている(「経営者の使命」DHBR2010年6月号収録。初出は1950年)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 06月号 [雑誌]
P.F.ドラッカーHBR全論文

ダイヤモンド社 2010-05-10

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 だが、職場コミュニティ活動への参画というアイデアを、ドラッカーはすぐに放棄した。職場コミュニティ活動への参画程度では不十分と感じたのだろう。それよりももっと大きな要因として考えられるのは、この頃から社員が単に手と足を差し出すだけの存在ではなく、知識労働者として台頭してきたことである。知識労働者は、企業にとって重要な経営資源である知識を自ら保有している。保有しているということは、その使い方について自由に意思決定を下すことができることを意味する。こうした社員のことを、ドラッカーはエグゼクティブ(経営管理者)と呼んだ。エグゼクティブの役割をまとめたのが『経営者の条件』である。

ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 「参画」というアイデアは、1930年代に活躍したメアリー・パーカー・フォレットのアイデアから借用したものと思われる。ドラッカーは、ほとんど無名だったフォレットを自分が発掘し、マネジメントの母として認めたことをよく自慢していた。ただし、ドラッカーが経営学を体系化していく中で、「参画」という言葉は消え失せていく。むしろ、参画程度では生ぬるいとさえ批判を加えている。前述のように、知識労働者であるエグゼクティブは、自分が保有する知識という経営資源をどのように使うかについて自由を有している。しかし、自由を有するからには、成果に対して責任を負わなければならない。その責任は生半可なものではない。高い水準を達成しなければならない。だからこそ、参画という、左派が使いそうな柔らかい表現を嫌うようになったと考えられる。

 中小企業への過去の賛辞と現代の問題
 興味深いことに、本書には中小企業を賛辞している箇所がいくつかある。
 中小企業では見習いさえ、他の従業員の仕事を見、全体を見ざるを得ない。他の部門のものの見方や問題を知ることなしにはすまされない。しかも彼らの昇格や昇進は、他の分野で働く力があるかどうかによって決められる。
 中小企業で働くスペシャリストは、他の部門で何が起こっているかは、いやでも目にする。同じように中小企業の経営幹部は企業の外で起こっていることをいやでも目にする。おまけに中小企業では、取締役会が経営幹部に対し、株主、金融機関、地元有力者、主要顧客など重要な人たちのものの見方や、反応とそのわけを理解させる役割を果たしている。
 ドラッカーは、チェスター・バーナードの『経営者の役割』から、次の言葉を紹介している。
 今日、リーダーとしての経験を得る機会は、中小企業、政党支部、労組にしか見当たらない。そのよなことでは十分な数のリーダーを用意することはできない。したがってすでにいくつかの企業で試行中のリーダー育成のためのプログラムが必要である。
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)
C.I.バーナード 山本 安次郎

ダイヤモンド社 1968-08

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 つまり、当時は中小企業の方がリーダーを輩出する機関としては有能だと見られていた。ところが現代ではどうであろうか?中小企業診断士としての目からすると、中小企業から有能なリーダーが育っているとは言い切れないように思える。経済紙をにぎわすベンチャー企業の経営者の多くは、大企業の出身者が占めている印象を受ける(もちろん、その中には泡沫のリーダーも含まれているが)。その大きな要因は、中小企業が利益を追求し、新規事業、とりわけイノベーションに投資すること、それから新入社員の採用・育成を怠ってきたからではないかと考える。

 引用文によれば、中小企業では取締役会が経営陣に対する牽制機能を果たしているという。しかし、実際の中小企業では、代表取締役をはじめほとんどの取締役が株主を兼ねており、自らへのリターンを最大化すると同時に、企業の利益をほぼゼロにして法人税を納めないようにしているケースが散見される。損益計算書上で、売上高経常利益率が1%を切っているような企業は、利益を操作している可能性が高い。利益を小さく見せる方法には、前払費用として資産計上すべきものを費用計上する、役員報酬を操作するなど、いくつか方法がある。上場企業については、いわゆる「伊藤レポート」がROE8%以上を要求している。上場企業は利益を出すように規律づけられているのに対し、中小企業は反対に利益を出さないような誘因が働いている。

 本書でドラッカーも述べていることであるが、利益とは将来のコストである。利益は、企業が持続的に成長するための投資に回さなければならない。本業が斜陽フェーズに入っても、第2、第3の成長カーブを描けるように、複数の新規事業に投資しなければならない。特に、イノベーションへの投資は重要である。イノベーションは既存企業を一発で吹き飛ばす威力を持っているので、早い段階からイノベーションを自社に取り込む必要があるからである。イノベーションを含めて複数の案件に投資するには、一定の利益を要する。現在の中小企業はこれができていない。

 また、引用文では中小企業がリーダー育成機関として機能しているとあるが、リーダーを育成するには、若いうちから責任ある仕事を任せることが重要である。しかし、若手社員に任せた仕事がその企業の命運を左右するようでは、企業としても安心できない。若手社員に任せるべき仕事とは、若手社員にとっては大きな仕事だが、企業全体から見ると規模が小さく、仮に失敗してもダメージが少ない仕事である。例えば、小口顧客を担当させる、レガシーとなった製品の改良を任せるといった具合である。そのためには、企業の利益にある程度余裕が必要である。

 現在の中小企業は、利益を出さない⇒若手社員を採用しない⇒全ての中高年社員が主力事業に注力し、仕事が高度化する⇒若手社員が入る余地がさらになくなり、若手社員を採用しない⇒そうこうしているうちに社員が高齢化する⇒後継者がいなくなる、というプロセスをたどっている。逆に、大企業はドラッカーををはじめとする学者・コンサルタントが体系化した経営学に従って、利益を出し、若手社員を採用・育成し、イノベーションを含む新規事業に投資している。その結果、この半世紀で大企業と中小企業の差が随分と広まってしまったように感じる。




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