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【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点
『願いに生きる(『致知』2016年3月号)』―日本には成果主義より職能資格制度がフィットするかも、他
『営業のモチベーション(DHBR2015年8月号)』―社員のタイプに応じた報酬制度の使い分けは公平性に反する、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

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(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
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 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年05月22日

【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点

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人材育成

 今まで本ブログで個別に触れてきたことだが、改めて私の「人材マネジメント」観を整理しておきたいと思う。一般的な考え方と違っているところもかなりあるだろう。

 Q1.採用時には志望動機(モチベーション)の高い人を選ぶべきか?
 採用時に、「なぜこの業界を選んだのか?」、「なぜ我が社を選んだのか?」、「我が社に入社して何をしたいのか?」などを応募者に尋ねる企業は多い。しかし、採用面接時のモチベーションと入社後のパフォーマンスはほとんど関係がないと考えている。モチベーションというものは非常に移ろいやすいものである。担当する仕事、周囲を取り巻く人間関係や職場環境、あるいはプライベートな要因によってすぐに上下する。そういう不安定な要素を採用の決め手にしない方がよい。採用時には、後述のように別の観点から応募者を評価するべきである。

 Q2.新卒採用では、自社の価値観と合致する人を採用するべきか?
 採用とは、企業が自社の戦略に従って実行すべき業務を遂行できる能力を持った人を選択することである。だが、新卒採用の場合は、応募者に十分な能力がないことは解りきっている。そこで、自社の価値観と応募者の価値観が合致するかという視点で評価をすることがある。価値観とは、応募者や企業が大切にしている価値、ルールであり、重要な業務を遂行するにあたって意思決定のよりどころとなる指針である。業務を下支えするコンテクストと言ってもよい。

 だが、22歳の大卒でさえ、価値観を要求するのは酷というものである。22歳では、人生の価値観を形成するには経験が浅すぎる。私の話をして恐縮だが、私には「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)(2)(3)」というものがある。10の価値観のうち、ほとんどは社会人になってから形成されたものである。新卒採用では、価値観よりさらに手前のプリミティブな要素を評価する必要がある。具体的には、性格を評価する。一般に、性格は協調性、誠実性、情緒安定性、開放性、外向性という5つの要因から構成されると言われる(これらを合わせて「性格のビッグファイブ」と呼ぶ)。新卒採用ではこれら5つの要因のレベルを評価するにとどめ、価値観や能力は入社後にじっくりと醸成していくべきであろう。

 Q3.中途採用では能力が高い人を採用するべきか?
 中途採用では、企業側は即戦力を求めている。よって、企業側が要求する能力を応募者が持っているかどうかを見ることが多い。しかし、一部の汎用的な能力(例:プログラミングの能力など)を除いて、大半の能力は特定の企業でしか通用しない企業特殊能力である。よって、たとえ前の会社で高い能力を発揮した人であっても、自社に転職した後は自社のやり方に慣れてもらうために一定のトレーニングが必要である。この点を見落としてはならない。

 中途採用においてこそ、応募者の価値観と自社の価値観が合致するかを見るべきである。能力はトレーニングで変化させることができるが、一度染みついた価値観を変えることは難しい。応募者の価値観が自社の価値観と異なっているのに入社を許すと、その人は業務を遂行するにあたって周囲の社員との間に軋轢を生み、深刻な問題を引き起こすだろう。もっと言えば、応募者の価値観と自社の価値観がきれいに合致することは稀である。というのも、企業が違えば価値観も異なるわけであって、今まで別の企業で働いてきた応募者は、自社とは違う価値観を持っていると考えるのが自然だからである。だから、中途採用において本当に見るべきポイントは、「価値観の対立が生じた場合に、応募者がどのように対処してきたか?」である。

 Q4.短期的に成果を上げるため、中途採用に注力するべきか?
 年々、企業は短期的に業績を上げるようプレッシャーを受けるようになっている。短期的に成果を上げるには、育成に時間がかかる新卒採用よりも、ちょっとのトレーニングで済む中途採用に注力したくなる。アメリカのスタートアップ企業の中には、中途採用しか行わないと公言している企業もある。外部の企業が人材を育成してくれるのに、なぜ自社がわざわざお金と時間をかけて育成をしなければならないのか、というのが彼らの言い分である。日本でも、中小企業は中途採用が中心のところが多い。ただし、中小企業の場合は、意図的に中途採用中心になっているのではなく、知名度の低さゆえに新卒が集まらないというのがその理由となっている。

 だが、全ての企業が中途採用のみを行ったらどうなるか、その結果は明白である。企業は社員に対してまともなトレーニングをしなくなる。代わりに、訓練などしなくても、天賦の才能で高い成果を出すことができる一部の逸材を多数の企業で取り合うことになる。労働市場には、訓練を受けていない低スキルの労働者が大量に排出される。能力がない新卒に関しては、採用される機会を完全に失う。これでは社会は機能不全に陥る。中途採用をするということは、本来自社が負担すべき教育訓練の費用の相当部分を外部化したことと同じである。中途採用に偏るのは、外部の企業が負担した費用にタダ乗りするずるい方法である。よって、企業は、たとえ手間暇がかかると解っていても、社会のために新卒採用をして教育訓練に投資しなければならない。

 Q5.社員は自己実現を目指すべきか?
 マズローの欲求5段階説に従うと、社員は仕事を通じて最上位の欲求である自己実現の欲求を満たすのが望ましいと言われる。だが、企業は顧客に奉仕する利他的な存在であるのに、その企業から給料をもらって企業に奉仕する社員が自己実現などという利己的な欲求を前面に出すのはおかしい。社員は何よりもまず利他的であるべきである。つまり、企業に奉仕し、さらに企業の先にある顧客に奉仕する。その結果として上司や顧客から得られる「承認」によって、利己的な欲求を満たすという順番が望ましい。承認欲求は欲求5段階説において4番目の欲求である。実は、最上位の自己実現欲求を持っているのはアメリカ人でもごく少数しかおらず、大半はその下の承認欲求を持っているとされる(そもそも、マズローの欲求5段階説は1つの仮説にすぎず、実証的に証明されたものではない点にも注意が必要である)。

 Q6.社員は3年で一人前のプロフェッショナルになるべきか?
 私が以前勤めていたベンチャー企業では、キャリア開発研修を販売していた。顧客企業の人事部からは、「入社3年目程度の若手社員を一人前のプロフェッショナルにしたい。そのための意識づけの研修を行ってほしい」という要望を受けることが多かった。教育研修業界の中でも(業界規模5,000億円程度の小さい業界だが)、「若手社員の自律化」が流行となっており、いかにして若手社員を早期にプロフェッショナル化するかがよく議論されていたのを覚えている。

 だが、3年で仕事を一通り覚えることはあっても、プロフェッショナルになるのは無理があると思う。プロフェッショナルの定義は色々あるだろうが、個人的には、「発生頻度が最も多い標準的な事象に適切に対応できると同時に、発生頻度が低い難題もクリアすることができ、逆に発生頻度が低い易しい課題についても効率的な対処ができる人」だと考えている。つまり、ありとあらゆるケースを最適な方法で処理できる人のことである。3年程度では、発生頻度が最も多い標準的な事象に対応することはできても、それ以外のイレギュラーな事象に柔軟に適応するのは難しい。それができるようになるには、やはり最低でも10年はかかる。

 もしも3年でプロフェッショナルになれるような仕事があるとしたら、それはおそらく非常に簡単な仕事であり、早晩海外にアウトソーシングされるだろう。日本国内にいる限りは、10年、いやそれ以上の時間がかかってようやくプロフェッショナルと呼ばれるようになるような、高付加価値の仕事をするべきである。ちなみに、剣道にはこんな言葉があるそうだ。「10年修行すると自分の強みが解る。20年修行すると相手の強みが解る。30年修行すると自分の弱みが解る」。これこそプロフェッショナルの神髄ではないだろうか?

 Q7.社員のモチベーションを上げるべきか?
 「我が社の社員のモチベーションが低くて困っている」と嘆く経営者は多い。経営陣は何とかして社員のモチベーションを上げようとする。しかし、よくよく考えるとこの構図はおかしい。というのも、お金を払うのは企業側、お金をもらうのは社員側であり、モチベーションを上げるとは、お金を払う側がお金をもらう側のモチベーションを上げることになるからだ。これがいかに不自然な構図であるかは、企業と顧客の関係を考えてみればよい。お金を払うのは顧客側、お金をもらうのは企業側である。しかし、顧客は企業のモチベーションを上げようなどとは露だに考えない。

 それでも企業側が社員のモチベーションを上げなければならないとすれば、顧客は企業が気に食わなければ別の企業を選択すればいいのに対し、企業は社員が気に食わなくても簡単に代わりを探すことができないという事情によるだろう。だから、特別の配慮をしなければならない。と言っても、企業側が社員のモチベーションを上げるためになすべきことは、社員の前に「本当に困っている顧客」を提示して、彼らの利他的動機を目覚めさせるだけでよい(以前の記事「『艱難汝を玉にす(『致知』2017年3月号)』―日本人を動機づけるのは実は「外発的×利他的」な動機ではないか?」を参照)。モチベーションを管理する責任は社員自身にある。企業側が前述の配慮をしてもなおモチベーションが上がらないならば、問題は企業ではなく社員本人にある。

 Q8.社員の満足度を上げるべきか?
 サービス業のインターナルマーケティングにおいては、社員の満足度を上げると顧客接点におけるサービスの質が上がり、顧客満足度が上がると言われる。この「社員満足度向上⇒顧客満足度向上」という因果関係、正確に言うと「社員満足度向上⇒社員のモチベーション向上⇒顧客満足度向上」という因果関係が他の業界にも適用されて、多くの企業が社員満足度を重視するようになっている。だが、社員が満足してしまうと、現状に甘んじてしまい、もっとよくしようというモチベーションが湧かない可能性がある点をこの因果関係は無視している。

 むしろ、社員が多少不満足を感じている時の方が、モチベーションが上がりやすく、結果的にいい仕事ができるのではないかと思う。具体的に言えば、Q7とも関連するが、「本当に困っている顧客」を提示され、その顧客から難題を押しつけられ、課題の解決を試みようとしても社内に十分なリソースや制度がなく、周囲から満足な支援を受けられないという逆境が、かえってモチベーションを燃え上がらせる。社員満足度調査を行って、全ての項目について社員の満足度を上げるように施策を打つのも考えものである。職場の物理的環境、具体的には職場の清潔さや安全性などについては、社員の不満足を取り除いた方がよいだろう。しかし、仕事の中身そのものについては、社員に多少の不満、不便を味わわせるぐらいがちょうどよい。

 あまりに難しすぎるゲームはユーザーの心を折ってしまうけれども、難易度が適度に調整されたゲームは、ユーザーをイライラさせながらも、「何とかクリアしてやろう」とユーザーのモチベーションを持続させることができる。これと同じことである。

 Q9.成果給、業績給の割合を増やすべきか?
 成果主義の広がりによって、業績給を導入する企業が増えている。これは、給与の性質を成果に対する対価ととらえる発想である。だが、成果を正確に測定することは非常に難しい。私も本ブログや旧ブログで何度か試みたが、厳密に測定しようとすればするほど、複雑怪奇な計算式になってしまう。特に、チーム全体の成果を個人にどう配分すればよいのか、イノベーションに挑戦して失敗した人にどう報いればよいのかは難題中の難題である。どんなに緻密に組み立てられた数式であっても、必ず「その式は公平ではない」と言う人が出てくる。

 そこで、次のように発想を転換してはどうだろうか?給与を成果に対する対価ではなく、社員の生活費の保障として位置づけるのである。生活費は入社時が一番低く、結婚、出産を経るにつれて徐々に上がる。子育てを卒業しても、今度は親の介護や自分自身の疾病の治療のためにお金が必要になる。つまり、生活費は年齢に比例して一貫して増加し続ける。よって、給与は必然的に年功的になる。出光興産の創業者である出光佐三も、給与は生活給であるべしとの信念を貫いた。こういう話をすると、頑張っても報われない人が出てモチベーションに影響が出るという批判を受ける。だが、企業が生活費の保障をしているのに、それ以上に金のために働くというような人、出光佐三の言葉を借りれば「黄金の奴隷」となっている人は、企業にとって毒である。それでも金がほしいと言うのであれば、株やFXでもやっていればよい。

 Q10.人事考課はなくすべきか?
 近年、アメリカ企業の中に定期的な人事考課を廃止するところが増えており、日本企業でもそれに倣う動きが見られると言う。だが、人事考課を廃止するのは、社員に対する評価をなくすことではない。半年ないし1年に1回しか上司からフィードバックが受けられない現状を改めて、部下に対しこまめにフィードバックを行うのが、人事考課廃止の狙いである。

 私は、人事考課は廃止すべきではないと考える。理想的な企業とは、自社を取り巻く事業環境の変化に柔軟に対応して、戦略やビジネスモデルを頻繁に変更し、それに伴って業務プロセスや組織を再構築し、人、モノ、カネ、情報といった経営資源を再配置する企業であろう。しかし、環境の変化にあまりに身を委ねてしまうと、自社のビジネスを慎重に設計する営みが阻害されてしまう。端的に言うと、浅い考えになってしまう。だから、環境が激変する時代にあっても、定期的に立ち止まって、じっくりと先を見据えることが必要なのである。戦略や中期経営計画を毎年見直すといった取り組みには、依然として大きな意味がある。戦略などを見直すと、人材をいかに配置するべきかが問題となる。ここで人事考課の結果を活用して、社員の適材適所を実現していく。戦略に周期性がある限り、それと連動する形での人事考課は不可欠である。

カテゴリ: 経営 コメント( 0 )
2016年03月05日

『願いに生きる(『致知』2016年3月号)』―日本には成果主義より職能資格制度がフィットするかも、他

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致知2016年3月号願いに生きる 致知2016年3月号

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 (前回の続き)

 (4)
 仕事というものは本来楽しいものであるし、どんなに大変な仕事であろうともそこに意義や価値を見出し、「面白い」「楽しい」と思って取り組まなければ何も得られない。
(大橋洋治「失敗しない人間は信用できない」)
 引用文にもあるように、「仕事は楽しめ。楽しまなければモチベーションは上がらない」とよく言われる。だが、私は普通の人と比べて感情機能が故障しているせいか、どうもこういう考えをすんなりと受け入れられない。確かに、ディズニーランドのようなエンターテインメントにおいては、キャストが心の底から楽しんでいなければ、顧客を楽しませることはできないだろう。しかし、私が携わる経営コンサルティングという仕事は、顧客がどうしようもなく困って支援を求めてくるものである。コンサルタントは、言わば顧客の苦しみを肩代わりするわけだから、楽しいはずがない。

 もちろん、顧客の課題が解決されて、顧客とともに最後に安堵感を味わうことはある。とはいえ、そこに至るまでのプロセスは基本的に重荷である。もしそれを楽しいと言うならば、他人の不幸を飯の種にしていることを積極的に認めることになり、はなはだ不謹慎だと思う。そもそも、仕事に楽しい⇔楽しくないという感情を持ち込むから話がややこしくなる。仕事を快⇔不快で判断するから、やりたい⇔やりたくないという両極を行き来することになる。だから、私は最近、できるだけ心の平静を保って、楽しい⇔楽しくないという感情を排除するようにしている。

 社員の動機づけについてもう少しだけ話をしておく。前述の通り、仕事を快⇔不快で判断すると、モチベーションが上下しやすくなる。社員のモチベーションの乱高下を防ぐために、企業は社員に楽しい仕事を与え続けるべきだなどという、トンチンカンな主張を見かけることがある。果たして、企業は社員のモチベーションを上げる義務があるのだろうか?社員は企業から給与という形でお金をもらっている。お金をもらう側が、お金を払う側からモチベーションを上げてもらうのがいかにおかしいことであるかは、顧客と企業の関係を考えればよく解る。

 同じことは教育研修についても言える。企業は社員に教育投資をすべきだと言われるが、顧客は企業が組織能力を高めるためのトレーニングに対して、追加のお金を出してくれるだろうか?こういう話をすると、私が「”社員”が”輝く(Shine)”経営のお手伝いをする」という意味で、屋号を「シャイン経営研究所」としていることに反して、社員に厳しすぎるという声が聞こえてきそうだ。ただ、私は企業側の動機づけや教育投資を全否定するわけではない。

 企業と社員の関係は、顧客と企業の関係と異なる点がある。顧客は、ある企業が気に入らなければ、別の企業から製品を買える。だが、企業の場合、ある社員が気に食わなくても、代わりの人材をすぐには採用できない。トヨタの自動車が嫌なら、ホンダの自動車を買えばよい。しかし、トヨタを退職した技術者の代わりを見つけるのは容易ではない。少なくとも、顧客がトヨタのディーラーから近所のホンダのディーラーへ移動するよりははるかに難しい。企業は、今いる社員で成果を上げるしかない。だから、動機づけと教育訓練で社員をつなぎ止めることが必要である。

 (5)
 「私たちはお金に関係のない世界に生きていますから、本が売れているなどいままで知りませんでした」。そう答えた時、「ああ、だから本が売れるんですね」と返された言葉がいまでも印象に残っています。無心になって手放せば反対に入ってくる。私たちの社会にはそういう原理が働いているのかもしれません。
(鈴木秀子「この心臓は鉛でできているが、泣かないではいられないのだよ」)
 「無心になって手放せば反対に入ってくる」という感覚は、最近何となく解る気がする。「この製品・サービスを売りたい」、「あの顧客企業からこのぐらいのお金をいただきたい」と私がいくら望んでも、その通りになることはほとんどない。それどころか、人生全般を振り返っても、私の思い通りにいったことなど数える程度しかないような気がする。逆に、何も望まない状態でいると、周りの人が私のことを気にかけてくれるのか、色々と仕事をくださったりする。

 (4)とも関連するが、自分がこうしたい、ああしたいと思って仕事をするのは快⇔不快という感情にとらわれている。自分がしたい仕事であれば快く感じ、モチベーションが上がる。反面、自分がしたくない仕事であれば不快に思い、モチベーションが下がる。こうしたモチベーションの乱高下は、コントロールが非常に難しい。いっそのこと欲を手放してしまえば、快⇔不快という感情に左右されることもなくなるので、モチベーションというもの自体を考えなくて済む。

 「無心になって手放せば反対に入ってくる」というのが我々の社会に働く原理であるとすれば、アメリカ流の成果主義は日本にとって最悪である。成果主義によって、短期的な成果しか追わなくなった、職場内の協力関係がなくなり組織がタコツボ化したなど、様々な弊害が指摘されるが、そもそも根本的に日本社会の原理に反していた可能性がある。とはいえ、私も全ての目標設定を否定するつもりはなく、何らかの目標を持つ必要はあると考えている。ただし、その目標は、○○円受注する、市場シェア○○%を達成するなど、組織の外部の成果に求めるのは望ましくない。

 代わりに、人として、あるいは企業という共同体を円滑に運営する上で当然と見なされる行為にフォーカスを当てる。例えば、自己啓発をするとか、後輩を育てるといった具合である。そういう行為をたくさん積み重ねていった結果として、売上高、顧客数、市場シェア、利益などの数字が後からついてくると考えた方がよさそうだ。その意味では、日本の職能資格制度は、実は非常によくできた制度である。成果主義が導入された時、職能資格制度は内向きで抽象的な目標ばかり立てていると批判された。しかし、実はそういう目標こそ、日本人が追求すべきものである。

2015年08月05日

『営業のモチベーション(DHBR2015年8月号)』―社員のタイプに応じた報酬制度の使い分けは公平性に反する、他

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ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 08 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 08 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-07-10

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【社会的責任】最適な社会的責任を果たす4つのステップ CSRこそ効率化せよ(カストゥーリ・ランガン、リサ・チェイス、ソエル・カリム)
 著者の分類に従うと、CSR(社会的責任)活動には、①いわゆるフィランソロピーやメセナのような慈善活動、②環境・社会へのベネフィットを提供するサステナビリティ・プロジェクト、③ビジネスモデルの抜本的な転換を通じて社会的ニーズの充足を目指すCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)戦略の3つがあるという。しかし、多くの企業ではこれら3つの活動に一貫性がなく、責任者も担当者もバラバラである。そのため、CSRの総合責任者を置いて、彼の下に社内のCSR活動を統合する必要がある、という論文である。

 この論文に限らないが、CSRの議論は色々と錯綜していて、非常に理解しづらい印象がある。そこで、私は次のように理解している。まず、企業活動を「成果が経済的か社会的か?」と「成果を生み出す手段が経済的か社会的か?」という2軸のマトリクスで4つに分ける。成果と手段がともに経済的というのは、通常の企業活動である。成果は経済的だが手段は社会的というのは、環境に配慮したサプライチェーンを構築したり、社員の労働環境、医療、教育に投資したりしながら、一般的な市場ニーズを充足する活動である。多くの企業のCSRはこの象限に該当する。

 手段は経済的だが成果は社会的という象限は具体例を挙げるのが難しいのだが、バングラデシュのグラミン銀行で有名になったマイクロファイナンスが該当するだろう。ファイナンスの仕組み自体は、従来のシステムを拡張・発展させたものであり、経済的である。しかし、そのシステムを通じて多くの小規模起業家(=顧客)を生み出し、彼らが貧困から脱するのを支援している。

 最難関のCSRは、成果も手段も社会的という象限である。この象限に取り組む企業はパッと思いつかない。法政大学・坂本光司教授の『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズには、障碍者雇用に積極的な企業(日本理科学工業株式会社、株式会社大谷、株式会社協和、株式会社障がい者つくし更生会など)と、障碍者向けの製品を製造する企業(徳武産業株式会社など)が紹介されている。仮に、ある企業が障碍者を数多く雇用し、障碍者向けの製品・サービスで持続的な収益を上げていれば、おそらくそれは究極のCSRと呼ぶことができるに違いない。

日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

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正しいインセンティブ設計を構築する方法 誰が本当に優れた営業なのか(V・クマー、サラン・サンダー、ロバート・P・レオーネ)
営業の研究における第一人者が語る 【インタビュー】インセンティブがすべてではない(アンドリス・A・ゾルトナーズ)
 「正しいインセンティブ設計を構築する方法 誰が本当に優れた営業なのか」では、営業担当者を「トレーニング志向型」と「インセンティブ志向型」に分け、前者は教育研修の拡充を、後者は金銭的報酬の増加を通じて動機づけるべきだとしている。また、トレーニング志向型は小規模だが成長の早い顧客に販売する傾向があり、インセンティブ志向型はより大規模で安定的な顧客にアプローチする傾向があるため(個人的には逆の方がしっくりくるので、この記述は意外なのだが)、タイプに応じた顧客の振り分けをすべきことも示唆されている。

 だが、営業担当者のタイプに応じて動機づけの手法を変えるのは、あまり現実的ではないと感じる。同じ受注金額を獲得した2人の営業担当者について、一方はトレーニング志向型であるからより高度な教育研修の機会を付与し、もう一方はインセンティブ志向型であるからコミッションを高くする、などという企業はないだろう。そんなことをすれば社員の間に不公平感が生まれ、モチベーションはかえって低下するに違いない。それに、社員のタイプをいちいち判別して動機づけの手法を選択しなければならない人事部側も、制度運用の複雑さに悲鳴を上げるだろう。

 「営業の研究における第一人者が語る 【インタビュー】インセンティブがすべてではない」には次のように書かれている。
 営業担当者は普通さまざまな世代にまたがり、仕事への期待も異なります。ミレニアム世代は生活の質を向上させ、仕事にもっと意義を見つけたいと考えるでしょう。彼らはメールなどの電子メディアでたえずコミュニケーションを図ろうとし、自分の仕事ぶりに対するフィードバックを頻繁に求めます。ベビーブーマーは退職後の安心を確保したいと考えます。その中間層の人たちは、経済的な安定のために働いているのかもしれません。成功する報酬制度はこれらすべての目的に対応する必要があります。
 (※太字は筆者)
 先ほどの例で言えば、企業側としては教育研修とコミッションの両方の動機づけ手法を用意し、2人の営業担当者にその両方を与えるべきである。前者の営業担当者にはコミッションが、後者の営業担当者には教育研修が動機づけとして十分に機能しないが、それは仕方ないのである。それよりも、動機づけ手法の公平性を守ることによる利益の方がずっと大きい。

 以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)」で、動機づけの手法には、①経済的動機づけ、②社会的動機づけ、③心理的動機づけという3つがあると書いた。①②は外発的動機づけであり、③は内発的動機づけである。このうち、①②についてもう少し詳しく書くと、

 ①経済的動機づけ=給与、賞与、各種手当、コミッション、福利厚生、ストックオプションなど。
 ②社会的動機づけ=命令、昇進、やりがいのある仕事、上司からの叱咤激励、人事考課、顧客からの評価、職場の人間関係、組織風土など。

となる。このうち、給与、福利厚生、昇進、人事考課など、制度というハードで運用されるものは、全社員に全てを公平に与えなければならない。社員のタイプに応じて使い分けることは許されない。ただ、何でもかんでもハードで解決しようとすると、制度構築で苦労する割には、一定の社員にとって機能しない動機づけ手法もたくさん生じることになる。それに、制度運用が組織に浸透するには時間がかかるものであり、その間は社員を上手く動機づけられないという問題もある。

 結局のところ、社員のタイプに応じて柔軟に動機づけられるのは、ソフトな動機づけ手法、中でも上司による叱咤激励に限られる。マネジャーは部下を動機づける様々な言葉を持っていなければならない。旧ブログで「モチベーションが高い人は「ボキャブラリーが多い」」という記事を書いたが、動機づけが上手なマネジャーもまた、ボキャブラリーが多いと思うのである。マネジャーには国語力が必要だ。昔のマネジャーは、部下から提出された日報に赤字でぎっしりとコメントを書いて返していたという。部下はそのコメントを迷惑だと思う反面ありがたく感じて、翌日の仕事にいそしんでいた。最近は、そういうマネジャーが減ってしまったように感じる。

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乗務員のモチベーションを上げる3つの仕組み 日本交通のタクシーはなぜ「選ばれる」ようになったのか(川鍋一朗)
 サービスマニュアルの策定、キャリアパスの設定、各営業所の業績のランキング化という3つの施策によって、日本交通の改革を行ったという論文である。
 そこで実施したのが、営業所や関連会社のランキングだ。チーム単位での競争を促し、チームワークを育むことが目的である。ランキング上位の報奨としては、売上アップに直結する黒タク(※日本交通が新たに設けた「黄タク」、「黒タク」、「EDS」という3段階のキャリアパスで、2番目に位置する。黄タクと黒タクでは料金は変わらないが、黒タクの方が顧客からの指名が多いため、収入が上がる)を活用している。日本交通グループに加盟した企業は、原則として黒タク比率20%からスタートするが、以降、成績に応じて黒タク比率が高まるのだ。
 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第42回)】いびつなオフィス構造もコミュニケーション不全を引き起こす原因に」で、私の前職の会社では、グループ会社が同じフロアに集まっていながら、壁で不自然に区切られているせいで、コミュニケーションが阻害されていると書いた。人間は不思議なもので、物理的に隔離されると、心理的にも壁を作ってしまう。このことを知ったいくつかの企業では、大部屋方式に改装したり、デスクのフリーアドレス化を進めたり、役員の個室を廃止したりして、社内コミュニケーションの活性化に努めている。

 だが、飲食店・小売店などの店舗では、そもそもこういう施策ができない。各店舗を孤立感から救うには、日本交通のような営業所・店舗間の業績ランキングを作成・共有して、適度な社内競争を促すことが有効かもしれない。加えて、例えば年に1度全店舗の代表者を集めて、業績上位の店舗を表彰したり、セブン・イレブンがやっているような「店舗間学習」(販売ノウハウを店舗間で共有する仕組み。コンビニは基本的に他店舗と商圏が重ならないので、自店舗のノウハウを公開しても他店舗に売上高を食われる心配がない)に取り組んだりすると、より効果的であろう。

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【R&D】なぜ多くの発明、特許が対価を得られないのか 研究成果が事業にならない7つの理由(レディ・コタ、フィリップ・H・キム、オリバー・アレクシ)
 論文のタイトルからして、特許を製品化・事業化するプロセスの途中で直面する様々な課題に対して、どのように対処すべきかを論じたものだと勝手に想像していたのだが、ちょっと違った。特許は出願前に公知の状態であってはならない。ところが、研究成果を早く世に知らしめたい研究者は、勇み足で論文を出したり、仲間の研究者に情報を漏らしたりしてしまう。そこから情報が広がると、特許の要件を満たさなくなってしまうから注意が必要である、という論文であった。

 中小企業、特にベンチャー企業は、新しい技術やアイデアを自力で事業化することが難しい。そこで、資金力のある大企業に話を持ちかける。だが、ここに落とし穴がある。私が聞いた話では、ある大企業の経営者は、中小企業の社長から提案を持ち込まれると、その社長が持ってきた提案書を部下に渡して、「これを使って我が社で特許を取得せよ」と命令するのだという。以前の記事「起業・創業をめぐる3つの勘違いをまとめてみたい」で、ベンチャー企業はいきなり大企業を狙わない方がよいと書いたが、大企業との取引にはこういうリスクもあるので要注意だ。


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