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DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない
【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2017年12月26日

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 今回の記事は、以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で課題としていたことに対する、現時点での私の見解を述べるものである。

 人事の分野でGEが注目を集めているのは、伝統的な「セッションC」や「9ブロック」を廃止したからである。より具体的に言うと、GEはグレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、私は半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 先日の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で述べたように、改正職業能力開発促進法の施行により、企業が社員に対してキャリアコンサルティングの機会を提供することが義務づけられた。キャリアコンサルタントには、従来の面談の機能に加えて、組織開発コンサルタントとしての役割が追加される。私はさらに、社員がやりたいことや社員にできること、社員の価値観をベースとした戦略立案、言い換えれば内部環境アプローチによる戦略立案の支援を行うコンサルタントとしての役割も上乗せされると考えている。今回の記事では、その内部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについて、現時点での試案を述べてみたいと思う(ちなみに、外部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについては、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。

 ①最低到達目標の明確化
 以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、私は生活給と年功制の昇進制度を支持している。これは、現在の社員を最大限に活用し、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えるためである。そこで、内部環境アプローチではまず、現在の社員が順調に昇進し、またそれに伴って新卒社員を順調に採用した場合、3~5年後にどのような人員構成になるかを予測する。そして、その人員構成を維持するために必要な売上高、利益(率)をはじき出す。これが、企業が3~5年後に最低限到達していなければならない目標となる。

 ②「やりたいこと―できること―価値観」のセット=事業機会の洗い出し
 次に、キャリアコンサルティングなどの機会を活用して、現在の社員に対し幅広くヒアリングを実施し、それぞれの社員がどんなことをやりたいと思っているのか、どんな能力を持っているのか、どういう価値観で仕事をしているのかを詳細に把握する。それぞれの社員のやりたいこと、できること、価値観はバラバラであっても、組み合わせてみると一貫性が取れるケースが出てくる。例えば、若手社員はある仕事をやりたいと思っているが、それを遂行するだけの能力が不足している場合に、ミドル社員がその能力を補える、といった具合である。こうして、一貫性の取れた「やりたいこと―できること―価値観」のセットを事業機会として抽出する。一例としては、「AIを活用した融資業務の高度化に取り組みたい―スコアリング融資のノウハウ、与信管理の暗黙知―新しい技術に対する進取性、迅速な意思決定、チームワークの重視」が挙げられる。

 私はしばしば、日本企業の特徴は下の階層から上の階層に対する「下剋上(山本七平からの借用)」が起きることにあると述べてきた。つまり、上司からの命令に唯々諾々と従うのではなく、「こうすればもっと上手くできる」と部下が積極的に提案する。それを聞いた上司は、「俺の命令に逆らうな」と言わず、「君がそう言うのならばやってみよ。責任は自分が取る」と言って部下に権限移譲する。これが組織階層の中で繰り返されていくと、最終的には、組織の最下層にあって現場に一番近い社員が最も大きな権限を持ち、組織の最上部にいる経営陣は責任を丸抱えするという構図になる。これはまさに、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」で事例発表をしたサントリーの「見てくんなはれ」と「やってみなはれ」の精神に相当する。

 私は、現場に近いところにいる若手社員から積極的にやりたいことの提案が上がってくる組織が望ましいと考えている。業績が好調な企業というのは、やはり若手や現場が元気である。逆に、若手や現場が活力を失っている企業は、組織全体のムードも沈滞しがちであり、業績も芳しくない。とはいえ、若手社員があれをやりたい、これをやりたいと言っても、彼らはまだ能力的に十分成熟しておらず、確固たる価値観を持っていないケースがほとんどである。そこで、ミドル・シニア社員が登場し、能力と価値観の面で若手の思いを下支えする。こうしたスクラムがいくつも成立すると、企業は多様な戦略オプションを手にすることができる。

 なお、このステップの作業を効率化するために、やりたいこと、できること、価値観をあらかじめ類型化し、どのカテゴリに該当する社員が多いかを定量的に可視化したいという誘惑に駆られることがある。しかし、私はこうしたやり方をお勧めしない。手間はかかるが、社員の生の声をできるだけ丹念に拾っていき、「やりたいこと―できること―価値観」のセットを丁寧に織り上げることが重要である。というのも、やりたいことなどを類型化してしまうと、想定される事業機会が各カテゴリの組み合わせの数に限定され、創造的なアイデアが出てこないからである。

 ③事業機会の選択
 ②で抽出した事業機会のうち、企業としてどれに取り組むかを絞り込む。外部環境アプローチでは、PEST分析をカスタマイズしたPET分析を用いたが、内部環境アプローチでは、J・B・バーニーの「VRIOフレームワーク」を用いるとよいだろう。

 ⅰ)Value(経済価値に関する問い)
 その企業の保有する経営資源やケイパビリティによって、その企業は外部環境における脅威や機会に適応することが可能となるか?
 ⅱ)Rarity(希少性に関する問い)
 その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合他社のみか?
 ⅲ)Inimitability(模倣困難性に関する問い)
 その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 ⅳ)Organization(組織に関する問い)
 企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?

 通常、VRIOフレームワークを用いる際には、主に組織能力を経営資源の中心として評価するが、内部環境アプローチにおいては、経営資源として価値観も重視するべきである。つまり、その価値観は市場や顧客に向けた価値の創造に貢献するか?その価値観を醸成している企業は希少であるか?その価値観を模倣・学習するのは困難であるか?その価値観を活用する組織的な方針や手順は整っているか?といった問いにも答えていく。

 ④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ⑤ビジネスモデルのデザイン
 これらは外部環境アプローチと同じである。

 ⑥ビジネスプロセスのデザイン
 外部環境アプローチとの違いは、まず、③で絞り込んだ「やりたいこと―できること―価値観」セットの価値観を共有価値観として、ビジネスプロセスのあるべき姿をデザインする際の基本的な方向性に含めるという点である。ここで価値観とビジネスプロセスを結びつけておくことで、強固な組織文化に支えられた事業を展開することが可能となる。

 また、外部環境アプローチでは、求められる成果を最も効果的・効率的に上げられるビジネスプロセスをデザインし、効率性、生産性を重視した上でそれぞれの社員に割り当てる仕事の単位を決めていくが、内部環境アプローチでは社員のモチベーションアップに配慮しながらビジネスプロセスを決めていく。モチベーションが上がる仕事の要件は、以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」でも書いたように、

 ⅰ)顧客からのフィードバックがあること
 ⅱ)一定の裁量を与えられていること
 ⅲ)複数の能力を使わなければならないこと
 ⅳ)能力のストレッチが要求されること
 ⅴ)周囲の社員との協業が必要であること

の5つである。よって、本来は生産性を重視して職務を専門化した方がよいところを、敢えて複数の仕事を同じ人にやらせたり、敢えて同僚や他部門との協業が必要となるように仕事の境界線を調整したり、顧客(社内顧客を含む)からのフィードバックの機会を多く設けたりする、といった工夫を施すこととなる。短期的な効率性は犠牲にされるかもしれないが、中長期的には社員のモチベーションアップと企業の業績向上を両立させることができるに違いないと考える。

 ⑦施策の投資対効果の試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書、貸借対照表のシミュレーション
 これらも外部環境アプローチと同じである。⑧を通じて、今回選択した戦略が①の最低到達目標をクリアしていることを確認する。

 ⑨不足する人材の採用
 たいていの場合、今回選択した戦略を実現し、⑦の施策を実行するには、現有の社員だけでは社員が不足することが明らかになる。その場合には、新しい人材を採用しなければならない。この点は外部環境アプローチでも同様である。外部環境アプローチの場合は、企業に不足している能力を保有している人材をピンポイントで採用するのに対し、内部環境アプローチの場合は、敢えてダイバーシティを重視する。後述するように、ダイバーシティが新しい戦略を構想する上での源泉となるからである。とはいえ、野放図に採用すればよいわけではなく、新卒採用の場合は基本的な性格が備わっているか、中途採用の場合はその人の価値観が自社の共有価値観と合致しているか、という点は見極めておきたい(新卒作用で性格を、中途採用で価値観を重視する理由については、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ⑩継続的な戦略的組織学習
 ⑨で新しい人材が入ってくることにより組織構成が変わるため、①の最低到達目標が変化する。また、⑨でダイバーシティを重視し、多様な意思、能力、価値観を持った人を採用したため、企業の「やりたいこと―できること―価値観」セットに変化を及ぼす可能性が生まれる。よって、企業は①の最低到達目標を再計算した上で、主に新しく入社した社員を対象にキャリアコンサルティングなどを実施し、②の「やりたいこと―できること―価値観」セットの洗い出しをやり直さなければならない。そして、③~⑨のプロセスを踏む。その後も、企業は新しく人材を採用する度に内部環境アプローチのプロセスを一からやり直す必要がある。つまり、企業は継続的に戦略的組織学習を行わなければならないということである。

 上記はまだラフなアイデアの段階にとどまっている。私の今後の課題は、上記の一連のプロセスをさらにブラッシュアップさせるとともに、外部環境アプローチと内部環境アプローチを統合した総合的な戦略立案プロセスを構築することである。


2017年12月12日

『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない


致知2017年12月号遊 致知2017年12月号

致知出版社 2017-12


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 最近、英語の速読力を上げるために、受験生時代に慣れ親しんだ『英語長文問題精講』(中原道喜編)を読み返しているのだが(何となく、目的と手段が一貫していないような気もするのだが、汗)、その中に次のような文章があった。
 Which (* a worker or a laborer) a man is can be seen from his attitude towards his leisure. To a worker, leisure means simply the hours he needs to relax and rest in order to work efficiently. He is therefore more likely to take too little leisure than too much; workers die of heart diseases and forget their wives' birthday. To the laborer, on the other hand, leisure means freedom from compulsion, so that it is natural for him to imagine that the fewer hours he has to spend laboring, and the more hours he is free to play, the better.
英語長文問題精講 新装版英語長文問題精講 新装版
中原 道喜

旺文社 2000-01-01

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 「仕事をする人」にとっては、余暇は仕事のために充電する時間であって、短ければ短いほどよいのに対し、「労働をする人」にとっては、余暇は苦役からの解放の時間であるから、長ければ長いほどよい、といった趣旨の文章である。『致知』2017年12月号の特集は「遊」であり、この「仕事をする人」に関する記事が多かったように思う。彼らにとっては、仕事が遊びのようなものである。だから、どれだけ長い時間働いても苦痛ではない。

 「仕事」と「遊び」が二項対立の関係にあるならば、本ブログでしばしば日本流の「二項混合」の重要性を説いている私などは、「仕事をする人」のような態度を支持するのではないかと思われるかもしれない。しかし、こと「仕事」と「遊び」に関しては、私はきっちりと分けた方がよいと考える。仕事と遊びが混合すると、結局のところ遊びが仕事によって浸食されてしまう。この傾向は、ITの発達によってより加速している。せっかく長期休暇を取得したのに、旅行先に会社のPCと携帯電話を持っていかなければならず、休暇中も電話やメールに対応しているビジネスパーソンが増加していることは、早くも2000年代初頭のアメリカで指摘されていた(ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス―仕事に強迫されるアメリカ人』〔岩波書店、2003年〕)。最近、JALが「ワーケーション」を提唱しているが、アメリカと同じような状態になるであろうことは容易に予想がつく。

窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人
ジル・A・フレイザー 森岡 孝二

岩波書店 2003-05-28

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シリコンバレー式 よい休息シリコンバレー式 よい休息
アレックス・スジョン-キム・パン 野中 香方子

日経BP社 2017-05-25

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 アレックス・スジョン-キム・パンの『シリコンバレー式 よい休息』(日経BP社、2017年)では、仕事と遊び、休暇をはっきりと分けた人物の例として、ドワイト・アイゼンハワーとウィンストン・チャーチルが紹介されている。アイゼンハワーは、1942年6月に欧州戦域連合国最高司令官に任命されると、1日に15~18時間働き、様々な問題のせいで夜中もずっと起きていることが珍しくなかった。彼はホテル暮らしをしていたが、息抜きをするための”隠れ家”を探すように側近に命じた。側近はロンドン各地を探した末に、森の中にある小ぢんまりとした目立たない家を見つけた。彼は夏と秋、暇さえあればこの隠れ家でゴルフをし、西部劇小説を読み、時にはただ田舎暮らしを楽しんだ。このような息抜きを社会学者は「分離(デタッチメント)」と呼ぶ。

 また、ただ楽しいだけでなく、幾重もの意味と個人的な重要性を持つ遊びのことを「ディープ・プレイ」と言う。チャーチルにとっては、絵を描くことがディープ・プレイであった。1915年、ガリポリの戦いに敗れ、責任を問われて海軍大臣を辞した後、彼は絵を描き始めた。彼は『娯楽としての絵画』という本で、忙しい人は十分な休息を取る必要があるが、そういう人は性格的に何かをしないではいられないものだと書いている。そして、「いつも関心を向けている領域を照らすライトのスイッチを切るだけでは不十分だ」と続ける。「興味をそそる新たな領域の明かりをともさなければならない」。幸いなことに「心の疲れた部分は、単に休むことによってではなく、他の部分を使うことによって休まり、強化され得る」とも述べている。

 ディープ・プレイとは、言わば”真面目に遊ぶ”ことである。普段使わない心の部分を使うことによって、かえって普段使っている心の部分が刺激され、創造的になることができる。アーティストはしばしば、独創的なアイデアは作品作りに真剣に向き合っている時ではなく、ふと息を抜いた瞬間に突然降りてくると証言している(私が好きなMr.Childrenの桜井和寿氏は、趣味のサッカーをしている時に、歌詞やメロディーが突然浮かぶことがあるとインタビューで答えている)。仮に仕事と遊びに二項混合が成り立つとしたら、私はこのことを指して言うだろう。

 一般に、仕事と遊びが一緒になっているような人は、満足度やモチベーションが高く、その結果高い成果につながると考えられている。ここで思い出すのが、インターナル・マーケティングの分野で取り上げられる、「社員満足度を上げると顧客満足度が上がり、企業の収益が上がる」という説である。私も昔は無批判的にこの説を信じており、旧ブログでは「「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察-『バリュー・プロフィット・チェーン』」という記事を書いてしまった。だが、この説では、社員満足度とモチベーションが混同されている。

 社員満足度は「過去に対する評価」であるのに対し、モチベーションは「これから仕事をしようとする意欲」のことであり、時間軸が異なっている。「これまでがよかったから、これからも頑張ろう」という因果関係、さらに「これからも頑張ろうという社員が実際に頑張った結果、顧客が満足する」という因果関係が成り立つならば、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上」という図式を認めてもよいだろう。

 「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という部分も注意が必要である。顧客が満足してしまうと、もう次の製品・サービスを購入しないケースもあるからである。ソーシャルゲームに飽きてしまったユーザーが課金しなくなるのが解りやすい例であろう。企業の収益につなげるためには、顧客に対して「これまでの製品・サービスに満足しているから、これからも製品・サービスを購入しよう」と思わせなければならない。つまり、顧客に再購入の意欲(モチベーション)を持たせなければならない。だから、「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という説は、正確には「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」と記述するべきである。これを先ほどの図式とつなげると、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」となる。

 「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」の部分に関しては、今回の記事ではこれ以上踏み込まない(これはこれで非常に興味深いテーマであり、今後も追求していきたいと思う)。個人的には、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上」という関係について疑問を抱いている。社員満足度とモチベーションの関係はこんなに単純ではない。我々は、仕事に不満足でもモチベーションが上がることがあることを知っている。ライバルである同僚に負ければ「なにくそ」と思うし、上司に叱られれば「あの上司を見返してやろう」と思う。

 極端な話をすれば、「仕事内容」に関しては不満足であった方が、モチベーション向上につながりやすいのではないかというのが私の考えである。ただし、いたずらに社員を不満足に追い込めばよいというわけではない。社員を取り巻く「職場環境」については、社員を十分に満足させる必要がある。職場環境は社員個人の力ではどうにもできないから、企業が責任を持つのである。他方で、社員が自分の能力で何とかしなければならないことについては不満足を感じさせる。つまり、「会社がこれだけお膳立てをしてくれているのに、なぜ自分は仕事ができないのだろう?会社がこれだけお膳立てをしてくれているのだから、もっといい仕事ができるはずだ」と思わせることが、社員のモチベーション向上につながる。「職場環境に対する満足&仕事内容に対する不満足⇒モチベーションの向上」というのが私の仮説である。

 ここで、「職場環境に対する満足」と「仕事内容に対する不満足」を構成する代表的な要素として、私は以下を想定している。

 <職場環境に対する満足>
 ①仕事に対する裁量や権限が与えられている。
 ②仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などが整っている。
 ③十分な研修、トレーニングを受けられる機会がある。
 ④必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられる。
 ⑤福利厚生制度が充実している。

 <仕事内容に対する不満足>
 ①仕事の量が多くて忙しい。
 ②企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップがある。
 ③部下や後輩を十分に育成できない。
 ④顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを受けている。
 ⑤今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描けない。

 これでアンケートを作成して、モチベーションとの因果関係を調べたら、面白い結果が得られるのではないかと思う。「職場環境に対する満足/不満足」と「仕事内容に対する不満足/満足」の2軸でマトリクスを作成すると、以下の4パターンが考えられる。

社員満足度とモチベーションの関係

 「職場環境には満足しているが仕事内容には不満足である」という右上の象限が、最も健全なモチベーション向上につながる。逆に、「職場環境には不満足だが仕事内容には満足である」という左下の象限は、職場環境が未熟な中で自分だけがそれなりに仕事をこなしている状態であり、孤立や忠誠心の低下を招く。左上の「職場環境にも仕事内容にも満足している」という象限に該当する社員は、ややもすると現状肯定に流れがちであり、さしたるモチベーションもなく会社にぶら下がる恐れがある。右下の「職場環境にも仕事内容にも不満足である」という象限では、最もモチベーションが失われている。中にはこれだけ不利な状況でも一生懸命頑張るという特異な社員もいるだろうが、そう遠くない将来に燃え尽き症候群に陥るであろう。

 企業が社員のモチベーションを上げるには、職場環境を整えることを前提として、社員に仕事面で不満足を感じさせるように、以下の施策を打つことが有効である。①敢えて本人のキャパシティを超える仕事量を与える、②本人にとってチャレンジングな仕事を与える、③本人にとって扱いづらい部下や後輩を担当させる(これは決して扱いづらい社員を積極的に採用せよということではない。どんな人でも、性格や価値観が合わない人というのはいる。その人にとって相性があまりよくない部下や後輩を敢えてつけるという意味である)、④顧客や上司が厳しい評価を伝える(決して理不尽であってはならない。公正な目で見た評価でなければならない)、⑤企業が社員に示すキャリアパスに敢えて余白を残す、社員にキャリアを自分で考えさせる。

 先日の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で、伝統的な外部環境アプローチ(以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)に対して、内部環境アプローチによるビジネスプロセスの設計方法の一端を示してみたが、上記の5つの施策も踏まえて組織やプロセスを作り込むとなおよいのではないかと思う。


2017年05月22日

【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点


人材育成

 今まで本ブログで個別に触れてきたことだが、改めて私の「人材マネジメント」観を整理しておきたいと思う。一般的な考え方と違っているところもかなりあるだろう。

 Q1.採用時には志望動機(モチベーション)の高い人を選ぶべきか?
 採用時に、「なぜこの業界を選んだのか?」、「なぜ我が社を選んだのか?」、「我が社に入社して何をしたいのか?」などを応募者に尋ねる企業は多い。しかし、採用面接時のモチベーションと入社後のパフォーマンスはほとんど関係がないと考えている。モチベーションというものは非常に移ろいやすいものである。担当する仕事、周囲を取り巻く人間関係や職場環境、あるいはプライベートな要因によってすぐに上下する。そういう不安定な要素を採用の決め手にしない方がよい。採用時には、後述のように別の観点から応募者を評価するべきである。

 Q2.新卒採用では、自社の価値観と合致する人を採用するべきか?
 採用とは、企業が自社の戦略に従って実行すべき業務を遂行できる能力を持った人を選択することである。だが、新卒採用の場合は、応募者に十分な能力がないことは解りきっている。そこで、自社の価値観と応募者の価値観が合致するかという視点で評価をすることがある。価値観とは、応募者や企業が大切にしている価値、ルールであり、重要な業務を遂行するにあたって意思決定のよりどころとなる指針である。業務を下支えするコンテクストと言ってもよい。

 だが、22歳の大卒でさえ、価値観を要求するのは酷というものである。22歳では、人生の価値観を形成するには経験が浅すぎる。私の話をして恐縮だが、私には「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)(2)(3)」というものがある。10の価値観のうち、ほとんどは社会人になってから形成されたものである。新卒採用では、価値観よりさらに手前のプリミティブな要素を評価する必要がある。具体的には、性格を評価する。一般に、性格は協調性、誠実性、情緒安定性、開放性、外向性という5つの要因から構成されると言われる(これらを合わせて「性格のビッグファイブ」と呼ぶ)。新卒採用ではこれら5つの要因のレベルを評価するにとどめ、価値観や能力は入社後にじっくりと醸成していくべきであろう。

 Q3.中途採用では能力が高い人を採用するべきか?
 中途採用では、企業側は即戦力を求めている。よって、企業側が要求する能力を応募者が持っているかどうかを見ることが多い。しかし、一部の汎用的な能力(例:プログラミングの能力など)を除いて、大半の能力は特定の企業でしか通用しない企業特殊能力である。よって、たとえ前の会社で高い能力を発揮した人であっても、自社に転職した後は自社のやり方に慣れてもらうために一定のトレーニングが必要である。この点を見落としてはならない。

 中途採用においてこそ、応募者の価値観と自社の価値観が合致するかを見るべきである。能力はトレーニングで変化させることができるが、一度染みついた価値観を変えることは難しい。応募者の価値観が自社の価値観と異なっているのに入社を許すと、その人は業務を遂行するにあたって周囲の社員との間に軋轢を生み、深刻な問題を引き起こすだろう。もっと言えば、応募者の価値観と自社の価値観がきれいに合致することは稀である。というのも、企業が違えば価値観も異なるわけであって、今まで別の企業で働いてきた応募者は、自社とは違う価値観を持っていると考えるのが自然だからである。だから、中途採用において本当に見るべきポイントは、「価値観の対立が生じた場合に、応募者がどのように対処してきたか?」である。

 Q4.短期的に成果を上げるため、中途採用に注力するべきか?
 年々、企業は短期的に業績を上げるようプレッシャーを受けるようになっている。短期的に成果を上げるには、育成に時間がかかる新卒採用よりも、ちょっとのトレーニングで済む中途採用に注力したくなる。アメリカのスタートアップ企業の中には、中途採用しか行わないと公言している企業もある。外部の企業が人材を育成してくれるのに、なぜ自社がわざわざお金と時間をかけて育成をしなければならないのか、というのが彼らの言い分である。日本でも、中小企業は中途採用が中心のところが多い。ただし、中小企業の場合は、意図的に中途採用中心になっているのではなく、知名度の低さゆえに新卒が集まらないというのがその理由となっている。

 だが、全ての企業が中途採用のみを行ったらどうなるか、その結果は明白である。企業は社員に対してまともなトレーニングをしなくなる。代わりに、訓練などしなくても、天賦の才能で高い成果を出すことができる一部の逸材を多数の企業で取り合うことになる。労働市場には、訓練を受けていない低スキルの労働者が大量に排出される。能力がない新卒に関しては、採用される機会を完全に失う。これでは社会は機能不全に陥る。中途採用をするということは、本来自社が負担すべき教育訓練の費用の相当部分を外部化したことと同じである。中途採用に偏るのは、外部の企業が負担した費用にタダ乗りするずるい方法である。よって、企業は、たとえ手間暇がかかると解っていても、社会のために新卒採用をして教育訓練に投資しなければならない。

 Q5.社員は自己実現を目指すべきか?
 マズローの欲求5段階説に従うと、社員は仕事を通じて最上位の欲求である自己実現の欲求を満たすのが望ましいと言われる。だが、企業は顧客に奉仕する利他的な存在であるのに、その企業から給料をもらって企業に奉仕する社員が自己実現などという利己的な欲求を前面に出すのはおかしい。社員は何よりもまず利他的であるべきである。つまり、企業に奉仕し、さらに企業の先にある顧客に奉仕する。その結果として上司や顧客から得られる「承認」によって、利己的な欲求を満たすという順番が望ましい。承認欲求は欲求5段階説において4番目の欲求である。実は、最上位の自己実現欲求を持っているのはアメリカ人でもごく少数しかおらず、大半はその下の承認欲求を持っているとされる(そもそも、マズローの欲求5段階説は1つの仮説にすぎず、実証的に証明されたものではない点にも注意が必要である)。

 Q6.社員は3年で一人前のプロフェッショナルになるべきか?
 私が以前勤めていたベンチャー企業では、キャリア開発研修を販売していた。顧客企業の人事部からは、「入社3年目程度の若手社員を一人前のプロフェッショナルにしたい。そのための意識づけの研修を行ってほしい」という要望を受けることが多かった。教育研修業界の中でも(業界規模5,000億円程度の小さい業界だが)、「若手社員の自律化」が流行となっており、いかにして若手社員を早期にプロフェッショナル化するかがよく議論されていたのを覚えている。

 だが、3年で仕事を一通り覚えることはあっても、プロフェッショナルになるのは無理があると思う。プロフェッショナルの定義は色々あるだろうが、個人的には、「発生頻度が最も多い標準的な事象に適切に対応できると同時に、発生頻度が低い難題もクリアすることができ、逆に発生頻度が低い易しい課題についても効率的な対処ができる人」だと考えている。つまり、ありとあらゆるケースを最適な方法で処理できる人のことである。3年程度では、発生頻度が最も多い標準的な事象に対応することはできても、それ以外のイレギュラーな事象に柔軟に適応するのは難しい。それができるようになるには、やはり最低でも10年はかかる。

 もしも3年でプロフェッショナルになれるような仕事があるとしたら、それはおそらく非常に簡単な仕事であり、早晩海外にアウトソーシングされるだろう。日本国内にいる限りは、10年、いやそれ以上の時間がかかってようやくプロフェッショナルと呼ばれるようになるような、高付加価値の仕事をするべきである。ちなみに、剣道にはこんな言葉があるそうだ。「10年修行すると自分の強みが解る。20年修行すると相手の強みが解る。30年修行すると自分の弱みが解る」。これこそプロフェッショナルの神髄ではないだろうか?

 Q7.社員のモチベーションを上げるべきか?
 「我が社の社員のモチベーションが低くて困っている」と嘆く経営者は多い。経営陣は何とかして社員のモチベーションを上げようとする。しかし、よくよく考えるとこの構図はおかしい。というのも、お金を払うのは企業側、お金をもらうのは社員側であり、モチベーションを上げるとは、お金を払う側がお金をもらう側のモチベーションを上げることになるからだ。これがいかに不自然な構図であるかは、企業と顧客の関係を考えてみればよい。お金を払うのは顧客側、お金をもらうのは企業側である。しかし、顧客は企業のモチベーションを上げようなどとは露だに考えない。

 それでも企業側が社員のモチベーションを上げなければならないとすれば、顧客は企業が気に食わなければ別の企業を選択すればいいのに対し、企業は社員が気に食わなくても簡単に代わりを探すことができないという事情によるだろう。だから、特別の配慮をしなければならない。と言っても、企業側が社員のモチベーションを上げるためになすべきことは、社員の前に「本当に困っている顧客」を提示して、彼らの利他的動機を目覚めさせるだけでよい(以前の記事「『艱難汝を玉にす(『致知』2017年3月号)』―日本人を動機づけるのは実は「外発的×利他的」な動機ではないか?」を参照)。モチベーションを管理する責任は社員自身にある。企業側が前述の配慮をしてもなおモチベーションが上がらないならば、問題は企業ではなく社員本人にある。

 Q8.社員の満足度を上げるべきか?
 サービス業のインターナルマーケティングにおいては、社員の満足度を上げると顧客接点におけるサービスの質が上がり、顧客満足度が上がると言われる。この「社員満足度向上⇒顧客満足度向上」という因果関係、正確に言うと「社員満足度向上⇒社員のモチベーション向上⇒顧客満足度向上」という因果関係が他の業界にも適用されて、多くの企業が社員満足度を重視するようになっている。だが、社員が満足してしまうと、現状に甘んじてしまい、もっとよくしようというモチベーションが湧かない可能性がある点をこの因果関係は無視している。

 むしろ、社員が多少不満足を感じている時の方が、モチベーションが上がりやすく、結果的にいい仕事ができるのではないかと思う。具体的に言えば、Q7とも関連するが、「本当に困っている顧客」を提示され、その顧客から難題を押しつけられ、課題の解決を試みようとしても社内に十分なリソースや制度がなく、周囲から満足な支援を受けられないという逆境が、かえってモチベーションを燃え上がらせる。社員満足度調査を行って、全ての項目について社員の満足度を上げるように施策を打つのも考えものである。職場の物理的環境、具体的には職場の清潔さや安全性などについては、社員の不満足を取り除いた方がよいだろう。しかし、仕事の中身そのものについては、社員に多少の不満、不便を味わわせるぐらいがちょうどよい。

 あまりに難しすぎるゲームはユーザーの心を折ってしまうけれども、難易度が適度に調整されたゲームは、ユーザーをイライラさせながらも、「何とかクリアしてやろう」とユーザーのモチベーションを持続させることができる。これと同じことである。

 Q9.成果給、業績給の割合を増やすべきか?
 成果主義の広がりによって、業績給を導入する企業が増えている。これは、給与の性質を成果に対する対価ととらえる発想である。だが、成果を正確に測定することは非常に難しい。私も本ブログや旧ブログで何度か試みたが、厳密に測定しようとすればするほど、複雑怪奇な計算式になってしまう。特に、チーム全体の成果を個人にどう配分すればよいのか、イノベーションに挑戦して失敗した人にどう報いればよいのかは難題中の難題である。どんなに緻密に組み立てられた数式であっても、必ず「その式は公平ではない」と言う人が出てくる。

 そこで、次のように発想を転換してはどうだろうか?給与を成果に対する対価ではなく、社員の生活費の保障として位置づけるのである。生活費は入社時が一番低く、結婚、出産を経るにつれて徐々に上がる。子育てを卒業しても、今度は親の介護や自分自身の疾病の治療のためにお金が必要になる。つまり、生活費は年齢に比例して一貫して増加し続ける。よって、給与は必然的に年功的になる。出光興産の創業者である出光佐三も、給与は生活給であるべしとの信念を貫いた。こういう話をすると、頑張っても報われない人が出てモチベーションに影響が出るという批判を受ける。だが、企業が生活費の保障をしているのに、それ以上に金のために働くというような人、出光佐三の言葉を借りれば「黄金の奴隷」となっている人は、企業にとって毒である。それでも金がほしいと言うのであれば、株やFXでもやっていればよい。

 Q10.人事考課はなくすべきか?
 近年、アメリカ企業の中に定期的な人事考課を廃止するところが増えており、日本企業でもそれに倣う動きが見られると言う。だが、人事考課を廃止するのは、社員に対する評価をなくすことではない。半年ないし1年に1回しか上司からフィードバックが受けられない現状を改めて、部下に対しこまめにフィードバックを行うのが、人事考課廃止の狙いである。

 私は、人事考課は廃止すべきではないと考える。理想的な企業とは、自社を取り巻く事業環境の変化に柔軟に対応して、戦略やビジネスモデルを頻繁に変更し、それに伴って業務プロセスや組織を再構築し、人、モノ、カネ、情報といった経営資源を再配置する企業であろう。しかし、環境の変化にあまりに身を委ねてしまうと、自社のビジネスを慎重に設計する営みが阻害されてしまう。端的に言うと、浅い考えになってしまう。だから、環境が激変する時代にあっても、定期的に立ち止まって、じっくりと先を見据えることが必要なのである。戦略や中期経営計画を毎年見直すといった取り組みには、依然として大きな意味がある。戦略などを見直すと、人材をいかに配置するべきかが問題となる。ここで人事考課の結果を活用して、社員の適材適所を実現していく。戦略に周期性がある限り、それと連動する形での人事考課は不可欠である。


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