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「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)
『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足
海外進出する中小企業が直面するリスクとその対応策(海外ビジネスセミナーより)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

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(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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 ―ITパスポート
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2016年06月10日

「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)

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中華人民共和国

 (※)中国の国旗。5つの星のうち、一番大きい星は中国共産党を、残りの4つは労働者、農民、小資産階級、愛国的資本家を意味しているそうだ。

 1日で中国、インドネシア、タイの3か国のビジネスリスクに関するセミナーに参加してきた(お腹いっぱい)。以下セミナー内容のメモ書き(本当はベトナムのセミナーにも参加したので4か国なのだが、長くなりすぎるので今回の記事からは省略)。

 【1.中国】
 (1)中国人による不正の事例は枚挙にいとまがないが、中国に派遣された日本人の総経理(=社長)が不正に手を染めていることがあるので要注意である。

 ・中国子会社A社は、中国人社員に対して会社のお金を貸し付けており、日本人総経理もそれを承認していた。本来、中国の法律では、このような金融行為は禁じられている。A社は、現金を「その他未収金」に振り替えることで、貸付を可能にしていた。中国では金利がまだ高いため、現金をそのまま銀行に預けていれば、利息収入が得られる。ところが、社員に貸付をすることで、利息収入の機会が失われる。したがって、日本人総経理の行為は背任行為である。

 ・中国子会社B社は、日本人総経理が承知の上で、簿外取引を行っていた。具体的には、発票(日本の領収書に相当。後述)を不要とする企業と現金で取引を行い、裏金を蓄えていた。簿外現金は、別会社の担当者に対する裏リベートに回された。簿外取引による売上未計上は脱税行為であり、税務調査による罰金や滞納金を追徴される可能性がある。また、B社に不満を持つ社員が密告したり、B社を脅迫したりするというリスクが生じる。

 ・中国子会社C社の日本人総経理は、経理に詳しくなかったこともあり、あらゆる支出を会社の経費で落としてした。その中には、ゴルフ会員権、ヨットクラブ会員権などがあり、個人的に購入したネックレスなども含まれていた。さらに、発票のない経費も計上していた。経理担当者は、日本人総経理の言いなりであった。C社のように発票の扱いが甘い企業は、偽の発票をつかまされる危険性がある。発票のない経費や偽の発票は、税務署による処罰の対象となる

 (2)発票(ファーピャオ)とは、中国における製品の売買、サービスの提供・受け取りなどの経営活動に関する証明書であり、経費の認定や増値税(日本の消費税に相当)の申告時に必須とされる。日本の領収書に相当するが、日本の領収書はプリンタで打ち出したものでも手書きでも何でもよいのに対し、発票は専用ソフトウェアが作成したデータを、政府指定のプリンタで印刷しなければならない。専用ソフトウェアはネットワークでつながっており、税務局は中国全土で行われているあらゆる取引を把握している

 日本のマイナンバー制度導入で、今までのように所得を過少申告することができなくなることに戦々恐々としている人がいるみたいだが、中国の発票制度は日本とは比べ物にならないほど厳しいと感じた。中国では、発票がなければ損金として認められない。ただし、この制度を逆手にとり、損金を膨らませたい経営者心理につけ込んで、偽物の発票を販売するあくどい業者がいるようだ。税務局は、発票が正規のものかを確認できるサイトを用意している(例えば、上海市の場合は、https://www.tax.sh.gov.cn/wsbs/WSBSptFpCx_loginsNewl.jsp)。

 (3)日本では、株式会社における取締役などの役員を除き、公務員や、みなし公務員が関与する贈収賄のみが処罰の対象となっている。一方、中国では、民間企業や社員間の贈収賄についても処罰の対象となる(反不正当競争法8条)。簿外で相手企業または個人にリベートを贈ること、相手企業または個人からリベートを受け取ることは贈収賄に該当する。値引きや仲介人に対する手数料については、必ず事実通りに記帳しなければならない。贈賄の立件基準は20万元、収賄の立件基準は5千元とされているが、これ以下でも立件されることがある。習近平政権が反腐敗運動に力を入れていることもあり、贈収賄には気をつけた方がよい。

 (4)中国セミナーでは、AOSリーガルテック株式会社による「フォレンジック調査」のソリューションについても紹介があった。フォレンジックとは、本来は法医学、科学捜査の意味である。現在では、事件関係者のPCなどに残されたデータを復元・解析して、事件の真相究明に役立てる手法を指す。同社は、Nuixという、オーストラリア企業の正規パートナーである。

 Nuixは、パナマ文書を解析したことで知られる(WEDGE INFINITY「パナマ文書をリークした不正調査ツール 国家間での情報戦争でも活用」〔2016年4月21日〕を参照)。また、東芝の粉飾決算事件でも、メール魔と呼ばれた田中久雄社長(当時)の復元にNuixが用いられた。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社などが行った第三者委員会の報告書には、データの復元・解析にNuixを採用したことが書かれている(東芝「第三者委員会調査報告書<要約版>」〔2015年7月20日〕を参照)。

 【2.インドネシア】
 (1)日本の場合、株式譲渡は一般的に取締役会の決議事項であるが、インドネシアの場合は社員などへの通知、債権者保護手続き、および公告も必要となる。株式譲渡によって親会社が変わる場合、社員には新しい親会社の下で働くのを断る権利があるとされるためだ。また、親会社が変わると、債務の返済能力にも影響が出るとの考えから、債権者保護手続きも要求される。また、スキームによっては、取締役会による株式譲渡の計画や、コミサリス会の承認も求められる。コミサリスとは、日本の監査役のような存在である。ただし、日本の監査役よりも権限が大きく、例えば取締役に重大な違反がある場合は、取締役に代わって任務を遂行できる。

 (2)1994年には、いわゆる「外資15年ルール」というものができた。これは、外資100%の企業は、設立15年を経過した時点で、株式の一部をインドネシア企業またはインドネシア人に譲渡しなければならないという、外資企業からするととんでもないルールであった。苦肉の策として、一旦インドネシア企業/人に株式を譲渡した後、すぐに買い戻すという方法が考えられたが、インドネシア政府は長らく通達によってこれを禁じていた。ただし、あまりに外資企業からの反発が強かったため、通達は2013年に廃止された。なお、2013年の新会社法施行以降に投資承認を受けた企業は、外資15年ルールの適用対象外である

 (3)インドネシアでは、海外からの借り入れを行う際には、借入先の格付けを取得する義務がある。つまり、日本企業のインドネシア子会社が、日本の銀行から借り入れをする場合、その銀行の格付けが必要となる。これも外資企業からの批判が多いものの、今のところルールは維持されている。ただし、親会社からの借り入れに関しては、格付けは不要という例外がある

 (4)インドネシアセミナーの講師は弁護士だったのだが、インドネシア(とベトナム)では、現地の地方裁判所で訴訟をしない方がよいとのことだった。インドネシアでは、裁判官も汚職に手を染めている。最高裁判所の長官が汚職で逮捕されるような国である。裁判が終わった後、裁判官から原告の携帯にショートメールが入り(それだけでも大問題なのだが)、"How much is it?"と尋ねてきた、という話もあるらしい。インドネシアでビジネスローに強い弁護士事務所は、汚職に巻き込まれたくないため、裁判を引き受けてくれない傾向がある。そのため、インドネシア企業と取引する場合には、仲裁地としてシンガポールなどを選択するとよい

 【3.タイ】
 (1)タイでは、製造業は100%外資による参入が可能であるのに対し、サービス業は49%に制限されている。ただ、法律上、サービス業の明確な定義はない。実務では、サービス業は非常に広くとらえられており、機械装置の設置、修理、保全、アフターサービス、リース、賃貸は全てサービス業とされる。49%だと過半数が握れないと思われるだろうが、実はここに1つからくりがある。外国人事業法が定める49%とは、株式の数のことであり、議決権の数ではない

 例えば、日本企業が株式数の49%を、タイ企業が株式数の51%を保有するタイの現地子会社があったとする。ここで、日本側の株式を「1株2議決権」、タイ側の株式を「1株1議決権」(または、日本側の株式を「1株1議決権」、タイ側の株式を「2株1議決権(1株0.5議決権)」)とすれば、日本企業は議決権ベースで過半数を握ることができる。この抜け穴は実際に結構使われており、今のところ摘発事例もないという。ただし、タイ政府は外国人事業法を改正する方向で動いているようだ(2015年に改正予定だったが、外資企業の反対で延期された)。

 (2)これはタイに限った話ではないが、現地パートナー企業と合弁会社を設立する場合、「解除できない」、「別れられない」契約を結ぶのは最悪である。赤字が何年続いたら合弁を解消するなどの基準を契約で明確にするべきだ。その際、競業避止条項や秘密保持条項も盛り込んでおく。また、解消時の株式の売却/取得価格の決定方法にも触れる必要がある。日本人はよく、契約書の条文で紛争が解決できなかった場合は「両者協議の上決定する」などと書いてしまう。しかし、これでは「協議しても決まらなかった場合」にどうすべきかが解らない

 なお、日本では出資比率が3分の2以上であれば、株主総会の特別決議を単独で実施できるが、タイ、インドネシア、インド、ベトナムでは、3分の2以上ではなく4分の3以上が要件となっている。この点にも注意されたい(以前の記事「『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足」を参照)。

2016年06月03日

『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足

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中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック

経済産業省 2016-03-14


中小企業基盤整備機構HPで詳しく見る by G-Tools

 中小企業が海外に進出する際に直面することが多いリスクを、進出計画段階、進出手続き段階、操業段階に分けて解説し、対応策を整理した冊子である。自社の潜在リスクを確認するチェックリストもついている。リスクマネジメントの一般論に加えて、国別、特にアジア各国に固有のリスクをまとめた表もあり、大変有益であった。今回はこの小冊子の内容について、私が知っている情報などを補足してみたいと思う(ページ番号は【詳細版】のもの)。

 【p14】このページに限らず、本マニュアルには「事業再編」という言葉が頻出する。実質的には撤退のことなのだが、撤退と言わずに事業再編と呼ぶのには2つの理由がある。1つ目は、撤退という言葉には後ろ向きのイメージがあるため、お役所が使いたがらないということである。中小機構が実施している「海外事業再編戦略推進支援事業」は、海外事業の縮小・撤退にかかる費用の一部を補助するものである。しかし、事業名はあくまでも「事業再編」となっている。

 2つ目は、国によっては撤退したくても撤退できないことがあるという理由である。その代表が中国で、中国で企業を清算することはまず不可能だと思った方がよい。当局は税の取りっぱぐれがないか、徹底的に調べ上げる。そして、何かと理由をつけては税金を要求する。当局とのやり取りは数年単位に及ぶこともあるため、それだけでも莫大な費用がかかる。だから、中国から撤退する場合には、企業を清算するのではなく、第三者に株式を売却した方が早い。

 【p37】合併先との交渉では、経営にどの程度影響を及ぼしたいのかを踏まえて出資比率を決めること必要だと書かれている。日本の場合は、議決権の3分の2以上を確保すれば安泰である。これは、3分の2以上を保有していれば、株主総会の特別決議を単独で成立させることができるためである。株主総会の特別決議は、定款変更、事業譲渡、解散・清算、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式併合、監査役の解任、資本金の減少など、とりわけ企業経営を左右する重要な事項について行われる(会社法309条2項)。

 一方、アジアの場合、日本の特別決議に相当する決議を行うのに必要な出資比率が3分の2以上ではないことがある。例えば、タイ、ベトナム、インド、インドネシアは4分の3(75%)以上が要求される(「アジア企業のM&Aに際しての実務上の留意点」を参照)。インドの場合はさらに注意が必要だ。インドの株主総会では、何と挙手で決議が行われる。しかも、議決権数ではなく、頭数で決まる。例えば、日本の親会社が75%の議決権を保有し、インドのパートナー企業3社が残りの25%の議決権を分け合っていたとする。株主は4名である。ここで、日本の親会社が特別決議事項に反対したとしても、インドの3名が賛成すれば、決議が成立してしまうのである。

 【p46、54】合弁先、提携先、仕入先、顧客企業については、事前に信用調査をすべきと書かれている。日本人は人がよすぎるせいか、相手の素性を密かに調べることに対して、何か申し訳ないことをしているかのように感じてしまう節がある。だが、海外ビジネスの場合は、見ず知らずの相手、価値観も考え方も全く異なる相手と一緒に仕事をしなければならない。中には、最初から日本企業を騙すつもりの人がいることも事実である。したがって、信用調査を通じて、ビジネスの相手として本当に適切かどうかを見極めることが欠かせない。

 信用調査はピンキリで、1社数万円でできる場合もあれば、百万円単位のお金がかかることもある。だが、これから年間数千万円の取引をするかもしれない相手がいたとして、仮に取引開始後にその企業の支払い能力に問題があることが発覚すれば、こちらは深刻な被害を被ることになる。そのリスクを百万円ほどの先行投資で予防できると考えれば、決して高くはない。

 仕入先の信用調査をする場合は、仕入先の顧客企業がその仕入先に対してどのような評価をしているのか、評判を調査できるとよい。仕入先は過去に品質問題を起こしていないか?仕入先はクレームに対して誠実に対応してくれるか?といったことが解る。顧客企業の信用調査をする場合は、支払い能力の程度を調べることが重要であることは言うまでもないだろう。過去3年分の財務諸表は最低限手に入れたい。そして、相手が誰であれ調査するとよいのが、訴訟履歴である。その企業がどんな訴訟を起こしてきたのか、逆にどんな訴訟を起こされたのかを見ると、企業の経営方針、組織体質、潜在的な債務などが見えることがある。

 【p46】5Sを徹底せよと書かれている。5Sを徹底すると品質が向上するという効果が期待できるのはもちろんだが、その他の効果もある。アジアの工場では、工具や治具、原材料が頻繁に紛失する。社員が盗んで売ってしまうためだ。そこで、5Sを徹底して工具などの置き場を明確にする。こうすれば、何が盗まれたのかすぐに解る。加えて、工場の守衛の協力を得ることも大切である。工場からモノが盗まれる場合、たいていは社員と守衛がグルになっている。つまり、窃盗を見て見ぬふりをしている。だから、守衛には窃盗を見つけたらボーナスを与えることにする。こうすれば、盗難の被害はぐっと減る(逆に言えば、ここまでしないと盗難は防げない)。

 日本人は自分で掃除をするというのが当たり前の習慣になっているが、アジアではそうでない場合も多い。イスラーム圏のマレーシア、インドネシアでは、掃除は使用人の仕事と見なされている。また、カースト制が未だに根強く残るインドでも、掃除は身分が低い人間がするものだとされる。一般の人は、自分がごみを捨てれば彼らの仕事が増えるのだから、自分はよいことをしているのだとさえ考える。こういう人たちに、日本の5Sを浸透させるのは容易なことではない。

 【p55】各国の風俗・宗教に配慮すべきと書かれている。具体例が列挙されているが、マニュアルではどこの国のことか明示されていない。おそらく、次の通りではないかと思われる。

 ・「他人の子供の頭をなでる行為は、地域によっては「頭は神聖な場所であり、他人が触れてはいけない」という考え方があり、極めて失礼な行為と捉えられる可能性がある」⇒タイ、ミャンマー。なお、マレーシア、インドネシアなどのイスラーム圏でも、「頭を触ると子どもの成長を妨げる」と考えられているので、注意しなければならない。
 ・「取引先担当者の信仰を確かめずにクリスマスカードを送る等の行為は控える」⇒マレーシア、インドネシア。イスラーム圏では、クリスマスカードを送ることは失礼にあたる。
 ・「宗教上の習慣(勤務時間中のお祈り等)には配慮する」⇒マレーシア、インドネシア。就業規則でお祈りの時間を定めたり、工場内に簡易的なモスクを設けたりなどの工夫が必要である。
 ・「飲酒が禁忌とされる宗教もあるため、コミュニケーションの一環として、飲酒を伴う接待への誘いは控える」⇒仏教国の中ではタイがお酒に厳しい。マレーシア、インドネシアなどのイスラーム圏では、クルーアン(コーラン)の中でお酒が禁じられている。
 ・「従業員を人前で叱るなどの面子をつぶすような対応はしないよう配慮する」⇒ほとんどのアジアの国に該当する。タイでこのようなことをすると、叱られた側の親族が報復として殺害行為に及ぶことがある。そのぐらい、面子は重要である。本マニュアルの他の箇所を読むと、インドネシア、中国、フィリピン、マレーシアが面子を重んじる国であると指摘されていた。

 【p68】突発的な残業を指示しても、社員に断られる場合があると書かれている。アジアの労働法は、日本と比べると概して労働者寄りである。そのため、残業が厳しく制限される、割増賃金が異常に高い、残業をさせる場合には法定の手続きを踏む必要があるなど、様々なルールがある。これに関しては、各国の労働法に関する情報を個別に収集するしかない。

 ただ、日本人が残業もいとわないことに対して、多くのアジア人は否定的な見方をしていることは共通の事実のようである。日本人は、時間に対して極めて正確であることを誇りとしている。ところが、アジア人に言わせると、「日本人は時間を守らない」という評価が返ってくる。「日本人は就業規則で1日の労働時間を9時~17時と定めているのに、17時に仕事が終わらない。だから、時間を守らない」というのがアジア人の言い分である。

 【p74】進出先の政治的・宗教的記念日には、テロや暴動が起きる可能性があるとあり、中国の例に触れられている。だが、肝心の日付が書かれていない。中国で重要なのは、①9月18日(満州事変)、②7月7日(盧溝橋事件)、③12月13日(南京大虐殺)、④9月3日(抗日戦争勝利記念日)の4つである。こういう日に新店舗をオープンするなどというのは自殺行為である。

2015年11月18日

海外進出する中小企業が直面するリスクとその対応策(海外ビジネスセミナーより)

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danger

 海外ビジネスセミナーでリスクマネジメントの話を聞いてきたので、その時のメモ書き。
 《設問》
 A社は中小製造業である。主要取引先からインドネシアに進出するよう要請を受け、社内でフィージビリティスタディを行った。その結果、採算が取れる見込みが立ったため、インドネシアに自社工場を建設することとした。A社がインドネシアで直面する可能性のあるリスクと、その対応策を考えよ(都合により、設問はかなり簡略化している)。
 《リスク①》進出後に主要取引先から発注が来なかった。
 ⇒嘘のような話だが、この手の問題に直面する中小企業は非常に多いという。主要取引先の営業を担当しているのは、現場の営業社員ではなく、たいていは役員クラスである。役員が「我が社がインドネシアに進出すれば、主要取引先は我が社に発注すると言っている」と主張すれば、他の社員は信用せざるを得ない。ところが、その役員の話は、契約書などの十分な裏づけがなく、単に主要取引先の担当者と口頭ベースで会話した程度にすぎないのかもしれない。

 こういうリスクを避けるためには、事前に契約書を交わすことができれば理想である。だが、主要取引先もこれから不確実性の高い海外ビジネスを展開しようとしているわけであり、早期の契約締結には及び腰になる。よって、より現実的な対応策としては、特定の主要取引先に依存した海外進出計画にせず、できるだけ多くの見込み顧客を作った上で進出するのが望ましい。

 《リスク②》工場が納期通りに建設されない。手抜き工事が多発する。
 ⇒QCDが守られないのは現地の建設会社を使っているからだと思われがちだが、日系の建設会社でも(旭化成建材の例があるように)手抜きは起きる。だが、中小企業に工場建設の専門家がいることはまれであり、自社で建設会社をチェックするのは難しい。

 その場合は、現地の専門家を使うようにする。現地でひと月20万円も出せば、かなり能力の高い専門家を雇うことができる。ひと月20万円だから、1年間雇っても240万円である。その程度の金額で、年間生産額が億単位の工場を安全に保てるのであれば、安いものである。

 《リスク③》現地で調達した原材料に品質上の問題がある。
 ⇒製造コスト削減を目的として海外に進出するケースは非常に多い。現地の原材料を使えば、大幅なコストダウンも可能である。ところが、日本国内でも仕入先を変更するのには勇気がいる。たとえネジ1本であっても、よく解らない企業のネジを使って品質不良が起きたら大問題になるからだ。まして海外の仕入先を使うとなれば、そのリスクははるかに大きくなる。だから、進出直後は日本から原材料を輸出して、労務費の分だけコスト削減を目指すのが無難である。

 工場運営が安定してきたら、徐々に仕入先を現地企業に切り替えていく。その際、必ず調査会社などを使って信用調査を行うと同時に、仕入先工場の視察も欠かさず実施する。仕入先の経営者と面談し、工場で5Sが徹底されているかをチェックする。契約締結後も定期的に監査を行い、高い生産基準が保たれていることを確認する。なお、工場を視察する自社社員は毎年違う人にするべきである。同じ社員が監査を続けると、仕入先の社員と癒着するリスクがある。

 《リスク④》建設費、原材料費などが急に高騰する。
 ⇒アジアは日本を上回るスピードで経済成長しているのだから、建設費、原材料費、労務費、電気・ガス・水道代などは急に上がると腹をくくった方がよい。労務費は、経済的な要因だけでなく、政策的に引き上げられることもある。ASEANの中には、最低賃金が毎年10%単位で上昇する国もある(以前の記事「「ラオス投資セミナー」に行ってきた(日本―ラオス外交関係樹立60周年)」では、日本のある大手企業がラオスの急激な労務費高騰に悩んでいる事例に触れた)。

 海外事業の計画を立てる際に、将来のコストのシミュレーションが1パターンしかないのはやはり不十分である。コストが急増する場合も想定して、何パターンか試算を行う。そして、最もコスト負担が重たいケースでも事業が継続できることを確認する必要がある(よいシミュレーションとは、結果が取りうる値の範囲を示し、その範囲内である値を示す確率を明らかにすることである。ただ、時間が限られた中でそこまで厳密なシミュレーションを行うのは難しいため、実務の場面ではいくつかのパターン(シナリオ)を示すことで代用することが多い)。

 《リスク⑤》現地の社員(ワーカー)が集団離職する。
 ⇒日本と海外では、企業に対する帰属意識に差があり、海外ではどうしても離職率が高くなる。そこで、人間関係を重視する日本的経営によって、社員の忠誠心を高めることが1つの対策とされる。ただ、ワーカーが集団で離職する場合には、別の問題が潜んでいる。

 通常、現地でワーカーを採用する前には、ワーカーの採用を行う人事担当者を現地で採用する。そして、その人事担当者に権限委譲をして、ワーカーを採用してもらう。ところが、人事担当者に任せきりにすると、人事担当者の家族や親類ばかりを集めてくることがある。この状態で特定のワーカーが業務内容や待遇に不満を持てば、不満がすぐに伝搬し、皆で結託して集団離職することになる。だから、たとえ人事担当者に権限委譲したとしても、面接にはSkypeなどを使って日本本社の社員を参加させるなど、モニタリングをするべきである。

 《リスク⑥》日本から現地法人社長として駐在したキーマンが病気になる、死亡する。
 ⇒駐在員は非常に忙しい。特に、現地法人を立ち上げた直後は、顧客への営業、ワーカーの育成、製造ラインの確立、日本からの原材料輸入、現地当局との関係構築など、やるべきことが山ほどある。そういう状況を、駐在員を派遣した日本本社は意外と解っていない。日本本社は現地法人の様子を知りたいがために、やれあの報告書を出せ、これを調べろと次々と指示を出す。それが駐在員を苦しめる。挙句の果てに、「駐在員は海外赴任手当をもらい、かつ物価の安い国にいるのだから、さぞかしいい暮らしをしているのだろう」などと嫌味を言う。

 日本本社は、駐在員を過労にしないよう配慮するのも仕事である。決して、駐在員の仕事を増やすことが仕事ではない。それでも、キーマンに万が一のことが起きるかもしれない。そういう事態に備えて、代替要員、後継者を日本国内で確保しておくとよい。

 《リスク⑦》テロ、政変などが起きて工場運営ができなくなる。
 ⇒セミナーの講師によれば、「こればかりはどうしようもない」。最悪の場合、工場を全部捨てて日本に帰ってきても、日本本社がつぶれないような計画を立てるべきだという。仮に、海外進出して間もなくテロや政変が起きた場合、海外現地法人の債務を日本本社が背負うことになる。いきなり債務が増えた日本本社が、それでも経営を続けられるかどうかがポイントとなる。その債務に耐えるには、実は日本本社も向こう数年で国内事業を拡大させる必要があるのかもしれない。

 多くの日本企業は、国内市場に限界を感じて、海外市場に進出する。しかし、逆説的な話なのだが、海外に進出するからには、海外のリスクをカバーするために、国内事業も拡大しなければならないのである。日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、海外進出している企業は、国内事業の売上高も伸びているというデータがある。その裏には、こういう事情も影響しているのかもしれない(以前の記事「日本政策金融公庫総合研究所『中小企業を変える海外展開』―日本企業の海外展開とその影響に関するアンケート」を参照)。


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