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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

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(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2017年08月16日

『中国の「最前線」はいま(『世界』2017年8月号)』―中国本土を批判できない左派、他

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世界 2017年 08 月号 [雑誌]世界 2017年 08 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-07-07

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 (1)「中国の『最前線』はいま」という特集タイトルから、私は勝手に、中国本土で行われている法輪功の弾圧やチベット、ウイグル地区での人権抑圧などが取り上げられるものだと思い込んでいた。あるいは、先月死去した民主活動家・劉暁波氏の軌跡について考察がなされるものだと思っていた。そして、これらの事象に対して、左派らしく、自由、基本的人権、民主主義などの観点から切り込んでいくことを期待した。ところが、蓋を開けてみると、「最前線」とは香港、台湾のことであり、両地域の民主主義が危機に瀕しているという内容に終始していた。

 以前の記事「『小池劇場と不甲斐なき政治家たち/北朝鮮/憲法改正へ 苦渋の決断(『正論』2017年8月号)』―小池都知事は小泉純一郎と民進党の嫡子、他」でも書いたように、左派、特に日本の左派はねじれた思想の持ち主であると感じている。本来の左派は、国家という権力装置をなくし、世界市民社会を実現して究極の平等主義を手に入れようとする。そこにおいては、個は全体の中に埋没し、一が全体であり、全体が一であるという社会が出現する(だから私は、全体主義につながる可能性があると危惧している)。

 ところが日本の左派は、個を埋没させるためにまずは自己否定を行う。つまり、日本という国家を毛嫌いし、太平洋戦争でアジアに多大な被害をもたらした三流国家であると貶める。その自己否定の反動として、被害者である中国や韓国を過度に持ち上げる。自己否定すると同時に、他者肯定をする。左派にとって、中国や韓国は、日本とは違い一流国家である。その一流国家に対して、南京事件や慰安婦問題をめぐって永遠に謝罪し続ける。非常に矛盾したことであるが、日本の左派は、自己否定をしておきながら、中国や韓国にへつらうことで、自己の生存空間を確保しているのである。だから、日本の左派は、中国本土(や韓国)の民主主義が危機に陥っていても、正面からそれを批判できない。せいぜい、次のことを言うのが関の山である。
 「表題の『一国両エン(※「厭」の下に「鬼」)』が示すように、香港は正に困難に直面している。香港の高度な自治は北京政府の未だかつてないほどの深刻な侵害を受け、一方で北京政府は香港の高度な自治と制度が中国国内に浸透し、絶対的な支配権に脅威を及ぼすのではないかと危惧している」
(高橋政陽「「一国両エン」返還20年、香港のいま」)
 前掲の以前の記事でも書いたように、日本の左派は、一方で中国や韓国を恭しく扱う一方で、左派が本当に味方するべき社会の弱者に対しては優越的な態度をとる。後者の傾向は、日本に限らず、他国の左派にも見られるようである。左派は、弱者は無知な者として扱う。その無知な人々の上に立って、自らの能力と知識をひけらかし、有能さを示そうとする。そして、人々の無知につけ込んで、左派にとって都合のよい情報を吹き込もうとする。
 台湾有事の際にマラッカ海峡を第七艦隊が封鎖すれば、エネルギー資源の入手経路がただちに遮断される「マラッカ・ジレンマ」は、米国の「核の傘」の下にある日本には縁遠い話ではあるが、中国にとっては重大関心事である。
(羽根次郎「世界のなかの「一帯一路」構想とその思想的可能性」)
 マラッカ海峡は、日本が中東から石油を輸入する際のシーレーンの一部をなしているため、非常に重要な拠点であることは周知の事実である。安保法制の議論の時にも、中国の南シナ海における暴挙を報じる時にも、散々取り上げられたことである。それを「日本には縁遠い話」としてしまうのは、日本人を無知な人々だと思いたい著者の精神が表れているのではないかと勘繰ってしまう。幸いなことに、この記事は読者に対して何か特定の思想を押しつけようとするものではなかった。また、記事の最後で、以下のようにボロが出ていた。
 また、(欧州や中東などの)西方との関係を日本では南シナ海やマラッカ海峡抜きに想像できないのも無理はない。日本にやってきた西方の人びとはそうした海域を通ってきたのだ。(同上)
 左派は本当の意味で弱者の声に耳を傾けない。アメリカ大統領選挙で民主党のヒラリー氏が敗れたのは、大衆のニーズを汲み取ることができず、それどころか大企業に肩入れして、ウォールストリートで講演をしては何千万円という報酬を得ていたからである。イギリスの左派も、弱者からの乖離傾向が見られた。ところが、先のイギリス総選挙では、バーニー・サンダース氏に倣って、左派が草の根運動を展開したことが報告されている。これこそ左派の本来の姿である。
 これまで、コービンの熱心な支持者たちは高学歴の若者たちが多く、彼らはツイッターで政治を語り合うばかりで、草の根の選挙活動を行なわないと批判されてきた。が、6月の総選挙で彼らは変わった。若者たちは1軒1軒のドアをノックして、研修で教わったとおりに有権者の心配事や不満、労働党への批判も聞き、ポジティヴな態度で労働党の政策を語り歩いた。
(ブレイディみかこ「イギリス総選挙で見せた左派の底力 進歩的なドブ板政治」)
 (2)以前の記事「岡本隆司『中国の論理―歴史から解き明かす』―大国中国は昔から変わらず二項対立を抱えている」でも書いたように、現代の大国、すなわちアメリカ、ドイツ、ロシア、中国は皆、二項対立的な発想をする。山本七平によれば、二項対立はセム系民族の特徴であるらしい。なぜセム系は二項対立で物事を考えるのか、また、セム系ではない4大国の人々が二項対立的な発想をするのはなぜなのかについては、現在も探索を続けているところである。

 大国は、自国の外に常に仮想敵国を設定することで、対立構造を創造する。さらに、国内にも二項対立を抱える。これをアメリカ対中国で説明すると次のようになる。周知の通り、アメリカと中国は現在様々な分野で対立している(もっとも、アメリカと中国の関係は、アメリカとロシアの関係よりも複雑であり、米中間では色々な協力もなされていることを付記しておく)。アメリカ、中国ともに、国内にも二項対立を抱えている。アメリカ国内には、多数派である反中派と、少数派である親中派がいる。中国国内には、多数派である反米派と、少数派である親米派がいる。

 アメリカと中国の間では、アメリカの反中派と中国の反米派が対立している。同時に、アメリカ国内では反中派と親中派が、中国国内では反米派と親米派が対立している。一方で、アメリカの親中派は、中国の親米派と裏でつながっている。このような関係にあるため、アメリカの反中派と中国の反米派は、お互いの対立に全力を注ぎたいが、国内でそれぞれ親中派、親米派と戦っている以上(しかもアメリカの親中派は中国の親米派から、中国の親米派はアメリカの親中派から支援を受けている)、全てのエネルギーを対中、対米に振り向けることができない。このことによって、大国間の深刻な対立を何とか回避することができる。

 中国は、香港と台湾に対して一国二制度を敷いている。つまり、国内において対立構造を保持している。中国は香港と台湾を本土に取り込んで、文字通り「1つの中国」を実現することを目指しているようだが、個人的にこれは危険な兆候だと思う。仮に1つの中国が実現されると、国内の対立構造がなくなり、国内のエネルギーが全て対立するアメリカに向けられる。また、国内政治は共産党一党に集約され、政治の失敗が許されない。少しでも政治が失敗しそうなサインが生じれば、国民の目を危機から逸らすために、対外的に強硬な態度に出ることが予想される。しかし、このやり方にも限度があり、政治の失敗がいよいよ明らかになった際には、共産党支配が崩壊するに違いない(中国の歴史とは、政治の失敗をめぐる王朝の興亡の歴史である)。矛盾した言い方になるが、中国は現在の一国二制度を維持しておくのが最善であると思う。

 (3)教育勅語を教育の現場で使ってもよいかどうかが議論を呼んだが、中嶋哲彦「なぜ教育勅語の復活を願うのか―「徳」の樹立と建国の一体性」によれば、1948年6月19日の衆議院決議で、教育勅語に「指導原理性を認めない」ことが明確に宣言されたという。参議院も同日、「教育勅語等が、あるいは従来の如き効力を今日なお保有するかの疑いを懐く者あるをおもんばかり、われらはとくに、それらが既に効力を失つている事実を明確にする」と決議した。これらを受けて文部省も、国会決議の趣旨を徹底すべく、教育勅語の回収を指示した。よって、政府が今年の国会で、教育勅語を教育現場で活用できる可能性について触れたことは問題がある。

 だが、この部分についてはどうだろうか?
 むしろ、文部科学省は、徳目主義とは反対に、「考える道徳」を通じて、①新自由主義的社会秩序に対応する生き方を自ら主体的に選択する価値観と思考回路から構成された市民道徳と、②社会の経済秩序と国家による政治的統治に対する内外からの侵犯に対する主体的安全保障意識、の育成を目指しているのではないか。
 特に、②について、教育は子どもに対して十分に考える機会を与えたであろうか?左派に浸食された教育関係者は、「安保法制は戦争につながる」、「徴兵制の復活をもたらす」と判を押したように主張し、(1)で述べた「弱者の上に立つ左派知識人」は、過去の国会・政府答弁資料などを持ち出して、机上における文言の分析だけを通じて安保法制を憲法違反と結論づけた。その結果、安保法制=悪という印象だけを子どもたちに刷り込ませたのではないだろうか?

 現在、日本を取り巻くアジアの情勢がどのように変化しているのか?その結果、日本にとってどのような脅威が発生しているのか?それらの脅威に対して、日本はどんなシナリオで対応するべきなのか?そのシナリオを実行する際に、障害となることは何か?その障害を取り除くにはどうすればよいか?こういったことを議論することが、②の主体的安全保障意識の醸成につながるはずである。さらに、現在の安全保障は、自国のみを対象とする安全保障から広がりを見せている。なぜ、他国の安全を日本が保障する必要があるのか?保障するべきだとして、どの範囲まで保障するのか?現在の日本には、他国の安全を保障できる能力があるか?こういった論点も俎上に載せなければならない。我々が見るべきは過去の資料ではなく現実である。

2017年07月17日

『韓国新政権と東アジアの未来/住宅保障 貧困の拡大をくいとめるために(『世界』2017年7月号)』―びっくりするほど呑気なリベラル、他

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世界 2017年 07 月号 [雑誌]世界 2017年 07 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-06-08

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 以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」でも書いたが、アメリカにとっては、朝鮮半島が南北に分裂したままの方が都合がよい。アメリカと中国・ロシアという大国が直接対立せず、代理戦争を朝鮮半島という狭い領域に閉じ込めておくことができるからだ。だが、最近は、アメリカがどう動いても(あるいは動かなくても)、朝鮮半島が社会主義国家として統一されることは避けられないような気がしてきた。そして、アメリカもこのことに気がついているはずである。

 まず、アメリカが動かない場合であるが、北朝鮮は国際社会の警告を無視して核兵器の開発を進める。以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」でも書いたように、北朝鮮がアメリカ本土にまで届く核兵器を開発する目的は、北朝鮮が韓国を侵略して韓国を奪取する際に、アメリカに邪魔されないようにするためである。これにより朝鮮半島が北朝鮮主導で統一された場合、韓国の財閥が握っている大量の資金が北朝鮮の核兵器に流れ、日本の隣に巨大な核兵器保有国家が誕生する恐れがある。ただ、北朝鮮としても、この作戦で犠牲になる人々があまりにも多すぎるので、実行には慎重にならざるを得ない。

 現在、アメリカは中国と協力して北朝鮮に圧力をかけている。この場合に起こりうるシナリオを以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」で書いたが、最も可能性が高いのは、金正恩政権が倒れ、親中政権が誕生するというものである。中国のおかげで北朝鮮の核武装は解除されるであろう。しかし、北朝鮮に誕生するのは中国の傀儡政権である。そして、これで喜ぶのは韓国である。文在寅大統領は生粋の親北・親中派であり、現在の韓国の世論も親北に傾いている。韓国はいきなり南北統一とはいかなくとも、連邦制など統一の道を模索するに違いない。現に、文在寅は南北の文化交流から始めることを検討しており、早速、平昌オリンピックの一部を北朝鮮で開催するとか、南北合同チームを送るなどと言っている。

 では、トランプ大統領が金正恩党委員長と交渉する場合はどうであろうか?まず、トランプは北朝鮮に対し、アメリカの方を向いている核兵器の縮小を迫る。金正恩は、その条件を呑む代わりに、アメリカ国内で北朝鮮の方を向いている核兵器の縮小を求める。ただ、米朝間交渉では、北朝鮮の方がアメリカよりもパワーを持っているため、交渉はこれだけにとどまらない。金正恩はトランプに対し、金正恩体制の承認を要求する。これに対しアメリカは、金正恩体制を承認する代わりに、北朝鮮がアメリカの同盟国である韓国に手出しをしないことを約束させる。さらに金正恩は、在韓米軍の縮小もトランプに求めるだろう。トランプはその要求を受け入れる代わりに、現在北朝鮮国境付近でソウルの方を向いている何千もの大砲を削減することを要求する。

 これによって、北朝鮮は、アメリカから核兵器で攻撃されることを心配せず、韓国の在韓米軍を恐れることなく、南北統一に向かうに違いない。「北朝鮮は韓国に手出しをしない」という約束を金正恩が破り、さらに韓国もアメリカを裏切ったことになるが、アメリカは韓国の大統領が文在寅になった時点で、ある程度覚悟を決めたのではないかと思われる。ただ、この場合も、一気に南北統一が実現するというよりは、まずは連邦制から始まると予想される。というのも、統一後の国家において、北朝鮮と韓国の政権のどちらを正統とするかという問題があるからだ。

 社会主義政権としては金正恩に分があるが、韓国民が金一族による支配をどれだけ受け入れるかは未知数である。一方の韓国政権については、韓国憲法の前文に「大韓国民は3・1運動で成立した大韓民国臨時政府の法統」を継承するとあるものの、「大韓民国臨時政府」とは1919年の3・1運動後、海外で朝鮮の独立運動を進めていた活動家によって、上海で結成された亡命組織であり、実は国際的に正統性が認められた政権ではない。内紛が絶えなかったことから国際的な評価を下げ、枢軸国・連合国双方からいかなる地位も認められず、国際的承認は得られなかったのである。その亡命政権の理念を受け継いでいるという韓国憲法の前文には無理がある。となると、現存の南北政権とは異なる第三の政権を新たに創造するしかない。

 「韓国新政権と東アジアの未来」という特集タイトルから、今後の東アジアの動静について、リアリスティックな分析を期待していたのだが、左派は拍子抜けするほど呑気であるというのが正直な印象であった。自国の北部に猛スピードで核兵器開発をする国がある中で行われた韓国大統領選挙について、「変化への熱望を集中できる革新的議題がない」(李南周「新政権が時代転換に貢献する道」)と述べられていたのには驚いてしまった。

 朝鮮半島がこのような状況にある時、日本には何ができるであろうか?私の個人的な見解は「何もしない」ということに尽きる。大国同士の対立にどっぷりと巻き込まれている小国同士の対立に、日本のような小国が安易に近づくのは危険である。というのに、左派はアメリカがキューバと国交を回復したのに倣って、日本も北朝鮮と国交を回復せよと進言する。
 現状を基本的に維持したままということは、日本は経済制裁を維持したまま、北朝鮮は核兵器を保有したまま、拉致問題の従来の回答を維持したままで、国交を樹立して、その新しい基盤の上で、一切を国交のある国同士の交渉で前進をはかるということである。
(和田春樹「北朝鮮危機と平和国家日本の平和外交」)
 自国民を拉致して殺害したかもしれず、凶悪な核兵器を持つ国とまずは国交を樹立せよと言うわけだ。例えるなら、自分の家族を誘拐して殺害した疑いがあり、現在もなお凶器を振り回す隣人とまずは仲良くせよと言っているようなものであり、無茶苦茶である。よしんば南北統一が実現して、中国寄りの国家になったとしても、その新国家が日本のような二項混合的な発想によって国創りをする、あるいはしようとしているのであれば、日本は新国家に支援の手を差し伸べる準備がある。そうではなく、中国にべったりで反米・反日を掲げ、現状と変わらないなら、古田博司氏が唱える「助けない、教えない、関わらない」という非韓三原則に従うのが賢明である。

 本号では、NHKスペシャル『憲法70年 ”平和国家”はこうして生まれた』への言及もあった。憲法9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という文言はGHQ案にはなく、日本人が独自に入れた文言である。よって、平和憲法は日本人によって作られたものだ、というのが番組の趣旨であった。しかし、これは重大な事実誤認を含んでいる。

 終戦後、憲法改正に着手した日本政府は大日本帝国憲法の一部条項を修正し、陸海軍をまとめて「軍」とする、軍事行動には議会の賛成を必要とする、という規定のみを盛り込んで済ませるつもりであった。1946年(昭和21年)2月8日に憲法問題調査委員会(松本烝治委員長)がGHQに提出した「憲法改正要綱」(松本案)では、次のような条文となっている。
 憲法改正要綱
 五
  第十一条中ニ「陸海軍」トアルヲ「軍」ト改メ且第十二条ノ規定ヲ改メ軍ノ編制及常備兵額ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルモノトスルコト(要綱二十参照)
 六
  第十三条ノ規定ヲ改メ戦ヲ宣シ和ヲ講シ又ハ法律ヲ以テ定ムルヲ要スル事項ニ関ル条約若ハ国ニ重大ナル義務ヲ負ハシムル条約ヲ締結スルニハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要スルモノトスルコト但シ内外ノ情形ニ因リ帝国議会ノ召集ヲ待ツコト能ハサル緊急ノ必要アルトキハ帝国議会常置委員ノ諮詢ヲ経ルヲ以テ足ルモノトシ此ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ報告シ其ノ承諾ヲ求ムヘキモノトスルコト
 この草案には、平和主義の要素など全くない。これに対して、GHQでは戦争と軍備の放棄の継続が画策されていた。その意思は、憲法草案を起草するに際して守るべき三原則として、最高司令官ダグラス・マッカーサーがホイットニー民政局長(憲法草案起草の責任者)に示した「マッカーサー・ノート」に表れている。その第二原則には次のようにある。
 国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が日本軍に与えられることもない。
 9条の制定過程の紆余曲折はここでは省くが、9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という文言は、第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正小委員会での審議過程において、芦田均によって第9条に加えられた修正(いわゆる芦田修正)であり、マッカーサー・ノートにおける「日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる」が復活したものである。だから、9条は日本人の手によるものとは到底言い難い。
 小西豊治『憲法「押しつけ」論の幻』(講談社現代新書)のように、日本国憲法の「国民主権」の概念が、日本人憲法学者鈴木安蔵の発案であることを以て、日本国憲法は日本人によって作り上げた憲法だ、などと主張する向きもある。だが、これは、「憲法制定権力」の問題を無視した暴論であり、自身の主張そのものが「幻」である。日本国民から「憲法制定権力」が奪われ、全く日本国民の与り知らぬ間に憲法が強制されていた。これが歴史の真実であり、だからこそ、戦後一貫して保守派は、憲法の改正、あるいは自主憲法の制定を訴えてきたのである。
(岩田温「どうしてそうなるの?左曲がりの憲法改正論」)
月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-09-01
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 上記引用文にあるように、日本国憲法は自主憲法とはとても呼べない。右派は国防をアメリカに依存しつつ、憲法はアメリカからの押しつけだと批判する。右派は基本的に現実的でいいところ取りのスタンスであるから、こうした矛盾、アメリカに対するあべこべな態度が成立する。ところが、左派は論理的に筋が通っていないと許せないタイプなのだろう。平和主義をうたった憲法は是が非でも守りたい。しかし、それがアメリカからの押しつけであるというのでは具合が悪い。そこで、どうにかして日本人の手によるものであると言おうとしているように見える。

 NHKは以前にも重大な誤報をしている。2016年8月6日に放送された『決断なき原爆投下』がそれである。詳細は『正論』2017年2月号の有馬哲夫「驚くべきNHK特番はここにも・・・ トルーマンは原爆投下を決断していない?」をご参照いただきたいが、NHKはトルーマン大統領が原爆投下の意思決定をしていないと放送した。だが、実際には、

 ①アメリカ、イギリス、カナダの間ではケベック協定が結ばれており、原爆の開発と使用について3か国が同意していた。
 ②原爆の使用について討議し、大統領に諮問する「暫定員会」が設置されていた。
 ③トルーマンの日記には「私ほど原爆の使用に心を痛めている人間はいません」とあるが、トルーマンの日記には偽善的・自己弁護的な言葉が多く、現に「けだものと接するときはそれをけだものとして扱わなければなりません」という記述もある。
 ④皇室維持条項の入ったポツダム宣言を出せば日本が降伏すると知っていたにもかかわらず、トルーマンは敢えて皇室維持条項を削除した。

というのが事実である。

正論2017年2月号正論2017年2月号

日本工業新聞社 2016-12-28

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 衆議院においては結果において429人のうち421人でありましたが、とにかく殆ど全員に近きものをもって可決せられ、まして貴族院においてももとより深い議論はありましたが、結局において300人のうち2人を除いて298人によって可決させられたのであります。
(桐山桂一「「文一道」でゆく 憲法大臣・金森徳次郎の議会答弁(中)」)
 本号の別の箇所では、憲法大臣として連日国会の答弁に立った金森徳次郎の日記への言及もあった。帝国議会では、衆議院、貴族院のいずれにおいても、圧倒的多数の賛成によって憲法が成立したことが記されている。この事実をもって、日本国憲法は、国民が選挙で選んだ代表者によって制定された国民の手による憲法であると言いたいのだろう。しかし、実際にはこの選挙はGHQによって操作されていたことを指摘しておかなければならない。
 国会で議論されたことが重要なことであるかのように池上氏は主張しているが、これも重要な事実を隠蔽したうえでの主張に過ぎない。確かに、国会で憲法について議論がなされたのは事実だが、この国会議員の選び方にもGHQは関与していた。すなわち「公職追放」という形で、自分たちに都合の悪い政治家の立候補を不可能にしたうえでの選挙であったことを指摘しておかねば、「真実」とは言えないであろう。
(岩田温「シリーズ第10回 日本虚人列伝「池上彰」 中立を装った左翼 底の浅さが目に余る」)
正論2017年7月号正論2017年7月号

日本工業新聞社 2017-06-01

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2017年06月16日

『共謀罪と「監視国家」日本(『世界』2017年6月号)』―「帝国主義」は終わっていない

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世界 2017年 06 月号 [雑誌]世界 2017年 06 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-05-08

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 以前の記事「『「坂の上の雲」ふたたび~日露戦争に勝利した魂を継ぐ(『正論』2016年2月号)』―自衛権を認める限り軍拡は止められないというパラドクス、他」、「『死の商人国家になりたいか(『世界』2016年6月号)』―変わらない大国と変わり続ける小国、他」で書いたことと重複するが、国家には自衛権があることを否定する人はまずいない。だが、仮に世界中の全ての国が最低限の自衛権のみを持つことを約束するならば、どの国も他国を攻撃することはないから、自衛権そのものが不要となるはずである。自衛権があるということは、本来は認められていない武力攻撃を行う国が現れる可能性を想定している。

 ここで、A国とB国という2か国があり、B国が明らかに自衛の範囲を超えた軍事力を保有しているとしよう。A国は、B国から攻撃されるかもしれないと感ずるだろう。そこで、A国は自衛のレベルを上げる。するとそれを見たB国は、A国が過剰な軍事力を保有してB国を攻撃しようとしているのではないかと感じる。今度は、B国が自国の軍事力のレベルを上げる。こうして、A国とB国の間で軍拡競争が起きる。一定のレベルまで軍拡競争が進むと、両国の緊張はピークに達する。この段階に至って初めて、両国は最悪の状況を避けるために交渉に入り、お互いの軍事力削減に努める。もちろん、そのまま軍事衝突に突入する恐れもあり、交渉は綱渡りになる。

 核兵器に関しても似たようなことが言える。核兵器の抑止力を説明するものとして、「相互確証破壊戦略」というものがある。これは、相手国から核攻撃を受けても、こちらが核兵器で必ず反撃・報復すると約束することで、相手国に核攻撃を思いとどまらせるというものである。しかし、仮に相互確証破壊戦略が完全に機能しているならば、どの核保有国も核兵器を保有する意味を失うから、世界から核兵器はなくなるはずである。

 ところが、実際には一向に核軍縮は進んでいない。これは、仮に相手国から反撃・報復を受けても、こちらがさらに攻撃を加えることで相手国を殲滅させることができると考えているからに他ならない。核兵器に関しても、拡大の動きは止まらない。そして、核保有国同士の緊張がピークに達すると、両国は危険を回避するための交渉に入り、お互いの核兵器削減を検討する。冷戦時代の米ソの対話はこのようにして行われた。そして、北朝鮮が急速に核の能力を向上させる中で、トランプ大統領がようやく対話の準備があると発言したのもその一例である。

 リベラルの人々は、そんな回りくどいことをせずに、最初から軍事力や核兵器を全面的に禁止してしまえば、世界平和が実現するのにと思うことだろう。しかし、リベラルの世界観は、全ての人類が完全に理性的で、お互いに完全に信頼できることを前提としている。これに対して、現実の国際政治の世界では、国家も人間も理性が限定されており、基本的にはお互いのことを信頼しておらず、相手のことを恐れている。だから、平和を実現するには、一歩間違えば大規模な武力衝突に至るような方法と表裏一体の道を選択するしかないのである。

 リベラル派は、日本の平和主義は素晴らしいと言う。憲法9条をノーベル平和賞の対象にしようという動きもあるようだ。しかし、日本が戦後曲がりなりにも平和にやってこられたのは、アメリカが核の傘を日本にかぶせ、日本国内に米軍基地を置いて日本を守ってくれたからである。その事実に目をつぶって、日本は最も進んだ平和主義の国だと主張するのは傍ら痛い。現在の日本は、例えるならば、家の中にいる日本人は武器を持たないが、ドアの外ではピストルを持ったアメリカ人に警護してもらっているようなものである。これのどこが平和主義なのだろうか?

 日本人は、自分が直接関与していないことに対して恐ろしく無頓着になるという悪癖がある。話が国際政治の舞台から外れることをご容赦いただきたいが、日本の製造業は過去の公害などの反省に立って、高い環境意識の下に工場を運営していると思われている。日本人は、そのようにして製造された環境負荷の低い製品を使用・消費していると信じて疑わない。

 ところが、工場から出る廃水の処理を専門にしているある中小企業の経営者から聞いた話によると、廃水の汚染度が国などの基準を満たさない工場が少なくないのだという。基準を守ろうとすると莫大な費用がかかるというのがその理由である。この中小企業は最近、従来の技術よりもはるかに低コストで廃水をきれいにする新技術を開発した。それを聞きつけた日本中の製造業から問い合わせが絶えないそうだ(福島県からも、放射能の除染に使えないかと聞かれている)。裏を返せば、今までいかに多くの製造業が基準を満たさない廃水を垂れ流していたかということである。多くの日本人はこういうことを知らない(恥ずかしながら、私も知らなかった)。

 本号には、「私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか―世界からおくれをとる日本」(枝廣淳子)という記事があった。卵や豚肉は、効率的に生産することが最優先されており、鶏や豚が動物らしく生きることは二の次にされている。具体的には、鶏や豚が自由に動くことのできないほどの狭いスペースに押し込み、鶏なら年間に約300個の卵を、豚なら年間に約2.5頭の子豚を産むように厳格に管理される。欧米では「アニマルウェルフェア」というコンセプトが広まっている。動物にふさわしい環境で飼育されたものを消費しようという考え方である。食品スーパーの商品には、アニマルウェルフェアの基準を満たしているかが一目で解るラベルが貼られている。日本人は「いただきます」、「ごちそうさま」と言うことで動物の命を大切にしていると信じている。だが、動物の飼育の実態を知る人は少ない(恥ずかしながら、私も知らなかった)。

 話を元に戻そう。日本はアメリカの軍事力を頼りにしており、全く平和主義ではない。そして、近年は、アメリカが守ってくれているにもかかわらず、日本への侵入を試みようとする国がある。言うまでもなく中国である。中国は尖閣諸島近辺で、何度も領海侵犯をしている。日本人の家の前でアメリカ人がピストルを持って防護しているのに、中国人が包丁を振り回してアメリカ人の静止を振り払い、家の中に入り込もうとしているようなものである。仮にこういう状況になったら、家の前の警備をもっと厳重にするのが普通だろう。ところが、平和主義を掲げる左派は、「戦争法反対」などと口を揃えて主張する。あまりにもおかしな話である。

 中国の脅威に対しては、日本の防衛能力を上げなければならない。すると、冒頭で書いたA国・B国と同じになるが、日本の軍事力強化を見た中国は、日本が中国を攻撃するのではないかと感じ、さらに軍事力を上げる。日本はそれに対抗して軍事力を上げる。こうして、両国の緊張がどうしようもなく高まったところで、対話の可能性が生じる。この対話を日本にとって有利に進めるには、中国に「日本を攻撃すると中国に損害が生じる」と思わせる状況を作っておくことが重要である。つまり、日中がお互いの軍事力を高める一方で、日本に対する中国の依存度を強めておく。私は、安倍首相が最近言及した、AIIBへの加盟というのはいいアイデアだと考える。

 日本が対中戦略を練る上で、私はアメリカがある日突然はしごを外す可能性も視野に入れておくべきだと思う。アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領は、同盟国を守らないかもしれない。アメリカを当てにできないなら、日本は自らの手で自国を防衛するしかない。幸いにも、日本は国土が狭いため、攻撃の対象となる地域が限られる。それぞれの地域について綿密な防衛戦略を立て、仮に中国が日本を攻撃してきた場合はその防衛戦略で対抗し、早期に政治的・外交的決着に持ち込むというシナリオを用意しておく。国家の自然権である自衛権をまともに行使できる「普通の国」になるためには、こうした準備をしておくことが必要不可欠である。

 国家の成立には諸説あるが、ホッブズ的な考え方に従えば、人間は自然状態に置かれると闘争が絶えないため、各々の財産を守るために国家という約束の共同体を創造したとされる。初期の段階では、世界中に局所的に国家が誕生する。国家はまだら模様で、どの国家も存在しない空白地帯もある。ところが、ある程度の時期が過ぎると、最初に設立した国家では、国民が生活するのに十分な財産・資源がないことが判明する。すると、国家は周辺の空白地帯へと領土を拡大し、新たな資源を獲得する。こうして、徐々に世界から空白地帯は消えていく。空白地帯がなくなって、世界中に国家が隙間なく成立した後でも、なお自国の資源が足りないと思う国家は、遠方の国家を略奪するようになる。これが帝国主義であり、略奪された国家は植民地となる。

 20世紀の2度の世界大戦を経て、植民地は禁じられることになった。ところが、帝国主義の時代は終わっていない。未だに、領土拡大を画策する国が存在する。ロシアのクリミア編入もそうであるし、中国が南シナ海を自国の領海だと主張してはばからないのもそうである。帝国主義は、資源を奪うか奪われるかというゼロサムゲームを戦っている。もし、帝国主義の時代に終止符を打とうとするならば、限られた資源から双方の国が利益を得られるようなWin-Winの関係構築を志向する新しいゲームのルールが必要となるのであろう。ただし、私の浅知恵では、それが具体的にどのようなルールになるのか、現時点では少しも明らかにすることができない。


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