2017年11月07日
『致知』2017年11月号『一剣を持して起つ』―米朝対話が成立するとはアメリカが韓国を捨てることを意味する(ことを左派は解っていない)、他
一剣を持して起つ 致知2017年11月号 致知出版社 2017-11 致知出版社HPで詳しく見る by G-Tools |
近藤:中国の場合、国内にコピー選手をつくるんです。つまり福原愛なら福原愛のコピー、平野美宇なら平野美宇のコピーといった具合に、同じような戦い方をする選手をつくった上でその対策を練ってくる。中国と言うと模倣品のイメージがどうしてもつきまとう。そして、それはスポーツの世界でも同じようである。ただ、同記事で紹介されていたが、中国には「人無我有」、「人有我磨」、「人有我創」という諺があるそうだ。最初は自分だけが技術を持っている段階である。しかし、時間が経てば相手が自分の技術を真似してくる。そうしたら、相手に負けないように技術に磨きをかける。さらにそれだけでは飽き足らず、今度は相手に真似されないよう、新しい技術を創ってしまう。
国分:それはすごいな。
近藤:なんせ中国には指導者と選手のプロが3万人はいますから、そういったことも可能なんです。日本には30人くらいしかプロはいませんから土台からして違う。
(国分秀男、近藤欽司「かくて日本一へと導いてきた」)
中国人にはこういうメンタリティがあることを忘れてはならない。私は、中国が21世紀のイノベーション大国になり得る十分なポテンシャルを持っていると思う。そして、日本は、かつて中国から技術や社会制度を学んだように、中国のイノベーションを輸入し、日本流にアレンジすることで生き延びていくのではないかと予想している。非常に格好悪いと思われるかもしれないが、これが小国・日本の一種の宿命である(以前の記事「『視座を高める(『致知』2016年5月号)』―日本は中国がイノベーション大国になることをアシストし、彼らから学べるか?」を参照)。
さて、米朝関係が膠着状態に陥っている。北朝鮮は体制を維持するために核開発に邁進していると言われることが多いが、体制維持が目的であればアメリカに喧嘩を売る必要はなく、大人しくしていればよいだけの話である。アメリカに喧嘩を売ってでも核兵器の開発を急いでいるのは、体制維持以上の目的があると考えるのが自然である。
北朝鮮が既に持ってしまった核ミサイルを自ら放棄することはないでしょう。そして、その力の誇示によってアメリカに国交を結ばせ、米軍を撤退させて韓国を併合する。この目標こそ、金日成、金正日、金正恩とその血筋によって継承された、まさに金王朝の究極の目的なのです。もちろん、アメリカは北朝鮮の非核化を諦めてはいない。アメリカにとって、朝鮮半島での第一目標は北朝鮮の非核化であり、第二目標は南北分裂の現状を維持することである。南北が分裂していることによって、アメリカと中国・ロシアという大国同士の対立、冷戦構造の遺産を、朝鮮半島内の小国同士の対立に代理させることができる。
(中西輝政「時流を読む(第2回) 歴史という大きな絵の中に事象を置けば、対処法が見えてくる。北朝鮮問題は日本と日本人に、国として、また人として、いかにあるべきかを問うているのだ」)
以前の記事「『正論』2017年10月号『日本は北朝鮮と戦わないのか/傲る中国』―朝鮮半島の北が資本主義国家、南が社会主義国家になる可能性?」で、朝鮮半島のシナリオの1つを示してみたが、ここで改めて、朝鮮半島で起こりうるシナリオを私なりに整理してみたいと思う。
①北朝鮮への経済制裁が一定の効果を上げる場合
中国、ロシアが経済制裁に協力することが前提であるが、制裁が効果を上げれば、北朝鮮はこれ以上の核開発を断念するかもしれない。ただし、北朝鮮が既に保有している核を放棄することにはつながらない。それに、経済制裁から数年が経ってほとぼりが冷めた頃に、中国とロシアが制裁の隙間を縫って北朝鮮を再び支援する可能性がある。
②金正恩斬首計画を実行する場合
金体制を打倒すれば北朝鮮は核開発を止めるだろうとの予測の下に、金正恩の斬首が計画されたことがある。アルカイーダのウサーマ・ビン・ラーディンはパキスタンで暗殺された。ただ、ビン・ラーディンの場合は、彼の行動をアメリカ側がある程度トレースすることが可能になっており、かつ、ビン・ラーディンの側近にスパイがいて、彼の居場所をアメリカにリークしていたと言われる。これに対して、金正恩の場合は居場所を突き止めるのが困難である。何せ、北朝鮮には地下施設が何千と存在するからだ。また、金正恩を裏切ってアメリカに位置情報をリークするような人物も現れていない。よって、この斬首作戦は実現可能性が低いと言わざるを得ない。
③アメリカと北朝鮮が武力衝突する場合
韓国は米韓同盟に基づいてアメリカと一緒に北朝鮮を攻撃するはずである。「はずである」と書いたのは、最近の韓国は左傾化が激しく、アメリカ側につくという確証がないからである。文在寅大統領も、経済制裁が行われている間に北朝鮮に人道支援を行うぐらいの親北派である。
ⅰ)韓国がアメリカを裏切らなかった場合
韓国・アメリカ(・日本)VS北朝鮮・中国・ロシアという構図になる。これはまさに朝鮮戦争と同じであり、アメリカが勝つ可能性は五分といったところであろう。アメリカが勝利すれば北朝鮮の非核化に成功し、北朝鮮は韓国に併合されて単一の資本主義国となる。一方、アメリカが敗れた場合は米朝間で和平条約が締結され、アメリカは北朝鮮の核兵器を認めるとともに、韓国から米軍を撤退させることになる。上手くいけば南北の分裂は維持されるが、韓国から米軍の脅威が消えたのを見た北朝鮮は、南北統一に乗り出すかもしれない。その場合、韓国の資金が北朝鮮の核に投入され、朝鮮半島に凶悪な核保有国家が誕生することになる。
ⅱ)韓国がアメリカを裏切った場合
アメリカ・日本VS北朝鮮・韓国・中国・ロシアという構図になる。これはアメリカにとってかなり不利な状況となる。仮にアメリカが勝利すれば、以前の記事「『正論』2017年10月号『日本は北朝鮮と戦わないのか/傲る中国』―朝鮮半島の北が資本主義国家、南が社会主義国家になる可能性?」で書いたようになる。ただ、これは可能性の低いシナリオを仰々しく書いてしまったと反省している。ⅱ)ではアメリカが敗れる可能性の方が高く、その場合は、ⅰ)よりも速いスピードで南北統一が進み、朝鮮半島に凶悪な核保有国家が誕生する。
④アメリカが北朝鮮と対話する場合
ⅰ)アメリカが北朝鮮の核兵器を認めて国交を樹立する場合
北朝鮮がこれだけの核兵器を保有してしまった以上、アメリカは北朝鮮の核を認め、平和条約を締結して国交を結ぶべきだという意見が、主にアメリカの民主党内から出始めているようである。だが、アメリカが北朝鮮と国交を結ぶというのは、かつてアメリカが中国と国交を結んで台湾を捨てたのと同様に、韓国を捨てることを意味する。もっとも、捨てられた韓国は喜んで北朝鮮と一緒になるかもしれない。すると、朝鮮半島に凶悪な核保有国家が誕生する。
ⅱ)アメリカが北朝鮮の核兵器放棄を迫る場合
これは非常に難しい交渉になる。核兵器の放棄を迫られた北朝鮮は、間違いなくアメリカに対して在韓米軍の撤退を要求してくる。北朝鮮が韓国を併合するためである。アメリカとしては、これは到底呑める条件ではない。だが、アメリカの第一目標は北朝鮮の非核化であり、左傾化した韓国を見て、第二目標である南北分裂の現状維持を犠牲にしてでも、在韓米軍の撤退を実現させるかもしれない。この場合、朝鮮半島には、非核化された社会主義国家が誕生する。仮にこの交渉が長引くと、その間に北朝鮮は核兵器(アメリカ本土に届くICBM)を完成させてしまう。そうなると米朝の武力衝突のリスクが高まり、そのシナリオは③で示した通りとなる。
このように見てくると、アメリカが第一目標、第二目標をともに達成できるのは、韓国が裏切らず、アメリカが北朝鮮との戦争に100%勝てる自信がある場合に限られることが解る。逆に、下手にアメリカが動こうものなら、朝鮮半島が社会主義国家として統一されることを誘発する恐れがある。最悪のシナリオは、韓国の資金が北朝鮮の核に注入されることである。だから、アメリカとしては経済制裁以上に動きようがないというのが正直なところだろう。左派はよく、「解決策は対話しかない」などと言うが(『世界』2017年11月号の特集タイトルは「北朝鮮危機―解決策は対話しかない」であった)、アメリカが北朝鮮と対話を成立させるということは、上記で見たように韓国を捨てることを意味する。この点を左派は理解していないように思える。
中国は北朝鮮問題で手を焼いていると言われる。だが、実はこれも怪しい面がある。中国はずっと、金正男をかくまっていた。北朝鮮に対して、「いつでも金正男を中心とした政権を北朝鮮内に打ち立てることができる」というメッセージを送るためである。いわば、金正男は中国が握っている「玉」であった。だが、金正男が暗殺されたということは、中国がその玉を放棄したということである。つまり、中国は金正恩政権と上手くやっていく道を選択したと言えなくもないのだ。
日本にとって最悪なシナリオは、アメリカが北朝鮮の非核化に失敗して朝鮮半島に凶悪な核保有国家の出現を許した挙句、中国の一帯一路構想にトランプ大統領がビジネス的な視点で安易に乗っかってしまうことである。アメリカが中国と手を結べば、日米同盟の意義は希薄化し、日本の周りをアメリカ、中国、朝鮮国家という3つの巨大核保有国が取り囲むことになる。さらに言えば、中国が提唱する一帯一路構想は南シナ海を通っているため、アメリカが一帯一路構想に賛同するということは、南シナ海の諸問題をアメリカが黙殺することにつながる。こうなると、日本は太平洋上のシーレーンを確保できなくなる。となれば、残る選択肢はロシアと同盟を結ぶことしかない。ロシアが注力している北極圏ルートの開発に日本が協力するのである。
従来、私が考える現代の4大国、すなわちアメリカ、ドイツ、ロシア、中国は、上図のような関係にあった(詳細は以前の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」を参照)。基本的には、アメリカ・ドイツという資本主義国と、ロシア・中国という旧共産圏の国が対立している。ただ、アメリカ・ドイツ、ロシア・中国は必ずしも一枚岩ではなく、しばしば対立する。一方で、表向きは対立しているアメリカと中国、ドイツとロシアが協力する局面もある。アメリカと中国の間、ドイツとロシアの間では貿易が盛んであり、経済的な結びつきが強い。このように、4大国はやや複雑な関係にある。
ところが、アメリカが中国に接近することで、この構図が変わる可能性がある。まずはアメリカ・中国とドイツ・ロシアが対立するのである。ただ、細部を見れば、アメリカと中国の間、ドイツとロシアの間で対立を抱える一方、アメリカとドイツ、中国とロシアが協力するという関係がある。日本はロシア・ドイツ側につくことになる。日本はロシアの北極圏ルートを通じてドイツとつながり、さらにはEUとの関係を深化させる。こういうシナリオが現実味を帯びてくるかもしれない。
ただ、日本はアメリカ・中国との関係を完全に断ち切ることはできないだろう。基本スタンスはロシア・ドイツに寄りながら、アメリカ・中国のよいところは引き続き吸収し続ける。これが大国に挟まれた小国の生きる知恵であり、私は「ちゃんぽん戦略」と呼んでいる(以前の記事「『巨頭たちの謀事/朴槿恵政権崩壊(『正論』2017年2月号)』―ますます可能性が高まった「朝鮮半島統一」に対してどう対処すべきか?」を参照。同記事は米中に挟まれた日本のちゃんぽん戦略を想定しているが、米中・露独に挟まれた場合も同様である)。