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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2016年11月02日

中小企業向けの補助金・助成金を検討されている皆様へ(リスクを覚悟しましょう)

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お金

 安倍政権になってから補正予算などによって中小企業向けの補助金・助成金(以下、単に補助金とする)が増加しており、これらの制度の利用を検討している企業も多いと思う。個人的には、補助金はリスクマネーであると考えている。すなわち、優れたアイデア・技術を持ちながら、外部環境の急激な変化によって一時的に経営難に陥り、金融機関の通常の審査では融資を受けることが難しい企業に対して、資金を供給するのが補助金である。言い換えれば、市場の失敗をカバーする役割を持つ。苦境に陥っている中小企業の救済が目的であるから、本来的には迅速に補助金を支払い、中小企業の創意工夫によって補助金を自由に使わせるのが筋である。

 ところが、実際にはそのようになっておらず、補助金がかえって経営の足かせになる場合があるので、注意が必要だ。まず、補助金は交付を受けるまでに時間がかかる(「交付を受ける」とは補助金がもらえることではない。多くの補助金は、使用した経費の事後精算であり、「交付を受ける」とは、事後精算時に最大いくらまで補助金をもらうことができるのか、その権利を付与されたものととらえるべきである)。金融機関から融資を受ける場合には、事業計画を提示してから通常は1~2か月で資金が振り込まれる。だが、補助金の場合はそうはいかない。

 例えば、近年の補助金の目玉の1つである「ものづくり補助金」を例にとると、2~3月に公募が始まり、5月に締切となる。その後審査が行われ、6月末ぐらいに採択結果が公表される。採択されたからと言ってすぐに事業を開始することはできない。公募の次に交付申請というもう一段階別の審査を受ける必要があり、最終的に交付決定が下りるのは7月末ぐらいになる。交付決定を受けると、ようやく事業を開始することができる。そうすると、2月に事業計画を作成しても、7月末までの約5か月間、事業計画が塩漬け状態になることを意味する。早く事業を開始して経営難から脱したい企業としては、これは非常にリスキーである。

 補助金は事後精算であると書いたが、補助金をもらうためには、購入物に関連する各種伝票類を漏れなく揃える必要がある。その事務処理が非常に大変である。この点については、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」でも書いた。通常の取引であれば、見積書や注文書を何度かやり取りしているうちに、見積書の日付が注文書の日付より新しくなることがある。税務署はこの点を全く問題視しないのだが、補助金ではNGとなる。見積書の日付は注文書の日付より古い日付でなければならず、もしそうなっていなければ見積書を取り直すか、注文書を再作成する必要がある。

 日付の矛盾だけでなく、金額の矛盾にもうるさい。細かい原材料を何種類も一度に購入した場合などに起こるのだが、消費税の計算がメーカーと中小企業によって若干異なる場合がある。請求書の金額と実際に支払った金額が1円違っていたりする。これも、税務署ならば全く気にしないが、補助金ではその1円の違いを説明させられる。「消費税計算の四捨五入の考え方の違いで1円異なっており、メーカーもその差異について了承している」という文書を作成しなければならない。あまりに事務処理が大変なので、「事務処理用に社員をもう1人雇わなければならない」と悲鳴を上げる中小企業もあるくらいだ。事務処理のために、本来業務が圧迫されるリスクがある。

 金融機関からの融資の場合、申請した資金使途に反していなければ、借りたお金を自由に使うことができる。これに対して、補助金の場合は資金使途などに関して細かいルールがたくさん定められている。そのルールを無理やり中小企業に適用すると、組織がおかしくなる危険性がある。ものづくり補助金に関しては、以下のような話を聞いたことがある。

 ものづくり補助金では、外注加工費を補助対象経費総額の2分の1以下にしなければならないというルールがある。ある中小企業は外注先を使って新しいソフトウェアを開発しようとしたが、普通に計算すると外注加工費が経費総額の2分の1を超えてしまう。そこで、一時的に外注先からその企業に社員を出向させたという形にして、直接人件費として処理した。また、別のある企業はソフトウェアの内製を検討していた。平成27年度補正予算のものづくり補助金からは直接人件費が補助対象経費から外れたため、このままでは補助金が受けられない。そこで、社員を辞めさせて個人事業主にし、その社員に発注することで、補助金のスキームに乗せたという。こういうケースで最も不幸なのは、企業側の都合で出向させられたり、退職させられたりした社員である。

 安倍政権になってから、日本の開業率をアメリカ・イギリス並みの10%に引き上げるという目標が掲げられており、創業支援にも力が入っている。創業希望者を支援する企業・団体向けの「創業支援事業者補助金」という制度がある。補助金を受けた支援事業者は、創業希望者に対して窓口相談業務を提供したり、創業・経営に必要な知識を学ぶセミナーを開催したりする。

 この補助金では、支援事業者の直接人件費も補助対象になっているのだが、要件として、「新たに採用した社員の人件費」を補助対象とすると定められている。創業支援事業者補助金は、地方自治体が定めた3~5年の「創業支援事業計画」と連動した補助金であり、毎年公募が行われる。すると、継続的に補助金を受けたいと考える支援事業者は、毎年新たな社員を採用しなければならない。おそらく、創業は雇用を生み出すものだから、支援事業者も同じように雇用を生み出すべきだという考え方が背景にあるのだろう。しかし、この事業のために毎年新たに社員を採用するのも大変である。そこで、ある団体では、1年だけ社員と雇用契約を結び、翌年は別の社員とまた1年だけ雇用契約を結ぶ、ということを繰り返していると聞く。

 私は以前、公益財団法人東京しごと財団が実施する「高齢者職域拡大モデル事業」という補助金の申請支援をしたことがある。これは、高齢者を活用した新たなビジネスモデルに対して補助金が出るというものである。私が支援させていただいたのは、主に高齢者向けの健康関連製品を販売する企業であった。高齢者のニーズをよく解っているのは高齢者自身であるから、高齢者を販売員とする新しい販売モデルを構想した。具体的には、販路開拓のために、地方にある代理店に向けて新たな教育プログラムを整備することとした。ところが、補助金の要件が「都内で雇用すること」となっている。そこで、地方の代理店で販売員を採用し、補助金を受ける間は東京の本社に出向させ、教育が完了したら元の代理店に帰任するというモデルを描いた。

 しかし、入社後いきなり出向させられることを条件に入社を決める社員などいないし(ましてそれが高齢者となればなおさら難しい)、本社側も出向者受け入れ期間中の家賃などを負担しきれないということで、結局は申請を見送った。企業側の担当者は当初、「この補助金が自社にぴったりだ」と熱が入っていたのだが、かなり無理をして補助金のスキームに当てはめようとしていたため、申請を断念してよかったと私は思っている。

 以上のような話があるため、現行の補助金制度は、リスクマネーの迅速な供給という本来の役割を果たしていないと感じる。補助金に頼ると、事業がなかなか開始できない⇒事務処理に時間がかかり本業に集中できない⇒業績が回復しない⇒再び補助金に頼るという、魔のループに陥る恐れがある。だから、私が中小企業を支援させていただく際には、私の方から積極的に補助金を勧めることはない。やはり王道は、金融機関から融資を受けることである。一時的な経営難により通常の審査では融資を受けることが難しいのであれば、金融機関の心証をひっくり返せるような納得性の高い事業計画を練り上げることに時間をかける。補助金の事務処理やルール遵守(ルールのすり抜け?)に振り回されるより、そちらに頭と時間を使うべきだと思う。

 《余談》
 以前の記事「「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁」で、補助金の適正規模について触れ、直観的に「1%」という数字を使った。創業補助金であれば、毎年の創業者数の1%、ものづくり補助金であれば、その年に新製品開発をする中小製造業の1%といった具合だ。この「1%」にもっともらしい説明をつけるとすれば、次のようになる。

 前述の通り、補助金の本来の役割は市場の失敗をカバーすることである。個人の世界において、市場の失敗をカバーする役割を持つのは生活保護である。生活保護の受給率は約1.7%である。ただし、生活保護の場合は、本来生活保護を受ける資格があるにもかかわらず、何らかの事情で生活保護を受けていない人がいる。日本の場合は特にその数が多いと言われる。そこで、本来生活保護を受ける資格がある人のうち、実際に生活保護を受けている人の割合のことを捕捉率と呼ぶ。日本の場合、捕捉率は15.3~18%である。この数字を基に、生活保護を受ける資格がある人の割合を計算すると、約26~31%となる。

 生活保護の場合は、憲法25条で生存権が保障されており、生まれたからには生きる権利があるから、保護対象が広くなるのは当然である。一方、企業の場合は、ゴーイングコンサーンという言葉はあるものの、企業が永続的に存続する権利はない。仮に市場が失敗したとしても、市場から退出しなければならないケースもある(その代わり、やり直しがきく)。そこで、本当にカバーすべき市場の失敗を、生活保護よりも相当辛く見積もって1%としたわけである。

 中小企業向けの補助金を生活保護と同列で論ずることには異論もあるに違いない。だが、生活保護を受けている人は、そのことを堂々と宣言せず、どこか後ろめたさを感じているのと同様に、補助金を受けている中小企業も、同じような後ろめたさを感じている部分があるのではないかと思う。ある企業は、補助金を使って開発した製品のパンフレットに、経済産業省の補助金を受けたことを記載することで、経済産業省の”お墨つき”をもらったとアピールしたがっていた。しかし、「経済産業省 ○○補助”金”事業」と書くのは嫌だという。そこで、「経済産業省 ○○補助事業」と書くことにした、という話を聞いたことがある。

2016年05月13日

中小企業のニッチ戦略はややもすると自己欺瞞に陥る

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市場シェア

 先日、中小企業基盤整備機構のセミナーに参加してきたのだが、「中小企業向けの海外展開支援施策」に関するセミナーだと案内されていたのに、出席したら講師の中小企業診断士がものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金の話をするばかりで、全く海外とは関係がなかった。頭にきたのでアンケートに苦情を書いて途中退席してきた。それでも何か持ち帰ろうと途中までは一生懸命話を聞いていて、1つだけお土産を持って帰ってきた。ただし、「こういうことを中小企業診断士(経営コンサルタント)は言ってはいけない」という戒めなのだが。

 講師は、小規模事業者持続化補助金に申請するための事業計画を作成する段階で、自社の事業にエッジを効かせることの重要性を強調していた。その時、「ニッチ市場でシェアNo.1になることが大切だ」という話があった。一見すると競合他社がたくさんいるような市場でも、切り口を変えればシェアNo.1になれる。これをニッチ戦略と呼ぶのだという。例えば、「○○市内で○○を必要とする高齢者向けに、○○という機能に特化した○○という製品を販売し市場シェアNo.1を獲得する」、「○○駅から半径○○km以内で○○に困っている女性向けに、○○という特色を持たせた○○というサービスを提供し市場シェアNo.1を目指す」といった具合である。

 私が思うに、このニッチ戦略の説明は正確ではない。こういう形で自社がシェアNo.1だと思い込むのは、自己欺瞞であるとさえ言える。自社の市場を定義する作業というのは、意外と難しい。海外の大企業の話で恐縮だが、GEの元CEOであるジャック・ウェルチは、「市場シェアNo.1かNo.2以外の事業からは撤退する」と宣言して、選択と集中を行ったことで知られる(そのアドバイスをしたのはピーター・ドラッカーであると言われている)。

 GEでは1年間の戦略マネジメントのスケジュールが厳格に決まっている。秋口になると、ウェルチはそれぞれの事業のマネジャーに、担当する事業の次年度の戦略を作らせる。すると、マネジャーたちには共通してある傾向が見られることにウェルチは気づいた。マネジャーは、自分の事業が戦場としている市場を狭く定義し、GEのシェアがNo.1かNo.2であるかのように見せかけていたのである。マネジャーの気持ちは解らなくもない。担当事業の市場シェアがNo.3以下であれば、その事業は売却されてしまう。それはすなわち、自分の仕事を失うことと同義だからだ。

リーダーシップ・サイクル―教育する組織をつくるリーダーリーダーシップ・サイクル―教育する組織をつくるリーダー
ノール・M. ティシー ナンシー カードウェル Noel M. Tichy

東洋経済新報社 2004-12

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 (※)GEの戦略マネジメントサイクルについては、ノール・ティシー、ナンシー・カードウェル『リーダーシップ・サイクル―教育する組織をつくるリーダー』(東洋経済新報社、2004年)を参照。

 ウェルチはそれぞれのマネジャーと膝詰めで話をし、市場の定義からやり直した。自社が本当に戦っている市場を把握するには、競合他社を的確にとらえる必要がある。競合他社は、第一義的には自社と同じカテゴリの製品を製造する企業である。話を解りやすくするために、GEの例を離れてビールを取り上げると、ビールの競合他社と言えば、まずは他のビール会社である。しかし、もう少し視野を広げれば、ビールはお酒であるから、他のアルコール類であるワイン、発泡酒、日本酒、焼酎、カクテル、ウィスキー、サワーなども競合ということになる。

 だが、これでも市場を定義するには十分ではない。そもそも、顧客はビールを何のために飲むのだろうか?「仕事の疲れを取るため」、「ストレスを発散するため」、「よく眠れるようにするため」、「友人とワイワイ盛り上がるため」、「大切な人への贈り物にするため」など、様々な理由が考えられる。ここで重要なのは、例えば仕事の疲れを取る上で、ビールはあくまでも1つの手段にすぎないということだ。つまり、仕事の疲れを取るには、マッサージを受ける、栄養ドリンクを飲むなど、他にも様々な選択肢がある。よって、ビールはこれらの分野とも競合関係にある。

 (※)以上の話は、旧ブログの記事「競合他社は4つのレイヤーで見極めるといいんじゃないかい?」を参照。この時、4つ目の視点として「顧客が限られた時間・場所・資金の中で消費しているその他の製品」を挙げた。これは、仮に顧客の時間・場所・資金が何らかの理由で減少した場合でも、優先的に消費される製品のことを指す。例えば、給料が下がったサラリーマンは、ビールを控えるかもしれないものの、昼食の値段は急には下げられないかもしれない。この場合、ビールと昼食は競合関係にあると考える。ただ、ここまでやると競合他社が際限なく広がってしまうかもしれないと思い、今ではちょっと反省している。

 この様に考えると、ビール事業の市場は、単にビールの消費量を数え上げればよいという簡単な話ではないことが解る。ビールと類似する製品に加え、ビールが提供する価値を代替しうるその他の製品・サービスを広くピックアップする必要がある。そうすると、市場規模は当初の想定よりもずっと大きくなる。そして、当然のことながら、自社のシェアは想定よりもはるかに低くなる。市場の中にありとあらゆるタイプの競合他社がいる中で、どのように独自性を打ち出し、競合他社の顧客を奪い取って市場シェアを拡大していくのかを検討するのが戦略というものである。

 誤解しないでいただきたいのだが、最初に市場を広くとらえた上で、セグメンテーションを細かく行い、その結果「○○市内で○○を必要とする高齢者向けに、○○という機能に特化した○○という製品を販売する」という戦略に行き着くのであれば問題ない。この場合は、競合他社の存在を強く意識している。市場では同業種、異業種を含めた厳しい総合格闘技が行われていることを理解している。そうではなく、市場シェアNo.1だと言いたいというただそれだけのために、「○○市内で○○を必要とする高齢者向けに、○○という機能に特化した○○という製品を販売する」と恣意的に規定すると、まるで市場に競争が存在せず、”無風”であるかのように勘違いしてしまう。

 「○○市内で○○を必要とする高齢者向けに、○○という機能に特化した○○という製品を販売する」という曖昧なケースであっても、Web通販やテレビ通販と競合することぐらいは容易に想像できる。そういう可能性を端から排除して、「我が社はニッチ市場でシェアNo.1だ」と宣言するのは、自己欺瞞に他ならない。そういう企業に限って、想定外(本当は十分に想定できるのだが)の競合他社が現れると慌てふためく。そして、行政はそういう企業を規制すべきだとか、我が社の業績不振に対して補助金を出すべきだなどと、お門違いな主張を展開するのである。

2015年11月18日

海外進出する中小企業が直面するリスクとその対応策(海外ビジネスセミナーより)

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danger

 海外ビジネスセミナーでリスクマネジメントの話を聞いてきたので、その時のメモ書き。
 《設問》
 A社は中小製造業である。主要取引先からインドネシアに進出するよう要請を受け、社内でフィージビリティスタディを行った。その結果、採算が取れる見込みが立ったため、インドネシアに自社工場を建設することとした。A社がインドネシアで直面する可能性のあるリスクと、その対応策を考えよ(都合により、設問はかなり簡略化している)。
 《リスク①》進出後に主要取引先から発注が来なかった。
 ⇒嘘のような話だが、この手の問題に直面する中小企業は非常に多いという。主要取引先の営業を担当しているのは、現場の営業社員ではなく、たいていは役員クラスである。役員が「我が社がインドネシアに進出すれば、主要取引先は我が社に発注すると言っている」と主張すれば、他の社員は信用せざるを得ない。ところが、その役員の話は、契約書などの十分な裏づけがなく、単に主要取引先の担当者と口頭ベースで会話した程度にすぎないのかもしれない。

 こういうリスクを避けるためには、事前に契約書を交わすことができれば理想である。だが、主要取引先もこれから不確実性の高い海外ビジネスを展開しようとしているわけであり、早期の契約締結には及び腰になる。よって、より現実的な対応策としては、特定の主要取引先に依存した海外進出計画にせず、できるだけ多くの見込み顧客を作った上で進出するのが望ましい。

 《リスク②》工場が納期通りに建設されない。手抜き工事が多発する。
 ⇒QCDが守られないのは現地の建設会社を使っているからだと思われがちだが、日系の建設会社でも(旭化成建材の例があるように)手抜きは起きる。だが、中小企業に工場建設の専門家がいることはまれであり、自社で建設会社をチェックするのは難しい。

 その場合は、現地の専門家を使うようにする。現地でひと月20万円も出せば、かなり能力の高い専門家を雇うことができる。ひと月20万円だから、1年間雇っても240万円である。その程度の金額で、年間生産額が億単位の工場を安全に保てるのであれば、安いものである。

 《リスク③》現地で調達した原材料に品質上の問題がある。
 ⇒製造コスト削減を目的として海外に進出するケースは非常に多い。現地の原材料を使えば、大幅なコストダウンも可能である。ところが、日本国内でも仕入先を変更するのには勇気がいる。たとえネジ1本であっても、よく解らない企業のネジを使って品質不良が起きたら大問題になるからだ。まして海外の仕入先を使うとなれば、そのリスクははるかに大きくなる。だから、進出直後は日本から原材料を輸出して、労務費の分だけコスト削減を目指すのが無難である。

 工場運営が安定してきたら、徐々に仕入先を現地企業に切り替えていく。その際、必ず調査会社などを使って信用調査を行うと同時に、仕入先工場の視察も欠かさず実施する。仕入先の経営者と面談し、工場で5Sが徹底されているかをチェックする。契約締結後も定期的に監査を行い、高い生産基準が保たれていることを確認する。なお、工場を視察する自社社員は毎年違う人にするべきである。同じ社員が監査を続けると、仕入先の社員と癒着するリスクがある。

 《リスク④》建設費、原材料費などが急に高騰する。
 ⇒アジアは日本を上回るスピードで経済成長しているのだから、建設費、原材料費、労務費、電気・ガス・水道代などは急に上がると腹をくくった方がよい。労務費は、経済的な要因だけでなく、政策的に引き上げられることもある。ASEANの中には、最低賃金が毎年10%単位で上昇する国もある(以前の記事「「ラオス投資セミナー」に行ってきた(日本―ラオス外交関係樹立60周年)」では、日本のある大手企業がラオスの急激な労務費高騰に悩んでいる事例に触れた)。

 海外事業の計画を立てる際に、将来のコストのシミュレーションが1パターンしかないのはやはり不十分である。コストが急増する場合も想定して、何パターンか試算を行う。そして、最もコスト負担が重たいケースでも事業が継続できることを確認する必要がある(よいシミュレーションとは、結果が取りうる値の範囲を示し、その範囲内である値を示す確率を明らかにすることである。ただ、時間が限られた中でそこまで厳密なシミュレーションを行うのは難しいため、実務の場面ではいくつかのパターン(シナリオ)を示すことで代用することが多い)。

 《リスク⑤》現地の社員(ワーカー)が集団離職する。
 ⇒日本と海外では、企業に対する帰属意識に差があり、海外ではどうしても離職率が高くなる。そこで、人間関係を重視する日本的経営によって、社員の忠誠心を高めることが1つの対策とされる。ただ、ワーカーが集団で離職する場合には、別の問題が潜んでいる。

 通常、現地でワーカーを採用する前には、ワーカーの採用を行う人事担当者を現地で採用する。そして、その人事担当者に権限委譲をして、ワーカーを採用してもらう。ところが、人事担当者に任せきりにすると、人事担当者の家族や親類ばかりを集めてくることがある。この状態で特定のワーカーが業務内容や待遇に不満を持てば、不満がすぐに伝搬し、皆で結託して集団離職することになる。だから、たとえ人事担当者に権限委譲したとしても、面接にはSkypeなどを使って日本本社の社員を参加させるなど、モニタリングをするべきである。

 《リスク⑥》日本から現地法人社長として駐在したキーマンが病気になる、死亡する。
 ⇒駐在員は非常に忙しい。特に、現地法人を立ち上げた直後は、顧客への営業、ワーカーの育成、製造ラインの確立、日本からの原材料輸入、現地当局との関係構築など、やるべきことが山ほどある。そういう状況を、駐在員を派遣した日本本社は意外と解っていない。日本本社は現地法人の様子を知りたいがために、やれあの報告書を出せ、これを調べろと次々と指示を出す。それが駐在員を苦しめる。挙句の果てに、「駐在員は海外赴任手当をもらい、かつ物価の安い国にいるのだから、さぞかしいい暮らしをしているのだろう」などと嫌味を言う。

 日本本社は、駐在員を過労にしないよう配慮するのも仕事である。決して、駐在員の仕事を増やすことが仕事ではない。それでも、キーマンに万が一のことが起きるかもしれない。そういう事態に備えて、代替要員、後継者を日本国内で確保しておくとよい。

 《リスク⑦》テロ、政変などが起きて工場運営ができなくなる。
 ⇒セミナーの講師によれば、「こればかりはどうしようもない」。最悪の場合、工場を全部捨てて日本に帰ってきても、日本本社がつぶれないような計画を立てるべきだという。仮に、海外進出して間もなくテロや政変が起きた場合、海外現地法人の債務を日本本社が背負うことになる。いきなり債務が増えた日本本社が、それでも経営を続けられるかどうかがポイントとなる。その債務に耐えるには、実は日本本社も向こう数年で国内事業を拡大させる必要があるのかもしれない。

 多くの日本企業は、国内市場に限界を感じて、海外市場に進出する。しかし、逆説的な話なのだが、海外に進出するからには、海外のリスクをカバーするために、国内事業も拡大しなければならないのである。日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、海外進出している企業は、国内事業の売上高も伸びているというデータがある。その裏には、こういう事情も影響しているのかもしれない(以前の記事「日本政策金融公庫総合研究所『中小企業を変える海外展開』―日本企業の海外展開とその影響に関するアンケート」を参照)。


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