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【中小機構】2018年版中小企業白書・小規模企業白書(概要)について(セミナーメモ書き)
「創業促進フォーラム」に出席して思ったこと
経済産業省の中小企業関係予算概算要求(平成28年度)について(平成27年度予算との比較)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年06月01日

【中小機構】2018年版中小企業白書・小規模企業白書(概要)について(セミナーメモ書き)


中小企業

 中小企業基盤整備機構(中小機構)の虎ノ門セミナーに参加してきた。今回のテーマは「2018年版中小企業白書および小規模企業白書について」。私が中小企業診断士の勉強をしていた13年前は、中小企業白書は300ページぐらいだったと記憶しているが、近年急速にページ数が増えている上に、2015年からは小規模企業白書も加わって大変なボリュームになっている。全部読む時間がないので、1時間半の無料セミナーで概要だけでも把握しておこうというわけ(三流診断士)。セミナーは概ね、中小企業庁のHPで公開されている「2018年版「中小企業白書」「小規模企業白書」概要」に沿ったものであった。
 【2018年版中小企業白書の特色】
 <現状分析>
 ①中小企業の景況感は改善傾向にある一方、大企業との生産性格差は拡大
 ②未来志向型の取引慣行に向けて、下請取引は着実に改善

 <テーマ別分析>
 ③深刻化する人手不足。女性・シニアなどの掘り起こしが課題。
 ④IT導入などを行う上でも、業務プロセスの見直しは生産性向上の大前提。
 ⑤幅広い業種で多能工化・兼任化の取り組みが進展。生産性向上にも寄与。
 ⑥IT導入のきっかけとして重要なのは、地元のITベンダーなど身近な相談相手
 ⑦業務領域や一企業の枠を超えて連携ことでITの効果は飛躍的に高まる。
 ⑧生産性向上のためには前向きな投資が重要。引き続き投資を促進する必要。
 ⑨経営者の高齢化から休廃業・解散が高水準。事業承継等を背景に、中小企業のM&Aは増加
 ⑩中小企業のM&Aは、生産性向上に寄与。今後はマッチング強化が課題

 【2018年版小規模企業白書の特色】
 <現状分析>
 ⑪小規模事業者数は減少しているが、規模拡大する事業者や高い生産性の事業者も存在

 <テーマ別分析>
 ⑫小規模事業者では、経営者に業務が集中。IT導入などによる経営者の業務効率化が急務
 ⑬IT導入などにより小規模事業者の生産性は向上。
 ⑭小規模事業者では、ちょっとした工夫で生産性向上
 ⑮小規模事業者で施策を浸透させる上では、身近な支援機関の役割が重要
 ⑯小規模事業者は、兼業・副業やフリーランスなどの多様な働き方の受け皿
 「2018年版白書では、アンケート調査結果に加えて、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者の事例を豊富に紹介している(2017年版の倍以上となる113事例を収録)。業務プロセスの見直し、人材活用面の工夫、IT利活用、設備投資、M&Aを中心とする事業再編・統合など、中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けたヒントが提供された実践的な内容となっている」というのが中小企業庁の売り文句である。

 2018年版の白書のテーマは、一言で言えば「生産性向上」と「IT導入」なのだが、日本企業の生産性が先進国の中でも下位であり、特に中小サービス業の生産性が低いことは、私が記憶している限り、既に10年以上前からずっと指摘されていることである。また、中小企業のIT導入が進んでいないことも、同様に10年以上前から課題であった。それが今年になってようやく、「人手不足の解消」という視点から真面目に取り上げられるようになった。目下の中小企業の課題は、事業承継、高齢社員が中心となる企業の新しい経営のあり方、外国人を活用したダイバーシティ・マネジメントなどであるが、これらの課題が白書で取り上げられるようになるには、おそらく10年ぐらいかかるだろう(外国人の活用については、不法就労の問題や外国人技能実習制度の悪用といった負の側面を掘り起こしかねないため、中小企業庁も及び腰であるに違いない)。

 事例紹介の特徴は、限定的ながら投資対効果が示されていることである。例えば、株式会社加藤製作所(岐阜県中津川市。プレス板金加工業)では、土日祝日の工場稼働を検討するも、人手不足が課題であった。そこで、「意欲のある人求めます。男女問わず。ただし60歳以上」といったキャッチコピーでシニア人材に限定した求人広告を実施した。同時に業務改善にも取り組み、一目で工程を理解できるように掲示物や作業指示書の文字を大きくし、写真やイラストを増やすとともに、シニア人材が操作しやすい工作機械も導入した。その結果、想定を上回る100名からの応募を得て、うち15名を採用し、人手不足を解消することができた。一方で、広告費用やシニア人材に配慮した職場環境整備のためのコストが発生した、といった具合である。

 ただ、中には投資対効果に疑問符がつく事例もある。A社(東京都八王子市。パン製造小売事業者)では、地元のIT販売会社から「IT導入補助金」利用の提案を受け、180万円(サポートサービスを含む)をかけてクラウド給与・就業管理を導入した。その結果、毎月の事務作業が7人日から3人日に減少した。だが、仮に1日の人件費が1万円だとすると、毎月のコスト削減効果は4万円であり、年間換算で48万円である。すると、投資が回収できるまでには4年近くかかる計算になり、この手のITとしては投資回収期間が長すぎる印象を受ける。また、事務スタッフがパートであれば人件費の削減につながるが、正社員であれば人件費は削減されない。IT導入によって浮いた4人日を別の付加価値の高い業務にあてないと、投資を回収することができない。

 B社(兵庫県姫路市。産業機械向け部品製造業者)は、姫路市の「ものづくりIT化推進補助金」を利用し、総額220万円をかけて工場内のWi-Fi化を進め、生産管理システムとタブレット端末との連携を実現した。これにより、作業員の無駄な時間が1人あたり1日15分、現場全体で1日9時間程度削減された。作業員の時給を高く見積もって3,000円とすると、1日あたりのコスト削減効果は2.7万円、年間換算で2.7万円×20日×12か月=648万円となって、4か月ほどで投資を回収できる。ただし、これが残業代の削減につながればよいが、所定労働時間内の効率化であれば意味を持たない。A社と同様に、浮いた15分を別の付加価値の高い業務にあてる必要がある。だが、たった15分で付加価値の高い業務を行うのは困難だから、作業プロセス全般を見直して、付加価値の高い業務にあてられるまとまった時間を捻出しなければならないと感じる。

 2つの事例ではいずれも補助金が利用されている(A社の場合は補助率3分の2、B社の場合は補助金100万円)。補助金によって企業の自己負担がかなり軽減されるため、投資対効果の見積もりが甘くなっていると思われる。これによって得をするのは、結局のところITベンダーである。別の補助金の話になるが、平成24年度の補正予算から毎年続いている「ものづくり補助金」というものがある。これは工場に工作機械を導入して新製品を開発する取り組みを支援する補助金である。工作機械は1,000万円以上するのが普通だが、数百万円単位で大幅に値引きされるのが業界慣行となっている。仮に、ある中小企業が1,500万円の工作機械を購入するとしよう。補助金がない場合、工作機械メーカーは300万円ほど値引きして1,200万円で販売する。工作機械メーカーの売上高は1,200万円、中小企業の自己負担も1,200万円である。

 ここで、ものづくり補助金を利用すると、補助率が3分の2とされているから、1,500万円の工作機械に対して1,000万円の補助金が出る。すると、中小企業の自己負担は500万円まで下がるため、工作機械メーカーは値引きをしてまでも販売するというインセンティブが薄れる。その結果、工作機械メーカーは丸々1,500万円の売上高を獲得することができる。つまり、補助金があることによって、工作機械メーカーの業績は大幅に上がるのである。同じことがIT導入に関する補助金にもあてはまるのではないかと考えられる。本来、もっと安く導入できるはずのITが、補助金のせいでITベンダーによって釣り上げられている可能性がある。

 白書の事例には、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金といった補助金を利用している企業が多いが、そもそも補助金を使っている企業を成功事例として扱うことに個人的には強い違和感を感じる。中小企業庁としては、補助金を使っている企業の情報を把握しているため、事例作成にあたって取材が容易であるというメリットがあるのだろう。また、自分が行っている補助金事業の成果をアピールしたいという思惑もあるのかもしれない。

 だが、私に言わせれば補助金とは生活保護の企業版である。さらに言えば、生活保護は憲法25条に根拠を持ち、「国民に生きていただく」ための恒久的な制度であるのに対し、補助金は自然淘汰を原則とする自由市場経済において、国が「企業を生かしてやる」臨時の制度である(現に、これらの補助金は全て補正予算で組まれており、いつ終わってもおかしくない)。白書の読者が期待するのは、そうした不安定な国の施策に依存する弱い企業ではなく、独力で創意工夫を凝らしながら高い業績を上げている強い企業の事例ではないだろうか?同じことは、中小企業庁が公表している「○○企業50選」のような事例集にもあてはまる。これも補助金を使っている企業が中心であり、しかもおそらくは中小企業庁が財務諸表を確認していないと思われるから、事例公開後に業績不振に陥る企業がある。中小企業庁に対しては、全国のネットワークを活用して強い企業を発掘し、優れた取り組みをヒアリングすると同時に、財務諸表を必ず入手し財務基盤が盤石であることを確認した上で、白書や事例集に掲載することを求めたい。

 安倍政権になってから、中小企業診断士の間では「補助金バブル」と呼ばれるほど数多くの補助金が支給されている。だが、この補助金によって、多くの人の思考回路がおかしくなっていると感じる。本セミナーでは中小企業庁の担当者が講師を務めたが、IT導入補助金の紹介パートで、「平成29年度補正予算で500億円の予算を手当てしたので、是非中小企業の皆様には積極的にご活用いただきたい」という発言があった(セミナー資料にも同様の記載があった)。私は思わず耳を疑った。前述の通り、補助金は「国が中小企業を助けてやる」制度である。だから、「補助金によって1回だけチャンスをやる。その代わり、ちゃんと儲けを出して法人税で返せ」ぐらい言えばいいのにと思う。「ご活用いただきたい」などと低姿勢に出るのはおかしい。

 診断士もおかしくなっている。補助金の申請支援をして、採択額の10%を成功報酬としてもらうという診断士が増えている。診断士の世間的な知名度はまだまだ低いのだが、私は「中小企業診断士=補助金の申請支援をする人」という変なブランドイメージが広まるのを恐れている。診断士は他の士業と異なり独占業務がないだけに、中小企業の経営者の中に誤ったイメージが植えつけられるのが怖い。私は、新しい取り組みをするのであれば、金融機関からの融資に頼るのが筋だと思っている。借入金の返済というプレッシャーがあるからこそ、新しい取り組みに対しても真剣に向き合えるようになる。私は本ブログで補助金に関する記事も何本か書いているけれども、私の方から中小企業の経営者に補助金を勧めることは”絶対にない”。先日、ある診断士が顧問先の中小企業を補助金漬けにした挙句、経営革新計画が認定されたことを自慢げに話していたのを聞いて、この人は一体何を考えているのだろうかと思った。

 《余談》

社外におけるITに関する相談相手

 診断士の知名度がまだまだ低いことに関するぼやき。上図は「社外におけるITに関する相談相手(複数回答)」を尋ねたものである。中小企業の相談相手に関するアンケート結果はしばしば白書にも登場するのだが、大抵は選択肢の中に診断士が入っていない。中小企業を支援する「認定支援機関制度」を別に設けるぐらいだから(以前の記事「認定支援機関制度で岐路に立たされる中小企業診断士」を参照)、中小企業庁は、自分が所轄する資格でありながら、診断士のことが嫌いなのではないかとさえ勘繰ってしまう。ただ、上図に関して言うと、出典元の三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」(2017年12月)の中では診断士という選択肢があったものの、回答数があまりに少なかったため、白書のグラフからは割愛されたとのことである(元のレポートがインターネットでヒットしないのだが、もしありかをご存知の方がいらっしゃったらご教示いただきたい)。


2016年01月25日

「創業促進フォーラム」に出席して思ったこと


商談

 開業率アップを目指す中小企業庁は、2014年度から「創業支援事業」を行っている。まず市区町村が、創業支援を行う事業者(民間企業、NPO法人、商工会議所など)と連携して「創業支援事業計画」を策定する。これは、当該市区町村における創業の目標(業種、件数など)を設定し、目標達成に向けた施策を立案するものである。具体的な支援策としては、創業希望者を対象としたセミナー、市区町村役所における窓口相談、創業資金の融資あっせんなどが挙げられる。創業セミナーは地元のNPO法人や商工会議所と、融資あっせんは金融機関と連携して行われる。

 創業支援計画に基づいて創業支援を行う事業者に対しては、「創業支援事業者補助金」という制度がある。創業セミナーを実施した時の会場代や講師謝金、窓口相談を担当する社員・職員の人件費などが補助対象となる。昨年末、この創業支援事業者補助金を受けている全国の事業者を対象として、「創業促進フォーラム」が開催された(中小企業基盤整備機構が主催)。私も昨年は創業支援事業に関わらせていただいた関係で、フォーラムに参加してきた。フォーラムでは、全国の市区町村の事例紹介や、他の創業支援事業者との交流会などがあった。

 以下、「創業促進フォーラム」に出席して思ったことのまとめ。

 (1)以前、創業支援事業者補助金の審査員を務めたことがある中小企業診断士から話を聞く機会があった(私のように創業支援事業を診断士が支援していることは多いが、まさか補助金の審査員を診断士がやっているとは思いもよらなかった。診断士は本当に狭い世界だ)。この診断士の方は、全国の色んな計画書を読んだものの、中身に大差がなくて審査しにくいと嘆いていた。どの市区町村も、判を押したように創業セミナーや窓口相談をやることになっていたという。私も創業促進フォーラムで他の市区町村の事例紹介を聞いたが、同じような印象を持った。

 理想論を言えば、地域によって取り巻く環境は異なるわけだから、創業の目標も、目標達成のための支援策も異なるはずである。計画を策定する際、まずは外部環境を分析する。地域内の企業を大きく分類すると、①地元住民を主たるターゲットとするタイプ、②近隣の市区町村や都道府県をターゲットに含むタイプ、③海外も射程に入れているタイプの3つに分けられる。したがって、地元、近隣地域、海外の市場が今後どのように変化するかを人口動態や世帯・家族構成の変化(BtoCの場合)、企業数・業種の変化(BtoBの場合)などから推測し、ニーズをあぶり出す。

 次に、内部環境に目を向ける。現在の市区町村下にどのような企業が集積されているのか?それらの企業の組織能力(強み・弱み)は何か?を分析する。その上で、外部環境分析から導かれた将来ニーズのうち、地域に蓄積された能力を活かして需要をとらえることが可能な分野は何か?を特定する。それと同時に、現在は地域内に十分な能力が蓄積されていないものの、将来ニーズの増加を見すごすことができず、地域として取り組む意義が大きい分野も明確にする。

 外部環境と内部環境の分析を行うと、両者のギャップが見えてくる。ここまでやって初めて、そのギャップを埋めるために、どんな業種の創業を何件ぐらい創出する必要があるか?という目標が立てられるようになる。その目標を実現する手段は、創業セミナーや窓口相談に限られないかもしれない(例えば、ものづくりに注力する地域は、域内の大学との産学連携を支援することになるかもしれない)。しかしながら、どうやら多くの創業支援事業計画はそのような分析を行っていないため、どれも似たり寄ったりになっているのだろう(私も他人のことは言えないのだが)。

 各市区町村の創業支援計画には、様々な関係機関との連携を示す実施体制図がある。NPO法人、コンサルティング会社、大学、商工会・商工会議所、地方銀行・信用金庫・信用組合などを含んでおり、あたかも手厚い支援ができるかのような印象を与える。だが本来は、創業希望者の創業前後における潜在的なニーズは何か?そのニーズに応えるためにどのような支援サービスを提供するか?それらのサービスのうち、市区町村が実施するものは何で、外部機関の力を借りるものは何か?ということを検討しなければ、体制図は描けないはずだ。とりあえず何でもいいから外部と組めば何とかなるだろうという発想は、個人的にはどうも感心しない。

 (2)創業支援事業者補助金は、補助率3分の2以内、補助上限1,000万円である。つまり、1,500万円の経費を使うと、1,000万円の補助金が受けられる。それなりに大きな金額だ。ところが、創業支援計画を見ると、年間の目標創業件数が経費の金額と釣り合わないのではないか?と疑問に感じることがある。創業1件あたりの経費が100万円を超えると思われるケースさえある。ここで、投資に見合う十分な効果が得られるかどうかが問題となるだろう。

 補助金という投資は、将来の税金で回収することになる。まず、創業によってその企業からの法人税や事業所税が増える。これに加えて、新しい企業が社員を雇用し、その社員が当該市区町村に居住してくれれば、彼らの住民税や固定資産税、(軽)自動車税も増える。だが、これだけでは効果の計算としては十分ではない。創業者が退職することによって、前職の企業の利益がいくばくか減少し、法人税や事業所税に影響するからだ。また、新しい社員が元々住んでいた地域では税収が減少することになる。これらのマイナスを考慮しなければならない。

 こうしたマイナスを差し引いてもなお創業の効果が得られるのは、創業者がより大きな税引き前当期純利益を創出している場合である。具体的には、新しい企業の社員1人あたり税引き前当期純利益(※便宜的に、ここでの「社員」には、役員である創業者も含める)が、転職前の企業のそれを上回る時である。また、新たに採用した社員の給与は、前職よりも増加していなければならない(そうでなければ、支払う住民税なども増えない)。

 もちろん、創業直後は利益も少ないし、社員には薄給で我慢してもらうこともあるだろう。とはいえ、長い目で見たら、前職よりも業績的に優れた企業となることが投資回収の条件である。以前の記事「採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その1~5)(その6~10)」で、創業希望者の事業計画は、ややもすると中長期にわたって社員の給与を低水準に据え置いていることがあると書いた。税金を使って貧乏人を増やすのは全く意味がないことである。それならば、既存の企業の新規事業分野進出を支援した方が、実りは大きいかもしれない。果たして、市区町村がこうした投資対効果のことをどこまで考えているのか、個人的にはやや疑問が残った。

 (3)(2)と関連するが、市区町村が創業を増やすのは税収増のためである。税収を増やす方法は、大きく分けて人口を増やすか、産業を活性化するかという2つだ。人口を増やす方法はさらに、他地域からの流入を増やす、当該地域内で産まれる子どもを増やす、の2つに分かれる。他地域からの流入を増やすには、例えば大学・研究機関を誘致する、地域包括医療体制を構築して高齢者の移住を促す、などが考えられる。当該地域内で産まれる子どもを増やすには、幼稚園・保育園の拡充や、小中高における魅力的な教育プログラムの提供などが挙げられる。

 産業を活性化する方法には、企業・工場を誘致する、商業・サービス業集積を形成することなどがある。難しいのは、これらの施策はお互いに影響し合っているという点である。例えば、企業・工場を誘致すれば、社員とその家族が他地域から流入してくる。他地域からの流入が増えれば、商圏の市場規模が大きくなるので商業・サービス業の集積が進む、といった具合だ。つまり、(税収)=f(大学・研究機関の誘致, 地域包括医療体制の構築, 幼稚園・保育園の拡充, 小中高における魅力的な教育プログラムの提供, 企業・工場の誘致, 商業・サービス業集積の形成, ・・・)という関数であり、その関数の中身を特定しなければならない。

 この作業には市区町村の役所を挙げた取り組みが必要となる。ところが、たいていの役所は縦割り化が進んでいる。幼稚園・保育園や小中高のことは教育・保育部門、地域包括医療のことは医療・福祉部門、企業活動のことは産業経済部門が担当している。これらの部門が相互の影響を考慮せずバラバラに動くと、施策の効果が目減りしてしまうに違いない(以前の記事「辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店が先か、住民が先か?他」で、商業集積の形成よりも住民の移住促進の方が先決だと書いたが、今になって読み返すとロジックの詰めが甘いと感じた。どうやら、どちらが先かという簡単な話ではなさそうだと反省した)。


2015年09月11日

経済産業省の中小企業関係予算概算要求(平成28年度)について(平成27年度予算との比較)


 平成28年度の概算要求の情報が公開されたので、中小企業関係の施策について比較表を作ってみた。比較表Excelのダウンロードはこちら。以下雑感。

 《参考:経済産業省HP》
 平成27年度 中小企業関係予算の概要
 平成28年度 中小企業関係概算要求等の概要

 ・平成27年度予算の資料は比較的詳細だが、平成28年度概算要求の資料はポイントをまとめたものであるため、両者の情報粒度が異なっている点はご容赦いただきたい。平成27年度に実施された施策で、平成28年度は概算要求されていないものが数多くあるかのように見えてしまうが、本当は裏で概算要求されている可能性がある。

 かねてから私は不思議に思っていたのだが、なぜか官公庁は予算の内訳を全て公開しようとしない。平成28年度概算要求の資料で「平成27年度より継続」となっているのに、平成27年度予算の資料には掲載されていない施策もある。予算の透明性を保つよう、世間からこれだけうるさく言われている割には、まだまだ緩い部分が残っていると感じた。底意地が悪い私などは、公にしたくない施策があるのではないかと勘ぐってしまう。

 ・平成28年度概算要求を見ると、小規模企業向けの施策が拡充された点以外は目新しさがなく、”いつもの当たり障りのない”施策に逆戻りしたようだ。「平成28年度 経済産業政策の重点のポイント」を見ると、経済産業省は、(1)ITによる産業構造・経済社会の革新、(2)イノベーションの担い手の強靱化、(3)未来への投資促進に向けた官民協働、(4)内なる国際化/2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、という4つの方向性を掲げている。しかし、中小企業庁の施策は、これらとのリンクが十分でない。特に、(1)と(4)に関連する施策がない。

 ・平成28年度概算要求からは、平成27年度予算にあった「円安是正」というテーマが消えた。もう1つ、ひっそりと姿を消した(と思われる)のが「創業支援」である。平成27年度は、創業希望者に対する補助金と、創業スクールなど創業支援事業を行う事業者に対する補助金の2本立てで予算が組まれていたが、平成28年度概算要求では前者が消えた。2013年6月に閣議決定された日本再興戦略では、現在5%台の開業率をアメリカ・イギリス並みの10%台に引き上げる目標が設定された。この目標は一体どうするのだろうか?

中小企業関連 平成27年度予算&平成28年度概算要求




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