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【中小機構】2018年版中小企業白書・小規模企業白書(概要)について(セミナーメモ書き)
『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(2/2)
『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(1/2)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年06月01日

【中小機構】2018年版中小企業白書・小規模企業白書(概要)について(セミナーメモ書き)


中小企業

 中小企業基盤整備機構(中小機構)の虎ノ門セミナーに参加してきた。今回のテーマは「2018年版中小企業白書および小規模企業白書について」。私が中小企業診断士の勉強をしていた13年前は、中小企業白書は300ページぐらいだったと記憶しているが、近年急速にページ数が増えている上に、2015年からは小規模企業白書も加わって大変なボリュームになっている。全部読む時間がないので、1時間半の無料セミナーで概要だけでも把握しておこうというわけ(三流診断士)。セミナーは概ね、中小企業庁のHPで公開されている「2018年版「中小企業白書」「小規模企業白書」概要」に沿ったものであった。
 【2018年版中小企業白書の特色】
 <現状分析>
 ①中小企業の景況感は改善傾向にある一方、大企業との生産性格差は拡大
 ②未来志向型の取引慣行に向けて、下請取引は着実に改善

 <テーマ別分析>
 ③深刻化する人手不足。女性・シニアなどの掘り起こしが課題。
 ④IT導入などを行う上でも、業務プロセスの見直しは生産性向上の大前提。
 ⑤幅広い業種で多能工化・兼任化の取り組みが進展。生産性向上にも寄与。
 ⑥IT導入のきっかけとして重要なのは、地元のITベンダーなど身近な相談相手
 ⑦業務領域や一企業の枠を超えて連携ことでITの効果は飛躍的に高まる。
 ⑧生産性向上のためには前向きな投資が重要。引き続き投資を促進する必要。
 ⑨経営者の高齢化から休廃業・解散が高水準。事業承継等を背景に、中小企業のM&Aは増加
 ⑩中小企業のM&Aは、生産性向上に寄与。今後はマッチング強化が課題

 【2018年版小規模企業白書の特色】
 <現状分析>
 ⑪小規模事業者数は減少しているが、規模拡大する事業者や高い生産性の事業者も存在

 <テーマ別分析>
 ⑫小規模事業者では、経営者に業務が集中。IT導入などによる経営者の業務効率化が急務
 ⑬IT導入などにより小規模事業者の生産性は向上。
 ⑭小規模事業者では、ちょっとした工夫で生産性向上
 ⑮小規模事業者で施策を浸透させる上では、身近な支援機関の役割が重要
 ⑯小規模事業者は、兼業・副業やフリーランスなどの多様な働き方の受け皿
 「2018年版白書では、アンケート調査結果に加えて、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者の事例を豊富に紹介している(2017年版の倍以上となる113事例を収録)。業務プロセスの見直し、人材活用面の工夫、IT利活用、設備投資、M&Aを中心とする事業再編・統合など、中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けたヒントが提供された実践的な内容となっている」というのが中小企業庁の売り文句である。

 2018年版の白書のテーマは、一言で言えば「生産性向上」と「IT導入」なのだが、日本企業の生産性が先進国の中でも下位であり、特に中小サービス業の生産性が低いことは、私が記憶している限り、既に10年以上前からずっと指摘されていることである。また、中小企業のIT導入が進んでいないことも、同様に10年以上前から課題であった。それが今年になってようやく、「人手不足の解消」という視点から真面目に取り上げられるようになった。目下の中小企業の課題は、事業承継、高齢社員が中心となる企業の新しい経営のあり方、外国人を活用したダイバーシティ・マネジメントなどであるが、これらの課題が白書で取り上げられるようになるには、おそらく10年ぐらいかかるだろう(外国人の活用については、不法就労の問題や外国人技能実習制度の悪用といった負の側面を掘り起こしかねないため、中小企業庁も及び腰であるに違いない)。

 事例紹介の特徴は、限定的ながら投資対効果が示されていることである。例えば、株式会社加藤製作所(岐阜県中津川市。プレス板金加工業)では、土日祝日の工場稼働を検討するも、人手不足が課題であった。そこで、「意欲のある人求めます。男女問わず。ただし60歳以上」といったキャッチコピーでシニア人材に限定した求人広告を実施した。同時に業務改善にも取り組み、一目で工程を理解できるように掲示物や作業指示書の文字を大きくし、写真やイラストを増やすとともに、シニア人材が操作しやすい工作機械も導入した。その結果、想定を上回る100名からの応募を得て、うち15名を採用し、人手不足を解消することができた。一方で、広告費用やシニア人材に配慮した職場環境整備のためのコストが発生した、といった具合である。

 ただ、中には投資対効果に疑問符がつく事例もある。A社(東京都八王子市。パン製造小売事業者)では、地元のIT販売会社から「IT導入補助金」利用の提案を受け、180万円(サポートサービスを含む)をかけてクラウド給与・就業管理を導入した。その結果、毎月の事務作業が7人日から3人日に減少した。だが、仮に1日の人件費が1万円だとすると、毎月のコスト削減効果は4万円であり、年間換算で48万円である。すると、投資が回収できるまでには4年近くかかる計算になり、この手のITとしては投資回収期間が長すぎる印象を受ける。また、事務スタッフがパートであれば人件費の削減につながるが、正社員であれば人件費は削減されない。IT導入によって浮いた4人日を別の付加価値の高い業務にあてないと、投資を回収することができない。

 B社(兵庫県姫路市。産業機械向け部品製造業者)は、姫路市の「ものづくりIT化推進補助金」を利用し、総額220万円をかけて工場内のWi-Fi化を進め、生産管理システムとタブレット端末との連携を実現した。これにより、作業員の無駄な時間が1人あたり1日15分、現場全体で1日9時間程度削減された。作業員の時給を高く見積もって3,000円とすると、1日あたりのコスト削減効果は2.7万円、年間換算で2.7万円×20日×12か月=648万円となって、4か月ほどで投資を回収できる。ただし、これが残業代の削減につながればよいが、所定労働時間内の効率化であれば意味を持たない。A社と同様に、浮いた15分を別の付加価値の高い業務にあてる必要がある。だが、たった15分で付加価値の高い業務を行うのは困難だから、作業プロセス全般を見直して、付加価値の高い業務にあてられるまとまった時間を捻出しなければならないと感じる。

 2つの事例ではいずれも補助金が利用されている(A社の場合は補助率3分の2、B社の場合は補助金100万円)。補助金によって企業の自己負担がかなり軽減されるため、投資対効果の見積もりが甘くなっていると思われる。これによって得をするのは、結局のところITベンダーである。別の補助金の話になるが、平成24年度の補正予算から毎年続いている「ものづくり補助金」というものがある。これは工場に工作機械を導入して新製品を開発する取り組みを支援する補助金である。工作機械は1,000万円以上するのが普通だが、数百万円単位で大幅に値引きされるのが業界慣行となっている。仮に、ある中小企業が1,500万円の工作機械を購入するとしよう。補助金がない場合、工作機械メーカーは300万円ほど値引きして1,200万円で販売する。工作機械メーカーの売上高は1,200万円、中小企業の自己負担も1,200万円である。

 ここで、ものづくり補助金を利用すると、補助率が3分の2とされているから、1,500万円の工作機械に対して1,000万円の補助金が出る。すると、中小企業の自己負担は500万円まで下がるため、工作機械メーカーは値引きをしてまでも販売するというインセンティブが薄れる。その結果、工作機械メーカーは丸々1,500万円の売上高を獲得することができる。つまり、補助金があることによって、工作機械メーカーの業績は大幅に上がるのである。同じことがIT導入に関する補助金にもあてはまるのではないかと考えられる。本来、もっと安く導入できるはずのITが、補助金のせいでITベンダーによって釣り上げられている可能性がある。

 白書の事例には、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金といった補助金を利用している企業が多いが、そもそも補助金を使っている企業を成功事例として扱うことに個人的には強い違和感を感じる。中小企業庁としては、補助金を使っている企業の情報を把握しているため、事例作成にあたって取材が容易であるというメリットがあるのだろう。また、自分が行っている補助金事業の成果をアピールしたいという思惑もあるのかもしれない。

 だが、私に言わせれば補助金とは生活保護の企業版である。さらに言えば、生活保護は憲法25条に根拠を持ち、「国民に生きていただく」ための恒久的な制度であるのに対し、補助金は自然淘汰を原則とする自由市場経済において、国が「企業を生かしてやる」臨時の制度である(現に、これらの補助金は全て補正予算で組まれており、いつ終わってもおかしくない)。白書の読者が期待するのは、そうした不安定な国の施策に依存する弱い企業ではなく、独力で創意工夫を凝らしながら高い業績を上げている強い企業の事例ではないだろうか?同じことは、中小企業庁が公表している「○○企業50選」のような事例集にもあてはまる。これも補助金を使っている企業が中心であり、しかもおそらくは中小企業庁が財務諸表を確認していないと思われるから、事例公開後に業績不振に陥る企業がある。中小企業庁に対しては、全国のネットワークを活用して強い企業を発掘し、優れた取り組みをヒアリングすると同時に、財務諸表を必ず入手し財務基盤が盤石であることを確認した上で、白書や事例集に掲載することを求めたい。

 安倍政権になってから、中小企業診断士の間では「補助金バブル」と呼ばれるほど数多くの補助金が支給されている。だが、この補助金によって、多くの人の思考回路がおかしくなっていると感じる。本セミナーでは中小企業庁の担当者が講師を務めたが、IT導入補助金の紹介パートで、「平成29年度補正予算で500億円の予算を手当てしたので、是非中小企業の皆様には積極的にご活用いただきたい」という発言があった(セミナー資料にも同様の記載があった)。私は思わず耳を疑った。前述の通り、補助金は「国が中小企業を助けてやる」制度である。だから、「補助金によって1回だけチャンスをやる。その代わり、ちゃんと儲けを出して法人税で返せ」ぐらい言えばいいのにと思う。「ご活用いただきたい」などと低姿勢に出るのはおかしい。

 診断士もおかしくなっている。補助金の申請支援をして、採択額の10%を成功報酬としてもらうという診断士が増えている。診断士の世間的な知名度はまだまだ低いのだが、私は「中小企業診断士=補助金の申請支援をする人」という変なブランドイメージが広まるのを恐れている。診断士は他の士業と異なり独占業務がないだけに、中小企業の経営者の中に誤ったイメージが植えつけられるのが怖い。私は、新しい取り組みをするのであれば、金融機関からの融資に頼るのが筋だと思っている。借入金の返済というプレッシャーがあるからこそ、新しい取り組みに対しても真剣に向き合えるようになる。私は本ブログで補助金に関する記事も何本か書いているけれども、私の方から中小企業の経営者に補助金を勧めることは”絶対にない”。先日、ある診断士が顧問先の中小企業を補助金漬けにした挙句、経営革新計画が認定されたことを自慢げに話していたのを聞いて、この人は一体何を考えているのだろうかと思った。

 《余談》

社外におけるITに関する相談相手

 診断士の知名度がまだまだ低いことに関するぼやき。上図は「社外におけるITに関する相談相手(複数回答)」を尋ねたものである。中小企業の相談相手に関するアンケート結果はしばしば白書にも登場するのだが、大抵は選択肢の中に診断士が入っていない。中小企業を支援する「認定支援機関制度」を別に設けるぐらいだから(以前の記事「認定支援機関制度で岐路に立たされる中小企業診断士」を参照)、中小企業庁は、自分が所轄する資格でありながら、診断士のことが嫌いなのではないかとさえ勘繰ってしまう。ただ、上図に関して言うと、出典元の三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」(2017年12月)の中では診断士という選択肢があったものの、回答数があまりに少なかったため、白書のグラフからは割愛されたとのことである(元のレポートがインターネットでヒットしないのだが、もしありかをご存知の方がいらっしゃったらご教示いただきたい)。

2015年08月11日

『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(2/2)


 前回「『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(1/2)」の続き。

<<『小規模企業白書』>>
⑧現経営者が事業承継を行うことを躊躇する個人的な要因

 (1)中小企業は事業承継がなかなか進んでおらず、やむなく廃業に追い込まれるケースが増えている。このことは、中小企業庁も社会的課題として認識している。本設問は、現在の経営者が事業承継を躊躇する個人的な理由を尋ねたものである。「厳し経営環境下で事業を引き継ぐことへの躊躇(後継者候補の人生への配慮)」が最も高い割合となっている。

 「厳し経営環境下で事業を引き継ぐことへの躊躇」とは、言い換えれば「業績が悪いから、このまま後継者に引き継ぐのは忍びない」ということであろう。引き継ぐのがはばかられるような、欠陥のある事業しか残せなかったことは、経営としては恥である。企業というのは規模によらず社会的公器であるから、このような理由で事業承継が進まないのは残念だ(以前の記事「『人生心得帖(『致知』2015年5月号)』―中小企業は「生業」で終わってはならないと思う」を参照)。

 企業は、たとえ小規模であっても、後世に引き継ぐことを前提として、経営資源の厚みを増し、持続的に業績を伸ばしていけるようなビジネスモデルを構築すべきである(そして、この指摘は、私自身のコンサルティング事業にも跳ね返ってくる)。

⑨経営・中小企業施策に関する情報の入手方法

 (2)「メールマガジン」が3.8%と非常に低い。中小企業庁のメールマガジンは約30万の会員がいるそうだが、メールマガジンでは情報が全然伝わっていないと解り、がっかりしたと中小企業庁の担当者がこぼしていた。一方で、「施策のチラシ・パンフレット」が39.8%と意外と高かった。公的機関に行くと様々なチラシ・パンフレットを見かける。正直なところ、「パンフレットなんて誰が見ているのだろう?(この時代にパンフレットなんて・・・。HPに掲載すれば十分ではないか?)」と疑問に感じていた。しかし、この認識は改めなければならないと感じた。

 なお、このデータだけを見ると、中小企業は支援施策に関する情報をよく入手しているようにも思える。だが、実際には、支援施策の認知度は相当に低いと予想される。以前、私が関わらせていただいた「荒川区中小製造業調査」でも、支援施策を知らない中小企業が大多数であった。

⑩事業が好調だった要因
⑪事業が不調だった要因

 (3)事業が好調だった要因、不調だった要因ともに、外部環境に求める割合が高く、そのことを指して中小企業庁は「他律的な経営」と評している。なお、HPで公開されている情報では「他律的な経営」となっているが、セミナーで配布された資料では「日和見的な経営」と、官公庁のレポートとしては珍しく厳しい表現が使われていた。

 研究によると、企業の業績を説明する要因としては、政治・経済のマクロ環境が約10%、事業・市場環境が約10%、自社の組織能力が約40%、その他(運)が約40%だという。つまり、企業の業績に外部環境が与える影響は20%しかなく、内部環境が与える影響の方がはるかに大きい。事業が好調な要因を外部環境に求めるのは、謙虚であってよいのかもしれない。これに対して、事業が不調な要因は、安易に外部環境に転嫁してはならないと思う。

⑫販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組
⑬販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組

 (4)販路開拓に「特に取り組んでいない」が49.5%と半数近くを占めるのが驚きである。販路開拓をせずにどうやって企業を経営しているのだろうか?「新しい顧客への直接訪問・売り込み」や「対面販売における顧客への説明・コミュニケーションの充実」に取り組む企業の割合が高いが、一方でそれが必ずしも売上高拡大につながっていない、という結果も出た。売上高を拡大するためには、「営業能力の高い人材の新規採用」を行うことが最も効果的であるようだ。

2015年08月10日

『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(1/2)


 中小企業基盤整備機構(中小機構)が主催する虎の門セミナーで、2015年度の『中小企業白書』(今回が52回目)、『小規模企業白書』(今回が初めて)に関する解説があるというので、参加してきた。以下、気になったデータなどに関するメモ書き。

<<『中小企業白書』>>
①業種別・市場別に見た販路開拓の取組状況
②市場の把握状況別に見た売上目標の達成状況

 (1)何と、販路開拓の取り組みをしていない企業が2~4割程度存在する。また、市場のニーズ、市場の商圏(エリアなど)、市場の規模(金額面)を把握していない企業が、既存市場開拓の場合でも半数以上存在すること、新規市場開拓の場合はさらにその割合が跳ね上がることも驚きであった。市場のことを理解せずに、一体どうやって事業を行っているのだろうか?

 実は、以前、私が関わらせていただいた「荒川区中小製造業調査」でも、販路開拓を行っていない中小製造業が相当数存在していた。そういった企業の多くは、販路開拓を怠っていながら業績が苦しいなどと言う。これが中小製造業の実態なのかと衝撃を受けた記憶がある。

③中核人材の採用手段
④採用手段ごとの利用実績及び採用実現率(中途)

 (2)中途採用、中核人材の採用手段と採用実績を尋ねたものである。中小企業は転職サイトに広告を出す予算がないため、どうしてもハローワークが中心となる。だが、意外にもその次に高いのは「知人・友人の紹介」であった。これには一定の合理性があると思う。知人・友人を紹介する側の社員にとっては「変な人を会社に紹介できない」というプレッシャーになるし、紹介された側の知人・友人も「紹介してもらった知人・友人に迷惑はかかるから、簡単には辞められない」という歯止めがかかる。結果的に、自社にフィットした人材が採用でき、離職率も下がる。

 以前、海外企業の採用に関する記事を読んでいたら、「離職率を下げるには、一度自社を退職した人物を再採用するとよい」とあった。そういう人は既に自社の業務のことを知っているし、さすがに2度も3度も退職するのは憚られるはずなので、再採用後は長く勤めてもらえる、というのがその根拠である。確かに、日本の外資系企業の中には、退職者を「卒業生」という呼び名でネットワーク化し、必要となれば再雇用している企業があるのを私も知っている。

 だが、一般的に転職の理由は職場での人間関係の悪化が原因である。中小企業における人間関係の悪化は、大企業に比べておそらくかなりドロドロしたものであろう。よって、退職した人材を再採用するという手法は、個人的には日本の中小企業にはあまりお勧めできない(私自身も、前職のベンチャー企業にもう一度採用されることを考えたら悪寒が走る)。

⑤従業者数で見た地域の中心産業の変化(市町村単位)

 (3)先日、ある中小企業診断士の先生が、「官公庁というのはとにかく何でも曖昧にしようとする。私は市場調査会社に長く勤めていて、調査レポートにはっきりと結論を書くように訓練されてきたから、官公庁の人たちと仕事をすると戸惑うことが多い」と話していた。その傾向がちょっと垣間見えたのがこのデータに関してである。上図は、業種別(大分類ベース)で従業者数を集計し、最も従業者数が多い業種で市区町村別に描写したものである。これを見ると、製造業に代わってサービス業が増加しているのが一目瞭然である。

 この図をめぐり、中小企業庁の担当者に対して「サービス業が増えているのは中小企業庁としてはよいことだと考えているのか?」という質問が出た。その担当者は、サービス業のよしあしを断言せず、産業構造の一般論をとうとうと述べて、回答をはぐらかした。この担当者に限らず、中小企業白書全体も、結局のところ国/行政は何に注力していくのか判然としない印象を受ける。近年、サービス業の中では観光が注目を集めており、白書でも言及がある。しかし、観光以外にも言及されている産業は山ほどあり、「あれもこれも」やりたがっているように見受けられる。

 何でも日本人の特徴に帰着させる議論は乱暴なのだけれども、お上があいまいな方針しか示さないことは、まさに日本的なのかもしれない。以前の記事「山本七平『山本七平の日本の歴史(上)』(2)―権力構造を多重化することで安定を図る日本人」などで「個人⇒家族⇒学校⇒企業⇒市場⇒社会⇒行政府⇒立法府⇒天皇(⇒神?)」という日本の多重構造(の暫定版)を示した。最上位の天皇からは曖昧な方針しか示されず、それが階層を下るにしたがって徐々に具体化されていく。しかも、下の階層は上の階層の方針に完全に縛られるのではなく、創意工夫を凝らして自由に振る舞うことが許されている。これが、山本七平の言う「下剋上」である。

 だから、お上は多少曖昧なままで、キョロキョロと慌てふためいていた方が、階層社会の下方に属する企業などはかえって自由になれるのである。逆に、お上があまりに明確な方針で下位の階層を締めつけると、いわゆる「一億総玉砕」に陥る。それが日本であり、アメリカのようにトップ(大統領)が強力なリーダーシップを発揮する社会とは決定的に異なる。

⑥企業別花火図(群馬県)
⑦企業別花火図(群馬・埼玉・栃木)

 (4)経済産業省では「地域経済分析システム」の開発を進めており、2015年4月から供用が開始された。このシステムは、公的統計や民間企業が保有する各種データ(企業間取引データや携帯位置情報など)を活用して、地域経済における産業構造やヒト・モノの流れを画的(空間的)かつ時系列に把握することを目的としている。

 例えば群馬県の輸送機械工業の取引を見てみると、群馬県内の取引にとどまらず、埼玉県、栃木県の企業との取引の方が多いことが解る。一般的に、都道府県や市区町村が提供する中小企業向けの補助金は、その都道府県や市区町村内に閉じたものとなっている。そのため、都道府県/市区町村レベルで類似の補助金が重複したり、逆に都道府県/市区町村の境界を超える広域レベルの取引を支援する補助金が存在しなかったりする。「地域経済分析システム」の活用を通じて、より効率的/効果的な中小企業向け施策の立案が期待される。

 (続く)




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