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『トランプと日本/さようなら、三浦朱門先生(『正論』2017年4月号)』―米中とつかず離れずで「孤高の島国」を貫けるか?
【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴
【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
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こぼれ落ちたピース
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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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2017年03月20日

『トランプと日本/さようなら、三浦朱門先生(『正論』2017年4月号)』―米中とつかず離れずで「孤高の島国」を貫けるか?

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正論2017年4月号正論2017年4月号

日本工業新聞社 2017-03-01

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 筆者は、2月12日付産経新聞のコラム「極言御免」で次のように書いた。「トランプ米大統領は安倍晋三首相を通じて国際社会を学び、各国首脳は首相を通してトランプ氏を知る―。大げさに言うのではなく、こんな構図が生まれつつあるのではないか」
(阿比留瑠比「こんなときでも、政権批判しか頭にないダメ野党」)
 安倍首相自身も、2月14日の衆院予算員会ではこう語っている。「トランプ大統領は就任してわずかで政治的経験もない。既定の概念がないときこそ、日本の考えをインプットできるチャンスだ」「トランプ氏とどんな対話をしたのか、ぜひ聞かせてほしいという要望は(各国から)たくさん来ている」「米新政権に様々な不安を持っている国に大統領がどう考えているかを伝え、彼らの不安も大統領に伝えていきたい」(同上)
 不安定な国際社会の中で日本がどのようなポジションを確保するかは重要な課題である。以前の記事「小川榮太郎『国家の命運―安倍政権奇跡のドキュメント』―日本は「仁」の精神で世界の均衡を実現する国家」では、「仁」や「和」の精神で、対立する諸国の間に入り、バランサーとしての機能を果たすべきだといったことを書いた。冒頭の引用文も、アメリカと他国との間に日本が入って、橋渡しをすることができると述べている。確かに、日本は地政学的に見て、西洋と東洋のちょうど間に挟まれた孤独な島国である。地政学の決定論的な見方に必ずしも従うべきではないと思うが、日本はこの地政学的な位置を活かして、西洋と東洋の間を取り持つべきだという主張が出てきても不思議ではない。事実、私もそうであった。

 だが、(右派は怒るだろうが、)所詮は極東の辺境国家にすぎない日本に、そこまでの積極的な役割が果たせるのかどうか、最近は疑問に感じるようになった。かつて日本は、西洋と東洋のバランサーになろうとして失敗した過去がある。明治維新の際、日本は「東洋道徳、西洋芸術」、「和魂洋才」という標語を掲げて、東洋の精神の上に西洋の技術を接ぎ木した。そこから転じて、日本は東洋の精神を西洋に伝える役割を担うべきだという主張が現れた。ところが、その結果起きたことと言えば、真っ先に西洋化に成功した日本が東洋の後進性にしびれを切らし、西洋と同じような帝国主義で東アジアを踏みにじるという一種の反転であった。

 小国である日本は、大国同士の対立に飲み込まれないように、自国を守ることを第一とする必要がある。それが、本号の言う「ジャパン・ファーストの精神」であると考える。力のない小国が自国を守る手っ取り早い方法は、力のある大国の庇護下に入ることである。現在で言えば、日米同盟を強化することだ。しかし、個人的に、最近の日米同盟強化の動きは危険だと感じる。

 本ブログで何度も書いているように、大国は二項対立的な発想をする。別の言い方をすれば、大国は常に、自国と対立する大国を必要とする。アメリカにとっての敵は中国でありロシアである。しかし、アメリカと中国やロシアは、お互いに本気で対決する気はない。そんなことをしたらどちらも壊滅的なダメージを受けることが解っているからだ。だから、大国は自国に味方する、あるいは自国と同盟を結ぶ小国に代理戦争をさせる。最近、朝鮮半島の動きがきな臭いが、仮に韓国で次に親北政権が誕生し、朝鮮半島が共産主義国として統一されるようなことがあれば、アメリカ対中国の代理戦争の場として、日本対朝鮮半島が選ばれるだろう。そうすれば、アメリカも中国も、自国への被害を減らせるし、国内の軍需産業が潤うのでいいことずくめである。

 日本は、二項対立の一方に過度に肩入れすると自滅する可能性がある(以前の記事「山本七平『存亡の条件』―日本に「対立概念」を持ち込むと日本が崩壊するかもしれない」を参照)。鈴木宗男氏は、「橋本龍太郎政権から森嘉朗政権までの日ロ関係が良好な時代には、中国や韓国は日本に対して大人しかった。中韓がかしかましくなったのは、小泉政権で米国一辺倒になってからである」と述べている(『週刊ダイヤモンド』2016年12月31日・2017年1月7日合併号)。だから、日本は対立する双方の国から程よく距離を保つことが重要である。

週刊ダイヤモンド 2016年12/31 2017年1/7合併号 [雑誌]週刊ダイヤモンド 2016年12/31 2017年1/7合併号 [雑誌]
ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

ダイヤモンド社 2016-12-26

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 ただ、これだけでは十分な処方箋にならないため、もう少し積極的な策を提案したい。それは、以前の記事「安田元久監修『歴史教育と歴史学』―二項対立を乗り越える日本人の知恵」などでも書いた「二項”混合”」というやり方である。具体的には、対立する双方の国のいいところどりをして国内でごちゃ混ぜにする。これを別名「ちゃんぽん戦略」と呼ぶ(以前の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」を参照)。アメリカと中国に挟まれた日本は、アメリカからは自国の陣営に引き込む力が働き、中国からはアメリカと日本を分断させようとする力を受ける。その両方のアプローチをちゃんぽんにするのである。そうすると、アメリカにとっても中国にとっても、日本は自国の味方なのか敵なのか解らず、下手に手を出せない存在となる。

 ここからは私の全くの思いつきであり、これで日本が本当に「孤高の島国」になれるかどうか自信がないのだが、その点はご容赦いただきたい(以下ではアメリカと中国の対立を念頭に置いているが、アメリカとロシアの対立においても概ね同じであると考える)。まず、政治面では、アメリカは二大政党制の国であり、中国は共産党の一党独裁の国である。日本は両方の間を取って、多党制を採用するのが望ましい(以前の記事「加茂利男他『現代政治学(有斐閣アルマ)』―日本の政治は2大政党制よりも多党制がいいと思う」)。ただ、現実問題として、現在の日本の野党はどれも小規模であまりに頼りない。そこで私は、多党制の代わりに、自民党による派閥政治を復活させるべきだと思う。そうすれば、”疑似”多党制を実現することができる。

 経済面では、アメリカは自由主義に基づく資本主義国である(軍産複合体のように、政府と産業界が密着している例もあるものの、ここでは一旦目をつむる)。中国は、共産主義に修正を加えて資本主義を導入したとはいえ、それは国家が投資を主導する形での資本主義である。日本が取るべきその中間の道というのはなかなか難しいのだが、敢えて言えば行政が需要創造を主導するような資本主義ではないかと思う。デフレ下にある現在の日本では、行政、特に経済産業省が、過剰な供給を抑制するために、業界の再編を促すレターを乱発している。そうではなく、行政が新しい市場のルールを形成し、消費者が新しい製品・サービスを購入するためのインセンティブを与えることの方が、デフレ脱却のためには重要ではないかと考える。

 社会面では、アメリカは自由、平等、基本的人権を普遍的価値として信じる国である。一方の中国には、基本的人権がほとんどなく、国家が国民を統制している。日本はその間を取って、国家が国民に対して恩賜的な権利を与える国になるべきだというのが私の案である。これは、基本的人権を否定することになるから、大いに異論もあることだろう。しかし、基本的人権というのは、そもそも国家がなければ成立しえないと考える。例えば、言論・出版の自由は、国家が検閲をしないと約束することによって成り立っている。仮に、左派が好む世界同時革命が成立して、世界から国家が消滅した時、基本的人権はどのような形で担保されると言うのだろうか?

 基本的人権は、人間が生まれながらにして有する権利であり、対応する義務を持たない。これに対して、日本人が国家(天皇)から与えられる権利には、義務が伴う。具体的には以下①~⑤のような義務である。そして、これらの義務を遂行する日本国民を統合する存在として、天皇が象徴される(以前の記事「『混迷するアメリカ―大統領選の深層(『世界』2016年12月号)』―天皇のご公務が増えたのは我々国民の統合が足りないから、他」を参照)。

 ①歴史や伝統を重んじること。過去の遺産を引き継ぎ、生きている間に価値を加えて、よりよい形で次世代に引き継ぐこと。
 ②日本は天然資源に乏しい国である。そこで、限られた天然資源を有効に活用すること。
 ③一方で、日本人の能力は多様であり、様々な可能性があると信じること。学習によって個々の能力を伸ばし、適材適所を実現すること。
 ④集団・共同体・和を重んじ、仁の精神を実践すること。平時の際も危機の際も他者を助け、他者に奉仕し、秩序を守ること。
 ⑤③で日本人の能力の可能性を信じると書いたが、日本は西欧のように飛び抜けた天才に恵まれた国ではない。そこで、他国のよいところを積極的に取り入れることで能力を補うこと。その代わりに、他国に対する恩返しを忘れないこと。

 軍事面では、アメリカは復仇を基本的戦略としている。復仇とは、相手国の国際違法行為に対して、外交交渉やその他の平和的手段で救済を求めても解決が得られない場合に認められる自力救済行為であり、違法性が棄却される。イラク戦争はその一例である(ただし、復仇の範囲を明らかに超えているという議論はある)。一方、中国はスプラトリー諸島の埋め立てに見られるように、先行的に軍事力を行使して現状を変更しようという意図を持っている。

 日本が取るべきこの中間の戦略というのは構想しがたいが、結局は専守防衛に徹するということに尽きるのではないかと思う。それも、アメリカにおんぶにだっこの防衛ではなく、自力で防衛できるようにならなければならない。世界で第7位の防衛費を使っておきながら、自分で自国を守れないというのはいかにも恥ずかしい話である。さらに言えば、アメリカとていつまでも日本の味方であるという保証はない。アメリカが寝返って日本を攻撃するようなことがあっても、日本を守り抜くだけの防衛力を身につける必要がある。

 以上は私の思いつきであるから、唯一絶対の解ではない。いやむしろ、小国は唯一絶対の解を求めてはならない。基本的に、大国はベースとなる戦略を変えない。その大国に挟まれた小国は、双方の戦略をうかがいながら、自社のポジションを常に調整する必要がある。ある時はアメリカの味方であるかのように見せ、ある時は中国の味方であるかのように見せる。このカメレオンのような変幻自在なポジションが、小国を大国の脅威から守る。ベルギーのマンテス元首相は、「大国は好き勝手に(政策・立場を)変えられる。小国の唯一の力は変わらないことだ」と述べたが、私は、小国こそ柔軟に態度を変えるべきだと言いたい(以前の記事「『死の商人国家になりたいか(『世界』2016年6月号)』―変わらない大国と変わり続ける小国、他」を参照)。

2017年01月23日

【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴

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アメリカ

 前回の記事「【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション」の続き。アメリカ企業は下図の<象限③>=必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものに強いと書いた。必需品ではないがゆえに、アメリカ企業は常に需要を創造しなければならない。これはイノベーションの働きそのものである。今回はアメリカ企業がどのようにイノベーションを起こすのかについて見ていきたいと思う。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 <象限③>においては、まだ顧客のニーズが顕在化していないため、伝統的な市場調査が役に立たない。そこで、リーダーたるイノベーターは、自分自身を第一の顧客とする。「自分はこういう製品・サービスがほしい。自分がこの製品・サービスをこれだけ心の底からほしがっているのだから、世界中の人々も同じようにこの製品・サービスを欲するはずだ」と強く信じる。そして、そのイノベーションを世界中に普及させることを、唯一絶対の神と「契約」する。その契約を誠実に履行することを、アメリカ人は「自己実現」と呼ぶ。ただし、前回の記事でも書いた通り、その契約が本当に正しいかどうかを知っているのは、神だけである。よって、正しい契約を結んだごく一部のイノベーターだけが大成功を収め、その背後には無数の屍が累積する。

 リーダーは、契約=未来の目標を達成するために、今何をすべきかという順番でアクションを検討する。つまりここでは、時間が未来⇒現在へとバックキャスティング的に流れ、現在と未来が強い因果関係で結ばれる。これはアメリカ人の大きな特徴の1つである。逆に、日本人はバックキャスティング的な発想が苦手である。日本人の中では、時間は現在⇒未来へと流れる。現在において、望ましい行動を1つ1つコツコツと積み重ねていけば、自ずと望ましい未来に到達すると信じる。現在と未来の因果関係は、アメリカ人の場合に比べるとはるかに弱い。

 <象限③>は市場規模も顧客ニーズも予測が困難である。一人で同じ製品・サービスをいくつも購入する顧客がいたりする。日本の例になるが、AKB48との握手会に参加したいがために、同じCDを1人で何十枚も購入するコアなファンがいる。こういう人がいると、市場規模の予測は難しくなる。予測困難な状況で成功の確率を上げるには、とにかく次から次へと新しいイノベーション(製品・サービス)を市場に投入して、市場の反応を見るしかない。しかも、<象限③>の製品・サービスは全方位的な競争となる。例えば、金曜日の夜にお金が余っていたら、映画を見に行くか、アーティストのコンサートに参加するか、家でバラエティのDVDを見るか、漫画を大人買いして家で読むかという選択をするだろう。これらの製品・サービスは全て競合関係にあたる。

 <象限③>では、どういうイノベーションが成功するのか、その定石を見定めるのに苦労する。ただ、いくつか基本となるポイントがあるように思える。1つ目は、繰り返しになるが、イノベーターの「好き」という思いを新製品・サービスに余すところなく反映させることである。イノベーションを勧める人がそのイノベーションを気に入っていなかったら、他の人はそのイノベーションを購入しようとは思わない。2つ目は、顧客に敢えて不自由、非効率を味わわせることである。ディズニーランドではアトラクションに乗るのに何時間も待たされる。それでも、長く待つがゆえに楽しみが倍増するという側面がある。音楽も記憶に残るのはたいていの場合サビだけだが、サビだけでは音楽として成立しない。Aメロ、Bメロがあってこそのサビである。

 3つ目は、1つ目とも関連するが、顧客価値にほとんど貢献しない箇所で、イノベーターが異常なこだわりをイノベーションに組み込むことである。Appleのスティーブ・ジョブズがコンピュータの裏側の配線の美しさにこだわったのは有名な話である。また、日本の例になるが、私が好きな「水曜どうでしょう」という北海道のローカルバラエティ番組では、藤村忠寿ディレクターが字幕のつけ方に異常なこだわりを持っている。通常の番組であれば、2~3行の字幕スーパーを一度に表示させるのだが、水曜どうでしょうの場合は1行ずつ縦書きで丁寧に字幕を表示させる。

 イノベーションは誰も見たことがなく、聞いたことがないものであるため、必ず賛否両論が巻き起こる。ここに、イノベーションをめぐる二項対立が発生する。イノベーションに多くの人が賛同する一方で、そのイノベーションに強い嫌悪感を示す人も多数現れる。だが、イノベーションにとっては、二項対立が生じた方が都合がよい。というのも、敵から攻撃されると、イノベーションの味方はより結束力を強め、イノベーションへの忠誠心を高めることになるからだ。ここで重要なのは、二項対立においては、相手を完全に打ち負かそうとはしないという点だ。相手を倒すと他者を否定することになり、自己のアイデンティティを規定するものが失われてしまう。

 興味深いことに、市場における二項対立に加えて、イノベーションを起こす組織内でも賛否両論の二項対立が生じる。マイケル・P・ファレルは、アートや社会の分野に―特に、「優れたアート」の定義に疑問が投げかけられた場合に―2人組によるブレークスルーが存在することを示した。ファレルは、2人組の仕事では「効果のある親密さ」が生まれて、共感を示しつつ建設的に批判し合うことができると説いた(”Collaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative Work”)。企業の例で言うと、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ビル・ゲイツとポール・アレンといった組合せが二項対立に該当する。

Collaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative WorkCollaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative Work
Michael P. Farrell

University of Chicago Press 2003-11

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 イノベーションを全世界に普及させるために、多くのアメリカ企業はトップダウンのリーダーシップと分権化を組み合わせる。分権化のメリットは、トップのリーダーシップだけでは到底影響力が及ばない世界各地に対して、現地の組織がトップから移譲された権限を活用してイノベーションを広めることができる点にある。分権化された現地のスタッフは、イノベーションのエバンジェリストとして、イノベーションの普及(布教と言ってもよい)に努める。この方が、トップのリーダーシップだけに頼るよりもずっと早く目標を達成できる。それに、分権化によって、現地スタッフのモチベーションを向上させることができるというもう1つの効果もある。

 日本の組織も、伝統的に現場が強く、また、ミドルマネジャーが「ミドル・アップ・ダウン」という言葉の通り、組織内を自由に動き回る。つまり、トップよりもミドルや現場に権限が委譲されている。そういう意味では分権化が進んでいるとも言える。だが、アメリカの分権化はできるだけフラット型組織との両立を志向するのに対し、日本企業は多重階層構造を志向するという違いがある。アメリカ企業の目的はイノベーションの迅速な普及であるが、日本企業の目的は組織の安定である。多重階層構造によりポジションを多数連鎖させることで、多少愚かな人間が混じっていても、他の人間がそれをカバーし、組織を安定させる。アメリカ企業は採用段階でエバンジェリストたり得る人材を厳しく見定めるが、日本企業は大勢採用してその全員を使いこなそうとする。

 <象限③>のイノベーションの中には必需品化して<象限①>や<象限②>に移行する製品・サービスもあるが、大半のイノベーションは非常に短命である。端的に言えば、顧客がイノベーションに飽きるのである。リーダーがイノベーションを全世界に普及させるという神との契約を達成した後、企業は静かに衰退していくのみである。株主は企業に対し、新しい投資先がないのであれば自社株買いによって株価を引き上げよと注文をつける。企業の経営者も、イノベーションが全世界に普及したという最高のタイミングで、最も高値で企業を売却する。こうして、イノベーターは巨額の富を手に入れ、早々に引退してセカンドライフを送ることになる。

 先ほど、イノベーターは成功確率を上げるためにイノベーションを次から次へと市場に投入しなければならないと書いた。イノベーターの中からは、自分がお金を払ってでもいいから、自分のイノベーションを世界に広めたいと願う人が出てくる。ここで、そのようなイノベーターを束ねるプラットフォーム企業が登場する。Google PlayやApp Storeはその典型である。アプリ開発者は、GoogleやAppleにお金を払ってでも、自分の開発した革新的なアプリを世界中の人に使ってもらいたいと思っている。通常、GoogleやAppleから見てアプリ開発者は仕入先に該当するから、両社がアプリ開発者にお金を支払うはずだ。だが、プラットフォーム企業はお金の流れを逆転させている。通常の小売業なら違法なリベートとされるものが、ここでは合法化されている。

 <象限③>は、市場規模や顧客ニーズが予想しづらい領域だと書いた。ということは、普通に考えればデータ分析が難しい領域である。ところが、アメリカ企業は<象限③>にデータ分析を持ち込む。例えば、どういう映画がヒットするかを真面目にモデル化する。そして、映画がヒットするかどうかは、台本の内容や配役によってではなく、単に映画のタイトルで決まるという結論を得たりする(イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』〔文藝春秋、2007年〕より)。

その数学が戦略を決めるその数学が戦略を決める
イアン・エアーズ 山形 浩生

文藝春秋 2007-11-29

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 アメリカ企業は、イノベーションを全世界に普及させる段階でもデータを活用する。イノベーターのマーケティングは、これだけOne to OneマーケティングやCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の重要性が説かれているにもかかわらず、世界を単一市場と見なして、単一の製品・サービスを提供するマス・マーケティングである。その過程で、まだ自社のイノベーションを受け入れていない顧客層は誰か、彼らがイノベーションを受け入れるためにはどのようなプロモーションを実施すればよいかなどをめぐり、詳細なデータ分析を行う。これは、イギリスが植民地支配に際して、イギリスが正義と考える自由、平等、人権、民主主義などを根づかせるために植民地の情報を緻密に収集・分析したインテリジェンスの名残であろう。

 プラットフォーム企業は、自らのプラットフォームの価値を高めるためにデータ分析を行う。消費者は、他人と同じものを使いたいという欲求と、自分だけのオリジナルのものを使いたいという相反する欲求を持っている。プラットフォーム企業はこの両方のニーズにデータ分析で応える。他人と同じものを使いたいという欲求に対しては、ランキングを作成して人気の高い製品・サービスの購入を促す。一方、自分だけのオリジナルのものを使いたいという欲求に対しては、プラットフォームに登録された膨大な製品・サービスの中からレコメンデーション機能を活用して、その人の好みに合わせたものを勧める。こうして、消費者を完全にプラットフォームの虜にする。

 ちなみに、日本は<象限②>に強い。この象限の製品・サービスは生活必需品であるから、反復購入される可能性が高く、顧客ニーズも予想しやすい。この場合、データ分析と経験を組み合わせることで予測の精度を上げることができる。ところが、日本企業はあまりデータを活用しないように感じる。売上高や利益と因果関係の深い要因を追究して、その要因に資源を集中投入するということをやらない。むしろ、「会社として善いこと」、さらには「人として善いこと」を重ねれば、自ずとよい結果が得られると信じている。1つ1つの行為は小さくても、それが何百、何千と積もれば、成功の確率は上がると考える。日本企業の5S重視はその最たる例であろう。

 不思議なことに、<象限③>で戦うアメリカ企業がデータを重視し、<象限②>で戦う日本企業がデータを軽視するという、パラドキシカルな現象が起きているのである。

2017年01月21日

【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション

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アメリカ

 前回の記事「【現代アメリカ企業戦略論(1)】前提としての啓蒙主義、全体主義、社会主義」の続き。18世紀に花開いた啓蒙主義は、ドラッカーが指摘したように後の全体主義、社会主義を生み出した。唯一絶対の神=人間の理性ととらえるこの立場の特徴を簡単におさらいすると、以下の3点に集約される。すなわち、①過去や未来という時間の流れを否定し、現在という1点に集中して革命を目指す、②1人がすなわち全体とイコールであり、共有財産制や独裁が導かれる、③神と人間が直接的に結ばれることをよしとし、間に何らかの組織(国家、政府、企業、教会、家族など)が介在することを嫌う、ということである。

 一般に、啓蒙主義はフランス革命で現実化し、フランス革命に刺激されてアメリカ独立運動が起きたと説明される。ところが、ドラッカーは、アメリカが影響を受けたのはフランス革命ではなく、イギリスの伝統的な保守主義であると『産業人の未来』の中で語っている。実際、アメリカは大陸の啓蒙主義をそのままの形では受け取らなかった。アメリカ人は、人間の理性には限界があることを認めた。つまり、唯一絶対の神=人間の理性という等式を否定したわけだ。その上で、前述した啓蒙主義の3つの特徴に修正を加えることにした。

 まず、①現在から未来への時間の流れを肯定した。アメリカ人は、未来のある時点におけるビジョンを構想し、そのビジョンを実現するための行動を起こした。ビジョンは人間の自由意志によって描かれる。この自由は、啓蒙主義の絶対的な自由が、結局は他者の自由の侵害を避けるために孤立せざるを得なかったのとは異なる。理性が不完全であるがゆえに、人間にはいかようにもビジョンを描く自由がある。アメリカ人は、自らのビジョンを生涯のうちに実現することを神と「契約」する。ただし、その契約が本当に正しいかを知っているのは神のみである。よって、神と正しく契約できなかった者、あるいはそもそも神と契約をする気がなかった者は、正しい契約を締結し、それを履行した者に劣後する。そのため、アメリカでは格差が正当化される。

 次に、②二項対立という考え方を導入した。アメリカ人はあらゆる事象を対立概念でとらえる。その源泉はイギリスの議会政治にあるとドラッカーは言う。「19世紀のイギリスの政治制度の中核は、議会主権の制限、および多数派政府の制限にあった。さらには、多数派の同意による少数派支配の制限にあった。これを可能としたものが、野党を政治に組み込む二大政党制であり、内閣であり、官僚機構だった」。よって、「官僚機構の上層部にいる者は、当然のこととして、野党のための政策案を準備することが期待された。その結果、イギリスでは、1つの問題について、同一の基本理念に立つ2つの政策案が、つねに自動的に準備されることになった」。二項対立は他者の存在を肯定する。啓蒙主義が連帯を唱えながら他者から孤立したのとは異なる。

ドラッカー名著集10 産業人の未来 (ドラッカー名著集―ドラッカー・エターナル・コレクション)ドラッカー名著集10 産業人の未来 (ドラッカー名著集―ドラッカー・エターナル・コレクション)
P・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2008-01-19

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 そして、③神と人間の間に一定の階層構造を認めた。アメリカと言うと大統領のリーダーシップに注目が集まりがちだが、実は各州が強力な権限を持つ連邦制であり、分権化が進んでいる。この分権化は、アメリカという広大な国土を統治するための知恵である。アメリカが理想とする自由、平等、基本的人権、民主主義、資本主義などの基本的価値観を広大な領土の隅々に行き渡らせるのに、大統領1人のリーダーシップだけに頼るのでは負担があまりに重すぎるし、どうしても時間がかかる。そこで、各州に権限を与え、それぞれの州にもアメリカの理想の実現を手伝ってもらう。こうすることで、効率的な国家運営が可能となる。さらに、権限移譲された各州の利害関係者のモチベーションを向上させることができるという副次的な効果も期待できる。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 ここから現代アメリカ企業の戦略論の本題に入る。まず、「必需品か否か?」、「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいか?」という2軸でマトリクスを作る。すると、上図のように<象限①>~<象限④>が得られる。

 <象限①>は、必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものを指す。具体的には、食品、衣料品、日用品、白物家電、飲食店、小売店、教育、ニュースメディアなどが該当する。もちろん、これらの製品・サービスにおいても高度な品質管理は重要である。しかし、仮に食品や衣料品に欠陥があったとしても、食中毒やアレルギーを起こすことはあれ、顧客を死に至らしめることは少ない。<象限①>は参入障壁が低く、比較的低コストでマネジメントできることから、コスト優位性の高い新興国が強い。一方で、各国の雇用を下支えする産業が多いため、多くの国が外資規制を導入している領域でもある。

 <象限②>は、必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいものを指す。具体的には、自動車、輸送機器、産業機械、住宅、建設、医療、介護、製薬、化粧品、IT(BtoBの基幹業務システム)、物流・輸送、金融(預金・貸出)などが該当する。自動車や産業機械に欠陥があれば、顧客や作業者を死に至らしめることがある。BtoBの基幹業務システムや物流に障害が起きれば、企業の業務がストップしてしまう。金融機関の預金・貸出機能にトラブルが発生すれば、経済システム全体が心肺停止状態になる。<象限②>では非常に高度な品質管理が必要となる。時には、不良ゼロというレベルまで要求される。この<象限②>に強いのは、日本企業とヨーロッパ(特にドイツ)の企業である。

 <象限③>は、必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものを指す。具体的には、高機能家電(スマホ、タブレットなど)、ブランド品、エンタメ、テレビメディア、IT(BtoCのWebサービス)、映画、音楽、書籍、雑誌、観光、金融(証券・保険)などが該当する。スマホやタブレットはしばしばフリーズするが、それによって顧客の生命が危険にさらされることはない。映画俳優の演技が多少下手くそでも、ロックバンドの演奏が多少音痴でも、顧客が不快感を味わうことはあれ、生命の危機に瀕することはない。この<象限③>に強いのがアメリカ企業である。<象限③>は必需品ではないため、企業は常に需要を創造しなければならない。これはまさしくイノベーションに他ならない。

 どんなイノベーションも最初は非必需品として出発するが、時の経過とともに必需品化することがある。すると、<象限③>から<象限①>や<象限②>(必需品化するだけでなく、品質要求も高くなる場合)に移行する。日本企業は<象限③>から<象限②>に移行してきた製品・サービスをアメリカ以上に磨くことで競争力を保ってきた。しばしば、日本企業はなぜアメリカのように<象限③>のイノベーションを起こすことができないのかと議論になる。しかし、<象限③>のイノベーションを起こせないのはヨーロッパなどの国も同じである。<象限③>に長けているのはアメリカしかいない。日本は無理に<象限③>を目指さず、従来通りアメリカの後追いをしていれば十分だと感じる(こういう日本企業の戦略を、ドラッカーは「起業家的柔道」と呼んだ)。

イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)
P.F.ドラッカー 上田 淳生

ダイヤモンド社 2007-03-09

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 ちなみに、<象限④>は、必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいものを指すが、この象限は必需品でないがゆえに市場規模や顧客ニーズを予測することが難しく、さらに非常に高度な品質管理が要求されるという、難易度の高い象限である。端的に言えば経営リスクが非常に高い。よって、該当する製品・サービスはほとんどない。強いて例を挙げるとすれば、航空業界と軍需産業が該当すると思われる。航空業界は、世界一経営が難しい業界だとされる。現に、アメリカでは航空会社が次々と経営破綻している。


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