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【事業承継の方法】中小企業が事業承継をする9つのステップ
平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵
『いい会社 悪い会社(『週刊ダイヤモンド』2014年3月8日号)』―本号の4項目で前職の会社を評価してみた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
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2018年09月07日

【事業承継の方法】中小企業が事業承継をする9つのステップ


事業承継・バトンタッチ

 ざっくりとした数字遊びになるが、現在日本には約380万社(個人事業主を含む)の企業が存在する。うち、毎年の廃業率は5%前後であるから、毎年約19万社が市場から退出していることになる。これは、東京商工リサーチ「2017年「休廃業・解散企業」動向調査」が発表している休廃業・解散企業数=28,142社(2017年)を大きく上回る。というのも、東京商工リサーチの数字には、同社が保有するデータベースに登録されていない個人事業主などが含まれていないからだ。実際、中小企業庁『2014年度版中小企業白書』を見ると、廃業者の9割は個人事業主である。廃業の理由には色々あって、「自分自身の年齢・体力の問題」、「業績不振」、「元々自分の代で閉めようと思っていた」などが挙げられるが、白書のデータによると「後継者(事業承継)の見通しが立たない」が4.2%を占めている。つまり、先ほどの19万社のうち、4.2%にあたる約8,000社は、事業承継が上手くいかないせいで廃業しているのである。

 ここからは究極の数字遊びだが、この8,000社は、自分の代で事業を閉めようと考えていたような個人事業主とは違って、それなりの規模がある中小企業が大半であると推測する。仮に、その平均社員数を30人としよう。すると、8,000社の廃業によって、1年間で24万人の雇用が失われる。また、計算を単純化するために、その企業が生み出す付加価値(GDP)が人件費総額に等しいと仮定し、社員1人あたりの平均人件費が年間300万円だとすると、1年間で7,200億円のGDPが失われることになる。10年換算すれば、240万人の雇用と、7.2兆円のGDPが失われる計算である。中小企業庁が「2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)を失う可能性がある」(日刊工業新聞、2017年9月27日)と予測しているのは私は大げさだと思うものの、年間24万人の雇用と7,200億円の付加価値が失われることになれば、毎年小さめの産業が1つずつ丸ごと吹っ飛ぶのと同じぐらいである。

 だから、事業承継は喫緊の課題である。多くの中小企業は、事業承継の問題をずっと先延ばしにしてきた。その結果、この20年で経営者年齢の山は47歳から66歳へと移動した。経営者の平均年齢は67~70歳と言われるから、事業承継のために残された時間はもう限られている。事業承継に関しては、中小企業庁が「経営者のための事業承継マニュアル」を公表している。今回の記事では、このマニュアルを下敷きにしながら、私が考える事業承継の9ステップを整理してみたいと思う。なお、事業承継の手段の1つとしてM&Aがあるが、私自身はM&Aに詳しくないし、中小企業のM&A市場はだんだんと盛り上がりつつあるも未だに規模としては小さいため、今回の記事では通常の事業承継のパターンを取り上げる。

 (1)後継者、後継時期をえいやで決める。
事業承継計画表

 事業承継を始めるにあたっては、上記のような「事業承継計画表」を作成することが出発点となる。向こう10年程度の目標売上高・営業利益を記入するとともに、現経営者はいつ引退するのか、後継者はいつ経営を引き継ぐのかというマイルストーンを設定する。そして、後継者の引継ぎ時期に焦点を合わせて、後継者の経営能力をどのように養成するのか計画を立てる。さらに、現経営者の引退時期に向かって、現経営者が保有している株式などの資産を徐々に後継者に委譲するためのスケジュールを立てる。

 まず何よりも大事なのは、後継者と後継時期をえいやで決めてしまうことである。以前、ブログ別館「小島規彰『会社を継ぐあなたが知っておくべき事業承継 そのプロセスとノウハウ』―5年で事業承継を完了させるパッケージの必要性」という記事を書いて、同書では30代で経営者の資質を持っている親族を自社に入社させ、10~15年かけてじっくりと育成する方法を述べていたことに対して、それではとても間に合わないと嚙みついたことがある。

 前述の通り、中小企業にとって、事業承継のために残されている時間は少ない。せいぜい5年が限度であろう。だから、現経営者の引退時期は5年後と強制的に設定してしまう。また、時間に余裕があれば、経営者の資質を持った人材を幅広く検討することも可能であろうが、今の中小企業にはそれすらもできない。さすがに誰でもいいというわけにはいかないものの、この人なら何とか経営者が務まりそうだという人がいれば、すぐにその人を後継者に指名することにしよう。後は、「地位が人を育てる」という言葉を信じるしかない。

 (2)ミッション・ビジョン・価値観を明文化する。
 事業承継という言葉は若干語弊がある。承継するのは事業だけではない。事業を束ねる経営を承継するのである。だから、正確には経営承継と呼ぶべきである。そして、その経営の骨格をなしているのがミッション・ビジョン・価値観である。ミッションとは自社の社会的使命である。自社がなぜこの世にあるのか、その存在理由を明らかにするものである。ビジョンとは、ミッションを解りやすく言い換えたものである。自社の製品・サービスを使う顧客はどのような気持ちになり、どんな生活を送っているのか、その顧客を支える社員はどんな働きぶりをしているのか、取引先とはどのような協調関係を結んでいるのなど、それを聞けばまるで事業の中身が目の前に映像として浮かぶほど具体化されたものがビジョンである。価値観とは、ミッションやビジョンを達成するために、自社として順守すべき判断基準や行動様式のことを指す。

 現経営者が長年社長を務めている間に、こうしたミッション・ビジョン・価値観が曖昧になってしまうケースというのは多い。また、現経営者が創業者の場合は、ミッションなどが現経営者の頭の中だけにしか存在していないということもある。事業(経営)承継にあたっては、ミッションなどを明文化し、後継者に伝承することが重要である。言うまでもないことだが、ミッションなどは、現在の自社の主力事業や業務内容と整合性が取れていなければならない。中途半端なミッションを掲げると、先日の記事「【中小企業診断士】私が独立診断士として失敗した5つの原因」で書いたように、私と同じような失敗をしでかすことになる。

 (3)承継する資産と承継しない資産を峻別する。
 事業承継で承継する資産には、大きく分けると「知的資産」と「個人資産」がある。知的資産とは、製品・サービス、顧客情報をはじめとする情報資産、顧客や取引先との信用、コア・コンピタンス、コア・ケイパビリティ、事業のノウハウ、特許をはじめとする知的財産権などがある。これらのうち、次の世代にも活かすべき資産と、事業承継を機に切り捨てる資産とを区別することが大切である。そのためには、自社の戦略をもう一度よく見直してみるとよい。これは言ってみれば、引っ越しの際に、いる物といらない物を分別するようなものである。

 「個人資産」には、現経営者が保有している株式、現経営者が自社に貸与・供与している土地・建物などの資産、貸付金などがある。これらの資産をどうするかについては、私よりも税理士や公認会計士の方がよっぽど詳しい。贈与税・相続税対策、種類株式の導入、信託の活用、事業承継税制の利用など、様々な道があるので、専門家に相談することをお勧めする。

 (4)後継者に業務改善を行わせる。
 ここからは後継者の育成に入る。と言っても、事業承継までに残されている時間は5年ほどしかない。この5年で、経営者として必要な能力を相当程度習得する必要がある。また、後継者はすぐさま社内から歓迎されるとは限らない。突然入社してきた親族や外部の第三者が後継者である場合はなおさらだ。この人は本当に経営者にふさわしいのかを周囲の社員は厳しい目で見ている。彼らを納得させるために、後継者には結果が求められる。しかし、いきなり大きな成果を出すことは難しい。私は、後継者が経営者として必要な能力を幅広く身につけ、社員から認められるようになるには、3段階の改革を行うことが望ましいのではないかと考える。

 まずは、後継者を部長クラスで特定の部門に配属し、すぐに成果が出やすい業務改善に着手させる。後継者にとっては、自社の業務をよく理解し、社員ともコミュニケーションを取るよい機会になる。注意すべきは、あまりに抜本的な業務改革をしてはならないということである。社員の残業代が減ったり、まして人減らしにつながったりするような改革は、かえって社員の反感を買う。中小企業はマンパワーが不足している割に複雑な業務フローになっていて、社員に過度な負荷がかかっていることが多い。ここでの業務改善の目的は、その業務フローを整理し、社員を楽にしてあげることである。そうすれば、社員は「この後継者は自分たちによく配慮してくれる」と思い、味方になってくれるに違いない。この業務改善には2年ほどの時間を使う。
 
 (5)後継者に新規顧客の開拓をやらせる。
 部長として一定の成果を出すことができれば、後継者を取締役専務などに昇格させ、次の改革に着手させる。とりわけ中小企業の経営者に期待されるのは営業である。トップセールスができることである。だから、後継者には、新規顧客の開拓をやらせる。その際、業績があまり芳しくない部門に配属させて、修羅場を経験させるとよいかもしれない(本当に業績が芳しくない部門は、(3)の段階で整理の対象になっているから不適切である)。

 この改革には3年ほどを使う。単に後継者が新規顧客を開拓できるようになるだけではなく、そのノウハウを社員とも共有し、社員をトレーニングする。場合によっては、従来の営業スタイルを改め、営業ツールや社内ルールを見直し、販促やプロモーションのやり方も変える。ここまでを3年間で行う。本当は、事業承継までの5年間で3回の改革を行って、万全の状態で経営者となるのが理想である。だが、いかんせん時間が5年と限られていることから、承継前に実行できる改革は2回が限度となる。残りの1回は後述するように、事業承継後に実施する。

 (6)新社長はミッション・ビジョン・価値観を自分の言葉で再定義する。
 (4)(5)で結果を出し、晴れて新社長となった後継者がまずやるべきことは、先代の経営者から受け継いだミッション・ビジョン・価値観を、自分の言葉で置き換えることである。単に先代の経営者のミッションなどを繰り返すだけでは、社員の失望を買うばかりか、下手をすると「新社長は先代経営者の傀儡なのではないか?」という疑念を生む恐れがある。新社長は、(4)(5)の改革を通じて解った自社の事情や事業環境、また自分がこの企業にかける意気込みを反映させて、自分なりの言葉でミッションを語る必要がある。

 そのミッションは、新社長が折に触れてしつこく社員に語りかけなければならない。稲盛和夫氏は、「経営者は壊れたレコードのように経営理念を何度も繰り返し社員に語る必要がある」と述べていたが、これは決して、いつまでもバカみたいに同じフレーズを復唱していればよいという意味ではないと思う。新社長は、様々な角度から、ミッションを語れるようにならなければならない。言い換えれば、語彙を増やさなければならない。そのためには、日々の経営、事業、業務の変化に敏感になり、その変化をミッションの語り方に照射させることが肝要である。

 (7)新社長は自分の能力を補完してくれる右腕を確保する。
 経営者に求められる能力とは何だろうか?『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2018年2月号のクラウディオ・フェルナンデス=アラオス他「現在のコンピテンシー水準とのギャップを埋めよ 潜在能力を開花させる経営リーダーの育成法」という論文によると、①市場理解力、②戦略性、③協働能力、④チームリーダーシップ、⑤組織育成力、⑥変革のリーダーシップ、⑦成果志向、⑧多様性対応力の8つだという。新社長は、社長になる前から、この8つの能力がどのレベルにあるのかについて評価を受け、また(4)(5)の改革を通じてどの能力が伸びたのか、逆にまだ弱みとして残っている能力は何なのかを見極めてもらう。

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 8つでは多すぎると言うならば、以前の記事「比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた」で挙げた、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という4つの能力で評価してもよいと思う。肝心なのは、新社長の強みと弱みを明らかにすることである。本当は、社長に就くまでに全ての弱みを克服できるよう、3回の改革を経験できるのが望ましい。だが、既に述べたように、現実問題として5年で3回の改革を行うのはほとんど不可能だし、そもそもどんな人間であっても克服できない弱みは残るものである。よって、新社長は、自分の弱みを補ってくれる右腕となる人材を社内から探さなければならない。右腕人材は、新社長の能力を補うだけでなく、社長が陥りがちな孤独を緩和してくれる役割も果たす。

 (8)既存事業と親和性の高い新製品・サービスを開発する。
 新社長就任後、3回目の改革に着手する。その改革とは、新製品・サービスの開発・販売である。これは、新社長が先代経営者とは違う新鮮さを打ち出し、社員にそれを訴求する効果を持つ。ただし、間違っても、既存事業との関連性が薄い分野に手を出してはいけない。経営に慣れた社長であっても、シナジーが低い分野に進出するのはリスキーなのだから、社長になったばかりの人がそんな危険を冒してはならない。この改革は、後継者が新社長となり、社員から新しい経営者として認めてもらうための3段階の改革の総仕上げに該当する。だから、絶対に失敗が許されない。よって、既存事業とのシナジーが高い分野を慎重に選択するべきである。

 国は、開業率を英米並みの10%に引き上げることを目標として、創業補助金という制度を設けている。この補助金は、単に一から創業する人だけが対象ではなく、実は、事業承継を行う既存企業も対象となっている(第二創業)。ただし、第二創業で補助金を受けるためには、新社長が新規事業を立ち上げることが条件とされる。ここまでお読みいただいた方はお気づきかもしれないが、この条件はあまりにも恐ろしい。もちろん、新規事業の中身にもよるものの、新社長がいきなり新規事業にチャレンジするのはリスクが高すぎる。仮にその新規事業に失敗すれば、新社長の社内での評判は著しく傷つき、その後の企業経営に深い影を落とすことになるだろう。国は補助金で事業承継を潰すつもりなのかと思ってしまう。

 (9)公平な人事評価制度を構築する。
 経営には終わりがないのだから、事業承継もどこまでやれば終了なのかを明確に定めることが難しい。ただ、1つの区切りとして、(8)の改革が一段落ついたら、人事評価制度の整備に着手するべきだと思う。これは何も、MBO(目標管理制度)のような立派な制度を導入せよという話ではない。中小企業の場合、人事評価がそもそも行われていない、行われていたとしても社長の恣意的な評価で決まるということが多い。これでは、社員のモチベーションを保つことは難しい。新社長は、評価に対する社員の納得感を高める努力をしなければならない。(6)で新社長は新しいミッション・ビジョン・価値観を掲げたが、例えば、自社の価値観に沿った仕事をした社員を高く評価するようにするだけでも、評価に対する社員の満足度はがらりと変わる。


2018年04月13日

平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵


これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視
平井 謙一

生産性出版 1998-03

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 副題に「絶対評価・業績成果の重視」とある割には、本書の大半は「職能資格制度」の解説になっている。まず、職能等級基準書の例が示され、それをそれぞれの職種に展開した職能等級基準説明書の例が数多く掲載されている(営業、生産、サービス、企画、事務など)。

 人事考課は成績、情意、能力の3本柱で構成され、それぞれの評価基準が示されると同時に、等級が下位の場合は情意が、中位の場合は能力が重視され、上位になると成績の割合が高くなることが示されている。情意項目の例としては、規律性、積極性、協調性、責任性の4つが、能力項目の例としては、知識(・技能)力、判断力、企画力、折衝力、指導力の5つが一般的だとされているが、なぜこれらの項目で十分であると言えるのかは本書では触れられていなかった(必要な能力の導出をフレームワークを用いて試みた例として、以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」を参照)。

 業績成果を重視するためには目標管理(MBO)制度を導入しなければならないが、MBOが登場するのはようやくp201になってからである。しかも、本書では「従来の職能資格制度を修正して目標管理制度を導入する(同時に、職能給から年俸制へと移行する)」と書かれているのに、職能資格制度における人事考課と目標管理をどのように融合させるのかについては論じられておらず、両者が併存したままになっている。

 本書では、年功制について次のように述べられている箇所がある。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 欧米企業も最近はチームワークの重要性を認識するようになっている。ということは、むやみやたらと業績主義や成果主義に走るのではなく、むしろ年功制の方が有効なのではないかとさえ思えてくる。ちなみに私は、業績給・成果給においては、どんな計算をしても企業の業績を個人の業績に還元することができず不平不満が残るため、不平等をもたらすかもしれないが最も簡便な人事制度として年功制を支持していることは本ブログでも何度か書いた。

 また、副題にある「絶対評価」をめぐっては、次のような記述がある。
 これからの人事評価の正しいあり方として、第1に、第1次評価、第2次評価は絶対評価を行なう。第2に、調整段階または最終段階で必要に応じ相対評価を行なう。調整段階、最終段階でも、賃金原資や定員枠に余裕のある限り、絶対評価を尊重する姿勢を堅持する。これを原則とするのが好ましい。
 ただ、残念ながら現在の多くの日本企業では、賃金原資はともかく、定員枠には余裕がない。よって、調整段階や最終段階では相対評価となるだろう。いや、以前の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」に従えば、相対評価ではなく「相対考課」が正しい。

○図1
企業の人員構成の変化

 現在の日本企業に定員枠がないことを、図1を使って説明したいと思う。図1はかなり荒っぽいモデルであることをあらかじめご了承いただきたい。図1は、社長が3人の部下を引き連れて創業するケースを想定している(便宜的に、社長を係長の枠に入れている)。上司:部下の割合は1:3とし、今後も原則としてはこの比率を保持する。この企業は労働集約型企業であるとして、社長の売上高は2,000万円、部下である一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計4人で売上高5,000万円となる。10年後には、3人の部下は昇進し、それぞれ3人ずつ新しい部下を持つ(便宜的に、社長を課長の枠に、社長の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は3,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計13人で売上高1億5,000万円となる。

 さらに20年後には、社長の部下と一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が27人入ってくる(便宜的に社長を部長の枠に、社長の部下を課長の枠に、社長の部下の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は4,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり3,000万円、社長の部下の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計40人で売上高5億8,000万円となる。

 30年後には、社長の部下、社長の部下の部下、一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が81人入ってくる。社長の部下は部長、社長の部下の部下は課長、一般社員は係長となる。社長の売上高は5,000万円、部長の売上高は1人あたり4,000万円、課長の売上高は1人あたり3,000万円、係長の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計121人で売上高17億9,000万円となる。

 ここまでは、入社した社員が皆昇進することができるので問題ない。問題はここからである。40年後に、9人の課長を部長に、27人の係長を部長に、81人の一般社員を係長に昇進させ、81×3=243人の一般社員を入社させたとしよう。1人あたり売上高は、社長が5,000万円、部長が4,000万円、課長が3,000万円、係長が2,000万円、一般社員が1,000万円であるから、合計360人で売上高52億7,000万円となる。30年後の売上高が17億9,000万円であることを踏まえると、10年で売上高を約3倍にしなければならない。売上高は、創業直後5,000万円⇒10年後:1億5,000万円⇒20年後:5億8,000万円⇒30年後:17億9,000万円と推移しており、だいたい10年間で3倍になっている。売上高を10年間で3倍にするためには、毎年約12%の成長が必要となる。創業後30年ほどは高成長が続くから、このぐらいの成長率でも問題ないだろう。しかしながら、創業後40年ともなれば、成長率が落ちてくるのが普通である。

 もはや全員を昇進させることはできない。だが、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えたい。そこで、今まで上司:部下=1:3となっていたのを、1:4にする。すると、40年後には部長4人、課長16人、係長64人、一般社員256人となる。合計341人で売上高は45億3,000万円である。これは、30年後の売上高17億9,000万円の約2.5倍である。50年後も同様である。16人の課長を部長に、64人の係長を部長に、256人の一般社員を係長に昇進させることはできない。代わりに、上司:部下=1:4となっていたのを、1:5にする。すると、50年後には部長5人、課長25人、係長125人、一般社員625人となる。合計781人で売上高は97億5,000万円である。

 以降同様に、60年後は上司:部下=1:6とし、部長6人、課長36人、係長216人、一般社員1,296人とする。合計1,555人で売上高は186億5,000万円である。70年後は上司:部下=1:7とし、部長7人、課長49人、係長343人、一般社員2,401人とする。合計2,801人で売上高は326億7,000万円である。80年後は上司:部下=1:8とし、部長8人、課長64人、係長512人、一般社員4,096人とする。合計4,681人で売上高は534億9,000万円である。90年後は上司:部下=1:9とし、部長9人、課長81人、係長729人、一般社員6,561人とする。合計7,381人で売上高は830億3,000万円である。100年後は上司:部下=1:10とし、部長10人、課長100人、係長1,000人、一般社員10,000人とする。合計11,111人で売上高は1,234億5,000万円である。

 この間、売上高の伸び率は、
 ・40年後:45億3,000万円⇒50年後:97億5,000万円(約2.2倍)
 ・50年後:97億5,000万円⇒60年後:186億5,000万円(約1.9倍)
 ・60年後:186億5,000万円⇒70年後:326億7,000万円(約1.8倍)
 ・70年後:326億7,000万円⇒80年後:534億9,000万円(約1.6倍)
 ・80年後:534億9,000万円⇒90年後:830億3,000万円(約1.6倍)
 ・90年後:830億3,000万円⇒100年後:1,234億5,000万円(約1.5倍)
と、徐々に伸び率が鈍化していく。それでも、仮に10年間で売上高を1.5倍にしようとすれば、毎年4%の成長が求められる。10年間で売上高2倍なら、毎年7~8%の成長が必要である。

 110年後以降であるが、一般的にスパン・オブ・コントロール(管理の範囲)は部下10人と言われているから、これ以上1人の上司に対する部下の数を増やすことは困難になると思われる。よって、組織は100年後と同じ人員構成を維持しようとすることになるだろう。

 注目してほしいのは、矢印で示した「昇進率」である。前述の通り、創業から30年後までは全員を昇進させることができた。ところが、40年後以降はポストが不足する。そして、図1をご覧の通り、上の階層に行くほど、そして創業からの年数が経過するほど、昇進率が下がる。

 日本企業の多くは戦後の高度経済成長期に設立されたと推測され、図1の40年後~50年後がちょうど20世紀末にあたる。この時期には、各企業は子会社を作って余剰人員を転籍させることができた。連結決算についてもそれほどうるさくなかったから、小さな子会社を乱立させていた時期である。ところが、2001年に連結決算が本格的に施行されると、その手が使えなくなる。図1の60年後~70年後がまさに2000年代~2010年代を表している。連結決算が適用されるので、下手に赤字子会社を作るわけにはいかない。子会社を作って新規事業に算入するならば、本業の規模に見合ったものにしなければならない。図1でお解りのように、この時期には日本企業はそれなりの規模になっていたため、新規事業の種探しも困難を極めるようになった。

 バブル期は図1で言うと40年後に該当する。この時期に入社した社員が10年後に係長に昇進する割合は49%にすぎない。10年後に係長に昇進しても、さらにその10年後に課長に昇進する割合は29%であるから、課長に昇進する割合は49%×29%=約14%である。『7割は課長にさえなれません』というのは決して誇張ではない(旧ブログの記事「日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ-『7割は課長にさえなれません』(補足)」を参照)。

 私は前述の通り年功制を支持する一方で、終身雇用については支持していない。図1でも明らかな通り、全員にポストを用意することは不可能である。かといって、既存社員の雇用を守るために若者を排除するのは愚策である。若者が雇用不安に陥ると、社会全体が動揺することは、フランスやドイツを見れば明らかである。よって、企業は若者を積極的に採用する反面、一定の年齢に達した社員のうち、一定の割合を外部に転出させなければならない。転出した社員は自ら起業するか、転出した社員が興した企業に転職することになる。

 現在、バブル期に入社したミドル社員がポストをふさいでいることが多くの企業で問題になっているようだが、私は遅かれ早かれ、解雇の要件が緩和されると思う。代わりに、産業界は、円滑な起業・転職を推し進めるために、助成金を給付する基金を共同で構成したり、起業・転職希望者を対象とした能力開発を行う組織をサポートしたりする必要が出てくるだろう。

○図2<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 以前の記事「『未来をつくるU-40経営者(DHBR2016年11月号)』―U-40の起業家は歳が近くて悔しくなるので、Over50の起業について考えてみた」では図②のようなグラフを用いた(初出は旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」)。平成42年とは12年後の2030年のことであるが、この頃には、20代を底辺とし、70代ぐらいを頂点とする従来型の組織と、40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織が出現すると書いた。仮に21世紀に入ってから企業がミドル社員の転出・起業を既に促していたとすると、30年後の2030年には図2のような2つのタイプのピラミッド組織が併存しているに違いない。

○図3
人口ピラミッド

 さらに時間が進んで2040年になるとどうであろうか?40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織も創業40年を迎え、全員が昇進できなくなる。ということは、この新しい組織においてもまた、一定の年齢に達した社員の一定割合が転出を促される。その転出は、40代後半で入社して10~15年後ぐらいから始まると仮定すると、今度は50代後半を底辺とし、80歳近くを頂点とする第3の組織も誕生すると予想れる(図3左側)。その結果、60~64歳の約7割、65~69歳の約4割、70~74歳の約2割、75~79歳の約1割が働き続けることになる。2065年になると、図3の右側のように変化する。60~64歳の約8割、65~69歳の約5割、70~74歳の約3割、75~79歳の約2割が働き続けると推測される。


2014年03月21日

『いい会社 悪い会社(『週刊ダイヤモンド』2014年3月8日号)』―本号の4項目で前職の会社を評価してみた


週刊 ダイヤモンド 2014年 3/8号 [雑誌]週刊 ダイヤモンド 2014年 3/8号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-03-03

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 大手口コミサイト「Vorkers」の口コミ47万件を分析し、「風通しのよさ」、「評価の適正さ」、「人材の長期育成」、「社員の士気」という4つの視点で評価を行いランキングを作成している。1位はリクルートマーケティングパートナーズだった。

 ただ、この4項目の合計得点がいいからと言って、業績が優れているとは限らない。根本のビジョンや戦略が間違っていたら、どんなに風通しがよくても、顧客や競合他社について無益な情報しか上がってこないだろうし、市場からは全く評価されない人材ばかりが育ってしまうに違いない。ランキングには補足情報として、過去3年間の経常利益の伸び率が掲載されていたが、3年前が赤字のためにパーセンテージが計算できない企業が何社か見受けられた。

 「人材の長期育成」のみのランキングを作ると、日本企業がずらりと並ぶ。その中でも異色なのは、アジレント・テクノロジー・インターナショナル(電気機器)と日本ベーリンガーインゲルハイム(医薬品)という外資2社である。アジレント・テクノロジー・インターナショナルは、ヒューレット・パッカード(HP)が源流の会社である。HPは90年代ぐらいまでは終身雇用に近い形態をとっており、比較的人材を大切にする社風があった(最近は大規模なリストラを行っているが・・・)。それがアジレント・テクノロジー・インターナショナルにも受け継がれているようだ。

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、実は数年前に営業部門の研修を取材したことがある。まずは全営業担当者が従うべき標準的な営業プロセスを定めて、プロセスごとの目標値(KPI)を設定する。そして、標準プロセスの中身とKPIの重要性・意義について、研修でみっちり教え込む。この研修は営業担当者だけでなく、マネジャーも対象である。研修受講後のKPIはきめ細かくモニタリングされており、KPIの改善が芳しくない場合には、研修部門から追加の支援が入る、という仕組みになっている。人材育成に対して非常に熱心であるという印象を受けた。

 「風通しのよさ」、「評価の適正さ」、「人材の長期育成」、「社員の士気」の4項目のスコアが高いからと言って、企業が好業績であるとは限らないと書いたが、この4項目が悪ければ企業に未来はないのは確実だろう。それは、私の前職の会社がはっきりと示している。「ベンチャー失敗の教訓」シリーズに書き切れなかったことをこの記事で補足してみたいと思う。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
(1)風通しのよさ
 X社には企業風土を評価し、課題を特定する組織診断ソリューションがあった。具体的には、個人の活力、組織の活力、組織のメカニズム(リーダーシップ、仕事内容、役割分担、コミュニケーション、多様性・柔軟性、育成、評価)という3つの視点で企業風土を把握し、組織のメカニズムを構成する7つの要素のうち、どれを改善すれば個人や組織の活力がどの程度向上するのかを明らかにする、というものであった。

 「【ベンチャー失敗の教訓(第38回)】分社化したがゆえに生じた組織の壁」や「【ベンチャー失敗の教訓(第42回)】いびつなオフィス構造もコミュニケーション不全を引き起こす原因に」でも述べたように、会社内・会社間のコミュニケーションは不活発で、オフィス全体の空気が沈滞しているのが肌でひしひしと解るような感じだった。そこでZ社のC社長が、組織風土を改善するために、この組織診断を使うことを提案した。C社長は診断結果を全社員に公開して課題を共有し、腹を割って解決策を議論するつもりでいた。C社長の意図は、社員にも伝えられていた。

 診断の分析レポートを作成したのは、Z社の若いコンサルタントであった。自由記述欄に書かれたコメントの中には、会社に対する辛辣な批判などもあったが、オープンに対話をしたいというC社長の意向を汲んで、全て包み隠さずレポートに反映させた。そして、レポートがまとまると、彼は少しでも早く情報を共有したいと思い、レポートを全社員にメールで配信した。

 ところが、これに怒り狂ったのがC社長であった。C社長は、「なぜ自分に事前に報告しなかったのか?」と彼に詰め寄った。確かに、C社長の主張にも一理ある。C社長の指示でやっている仕事なのだから、まずはC社長に報告すべきだというのは自然な流れだろう。だが、話をいろいろと聞いていると、どうやらC社長は事前にレポートを読んで、都合の悪い情報(特に、自分にとって都合の悪い情報)は消そうと考えていたらしい。これでは建設的な議論などできるはずもない。この一件があってから、C社長と社員との距離感がさらに広がってしまった。

(2)評価の適正さ、(3)人材の長期育成
 以下の記事を参照。
 【ベンチャー失敗の教訓(第34回)】スキルが狭すぎてお互いに助け合えない
 【ベンチャー失敗の教訓(第35回)】人材育成が事業テーマなのに自社には人材育成の仕組みがない

(4)社員の士気
 X社の組織診断ソリューションの中には、「女性社員の活用度」を測定するものもあった。ダイバーシティマネジメントの重要性が叫ばれるようになった時代背景に合わせて開発したものである。この組織診断では、女性社員の活用度を「ハード面(育休制度の活用度、女性社員の管理職への登用など)」、「ソフト面(男性社員による女性社員の受容、女性社員のキャリア意識など)」の両面から評価する。ある意味では、女性社員のモチベーションを測定できる診断だった。

 サービスの本格提供に先立ち、X社は社内トライアルと顧客企業数社による社外トライアルを実施した。X社は半分ぐらいが女性社員だったので、診断の妥当性を検証するには適格だった。また、社外トライアルについては、女性社員の活用が進んでいると思われる企業と、(失礼だが)そうでないと思われる企業を顧客企業の中から選んでトライアルをお願いし、診断結果にどのような差が出るのかを検証しようとした。

 この診断の分析は私がやったのだが、一番結果が悪かったのがX社であった。つまり、女性社員のモチベーションが一番低かった。女性活用が進んでいないと思われた企業でも、ハード面・ソフト面のスコアは中くらいであり、X社よりも高かった。一番ショックだったのは、X社と同じように女性社員が多いベンチャーの顧客企業の結果がずば抜けてよかったことである。ベンチャー企業だからハード面は得点が低くても仕方ない、という言い訳はきかないのである。私は協力してくださった顧客企業1社1社に対し、診断結果をフィードバックさせていただいたのだが、このベンチャー企業にフィードバックする時は忸怩たる思いであった。



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