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『一橋ビジネスレビュー』2018年SUM.66巻1号『「新しい働き方」の科学』―「女性活躍推進度診断」(簡易版)を考えてみた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年07月06日

『一橋ビジネスレビュー』2018年SUM.66巻1号『「新しい働き方」の科学』―「女性活躍推進度診断」(簡易版)を考えてみた


一橋ビジネスレビュー 2018年SUM.66巻1号一橋ビジネスレビュー 2018年SUM.66巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-06-15

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 本号の特集論文7本のうち、3本が女性活躍推進に関するものであった(山本勲「女性活躍を推進する働き方と企業業績」、横浜国立大学服部研究室「性別役割分業観と女性の昇進意欲」、坂爪洋美「部下の性別による管理者行動の違いと働き方にかかわる人材マネジメントの影響」)。女性活躍推進自体は「ダイバーシティ(多様性)・マネジメント」の一環として、日本でも10年以上前から注目されていたのだが、昨今の働き手不足の問題と、それに伴う政府の「働き方改革」によって、今後ようやく加速していくものと思われる(悲しいことに、外圧がないと自己をなかなか変革できないという、日本人や日本組織の弱みが現れている)。

 本号の特集を受けて、「女性活躍推進度診断」の簡易版を作ってみた。企業で女性社員を積極的に活用するには、「個人の意識」と「組織の環境」の両方が変わる必要がある。「個人の意識」とは、それぞれの社員(特に男性)が女性社員の価値観や能力の違いを尊重・活用しようとする意識のことである。ここで、違いを認識する前提として、自己が何者かということを知っていることが重要となる。つまり、キャリア的に自律していなければならない。よって、「個人の意識」は「キャリア自律」と「多様性の尊重(個人レベル)」という2つの因子から構成される。

 組織のレベルでは、継続就労支援、マネジャーへの女性社員の登用、育児休暇制度の充実、ワーク・ライフ・バランスの確保など、各種施策によって女性社員の活躍のフィールドを広げていくことが不可欠である。ただし、これは必要条件ではあるが十分条件ではない。制度のようなハードを広げても、その制度が根づく組織文化が発達していしなければ、ハードが活かされることはない。したがって、組織レベルにおいても、異性社員の価値観や能力の違いを認識・尊重し、それを前向きに活用しようとする風土が醸成されていることが条件となる。これは組織のソフト面の話であると言える。つまり、「組織の環境」は、「女性活躍推進の取り組み」というハード面と、「多様性の尊重(個人レベル)」というソフト面の2つの因子から構成される。

 以下、「女性活躍推進度診断」の設問文である。全部で24問ある。いずれの設問も、5=よくあてはまる、4=あてはまる、3=どちらとも言えない、2=あまりあてはまらない、1=あてはまらない/知らない、の5段階でご回答いただきたい。

カテゴリ No. 設問 回答
キャリア自律 1 私は、与えられた仕事をこなすだけでなく、自分なりの思い入れやこだわりを持って仕事に打ち込んでいる。 5 4 3 2 1
2 私は、給料や昇進のために仕事をするというようりも、自分の中でやりがいや意義を感じながら仕事に取り組んでいる。 5 4 3 2 1
3 今の仕事を通じて、自分がなりたいと思う姿に近づいているという成長の実感がある。 5 4 3 2 1
4 私は、会社のビジョンや目指している方向性に共感している。 5 4 3 2 1
5 この職場では、それぞれの社員が会社や仕事に対する共通の思いを持って働いていると思う。 5 4 3 2 1
6 私は、この会社に魅力を感じており、会社とともに成長していきたいと思う。 5 4 3 2 1
多様性の尊重(個人レベル) 7 私は、男性社員と女性社員の考え方や価値観の違いを認識している。 5 4 3 2 1
8 私は、自分にはない異性社員の考え方や価値観をオープンに受け入れている。 5 4 3 2 1
9 私は、自分にはない異性社員の特性を活かそうとしている。 5 4 3 2 1
10 私は、社内の重要な仕事において、異性社員と対等な立場で協業した経験がある。 5 4 3 2 1
11 私は、異性社員との協業により、同性社員だけでは生み出し得ない成果を出している。 5 4 3 2 1
12 異性社員と対等な立場で、それぞれの力を発揮しながら、協調して成果を出したことが、自分のキャリア上の重要な経験になっている。 5 4 3 2 1
女性活躍推進の取り組み 13 この会社では、これまで女性が少なかった職種において、実際に女性の採用数が増加している。 5 4 3 2 1
14 この会社では、ジョブ・ローテーションや職種転換などによって、実際に女性が配置されている職場が増加している。 5 4 3 2 1
15 この会社では、管理職に女性社員を積極的に登用しようとして、実際に女性の管理職が増加している。 5 4 3 2 1
16 この会社では、これまで女性の受講者が少なかった研修に参加する女性が実際に増加している。 5 4 3 2 1
17 この会社では、女性のワークライフバランスを促進する制度(短時間勤務制度、在宅勤務制度など)が女性社員に積極的に活用されている。 5 4 3 2 1
18 この会社では、女性も男性と同程度の成果・パフォーマンスを出せば、実際に男性と同等に評価されている。 5 4 3 2 1
多様性の尊重(組織レベル) 19 この職場では、男性社員と女性社員の考え方や価値観の違いが認識されている。 5 4 3 2 1
20 この職場には、男性社員・女性社員の区別なく一人ひとりの考え方や価値観を大切にしようとする雰囲気がある。 5 4 3 2 1
21 この職場は、男性社員と女性社員それぞれの特性を活かそうとしている。 5 4 3 2 1
22 この職場では、社内の重要な仕事には男性社員と女性社員の双方が対等な立場で参加している。 5 4 3 2 1
23 この職場では、男性社員と女性社員がそれぞれの特性を発揮し、協調しながら成果を出している。 5 4 3 2 1
24 男性社員と女性社員が対等な立場で、それぞれの力を発揮しながら、協調して成果を出すことが、この会社の強みになっている。 5 4 3 2 1


女性活推進

 回答が終わったら、まずは「個人の意識」に該当するNo.1~12の平均点と、「組織の環境」に該当するNo.13~24の平均点を算出する。そして、上図の左側のマトリクス上にその平均点をプロットし、自社がどの象限に位置するのかを判定する。「個人の意識」、「組織の環境」の平均点がともに中央値である3以上であれば、女性活躍推進が実現している理想型となる。「個人の意識」の平均点のみ3点以上の場合は、社員個人の意識が先行して、組織の整備が追いついていないパターン、逆に「組織の環境」の平均点のみ3点以上の場合は、組織の整備が先行して社員個人の意識が追いついていないパターンとなる。「個人の意識」、「組織の環境」ともに平均点が3点未満の場合は、女性活躍推進で後れを取っていると言わざるを得ない。

 さらに、「個人の意識」は「キャリア自律」と「多様性の尊重(個人レベル)」から構成される。そこで、No.1~6(キャリア自律)の平均点とNo.7~12(多様性の尊重(個人レベル))の平均点を算出し、上図の右上のマトリクス上にその平均点をプロットする。「キャリア自律」、「多様性の尊重(個人レベル)」の平均点がともに3点以上であれば、自己意識と他者に対する意識のバランスが取れている理想型となる。だが、前述の通り、「キャリア自律」は「多様性の尊重(個人レベル)」の前提であるから、多くの企業は、「キャリア自律」の平均点のみが3点以上で、社員個人のキャリア意識が先行すると思われる。とはいえ、中には「多様性の尊重(個人レベル)」の平均点のみが3点以上という、他者に対する意識が先行する企業もあるだろう。「キャリア自律」、「多様性の尊重(個人レベル)」ともに平均点が3点未満の場合は、社員の意識が停滞している。

 「組織の環境」は「女性活躍推進の取り組み」というハード面と「多様性の尊重(組織レベル)」というソフト面から構成される。そこで、No.13~18(女性活躍推進の取り組み)の平均点とNo.19~24(多様性の尊重(組織レベル))の平均点を算出し、上図の右下のマトリクス上にその平均点をプロットする。「女性活躍推進の取り組み」、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点がともに3点以上であれば、ハードとソフトのバランスが取れている理想型となる。だが、多くの企業ではまずはハードの整備から着手するから、「女性活躍推進の取り組み」の平均点のみ3点以上というパターンが多いと思われる。とはいえ、ベンチャー企業のように、制度は整っていないが、多様な社員の受け入れに初めから抵抗がない企業では、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点のみが3点以上ということもあるだろう。「女性活躍推進の取り組み」、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点がともに3点未満の場合は、組織に大きな課題がある。

 上記の診断を一定の社員数に受けてもらい、結果を集計すると、女性活躍推進をめぐる自社の課題が見えてくるだろう。さらに、男性社員と女性社員、管理職と非管理職で分けて集計したり、社員の年代別、部門別に集計したりすれば、より細かく認識の差を抽出できる。例えば、管理職は我が社では女性社員の違いを受け入れる文化が醸成されていると考えているのに対し、非管理職はそのような文化の存在を否定しているといったケースは容易に想像できる。

 ここからは、女性社員の活用をめぐって企業が直面する課題について、私見を述べてみたいと思う。最近でこそ出産・育児後に復帰する女性社員が増えているものの、それでもまだまだ出産・育児を機に退職を余儀なくされる女性社員は圧倒的に多い。企業側の理屈は、女性社員は出産・育児によってブランクができると、その間に能力が低下してしまうというものである。だが、果たして能力はそんなに簡単に下がるものなのだろうか?

 日本企業はゼネラリストを育成する傾向が強く、様々な部門の業務を経験して、多様な能力を身につけさせようとする。そして、優れたゼネラリストが経営者となっていく。しかし、経営者になる頃には、20代・30代からは随分と時間が経過している。それでも、20代・30代で身につけた能力がゼネラリストとしては重要なのである。ということは、20代・30代の能力は衰えていないと言っているに等しい。経営陣に関しては、習得から数十年経った能力でも重宝されるのに、女性社員の能力はわずか2~3年のブランクで否定されるのは、明らかな矛盾である。

 もう1つの課題は、昇進をめぐるものである。多くの企業では、女性社員が出産・育児で休職している間は、業績評価をしない。仕事をしていないのだから、業績評価をしないのは当然と言われるかもしれない。だが、以前の記事「比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた」で示した例によると、例えば職能Level4に昇格するためには「Level3時代の5年以内の評価ポイントが15(年平均3)以上」となっており、Level4に昇格することが課長に昇進するための条件になっている。ここで、Level3で3年勤務し、9ポイントを獲得した女性社員が出産・育児をきっかけに2年間休職したとする。すると、Level3時代の5年以内に15ポイントを獲得することは不可能になり、課長に昇進する道が絶たれる。休職している間は通算勤務期間に入れないという方法もあるが、その場合には、女性社員の昇進は必ず男性社員よりも遅れてしまう。

 ここで、私は、女性社員が休職している間に、疑似的に業績評価を行うという方法を提案したい。具体的には、休職期間中であっても、業績評価は例えば平均点の3を自動的に与える。そうすると、休職を理由に女性社員が昇進で遅れるケースが減る。これを不平等な処遇だと批判する人は必ずいるだろう。だが、本ブログで何度も書いているように、人事制度を完全に平等に設計することは不可能である。それに、子どもを育てている女性社員は、人口減少社会において貴重な国民を育てるという大仕事をしている。そういう表現が敬遠されるのであれば、子どもを育てている女性社員は、将来市場に出てくる潜在的な顧客候補を育てていると言ってもよい。つまり、子どもを育てることは、企業の業績に立派に貢献しているのである。

 やや話が逸れるが、この話を拡張すると、介護休暇を取っている社員についても、同じように自動的・疑似的な業績評価を行うべきだということになる。現在、介護離職が大きな問題になっている。仮に再就職できたとしても、前職よりも大幅な年収ダウンになるケースは枚挙にいとまがない。だが、自動的・疑似的な業績評価を行えば、その社員は退職する必要もなく、これまで積み上げてきた年収を失うこともなく、さらに昇進の可能性も残される。それを正当化するとすれば、その社員は介護によって親の健康状態を保っており、高齢者市場の維持に貢献していると言える。これもまた、子育てと同じくらい重要な仕事であると私は考える。




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