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加藤諦三『どうしても「許せない」人』―自己蔑視する人は他人にいいように利用される(実体験より)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年07月09日

加藤諦三『どうしても「許せない」人』―自己蔑視する人は他人にいいように利用される(実体験より)


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加藤 諦三

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 私が長年罹患している双極性障害Ⅱ型の症状として、何かにつけてイライラしやすいというものがある。私の場合、前職のベンチャー企業で仕事上のストレスが重なり、社員が見ていないところで物を投げつけたり、オフィスのドアを蹴飛ばしたりしていた(決して、他人に危害は加えていない)。また、寝ている時もイライラしていたようで、夢の中で怒鳴り声を上げ、それが実際に口から出て、その声で目が覚めたことが何度もある。例えば、部下の仕事ぶりが芳しくないためフィードバックをしたところ、部下が話を全く聞いていない様子だったので、「おい、人の話を聞いているのか」と大声で怒鳴り、その声で目覚めたこともあった。

 最近はそういう夢を見ることはなくなったのだが、代わりに日常生活の些細なことでイライラすることが増えた。これはもう双極性障害の後遺症であって、おそらく一生治らないだろう。だから、できるだけイライラをコントロールする術を身につけなければならないと感じている。今までの私は、誰彼構わず怒りを覚える傾向があった。しかし、それではさすがに身が持たないので、私が怒りを覚える人のタイプを整理しておくことが重要であると考える。タイプが解れば対処法も立てやすくなる。以下にその5タイプを示す。

 (1)言行不一致な人
 口先だけの人は私が最も嫌うタイプである。その典型例は、前職の社長であった。社長は、大手コンサルティングファームのパートナーまで経験した人間で、在籍中に50件ものプロジェクトを遂行したことがあることを誇りにしていた。また、読書が好きで、オフィスには『ハーバード・ビジネス・レビュー』をはじめ、1,000冊を超えるビジネス書が並んでいた。ところが、いざ自分が実際に経営する立場になると、コンサルティングで顧客企業にアドバイスしたことや、ビジネス書に書いてあることを1つも実行できない人であった。その辺りについては、以前の記事「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」で相当詳しく書いたので、ここではこれ以上立ち入らない。

 《2018年8月1日追記》
 ブログ別館の記事「井出元『『礼記』にまなぶ人間の礼(10代からよむ中国古典)』―「憎んで而も其の善を知る」と言えども有言不実行の人は許さない」の中で、この社長の目に余る言行不一致ぶりについて追記しておいた。


 (2)自分の頭で考えない人
 いわゆる「知識バカ」も私が嫌いなタイプである。前職のベンチャー企業にはグループ会社があって、その会社の社長も大手コンサルティングファームのパートナー経験がある人であった。だが、彼の仕事ぶりを見て解ったのは、彼がパートナーにまで出世できたのは彼が優秀だったからではなく、彼の部下が優秀であったからだということである。確かに、パートナーまで上り詰めただけのことはあって、それなりに勉強はしていた。しかし、それを自分の頭の中で咀嚼して、自分なりの認識・理論に再構成することができない人であった。

 だから、彼は自分でパワーポイントの資料を一から作成することができない。彼が社員に対して戦略コンサルティングのやり方について研修をやると言い出した時、使ったコンテンツは、知り合いの元マッキンゼーのパートナーが作成した資料であった(それはそれで著作権上の問題があると思うが)。そして、「戦略とはあるべき姿と現状のギャップである」などと、元マッキンゼーのパートナーの言葉をさも自分の言葉であるかのように話していた。そもそも、この定義は戦略の定義としては不十分である。顧客の視点も競合他社の視点も入っていない。ちょっと考えればすぐに解りそうなものだが、考える習慣がないものだから不十分さに気づかない。

 中小企業診断士にも知識バカは多い。MBAと違って、診断士の試験は所詮知識を問うペーパーテストにすぎないため、余計に知識バカが増えるのだと思う。ある診断士のセミナーを何度か見学させてもらったことがあるのだが、テキストの大部分が複数の書籍の内容をつなぎ合わせただけのものであった。私は、書籍を読めば済む内容であれば、わざわざセミナーにする必要はないと常々思っている。それでいて書籍よりも高額なセミナー代を取るのは詐欺である。

 しかも悪いことに、テキストを読んだだけでは、各ページ間のつながりが理解できなかった。さらに言うと、そのコンテンツは、その診断士の話を聞く限り、10年以上ほとんど内容が変わっていないようであった。自分の頭で考えていない人は、オリジナルのスライドを一から作らせると無能ぶりが露呈する。そのテキストのうち、書籍からの引用以外のページには、非論理的で視覚的にも不自然な図が並んでいた。もしその診断士が私の部下だったら、相当説教したと思う。

 (3)手柄を自分のものにする人
 このタイプも診断士に多い。昨今の中小企業の経営課題は複雑になっているので、診断士は各自が得意分野をもって、弱みを補い合いながらチームで仕事をするのが望ましいと言われる。だが、これは表向きの美談であって、実際には、年配の診断士であるチームリーダーが、若手の診断士、特に独立したばかりで報酬の相場など業界事情をよく解っていない若手の診断士をこき使って、マージンを搾取しているケースが多い。そして、仕事が成功すれば、その手柄は全て年配の診断士が持って行ってしまう。そのくせ、若手の診断士に対しては、「君には勉強の場を与えてやったのだ」などと押しつけがましく言ってくる。

 以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」で示した製品・サービスの4分類のマトリクス図に従うと、コンサルティングは必需品ではないし、別に失敗してもたいていは顧客企業に甚大な被害をもたらすわけではないから、左上の<象限③>に該当する。この象限は需要が不安定であり、ビジネスチャンスがめぐってきたら一気に人材をかき集めて、プロジェクトが終わればチームを解散するという仕事のスタイルが多い。だから、企業としては、できるだけ正社員を持たずに、外部のパートナーを多数抱えておくビジネスモデルになる。芸能事務所が所属タレントと雇用契約を結ばず、業務委託契約を結んでいるのはその典型例である。

 この場合、中には多額の報酬を稼ぐタレントもいるが、それは全体の本当にごく一部であり、大半のタレントは芸能事務所に搾取されている。結局、一番儲かるのは芸能事務所なのである。そういえば、吉本興業に所属するお笑い芸人が、「吉本興業はブラック企業だ」と発言していた。不安定な収入に直面する俳優の中には、小栗旬さんのように、俳優の労働組合を結成しようとする人もいる。診断士の場合も芸能事務所と同じことが言える。自分で会社を持っていても、社員を採用せずに、外部のパートナーに大きく依存している診断士は要注意である。

 (4)とにかく安く発注すればいいと思っている人
 これは行政関係者に非常に多い。私が独立した直後、先輩の診断士に「どうやって飯を食っていけばいいですか?」と聞いたところ、「窓口相談などの行政の仕事でベースを作った上で、民間の仕事を受注するとよい」というアドバイスを受け、私もその助言に従って行政にはお世話になったので、あまり行政のことを悪く言いたくはない。だが、税金の使い道に対する世間の目が厳しいせいか、何でもいいから安く発注すればいいと考えている行政担当者は相当数いる。

 仕事を外注する場合には、自社でその仕事をやった場合いくらかかるのかを計算しなければならない。それがコア業務であり、自社でやった場合にかかる時間よりも短い時間で仕上げてほしければ、自社でかかるコストよりも高い価格で発注する。逆に、ノンコア業務の場合は安く発注することになるが、際限なく安く発注すればよいというわけではなく、自社の効率化の余地を踏まえて、その限度で安く発注するのが筋である。トヨタは部品の製造を外注する前に、まずはその部品を自社で製造してみるそうだ。自社で作るとどのくらいのコストがかかるのか計算した上で、そのコストを基準に、これよりも安く作ってほしいと下請企業に出すことにしている。

 いずれにしても、外注する際には、自社でその仕事をやった場合のコストが一つの目安となる。それに基づいて、合理的な発注額を決める。ところが、行政の場合は、少なくとも私の眼には、そのような検討プロセスを踏んだ形跡が見られない。近年、ブラック企業に対して世間が批判的になっているが、私は行政もかなりブラックな世界だと思っている。

 (5)常識・礼節がない人
 これは幅が広いのだが、仕事に限定して言うと、顧客という立場に胡坐をかいて、非礼を働く人のことである。もちろん、顧客はお金をいただける大切な存在である。だが、顧客だからと言って傍若無人に振る舞ってよいとは思わない。顧客と企業は、顧客と企業という関係以前に、人間同士の関係である。だから、道徳にのっとったものでなければならない。ドラッカーは「顧客は絶対的に正しい」と述べていたが、私は必ずしもそうとは限らないと考えている。

 以前、私があるオンライン資格講座を運営する企業を顧客にして大損害を出した話は、「『致知』2018年4月号『本気 本腰 本物』―「悪い顧客につかまって900万円の損失を出した」ことを「赦す」という話」で書いた。この話には余談がある。私が担当した科目の中に、「ビジネス実務法務検定(3級・2級)」と中小企業診断士の「経営法務」があるのだが、実は、元々は別の行政書士の人が講師を務めていた。ところが、講座をリリースした後、受講者からこの行政書士に対するクレームが相当あったらしく、講座を全て収録し直すことになった。新しい講師を誰にするかという話になった時、当時一番多くの講座を担当していた私が指名された。

 私は一応法学部を出ているものの、不良学生であったため法律は専門ではない。それでもよいかと尋ねるとそれでもよいと言うので、引き受けることにした。だが、他の講座の収録ペースを参考に、これから勉強しながら講義の準備をするので、ビジ法3級だけでも2か月ぐらいかかると伝えたところ、ビジ法3級・2級、それから経営法務を含めて2か月以内で撮ってほしいと無理難題を突きつけられた。しかも、その間の報酬は今までと変わらないという。私はもう仕方ないと思って、頑張って2か月以内で全ての収録を終えた。

 報酬の問題は前掲の記事で書いた通りである。加えて私が不満だったのは、私が相当無理をして撮影をしたにもかかわらず、顧客企業の担当者からはお礼の一言もなかったことだ。また、クレームを抑える目的で撮り直したのだから、こちらとしては新たなクレームが出ていないか気になるところである。それなのに、担当者が何の報告も寄こさなかったのも不満であった。結局、私があれからクレームはどうなったのかと尋ねてようやく、クレームは収まったという回答を得た。この顧客企業とは約2年取引したのに結局その程度の人間関係しか築けなかったと言われてしまえばそれまでだが、私はこの顧客企業の行為はあまりに礼節を欠いていると思う。

 私の問題は、こうした5つのタイプの人間を許せないと思いながら、結局最後の方までつき合ってしまうことである。どんなにこき使われても、どんなに安い報酬しか得られなくても、それでよしとしてしまう。特に独立した後は、目先の仕事を取っていかないと今日の飯が食えないので、安くても飛びついてしまう。今日我慢して、明日から営業活動を真面目にやれば、もっと適正価格の案件にたどり着けるかもしれないという可能性を自ら否定してしまっていた。こうした私の心理的傾向の根底には、「自己蔑視」があると本書には書かれている。
 自己蔑視した人は、他人からの虐待を許す。さらに虐待されても、相手に対してニコニコして迎合する。ニコニコ迎合しながらも、実は心の底のそのまた底にはものすごい憎しみが堆積している。もちろん自己蔑視している人は、それを意識していない。
 自己蔑視する人は、自分の能力に自信がないため、自分を安売りしてしまうという。
 精神療法の1つ、交流分析に「安売り」という用語がある。自己蔑視している人は自分の安売りを許す。仕事でも何でも押しつけられる。断ればいいものを断れない。この「押しつけられタイプ」は自分を安売りして引き受けてしまう。「押しつけタイプ」は「押しつけられタイプ」を的確に見抜く。「押しつけタイプ」はこの嫌な仕事を誰に押しつけたらいいかを素早く判断する。
 自分のことをズバズバと言い当てられてしまった。確かに私は自分の能力に自信がなかった。29歳で、前職のベンチャー企業を整理解雇されたことがきっかけで独立したものだから、自分には何の専門性もないと思っていた。事業会社での経験もほとんどないし、コンサルタントとしても十分な訓練を受けたわけではないため、独立後何で勝負すればよいのかが明確に決まっていなかった。そこにまんまとつけ込まれてしまったのだろう。

 だから、もっと自分に自信を持つことが大切である。振り返ってみれば、私にだって強みはある。テクニカルスキルに関しては、事業戦略を立案する力、戦略とリンクした人材育成計画を作成する力、その計画に従って研修を開発する力、学習の成果を通じて受講者の能力を評価する力などがある。コンピテンシーについて言うと、コンサルティングプロジェクトでは様々な立場の人と一緒に仕事をするから、色んな視点の意見に耳を傾け、それを集約する力がある。また、その集約した内容をドキュメント(パワーポイント)に落とし込む力がある。そこから派生して、伝わりやすい文章を書くのにも慣れている。さらに、そのドキュメントの内容を他人にプレゼンするのも得意である。私は自分の強みをもっと前面に出して、強気に生きなければならないと思う。

 本書は、前半では「許せない人」が本当に許せない時には闘うべきだと書かれているのに、後半になると、「許せない人」のことは忘れてしまえばよいというトーンに変化している。私はこういう精神状態なので、いちいち闘っていられない。だから、一番いい方法は、この5つのタイプの人に出会ったら、直ちに「逃げる」ことである。これが、長い闘病生活と本書を通じてたどり着いた対処法である。そして、この先万が一この5タイプの人につかまっても、上手に忘れる術を身につける必要がある。そのためには、人生の目的を持つことが重要だと本書の著者は言う。
 今必要なことは、感情に任せて復讐したり、騒いだりすることではない。必ず勝つという確信があれば心の落ち着きが取り戻せる。(中略)本当に相手に勝つということは、自分を裏切ったり、こちらの心を弄ぶようなひどい目にあわせた人を忘れるということである。
 自分にとって今大切なことは「これだ」というものがあれば、無意識の領域で傷ついても、すぐに立ち直れる。すぐに心の平静を取り戻せる。自分は何のために生まれてきたのか、何のために生きているのかということがハッキリと分かっていれば、どんなに悔しくても、そのことに気を奪われてしまうことはない。
 孔子は「四十にして惑わず」と述べたが、私も40歳が近くなってきて、ようやく自分の人生の目的が見えてきた気がする。①アメリカ流の戦略論に流されるのではなく、日本の伝統や文化、精神に根差した日本流の戦略論を打ち立てること、②来るべき高齢社会に備えて、企業のマネジメント(特に人材マネジメント)をどのように変えるべきかを検討すること、③戦後の日本企業経営に多大な影響を与えたピーター・ドラッカーの思想を、21世紀という新たな時代の文脈の中で解釈し直すこと、④日本人の精神の養分となっている中国古典を咀嚼し、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと、⑤米中ロ独の4大国の関係が流動的になり、また北朝鮮をはじめ小国の関係が変化する中で、日本が取るべき国際的ポジショニングを構想すること。私はこの5つの目的に集中して、程度の低い人との関係を上手に受け流していきたい。




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