このカテゴリの記事
『艱難汝を玉にす(『致知』2017年3月号)』―日本人を動機づけるのは実は「外発的×利他的」な動機ではないか?
【現代アメリカ企業戦略論(補論)】日本とアメリカの企業戦略比較
『営業のモチベーション(DHBR2015年8月号)』―社員のタイプに応じた報酬制度の使い分けは公平性に反する、他

お問い合わせ
お問い合わせ
アンケート
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新記事

Top > 動機づけ アーカイブ
2017年03月01日

『艱難汝を玉にす(『致知』2017年3月号)』―日本人を動機づけるのは実は「外発的×利他的」な動機ではないか?

このエントリーをはてなブックマークに追加
致知2017年3月号艱難汝を玉にす 致知2017年3月号

致知出版社 2017-03


致知出版社HPで詳しく見る by G-Tools

 我が身を捨てるには、一度徹底的に自分にこだわってみる過程を経る必要があります。自分とは何なのか、自分の限界はどこにあるのか、徹底的に追求して、行き着いたところで、これまで自分、自分と後生大事に抱え込んでいたものは、実は幻想にすぎなかったと気づき、自分を捨てることができるのだと思うのです。
(平井正修「山岡鉄舟の歩いた道」)
《参考記事》
 最初の動機は不純だって構わないんじゃないか?(旧ブログ)
 「キャリア発達」と「動機づけ要因」の関係を整理してみた-『ぶれない「自分の仕事観」をつくるキーワード80』(旧ブログ)
 人間は利他的だとしても、純粋な利他的動機だけで富は生まれぬ―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』(旧ブログ)
 エニアグラムのタイプ別に見たモチベーションの上げ方(私案)
 ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」
 山本七平『人間集団における人望の研究』―「先憂後楽」の日本、「先楽後憂」のアメリカ
 『青雲の志(『致知』2017年1月号)』―人間は利己的であるべきか、利他的であるべきか?、他

 経営学における動機づけ理論としては、マズローの欲求5段階説、アルダーファーのERGモデル、マクレランドの達成欲求理論、ハーツバーグの動機づけ・衛生要因理論、デシの内発的動機づけ理論、チクセントミハイのフロー理論、ブルームの期待理論などがある。しかし、教科書的なことばかり考えても面白くないので、自分なりに動機づけ要因について今まであれこれと考えてきたつもりである。その結果は上記《参考記事》のようにかなり迷走しているのだが(苦笑)、今回もまたその迷走に拍車をかけるような記事を敢えて書いてみたいと思う。

 今までの私の記事は、利己的動機と利他的動機のどちらが重要かという点に関するものが多かった。この「利己的⇔利他的」という軸に「外発的⇔内発的」という軸を加えて、動機づけ要因をマトリクス図で整理したものを発見した(「働く動機の分類」(「『働くこと原論』 〈The Elemental Lecture on Working 〉」より)。

動機づけ要因のマトリクス図

 左上の「内発的×利己的」という動機づけ要因としては、楽しさ、面白さ、自己成長感、達成感などが考えられる。つまり、他者の存在とは無関係に、自己の心理の中で完結する要因である。左下の「外発的×利己的」という動機づけ要因としては、給与、昇進、福利厚生、周囲からの承認・賞賛、職場の人間関係などが挙げられる。「外発的×利己的」であるから、他者から与えられるものであって、自己のニーズを充足するものが中心となる。その中には給与や昇進のように金銭的な側面が強いものと、承認・賞賛や人間関係のように非金銭的なものがある。

 右半分の「外発的×利他的」と「内発的×利他的」の区別は難しいのだが、私は次のように理解している。「外発的×利他的」という動機づけ要因は、顧客や上司といった、自分と直接利害関係を有する具体的な他者からの要求を指している。言い換えれば、「あの人が困っているから/あの人からこう言われたから自分がやらなければならない」という気持ちである。これに対して「内発的×利他的」という動機づけ要因の代表は、上図にもあるように使命感、ミッションである。「外発的×利他的」動機づけ要因との違いは、他者が一般化・抽象化され、「社会(あるいは世界中)の困っている人を助けたい」という熱意に昇華されている点である。

 上図を紹介している記事では、人は「内発的×利他的」に動機づけられる時、最もモチベーションが持続すると書かれている。もちろん、崇高な使命感を持っている人は素晴らしく、尊敬に値すると思うのだが、個人的には「内発的×利他的」のレベルまで到達できる人は少数派なのではないかという気がする。むしろ、記事の執筆者が一番敬遠するであろう「外発的×利他的」な動機づけ要因に人は最も動かされやすい。特に、日本人の場合はその傾向が強いと考える。

 本ブログで何度か書いてきたように、日本社会は「(神?⇒)天皇⇒立法府⇒行政府⇒市場/社会⇒企業/NPO⇒学校⇒家族⇒個人」という多重階層構造の社会である。そして、各階層の内部もまた多重化されている(企業に関して言えば、メーカーは多重下請構造を形成し、流通は多段階化している。企業内では管理職のポストが幾重にも重なっている)。日本人は、ハイデガーの言葉を借りるならば社会の中に「投げ込まれ」、ドラッカーの言葉を借りるならば「社会から位置と役割を与えられる」。そして、まずは自分より上に位置する人や組織からの要求に応えることが重要な責務となる。レヴィナス風に言えば、「私の飢えを満たせ」という命令に対して、自分の肉を差し出さなければならない。この時、人は「利他的×外発的」に動機づけられている。

 「外発的×利他的」な動機づけ要因に従って責任を果たすと、周囲から認められ、褒められるようになる。また、組織内で良好な人間関係を構築することが可能になる。それが今度は、昇給や昇進といった形で、金銭的な報酬となって跳ね返ってくる。つまり、「内発的×利他的」な動機づけ要因に動かされるようになる。ただし、金銭的な報酬や組織内のポストには限りがあるというのが、この動機づけ要因の最大の弱点である。

 だから、お金や地位にこだわるのではなく、「周囲からの承認」に重きを置いた方がよい。承認は、自分とつながる他者が多ければ多いほど、無制限に大きくなる。本ブログでも何度か書いたが、日本人はピラミッド社会の中で垂直方向に「下剋上」や「下問」、水平方向に「コラボレーション」することで、比較的自由に移動できる。つまり、自分に対して直接命令する上の階層や組織のためだけでなく、それ以外の人や組織のために働く自由がある(以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『断絶の時代―いま起こっていることの本質』―「にじみ絵型」の日本、「モザイク画型」のアメリカ」を参照)。自分の足場を広げていけば、その分だけ承認を得られる機会も広がる。

 「外発的×利己的」な動機づけ要因は、具体的な他者を必要とする要因である。しかし、「外発的×利己的」な動機づけ要因に従って仕事を続けるうちに、他者から何も得られなくても、自発的に仕事に打ち込むようになる。つまり、仕事自体が楽しくて仕方がない状態である。この段階では、「内発的×利己的」な動機づけ要因が作用している。さらに段階が進むと、楽しくて仕方がないという仕事を続けるうちに、大きな障害にぶつかり、「これはおかしい」、「こんなことが許されてはいけない」という課題意識が芽生えることがある。すると、自分こそが世の中をよくしなければならないという使命感が生じる。すなわち、「内発的×利他的」な動機づけ要因が働く。

 以上をまとめると、日本人はまず「外発的×利他的」な動機づけ要因によって動かされる。次に「外発的×利己的」、「内発的×利己的」と移行し、最後に「内発的×利他的」な動機づけ要因へと移る。ポイントは、4つの段階を経るにつれて、それぞれの段階に該当する日本人の数は減っていくということである。つまり、「内発的×利他的」な動機づけ要因に動かされる日本人は非常に少ない。冒頭の引用文は、「内発的×利己的」から「内発的×利他的」へと移行する際の心理を表した文章と解することができるが、私の考えでは、これがあてはまる日本人はそう多くない。

 《2017年4月12日号》
 海外の書籍になるが、まずは「外発的×利他的」な動機づけ要因によって動かされ、次に「外発的×利己的」へと移行する様子を表した文章を紹介する。
 周りの人たちみんなに可愛がられている1人の少女に向かって、ある人が「なぜみんなは、おまえをそんなに愛するのだろう?」と聞いた。すると少女は「きっと、私がみんなをとっても愛しているからだと思うわ」と答えた。この話はどのような場面にも当てはまる。一般的に、人間としての我々の幸福は、自分が愛しているものの数(※「外発的×利他的」)、または自分を愛してくれるものの数(※外発的×利己的)によって決まる場合が多いからだ。
(サミュエル・スマイルズ『向上心―自分の人生に種を蒔け!』三笠書房、2016年)
向上心: 自分の人生に種を蒔け! (単行本)向上心: 自分の人生に種を蒔け! (単行本)
サミュエル スマイルズ Samuel Smiles

三笠書房 2016-12-09

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」では、動機づけ要因として、①仕事のやり方を自分で決められる裁量があること、②多様な能力を活用できる仕事であること、③能力のストレッチが要求される仕事であること、④周囲の人々との連携が必要であること、⑤顧客からのフィードバックがあること、という5つの要因を挙げた。だが、今回の記事を踏まえると、日本人を動機づける最も効果的な方法は、「具体的に何かに困っている他者の目の前にその人を投げ出すことである」と私は答えるだろう。

 問題は、現在の日本では経済的なニーズはほとんど満たされており、困っている他者の目の前に日本人を投げ出そうとしても、その対象がほとんどいないということである。日本人は諸外国に比べてモチベーションが低いとよく指摘される。しかし、ニーズの範囲を経済的な側面から社会的な側面まで広げると、実は困っている人はまだまだたくさんいる。それに、これからは少子化・高齢化がさらに進行し、社会的ニーズが膨らむことが容易に予想できる。その社会的ニーズの前に日本人を乱暴にでも投げ出すことが、日本人を再び動機づけることになるだろう。そして、企業や組織は、社会的ニーズの充足から成果を上げる方法を検討しなければならない。ポーターが言うところのCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)が一層重要になる。

 最後に、やや話が逸れるが、純粋な内発的動機というのは存在しないのではないかというのが最近の私の考えである。「内発的×利己的」な動機づけ要因の代表例は、デシの内発的動機づけ理論であろう。例えば、ゲームに熱中している子ども、熱心に勉強に取り組む子どもなどは、内発的に動機づけられていると説明される。しかし、そのゲームを考え出したのは大人であるし、何を勉強すべきかを決めたのも大人である。大人の決定がなければ、子どもは動機づけられることはない。よって、純粋な内発的動機とは言い難いと感じる。

 私のブログももうすぐ開始から12年になり、好き勝手に色んなことを書いているから、内発的動機に支えられているのではないかと感じる方がいらっしゃるかもしれない。しかし、私はそもそもブログというツールを他者が用意してくれていなければ、ブログを始めていなかった。それに、1日あたりのPVが500前後の弱小ブログではあるけれども、PVが500前後ともなれば多少なりとも私のブログを楽しみにしている方がいて、実際に「面白いブログですね」などと仲間の中小企業診断士から言われると、私もブログを続けないわけにはいかない。大泉洋さんが「水曜どうでしょう」の「原付西日本列島制覇」という企画の中で、「誰も見ていなかったら(こんな企画は)やらないぞ」と言うシーンがあるが、私の気持ちもそれに近いものがある。

 純粋な「内発的×利己的」な動機とは、例えば毎日10km走るといった具合に、他者の存在とは全く無関係に自己満足のためにやるようなことを指すのではないかと考える。あるいは、以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業経営論」で書いたような、「自分がこれだけ心の底からこの新製品・サービスをほしがっているのだから、世界中の他の人も同じようにこれをほしがるに違いない」と考えるアメリカのイノベーターの動機もこれに該当するかもしれない。最後に、「内発的×利他的」な動機づけ要因は、抽象的ではあるが他者の存在を前提としており、他者のためにという意識が働いているという点で、外発的な要素を帯びていると言ってよいだろう。

2017年01月27日

【現代アメリカ企業戦略論(補論)】日本とアメリカの企業戦略比較

このエントリーをはてなブックマークに追加
アメリカ

 《これまでの記事》
 【現代アメリカ企業戦略論(1)】前提としての啓蒙主義、全体主義、社会主義
 【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション
 【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴
 【現代アメリカ企業戦略論(4)】全体主義に回帰するアメリカ?

 本シリーズの最後として、日米企業の戦略の違いについて簡単にまとめておきたいと思う。

 ①フォーカスする製品・サービス
 アメリカ企業は、「必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客・企業に与えるリスクが小さい」というタイプに強い。具体的には、高機能家電(スマホ、タブレットなど)、ブランド品、エンタメ、テレビメディア、IT(BtoCのWebサービス)、映画、音楽、書籍、雑誌、観光、金融(証券・保険)などが該当する。一方、日本企業は、「必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」というタイプに強い。具体的には、自動車、輸送機器、産業機械、住宅、建設、医療、介護、製薬、化粧品、IT(BtoBの基幹業務システム)、物流・輸送、金融(預金・貸出)などが該当する。もちろん、アメリカ企業も厳しい品質管理を導入しているところが多い。しかし、日本企業が実践する「不良ゼロ」のための品質管理には遠く及ばない。

 ②目標の立て方
 アメリカ企業のリーダーは、イノベーションを全世界に普及させることを唯一絶対の神と約束する。したがって、戦略的目標は自ずと野心的かつ具体的なものとなる。一方、日本企業が立てる目標は曖昧であり、またそれほど野心的ではない。いつまでに実現するのかという期限を欠くことも多い。①で述べたように、日本企業は高度な品質管理が要求される必需品に強い。これらの製品・サービスは需要規模が予測しやすいため、敢えて具体的な目標を設定しなくてもよいのかもしれない。また、必需品であるということは、裏を返せば人口規模によって需要が規定されるわけだから、野心的な目標を立てづらいとも言える(必需品でない場合、余剰所得を全てその製品・サービスにつぎ込むような極端な顧客が現れて、市場規模が上振れすることがある)。

 ③製品・サービスの種類
 アメリカ企業は、イノベーション=単一の製品・サービスに全ての経営資源を集中する。それが唯一絶対の神との契約であるからだ。各国のニーズの違いは考慮しない。他方、日本は多神教文化の国である。それぞれの顧客や企業に異なる神が宿ると考えられる。だが、その神はアメリカの神と違って、不完全である。日本企業が自社に宿る神の姿を知る、つまりコア・コンピタンスを見極めようとする時、自社の内部に閉じこもって信仰を重ねても、その姿を知ることは難しい。そこで、外部に積極的に出ていく必要がある。具体的には、自社とは異なる神を宿しているであろう顧客と触れ合う。良質な学習は異質との出会いから始まる。多様な顧客を相手にするうちに、日本企業の製品・サービスは多角化していく。しかも、この学習には終わりがない。

 ④顧客理解
 アメリカ企業は、非必需品という市場動向が予測しづらい領域で勝負しているにもかかわらず、データを活用して顧客を理解しようとする。どのようなイノベーションがヒットするのかモデル化する。また、イノベーションを全世界に普及させる段階で、まだ自社のイノベーションを受け入れていない顧客層をセグメント化し、なぜイノベーションを受け入れていないのか、彼らがイノベーションを受け入れるにはどのようなマーケティング施策が有効かを分析する。これに対して日本企業は、必需品という市場動向が予測しやすい領域で勝負しているにもかかわらず、あまりデータを活用しない。むしろ、顧客と直に接することで、顕在的・潜在的なニーズを把握しようとする。データという冷たい情報よりも、顧客の生の声という温かい情報を重視する。

 ⑤政府の規制との関係
 アメリカ企業は、「必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客・企業に与えるリスクが小さい」という領域において、デファクト・スタンダードの確立を目指す。政府の規制とは無関係に、自社で世界標準を作ってしまう。時にその世界標準は、政府による規制を無力化する。これに対して日本企業は、「必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」という領域で勝負をする。この領域では、政府が顧客の生命・事業を守るために様々な規制を課し、デジュア・スタンダードを形成している。日本企業が競争で勝つためには、政府と上手に交渉し、政府の規制が自社の製品・サービスにとって有利になるように働きかけなければならない。日本企業にとっては、顧客との関係に加えて政府との関係も非常に重要である。

 ⑥競合他社との関係
 以前の記事で、アメリカは二項対立的な発想をすると書いた。よって、アメリカ企業にとって、競合他社は徹底的に攻撃すべき対象である。ただし、相手企業を完全に打倒することまではしない。自社の戦略、ブランド、アイデンティティは、競合他社との相対性によって形成されている。攻撃対象となる競合他社が消えてしまえば、自社のアイデンティティなどを認識することが困難となり、何かと不都合である。アメリカ企業は、競合他社を完全にノックアウトする寸前で攻撃の手を止める。これに対して日本企業は、競合他社との協業をいとわない。その象徴的な存在が、日本に特有の業界団体である。業界団体においては、戦略などに関する情報が競合他社との間で積極的に共有される(アメリカにも業界団体は存在するが、その主目的はロビー活動である)。

 ⑦業界構造
 アメリカの業界はできるだけシンプルな構造を目指す。メーカーは部品を可能な限りモジュール化し、調達先を自由に入れ替えることができる単純なモデルにする。また、流通構造を簡素化し、メーカーから最終消費者まで効率的に製品・サービスを提供する。アメリカでは、シンプルなビジネスモデルを構築した企業が急成長を遂げる。一方、日本の業界構造は多段階構造となることが多い。自動車業界、IT業界、建設業界では多重下請け構造になっている。さらに、メーカーは下請企業との擦り合わせを重視する。また、流通構造もアメリカに比べて複雑である。メーカーと小売業者の間に複数の卸売業者が介在する。日本の業界は、成長性よりも安定性を重視する(安定のために多重階層構造を採用するのは、日本社会全体に見られる傾向である)。

 ⑧組織内の構造
 アメリカは、業界構造をシンプルにすると同時に、一企業内の組織構造もシンプルにする。以前の記事で書いた通り、アメリカ企業では分権化が進んでいる。しかし、同時に組織のフラット化も進んでおり、ミドルマネジメントは削減される傾向にある。これに対して日本の場合は、業界構造と同様に、組織内の構造も多重化している。アメリカから組織のフラット化というコンセプトが持ち込まれた後も、ミドルマネジメントの割合は減少するどころか増加している。そして、多重化された指揮命令系統を通じて公式のコミュニケーションを重視する企業の方が、組織のパフォーマンスが高いという研究結果もある。日本企業は、アメリカのようにトップの情報がほぼダイレクトにボトムに届くよりも、トップの情報が徐々に咀嚼されながらボトムに浸透していくことを好む。

 ⑨事業マネジメント
 ②で、アメリカ企業は野心的な目標を立てると書いた。アメリカ企業は、その野心的な目標を達成するために、何がカギを握るのか、重要な要因を特定することに力を注ぐ。CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)は、こうした考え方を反映している。アメリカ企業は、CSFやKPIと最終的なゴールの因果関係を重視した事業マネジメントを行う。他方、日本企業は最終的な目標が曖昧であるがゆえに、CSFやKPIが設定できない。代わりに、「顧客や社会にとって望ましい行動」をたくさん積み重ねれば、自ずと望ましい結果が得られると考える。よって、日本の目標管理は、1つ1つの目標は達成が容易だが、評価されるためには膨大な数の目標を達成しなければならないという形で運用される。

 ⑩動機づけ
 アメリカのリーダーは、自分が信じるイノベーションを全世界に普及させることを目指す。言い換えると、自己実現を目指している。自己実現は、マズローの欲求5段階説で最上位に位置する内発的な動機づけ要因である。アメリカでは、神と正しい契約を結んだイノベーターだけが自己実現に成功するが、それでは大多数のアメリカ人にとって救いがない。そこで、分権化によってイノベーター以外の人たちにもある程度大きな権限を与え、自己実現の場を提供する。いずれにしても、アメリカ人を動機づけるのは、内発的な要因である。一方、他者との関係を重視する日本人を動機づけるのは、外発的な要因である。周囲の人から承認・評価されることが日本人にとっては最も嬉しい。さらに言えば、その評価が地位・役職という形を伴っているとなお望ましい。日本企業は、社員をポストによって動機づけるために多層化しているとも言える。

2015年08月05日

『営業のモチベーション(DHBR2015年8月号)』―社員のタイプに応じた報酬制度の使い分けは公平性に反する、他

このエントリーをはてなブックマークに追加
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 08 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 08 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-07-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

【社会的責任】最適な社会的責任を果たす4つのステップ CSRこそ効率化せよ(カストゥーリ・ランガン、リサ・チェイス、ソエル・カリム)
 著者の分類に従うと、CSR(社会的責任)活動には、①いわゆるフィランソロピーやメセナのような慈善活動、②環境・社会へのベネフィットを提供するサステナビリティ・プロジェクト、③ビジネスモデルの抜本的な転換を通じて社会的ニーズの充足を目指すCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)戦略の3つがあるという。しかし、多くの企業ではこれら3つの活動に一貫性がなく、責任者も担当者もバラバラである。そのため、CSRの総合責任者を置いて、彼の下に社内のCSR活動を統合する必要がある、という論文である。

 この論文に限らないが、CSRの議論は色々と錯綜していて、非常に理解しづらい印象がある。そこで、私は次のように理解している。まず、企業活動を「成果が経済的か社会的か?」と「成果を生み出す手段が経済的か社会的か?」という2軸のマトリクスで4つに分ける。成果と手段がともに経済的というのは、通常の企業活動である。成果は経済的だが手段は社会的というのは、環境に配慮したサプライチェーンを構築したり、社員の労働環境、医療、教育に投資したりしながら、一般的な市場ニーズを充足する活動である。多くの企業のCSRはこの象限に該当する。

 手段は経済的だが成果は社会的という象限は具体例を挙げるのが難しいのだが、バングラデシュのグラミン銀行で有名になったマイクロファイナンスが該当するだろう。ファイナンスの仕組み自体は、従来のシステムを拡張・発展させたものであり、経済的である。しかし、そのシステムを通じて多くの小規模起業家(=顧客)を生み出し、彼らが貧困から脱するのを支援している。

 最難関のCSRは、成果も手段も社会的という象限である。この象限に取り組む企業はパッと思いつかない。法政大学・坂本光司教授の『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズには、障碍者雇用に積極的な企業(日本理科学工業株式会社、株式会社大谷、株式会社協和、株式会社障がい者つくし更生会など)と、障碍者向けの製品を製造する企業(徳武産業株式会社など)が紹介されている。仮に、ある企業が障碍者を数多く雇用し、障碍者向けの製品・サービスで持続的な収益を上げていれば、おそらくそれは究極のCSRと呼ぶことができるに違いない。

日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

Amazonで詳しく見る by G-Tools

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
正しいインセンティブ設計を構築する方法 誰が本当に優れた営業なのか(V・クマー、サラン・サンダー、ロバート・P・レオーネ)
営業の研究における第一人者が語る 【インタビュー】インセンティブがすべてではない(アンドリス・A・ゾルトナーズ)
 「正しいインセンティブ設計を構築する方法 誰が本当に優れた営業なのか」では、営業担当者を「トレーニング志向型」と「インセンティブ志向型」に分け、前者は教育研修の拡充を、後者は金銭的報酬の増加を通じて動機づけるべきだとしている。また、トレーニング志向型は小規模だが成長の早い顧客に販売する傾向があり、インセンティブ志向型はより大規模で安定的な顧客にアプローチする傾向があるため(個人的には逆の方がしっくりくるので、この記述は意外なのだが)、タイプに応じた顧客の振り分けをすべきことも示唆されている。

 だが、営業担当者のタイプに応じて動機づけの手法を変えるのは、あまり現実的ではないと感じる。同じ受注金額を獲得した2人の営業担当者について、一方はトレーニング志向型であるからより高度な教育研修の機会を付与し、もう一方はインセンティブ志向型であるからコミッションを高くする、などという企業はないだろう。そんなことをすれば社員の間に不公平感が生まれ、モチベーションはかえって低下するに違いない。それに、社員のタイプをいちいち判別して動機づけの手法を選択しなければならない人事部側も、制度運用の複雑さに悲鳴を上げるだろう。

 「営業の研究における第一人者が語る 【インタビュー】インセンティブがすべてではない」には次のように書かれている。
 営業担当者は普通さまざまな世代にまたがり、仕事への期待も異なります。ミレニアム世代は生活の質を向上させ、仕事にもっと意義を見つけたいと考えるでしょう。彼らはメールなどの電子メディアでたえずコミュニケーションを図ろうとし、自分の仕事ぶりに対するフィードバックを頻繁に求めます。ベビーブーマーは退職後の安心を確保したいと考えます。その中間層の人たちは、経済的な安定のために働いているのかもしれません。成功する報酬制度はこれらすべての目的に対応する必要があります。
 (※太字は筆者)
 先ほどの例で言えば、企業側としては教育研修とコミッションの両方の動機づけ手法を用意し、2人の営業担当者にその両方を与えるべきである。前者の営業担当者にはコミッションが、後者の営業担当者には教育研修が動機づけとして十分に機能しないが、それは仕方ないのである。それよりも、動機づけ手法の公平性を守ることによる利益の方がずっと大きい。

 以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)」で、動機づけの手法には、①経済的動機づけ、②社会的動機づけ、③心理的動機づけという3つがあると書いた。①②は外発的動機づけであり、③は内発的動機づけである。このうち、①②についてもう少し詳しく書くと、

 ①経済的動機づけ=給与、賞与、各種手当、コミッション、福利厚生、ストックオプションなど。
 ②社会的動機づけ=命令、昇進、やりがいのある仕事、上司からの叱咤激励、人事考課、顧客からの評価、職場の人間関係、組織風土など。

となる。このうち、給与、福利厚生、昇進、人事考課など、制度というハードで運用されるものは、全社員に全てを公平に与えなければならない。社員のタイプに応じて使い分けることは許されない。ただ、何でもかんでもハードで解決しようとすると、制度構築で苦労する割には、一定の社員にとって機能しない動機づけ手法もたくさん生じることになる。それに、制度運用が組織に浸透するには時間がかかるものであり、その間は社員を上手く動機づけられないという問題もある。

 結局のところ、社員のタイプに応じて柔軟に動機づけられるのは、ソフトな動機づけ手法、中でも上司による叱咤激励に限られる。マネジャーは部下を動機づける様々な言葉を持っていなければならない。旧ブログで「モチベーションが高い人は「ボキャブラリーが多い」」という記事を書いたが、動機づけが上手なマネジャーもまた、ボキャブラリーが多いと思うのである。マネジャーには国語力が必要だ。昔のマネジャーは、部下から提出された日報に赤字でぎっしりとコメントを書いて返していたという。部下はそのコメントを迷惑だと思う反面ありがたく感じて、翌日の仕事にいそしんでいた。最近は、そういうマネジャーが減ってしまったように感じる。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
乗務員のモチベーションを上げる3つの仕組み 日本交通のタクシーはなぜ「選ばれる」ようになったのか(川鍋一朗)
 サービスマニュアルの策定、キャリアパスの設定、各営業所の業績のランキング化という3つの施策によって、日本交通の改革を行ったという論文である。
 そこで実施したのが、営業所や関連会社のランキングだ。チーム単位での競争を促し、チームワークを育むことが目的である。ランキング上位の報奨としては、売上アップに直結する黒タク(※日本交通が新たに設けた「黄タク」、「黒タク」、「EDS」という3段階のキャリアパスで、2番目に位置する。黄タクと黒タクでは料金は変わらないが、黒タクの方が顧客からの指名が多いため、収入が上がる)を活用している。日本交通グループに加盟した企業は、原則として黒タク比率20%からスタートするが、以降、成績に応じて黒タク比率が高まるのだ。
 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第42回)】いびつなオフィス構造もコミュニケーション不全を引き起こす原因に」で、私の前職の会社では、グループ会社が同じフロアに集まっていながら、壁で不自然に区切られているせいで、コミュニケーションが阻害されていると書いた。人間は不思議なもので、物理的に隔離されると、心理的にも壁を作ってしまう。このことを知ったいくつかの企業では、大部屋方式に改装したり、デスクのフリーアドレス化を進めたり、役員の個室を廃止したりして、社内コミュニケーションの活性化に努めている。

 だが、飲食店・小売店などの店舗では、そもそもこういう施策ができない。各店舗を孤立感から救うには、日本交通のような営業所・店舗間の業績ランキングを作成・共有して、適度な社内競争を促すことが有効かもしれない。加えて、例えば年に1度全店舗の代表者を集めて、業績上位の店舗を表彰したり、セブン・イレブンがやっているような「店舗間学習」(販売ノウハウを店舗間で共有する仕組み。コンビニは基本的に他店舗と商圏が重ならないので、自店舗のノウハウを公開しても他店舗に売上高を食われる心配がない)に取り組んだりすると、より効果的であろう。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
【R&D】なぜ多くの発明、特許が対価を得られないのか 研究成果が事業にならない7つの理由(レディ・コタ、フィリップ・H・キム、オリバー・アレクシ)
 論文のタイトルからして、特許を製品化・事業化するプロセスの途中で直面する様々な課題に対して、どのように対処すべきかを論じたものだと勝手に想像していたのだが、ちょっと違った。特許は出願前に公知の状態であってはならない。ところが、研究成果を早く世に知らしめたい研究者は、勇み足で論文を出したり、仲間の研究者に情報を漏らしたりしてしまう。そこから情報が広がると、特許の要件を満たさなくなってしまうから注意が必要である、という論文であった。

 中小企業、特にベンチャー企業は、新しい技術やアイデアを自力で事業化することが難しい。そこで、資金力のある大企業に話を持ちかける。だが、ここに落とし穴がある。私が聞いた話では、ある大企業の経営者は、中小企業の社長から提案を持ち込まれると、その社長が持ってきた提案書を部下に渡して、「これを使って我が社で特許を取得せよ」と命令するのだという。以前の記事「起業・創業をめぐる3つの勘違いをまとめてみたい」で、ベンチャー企業はいきなり大企業を狙わない方がよいと書いたが、大企業との取引にはこういうリスクもあるので要注意だ。


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like