このカテゴリの記事
『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他
『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他
『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他

お問い合わせ
お問い合わせ
アンケート
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:


Top > 北朝鮮 アーカイブ
2017年04月15日

『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他

このエントリーをはてなブックマークに追加
正論2017年5月号正論2017年5月号

日本工業新聞社 2017-04-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 『正論』2017年5月号の記事は5月にアップしようと思ったが、朝鮮半島の情勢が想像以上に緊迫してきたため、急遽4月にアップすることとした。

 (1)以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」で、朝鮮半島で起こり得るシナリオのうち、最も可能性が高く、かつ日本にとって最悪なのは、今度の韓国の大統領選挙で文在寅氏などが当選して親北左派政権が誕生し、中国の支援を受けて北朝鮮あるいは韓国主導で、朝鮮半島に核兵器を持った単一の共産主義国家が誕生することだと書いた。だが、ここに来て事態は急変している。

 ①まず、アメリカは本当に北朝鮮を先制攻撃するのかという問題がある。シリアが化学兵器を使用したという理由でアメリカがシリアを空爆し、ロシアの軍事拠点を破壊したことで、親ロ路線を進んでいたトランプ政権は完全に方針転換を余儀なくされた。プーチン大統領は、現在の米ロ関係は史上最悪だとまで述べている。このタイミングで北朝鮮を攻撃すれば、次は中国をも敵に回すことになる。ロシアと中国に同時に対処できる力が今のアメリカにあるだろうか?

 ②仮にアメリカが北朝鮮を攻撃するとして、何を大義名分に掲げるのかも問題である。シリアの場合は、化学兵器禁止条約違反を理由に空爆を行った。北朝鮮の場合、核心は核兵器にあるわけだが、現在のところ、核兵器を完全に禁止する条約は存在しない。核拡散防止条約(NPT)はあるものの、北朝鮮は同条約から脱退している。よって、核兵器を保有しているという理由で攻撃するという論理は成り立たない。もっとも、北朝鮮がマレーシアで金正男氏をVXで殺害しており、化学兵器を大量に保有しているという報道もある。アメリカなら、それを口実に攻撃をして、ついでに核関連施設を破壊するということも考えそうだが、理屈としては苦しい。

 ③アメリカが攻撃をする場合は、アメリカに核兵器が飛んでくることを防ぐのはもちろんのこと、同盟国である日本や韓国に被害が及ばないようにするために、ICBM(大陸間弾道ミサイル)と短距離ミサイルの基地を集中的かつピンポイントで一斉に攻撃すると思われる。また、同時に、北朝鮮のミサイルシステムに対して、大量のサイバー攻撃を仕掛けるであろう。さらに、核のボタンを握っている金正恩氏の斬首計画も進行するはずである。これらの作戦は短期決戦で行われ、かつミスなく遂行することが要求される。

 ④トランプ大統領は、中国が北朝鮮問題のカギを握っていると述べている。先の米中首脳会談でトランプ氏は習近平氏との昵懇をアピールし、中国が北朝鮮にさらなる強力な圧力をかけてくれることを期待している。その裏では、トランプ氏が対中貿易赤字の面で中国に大幅に譲歩したと推測される。だが、中国がどのようにして協力するのかは、どの報道を見てもいまいちピンとこない。1つ言えるのは、アメリカが北朝鮮を攻撃するのを中国は黙って見ていろという約束ではないのは確かである。北朝鮮をアメリカに取られることは、中国にとってアメリカの脅威が北上することを意味するから、中国としては望ましい事態ではない。

 ここからはかなり大胆な予想であるが、アメリカは中国に対し、中国が庇護していた金正男氏を暗殺された報復として、中国が金正恩氏を斬首することを要求したのではないかと考えている。そして、中国共産党が新たに正統性を付与した政権を打ち立てる。そうすれば、中国としても、北朝鮮を従来通りアメリカとの間の緩衝地帯として活用することができる。ただし、中国と北朝鮮が今まで構築してきた深い関係は、アメリカとの貿易という金銭的な価値と天秤にかけられるような簡単なものではない。中国が約束を履行しない可能性は十分にある(そもそも、先の米中首脳会談では、共同声明すら発表されていない)。

 ⑤アメリカによる攻撃のタイミングはいつなのかも不透明である。①で述べたように、シリア問題が深刻化しているため、アメリカが今すぐに北朝鮮を攻撃する可能性は低いと見ている(と書いたそばからアメリカが攻撃するかもしれないが)。シリア問題はヨーロッパの難民問題と関係しており、世界的な問題であるという意識が共有されている。一方、北朝鮮の核問題に関しては、残念ながらそこまで至っていない。ヨーロッパ諸国は、極東の小国が好き勝手に暴れているというぐらいの認識しか持っていない。つまり、北朝鮮問題は世界的に見て優先順位が低い。それに、アメリカが北朝鮮を攻撃する場合、韓国の軍隊が投入されることになるが、韓国軍の最高指揮官である大統領は現在不在である。だから、大統領選の結果を待つ必要がある。

 ⑥北朝鮮は、アメリカが先制攻撃をしてきたら、在日米軍基地をミサイルで攻撃すると公言している。仮に日本にミサイルが飛んできた場合、日本の自衛隊はこれを迎撃できるのであろうか?これについては、私も日本の軍事情勢に詳しいわけではないため、よく解らない。ただ、本号によると、海上自衛隊は日本海に常時イージス艦を1隻警戒配置しているが、日本の迎撃技術では一度に2発しか撃てない。一方で、北朝鮮は4発以上のミサイルを同時に発射する技術を確立している。したがって、北朝鮮のミサイルのうち、一部は日本本土を直撃するリスクがある(加藤達也、古田博司「私を弾圧した朴政権の最期」より)。

 ⑦⑤で述べたように、韓国は現在大統領が不在であるから、5月の大統領選が終わって政権が落ち着いた頃でなければ、現実的には北朝鮮を攻撃できないと思われる。ただし、ここで問題なのは、冒頭でも書いたように次の政権が親北左派になった場合である。アメリカの北朝鮮攻撃に対し、韓国が寝返るかもしれない。つまり、米韓同盟を破棄し、北朝鮮とともにアメリカと戦うというシナリオである。さらに、ここに加えて、中国までもが裏切り、北朝鮮を支援するようになれば、アメリカは南北から挟撃され、非常に苦しくなる。朝鮮戦争は長期化する恐れがある。

 (2)以前の記事「山本七平『人間集団における人望の研究』―「先憂後楽」の日本、「先楽後憂」のアメリカ」などでも書いたが、日本人は基本的に利他的な人種である。他者から何かを得たければ、自分からまずは何かを他者に与える。他者から何かをしてほしくなければ、自分がまずはそれを放棄する。日本人には謙虚な姿勢で自己を犠牲にする精神が身についている。確かにこれは日本人の美徳であり、私も日本が世界に誇るべきことの1つであると思う。

 この利他的な精神、別の言い方をすればお人好しの精神は、国内だけでなく国際政治の舞台でも発揮される。以前の記事「守屋武昌『日本防衛秘録―自衛隊は日本を守れるか』―基地の必要性を国民に納得させることはできない」でも書いたように、通常は自国をどう防衛するかという議論が先にあって、その議論が成熟したのちに国際貢献を検討するものであるが、日本の場合はこの議論が逆になっている。PKO法が20世紀に成立したのに対し、安保法制はようやく2年前に成立したにすぎない。駆けつけ警護は可能であるのに、海外における邦人救出については依然としてハードルが高い(だから、北朝鮮の拉致問題が一向に解決しない)。日本の経済はもう20年ぐらいずっと横ばいで苦しい状態なのに、海外支援には熱心に資金を供給する。

 ただ、(1)でも見たように、国際政治の舞台では、日本の利他的精神が全く通用しない相手がいるという事実から目を背けることはできない。左派であれば、戦争が起きるのは各国が武器を持っているせいだから、武器を全廃しよう、日本の憲法のように平和主義を採用しようと言うだろう。だが、「日本人は相手を攻撃しないから、海外の人も同じように考えるべきだ」という主張は、利他的であるように見えて、実は自分の都合を相手に押しつけるエゴイスティックな論法である。国内の人間関係と、国家間の関係は性質が違うことを左派の人々は理解していない。

 国家間の関係は、不信、緊張が基本である。国家の主たる役割は、主権、領土、国民を守ることである。これら3要素が、いつ何時、諸外国から侵害されるか解らないという不信感を国家は抱いている。よって、国家は自ずと利己的、自己保存的にならざるを得ない。そのために、軍隊という暴力を持つ。その軍隊によって外国からの脅威を低減させることができているから、国内の人間は安心して利他的に振る舞うことができる。相手を信頼して取引をすることができる。

 ここで左派は次のように言うだろう。国家という機構があるから、軍隊という暴力が発生する。世界同時革命によって世界政府を作り、世界中の人々が平等になれば、世界中で信頼が醸成され、戦争はなくなるのではないかと言うわけである。ただし、世界中で完全なる平等を実現するには、世界中どの地域に行っても同じように作物が収穫できて食べるのに困らず、世界中どの地域に行っても同じように天然資源が入手できて産業に困らないといった状態が前提となる。ところが、現実の世界はそうはなっていない。世界各地は非常にバラエティに富んでいる。ということは、どうしても土地や資源の奪い合いが避けられない。つまり、国家が発生する。

 国家とは、領土内の資源(国民を含む)を最大限に活用して、国力を増強するためのルールを定める機構である。世界の地理は不釣り合いであるから、国家が生じる。そして、各国のルールが異なるから、国家には多様性が生まれる。世界政府を提唱したカントは、そういうルールには普遍的なルールがあると主張した。だが、実際にはそれぞれの国家が抱える資源の量や質が異なるので、各国の事情に応じたルールが策定される。さらに、それぞれの国家は、隙あらば他国との格差を埋めようと狙っている。相互不信を出発点として徐々に信頼関係を構築し、条約などを締結する。それが無理ならば暴力的な手段に出る。日本国内と同じやり方で、最初から相手を信頼して下手に出ることは命取りになりかねない。これが国際政治の現実なのである。

 (3)本号の本筋からは外れるのだが、「日本虚人列伝」という連載で内田樹氏のことが取り上げられていた。人生相談では非常に的確な助言をするのに、こと問題が政治となると、まるで頓珍漢な回答をしてしまうことを批判している記事であったが、その中にこんな記述があった。
 広告代理店に就職してみたいという学生が就職活動の準備として「何やっとけばいいんですか?」という質問をしている。(中略)

 しかし、内田氏の回答は見事だ。問題に対する「正解」を求ているこの学生は「クリエイター」に向かないから、広告代理店に就職するのは止めた方がいいというのだ。そして、「最低限これだけはやっておけばいい」という最低限の水準を求める行為そのものを「そんなことをやっていても何にもなりませんよ」と一蹴する。さらに、最低レベルだけをこなすような人間は「いくらでも換えが利く」人間であり、「ある日いなくなっても誰も困らないし、誰も気がつかない」とまで断じている。
(岩田温「日本虚人列伝 第8回「内田樹」 売れっ子思想家先生が、見当外れの政治談議をつづける理由」)
 この内容には私も同感である。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第25回)】「顧客から100を要求されたら101を提供すればよい」というマインド」で、顧客からの要求を少し上回る成果物を出せばよいと考えているマネジャーの話をしたが、目標を立てても往々にして結果はそれを下回ることをこのマネジャーは理解していない。顧客から100を要求されたら、130ぐらいを目指さなければならない。実際には8割程度の出来にしかならないから、130×0.8で104となり、ギリギリ顧客の要求を上回ることができる。元中日監督の落合博満氏は、3割バッターは3割を目標とするのではなく、3割3分ぐらいを目標とするから3割を達成できると語っていた。

采配采配
落合博満

ダイヤモンド社 2011-11-17

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 偏差値の高い学生の中には、試験で合格点ギリギリを狙うような勉強法をする人が少なからず存在する。確かに、試験に合格するためであれば、それでよいのかもしれない。しかし、それと同じ態度を人生全般に当てはめるのはよくないと私は思う。こういう人たちは、合格するのに必要最低限の知識を効率よく学習しようとする。しかし、新しいアイデアやイノベーションは、効率的な学習からは生まれない。むしろ、非効率な学習からこそイノベーションは生まれる。

 「こんなことを覚えて何の役に立つのか?」と思えるような知識でも、とにかく貪欲に吸収する。大量に知識を覚えると、既存の知識との間で齟齬が生じるようになる。自分の記憶の中で矛盾点が存在するのは非常に気持ちが悪い。そこで、脳はその非合理性を何とか論理的に説明しようと努力する。すると、そこから新たなアイデアが生まれることがある。また、しばしば言われるように、イノベーションというのは全くの無から生まれるのではなく、既存の知識の組み合わせによって生じるものである。ということは、脳に保管されている知識の量が多いほど、知識の組み合わせのパターンは多くなり、イノベーションの源泉が豊かになる。逆に、最低限の知識で済まそうとする人の脳内は、知識がスカスカであり、良質な知識のネットワークが形成されない。

2017年01月04日

『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他

このエントリーをはてなブックマークに追加
正論2017年1月号正論2017年1月号

日本工業新聞社 2016-12-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)以前の記事「『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他」で、未だ戦争状態にある朝鮮半島(忘れがちだが、両国は休戦状態にあるにすぎない)で今後起こり得る4つのシナリオを想定してみたが、あれからまた状況が少し変わったので、シナリオを改めて整理してみたいと思う。1つ目は韓国と北朝鮮が平和裏に併合し、1つの国家となることである。これが双方の国にとっても、また日本にとっても最も望ましいのだが、難易度が高くすぐに実現するものではない。

 2つ目は、北朝鮮の体制が崩壊し、韓国が主導で朝鮮半島に資本主義国家を誕生させるというものである。日本からすれば、資本主義対社会主義のラインが北緯38度から中国国境まで後退するため望ましい。ところが、朝鮮半島に新たに誕生した資本主義国家は、巨大な共産主義国である中国と直接対峙する恰好となる。そうすると、アメリカは今以上に深く朝鮮半島にコミットしなければならない。だが、トランプ次期大統領は、基本的に「自国のことは自国で守れ」というスタンスであるから、アメリカが力を貸さない可能性が大きく、新たな資本主義国家は中国との関係で苦労することが予想される。したがって、このシナリオも実現可能性が低い。

 3つ目は、北朝鮮が一か八かで”革命”を起こし、朝鮮半島を共産主義化することである(おそらく、北朝鮮は核兵器を使ってくるだろう)。朝鮮半島に新しくできた共産主義国家は、今度は日本と直接対峙する。朝鮮半島の共産主義国と日本の対立は、中国とアメリカの代理戦争の場となる。その対立は、北朝鮮と韓国の対立よりもはるかに大きくなる。以前の記事では、いくら中国が軍事力を急速につけてきているからと言っても、アメリカと大々的に対立することは望まないから、このシナリオは中国が嫌がるだろうと予想した。しかし、トランプ次期大統領がアジアから後退すれば、中国が隙をついて手を出してくる恐れがある。

 現在の韓国は左傾化が進んでいる。朴槿恵大統領の退陣を求める大規模なデモが発生したが、そのデモを仕切っているのは左翼系団体であったという。
 つまり、朴槿恵対人野外集会とデモを主催している団体は前年に激しい暴力デモを起こして国民から孤立していた過激な左派労組などが中心だったのだ。そのなかには北朝鮮とつながる「利敵団体」さえ含まれていた。
(西岡力「次は過激な親北政権?手が付けられない韓国の政治事情」)
 論文では具体的な団体名が列挙されている。これらの団体が北朝鮮の革命に乗じる可能性はゼロではないだろう。さて、朴槿恵大統領は今年4月に大統領を辞任することとなった。私は、この辞任のタイミングを間違えていたら、北朝鮮が革命に着手したのではないかと考える。
 金日成は「4・19革命(4月革命)の失敗を繰り返してはいけない」と繰り返し述べていたという。4月革命は1960年、長期政権で腐敗した李承晩政権の不正選挙に学生らが決起、大規模デモで衝突、李承晩を辞任に追い込んだ事件だが、金日成はこの混乱に乗じて「革命」を起こせなかったことを長年、悔やんだという。
(久保田るり子「朝鮮半島薮睨み」)
 仮に、朴槿恵大統領が即時に辞任していれば、60日以内に大統領選挙を実施する運びとなり、その間、韓国では政治の空白が生まれる。一方、アメリカはオバマ政権の末期にあたり、積極的なアクションを起こすことができない。この一瞬のどさくさに紛れて、北朝鮮が革命を企図したとしても何ら不思議ではない。結局、朴槿恵大統領の自己保身のおかげで辞任が今年4月にずれ込んだために、北朝鮮は革命のタイミングを失った。もっとも、トランプ次期大統領はアジアからできるだけ手を引こうと考えているわけだから、引き続き北朝鮮が革命に乗り出す可能性については注意深くモニタリングを続ける必要がある。

 4つ目のシナリオは現状維持である。これが、少なくとも日本にとっては最も望ましい。資本主義と共産主義の対立を朝鮮半島に押し込めて、日本は一定の距離を保つことができる。それが、北朝鮮と韓国の両国にとって望ましいかどうかは私にはよく解らない。国際協調路線とか、平和路線とか、きれいごとはいくらでも口にすることができるが、国際政治の世界では所詮、自国の国益が最優先されるのが現実である。事実、アメリカ・ファーストを公言してはばからない人物が、何も問題がなければ少なくとも4年間はアメリカのトップに座るわけである。

 (2)冷戦終結後のアメリカには、基本戦略として2つの選択肢があったという。
 1つは、「冷戦に勝利してソ連帝国を滅亡させたアメリカは、唯一の超大国として世界に君臨することになった。現在の世界に、アメリカに対抗できる国など存在しない。今後は国際構造を一極化して、『アメリカだけが世界諸国を支配する』という国際新秩序を創るのだ」という野心的な戦略案である。

 もう1つの戦略構想は、「過去5世紀間、世界を一極構造にしようと試みた大国はすべて失敗してきた。(中略)『ある特定国が世界を支配する威圧的な覇権を獲得しようとすると、必ず他の諸大国がその動きをカウンター・バランス(牽制)する』というのが、過去五百年の国際政治史で何度も繰り返されてきたパターンだ。アメリカはソ連を崩壊させたことに驕って、世界支配の野望を抱くべきではない。我々が世界中を支配しようとすれば、必ず多数の反米勢力を作り出して、世界各地で不必要な紛争に巻き込まれることになる。米政府はむやみに勢力圏を拡大しようとする覇権主義を避けるべきだ」という抑制的な戦略である。
(伊藤貫「アメリカ覇権戦略の失敗が、孤立主義を生んだ」)
 アメリカは前者を選んだわけだが、その結果が、
 米露対立の再現、イスラム諸国との長期間の不毛な戦争、中国封じ込めの失敗、北朝鮮核兵器増産の黙認、腐敗した米金融界が惹き起こした2008年の世界金融恐慌、冷戦後の米社会のグロテスクな貧富の差、米大衆の反政府感情、そして「暴言王」トランプ大統領の出現(同上)
だという。私は、アメリカがどちらの基本戦略をとったとしても、結果は同じだったと思う。本ブログでも何度か書いているように、大国アメリカは「二項対立」的な発想をする国である(これは大国に共通して見られる傾向であり、現代の大国であるドイツ、ロシア、中国にも共通する。以前の記事「岡本隆司『中国の論理―歴史から解き明かす』―大国中国は昔から変わらず二項対立を抱えている」を参照)。対立項の存在によって、自国のアイデンティティを保とうとする。このように書くと聞こえはよいが、要するに、常に誰か/何かと対立していなければ気が済まないのである。冷戦後にアメリカの敵がいなくなったとしても、アメリカは味方に過度に肩入れして敵を作り出すという技を持っている(以前の記事「アメリカの「二項対立」的発想に関する整理(試論)」を参照)。だから、米露対立の再現などは、アメリカの思惑通りなのである。

 逆に、後者の抑制的な戦略をとっても、結果に変わりはなかっただろう。アメリカの後退によって生まれた空白地帯を埋めるようにして、アメリカと対立する勢力が現れたに違いないからだ。元々アメリカは、歴史的に見ると孤立主義をとっていた期間が長い。第2次世界大戦に対しても、ヨーロッパ諸国の戦争だと言ってなかなか参戦しなかった。ところが、アメリカが孤立主義のスタンスを保っていた間に共産主義国・ソ連が力をつけ、戦後の冷戦へとつながった。だから、アメリカがどんな戦略をとるにしても、対立を引き起こすのは一種の宿命である。そして、その対立が軍需産業を潤し、軍需産業から生まれたイノベーションが民生に転じて世界を席巻し、一部の企業が世界中から富をかき集めているのも(不都合な)事実である。

 (3)《参考記事》
 『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他
 『「3分の2」後の政治課題/EUとユーロの行方―イギリス・ショックのあとで(『世界』2016年9月号)』―前原誠司氏はセンターライトと社会民主主義で混乱している、他
 『混迷するアメリカ―大統領選の深層(『世界』2016年12月号)』―天皇のご公務が増えたのは我々国民の統合が足りないから、他

 天皇の生前退位問題については上記の記事でも触れたが、この問題に関する記事を読めば読むほど、生前退位を法制化するのは厳しいと思うようになった。特措法は日本人お得意の”その場しのぎ”の策なので論外だとして(今上天皇だけが特別扱いされる正統性がない)、当初は恒久法で対処できないものかと考えていた。つまり、皇室典範の改正である。しかし、皇室典範の条文を変更すると多方面への影響が大きく、対処が難しい。ただ、単に対処が難しいだけであれば、法技術的な問題であるから、時間と知恵を絞り出せば解決できる。それよりも大きな問題なのは、皇室典範を改正する正当な根拠がない、ということである。

 天皇がどれだけお忙しいかを、2016年7月15日の毎日新聞が次のようにまとめているという。以下は2014年の公務の一部である。
 内閣から報告された書類の署名、1060件。ご静養を除く地方訪問、15県29市11町。国務大臣らの認証官任命式、136人。新任外国大使の信任状奉呈式、26人。各省庁の事務次官からの進講、13回。地方訪問や行事に対する説明、49回。勤労奉仕団などとの面会、63回(延べ8980人)、宮中祭祀、19回。
(新田均「今、改めて考えたい―「皇室」の論点」〔『正論』2016年9月号〕)
月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-08-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 これらの公務の合間を縫って、天皇は慰問・慰霊の公務を続けておられる。しかし本来、天皇の行為は、憲法第4条「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」にある通り、国事行為に限定されている。それ以外の慰問・慰霊などは、公務と称しているが国事行為ではない。だから、公務が難しくなれば、憲法に従って国事行為のみに集中されるのが筋である。そもそも、天皇が国事行為を超えて公務に勤しまなければならないのは、我々国民が国民統合のための働きを十分に行っていないためであると以前の記事で書いた。つまり、国民側が反省し、天皇が国事行為に集中できるようにしなければならない。

 その国事行為も難しくなれば、皇室典範第16条「天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。また、天皇が、精神・身体の重患か重大な事故により、国事行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く」に従って摂政を置けばよい。摂政は、天皇と同じく国事行為を行うことができる。天皇は2016年8月の「お言葉」の中で摂政の設置に否定的であったが、皇室典範に規定されていることを特段の理由もなく否定されるのはどうしても無理がある。仮に、天皇のご意向で皇室典範の規定を無視することができるのであれば、皇室典範に言及している憲法を空文化することになり、君主の権限を憲法で縛るという立憲君主制の根幹が崩れる。まして、譲位の条文を追加することは難しいだろう。

 (結局、私の見解は以前の記事で言及したリベラル論者の結論と同じになるのだが、私は天皇の公務を「おまけ」と表現されたことには憤りを感じている。公務が増えたのは、決して天皇の趣味などではない。天皇が国民統合の象徴として国民を見渡した時、国民の統合が足りないとお感じになったから、天皇が進んでご活動されたのである。国民の怠惰を補うべくされた天皇の公務を「おまけ」という軽々しい言葉で片づけるのはあまりにも無責任であり、かつ傲慢である。責任を痛感し、反省すべきは我々国民である)

2016年09月14日

『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他

このエントリーをはてなブックマークに追加
月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-08-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)天皇陛下が生前退位のご意向をお示しになり、8月8日に約10分間のビデオメッセージで国民に向けて「おことば」を発信された。80歳という年齢を超えてもなお、日本国民統合の象徴としてご多忙な日々を過ごされていることには、ただただ頭が下がるばかりである。

 私は、この「象徴」というのは、「和」の象徴であると考える。「和」の象徴とはつまり、この世界が多様性に満ちているという事実を尊重し、特定の人物、組織、国家などに肩入れせず、広く平和な関係を構築することを意味する。報道では、天皇が日本各地で震災の被害を受けた人々を慰問される姿が映し出されることが多いが、その裏では、あらゆる国・地域の要人と毎日のように会い、またご多忙な公務の合間を縫って太平洋戦争の戦闘地を訪問し、戦没者に哀悼の意を捧げていらっしゃる。このようなご尽力があるからこそ、日本は世界から高く評価されている。

 今回の突然の「おことば」は非常に大きなインパクトを持ち、一国民として天皇のお気持ちを叶えて差し上げたいという思いに駆られる。だが、実際問題として、現行憲法や皇室典範は生前退位を想定していない。仮に生前退位を認めるならば、元号や退位後の呼称をどうするのか、住居はどこにするのか、皇室に割り当てられている予算の配分はどうするのかといった問題が生じるという報道があった。しかし、これらの問題はどちらかと言うと末端の話である。
 譲位が制度化されると、天皇の意思に反して内閣が譲位を決定したり、国政の重大な局面で天皇が譲位して内閣に圧力を掛けたりすることが可能になる。現在は皇室と内閣が対立関係にないため、想像しにくいが、何百年も先のことを考えると、そのような事態に備えておく必要はあろう。
(竹田恒泰「なぜ明治以降に「譲位」がなかったのか」)
 具体的には、時の内閣が恣意的に退位条件を定めた法律を国会で無理やり通すことが想定される。逆に、(法律で定められた退位条件を満たすことが前提だが、)国会が重要な議題を審議している最中に天皇が退位されることで、国会に無言のプレッシャーを与えることもあり得る。例えば、昨年の安保法制の審議中に天皇が退位されれば、天皇は憲法で定められた「内閣の助言と承認」を拒否したことになり、暗に安保法制に反対であることを示すことになる。

 生前退位が不可能となったのは、明治時代に大日本帝国憲法ができてからである。明治天皇までの88代中(北朝を除く)、生前退位は57の例がある。帝国憲法でも生前退位を認めるかどうかが議論になったものの、最終的には伊藤博文の以下の意見によって却下された。
 天皇が随意にその位を離れることに理はなく、また天皇の精神や身体に重患があっても摂政を置くことで百政を摂行することができ、歴史上の譲位が為政者の事情に左右されたことに鑑みると、譲位の規定は削除すべきである、と。(同上)
 天皇が政治的な道具として利用されることを避け、天皇家が万世一系として延々脈々と続くようにと考え出されたのが、「生前退位を認めない」という妙案だったと言える。

 本号は天皇の「おことば」が出される前に発行されたものであるため、「おことば」の内容は反映されていない。渡部昇一氏は、単に摂政を置けばこの問題は解決すると論じている。ところが、「おことば」の中で天皇は摂政を置くことを否定された。週刊誌的な発想に立つと、皇太子殿下との間で何か不和があるのではないかという邪推が働くところだが、「「象徴としての天皇」を体現――陛下の「完璧主義」と歩み」(読売新聞、2016年8月9日)という記事から察するに、完璧主義者の天皇は、純粋に公務をご自身の力で遂行したいと思っていらっしゃるのだろう。

 それからもう1つ、今回天皇が生前退位のご意向を示されたのは、皇后美智子様に対するご配慮が多分にあったものと推測される。天皇も2度の手術を受けるなどお身体の具合があまりよろしくないが、皇后美智子様はそれ以前から体調を崩していらっしゃることがしばしば報道されている。天皇陛下以上に、皇后美智子様がご公務に耐えられないのではないか?しかし、皇后美智子様が自らそれを公にすることはできない。そこで、天皇陛下が生前退位という手段を使うことで、皇后美智子様のことを思いやったとも考えられる。

 現在、政府は一代限りの特措法を検討しているという。日本人お得意の”その場しのぎ”的な療法である。しかし、今回と同じような事態は、現在56歳の皇太子殿下が次の天皇に即位された時にも必ず起きる。凡人の私にはいいアイデアが全く思い浮かばないのだが、ここは是非、恒久法という形で課題が発展的に解消されることを祈っている。

 (2)
 すでにオバマ政権は、北朝鮮との外交関係を断絶したのと同然である。これまで米国が名指し制裁の対象とした第三国のトップは、シリアのアサド大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領、リビアのカダフィ大佐、ジンバブエのムガベ大統領らである。いずれも政権転換でしか民主化が望めなかったケースだ。この列に北朝鮮が加わったのだ。
(久保田るり子「朝鮮半島薮睨み」)
 アメリカが北朝鮮への制裁を強めているというが、個人的にはアメリカは本当に北朝鮮を潰す気があるのかどうか、やや懐疑的に見ている。北朝鮮がICBM(核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル)だけでなくSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の実験にも着手したことは、以前の記事「『ジャーナリズムが生き延びるには/「核なき未来」は可能か(『世界』2016年8月号)』―権力を対等に監視するアメリカ、権力を下からマイルドに牽制する日本、他」で指摘した。アメリカはむしろ、「北朝鮮は早く軍事力を高めよ」と時間的猶予を与えているように感じる。

 北朝鮮は未だに社会主義による革命を心の底から信じており、憎き資本主義国である隣国の韓国を武力で奪い取ろうと本気で考えている。ICBMやSLBMは、北朝鮮が韓国を攻撃した際に、アメリカが横槍を入れてくるのを防ぐためのものである。しかし、北朝鮮とアメリカでは軍事力の大きさが全然違う。普通に考えれば、この状況で武力衝突が起きることはあり得ない。ところが、戦争とは普通のことが通用しない世界であり、軍事力が非対称な国の間で偶発的に発生した衝突(たいていは、軍事力が小さい方の国が仕掛けた衝突)がきっかけとなって、戦争へと発展する。朝鮮半島で言えば、北朝鮮が偶発的にアメリカを攻撃して韓国へと侵攻する。すると、アメリカは否が応でも朝鮮半島に出て行かざるを得ない。

 戦争になれば、十中八九、北朝鮮は敗れ、金正恩体制は崩壊する。その後アメリカは、敗れた北朝鮮の復興に着手する。だが、現在のアメリカ国内には、戦争続きによる厭戦ムードが漂っている。また、アメリカが戦争の事後処理にあたった国の中で、まともに民主化に成功したケースはない。イラク、シリア、リビアなど、いずれも戦争前と同等、あるいはそれ以上に混乱している。そうなると、現時点では朝鮮半島に巻き込まれたくないというのがアメリカの本音であろう。

 だから、アメリカとしては、北朝鮮が韓国と偶発的な衝突を起こさないことを願いながら、形だけは制裁を行いつつ、裏で中国が北朝鮮に援助することを期待して、北朝鮮の軍事力レベルが上がるのを待っているわけである。北朝鮮とアメリカの核の差が縮まれば、お互いに抑止力が働いて武力衝突は発生しにくくなる。北朝鮮も、身に余るほどの核兵器をどうにかしたいと考え始める。このような状態になってようやく、北朝鮮はアメリカ・韓国との交渉のテーブルに着くだろう。北朝鮮の都合で何度も中断されている6か国協議も、進展が見られるかもしれない。

 (※)北朝鮮が中途半端な軍事力のまま暴発した場合に想定されるシナリオは、松木國俊『韓国よ、「敵」を誤るな!』(ワック、2016年)に詳しく書かれている。

韓国よ、「敵」を誤るな!韓国よ、「敵」を誤るな!
松木國俊

ワック 2016-06-24

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (3)
 自衛隊法第6章には、防衛出動をはじめとして、治安出動、海上警備行動、領空侵犯措置等々、「自衛隊の行動」が規定されている。そして第7章には、各々の行動について、自衛隊あるいは自衛官がどこまで武器使用ができるかという「権限規定」が定められている。だが、奇妙なことに「領空侵犯措置」にだけ「権限規定」がない。このことはあまり知られていないし、政治家でさえ知る人は少ない。
(織田邦男「渦中の空自OBが寄稿! 中国軍機による東シナ海危機を世に問うた理由―侵略と悲劇を呼ぶ防空法制の欠如」)
 自民党が公約した「領海警備法」はいまだ整備されていない。法整備以前の問題として、安倍政権は中国軍艦に領海侵犯されて、海上警備行動すら発令できなかったではないか。
(潮匡人「織田論文否定は官邸の失態―第二の「田母神論文」にしてはならぬ」)
 昨年の安保法制によって、「切れ目のない防衛法制」が整備されたと言われるが、実際には穴ぼこだらけのようである。領空侵犯に対する権限規定がないことにより、領空を侵犯されても自衛隊は武器を使えず、音声や機体信号による警告、信号射撃などしかできない。

 中国軍艦に対して無策だったのにも理由がある。海上警備行動(海警行動)が発令されると、海上保安庁法第20条2項が適用され(自衛隊法第93条)、武器使用権限が拡大する。ただし、同条は武器使用の対象となる「外国船舶」について、「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であつて非商業的目的のみに使用されるものを除く」と明記している。したがって、領海を”有害航行”する中国の軍艦は適用除外であり、武器を使用できない。警告射撃も許されない。

 政府の方針は、海警行動発令後、「自衛隊が当該潜水艦に対して、海面上を航行し、かつその旗を掲げる旨要求すること及び当該潜水艦がこれに応じない場合にはわが国の領海外への退去要求を行う」こととなっている。しかし、海自の要求に応じない中国軍艦にはそれ以上対処のしようがない(潮匡人「「戦争法案反対」は戦争したい国の思う壺」〔『正論』2015年8月号〕)。

 日本の安保法制が切れ目だらけであることは、右派だけでなく左派からも指摘されている。主な点を以下にまとめておく。

 ①存立危機事態における集団的自衛権の行使、重要影響事態における後方支援(正しくは協力支援)については、事前の国会承認が必要とされた。例外は、極めて限定的な場合のみである。しかし、国家の存亡がかかる存立危機事態において、国会を開いている余裕はあるのだろうか?また、国会が閉会中の場合にはどうするのか?選挙期間と重なったらどうするのか?(潮匡人「あんなに大騒ぎしたのに、こんなにショボい安保法制」〔『正論』2015年12月号〕)

 ②現行の「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」は、「重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律」に改正される。だが、「乗船しての検査、確認」の対象からは「軍艦等を除く」とされている。しかも、「当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て」からしか乗船検査できない。相手が停船の「求め」に応じない場合は、「これに応じるよう説得を行うこと」。「説得」に応じない場合は「説得を行うために必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと」と定められており、警告射撃すら認められていない(潮匡人「「戦争法案反対」は戦争したい国の思う壺」〔『正論』2015年8月号〕)。

 ③個別的自衛権の範囲として、海外での自衛隊による邦人救出を現行法下でも可能とする解釈もあったが、安倍政権はその解釈を採用しなかった。そのため、安保法制下でも、例えば朝鮮半島で有事が発生した場合に、自衛隊が被害者を救出することは不可能である(西岡力「横田さん、田口さん、有本さんらは生きている!―救出へ総連解散新法を」〔『正論』2015年10月号〕)。なお、ケント・ギルバート氏は、邦人救出を阻む憲法9条は、13条の幸福追求権を侵害していると批判する(ケント・ギルバート「9条こそが憲法違反である」〔『正論』2015年12月号〕)。

 ④従来は、日本を攻撃してくる国の戦闘機に補給する後方支援国に対して、個別的自衛権の行使が可能とされてきた。ところが、今回の安保法制では、後方支援国に対して自衛権を行使できなくなった。これは、自衛隊が重要影響事態において後方支援を想定している点と関連する。後方支援する自衛隊が武力行使をしているとなれば、相手国から攻撃の対象となる。よって、後方支援する自衛隊は武力行使をしていないと言い切るしかない。その解釈を、日本が攻撃を受けている場合に置き換えると、日本を攻撃する国への後方支援国に対しては自衛権が行使できない(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。

 ⑤自衛隊を出動させる場合、防衛大臣には「安全確保配慮義務」が生じる。ただし、安全配慮義務が生じるのは平時=非戦闘時のみで、有事=戦闘時には信義則上発生する場合はあるとしても、原則として安全配慮義務を負わない。ここで問題になるのは、今回の安保法制では、存立危機事態=有事においても後方支援が想定されており、その場合でも安全配慮義務を貫徹すると安倍首相が述べていることである。防衛大臣は安全配慮義務を負いながら戦闘行為を行うこととなり、法的には義務違反が頻発することが容易に予測できる(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。

 ⑥政府は、集団的自衛権の行使の要件として、ニカラグア事件判決にはない「同意又は要請」を加えた。法文には明記がないが、岸田国務大臣(当時)がそのように答弁している。これにより、例えば朝鮮半島で有事が発生し、明らかに日本が存立危機事態に陥っている時にも、韓国からの「同意又は要請」がなければ、存立危機事態防衛出動ができないことになってしまう(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like