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安土敏『スーパーマーケットほど素敵な商売はない』―一度手にした商圏を”スッポン”のように手放さない執念(続き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年01月06日

安土敏『スーパーマーケットほど素敵な商売はない』―一度手にした商圏を”スッポン”のように手放さない執念(続き)


スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則
安土 敏

ダイヤモンド社 2009-12-11

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 前回の記事「安土敏『スーパーマーケットほど素敵な商売はない』―一度手にした商圏を”スッポン”のように手放さない執念、他」の続きをもう少しだけ。このブログで何度も書いているように、極端な一神教文化に生きるアメリカ企業は、「我が社のやり方が一番正しい(つまり、唯一絶対の神の意思に適っている)」と信じて、どの地域にも判を押したように同じ店舗を展開し、規模の経済を追求する。もちろん、宗教上の理由や食文化の違いなどのために、多少のローカライズをすることはある。しかし、店舗の基本形は世界中どこに行っても同じである。

 日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考
 イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』―ビッグデータで全世界を知り尽くそうとするアメリカ、観察で特定の世界を深く知ろうとする日本
 『行動観察×ビッグデータ(DHBR2014年8月号)』―行動観察はマーケティングの常識をひっくり返す、他

 一方、多神教文化である日本は、進出した商圏の特性、顧客ニーズの特徴に応じた店舗づくりを行うのが理想だと思う。よって、多店舗展開している企業であっても、それぞれの店舗には個性がある。個人的には、そういうマネジメントの方が日本人には合っているはずだ。確かに、コンビニや大手スーパーは全国どこへ行っても同じような店舗になっている。しかし、これはアメリカのチェーンストア・マネジメントのやり方を学んでいるからだ。もしも日本独自にマネジメントを開発していたら、商圏や地域によって異なる店舗ができ上がっていたに違いない。

 チェーンストア・マネジメントでは、各店舗の業績を上げるために、店舗の業績に関する情報をオープンにし、店舗間で適正な競争を行わせることがある。日本でも、セブンイレブンは、他店舗のベストプラクティスを相互に学習する「店舗間学習」という仕組みを導入しているという。

 ただしこれは、それぞれの店舗が同じ顧客層をターゲットとし、同じ製品を扱い、同じオペレーションをやっていることが前提である。そうでなければ、競争の条件に有利・不利が出てしまい、健全な競争にならない。そう考えると、店舗に個性がある日本では、こういう店舗間競争、店舗間学習は難しいことが解る。他の店舗で上手く行っている事例は、自店舗の参考にはなっても、そのまま自店舗に導入することはできない。

 前回の記事でも書いたが、本書によると、サミットストアでは、著者が2004年に退任するまでの間に、全69店舗のうち50%強にあたる35店舗をスクラップ・アンド・ビルドしたという。そして、それぞれの店舗をどのように立て替えたのかが細かく紹介されている。1店1店、商圏の特徴をとらえながら、まるでハンドメイド作品のように大事に作り替えたことが伝わってくる。また、サミットストアが各店舗に個性を持たせなければならなかったのは、立地も関係していると著者は言う。
 出店戦略や店舗開発に関しては、問題が常に具体的かつ個性的である。この世にまったく同じ土地がないのだから、仕方がない。特に国土狭隘な日本ではその傾向が強い。しかも、それがどこの土地で、そのときにどういう状況であったかによって、解決策がまったく異なるのである。そこに、このテーマのむずかしさがある。
 ターゲット商圏を設定することで、自社として「売りたい商品」が決まる。一方で、土地や建物、設備などの制約により「売ることができる商品」が限定される。この「売りたい商品」と「売ることができる商品」のバランスを取りながら、店舗の業績が最もよくなる最適解を探すことが店舗開発のゴールとなる。自ずと、2つとして同じ店舗ができることはなく、その場所に密着したオリジナルの店舗ができ上がるのである。こういうマネジメントには、私は深く共感する。

 もう1つ共感したのは、具体的な顧客ニーズのとらえ方である。著者は1978年に「モニター制度」を導入し、それ以来毎月モニター制度を実施してきたという。
 モニターの声とは「ごく一部の偏った消費者の声」なのである。もちろん、モニターを選ぶときには、なるべく我が店のターゲットとする(あるいは、声を聞きたいと考えるタイプの)消費者だと思われる人々を選ぶ。しかし、いくらそのようにしても、やはり「ごく一部の偏った消費者」なのである。だから、モニターの意見を鵜呑みにするなどということは、はじめからナンセンスである。

 だからモニターの声は無意味かというと、もちろんそうではない。「ごく一部」ではあっても、「偏って」いても、とにかく「我が店の客」だ。聞くほうのスタンスは、これで充分。それにもしかすると、偏っているのが「ものすごく鋭い感性を持っているという意味で偏っている」のかも知れないし、ごく一部が「最も好もしいごく一部」かも知れない。
 マーケティング調査と言うと、すぐに市場調査会社による定量分析が連想される。ところが、これもデータ分析に物を言わせて分析対象を丸裸にすることに長けているアメリカ人だからできることだと私は思っている。残念ながら、日本人にはそこまでの能力はない。分析の対象が対象物そのものから離れて、抽象的な数字に置き換えられた瞬間、日本人は思考停止に陥る。

 日本には「三現主義(現地・現場・現物)」という重要な言葉がある。日本人は、対象物を直接観察しなければ、本質が解らないのである。顧客のことを知りたければ、顧客のところに出向くしかない。数年前、アメリカから「ペルソナマーケティング」という手法が輸入された。市場調査が抽象的すぎるという反省に立ち、特定の属性を持った潜在顧客に人格を持たせ、ニーズを深く理解しようとする手法である。だが、これは日本人にとっては全く新しい手法ではない。むしろ、架空の人物を構想するアメリカより、実際の顧客に直接会いに行く日本の方が進んでいると思う。

スーパーマーケットのブルーオーシャン戦略スーパーマーケットのブルーオーシャン戦略
水元 均

商業界 2009-06-26


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スーパーマーケットのバリューイノベーションスーパーマーケットのバリューイノベーション
水元 均

商業界 2010-06-26

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《追記》
 スーパーマーケット業界のことをもっと知りたくて、中小企業診断士の人が書いた本を2冊読んだのだが、正直がっかりしてしまった。同業者に対する私の評価の目が厳しくなっているせいかもしれないが、私の価値観とは相容れないと思ってしまった。著者は「お客様のニーズを把握して、『モノ販売』から『コト』販売へ移行せよ」と主張している割には、お客様のニーズを調査した形跡が全く見られない。かろうじて「夏にすき焼き肉を販売する」、「冬にケーキではなくメロンを売る」などで、部分的に新しい食事を提案し、ニーズの喚起が試みられている程度である。

 とにかく、「粗利額」を増やすことに全ての神経が集中されており、その日に仕入れた商品はその日のうちに売り切ってバックヤード在庫ゼロを目指せとか、今は外食業界が不況だから、普段は高価な部位の肉が安く仕入れられるとか、旬の終わり頃は相場が上がるが、味が改良された新種が出やすいから、コストパフォーマンスを訴求すれば値段が高くても売れるとか、そんな話ばかりである。著者は、顧客のニーズを分析するという話よりも前に、オペレーションの部分で改善すべき点がたくさんあるということを言いたいのかもしれないが、ちょっと度が過ぎている。

 昨今の食品偽装問題を意識してか、「スーパーマーケットは正直でなければならない」とも述べている。ところが、著者本人が正直でない。『スーパーマーケットのブルーオーシャン戦略』では、「戦略キャンバス」というツールを著者が考案したと書かれていた。だがこれは、ブルーオーシャン戦略を提唱したチャン・キムとレネ・モボルニュが真の開発者である。これこそ「産地偽装」ではないか?また、「はじめに」では「スーパーはもっと儲けよ」という話がくどいぐらい登場しており、読者の反感を察して、はじめにの最後は「本文では『儲ける』という表現は控える」と締めくくられている。ところが、いざ本文に入ると、それを忘れたように儲け話が続くのでがっかりした。




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