2013年06月02日
【ベンチャー失敗の教訓(第20回)】マネジャーなのに数字に無頓着
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マネジャーは、数字に責任を持たなければならない立場である。必然的に、「今のところ、どのくらいの売上(利益)が上がっているのか?」、「当該四半期の残りの期間で、あとどのくらいの売上(利益)が見込めるか?」、「目標売上(利益)との間にどのくらいの乖離があり、そのギャップを埋めるためにはどうすればよいか?」といったことを日々気にかけていてしかるべきだろう。
これは営業マネジャーだけの問題ではない、他部門のマネジャーであっても、その責は逃れられない。いや、中小のベンチャー企業だからこそ、各部門のマネジャーが皆数字に神経を尖らせて、数字を改善するためには何をしなければならないか、部門の壁を超えて知恵を絞らなければならないはずだ。だが、X社のマネジャーは揃いも揃って数字に無頓着であった。
X社では、クラウドサービスのSalesforce.comを使って営業管理を行っていた。社内ITの運用担当も兼務していた私は、Salesforce.comのダッシュボード機能を使って売上一覧や商談一覧のレポートを作成し、毎週月曜日の朝にレポート結果が全社員にメールで自動配信されるようにした。しかし、メール内にあるSalesforce.comへのリンクをクリックして、実際にレポートを読んでいたマネジャーはほとんど皆無だったと思われる。
Salesforce.comを使ったことがある方ならご存知だと思うが、Salesforce.comはIDとパスワードを付与されてもすぐにはログインできず、初回ログイン時に「ログインしようとしているパソコンの有効化」という手続きが必要となる。初回ログインを行うと、「○○というIDのユーザがログインをしようとしています。このユーザによるログインを許可する場合には、以下のリンクをクリックしてください」といったメールがSalesforce.comの管理者宛てに届く。管理者がOKを出せば、そのユーザはログインが可能となる。すでに有効化が済んだIDであっても、ログインするパソコンを変えた場合には、不正ログインを防止する目的で、もう一度有効化の手続きが要求される。
全社員に自動配信していたメールには、全社員が共通で使えるIDとパスワードを記載していた。社員がそのIDでログインしようとすると、それぞれの社員が使っているパソコンは異なるわけだから、必ず有効化手続きを踏まなければならない。すなわち、管理者である私宛てに、前述のようなメールが必ず届くはずである。ところが、そんなメールはついに一度も私のところに来なかった。ITで仕組みを作っても、人間の意識を変えることは難しいと痛感させられた。
社内の研修講師と研修コンテンツ開発メンバーからなるチームを率いていたあるマネジャーは、「私がクライアント先でX社をこんなふうにしたい、X社でこんなことをしてみたいとあれこれ夢を話したら、クライアントの担当者から『○○さん(=マネジャー)はまるでX社の社長みたいですね!』と言われた」と嬉しそうに話していたことがある。しかし、このマネジャーの意識は、社長としてのマインドからは程遠いものであった。
年度末が近づいたある時、このマネジャーはこう言った。「(X社の主力サービスと位置づけられている)『キャリア開発研修』は、私たちが普段頑張って夜遅くまで仕事をしたり、休日を返上して働いたりしているから、結構売れていると思っていたのだが、A社長から実際の売上金額を聞いたら、全然売れていないことを知って驚いた」。 私はこの発言の方に大いに驚かされた。このマネジャーが毎週自動配信されていたメールを見ておらず、普段からSalesforce.comのデータを参照していなかったことは明らかである。
X社の副社長は自己中心的な人だった。副社長自身が担当しているクライアントからの売上高には関心があるものの、それ以外の数字には全く触れようとしなかった。ある時、私が「今期の売上見通しはどんな感じですか?」と質問したところ、「それはSalesforce.comのデータを見ている君の方が詳しいのではないのか?」と逆質問されてしまった。私はSalesforce.comに登録されていない商談の有無などを聞こうとしたのだが(Salesforce.comに登録されていない商談があること自体問題だが)、完全に肩透かしを食らってしまった。自分の数字だけに関心を持っていればよいのは営業担当者レベルであって、副社長でそれは許されない。
このマネジャーたちに数字を意識させるためには、どうすればよかったのだろうか?それは今でも解らない。模造紙に営業担当者別、サービス別、クライアント別といった観点で見た売上実績、受注見込などのグラフを大きく書き出して、社内のどこにいてもそのグラフが目に入るようにした方が、Salesforce.comに頼るよりもまだましだったのかもしれない。これではあまりにアナログでスマートではないと思われるかもしれないけれども、初歩的でアナログな手法に頼らなければならないほど、X社の経営は未熟であった。
(※注)>>シリーズ【ベンチャーの教訓】記事一覧へ
X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング