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大東文化大学セミナー「アジア市場と日本企業の国際連携戦略」まとめ―(2)中国

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年12月04日

大東文化大学セミナー「アジア市場と日本企業の国際連携戦略」まとめ―(2)中国


 ベトナムと韓国の講演者は配布資料を用意していたが、中国の講演者は一切資料を用意せず、手元のメモなどもなしに、50分間しゃべり倒していた。講演者は「資料を用意するのが面倒くさかった」と冗談交じりに話していたが、講演内容に中国政府への批判が含まれており、資料として形に残すと、我が身に危険が降りかかるかもしれないというのが本音だったのかもしれない。最近、日本在住の中国研究者である朱建栄氏が、中国に帰国した際に身柄を拘束されるという事件が起きた。朱建栄氏は、どちらかというと政府擁護派であったことから、中国人研究者の間には衝撃が走った。おそらく、この一件も影響しているのだろう。

 ・「中国の一党独裁の政治と自由主義の経済は今後も両立するのか?」とよく聞かれるが、両立は難しいと言わざるを得ない。現在の共産党は、昔に比べてかなり変質している。毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平とリーダーが交代するたびに、リーダーの”サイズ”が小さくなっている印象がある。簡単に言えば、カリスマ性が低下している。

 また、中国全土には2011年末で共産党員が8,260万人いるが、その全員が共産党のイデオロギーを信じているかどうかかなり疑わしい。少なくとも昔の党員は、毛沢東や鄧小平のイデオロギーを強く信じていたのに対し、最近は自分の利益を守るために党員になっているケースが多い。幹部になれば賄賂がもらえるから党員になるというのは最たるケースである。しかし、賄賂目的の党員が増えて利益分配のメカニズムが機能しなくなれば、政治は崩壊する。

 ・では、一党独裁の政治に代わる政治体制とは何か? アメリカの中国研究者の多くは「連邦制」を強く支持している。ところが、一党独裁から連邦制へとどのように変化させるのか、そのプロセスが不明である。また、アメリカの中国研究者の中からは、「独裁政治を変えられるのは独裁者しかいない」という皮肉な意見も挙がっている。

 ・中国が毎年10%前後の成長を達成できたのは、需要サイドから分析すれば、投資と純輸出が非常に大きかったおかげである(国民所得は「消費+投資+政府支出+純輸出」で計算される)。だが、逆に言うと、中国経済のアキレス腱は、消費が弱すぎることである。各国の消費性向を見ると、インドは55%、日本は60%であるのに対し、中国は34%にとどまっている。消費されない分は貯蓄に回り、それが投資に費やされて経済成長を支えてきたわけだが、このモデルは過剰投資を生じやすい。事実、中国の自動車生産台数は年間2,000万台だが、うち500万台は過剰生産である。つまり、単純計算で4分の1の設備が過剰となっているわけだ。

 ・中国経済を成長させるためには、消費を刺激する新しい経済モデルが必要である。日本の評論家の中には、その一策として社会保障制度を整備すべきだという意見がある。だが、人口1億2,000万人の日本でも2,000万人の年金記録が宙に浮いたのに、人口13億人の中国に社会保障制度を導入することは不可能に近いだろう。

 ・消費と密接に関係するのは、「賃金の伸び率」と「労働分配率」である。中国はいずれも他国に比べて非常に低い。特に労働分配率に関しては、日本が62%、アメリカが78%であるのに対し、中国は39%に過ぎない。これは、労働組合が機能していないからである。中国で春闘などをやろうものなら、一発で逮捕される。「賃金の伸び率」と「労働分配率」を改善するには、労働組合を合法化しなければならない。それはすなわち、政治の民主化が必要であることを意味する。

 ・中国経済は、2010年までは北京五輪(2008年)、上海万博(2010年)といった世界的なイベントに支えられた「イベントエコノミー」であった。北京五輪終了後に経済失速が懸念されると、2年間で4兆人民元もの巨額な財政出動を行うことを発表し、経済成長を持続させた。だが、この経済政策は「パンダエコノミー」と呼ばれた。パンダは体重の20%分の食事をとる必要があり、非常に燃費が悪いことに由来している。2010年代は、7%台の成長が続くと予想されている。

 なお、中国では世界的なイベントのうち、サッカーのワールドカップだけがまだ開催されていない。中国のサッカーチームが弱いため、開催させてもらえないらしい。チームワークが重視されるサッカーは、個人主義的な中国の国民性に合わない。

 ・中国は、80年代は"copy in China"、90年代は"made in China"の時代と呼ばれ、経済発展の段階から言えば、2000年代は"create in China"の時代になるはずであった。しかし、中国ではイノベーションが起きない。世界のトップブランド上位20社には、中国企業もランクインしているものの、銀行や保険会社ばかりで、実はメーカーが入っていない。世界的に有名な中国メーカーとしては海爾があるが、世界的に知られたイノベーションはない。中国では知的財産が保護されないため、企業がイノベーションに消極的になっている。

 ・日本では「失われた20年」と言われたが、国のレベルでは”国力”が失われた。国力を取り戻すには、教育改革が必要である。鄧小平が35年前に最初に着手したのは、経済改革ではなく、教育改革であった。当時、推薦だけで大学に入れた入試制度を改め、試験を必須にした。

 企業のレベルでは”ブランド”が失われた。かつては、中国人男性は、三菱電機の冷蔵庫、ソニーのカラーテレビ、ナショナルの洗濯機、カシオの時計を持っていなければ結婚できないと言われていた(カシオのブランド認知度が高いのは、中国で放送されていた鉄腕アトムのスポンサーがカシオであったためである)。日本企業のブランド力が落ちたのは、
 (1)経営者がコストカットに走りすぎた(コストはカットではなく、”最適化”するものである)
 (2)ブランドではなく、未だに性能や機能を売っている
 (3)現場には技術者やエンジニアしかおらず、デザイナーがいない
ことが原因である。

 ・日本から中国に直接投資している企業数は約2万5千社であるが、JETROの調査によると、その3分の1は赤字である。ある大手メーカーでは、中国に50社の子会社を作ったが、縦割りの事業部制が邪魔をして、日本企業の本来の強みであるチームワークが阻害されているという。50社が護送船団方式で戦えば、結果は違ったかもしれない。そもそも、日本の事業部制は、各事業部に与えられた権限や責任が小さすぎるという問題を抱えている。




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