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中央支部国際部セミナー「ここがポイント!中小企業の海外展開―海外案件経験診断士からのメッセージ」に参加してきた
【城北支部国際部セミナー】「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のあり方、診断士の役割を学ぶ」を開催
【城北支部国際部オープンセミナー】「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のありかた、診断士の役割を学ぶ」

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年05月06日

中央支部国際部セミナー「ここがポイント!中小企業の海外展開―海外案件経験診断士からのメッセージ」に参加してきた


ペルー・マチュピチュ

 (※)ペルーのマチュピチュの写真。プレゼンターの中に、ペルーで仕事をしたことがあるという方がいらっしゃったというただそれだけの理由で選んでみた。

 《お知らせ》
 2005年5月5日から開始したブログは、いよいよ12年目に突入しました。
 いつも読んでくださる皆様に感謝申し上げますとともに、
 今後も変わらぬご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。


 私は城北支部の国際部に所属しているのだが、城西支部の中小企業診断士の先生から紹介されて、中央支部の国際部セミナーに参加するという、訳の解らない(?)ことをしてきた。参加を許可してくださった中央支部国際部の皆様、ありがとうございます。

 中央支部は(一社)東京都中小企業診断士協会の6支部の中で最も会員数が多い。城北支部はつい最近会員数が400名を超えたと喜んでいたところなのだけれども、中央支部の会員は約1,500名である。組織の大きさが違うだけに、セミナーの規模も全然違う。城北支部も先日「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のあり方、診断士の役割を学ぶ」というセミナーを開催したが、この時の参加者は20名弱だった。それに対し、今回のセミナーは、参加者が50人ほどいたのではないだろうか?会場も、神谷町の機械振興会館という立派な建物であった。

 以下、セミナー内容のメモ書き。

 (1)総合商社出身の中小企業診断士が、タイで誘拐されたという体験をお話ししてくださった。その先生がタイに出張する時、現地法人の社員が車で空港へ迎えに来ることになっていた。ただ、彼はその社員の顔を事前に調べていなかった。さて、空港に到着したが、お迎えらしい車がいない。するとそこに、「○○さんですよね?」と男性2人組が日本語で話しかけてきた。彼はすっかりその2人がお迎えの社員だと思い、2人が運転する車に乗り込んだ。ところが、一向にバンコクのホテルに向かう気配がない。この時点で、この先生は自分が誘拐されたことを悟った。

 彼は2人に歯向かえば殺されると思ったので、2人と仲良くなるように努めた。「日本に行ったことはあるか?」と聞くと、「ある」と答える。「どこに行ったことがあるのか?」とさらに尋ねると、「新宿の歌舞伎町だ」と言う。「歌舞伎町ならオレもしょっちゅう行っているよ」などという話でひとしきり盛り上がった。その後、彼が「すまんが今はこれだけしか持っていないので、勘弁してくれないか?」と言ってなけなしの現金を2人に渡したら、苦笑しながら解放してくれたという。

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 加藤晃他『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』によると、世界では年間約3万件の誘拐事件が発生している。別のリスクマネジメントセミナーに参加した時に聞いた話だが、誘拐犯にとって誘拐はビジネスである。誘拐は絶対に失敗してはならない。だから、下準備を入念に行う。彼らはまず、お金持ちの人物にターゲットを絞る。次に、その人物の行動をつぶさに観察する。どのルートで通勤しているか?家の近所ではどの辺りが行動範囲となっているか?1人になることが多いのはどのような時か?などを徹底的に調べ上げる。そして、確実に誘拐するのである。

 誘拐されないために重要なのは、彼らのターゲットリストに載らないようにすることである。派手な格好をしない、時々通勤ルートを変える、1人での行動をできるだけ控えるなどの対策が有効である。それでも万が一誘拐されてしまったら、この先生のように誘拐犯と仲良くなるのも1つの手である。というのも、誘拐犯は金銭目的で誘拐しているのであって、決して殺すことが目的ではない。だから、彼らも誘拐した人物をあまり手荒に扱うことはない。この点を理解せずに、パニックになって暴れたりすると、誘拐犯が逆上して殺害に及ぶことがある。

 (2)外資系のIT企業を転々としている企業内診断士からは、「ジャパンエントリ」についての話があった。ジャパンエントリとは、海外企業が日本に進出することを指す。その先生の所属企業が日本市場に参入する際、どのような課題に直面し、それをどのように解決したのかという話を期待したのだが、実際には彼の30年近くに及ぶ経歴の紹介や、外国人とのつき合い方などの話が長々と続き、やや取り留めのない講演であったとの印象を受けた。

 この先生は、イスラエルのIT企業、インドのオフショア開発企業、イギリス系のベトナム開発会社などで勤務した経験がある。エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』によると、イスラエルは比較的ハイコンテクストの文化である(ハイコンテクストである上に、ネガティブなフィードバックを直接的にするという。イスラエル人に慣れていない人は、あちこち飛躍した話をめちゃくちゃ厳しい口調で言われるような印象を受けるのだろう)。また、インド、ベトナムなどのアジア各国も、日本と同様にハイコンテクストである。

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 米英などのローコンテクストの国では、自分の主張を論理的かつ解りやすく説明することがよしとされる。一方、ハイコンテクストの国では、背景や文脈、他の事象との関係など、様々なテーマと結びつけて話をする。そのため、ローコンテクストの人にとっては非常に回りくどい。だが、エリン・メイヤーによれば、ハイコンテクスト同士のコミュニケーションが最も難しいという。安直な考え方だが、双方がともに理解しづらい複雑な話をするので、余計に話がややこしくなるのだろう。ハイコンテクスト同士が掛け合わさると、スーパーハイコンテクスト状態が生まれるらしい

 この先生(日本人)は、ハイコンテクストであるイスラエル人、インド人、ベトナム人と仕事をした期間が長い。ハイコンテクスト同士のコミュニケーションに慣れてしまった結果、セミナーの主催者から与えられたテーマに対して、ストレートにコンテンツを用意するという意識が薄れてしまったのかもしれない。この先生の話を聞きながら、私はベトナムでの生活が長い日本人のグループと一緒に仕事をした時のことを思い出していた。彼らはこちらから質問をしても答えがややピンボケであったり、逆に無関係な話を混ぜ込んできたりする。だから、質問すればするほど、話が解らなってしまうのである。これも一種のスーパーハイコンテクスト状態なのかもしれない。

 (3)ベトナムで独立開業した診断士からは、現地のベトナム情報を色々と知ることができた。ベトナム人は家族や友人との時間、自分の時間を非常に大切にするという(だから、残業などはもっての外だろう。これは他のASEANの国でもよく見られる傾向である)。会社から社員に何かプレゼントをする時には、家族で分け合うことができる物をあげると喜ばれる。家族は「お父さんは(こんなプレゼントをくれる)とてもいい会社で働いている」と思ってくれる。

 ベトナム人は日本人と違って、ほとんど本を読まない(VIETJO「年に1冊も本を読まないベトナム人、活字離れ進む」〔2015年4月13日〕という記事のことを思い出した)。また、大学の専攻通りの職種に就くことが多い。そのため、彼らの知識の幅は非常に狭い。そこで、知識や能力の幅を広げるために社内で勉強会や研修を開催すると、現地社員は喜んでくれるそうだ。

 (4)ペルー、アフガニスタン、シリア(今みたいに国家が崩壊する前の時期)で建設コンサルティングの仕事をしたという特異な経験を持つ診断士の話もあった。結局のところ、大切なのは日本人技術者と現地スタッフのコミュニケーションなのだという。「コミュニケーションが大切」と言うと、なぜか日本人は納得する。同じようなことは「コミュニケーション」を「人材育成」や「マネジメント」などに置き換えてもあてはまる。どうしてこんな抽象的な言葉で納得できるのか、私はいつも不思議なのだが、これもまた日本がハイコンテクストであることの証左なのだろう。

 私などは理解が遅いので、「具体的にどういうコミュニケーションをすればよいのか?」と聞きたくなるのだが、そういう時の反応はだいたい予想がつく。「それは個別のケースになってみないと解らない」というものである。日本人には特殊能力が備わっているせいか、具体的な問題に直面しても即興的に対応策を考え出すことができる(以前の記事「竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』―よくも悪くも「何となく、何とかしてしまう」のが日本人」を参照)。

 ただ、それでは他人に伝える知識としては不十分であろう。仮に個別のケースによって対応が異なるならば、「○○の時は○○する。△△の時は△△する。□□の時は□□する・・・」というルールの束をはっきりさせる必要がある。ITの言葉を借りれば、「IF~THEN・・・文」の条件分岐を分厚くする必要がある。それが重層的であればあるほど、プロフェッショナルと呼ぶにふさわしい。

 (5)最後に、総合商社勤務で中国駐在経験が長い診断士の話があった。中国現地法人では、人事の他に総務、経理、リスクマネジメントなども担当したそうだ。話を単純化するために、中国現地法人の組織ピラミッドが、経営層、マネジャー層、新人・若手層の3層から成り立っているとする。新人・若手層の給与は月10万円、マネジャー層の給与は月15万円であるとしよう。

 ある時、新人を採用しようと面接したところ、同年代の社員よりもはるかに優秀な人がいたため、月15万円の給与で採用することにした。ところが、この先生によれば、「いい人だから採用したい」と言って給与を上げて採用すると失敗するという。なぜならば、月15万円もらえるのはマネジャー層であって、新人・若手層ではない。月10万円の新人・若手層に、月15万円の新人を1人入れると、その企業の賃金テーブルが崩れてしまう。すると、社内では不協和音が生じる

 ただ、これは極めて日本的な考え方だと感じた。仮にこれが欧米企業の中国現地法人であれば、月15万円に見合う能力を持つ人は、新人であってもマネジャー相当として採用し、彼らと同じような仕事を与えるに違いない。逆に、どんなに能力が高くても、新人は組織ピラミッドの一番下からスタートし、順番に昇進しなければならないというのは、日本的な年功序列制の発想である。おそらく、この先生が勤める総合商社は、今も年功序列的な人事制度であろうと推測される。

 ただ、私は個人的に、年功序列を肯定的に評価していることは最後につけ加えておく(以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(前半)(後半)」、「『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」などを参照)。年功序列を肯定するには、給与は仕事のパフォーマンスに対する対価であるという考えを大幅に捨て去る必要がある。給与は生活費としての性格が強いため、年齢を重ねて生活コストが上がれば、それと連動して給与も上げる必要がある(以前の記事「ドラッカー「顧客の創造」の意味に関する私的解釈」を参照)。

2016年03月30日

【城北支部国際部セミナー】「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のあり方、診断士の役割を学ぶ」を開催


グローバル

 私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会 城北支部国際部で、「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のあり方、診断士の役割を学ぶ」というテーマで、診断士向けのセミナーを開催した。ここ数年、国際部では、「海外ビジネスを検討・推進している中小企業を診断士がどのように支援することができるか?」というテーマでセミナーを実施している。今回もその一環である。講師には、神谷俊彦先生(株式会社ケービーシー代表取締役)坂口到先生(ISコンサルティング株式会社代表取締役)をお招きした。以下、セミナー内容のメモ書き。

 (1)JETROは、海外進出成功のポイントとして、①進出目的を明確にする、②信頼できる現地パートナーを見極める、③事前調査を入念に実施する、という3つを挙げている。だが、この3つをしっかり守っている中小企業はそれほど多くない。取引先から海外に来てくれと言われて何となく進出してしまった、現地を2~3回視察しただけで進出地域を決めてしまった、という例は多い。しかも、困ったことに、①~③が不十分でもある程度成功してしまう、運のいい企業もいる。

 だから、海外事業で赤字を垂れ流しても、「まだ海外に慣れていないから」、「これは授業料だから」などと言って赤字を正当化してしまう。そして、自社も辛抱強く事業を続けていれば、先行する他社のようにいつか成功すると信じてしまう。しかし、これはやはりよくない。だから、JETROが掲げる3つの成功要因には、④撤退条件を明確にする、というのをつけ加える必要がある。何年後に市場シェア○○%を達成できなかったら、顧客企業を○○社獲得できなかったら、月産○○台に乗らなかったら、原価率が○○%まで下がらなかったら撤退する、とあらかじめ決めておく。

 (2)海外ビジネスには、日本では考えられないようなリスクがつきものである。外国人もしくは現地にいる日本人に騙されたという話は、日本にいながらでもたくさん入手することができる。そういう話を聞くたびに、「自分は絶対そんな目には遭わない」と、自分のリスク回避能力を過信する人がいる。そして、そういう人に限って、まんまと海外で騙される

 この話を聞いて、私は日本における不動産詐欺の話を思い出した。不動産詐欺に最も引っかかりやすい人は誰かと言うと、実は法学部出身者である(そして、私も法学部出身だ)。法律に関する知識があるから騙されないとは限らない。逆に、なまじ法律の知識があるだけに、詐欺師はそこにつけ込みやすいのだという。専門知識があればあるほど、自分の知識を過信せず、詐欺に引っかからないよう用心しなければならない

 (3)中小企業はニッチ戦略で生き残るべきだとよく言われる(私はこれに対しては必ずしも同意しないのだが)。だが、海外で成功する企業を観察すると、核となる独自製品を持つと同時に、周辺製品やサービスでも収益を上げている。例えば、海外に進出したとあるネジの製造会社は、ネジを作るだけでなく、治具の製作や、ネジ製造用機械の修理サービスも行っている。日本の製造業は、自分で治具を作る、機械が壊れたら自分で直す、機械を分解して自分で掃除するのが普通である。しかし、海外の製造業はそこまでやらない。だから、日本企業が当たり前と思ってやっていたことが、海外では強みになることがある。

 他の製品分野に進出する際、コンサルタントはアンゾフの成長ベクトルを思い浮かべる。4つの象限のうち、新しい顧客に新しい製品を提供する多角化戦略は、中小企業にとってあまりにリスクが高すぎるので禁じ手とされる。ところが、ある日本の金型メーカーは、マレーシアでカフェを経営している。外部の人間が見たら意味不明である。だが、そのメーカーの社長曰く、よく解らないマレーシアでいきなり金型の製造ラインを立ち上げるのは難しすぎる。それよりも、手っ取り早く商売ができるカフェをまずはやってみて、マレーシアという国がどういうところなのか理解しようと思った、ということであった。なるほどそういう多角化もあるのかと考えさせられた。

 (4)ASEANでは昨年末にASEAN経済共同体(AEC)が発足し、単一市場・単一製造拠点ができ上がると期待が高まっている。ところが、実際のところ、日本企業にとってのASEAN人気は若干下がっている。なぜならば、TPPができたことによって、ASEANで製造しなくても、日本から直接アメリカなどに輸出すればよくなったからである。また、アメリカの労賃が意外と安くなっているという現状もある。アメリカの大統領選で各候補者が揃って格差を問題にしているのは、アメリカ国内の労賃が相当下がっていることの表れである。

 (5)コスト削減を目的に海外進出する製造業は非常に多いが、コストを下げるのはそう簡単ではない。労務費は確かに下がるものの、製造原価に占める労務費の割合はそれほど高くない(この点については、かなり昔に旧ブログの記事「製造業が海外生産をする理由」で触れた)。原価を下げるには、原材料を現地で調達しなければならない。ところが、ネジ1本でも現地で調達するのは容易ではない。現地のよく解らない企業から調達したネジが原因で不具合が発生したら大問題である。だから、進出直後はどうしても日本から部品を輸入することになる。同時に、現地の調達先を少しずつ発掘・育成する努力が求められる。

 取引先からの要請で海外に進出した企業にとっての盲点は、顧客企業から「海外で製造しているなら、日本国内の製品も安くなりますよね?」と言われることである。確かに海外では、コストが下がって安価になった製品を、取引先の現地法人に納入している。一方、日本国内では、従来通りのコストの製品を国内の取引先に納入するという流れは変わっていない。ところが、取引先はこの点を無視して、国内でも原価が下げられると考えてしまうのである。だから、海外進出計画を策定する際には、海外進出が国内の既存事業に与える影響も考慮する必要がある。

 (6)東京商工会議所では、年間延べ100社以上の中小企業の経営相談を行っている。そのうち、海外関連は3~4割だという。東商には総合商社出身の海外展開担当コーディネーターが数名在籍している。海外関連の相談を持ちかけると、コーディネーターが経営課題を整理・深掘りし、課題解決に最適な専門家をアレンジしてくれる。

 ところが、中小企業には商社が嫌いな人が多いそうだ。相談に来る中小企業も、商社を介さずに直接海外に輸出したいと言う。しかし、コーディネーターが話を聞くと、社内に貿易経験者はおろか、英語を話せる人もいないという。これでは海外展開は無理である。確かに、商社は高いコミッションを取ることがある。だが、商社は世界中のネットワークを活かして顧客を探してくれる、貿易実務をお任せできる、クレームの初期対応をしてくれるなど、メリットも多い。コーディネーターが総合商社出身だからというわけではないが、商社を上手く活用するのも手である。

 商社側の立場に立つと、商社が既にカバーしている顧客に対して販売可能な製品である方が、ビジネスが進めやすいという。また、商社も全ての製品に詳しいわけではないから、製品知識などの面でメーカーが協力してくれると大変ありがたいそうだ。

 (7)日本にいる時は冷静に判断できるのに、海外となると途端に冷静さが失われるケースは本当によくあるようだ。ある輸入卸売業の企業は、台湾からの製品を日本国内で販売していた。だが、輸入事業が先細りになったため、新規事業を検討することとした。すると、輸入元の台湾企業から台湾の大手飲食業を紹介され、「日本のいい食材があれば是非購入したい」と言われた。そこで、この企業は台湾への輸出事業に本格的に乗り出すこととした。

 この企業は、「台湾の大手飲食業から『引合』があったので輸出事業を始めることにした」と語っていた。しかし、「いい食材があれば購入したい」、つまり「安くて品質のいものがあれば買いたい」というのは誰でも簡単に口にすることであり、引合でも何でもない。仮に、日本の大手飲食業から同じことを言われたら、この企業の社長はおそらく社交辞令程度にしかとらえなかっただろう。ところが、舞台が海外となった途端に、何かおいしい話のように感じてしまうのである。

 別のセミナーで、シンガポールに飲食店を開こうとしている中小企業の話を聞いた。シンガポールに視察に行った社長は、現地の不動産会社から物件を紹介され、ろくに内覧もしないうちに、「今日中にお金を払ってくれたらあなたに売る。だが、今日払ってくれなければ、別の人に売ることが決まっている」と言われた。この機会を逃したらシンガポールにお店を持つことができないと考えた社長は、いつも相談に乗ってもらっていたコンサルタントに電話でこの話を伝えた。当然、コンサルタントは支払いを止めさせようとした。しかし、社長はコンサルタントのアドバイスを振り切って入金してしまった。その後どうなったかは、読者の皆様のご想像にお任せする。

 (8)坂口先生のコンサルティングのスタンスは、中小企業がこういう風にしたいという考えを持っている場合、まずは可能な限りその考えを尊重する。その上で、こういう別の方法もあるがどうかと柔軟に軌道修正するのだそうだ。私もこのやり方には賛成である(昔は私も理想論を振りかざしていたが、最近は止めた。年配の診断士には自分の経験を押しつけるようなアドバイスができない人が少なからずいるようで、中小企業との間でトラブルになることがあると聞く)。

 坂口先生はとても穏やかな方なのだが、稀に中小企業の社長に対して厳しいことを言うことがある。その一例が、ブログ別館「ニアム・オキーフ『あなたは最初の100日間に何をすべきか―成功するリーダー、マネジャーの鉄則』」で書いた中小企業だ。坂口先生とはセミナー後の懇親会でもじっくり話をさせてもらったのだが、坂口先生が厳しく当たったのは、「利益を上げて事業を継続する」という企業側の本源的な目的と、「何か成果を上げて周りの役員にいいところを見せたい」という社長の個人的動機が両立不能だったからである。コンサルタントの仕事は、その企業にとって何が最善かを考えることであり、社長を個人的に満足させるのは二の次である

 《お知らせ》
 誠に勝手ながら、4月は1か月間ブログをお休みさせていただきます。
 5月にまたお会いしましょう!


2015年12月28日

【城北支部国際部オープンセミナー】「中小企業診断士による国際展開支援事例から、支援のありかた、診断士の役割を学ぶ」


global

 私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会 城北支部国際部で、中小企業のグローバル化支援を行っている、または今後行う予定の中小企業診断士向けに、オープンセミナーを開催した。中小企業基盤整備機構(中小機構)で海外展開支援の専門家としてご活躍されている診断士、中小企業と直接的に海外進出支援コンサルティングの契約を結んでいらっしゃる診断士を講師にお招きした。以下、セミナー内容のメモ書き。

 (1)1人目の講師は、中小機構で海外展開支援の専門家を務める診断士であった。中小機構の専門家には大手商社のOBが多く、講師がおっしゃるには「海外に詳しい猛者ばかり」だという(この講師の海外経験は、中国で5年ほどしかないそうだ)。商社OBは海外経験が長いだけあって、現地の法制度やビジネスの仕組みに非常に詳しい。言い換えれば、進出後の”How”に強い。そういう商社OBと差別化を図るために、この講師は進出前の”Why”を大切にしているという。海外進出をしたいという中小企業経営者に対して、講師は次のように理由を掘り下げる。

 経営者:「最近、国内の売上高が減少傾向にあるため、海外に進出しようと思います」
  ⇒講師:「業種、地域、製品・サービス別に売上高の推移を分析しましたか?」
 経営者:「実は、親会社が海外について来いと言っているのです」
  ⇒講師:「親会社はどこまで自社への発注を保証してくれていますか?」
 経営者:「親会社からの発注がなくても、日本ブランドは海外で強く、チャンスだと思います」
  ⇒講師:「最近はインバウンド需要も増加していますが、そちらには対応しないのですか?」
 経営者:「急激に円安になったため、海外に出るなら今しかないと考えています」
  ⇒講師:「では、円高になったら日本に戻ってくるつもりでしょうか?」
 経営者:「本当のことを言うと、海外事業を成功させて自分の求心力を高めたいのです」
  ⇒講師:(やっと本音を話してくれた)

 海外進出の理由について深く切り込んでいくと、実は経営者の個人的な動機に基づいている、というケースは決して少なくない。個人的な動機の有用性を否定するつもりは毛頭ないのだが、個人的な動機だけでは海外事業を成功させることは難しい。まず、個人的動機に基づく海外戦略はいかに脆弱であるかを経営者に認識してもらう。その上で、海外で通用する戦略を経営者と一緒に組み立てていくのが専門家の仕事だという。

 (2)中小機構の海外展開支援は、日本国内における海外戦略立案のフェーズと、現地調査を実施するフェーズに分かれる。以前は、後者のフェーズを重視しすぎていたという。例えば、ベトナムに進出したい中小企業に対しては、北部5か所、南部5か所、計10か所を回るような視察を提案していた。しかし、これでは10か所回ることが目的となってしまい、候補地を効果的に絞り込むことができない。まずは、ベトナム南北のどちらにするか決める。その上で、立地や地盤などの条件を調べて2ケ所ほどに絞り込んでから視察に出かけるべきである(以前の記事「「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(1)(2)」でも似たようなことを書いた)。

 現地調査で最も苦労するのは、現地企業にアポイントを取ることである。中小機構は現地のアドバイザーとパートナー契約を結んでおり、彼らにアポ取りを依頼している。それでも、当日訪問したら担当者がいなかったり、「アポの話を聞いていない」と面会を拒否されたりする。そのため、必ず予備の訪問先を用意しておく。ちなみに、海外に視察に行く場合は、日本大使館や領事館も訪れるとよい。講師によれば、日本大使館などにはそれほど重要な情報はないのだが、「身体検査をして領事に会える」ことに喜びを感じる経営者が多いのだという。

 (3)(2)とも関連するが、1回目のアポイントは中小機構の専門家や現地アドバイザーが取ってくれる。だが、2回目以降のアポイントは自分で取るという姿勢が必要である。あまりに当たり前の話なのだが、これができない中小企業は意外と多い。海外の展示会に出展したある企業は、ブースで現地企業の関係者と名刺交換した後、注文がないことを嘆いていた。しかし、よく話を聞くと、その企業は名刺をもらっただけで、何のフォローもしていなかった。当然のことながら、こちらから電話やメールで連絡を取り、商談のアポイントを取らない限り、絶対に進展はない。

 日本の展示会もそうだが、ブースの前をたまたま通りかかった人に自社製品・サービスを売り込むのは至難の業である。よって、事前にターゲット顧客をリストアップし、展示会の案内状を送付して、ブースに来てもらえるように誘導しなければならない。海外の場合は、中小機構の現地アドバイザーや信用調査会社に現地企業のリストを作ってもらうことが有効である。

 (4)海外に製造子会社を設立すると、日本の工場長クラスが現地法人の社長として派遣される。海外子会社の社長は、日本の工場長とは比べ物にならないほど忙しい。人事・労務管理、総務、経理処理など、製造以外の仕事も行う必要がある。ところが、海外子会社の社長に対し、本社は従来通り工場長として接する傾向がある。すると、OKY問題が発生する。海外子会社の社長からすれば、「OKY=お前、来てやってみろ」と本社に言いたくなるのである。

 本社は、海外子会社の社長の忙しさに配慮しなければならない。本社は、海外の様子が解らないからと言って、海外子会社の社長にいちいち報告させてはならない(報告業務は、本社が想像する以上に現地の負担となっているものだ)。現地のことを知りたければ、本社が現地に出向いて聞きに行くことが大切である。海外子会社の社長を多忙にしないことは、海外子会社の社長が突然の急病で倒れるといった不測の事態を防ぐことにもなる(この話も、以前の記事「「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(1)(2)」で書いた内容に通じるところがある)。

 (5)海外で自社製品・サービスを販売するには、現地のパートナー企業を探し、販売店・代理店契約を締結する。だが、パートナーが見つかれば簡単に製品・サービスが売れるようになると勘違いしている中小企業は少なくない。販売店・代理店の役割は、あくまでも「売れる製品・サービスの拡販」である。「売りにくい製品・サービスを売れるようにする」ことではない。日本の販売店・代理店でさえ、売りにくい製品・サービスを売れるようにしてくれるところは例外的である。

 日本でもできないことを海外で望むのは無謀だ(この話に限らず、日本では難しいことが海外では簡単にできると錯覚してしまうことはよくある)。「売りにくい製品・サービスを売れるようにする」のは、自社の役割である。それでもなお、売りにくい製品・サービスを販売店・代理店に売ってもらいたければ、国内以上の労力と費用をかけて、販売店・代理店を育成する必要がある。

 (6)海外販路開拓においては、海外向けWebサイトの構築が必須である。海外の人は、日本人が思っている以上にWebサイトをよく見ている。Webサイトがない企業とは取引しないと明言する外国人も多い。逆に、日本企業が海外企業と取引する場合には、海外企業のWebサイトがあるからと言って安心してはならない。Webサイトはあるが、Webサイトに書かれている住所にはオフィスがない(つまり、会社としての実体がない)ことがある。こういう詐欺的な企業を見破るには、信用調査会社を活用するのが一手である。

 言うまでもなく、日本と海外では価値観や嗜好が異なるため、海外の事情に配慮しなければならない。例えば、日本では挿絵やイラストを多用するが、欧米人は子どもっぽいと感じて敬遠し、むしろ写真や文章を好む。また、表示言語を切り替えるために国旗のアイコンを並べることがあるが、国旗の侮辱だと受け取る人もいるので要注意だ。Web制作会社を選ぶ際には、単に外国語に翻訳するだけの会社(そういう会社は、たいてい翻訳を外部の翻訳家に丸投げしている)ではなく、外国の事情を考慮して外国用のWebサイトを作ってくれる会社を選ぶべきである。

 (7)2人目の講師は、中小企業と直接的に海外進出支援コンサルティングの契約を結んでいる方であった。最近、「チャイナプラスワン戦略」としてASEAN諸国が注目されている。ASEAN諸国は親日国が多いとされるが、この講師はその見方に疑問を呈していた。人間の欲求は経済成長とともに変わる。10年前の中国人は、勤勉で残業もいとわない、家は狭くても文句は言わない、社宅に冷房をつけると「そのお金を賃金に回してほしい」と申し出るなど、日本人にとって非常にビジネスがしやすい相手であった。だが、現在の中国人は、食堂の食事がまずいと言って暴動を起こす。ASEAN諸国も、経済が成長すればストライキや暴動を起こす可能性がある。

 講師は、中国の13億人の市場はやはり捨てがたいと語っていた。私もこの見解には同意する。世界銀行は毎年、各国のビジネス環境をランキング化しているが、実はASEAN諸国は軒並み中国よりはるかに順位が低い。最近、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の労働コストの安さに惹かれて、この3国への進出を検討する中小企業が増えている。しかし、初めての海外進出のターゲットをCLMに設定するのは、あまりにリスクが高い。まずは、比較的進出しやすく、かつ市場が大きい中国に進出して海外経験を積むというのが定石であるように感じる。

 (8)ブログ別館の記事「下川裕治『本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ』」で、ASEAN各国の人々の特徴について書いたが、講師から教えていただいた情報を追加する。

 ①タイ・・・人前で叱るのはタブーである。特に、人格を否定するような叱り方は絶対にやってはいけない。人格を否定されたタイ人は、仲間と一緒に殺しにやってくる。
 ②ベトナム・・・非常に自意識が過剰で、何でもすぐに「できます」と答える。英語ができるベトナム人を採用しようとして、応募者に「英語はできるか?」と尋ねたところ、「できます」と言ってきた。そこで「英語で自己紹介してください」と言ったら黙り込んでしまった。「英語ができると言ったではないか?」と問い詰めると、「半年後にはできるようになります」と答えたという。
 ③ミャンマー・・・後から序列をつけられるのを嫌がる。ワーカーとして採用した人たちの中から、能力が高い特定の人をリーダーに昇格させようとすると、「私は皆と一緒に働きたいので、ワーカーのままでいい」と言ってくる。それでも無理に昇格させると、昇格したリーダーも、昇格させた人事担当者も、残りのワーカーから嫌われる。リーダークラスを作りたいのであれば、面接の段階から「この人はリーダーにする」と決めておく必要がある。

 (9)ベトナムは建前上サービス業が外資に開放されているが、現在ホーチミンでは飲食店の許認可が下りない。当局の担当者がのらりくらりと処理を引き延ばすうちに担当者が異動になり、新たな担当者と一から交渉をしなければならない。これが繰り返されているのが実情のようだ。この問題はJETROなども認識しており、当局と交渉中だという。

 いわゆる「袖の下」を渡せば許認可が下りるのではないか?という質問が出たが、袖の下を渡しても許認可が下りないらしい。ちなみに、袖の下に関しては、日本人は違法と認識するのに対し、現地の人はそれほど違法だとは思っていない。当局の担当者は、「自分が許認可を与えた、投資奨励策に基づく特典を与えたのだから、その対価をもらってしかるべきだ」と考える。

 別のセミナーで、中国での駐在経験がある講師が、駐在時代に1,000円程度の「交通カード」(昔日本でも使われていたプリペイド型の乗車券)を何枚か常に持ち歩いていた、という話をしてくれた。当局の担当者と交渉する時、書類の間に交通カードをそっと紛れ込ませておく。これだと、袖の下ではないかと指摘を受けても、「うっかり紛れ込んでしまった」とごまかすことができる。




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