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『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』
坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)
坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―採用・給与に関する2つの提言案(前半)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年12月04日

『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』


一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-09-11

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 (1)ファミリービジネスとは、「創業家の一族がその企業の所有または経営に携わる企業」(奥村昭博「ファミリービジネスの理論」)と定義される。日本をはじめ、世界に存在する企業の圧倒的多数はファミリービジネスであるようだ。しかも、日本の上場企業をファミリービジネスと非ファミリービジネスに分けて業績を比較した論文によれば、前者の方に優位性があるという。この傾向は、世界の他の研究とも共通するそうだ(ただし、逆の結果を示す研究もある)。
 Berle and Means(1932)の研究から80年以上たった今日でも、ファミリービジネスは世界にあまねく存在している。ファミリービジネスは、世界中の企業の約3分の2を占め、世界のGDPの70~90%を生み出し、多くの国で50~80%の雇用を創出している。
(淺羽茂「日本のファミリービジネス研究」)
 まず、創業者経営を考察すると、すべての定式化において、圧倒的な業績の優位性を示している。(中略)同じように、創業者経営を除くファミリービジネス(※親族経営、婿養子経営、暫時専門経営者経営、専門経営者経営のこと)の結果を見ると、ファミリービジネスは非ファミリービジネスより平均的に高い業績を示しているという結果になっている。
(ウィワッタナカンタン・ユパナ、沈政郁「ファミリービジネスと戦後の日本経済」)
 ファミリービジネスの方が業績がよい理由として、本号ではプリンシパル―エージェンシー理論、ステュアートシップ理論、資源ベース理論、社会情緒的資源理論などが取り上げられていたが、個人的にはどうも腑に落ちなかった。これらの理論の示唆を乱暴にまとめるならば、「ファミリービジネスは経営者同士、経営者と社員の心理的つながりが強いから、頑張りが利く」ということになる。だが、頑張って成果が上がるならば、理論は何の役割も果たさないことになってしまう。

 言うまでもないが、ファミリービジネスには闇もある。最近では、大韓航空のナッツ事件や、大塚家具の経営陣の対立がファミリービジネスの弊害を表していた。さらに、少しさかのぼって食品偽装問題を起こした数々の企業を見てみると、ファミリービジネスが多いことが解る。ファミリービジネスについて、横軸に企業業績の大きさ、縦軸に企業数をとってグラフ化すると、好業績と低業績の部分に2つの山ができるグラフになるような気がする。このグラフが意味することは、ファミリービジネスの成功要因が、容易に失敗要因に転じやすい、ということである。

 同じようなことは、例えばシリコンバレー発の企業にも言えると思う。シリコンバレーの企業について、横軸に企業業績の大きさ、縦軸に企業数をとってグラフ化すれば、おそらく2山のグラフになる(しかも、低業績の山が非常に高くなる)。シリコンバレーの成功例は非常に華々しいので、どの企業もすぐに真似をしたがる。ところが、その成功要因は同時に失敗要因にもなりうるため、安易に追従すると破滅を招く。多くの企業はGoogle、Apple、Microsoft、Facebook、Amazon、Netflixに憧れる。しかし、これらの企業の模倣によって成功した企業をほとんど聞かない。

 成功要因が成功要因として成り立つのは、母集団をグラフ化した時に正規分布に近いグラフとなり、山の頂点の集団の特徴をルール化した場合であると考える。この点を忘れて、成功事例を表面的に追いかけると、かえって失敗することになるのではないだろうか?

 (2)本号で印象に残ったのは、特集論文よりも、オリンパスのケーススタディであった。オリンパスは世界で初めて胃カメラを発明し、現在では内視鏡の分野において世界でおよそ70%のシェアを誇っている。しかし、開発の道のりは決して平坦ではなかったようだ(山口翔太郎、清水洋「ビジネスケースNo.122 オリンパス 胃カメラとファイバースコープの開発」)。
 初期の胃カメラのコア技術であった光源やレンズ、フィルムにおいては、オリンパスに蓄積されていたカメラの技術をそのまま応用することはできず、宇治(※東大病院分院外科の医師)の要望に1つ1つ応える形で開発が進められたのである。
 あまりの故障の多さと撮影の不確かさから、胃カメラの実用化に対してオリンパス側は悲観的な姿勢を示しており、胃カメラの開発はやめにしようと医師たちに提案したこともあった。しかし、当時立ち遅れていた胃がんの診断を何とかしたいという医師たちの情熱や、社会的な重要性もあり、オリンパスと医師たちは開発を継続した。
 オリンパスの事例を通じて、著者は以下のような分析を行っている。
 実際に事業化を行ったオリンパス側の要因としては、リードユーザーである医師の声に常に耳を傾け続けたことが重要であった。オリンパスの技術者は、医師と情報交換をする場を頻繁に持ち、医師たちがどのような画像であれば診断しやすいか、どのような機器であれば使いやすいか、といったことに関する暗黙的な知識を培ってきた。
 クレイトン・クリステンセンは、「リードユーザーの声を聞きすぎると破壊的イノベーションの台頭を許す」と主張した。だが、破壊的イノベーションは、一定の規模がある市場において、製品・サービスが成熟し、機能過多になっている時に生じる。これに対して、オリンパスが取り組んだのは、確かに潜在ニーズは大きいものの、ニーズに応える具体的製品・サービスがまだ存在しない市場である。この場合は、「顧客の声を聞け」という伝統的なマーケティングの原則が通用する。これは、顧客に密着した製品・サービス開発を得意とする日本企業にとっては朗報である。

 内視鏡に限らず、医療・介護・福祉は潜在ニーズに製品・サービスが十分ついて行っていない分野である。例えば、医療機器の国内売上額は約2.4兆円である(2011年)。生産額は約1.8兆円で、そのうち約0.5兆円は輸出されているから、約1.1兆円が輸入されている計算となる。実に販売額の半分近くが輸入なのである。国内製品ではニーズが満たされないから輸入しているのであって、その意味で医療機器には大きな事業機会があると言える。しかも、これから日本は未曽有の高齢社会に突入するから、日本特有のニーズが次々と生まれてくるのは間違いない。

 よって、顧客に寄り添いきめ細かい製品・サービス開発をする企業が、医療・介護・福祉分野で大きく成長することができると考えられる。高齢化と言うと、経済が停滞するなどと暗い面ばかりが強調されるが、私はもう一度日本企業が成長機会をつかむチャンスを天がくださったのだと理解している。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで知られる坂本光司教授は、儲からないと嘆く中小企業の社長に対して、医療・介護・福祉分野に挑戦せよと発破をかける。
 「なぜあなた方は大企業から依頼された量産品ばかりを造るんですか?なぜ、低価格の部品やコストダウンを求められるような部品ばかりを造るんですか?どうして、たとえば医療とか福祉、介護などの分野の部品やサービスを創らないのですか・・・。この分野は供給不足で、困っている消費者はたくさんいます。私がかつて行った500人の高齢者の方々へのアンケートでは、現在の商品に対する不平、不満ばかりでした。『こういうものがあればすぐにでもほしい』と、喉から手が出るほど欲している商品が山ほどありました。なぜそういう分野に目を向けないのですか?チャレンジしないのですか?」
(坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』[あさ出版、2008年])
日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

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 医療・介護・福祉分野に進出する企業は、「顧客の声に耳を傾けよ」という従来的なマーケティング原則に従えばよい反面、新たに別のルールを引き受ける必要がある。それは、「政治や行政とのリレーションを構築をせよ」というものである。

 医療・介護・福祉分野の製品・サービスは顧客の生命にかかわるものであるから、国や行政が細かく品質や標準を規定する(自動車を思い浮かべれば解りやすい)。国・行政が定めたルールに従うだけでは、事業の自由度が制約される。国・行政のルール策定に企業自らが関わることで、市場を主体的に創造することが可能となる。経営者、特に中小企業の経営者は「政治と付き合うのは苦手だ/ごめんだ」と思うかもしれない。だが、医療・介護・福祉分野に進出する場合は、顧客と同様に政治や行政も大切にする姿勢が不可欠となる。

 決して、「我が社を補助金で守ってほしい」と懇願するためにリレーションを構築するのではない(中には、こういう主張ばかりが上手な経営者がいて、私も困ることがあるのだが)。「国民の生命を守り、生活の質を上げるためにどういうルールを設けるべきか?」という観点から、発展的な議論をしなければならない(国・行政に対しても、ネガティブな規制で企業を縛りつけるのではなく、企業の創造的な取り組みを引き出すようなルールの策定を期待したい)。

2015年06月18日

坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)


日本でいちばん大切にしたい会社2日本でいちばん大切にしたい会社2
坂本 光司

あさ出版 2010-01-21

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 《本書で紹介されている企業》
 株式会社富士メガネ(北海道)
 医療法人鉄蕉会亀田総合病院(千葉県)
 株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」(埼玉県)
 株式会社アールエフ(長野県)
 株式会社樹研工業(愛知県)
 未来工業株式会社(岐阜県)
 ネッツトヨタ南国株式会社(高知県)
 株式会社沖縄教育出版(沖縄県)

 (前回の続き)

 (2)樹研工業(愛知県)と未来工業(岐阜県)の給与体系が特徴的であった。正確に言うと、日本では両社のような制度が当たり前だったのだが、海外から色んな人事給与制度が入ってきたために、両社の制度がかえって異色に見えるようになった。
 現在、同社の最高齢の社員は68歳ですが、樹研工業ではその人が一番給料をもらっているのだそうです。残業手当もつきますが、年齢で決まる本給が9割以上を占めるといいます。

 30年ほど前までは、樹研工業も、評価をして給与に多少差をつけていました。しかしある年、みんながよく働いたのでどうしても差をつけられなかったそうです。そのときは、「今回は評価できないけれど勘弁してくれ。次はちゃんと評価するから」と謝ったのですが、その次もやはり評価できませんでした。それで、今日に至っているのです。
 未来工業の給料は、能力主義や実力主義ではなく、完全な年齢序列です。同じ年齢、同じ役職で差がついたとしても、1年でせいぜいプラス・マイナス20万円ほどだそうです。
 対極にあるのがいわゆる成果主義で、企業の業績に対する各社員の貢献度を特定して給与を算出する。だが、社員の貢献度をどのように測るかがいつも議論の的となる。私も旧ブログでこの問題を部分的に取り上げたが、どうやってもしっくりこないので途中でやめてしまった。

 マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案
 「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案
 個人の貢献度に応じた業績給の算出方法は永遠の課題―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

 成果主義を設計するにあたっては、評価の公平さ・公正さを担保するために、できるだけ多面的な評価指標を取り入れる。しかし、指標をどのように設定しても、社員からは「なぜあの指標は評価対象になっていないのか?」と不満が出る。そして、その不満に真面目に答えていくと、複雑怪奇な給与モデルになってしまい、今度はその複雑さに対して文句が出るようになる。結局のところ、企業の業績を厳密に社員個人の給与に還元することは無理なのである。そういう厄介な問題を回避するために生まれたのが日本的な年功制なのではないか?と思うようになった。

 だから、今後私のもとに給与体系構築のコンサルティングの話が来たら、迷わず年功制を勧めるかもしれない。逆に、過去に業績給を提案したクライアントに対しては、ソリューションが不十分だったとお詫びするしかない(私のように、こういう”寝返り”をするならず者がいるから、世間がコンサルタントに対して抱いている不信感・胡散臭さがいつまでも消えないのかもしれない)。

 成果主義を批判し、年功制の復活を提言した書籍に、高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社、2004年)がある。約10年ぶりに読み返してみた(ちなみに、約10年前のミニ書評>>「【ミニ書評】高橋伸夫著『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』」 10年前はこの程度の文章力だったことを考えると、我ながらこの10年あまりの間によく成長したと思う(笑))。

虚妄の成果主義虚妄の成果主義
高橋 伸夫

日経BP社 2004-01-17

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 人事労務管理の分野では、「動機づけ要因」と「パフォーマンス」の関係に関する研究が盛んである。しかし、両者の間には「関係がある」という立場と「関係がない」という立場があり、見解が錯綜している。議論を整理するためには、「動機づけ要因」と「パフォーマンス」それぞれについて、もっと細かい分類が必要であると著者は指摘する。まず、パフォーマンスについては、ジェームズ・マーチ&ハーバード・サイモンによる、「従業員の意思決定」の分類に従うべきだとする。

 (a)組織に参加するか、あるいは組織を離れるか、という参加の意思決定。
 (b)組織によって要求された率(rate)で生産するか、あるいはそれを拒否するかという生産の意思決定。

 (a)は「退出の意思決定」である。(a)が高いということは、欠勤率や離職率が高くなり、組織のパフォーマンスが低下する。これに対して、(b)は「効率的に生産するかどうかの意思決定」であり、これが高ければ組織のパフォーマンスは向上する。

 次に、動機づけ理論には様々なものがあるが、本書では主にフレデリック・ハーズバーグの「動機づけ要因・衛生要因理論」、ビクター・ブルームの「期待理論」、エドワード・デシの「内発的動機づけ理論」が取り上げられている。

 ハーズバーグの理論は、約200人のエンジニアと経理担当事務員の職務満足度を研究したものである。動機づけ要因としては、「達成すること」、「承認されること」、「仕事そのもの」、「責任」、「昇進」があり、これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではない。一方、衛生要因には、「会社の政策と管理方式」、「監督」、「給与」、「対人関係」、「作業条件」があり、これらが不足すると職務不満足を引き起こすと指摘する。

 簡単にまとめると、動機づけ要因は主に仕事そのものに対する周囲と自己の評価であり、衛生要因は給与をはじめとする職場環境に関する要因である。そして、動機づけ要因は(b)効率的に生産するかどうかの意思決定と関連しており、衛生要因は(a)退出の意思決定と関連している。

 期待理論を構築したブルームは、ハーズバーグの研究に対して懐疑的であった。しかし、結局のところブルーム自身は、期待理論が(a)退出の意思決定と職務満足との間の関係を説明するには有効だが、(b)効率的に生産するかどうかの意思決定と職務満足の間の関係を説明するのには向いていないと、その限界を感じていた。(a)には期待理論=外発的な動機づけ理論が向いているものの、(b)に関しては内発的な動機づけ理論が必要ではないかと予想した。

 ブルームの予想を理論化したものが、デシの内発的動機づけ理論である。人は、仕事に対して「自己決定的」であり、「有能さ」を感じていると、内発的に動機づけられ、生産性が向上する。ここでもう1つ重要なのは、内発的に十分動機づけられている人に対して、外発的報酬である金銭を与えると、内発的動機が挫かれるという点である。だから、生産性を上げるためには、成果と金銭を切り離した方がよい、とデシは結論づける。つまり、成果主義は間違いなのである。

 ここまでの議論をまとめると、以下のような関係になるだろう。

 (a)退出の意思決定←衛生要因、期待理論
 (b)効率的に生産するかどうかの意思決定←動機づけ要因、内発的動機づけ

 衛生要因や期待理論は金銭が中心であるから、「経済的動機づけ」と言い換えることができるだろう。動機づけ要因は内発的動機とイコールのように思えるが、実は「達成すること」、「承認されること」のように、周囲からの評価という外発的な動機も含まれている(「達成すること」が外発的であるのは、単に個人が内心で設定した目標を個人的に達成するだけではなく、組織によって設定された目標を達成し、それを周囲の人から認められることが重要であるためだ)。これに名称をつけるのは難しいが、「社会的動機づけ」とでも呼べるだろうか?

 以上を踏まえると、パフォーマンスと動機づけ要因の関係は、次のようにシンプルになる。

 (a)退出の意思決定←経済的動機づけ
 (b)効率的に生産するかどうかの意思決定←社会的動機づけ、内発的動機づけ

 以前、「人事担当者やマネジャーは内発的動機づけを重視する傾向があるが、金銭的な外発的動機づけを軽視してはならない。試しに、『明日から皆さんの給与をゼロにします』と社員に告げてみるとよい。それでも出社してくる人は果たしてどれだけいるだろうか?」といったことを本ブログで書いたのだが、ちょっと脇が甘かったと反省した。

 金銭的報酬(経済的動機づけ)は、退出の意思決定を軽減する、つまり社員を出社させるには確かに有効である。しかし、ただそれだけのことであり、前述の図式に従えば、仕事の能率を上げ、成果を増やすのには効果がない。とはいえ、人事担当者にとって朗報もある。それは、社員を出社させるには法外な金額を積む必要も、社員によって金額に大きな差をつける必要もない、ということである。だから、日本的な年功制で十分なのである。

 実は、年功制を採用すると、賃金の意味合いも、企業の目的も変わってくる気がする。ここから述べることは、まだ十分に頭の整理がついていないことをあらかじめご容赦いただきたい。一般的には、賃金は仕事(もしくは労働時間)に対する対価と考えられている。また、企業の目的は、ドラッカーが言うように、顧客の創造であるとされる。

 しかし、見方を変えれば、企業とは、社会にとって有益な資本を蓄積する存在である。質の高い生産資本と労働資本を形成し、それらの資本を通じて、人々の生活レベルの向上に資する消費資本(この言葉はあまり適切でないが)(※)を生み出す。ここで、生産資本は地球資源に依存しており、労働資本は家族に依存している点に注意する必要がある。消費資本を大量に生み出そうとすると、生産・労働資本にしわ寄せが行く。具体的には、地球資源が浪費され、家族が犠牲になる。よって、それを防ぐために、企業は3つの資本のバランスを取らなければならない。

 企業が労働資本を蓄積するとは、労働者が自らの能力の維持・向上に投資するだけでなく、労働力を再生産する、つまり子どもを産み育てるのに必要な金銭を提供することである。労働力の維持・向上と再生産に必要な資金は、一般的には労働者の年齢が上がるほど増えていく。よって、企業は年功制を採用する以外に方法がないのである(旧ブログの記事「《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(2.プランニング・スクール)」で、企業が複数の目的を同時に追求するのは無理があるといったことを書いたが、この点は修正が必要かもしれない)。

(※)資本という言葉には、それを元手にして何かを継続的に創出する、という意味合いがある。消費資本とは、それによって顧客に対し継続的に効用を生み出し続ける財のことである。この言葉の意味からすれば、顧客が中長期的に使用・蓄積できる財こそが望ましい財であって、刹那的に消費されるもの、すぐに修理・交換が必要になるものはあまり望ましくない、と言える。

 《2017年4月12日追記》
 出光佐三『人間尊重七十年』(春秋社、2016年)より引用。
 私は開店当初から俸給を発表しなかったのであります。十年間ぐらい発表しなかったのであります。別に理屈もなかったのであります。ただ発表する気持になれなかったのであります。人格を金で評価することのいかに非礼であるか、評価されるほうも嫌だが、第一、評価するほうの心持は、何にも換えられない嫌なものがあります。人間尊重を主義とする私としては、当然の処置だと思います。

 俸給は生活の保障であって店員を待遇する方法ではない。店員を待遇するの道は、仕事を楽しましむることである。その才能に応じて適当の仕事を与えることである。適材を適所に配して、仕事に興味をもたせ、人生を楽しましむることである。俸給の多寡は家庭の事情を標準としたいのであります。妻帯と同時に昇給し、家族手当、住宅手当を支給し、さらに子供手当を支給するのは、この方針から出ているのであります。
人間尊重七十年人間尊重七十年
出光 佐三

春秋社 2016-03-08

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2015年06月17日

坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―採用・給与に関する2つの提言案(前半)


日本でいちばん大切にしたい会社2日本でいちばん大切にしたい会社2
坂本 光司

あさ出版 2010-01-21

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 《本書で紹介されている企業》
 株式会社富士メガネ(北海道)
 医療法人鉄蕉会亀田総合病院(千葉県)
 株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」(埼玉県)
 株式会社アールエフ(長野県)
 株式会社樹研工業(愛知県)
 未来工業株式会社(岐阜県)
 ネッツトヨタ南国株式会社(高知県)
 株式会社沖縄教育出版(沖縄県)

 (1)ネッツトヨタ南国(高知県)は、120分朝礼などで知られる企業だ。同社は新入社員の採用時に、自社の価値観と学生の価値観が合致しているかどうかを確認するのに時間をかける。
 会社案内パンフレットには、「社員の社員による社員のためのルール10カ条」というものが掲載されています。(中略)さらに、「これらのルールは一例です。私たちは新しい発見に感動し、成長する喜びを分かち合い、これからも創造性を大事にします」と付記されています。

 この10カ条で表現されていることの真意を伝えるために、就職希望者との面談時間を多く取るようにしたそうです。大学生の場合で、平均すると1人20時間以上。会社訪問には5回以上来てもらい、実際に働いている社員と次々に合わせ、面談する社員は15名以上にもなったそうです。
 選考基準として、1.人柄、2.価値観、3.人間力とあります。(中略)興味深いのは、採用パンフレットに、「次のタイプの方には向かない職場です」という表現があることです。やはり10項目で、次の通りです。

 「家族を大切にする気持ちがない方」「仲間を大切にできない方」「笑顔のない方」「夢をあきらめた方」「人の話を聴けない方」「人間が嫌いな方」「可能性を信じない方」「自分が嫌いな方」「言われた仕事しかしない方」「会社のためなら何でもやります!というタイプの方」
 人事部が現場の社員を巻き込んで、採用に多くの時間をかける企業としては、例えばグーグルやゴールドマン・サックスなどが有名である。面接回数は10回、面接した社員は20人以上などということもあるらしい。しかし、ネッツトヨタ南国は、社員数133名(2014年10月時点)の中小企業にすぎない。そのネッツトヨタ南国がグーグル並みの採用活動を行っているのだからすごい。

 能力ではなく価値観をベースとした採用に関しては、私も大いに賛成である。最近は新入社員に対しても即戦力を求める企業が増えており、面接官は学生時代にどういう具体的な成果を上げたかを聞きたがる。しかし、学生時代から企業で通用する能力を持っている人など、ごくごく少数派にすぎない。仮にそういう能力を持っていたとしても、言葉は悪いが学生時代というのは、野球で言うところの2軍である。2軍でいくら高い成績を残しても、球団や世間にほとんど評価されないのと同様、学生時代の成果は大した意味を持たない。

 だから、学生は企業がじっくりと育成するしかない。幸い、ピーター・ドラッカーも述べたように、人間の能力は、適切に訓練すればいかようにも発展する伸びしろを持っている。だが、ここで注意しなければならないのは、人事部の人がよく口にする「3年で1人前」という言葉である。

 人事部は、3年でその道のプロフェッショナル人材になることを期待しているらしい。しかし、ちょっと待ってほしい。プロフェッショナルというのは、そんなに簡単になれるものではないはずだ。3年で極められるほどの”簡単な”仕事ならば、早晩人件費の安い国に取って代わられるだろう。人件費の高い日本国内で働く以上は、もっと高度な仕事でプロを目指さなければならない。そういう仕事では、1人前になるまでに10年単位のトレーニングが必要となる。

 企業が10年単位で付き合い、高額な人材育成の投資を続ける対象者としてふさわしいかを判断する基準は、やはりその人の価値観が企業の価値観とマッチしているか、ということ以外にない。最近はあまり聞かなくなったが、日本には「採用は企業との結婚である」という言葉がある。そして、結婚において双方の価値観の合致が決めてであるのと同様に、学生と企業の価値観が一致していることが望ましい。逆に、離婚の主たる理由として双方の価値観の不一致が挙げられると同じで、学生と企業の価値観が一致していなければ、若手社員の離職率が高まる。

 私の知り合いに、金融機関系のシステム開発会社で新卒採用を担当している人事担当者がいる。彼は、それまでの採用プロセスを抜本的に改めて、価値観ベースの採用に切り替えたそうだ。まず、学生が持っている能力の評価をやめた。そして、これが面白いのだが、彼はエントリーシートから志望動機の記入欄を削除した。

 考えてみれば、志望動機というのはほとんど意味がない。企業のことを何も知らない学生に、企業に入って何をしたいかを考えさせたところで、学生には申し訳ないが大したアイデアは出てこない。それに、何がしたいかなどという夢物語は、いくらでもきれいに描くことができる。それこそ、就職活動アドバイザーなる人の入れ知恵で、何とでも語れる。それよりも、企業と学生の価値観が一致しているかという現実的な問題に目を向けたわけである。

 学生がよく利用する「みんなの就職活動日記」というサイトでは、学生が企業各社の採用活動を評価し、満足度をランキング化している。価値観ベースの採用に切り替えた彼の企業は、ランキングが急上昇した。学生からは、「志望動機の欄が消えたことで、将来のことをあれこれと考えなくてもよくなり、気持ちが楽になった」という声もあったという。学生の満足度が上がっただけでなく、彼の企業では入社後3年以内の離職率が激減した。システム開発会社は平均的に離職率が高いのだが、彼は冗談半分で「最近は人が辞めなさすぎて困っている」と言っていた。

 (続く)




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