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GPIF改革と法人減税についてのちょっとした私見

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年08月13日

GPIF改革と法人減税についてのちょっとした私見


 6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014では、企業向けの施策として(1)GPIF改革、(2)法人減税、(3)コーポレートガバナンスの強化(社外取締役の増加など)の3つが掲げられている。このうち、(1)と(2)について私見を述べてみたい。

 (1)GPIF(Government Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本の公的年金の積立金128兆円を運用する世界最大の運用機関である。安倍総理は、GPIF改革を通じて資産配分の変更を行おうとしている。現在、GPIFの資産配分は基本ポートフォリオと呼ばれ、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%となっている。このうち、国内株式の割合を20%に上げようというのが安倍総理の狙いだ。

 これに対しては反対意見も多い。GPIF理事長の三谷隆博氏は、「国債は損しない資産」などと発言して改革に抵抗した(もっとも、最近の三谷氏は、ずっと採用に難色を示してきた株価の新指数「JPX400」を国内株運用に取り入れたり、インフラファンドへの投資を始めたりと、恭順の意を示しているみたいだ)。また、GPIFの前運用委員で『リフレはヤバい』の著者である小幡績氏も、GPIF改革は政治介入であると批判し、国内株式の割合ではなく、むしろ海外投資の割合を高めるべきだと主張している。

 小幡氏によれば、国が日本株式を購入すると宣言してしまえば、外国の投資家がGPIFの動きを先取りして日本株を買いあさり、高値でGPIFに売りつけることが可能となってしまう。結局、GPIFは高値づかみをさせられて、年金制度が大きく傷つけられてしまうというわけだ。

 ノルウェーやカナダの年金は、株式については国内はゼロであり、すべて自国以外に投資しているそうだ。確かに、安定的なリターンを求めるならば、世界中に分散投資するのが最も賢明である。だが、年金という制度の性格上、単に経済性を追求すればよいのか?という疑問が残る。

 すなわち、年金とは自国の高齢者の生活を支えるための制度であり、その資金を海外の経済成長に頼るのはちょっと話が違うのではないか?という気がするのである。GPIFから投資を受けている海外企業や国家にとってみれば、どういう義理があって日本の高齢者の面倒を見なければならないのか、その理由が簡単には見つからないはずだ。やはり、日本の高齢者を支えるのは、日本でなければならない。その意味では、GPIF改革で国内株式の割合を高めることは、個人的にはそれほど不自然ではないと考える。

 (2)現在、企業の課税所得に対する法定実効税率(法人税や住民税、事業税などを加味した税率。以下法人税率)は35.34%である。安倍総理はこれを数年以内に20%台に引き下げることを明言している。2012年度の法人税の申告所得総額は40兆7,635億円、法人税の”理論上”の税収は16.2兆円である。”理論上”と書いたのは、法人税には様々な節税措置があるためで、その節税制度がなかった場合には16.2兆円になる、という意味である。実際の税収は、10.4兆円であった。法人税を1%引き下げると、約4,000億円の税収減になると言われている。

 この税収減を補う新たな税源として検討されているのが「外形標準課税」である。外形標準課税とは、企業の資本金や付加価値など外観から事業規模を客観的に判断できる基準を課税ベースとして税額を算定する課税方式のことである。現在は資本金1億円超の企業に適用されており、資本割と付加価値割の2本から構成されている。

 ・資本割=(資本金+資本積立金)×0.2%
 ・付加価値割=(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益)×0.48%

 この外形標準課税を、資本金1億円以下の中小企業にも適用拡大しようというのが改革の狙いである。当然のことながら、負担が増える中小企業は反対の大合唱だ。日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の中小企業関係4団体は、「赤字法人175万社への影響が甚大」として「断固反対」の立場を表明している。

 個人的には、外形標準課税の導入には賛成である。そもそも企業は、その活動を行うにあたって地方自治体から各種の行政サービスの提供を受けている。それに必要な経費を分担すべきである、というのが外形標準課税の考え方である。日本の中小企業施策は、海外に比べて充実していると言われる。地方自治体はどこも、様々な補助金・助成金や優遇措置を用意している。その原資は、やはり中小企業が公平に負担すべきであろう。「赤字なので税金は納めません、でも行政のサービスは受けたいです」というのでは筋が通らない。

 ただ一方で、法人減税は海外からの投資を呼び込むためのものである、という本来の目的がどうも忘れ去られているような気がしてならない。日本は対外直接投資こそ多いものの、対内直接投資が少ないという特徴がある(日本銀行「わが国対内直接投資の現状と課題」〔2013年7月〕を参照)。法人減税によって日本に進出する外国企業の数を増やし、それらの企業から得られる税収で減税に伴う税収減を補う、というのが本来のストーリーであるはずだ。では、海外からどのくらいの投資を呼び込むのか?それらの企業からはどのくらいの税収が期待できそうか?といった議論は十分に行われたのだろうか?

 また、法人減税には、既に海外に進出している日本企業の国内回帰を促す、という別の意図もある。この点についても、減税によってどのくらいの日本企業が国内回帰をしてくれそうなのか?国内回帰によって税収はどの程度増えそうか?といった検討が不十分な気がする。自民党は法人減税をめぐって、経団連と一体どのような意見のすり合わせをしたのだろうか?


(※)本記事を書くにあたっては以下を参照した。

週刊ダイヤモンド 2014年 6/21号 [雑誌]週刊ダイヤモンド 2014年 6/21号 [雑誌]
ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

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週刊ダイヤモンド2014年7/26号[雑誌]週刊ダイヤモンド2014年7/26号[雑誌]
ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

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