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『一橋ビジネスレビュー』2018年SUM.66巻1号『「新しい働き方」の科学』―「女性活躍推進度診断」(簡易版)を考えてみた
【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年07月06日

『一橋ビジネスレビュー』2018年SUM.66巻1号『「新しい働き方」の科学』―「女性活躍推進度診断」(簡易版)を考えてみた


一橋ビジネスレビュー 2018年SUM.66巻1号一橋ビジネスレビュー 2018年SUM.66巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-06-15

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 本号の特集論文7本のうち、3本が女性活躍推進に関するものであった(山本勲「女性活躍を推進する働き方と企業業績」、横浜国立大学服部研究室「性別役割分業観と女性の昇進意欲」、坂爪洋美「部下の性別による管理者行動の違いと働き方にかかわる人材マネジメントの影響」)。女性活躍推進自体は「ダイバーシティ(多様性)・マネジメント」の一環として、日本でも10年以上前から注目されていたのだが、昨今の働き手不足の問題と、それに伴う政府の「働き方改革」によって、今後ようやく加速していくものと思われる(悲しいことに、外圧がないと自己をなかなか変革できないという、日本人や日本組織の弱みが現れている)。

 本号の特集を受けて、「女性活躍推進度診断」の簡易版を作ってみた。企業で女性社員を積極的に活用するには、「個人の意識」と「組織の環境」の両方が変わる必要がある。「個人の意識」とは、それぞれの社員(特に男性)が女性社員の価値観や能力の違いを尊重・活用しようとする意識のことである。ここで、違いを認識する前提として、自己が何者かということを知っていることが重要となる。つまり、キャリア的に自律していなければならない。よって、「個人の意識」は「キャリア自律」と「多様性の尊重(個人レベル)」という2つの因子から構成される。

 組織のレベルでは、継続就労支援、マネジャーへの女性社員の登用、育児休暇制度の充実、ワーク・ライフ・バランスの確保など、各種施策によって女性社員の活躍のフィールドを広げていくことが不可欠である。ただし、これは必要条件ではあるが十分条件ではない。制度のようなハードを広げても、その制度が根づく組織文化が発達していしなければ、ハードが活かされることはない。したがって、組織レベルにおいても、異性社員の価値観や能力の違いを認識・尊重し、それを前向きに活用しようとする風土が醸成されていることが条件となる。これは組織のソフト面の話であると言える。つまり、「組織の環境」は、「女性活躍推進の取り組み」というハード面と、「多様性の尊重(個人レベル)」というソフト面の2つの因子から構成される。

 以下、「女性活躍推進度診断」の設問文である。全部で24問ある。いずれの設問も、5=よくあてはまる、4=あてはまる、3=どちらとも言えない、2=あまりあてはまらない、1=あてはまらない/知らない、の5段階でご回答いただきたい。

カテゴリ No. 設問 回答
キャリア自律 1 私は、与えられた仕事をこなすだけでなく、自分なりの思い入れやこだわりを持って仕事に打ち込んでいる。 5 4 3 2 1
2 私は、給料や昇進のために仕事をするというようりも、自分の中でやりがいや意義を感じながら仕事に取り組んでいる。 5 4 3 2 1
3 今の仕事を通じて、自分がなりたいと思う姿に近づいているという成長の実感がある。 5 4 3 2 1
4 私は、会社のビジョンや目指している方向性に共感している。 5 4 3 2 1
5 この職場では、それぞれの社員が会社や仕事に対する共通の思いを持って働いていると思う。 5 4 3 2 1
6 私は、この会社に魅力を感じており、会社とともに成長していきたいと思う。 5 4 3 2 1
多様性の尊重(個人レベル) 7 私は、男性社員と女性社員の考え方や価値観の違いを認識している。 5 4 3 2 1
8 私は、自分にはない異性社員の考え方や価値観をオープンに受け入れている。 5 4 3 2 1
9 私は、自分にはない異性社員の特性を活かそうとしている。 5 4 3 2 1
10 私は、社内の重要な仕事において、異性社員と対等な立場で協業した経験がある。 5 4 3 2 1
11 私は、異性社員との協業により、同性社員だけでは生み出し得ない成果を出している。 5 4 3 2 1
12 異性社員と対等な立場で、それぞれの力を発揮しながら、協調して成果を出したことが、自分のキャリア上の重要な経験になっている。 5 4 3 2 1
女性活躍推進の取り組み 13 この会社では、これまで女性が少なかった職種において、実際に女性の採用数が増加している。 5 4 3 2 1
14 この会社では、ジョブ・ローテーションや職種転換などによって、実際に女性が配置されている職場が増加している。 5 4 3 2 1
15 この会社では、管理職に女性社員を積極的に登用しようとして、実際に女性の管理職が増加している。 5 4 3 2 1
16 この会社では、これまで女性の受講者が少なかった研修に参加する女性が実際に増加している。 5 4 3 2 1
17 この会社では、女性のワークライフバランスを促進する制度(短時間勤務制度、在宅勤務制度など)が女性社員に積極的に活用されている。 5 4 3 2 1
18 この会社では、女性も男性と同程度の成果・パフォーマンスを出せば、実際に男性と同等に評価されている。 5 4 3 2 1
多様性の尊重(組織レベル) 19 この職場では、男性社員と女性社員の考え方や価値観の違いが認識されている。 5 4 3 2 1
20 この職場には、男性社員・女性社員の区別なく一人ひとりの考え方や価値観を大切にしようとする雰囲気がある。 5 4 3 2 1
21 この職場は、男性社員と女性社員それぞれの特性を活かそうとしている。 5 4 3 2 1
22 この職場では、社内の重要な仕事には男性社員と女性社員の双方が対等な立場で参加している。 5 4 3 2 1
23 この職場では、男性社員と女性社員がそれぞれの特性を発揮し、協調しながら成果を出している。 5 4 3 2 1
24 男性社員と女性社員が対等な立場で、それぞれの力を発揮しながら、協調して成果を出すことが、この会社の強みになっている。 5 4 3 2 1


女性活推進

 回答が終わったら、まずは「個人の意識」に該当するNo.1~12の平均点と、「組織の環境」に該当するNo.13~24の平均点を算出する。そして、上図の左側のマトリクス上にその平均点をプロットし、自社がどの象限に位置するのかを判定する。「個人の意識」、「組織の環境」の平均点がともに中央値である3以上であれば、女性活躍推進が実現している理想型となる。「個人の意識」の平均点のみ3点以上の場合は、社員個人の意識が先行して、組織の整備が追いついていないパターン、逆に「組織の環境」の平均点のみ3点以上の場合は、組織の整備が先行して社員個人の意識が追いついていないパターンとなる。「個人の意識」、「組織の環境」ともに平均点が3点未満の場合は、女性活躍推進で後れを取っていると言わざるを得ない。

 さらに、「個人の意識」は「キャリア自律」と「多様性の尊重(個人レベル)」から構成される。そこで、No.1~6(キャリア自律)の平均点とNo.7~12(多様性の尊重(個人レベル))の平均点を算出し、上図の右上のマトリクス上にその平均点をプロットする。「キャリア自律」、「多様性の尊重(個人レベル)」の平均点がともに3点以上であれば、自己意識と他者に対する意識のバランスが取れている理想型となる。だが、前述の通り、「キャリア自律」は「多様性の尊重(個人レベル)」の前提であるから、多くの企業は、「キャリア自律」の平均点のみが3点以上で、社員個人のキャリア意識が先行すると思われる。とはいえ、中には「多様性の尊重(個人レベル)」の平均点のみが3点以上という、他者に対する意識が先行する企業もあるだろう。「キャリア自律」、「多様性の尊重(個人レベル)」ともに平均点が3点未満の場合は、社員の意識が停滞している。

 「組織の環境」は「女性活躍推進の取り組み」というハード面と「多様性の尊重(組織レベル)」というソフト面から構成される。そこで、No.13~18(女性活躍推進の取り組み)の平均点とNo.19~24(多様性の尊重(組織レベル))の平均点を算出し、上図の右下のマトリクス上にその平均点をプロットする。「女性活躍推進の取り組み」、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点がともに3点以上であれば、ハードとソフトのバランスが取れている理想型となる。だが、多くの企業ではまずはハードの整備から着手するから、「女性活躍推進の取り組み」の平均点のみ3点以上というパターンが多いと思われる。とはいえ、ベンチャー企業のように、制度は整っていないが、多様な社員の受け入れに初めから抵抗がない企業では、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点のみが3点以上ということもあるだろう。「女性活躍推進の取り組み」、「多様性の尊重(組織レベル)」の平均点がともに3点未満の場合は、組織に大きな課題がある。

 上記の診断を一定の社員数に受けてもらい、結果を集計すると、女性活躍推進をめぐる自社の課題が見えてくるだろう。さらに、男性社員と女性社員、管理職と非管理職で分けて集計したり、社員の年代別、部門別に集計したりすれば、より細かく認識の差を抽出できる。例えば、管理職は我が社では女性社員の違いを受け入れる文化が醸成されていると考えているのに対し、非管理職はそのような文化の存在を否定しているといったケースは容易に想像できる。

 ここからは、女性社員の活用をめぐって企業が直面する課題について、私見を述べてみたいと思う。最近でこそ出産・育児後に復帰する女性社員が増えているものの、それでもまだまだ出産・育児を機に退職を余儀なくされる女性社員は圧倒的に多い。企業側の理屈は、女性社員は出産・育児によってブランクができると、その間に能力が低下してしまうというものである。だが、果たして能力はそんなに簡単に下がるものなのだろうか?

 日本企業はゼネラリストを育成する傾向が強く、様々な部門の業務を経験して、多様な能力を身につけさせようとする。そして、優れたゼネラリストが経営者となっていく。しかし、経営者になる頃には、20代・30代からは随分と時間が経過している。それでも、20代・30代で身につけた能力がゼネラリストとしては重要なのである。ということは、20代・30代の能力は衰えていないと言っているに等しい。経営陣に関しては、習得から数十年経った能力でも重宝されるのに、女性社員の能力はわずか2~3年のブランクで否定されるのは、明らかな矛盾である。

 もう1つの課題は、昇進をめぐるものである。多くの企業では、女性社員が出産・育児で休職している間は、業績評価をしない。仕事をしていないのだから、業績評価をしないのは当然と言われるかもしれない。だが、以前の記事「比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた」で示した例によると、例えば職能Level4に昇格するためには「Level3時代の5年以内の評価ポイントが15(年平均3)以上」となっており、Level4に昇格することが課長に昇進するための条件になっている。ここで、Level3で3年勤務し、9ポイントを獲得した女性社員が出産・育児をきっかけに2年間休職したとする。すると、Level3時代の5年以内に15ポイントを獲得することは不可能になり、課長に昇進する道が絶たれる。休職している間は通算勤務期間に入れないという方法もあるが、その場合には、女性社員の昇進は必ず男性社員よりも遅れてしまう。

 ここで、私は、女性社員が休職している間に、疑似的に業績評価を行うという方法を提案したい。具体的には、休職期間中であっても、業績評価は例えば平均点の3を自動的に与える。そうすると、休職を理由に女性社員が昇進で遅れるケースが減る。これを不平等な処遇だと批判する人は必ずいるだろう。だが、本ブログで何度も書いているように、人事制度を完全に平等に設計することは不可能である。それに、子どもを育てている女性社員は、人口減少社会において貴重な国民を育てるという大仕事をしている。そういう表現が敬遠されるのであれば、子どもを育てている女性社員は、将来市場に出てくる潜在的な顧客候補を育てていると言ってもよい。つまり、子どもを育てることは、企業の業績に立派に貢献しているのである。

 やや話が逸れるが、この話を拡張すると、介護休暇を取っている社員についても、同じように自動的・疑似的な業績評価を行うべきだということになる。現在、介護離職が大きな問題になっている。仮に再就職できたとしても、前職よりも大幅な年収ダウンになるケースは枚挙にいとまがない。だが、自動的・疑似的な業績評価を行えば、その社員は退職する必要もなく、これまで積み上げてきた年収を失うこともなく、さらに昇進の可能性も残される。それを正当化するとすれば、その社員は介護によって親の健康状態を保っており、高齢者市場の維持に貢献していると言える。これもまた、子育てと同じくらい重要な仕事であると私は考える。

2017年12月02日

【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)


カウンセリング

 厚生労働省が主催する「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

 《参考記事》
 【人材育成】能力開発はジグソーパズル、キャリア開発はレゴの組み立て
 『人材育成(DHBR2017年4月号)』―人事考課は不要かと聞かれれば「それでも必要だ」と私は答える、他
 『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他
 DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性
 『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案

 1.基調講演「セルフ・キャリアドック導入について」(慶応義塾大学名誉教授 花田光世氏)
 ・2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 ・企業は上記の法改正に伴い、キャリアコンサルティングの内容を「セルフ・キャリアドック」という施策を通じて具体化しなければならない。セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、またそのための企業内の仕組みのことである。

 ここで1つ注意しなければならないのは、法律ではキャリアコンサルティングを「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義しており、文字通りに読めば従来の面談型の支援が想定されるところだが、セルフ・キャリアドックではキャリアコンサルティング面談に加えて「キャリア研修」を組み合わせることが要請されているという点である。この「キャリア研修」は、法律の「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」という文言に広く包摂されると解釈するのが適切である。キャリア研修では、従業員の仕事・人生に対する姿勢・意欲・マインド・価値観の棚卸しを行う(自己理解)とともに、現在および近い将来に、従業員が担当している、または今後担当する可能性のある仕事において、顧客や組織、上司、同僚や部下などから期待・要請されている役割を理解する(仕事理解)ことを通じて、従業員の中長期的なキャリアビジョンのデザインを支援する。

 ・最近の人事のトレンドをまとめると以下のようになる。
 ①アメリカのASTD(American Society for Training and Development)が、ATD(Association for Talent Development)へと改称した。これは、TrainingよりもDevelopmentを重視する姿勢を表している。つまり、企業が必要とするスキルの訓練から、個々人が持つ多様な力の発揮へと視点がシフトしている。

 ②GE、Google、GAPといった企業で、従来型目標管理のウェイトを抑え、自律型の個人の評価を重視する傾向が見られる。従来型の目標管理制度では、伝統的な職務分析を通じてグレーディング、レーティングを細かく設定していた。しかし、グレーディングなどを適用しやすいのは補助業務や定型業務であり、近年増加している非定型業務、判断企画業務には適用が困難である。これらの業務は同一職務同一賃金にも馴染みにくく、企業は従業員の持ち味を生かしたキャリアコンピテンシー、エンプロイヤビリティ、人間力の開発を支援するのが望ましい。これを従来のOJT(On the Job Training)に対して、OJD(On the Job Development)と呼ぶ。

 GEでは、グレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 ③国は、2024年度末までに、キャリアコンサルタントを10万人養成する計画を示している。ちなみに、2025年は65歳完全定年制が義務化される年である。花田氏は、これは70歳までの雇用延長の始まりになると推測している。現在52歳の人は、2025年には60歳となるが、65歳完全定年制の義務化により65歳まで働くことになる。そして、彼らが65歳となる2030年には、おそらく70歳まで雇用が延長される。さらに、彼らが70歳になる2035年には、定年制が完全に廃止されるか、75歳+αまで雇用延長されると花田氏は予測している。そのため、シニアが自らのキャリアを主体的に開発することが重要である。同時に、若手・中堅の従業員も、非常に長いキャリアをデザインすることが要求される。企業には管理職が不足しており、今後は大卒非管理職がマジョリティとなる。彼らのモチベーションをいかにして上げるかも問題となる。

 私自身は、冒頭の参考記事でも書いたように、日本的な年功制の給与制度と昇進制度を今でも支持している。そして、将来の日本の人口動態を見ると、20代の若者を底辺とし、60代を頂点とする従来型のピラミッドと、40~50代のミドルを底辺とし70~80代のシニアを頂点とする新しいピラミッドが登場すると考えている。従来型の組織で昇進の見込みがなくなった社員は、新しく登場するミドル・シニア人材中心のピラミッドへと移行していく。企業は、40~50代で新しく起業する人材を支援する基金を共同で設立するとよい。また、新しいピラミッドに転職するミドル・シニア人材の当面の生活費をカバーする新しい保険制度を企業が合同で整備するのも一手である。

 ④企業に課された新たな義務のうち、「その他の援助」としては、企業が従来行ってきた各種施策を応用することが想定されている。具体的には、キャリア健診やモラルサーベイ、組織開発や職場ぐるみ訓練、OJT、360度評価やフィードバックなどである。一方、キャリアコンサルタントには、前述のキャリア研修の実施に加えて、キャリアコンサルティング面談などを通じて得られた情報を総合的に分析し、守秘義務に配慮しつつも、従業員の職業設計、能力開発にとって障害となる組織的課題を全体報告として経営陣に報告する役割が期待されている。言い換えれば、企業は従来組織的な視点から行ってきた施策を個の視点で、キャリアコンサルタントは従来個の視点から行ってきた活動を組織の視点で再編成する必要があるということである。

 私は、キャリアコンサルタントには組織的な課題を解決する以上の役割が求められるようになると考えている。冒頭の参考記事で書いた通り、今企業は内部環境アプローチによる戦略立案を必要としている。具体的には、社員の能力や価値観を十二分に活用した場合にどのような戦略があり得るのかを検討するというアプローチである。社員の能力は人事部が一応把握しているが、ややもすると効率的な処理を優先するあまり、抽象的なレベルでの把握にとどまっていることが多い。そこで、キャリアコンサルタントが社員の生の声に接することで得られるリアリティの高い情報、企業の枠組みに収まりきらない情報を丹念に拾い上げ、それらを編み込むことで新たな戦略機会を模索する。キャリアコンサルタントは戦略コンサルタントにもなるだろう。

 2.モデル企業事例発表「セルフ・キャリアドック導入の効果について」
 <サントリーホールディングス株式会社>
 (ヒューマンリソース本部キャリア開発部長兼キャリアサポート室長 斎藤誠二氏
 ヒューマンリソース本部キャリア開発部キャリアサポート室課長 光延千佳氏)
 ・創業者の「やってみなはれ」の精神を人材育成ビジョンにも反映させ、「世界で最も人材が育つ会社に」という人材育成ビジョンをイントラネットに掲載している。従業員1人1人が自らのキャリアオーナーとなるべきことを説き、1人1人の意欲こそが企業の成長エンジンであり、そのために成長の節目で企業側からの働きかけを行うことを宣言している。この人材育成ビジョンの実現に向けて、「サントリー大学」という教育研修体系を整備している。階層別研修とキャリアワークショップの2本立てである。前者は企業の環境・戦略の変化に伴って内容も変化するだろうが、後者については、やり方は変わったとしても、本質的な部分は変わらないはずである。

 ・2006年にキャリアワークショップ「プロフェッショナル」(38~49歳が対象)を試験的に開始した。その後2007年にキャリアサポート室が立ち上がり、「チャレンジ」(入社11年目)が追加された。2013年には65歳までの定年延長に伴い、「キャリアドック53」、「キャリアドック58」を新設した。この過程で、「ミドル(45~50歳G1(課長)層)」への支援が手薄であったことから、今回のセルフ・キャリアドックではこの層を対象とすることにした。ワークショップの目的は、①ミドルマネジャー自身がキャリアビジョンを描くステップを理解すること、②自部署のメンバーが多様なキャリアビジョンを描くことを支援できるよう、メンバーのキャリア開発やメンバー育成力を学ぶことの2つである。サントリーでは、年5~6回の面談が行われており、少なくとも年1回はキャリア面談を実施することとなっているが、課長層は部下のキャリア面談をどのように行えばよいのか解らないという悩みを抱えていた。そこで、目的②が追加された。

 キャリアワークショップの実施後、参加者からはメンバーとのコミュニケーションが円滑になったという声が聞かれた。部下の価値観は何なのか、中長期的にどのようなビジネスパーソンになりたいのか、という視点でメンバーと会話ができるようになった。キャリアワークショップの実施から2~3か月後に参加者のフォローアップ面談を行っているが、様々な部署でメンバーに対する自発的なキャリア開発の支援が行われていることが判明した。

 ・国内1.2万人の従業員を対象に、毎年1回モラルサーベイを実施し、時系列で結果を比較したり、全社・事業部別・子会社別に分析したりして、従業員の元気と組織の生産性の関係をウォッチしている。ただ、サーベイの結果だけを見ているわけではなく、日々の肌感覚も重視している。両者が乖離していると感じる場合には、キャリア開発部が現場に介入し、実態の解明に乗り出すことがある。また、元気がないと感じている現場は自発的にMBTIやコーチングを実施したいと申し出てくるため、キャリア開発部が実施のサポートをしている。

 ・上司の「やってみなはれ」は、部下の「見てくんなはれ」とセットである。しかし、最近は部下の「見てくんなはれ」を許容せず、全部自分でやってしまう上司が多い。そうすると、人が育つ会社にはならない。「見てくんなはれ」をもっと許容しなければならない。企業の方向性と個人のキャリアのうち、後者を少し優先させる企業がよい企業である。

 <株式会社平井料理システム>
 (代表取締役 平井利彦氏
 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師 宮地夕紀子氏)
 ・平井料理システムは、香川県に本社を置き、四国・中国地方に23店舗を展開する飲食店である。香川県の人口は98万人しかいないため、売上高を伸ばすためには、同じ顧客に何度も来店してもらう必要がある。ただ、同じお店では飽きられてしまうから、多業態の飲食店を展開している。売上高は約17億円である。同社は「いいオトナに、なろう。」を会社のスローガンとしている。同社の従業員のほとんどが中途採用であると同時に、協力雇用主制度に協力して犯罪歴のある人を受け入れたり、障害者を採用したりしている。一言で言えば「ヤンチャ者の集まり」である。だから、「いいオトナに、なろう。」を目標にしている。

 ・現在、マネジメント人材である店長の育成が急務となっている。女性店長が不在であり、特に女性従業員のマネジメント能力開発、キャリア形成支援、離職防止が課題である。これらの課題に取り組むために、セルフ・キャリアドックを実施した。対象は女性正社員7名(2名が現場、5名が事務)、女性パート・アルバイト10名(8名が現場、2名が事務)の計17名である。キャリアコンサルティング面談は、宮地氏にお願いした。

 ・キャリアコンサルティング面談においては、最初から「キャリア」、「成長」という言葉を使うのではなく、「今どんな仕事をしているのか?」、「いつもどんなことを考えているのか?」といった話から入っていった。すると、「子育てが終わったら長い時間働きたい、夜のシフトにも入りたい」などの意見がポツリポツリと出てくるので、そこからキャリアの話に展開させていった。相談内容には次のような傾向が見られ、それに対し宮地氏は以下のような解決策を提案した。
 -営業時間中はお客様対応が第一優先であり、教育的なやり取りは困難になっている。
 ⇒別途、営業時間外に店長・スタッフ間で振り返り・フィードバックを実施する。
 -加齢による体力の低下への不安。
 ⇒30~40代のスタッフが多いため、積極的かつ日常的な体力づくり、および健康維持・向上に向けての教育意識啓発を行う。
 -パート・アルバイトという立場ゆえ、正社員でない自分が意見を言うのははばかられる。
 ⇒多様な雇用形態の従業員を巻き込んだ各店舗/店舗横断型のプロジェクトを展開する。

 ・キャリアコンサルティング面談実施後のアンケートを見ると、多忙な業務の中でも継続的に学習し続けることの重要さに気づいた、毎日の仕事の中で自分の成長につながるチャンスの獲得に向けて頑張りたいという気持ちを持つようになった、などの声が聞かれた。また、今までは1人で悩んでそのまま退職してしまうケースが多かったが(愛媛、徳島、岡山などでは1人しかいない店舗もある)、セルフ・キャリアドック後には、「周囲に言えば解ってもらえる」という意識が従業員に芽生えた。例えば、何か困りごとがあると事務所に電話がかかってきたり、同僚の女性に連絡が入ったりする。また、女性会議も開催されている。

 ・セルフ・キャリアドックの副次効果なのかもしれないが、育児休暇を取得する男性従業員が増えた。今までに5~6人が取得している。3日~2週間程度の休暇を申請するケースが大半である。会社全体として見ても、有給休暇を取得する従業員の数が増えている。前述の通り、様々な事情を抱えた従業員が働いているため、会社の仕組みに従業員を合わせるのではなく、従業員に会社が合わせることが重要である。そのためには、従業員から声を上げてもらう必要があり、会社はそのための環境を整備しなければならない。




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