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『世界』2018年10月号『安全神話、ふたたび/沖縄 持続する意志』―辺野古基地が米中のプロレスで対中戦略から外れたら沖縄は「他国の紛争に加担しない権利」を主張してよい
『中国の尖閣暴挙!日本よ覚悟はあるか(『正論』2016年8月号)』―沖縄県民は米軍基地を追い出したら中国が基地を作ることを理解しているのか?

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年09月28日

『世界』2018年10月号『安全神話、ふたたび/沖縄 持続する意志』―辺野古基地が米中のプロレスで対中戦略から外れたら沖縄は「他国の紛争に加担しない権利」を主張してよい


世界 2018年 10 月号 [雑誌]世界 2018年 10 月号 [雑誌]

岩波書店 2018-09-07

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 反原発、反辺野古の特集である。原発に関しては、2008年3月の段階で、地震調査研究推進本部が長期評価によって、15m級の津波が福島原発を襲う可能性があることを指摘していたにもかかわらず、当時の東京電力の経営陣が土木学会にさらなる検証を求めるとともに、2009年6月末に設定されていた保安院のバックチェック(このチェックを通らないと原発の稼働を継続できない)の締め切りを骨抜きにするために、保安院や原子力安全委員会に圧力をかけていたという記事があった(海渡雄一「原発事故の責任は明らかにされつつある」)。

 また、辺野古基地についても、まず活断層があるため、基地には適さないという主張がある。さらに、ケーソン護岸(防波堤のこと)を建設する地盤が極めて脆弱で、仮に基礎地盤改良工事やケーソン護岸の構造変更が必要になると、これは埋立承認願書の「設計の概要」の変更に該当するから、公有水面埋立法に基づく知事の承認が条件となり、知事がNOと言えばその時点で工事は頓挫するという(北上田毅「マヨネーズなみの地盤の上に軍事基地?」)

 本ブログでこれまでも書いてきたように、日本は多重階層社会である。それをラフスケッチするならば、「神⇒天皇⇒立法府⇒行政府⇒市場/社会⇒企業/NPO⇒学校⇒家庭」となる。下の階層は上の階層に唯々諾々と従うのではなく、しばしば上の階層に対して諫言することが許される。決して、上の階層を打倒するのが目的ではなく、上の階層の仕事を充実させ、もって下の階層の自由や裁量を拡大することが目的である。これを私は、カギ括弧つきの「下剋上」と呼んでいる。「下剋上」がある場合、最上位の階層の権力が最下層の隅々にまで、何の疑いもなく行き渡るということはない。「下剋上」によって、階層社会の各所で絶妙な調整がなされる。個別に見れば部分最適にすぎないのだが、それらが集合すると社会全体が漸次的に進歩する。これが日本社会の特徴であり、私は権力主義と区別して、「穏健な権威主義」と命名する。

 これが日本国内で完結していれば問題ないのだが、アメリカが絡んでくると話が違ってくる。アメリカは神よりも上位に位置づけられる。そして、アメリカが最上位で絶対的な権力を握っている場合は、「下剋上」は機能しなくなる。「辺野古基地移転は唯一の解である」、「原発再稼働は唯一の解である」(これは自民党ではなく、旧民主党の野田元首相の言葉である)という言説の裏には、アメリカから強い圧力を受けて思考停止に陥っている日本人の姿がある。

 米軍基地に関してはアメリカの意向が強く働いていることは容易に想像がつく。原発については色々と言われていて、

 ①公的には核兵器を持たないことを表明している日本は、非核国家の中で最大量の分離プルトニウムを抱え込んでいるが、仮に原発停止にもかかわらず六ケ所処理工場で使用済み核燃料の再処理を続ければ、世界中の核開発能力のある国々に誤ったメッセージ(「日本は秘密裏に核兵器を開発しているのではないか?」という疑念)を送ることになる。

 ②日本がもし原電を放棄すれば、日立製作所―GE、東芝―ウエスティングハウス連合によって支えられているアメリカの原子力産業が原発を世界中に輸出するという計画に狂いが生じ、近年原発の開発に注力し、アジアやアフリカに原発を輸出しまくろうとしている中国やロシアの原子力技術すなわち核技術が、いずれ日本やフランスを抜くことを危惧している。

 ③とはいえ、世界的に軍縮と核兵器廃絶が進行している現在では、核の平和的利用である原発を積極的に推進する理由がなく、IAEA(「アメリカの犬」と言われている)は原発を普及させながら核不拡散のための監視体制を強化するという難事業を抱え込んでおり、そのために多大な資金を必要としている。一方で、当のアメリカでは、シェールガス革命と再生可能エネルギーの普及、廃棄物処理計画の見直しと規制基準の刷新という節目を迎え、稼働中の原発以外は凍結状態で今後は尻すぼみが予想され、GEは既に主力を火力と再生可能エネルギーに切り替えた(東芝と組んだウエスティングハウスは経営が崩壊していたのは周知の通り)。そこで、IAEAの資金源として期待されているのが、日本の原発による電気料金である。まず、日本の原発ムラが電気料金を吸い上げ、それを世界の原発マフィアが吸い上げる。

などといった形でアメリカからの圧力を受けている。

 辺野古基地は、中国が虎視眈々と狙っている尖閣諸島を含む第一列島線を防衛するための基地である。中国は、尖閣諸島の奪取時期について、2020年まで、または2020年から10年の間、あるいは2035年から2040年代にかけて、といくつかの目標を立てている。一方、米海兵隊が「航空計画2016」の中で示した辺野古基地の主要施設の工程によると、滑走路着工が2024年度とされる一方で、2026年度以降の計画は明らかではない。住民による反対運動、先ほど一例として挙げたケーソン護岸の設計上の問題などによって、計画から少なくとも3年は遅れていると言われる。だが、米海兵隊の計画の中で、普天間基地の返還が2025年度以降となっている点を見ると、2020年代後半には辺野古基地を完成させたいところだろう。

 仮に中国が2020年までに尖閣諸島を奪取するのであれば、アメリカは日本の尻を叩いて、尖閣諸島の防衛には使えない基地を一生懸命建設しているという非常にバカバカしい話になる。では、中国が2020年から10年の間に奪取する計画であるとすると、アメリカ側も辺野古基地の完成時期を2020年代後半と見ているわけで、攻撃と防御の時期がほぼ一致する(※1)。これではまるで八百長試合である。なお、最後の2035年から2040年代にかけて奪取するというプランであるが、中国の最終目標は、建国100年にあたる2049年までに世界の覇権を取り、アメリカを第二列島線より東側に閉じ込め、太平洋をアメリカと中国で二分することである。尖閣諸島は中国が太平洋に進出するための第一歩であるが、その第一歩が2035年から2040年代では、絶対に最終目標に間に合わない。よって、3番目の計画は現実味がないと考える。

 (※1)中国が尖閣諸島を奪取するのは2020年からの10年間と予測するのは、この後にも出てくるアメリカのシンクタンク「プロジェクト2049研究所」である。同シンクタンクが発表した報告書には、「共産党政権取得100周年の2049年は1つの節目。2030年からは約20年の時間がある。20年間も経てば、国際社会からの非難が弱まるだろう」と中国の声を代弁しており、中国は最も遅くても2030年には尖閣諸島を奪取したいと考えているようである。ということは、尖閣諸島奪取の現実的な目標時期は2020年代後半に設定されている可能性が高い。

 要するに、中国には本気で尖閣諸島を奪取する気がないのではないかというのが最近の私の考えである。そもそも、もしも中国が真剣にアメリカから覇権を奪い取る気であれば、「100年戦略」の中身をマイケル・ピルズベリーに『China 2049』ですっぱ抜かれたり、アメリカのシンクタンク「プロジェクト2049研究所」によって、中国が台湾に侵攻する時期(2020年まで)や尖閣諸島を奪取する時期(2020年からの10年間)を特定されたりはしないだろう。普通は、そういう情報は何が何でも絶対に秘密にし、裏で軍事力を拡充して、ある日突然アメリカに攻撃を仕掛ける。秘密情報をリークしそうな人物や組織があれば、中国が国家の威信にかけて全力で潰すものである。ところが、今の中国がやっているのはそれとは逆であり、当然のことながらアメリカは対抗策を講じてくる。言い換えれば、中国がやっているのはアメリカとのプロレスである。

 もう少し具体的に言えば、本ブログでも何度か書いたように、二項対立的な関係にある2つの大国は、本当に武力衝突をすると壊滅的な被害を被るため、それを避けるためのメカニズムを持っている。すなわち、2つの大国が二項対立の関係にあると同時に、それぞれの大国の内部にも二項対立が存在する。アメリカは反中派と親中派、中国は反米派と親米派を抱えている。表向きは反中派と反米派が激しく争っているものの、実は裏では親中派と親米派が手を握っている。これにより、両大国が正面衝突するリスクを下げている。

 辺野古基地について言えば、表向きはアメリカの反中派がその建設を進め、中国の反米派が沖縄の市民を動かして建設に反対しているという構図である。しかし、ここからは大胆な推測だが、実は既に親中派と親米派の間で何らかの約束が結ばれているのではないかと考える。それは、アメリカが中国に対して、「東シナ海は中国にやる。その代わり何かよこせ」と主張するものかもしれないし、中国がアメリカに対して、「尖閣諸島は取らない。その代わり何かよこせ」と主張するものかもしれない(「何かよこせ」の「何か」が具体的に何であるかは、私の想像力不足ゆえに書くことができない)。重要なのは、いずれの約束が成立した場合であっても、辺野古基地はもはや中国を刺激することはできないということである。したがって、辺野古基地は、米軍が世界中の戦争・紛争に関与するための一中継地点という位置づけに変質する(※2)。

 (※2)普天間基地から辺野古基地に移設されるのは海兵隊のみであり、私が本記事で予測したのとは違って、やはり中国が本当に尖閣諸島を狙ってくる場合、辺野古基地の海兵隊は動かず、尖閣諸島を防衛するのは海上自衛隊の役割であるという指摘がある。一方で、辺野古基地は普天間基地の代替滑走路に加えて、弾薬庫や大型港湾施設、弾薬搭載エリアを有しており、普天間基地からの機能縮小どころか機能拡大になっているとも言われる。それゆえ、翁長前沖縄県知事は、辺野古基地のことを辺野古”新”基地と呼んだ。

 「原発再稼働は唯一の解である」という言説に対しては、再生可能エネルギーや水素エネルギーといった新たなエネルギーが提示されている。前述の通り、日本に対して原発を維持するよう圧力をかけているアメリカ国内ですら、再生可能エネルギーが推進されている。再生可能エネルギー、すなわち太陽光、風力、波力・潮力、流水・潮汐、地熱、バイオマスなどを資源をとするエネルギー、さらに水素エネルギーのうち、どれが次世代の主役になるのかは、現時点では全く見えていない。これも私の大胆な予測なのだが、実は次世代エネルギーの柱となるのは、これらのうちいずれでもない可能性があるということである。

 歴史を振り返ってみると、人類は何度かエネルギー革命を経験している。最も古いのは今から約50万年前の火の発見である。約5,000年前には、火に加えて家畜エネルギーが用いられるようになった。紀元前後から1800年頃までは薪炭や風力がエネルギーとして用いられた。その後19世紀頃には石炭がこれに取って代わり、20世紀に入ると石油エネルギーが中心となった。ポイントは、新しいエネルギーが広まる時には、必ずそのエネルギーを大量に使用する新しい技術の発明が伴っている、ということである。これはとりわけ19世紀以降に顕著である。石炭エネルギーが広まったのは蒸気機関の発明のおかげである。石油エネルギーが広まったのはエンジンの発明のおかげである(四国電力「エネルギー年表―エネルギー利用の歴史―エネルギーを考えよう―キッズ・ミュージアム―」を参考にした)。

 再生可能エネルギーあるいは水素エネルギーを消費する新技術としては、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)が候補として挙げられる。しかし、ガソリン自動車がEVやFCVに代わったところで、消費されるエネルギー量は新興国における自動車の普及スピードに依存しており、爆発的な増加は見込めない。アメリカは、再生可能エネルギーあるいは水素エネルギーを大量に消費する新技術の開発を進めている最中なのかもしれない。もしくは、再生可能エネルギー、水素エネルギーとは全く異なる新しいエネルギーを模索しているのかもしれない。いずれにせよ、アメリカは前述の①~③とは別の理由で、こうした取り組みの成果が出るまでは、日本人の目を原発に釘づけにしておこうとしているとも考えられる。

 これを日本側から見れば、自国の防衛にとって何の利益にもならず、下手をすれば安保法制によって基地から世界各地へと出向く米軍の後方支援をしなければならないかもしれない辺野古基地と、ランニングコストや事故リスクが非常に高いにもかかわらず、将来何らかのエネルギーによって一気に取って代わられる可能性が高い原発を抱え込むことになる。こうした動きに反対するには、2つの方法を想定することができる。

 1つは、原発推進派、辺野古基地移設容認派の国会議員を輩出している地域で反対デモや集会を展開することである。現在、反原発派、反辺野古派の人々は、その原発がある地域や辺野古基地周辺で反対運動を行っている。しかし、こうした局部的な動きは、アメリカを絶対視するその地域の行政によって簡単に封じ込められる。それに、反対運動を取り上げるのは地方のマスコミのみであり、他地域の国民がその動きを知る機会はない。

 多くの国会議員はHP上で自身の政策を説明しているが、実は原発や辺野古基地に関しては明言を避けている。軍事オタクと呼ばれる石破茂氏ですら、HPでは辺野古基地には一切言及していない。となると、誰が原発推進派、辺野古基地移設容認派であるかを知る手がかりは、国会議事録に求められる。それぞれの国会議員の発言を分析し、誰が原発推進派、辺野古基地移設容認派であるかを特定する。そして、彼らの選挙区に乗り込み、そこで反対運動を行う。反対運動は、できるだけ全国各地に散らばるようにする。すると、各地のメディアが注目し、やがて全国メディアが取り扱ってくれる可能性が出てくる(ただし、原発に関しては、メディアの収益源が電力会社の広告料であるから、反原発運動には触れないかもしれない)。

 原発が立地する地域や沖縄からやってきた反対派に、全国各地の国民は戸惑い、反対派と軋轢を起こすに違いない。全国各地で混乱が起き、自治体が動揺すると、政府も黙ってはいられない。政府が混乱を収拾することができなければ、内閣支持率が低下し、内閣は総辞職に追い込まれる。新しく選ばれた首相はこの時点で国民の審判を受けていないため、野党から早期の衆議院解散総選挙を求められる。しかし、与党に対して不信感を募らせている国民は与党に投票せず、政権交代が実現する。新しい内閣は、反原発、反辺野古を掲げる。

 ただ、悲しいかな、政権が代わったところで、アメリカを最上位に頂いた瞬間に思考停止するのは、どの政治家であっても同じである。旧民主党の野田元首相も、原発ゼロを閣議決定したのに、アメリカの圧力に屈してあっさりと撤回した。だから、「原発再稼働は唯一の解である」と言ってしまった。したがって、このアプローチは労力の割に得られるものがほとんどない。

 アメリカを動かすにはもう1つのアプローチを使うしかない。それは、国連を使うことである。国連人権委員会で人権の救済を訴えることである。翁長前沖縄県知事は国連人権委員会で何度か演説を行っており、2015年9月に行われた演説が、「基地建設反対運動の正義」(星野英一)の中で紹介されていた。国連人権委員会は世界中の様々な人権問題を扱っているため、演説者に許される時間は1分程度と非常に短い。この1分の間に、具体的にどのような人権が侵害されているのかを訴求しなければならない。記事を読む限り、2015年9月の翁長前知事の演説はこの点が弱い気がした。裁判所に対して、「この人は法律違反だから裁いてください」とお願いするようなものであり、これでは裁判所も相手にしてくれない。相手の何がどういう法律のどの条文に違反するのかを明確にすることで初めて、裁判所は動くことができる。

 先に述べたように、仮に辺野古基地が対中戦略から外れて、米軍が世界中の戦争・紛争に関与するための拠点としての機能を持つものだとすれば、沖縄の人々は自然とアメリカの戦争・紛争に関与していることになる。そこで、「他国の紛争に加担しない権利」があると主張し、2016年11月に採択された「平和への権利」と紐づけるというアプローチが考えられるだろう。原発に関しては、「平穏に生活する権利」、「自然を享受する権利」などが侵害されていると訴求する。前者は憲法13条の幸福追求権から導かれる人格権の一部に該当するとされ、また後者は北欧に古くからある慣習法である。そして、次のエネルギー革命を待たずとも、”つなぎ”のエネルギーでもよいから、原子力から別のエネルギーへと移行する世界的な流れを作っていく。

 ここで重要なのは、実は1分間の演説そのものではなく、事前・事後の根回しである。慰安婦問題が国連人権委員会でこれほどまでに盛んに取り上げられるようになったのは、NGOなどが国連関係者に対し、長期にわたって相当粘り強く根回しをしたからである。慰安婦問題を扱うNGOが国連関係者を何度も訪れるだけの資金をどうやって集めたのかは不思議である。ただ、反原発や反辺野古の方が賛同者は多いはずであり、それだけ資金集めもしやすいであろう。反辺野古に関しては、「辺野古基金」なるものが存在しており、これまでに7億円近い資金を集めたようだから、その一部を国連関係者向けの活動費に回せばよい。

2016年08月12日

『中国の尖閣暴挙!日本よ覚悟はあるか(『正論』2016年8月号)』―沖縄県民は米軍基地を追い出したら中国が基地を作ることを理解しているのか?


正論2016年8月号正論2016年8月号

日本工業新聞社 2016-07-01

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 野田政権が2012年に尖閣諸島を国有化して以来、中国はその報復として、海警局などの公船を頻繁に尖閣諸島の領海に侵入させてきた(念のため補足すると、外国船舶は沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件として、沿岸国に事前に通告をすることなく沿岸国の領海を通航することが国際法上認められている。これを「無害通航権」と呼ぶ)。尖閣周辺を中国の公船が自由に行き来するその状態は、もはや常態化したと言ってよいだろう。

 軍艦については、当初は遠方で活動するのみであった。ところが、徐々にその活動範囲を尖閣諸島の近くにまで広げてきた上に、その数も増やしてきた。とはいえ、それでも中国は、尖閣諸島の沿岸から12海里の領海と、その外側12海里に隣接する接続水域に軍艦を入れることは避けてきた(竹田恒泰「君は日本を誇れるか 第27回 間合いを詰めてくる中国を挫く方法」)。

 だが、6月9日未明、初めて中国海軍のフリゲート艦が尖閣諸島の接続水域に入った。6月15日未明には中国海軍情報収集艦が鹿児島県口永良部島沖の領海に侵入し、さらに同日午後2時過ぎ、「海警」3隻が尖閣周辺領海に侵入した。また、16日午後3時には同じ情報収集艦が沖縄県北大東島の接続水域を航行した(本間誠「〔一筆啓誅 NHK殿 特別版 第61回〕日中友好条約があるから・・・「軍艦は絶対に来ない」と発言していたNHK解説委員へ」)。

 中国公船による尖閣近海の領海侵入累積数は、2012年から今年3月までで152日、延べ470隻に及んでいるが、軍艦は一度も侵入したことがなかった。公船の侵入も準軍事力による我が国主権への挑戦であることには違いないが、軍事力そのものである軍艦とは自ずと意味が変わってくる(香田洋二「沖縄全域、鹿児島沖島嶼部もターゲット 孤立化に怯えるも・・・南西諸島の侵略を諦めない」)。中国はこうして少しずつ間合いを詰めてくる。これを「サラミ戦法」と呼ぶそうだ。こんな非常事態の最中でも、事件に関するメディアの反応は悪かった。というのも、メディアは連日舛添要一前東京都知事の資金問題を取り上げていたからである。

 さすがに、沖縄県はさぞ慌てたに違いない。尖閣諸島を含む石垣市の中山義隆市長は報道陣に「非常に危機感を持っている。政府には事態をエスカレートさせないよう、今後とも毅然とした態度を取ってほしい」と語った。さらに、市議会で市長は、「南沙諸島における中国の活動には非常に懸念している。21世紀に自国の領土を拡大しようという国があること自体が非常に危険だ。尖閣でも同じように、力での現状変更を仕掛けてきているという認識を持っている」と批判した。石垣市議会は中国に対し、「東シナ海の安全保障上の均衡を、武力を背景に変更を迫る行為であり、尖閣諸島強奪に向けた動き」とする抗議決議を全会一致で可決した。

 ところが、驚くべきことに、沖縄本土やその他の沖縄地域では、相変わらず「反基地キャンペーン」が展開されていたのである。5月には嘉手納基地に勤務する元米海兵隊員で軍属の男が、ウォーキング中だった沖縄県うるま市の女性会社員を殺害するという事件が発生し、これが反基地ムードをさらに煽ることになった。さらに、沖縄県では6月5日に沖縄県議選が実施され、翁長雄志知事を支える与党が「オール沖縄」を掲げて基地の県外移転を訴えて勝利した。中国軍艦の侵入はその直後に起きたのだが、反基地運動には全く影響せず、19日には大規模な反基地集会が開かれた(仲新城誠「〔対中最前線 国境の島からの報告 特別版 第37回〕中国軍艦もどこ吹く風 米軍属殺人事件の政治利用に狂奔する翁長知事とメディア」)。

 ここからはいきなり話題が変わって稚拙な見解を披露することをお許しいただきたい。日本人は元々、自分の目で観察した事柄に基づいて意思決定することを重視する。製造業では昔から「三現主義(現場、現物、現実)」が大切にされている。マーケティングにおいては、顧客の消費行動をじっくりと観察し、顧客の声に耳を傾け、顧客の繊細なニーズを丁寧に製品・サービスに織り込んでいく(ただし、あまり顧客に共感しすぎると弊害が生じることは、以前の記事「『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―イノベーションにおける二項対立、他」を参照)。

 逆に、現場を見ずに意思決定をすると、取り返しのつかない過ちを犯す。以前の記事「山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍』―日本型組織の悪しき面が露呈した帝国陸軍」で書いたように、日本陸軍がその典型である。陸軍のトップは現場を無視して過去の成功体験にしがみつく。業を煮やした参謀が、これもまた現場を十分に観察することなく、指揮命令系統を無視して現場に命令を出す(山本はこれを「私物命令」と呼んだ)。現場は命令と実態が食い違っていることを知りながら、実態を命令の方に合わせる(山本は、陸軍の中で「員数(=物資や人の数)を計画に合わせよ」という言葉がよく使われたと述べている)。こうして陸軍は硬直状態に陥った。

 逆に、アメリカ人は、現場を見なくとも、入手した情報のみに基づいて適切な意思決定をする能力に長けている。アメリカ企業はITに莫大な投資をして顧客の情報を多面的に取得し、それらを統計的に解析して様々な指標を計算する。経営者は社長室の椅子に座って指標の推移を眺めながら、必要な決断を下す。デルの社長室にはありとあらゆる経営指標がリアルタイムで表示され、社長はそれを見ながら意思決定を行うので、まるで飛行機のコックピットに座っているようだという話を聞いたことがある。日米のこの差は、事業のグローバル展開のスピードに影響を与える。日本企業は現場を見なければ進出するかどうかを決められないため、どうしてもスピードが遅い。他方、アメリカ企業は情報さえあれば決断してしまうので、一気に多国展開できる。

 アメリカでは、企業だけでなく、政府もインテリジェンスに莫大な投資をしている。各国の政府、公的機関、企業その他各種団体、個人に関する公開情報(※)はくまなく調査する。加えて、アメリカは絶対にその事実を認めないが、各国の通信を全て傍受しているとも言われる(日本にはエシュロンと呼ばれる通信傍受施設がどこかにあるとされる)。こうした情報が外交・軍事にフル活用される。インテリジェンスを重視するのは、イギリスの伝統を引き継いでいるためだ。つまり、イギリスなどが行った植民地支配の名残である。本国から遠く離れた植民地をコントロールするために、現場をわざわざ見なくても、情報だけで意思決定ができる仕組みを構築したのである。

 (※)インテリジェンスと言うと、私などは極秘にスパイを放って、非公式に重要人物に接触し、非公開情報をかき集めるというイメージを持っていた。ところが、実はインテリジェンスの9割以上は公開情報に基づくと佐藤優氏が語っていた(池上彰、佐藤優『新・戦争論―僕らのインテリジェンスの磨き方』〔文藝春秋、2014年〕)。スパイのイメージが強いロシアで外交官を務めた佐藤氏がそのように言うのだから、おそらくアメリカでもほとんど同じではないだろうか?

 さらに言うと、アメリカ人は全く情報がなくても、イノベーションを起こせる。詳細は以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などをご参照いただきたいが、市場調査で情報が得られない場合は、イノベーターが自分を最初の顧客に見立て、自らが心の底からほしいと思う製品・サービスを形にする。そして、「自分がほしいものは世界中の人もほしいに違いない」というロジックで、全世界への普及を図る。イノベーターはそれを自分の使命と位置づけ、神と契約を交わす。唯一絶対の神との契約であるから、その内容は絶対であり不変である(以前の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」を参照)。

 アメリカ企業は、イノベーションを全世界に普及させる段階でインテリジェンスを活用する。つまり、各国でイノベーションが受け入れられている割合はどのくらいか?各国で普及度合いに差があるのはなぜか?イノベーションの普及が阻害されている要因は何か?その阻害要因を取り除くにはどうすればよいか?これらの問いに答えるために、各国の事業環境に関する情報を幅広く収集する。決して、イノベーションを顧客のニーズごとにカスタマイズするのが主たる目的ではない。イノベーションの中身は唯一絶対の神と契約で決めたわけだから、変えることができない。

 日米の違いは、ビジネスパートナーの探し方にも表れる。販売代理店をやりたいと考えるアメリカ企業は、世界中の商材をインターネットで検索し、その企業の情報を収集する。そして、お目当ての企業が出展している展示会を見つけ出してそれに参加し、ブースに赴いて「御社の製品が気に入った。ぜひ取引がしたい」といきなり持ち掛ける。日本の展示会は、決裁権限のない担当者レベルの人が興味本位で集まるようなものだから、このような光景はまず見られない。情報に基づいて物事を決めるアメリカ人ならではの行動である。

 逆に、日本人は信頼ベースでパートナーを探す。誰かに仕事を依頼しようと検討している人は、まずは自分の知り合いの中から候補を探す。私の仕事である中小企業診断士の世界は、まさにこういう風に動いている。最近は、会員数の増加に伴って、誰がどういう分野に強くて、どのような実績を持っているのかデータベース化したいという声がたびたび挙がる。しかし、データベースで情報を見ただけではその人となりが解らず、結局は自分が普段からよく知っている人に仕事を依頼してしまう。そのため、データベース化の話はいつの間にか立ち消えになる。仮に適任の知り合いがいなかった場合、次は知り合いの知り合いに接触するのが普通である。

 日本人は、現在という時間を重視し、現実を観察して少しずつ改善していく。逆に、アメリカ人は将来を重視し、明確な(固定的な、不変の)ビジョンを掲げて神と契約を結び、インテリジェンスを活用して現実をビジョンの方に近づけていく。日本人の発想は柔軟であり、アメリカ人の発想は固定的である。だが、最近は、アメリカ人的な日本人が増えたと感じる。アメリカ人の固定的な発想が日本人に適用されるとどうなるか?日本人には現在という時間しかないのだから、現在に固定されて身動きが取れなくなる。そう考えると、護憲派が頑なに現行憲法にこだわるのもうなづける。護憲派は、アメリカが主導した憲法を支持しているのだから、硬直的になるのも当然だ。

 そうならないためには、現場を大切にするという基本精神に立ち返ることである。だが、中国の脅威を最も感じているはずの沖縄県民が、教条的に反基地、反米を掲げているのは非常に不可解である。暴力団が町中をうろついているのに、警察に向かってこの町から出ていけと言っているようなものである。沖縄から米軍基地がなくなったらどうなるか?間違いなく、中国は沖縄を狙ってくる。南沙諸島の埋め立て島がハーグの常設仲裁裁判所に否定されようとも、中国には全く関係ない。沖縄を奪い取った中国は、米軍の跡地に基地を作る。いかほどの規模の基地を作るのか、それによって住民の生活はどれほど脅かされるのか、これはちょっと想像がつかない。ただ、そういうリスクがあるのは確実である。このことを沖縄県民は理解しているのだろうか?


 《2016年9月24日追記》
 『正論』2016年10月号より2つの寄稿文を引用。
 矢野:もう一つ、日本人が勘違いしていることなんですが、白旗を上げれば戦争しなくて済むのかといえば、違うんです。嫌でも中国側に立って次の戦争をしなければならなくなります。もし中国が日本列島を押さえたら、第一線に出そうとするのは日本軍ですよ。自衛隊を再編して、自分たちの先鋒として最前線に出して捨て駒にして、次に自分の本土軍が出てくる。支配した国の軍隊をまずすり減らして、次の段階で自分が出てくるというのはどこの国だって考えることです。
(用田和仁、矢野一樹、本村久郎「中国に尖閣を奪われない方法・・・南西諸島はこう守れ」)
 地元では反対派住民が「石垣島の自衛隊配備を止める会」という組織を作り、配備阻止に向けた署名活動などを進めている。沖縄メディアは反対一色だ。しかし極言すれば、現在の国際情勢では「石垣市に自衛隊を配置するか、石垣市の行政区域である尖閣諸島に人民解放軍の基地ができるか」の二者択一ではないかと思う。侵略的な中国が隣国である限り、八重山が軍事基地と無縁な平和な島々であり続けることは不可能だ。
(仲新城誠「「南シナ海」化が進む尖閣 大漁船団の次は・・・」)
月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-09-01

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