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比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた
平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵
DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2018年06月15日

比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた


給与明細と電卓

 成果主義が浸透するにしたがって、給与も従来の職能給中心から業績給中心へとシフトしているようである。だが、「個人の業績」を特定するのは容易ではない。短期的には業績につながらないが、中長期的には業績アップが見込まれるというポテンシャルをどう評価するのか?個人の業績にはつながっていないが、同僚や他部門に対して大きな貢献をした社員をどのように評価するのか?マネジャーの業績とはそのマネジャーが率いる部門の業績だが、どこまでがマネジャーの貢献分で、どこからが部下の頑張りによるかをどうやって線引きするのか?イノベーションを推進するために失敗に寛容な組織文化を醸成するとすれば、イノベーションに失敗した人にも業績給を支給するべきだが、その場合の業績とは何か?など、様々な問題がある。

 私は何度かこれらの問題に取り組んだものの、満足な答えが得られたことがない。業績を厳密に定義しようとすればするほど、賃金制度は複雑になり、社員の理解が得られなくなる。そこで、仮にも人事コンサルタントである自分がこんなことを言うと波紋を呼びそうだが、業績給による賃金制度を作ることは諦めることにした。ブログ別館の記事「経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築』―人事制度は論理的に設計すればするほど社員の納得感が下がる」でも書いたように、人事制度で重要なのは「論理性」ではなく「解りやすさ」であると思う。

 《参考記事(いずれも旧ブログ)》
 『人事と出世の方程式』―功ある者には禄を、徳ある者には地位を
 『バリュー・プロフィット・チェーン』―「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(1)(2)
 「人材の柔軟な配置変更」の実現に向けてクリアすべき課題―『イノベーションの新時代』
 マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案
 「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案

 最も解りやすい賃金制度は、やはり日本企業の伝統である「年功制」である。年齢という誰にとっても明白な基準で給与が決定されるからだ。さらに、その給与は社員の生活を十分に保障するものでなければならない。以前の記事「【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察」でも書いたように、企業は自社に対して、経営資源の1つである人材を供給する家庭に「下問」し、家庭の目標である「生計の維持」を達成できるよう支援することを経営上のルールとする必要がある。そして、一般的に、生計費(生活費)は社員の加齢とともに増加するから、年功制に基づく賃金制度では、給与は年齢とともに上昇し続ける。

 近年、高齢社員の人件費を抑えるために、賃金カーブが途中から右下がりになる給与体系を導入している企業が増えている。しかし、長くその企業に勤めると途中から給与が下がることが解っている企業で、ずっと働こうと思う社員が果たしてどれくらいいるのか疑問である。さらに、給与が下がった高齢社員のモチベーションも心配である。彼らのモチベーションが下がれば、周囲の社員の士気にも影響する。モチベーションは伝染するものであるからだ。私は、自ら社内にがん細胞を植えつけて、それを増殖させるような施策を取る企業の心理が理解できない。

 出光興産の創業者である出光佐三は、「年功制」、「生活給」の支持者であった。
 出光には労働切り売りの思想はないんです。しかし従業員の生活は保障し、安定させなければならない。どうやっているかというと、結婚すればまず家を与え、妻手当を支給するし、子供ができれば子供手当を与える。だから、同じ大学を出た者でも、結婚すれば実質的に給料が6割ぐらいふえることになっております。これはどういうことかと言えば、独身時代でもそんなにゆとりのある生活はさせておらない、そこで結婚すれば女房の食い扶持もいるし、社交的交際もふえるので、いままでの給料であればみじめな生活をしなければならない。これは親として見るに耐えないということなんですよ。
 お前は年をとったから駄目だ、若い者のほうがよいというような、肉体的働きばかり見ていてはいけない。そういう目に見える労働だけではなくて、それ以外に人間の尊厳と苦難の経験から出た判断力というものがある。これは年とった人にあるんです。そういう年とった人を敬うところから和の力も出てくるし、年とった人を大切にすればお互いが仲よくなる。年寄りを馬鹿にすることは対立闘争になりますよ。(中略)私は人間のあり方を尊重することから年功序列をとっているということです。
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 ここからは、私が考える「非常にシンプルな賃金制度」の試案を示してみたいと思う。なお、本来であれば、賃金制度はその企業の戦略とリンクさせるべきものであるところを、今回は賃金制度のみを切り出して取り上げているので、若干数字遊びのようになっている点はご容赦いただきたい。こういう柔らかいアイデアを公開すると、「お前は本当に人事分野のコンサルタントなのか?」と言われそうだが、敢えてそのリスクを承知の上で書くこととする。

①基本給テーブル

 大学卒業後に入社し、65歳で定年を迎えるケースとした。基本給は年功制かつ生活給の性質を持つものであるから、その決め方は極めて単純である。つまり、「年齢×10,000円」とすればよい(上図のオレンジ網掛けの部分)。究極までシンプルにすれば、賃金制度はこれが全てである。だが、さすがにこれでOKとする企業はほとんどないから、社員の能力によって若干の差をつけることとする。出光佐三も前掲の著書の中で、多少は能率給を考慮すると述べている。

 社員の能力評価も、賃金制度と同様に簡素化する。以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」で示した、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という、どの企業でも共通して求められる4つの能力に、「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識について、定期的に5段階で総合評価を行う。その結果、例えば30歳の場合、評価が「3」の時の給与=30歳×10,000円=300,000円を基準とし、評価が1上がるごとに2,500円給与が上がり、評価が1下がるごとに2,500円給与が下がるようにしてある。評価結果による給与の増減幅は他の年齢でも同じである。

企業に共通して求められる4つの能力

 多くの日本企業には依然として職能資格制度が残っているので、能力・知識の評価結果を職能資格制度と連動させる。下表では職能をLevel1からLevel9まで設けている。Level1・2が一般社員に、Level3・4が係長に、Level5・6が課長に、Level7・8が部長に、Level9が取締役に対応する。ある職能から上位の職能に昇進するためには、その職能に昇格して以降、直近5年間の能力・知識評価結果の合計が15点以上である必要がある。よって、上位の職能には最速3年で昇格できる(「最短昇格年齢」の列を参照)。一方、毎年の評価が「3」の場合、昇格に5年かかる計算になる(「標準昇格年齢」の列を参照)。各職能の職能給も、下表のように設定する。

②職能と昇格・職能給・役職手当・降格・再昇格条件

 実は、毎年の能力・知識の評価結果や職能給では、ほとんど給与に差が出ない。これでは最近の社員はモチベーションが上がらないという企業のために、「役職手当で差をつける」という方法をとった。上表の役職手当は、「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ように設計されている。例えば、係長の役職手当は、「10,000円×√(39歳(※Level4に昇格する標準年齢+1歳)-係長になった時の年齢①)+(年齢-係長になった時の年齢②)×2,500円」で計算される(「係長になった時の年齢①」は、後に述べる降格によって39歳以上で係長になった場合には38歳と見なす。「係長になった時の年齢②」は、文字通り係長になった時の実年齢である)。この計算式だけやや複雑なのだが、ポイントは「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ことである。これを実現できる方法で、もっと簡単なやり方があれば是非ご教示いただきたい。

 各職能を最速の3年で昇格していく人と、標準の5年で昇格していく人を比較したのが下の表とグラフである。課長を例にとると、最速のケースでは35歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-35歳)+(39歳-39歳)×2,500円=112,249円」である。これに基本給355,000円(最速昇格の場合、評価は「5」なので、基準となる「3」の時の基本給350,000円より5,000円高い)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は487,249円となる。一方、標準のケースでは43歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-43歳)+(43歳-43歳)×2,500円=73,484円」である。これに基本給430,000円(標準昇格の場合、評価は「3」である)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は523,484円となる。

③最速昇格・昇進と標準昇格・昇進

⑥賃金カーブ

 係長には最速で29歳、標準で33歳、課長には最速で35歳、標準で43歳、部長には最速で41歳、標準で53歳の時に昇進する。これを踏まえて、最速で昇進する場合と標準で昇進する場合の賃金カーブをグラフ化したものが上図である。最速で昇進する場合には、標準で昇進する場合とほぼ同額の給与を若いうちに獲得することが可能である。

 リクルート・マネジメント・ソリューションズの「RMS Research'09昇進・昇格実態調査」によると、降格運用を行っているという企業は、ほぼ3社に1社(部長30.4%、課長33.5%)となっている。これは2009年の調査結果とやや古いため、現在ではその割合がもっと上がっていると思われる。そこで、私の試案でも降格人事を考慮することにした。係長以上では、「昇進して以降、直近2年の評価ポイント合計が3以下」の場合、下の役職に降格する。ただし、敗者復活の道も用意されており、「降格して以降、直近2年の評価ポイント合計が8以上」であれば、元の役職に復帰できる。これを具体的に示したのが下の表とグラフである。

④降格を経験するケース

⑦賃金カーブ(降格がある場合)

 上段の表は、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になった人が、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格したケースである。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻る。53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ったことで、54歳、55歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円低くなる。一方、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を取ったことで、56歳、57歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円高くなる。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻ることで、58歳以降の基本給は標準的な金額となる。

 課長に降格した55歳の役職手当は、本来は「30,000円×√(49歳(※Level6に昇格する標準年齢+1歳)-課長になった時の年齢①)+(年齢-課長になった時の年齢②)×2,500円」だが、「課長になった時の年齢①」については、降格によって49歳以上で課長になった場合には48歳と見なすので、「30,000×√(49-48)+(55歳-55歳)×2,500円=30,000円」となる。ここで、職能と役職は分離している点に注意を要する。53歳で部長になった時の職能はLevel7だが、55歳で課長に降格しても職能はLevel7のままである。よって、Level7にいた53歳から57歳までの5年間の評価の合計は、1+1+5+5+3=15となり、58歳でLevel8に昇格することができる。

 下段の表では、標準のペースで昇格・昇進し、33歳で係長になった人が、33歳、34歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、35歳で一般社員に降格している。ただし、35歳、36歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、37歳で係長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、43歳で課長になるが、43歳、44歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、45歳で係長に降格している。ただし、45歳、46歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、47歳で課長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になるが、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格している。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。幾度もの降格にもめげない社員を想定している。

 標準のペースで昇格・昇進した人(青色)、上段の表の人(赤色)、下段の表の人(緑色)の賃金カーブをグラフ化したのが上図である。降格により一時的に給与は下がるとはいえ、本人が頑張れば、降格回数に関わらず挽回が可能であることを示している(部長になってから降格した社員は、標準のペースで昇格・昇進した社員よりも給与が低いが、もし挽回可能な賃金制度にするならば、今回の試案では対象外とした役員報酬で調整すればよいと考える)。

 これもまた古い調査データになるが、厚生労働省「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、慣行による運用を含め47.7%の企業が役職定年制を導入している。そこで、試案では、60歳で役職定年になるケースも想定してみた。言うまでもなく、役職定年によって役職手当がなくなる分だけ給与が下がる。しかし、社員の生活費を十分にカバーできるように基本給を設定することで、社員に生活の安心感を与えることができる。

⑤役職定年があるケース

⑧賃金カーブ(役職定年がある場合)

 最後に1つだけ厳しいことを書いておく。私は年功制の支持者であるが、終身雇用は支持していない。もちろん、終身雇用が実現できればそれに越したことはないものの、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いたように、終身雇用を実現しようとすると、企業は大変なスピードで業績を拡大しなければならない。高度成長期でもほとんど実現不可能な成長率を、現代の成熟社会においても期待するのは無謀である。冒頭で、家庭の生計維持の支援をマネジメント上のルールとすべきだと書いたが、終身雇用の保障までルールとするのは企業にとってあまりに酷である。

 私は、現行の解雇基準を緩和して、一定の社員を放出することを容認するべきだと考える。具体的には、職能の各レベルの標準昇格年齢に至ってもなお昇格の要件を満たさない社員を放出する。また、39歳になっても係長のポストがない社員、49歳になっても課長のポストがない社員、59歳になっても部長のポストがない社員も放出する。彼らには、その企業で十分に活躍する場がなかったということである。ただし、企業は単に彼らの首を切るだけでは不十分である。企業は、彼らに十分な機会を与えることができなかった代わりに、彼らが他の企業へ転職したり、起業したりするのをサポートする。例えば、転職活動の間の生活費を一定期間保障する、起業のための資金の一部を提供する、などの方法が考えられる。こうすることで、家庭の生計維持の支援というマネジメント上のルールを可能な限りギリギリまで遵守するよう努める。

 (※1)賞与の決め方については別の機会にトライしたいと思う。
 (※2)今回の記事で使用した表やグラフが含まれるExcelファイルをDropboxにアップしました。ご自由にお使いください。>>>20180615_chingin-nenkousei.xlsx


2018年04月13日

平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵


これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視
平井 謙一

生産性出版 1998-03

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 副題に「絶対評価・業績成果の重視」とある割には、本書の大半は「職能資格制度」の解説になっている。まず、職能等級基準書の例が示され、それをそれぞれの職種に展開した職能等級基準説明書の例が数多く掲載されている(営業、生産、サービス、企画、事務など)。

 人事考課は成績、情意、能力の3本柱で構成され、それぞれの評価基準が示されると同時に、等級が下位の場合は情意が、中位の場合は能力が重視され、上位になると成績の割合が高くなることが示されている。情意項目の例としては、規律性、積極性、協調性、責任性の4つが、能力項目の例としては、知識(・技能)力、判断力、企画力、折衝力、指導力の5つが一般的だとされているが、なぜこれらの項目で十分であると言えるのかは本書では触れられていなかった(必要な能力の導出をフレームワークを用いて試みた例として、以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」を参照)。

 業績成果を重視するためには目標管理(MBO)制度を導入しなければならないが、MBOが登場するのはようやくp201になってからである。しかも、本書では「従来の職能資格制度を修正して目標管理制度を導入する(同時に、職能給から年俸制へと移行する)」と書かれているのに、職能資格制度における人事考課と目標管理をどのように融合させるのかについては論じられておらず、両者が併存したままになっている。

 本書では、年功制について次のように述べられている箇所がある。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 欧米企業も最近はチームワークの重要性を認識するようになっている。ということは、むやみやたらと業績主義や成果主義に走るのではなく、むしろ年功制の方が有効なのではないかとさえ思えてくる。ちなみに私は、業績給・成果給においては、どんな計算をしても企業の業績を個人の業績に還元することができず不平不満が残るため、不平等をもたらすかもしれないが最も簡便な人事制度として年功制を支持していることは本ブログでも何度か書いた。

 また、副題にある「絶対評価」をめぐっては、次のような記述がある。
 これからの人事評価の正しいあり方として、第1に、第1次評価、第2次評価は絶対評価を行なう。第2に、調整段階または最終段階で必要に応じ相対評価を行なう。調整段階、最終段階でも、賃金原資や定員枠に余裕のある限り、絶対評価を尊重する姿勢を堅持する。これを原則とするのが好ましい。
 ただ、残念ながら現在の多くの日本企業では、賃金原資はともかく、定員枠には余裕がない。よって、調整段階や最終段階では相対評価となるだろう。いや、以前の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」に従えば、相対評価ではなく「相対考課」が正しい。

○図1
企業の人員構成の変化

 現在の日本企業に定員枠がないことを、図1を使って説明したいと思う。図1はかなり荒っぽいモデルであることをあらかじめご了承いただきたい。図1は、社長が3人の部下を引き連れて創業するケースを想定している(便宜的に、社長を係長の枠に入れている)。上司:部下の割合は1:3とし、今後も原則としてはこの比率を保持する。この企業は労働集約型企業であるとして、社長の売上高は2,000万円、部下である一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計4人で売上高5,000万円となる。10年後には、3人の部下は昇進し、それぞれ3人ずつ新しい部下を持つ(便宜的に、社長を課長の枠に、社長の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は3,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計13人で売上高1億5,000万円となる。

 さらに20年後には、社長の部下と一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が27人入ってくる(便宜的に社長を部長の枠に、社長の部下を課長の枠に、社長の部下の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は4,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり3,000万円、社長の部下の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計40人で売上高5億8,000万円となる。

 30年後には、社長の部下、社長の部下の部下、一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が81人入ってくる。社長の部下は部長、社長の部下の部下は課長、一般社員は係長となる。社長の売上高は5,000万円、部長の売上高は1人あたり4,000万円、課長の売上高は1人あたり3,000万円、係長の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計121人で売上高17億9,000万円となる。

 ここまでは、入社した社員が皆昇進することができるので問題ない。問題はここからである。40年後に、9人の課長を部長に、27人の係長を部長に、81人の一般社員を係長に昇進させ、81×3=243人の一般社員を入社させたとしよう。1人あたり売上高は、社長が5,000万円、部長が4,000万円、課長が3,000万円、係長が2,000万円、一般社員が1,000万円であるから、合計360人で売上高52億7,000万円となる。30年後の売上高が17億9,000万円であることを踏まえると、10年で売上高を約3倍にしなければならない。売上高は、創業直後5,000万円⇒10年後:1億5,000万円⇒20年後:5億8,000万円⇒30年後:17億9,000万円と推移しており、だいたい10年間で3倍になっている。売上高を10年間で3倍にするためには、毎年約12%の成長が必要となる。創業後30年ほどは高成長が続くから、このぐらいの成長率でも問題ないだろう。しかしながら、創業後40年ともなれば、成長率が落ちてくるのが普通である。

 もはや全員を昇進させることはできない。だが、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えたい。そこで、今まで上司:部下=1:3となっていたのを、1:4にする。すると、40年後には部長4人、課長16人、係長64人、一般社員256人となる。合計341人で売上高は45億3,000万円である。これは、30年後の売上高17億9,000万円の約2.5倍である。50年後も同様である。16人の課長を部長に、64人の係長を部長に、256人の一般社員を係長に昇進させることはできない。代わりに、上司:部下=1:4となっていたのを、1:5にする。すると、50年後には部長5人、課長25人、係長125人、一般社員625人となる。合計781人で売上高は97億5,000万円である。

 以降同様に、60年後は上司:部下=1:6とし、部長6人、課長36人、係長216人、一般社員1,296人とする。合計1,555人で売上高は186億5,000万円である。70年後は上司:部下=1:7とし、部長7人、課長49人、係長343人、一般社員2,401人とする。合計2,801人で売上高は326億7,000万円である。80年後は上司:部下=1:8とし、部長8人、課長64人、係長512人、一般社員4,096人とする。合計4,681人で売上高は534億9,000万円である。90年後は上司:部下=1:9とし、部長9人、課長81人、係長729人、一般社員6,561人とする。合計7,381人で売上高は830億3,000万円である。100年後は上司:部下=1:10とし、部長10人、課長100人、係長1,000人、一般社員10,000人とする。合計11,111人で売上高は1,234億5,000万円である。

 この間、売上高の伸び率は、
 ・40年後:45億3,000万円⇒50年後:97億5,000万円(約2.2倍)
 ・50年後:97億5,000万円⇒60年後:186億5,000万円(約1.9倍)
 ・60年後:186億5,000万円⇒70年後:326億7,000万円(約1.8倍)
 ・70年後:326億7,000万円⇒80年後:534億9,000万円(約1.6倍)
 ・80年後:534億9,000万円⇒90年後:830億3,000万円(約1.6倍)
 ・90年後:830億3,000万円⇒100年後:1,234億5,000万円(約1.5倍)
と、徐々に伸び率が鈍化していく。それでも、仮に10年間で売上高を1.5倍にしようとすれば、毎年4%の成長が求められる。10年間で売上高2倍なら、毎年7~8%の成長が必要である。

 110年後以降であるが、一般的にスパン・オブ・コントロール(管理の範囲)は部下10人と言われているから、これ以上1人の上司に対する部下の数を増やすことは困難になると思われる。よって、組織は100年後と同じ人員構成を維持しようとすることになるだろう。

 注目してほしいのは、矢印で示した「昇進率」である。前述の通り、創業から30年後までは全員を昇進させることができた。ところが、40年後以降はポストが不足する。そして、図1をご覧の通り、上の階層に行くほど、そして創業からの年数が経過するほど、昇進率が下がる。

 日本企業の多くは戦後の高度経済成長期に設立されたと推測され、図1の40年後~50年後がちょうど20世紀末にあたる。この時期には、各企業は子会社を作って余剰人員を転籍させることができた。連結決算についてもそれほどうるさくなかったから、小さな子会社を乱立させていた時期である。ところが、2001年に連結決算が本格的に施行されると、その手が使えなくなる。図1の60年後~70年後がまさに2000年代~2010年代を表している。連結決算が適用されるので、下手に赤字子会社を作るわけにはいかない。子会社を作って新規事業に算入するならば、本業の規模に見合ったものにしなければならない。図1でお解りのように、この時期には日本企業はそれなりの規模になっていたため、新規事業の種探しも困難を極めるようになった。

 バブル期は図1で言うと40年後に該当する。この時期に入社した社員が10年後に係長に昇進する割合は49%にすぎない。10年後に係長に昇進しても、さらにその10年後に課長に昇進する割合は29%であるから、課長に昇進する割合は49%×29%=約14%である。『7割は課長にさえなれません』というのは決して誇張ではない(旧ブログの記事「日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ-『7割は課長にさえなれません』(補足)」を参照)。

 私は前述の通り年功制を支持する一方で、終身雇用については支持していない。図1でも明らかな通り、全員にポストを用意することは不可能である。かといって、既存社員の雇用を守るために若者を排除するのは愚策である。若者が雇用不安に陥ると、社会全体が動揺することは、フランスやドイツを見れば明らかである。よって、企業は若者を積極的に採用する反面、一定の年齢に達した社員のうち、一定の割合を外部に転出させなければならない。転出した社員は自ら起業するか、転出した社員が興した企業に転職することになる。

 現在、バブル期に入社したミドル社員がポストをふさいでいることが多くの企業で問題になっているようだが、私は遅かれ早かれ、解雇の要件が緩和されると思う。代わりに、産業界は、円滑な起業・転職を推し進めるために、助成金を給付する基金を共同で構成したり、起業・転職希望者を対象とした能力開発を行う組織をサポートしたりする必要が出てくるだろう。

○図2<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 以前の記事「『未来をつくるU-40経営者(DHBR2016年11月号)』―U-40の起業家は歳が近くて悔しくなるので、Over50の起業について考えてみた」では図②のようなグラフを用いた(初出は旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」)。平成42年とは12年後の2030年のことであるが、この頃には、20代を底辺とし、70代ぐらいを頂点とする従来型の組織と、40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織が出現すると書いた。仮に21世紀に入ってから企業がミドル社員の転出・起業を既に促していたとすると、30年後の2030年には図2のような2つのタイプのピラミッド組織が併存しているに違いない。

○図3
人口ピラミッド

 さらに時間が進んで2040年になるとどうであろうか?40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織も創業40年を迎え、全員が昇進できなくなる。ということは、この新しい組織においてもまた、一定の年齢に達した社員の一定割合が転出を促される。その転出は、40代後半で入社して10~15年後ぐらいから始まると仮定すると、今度は50代後半を底辺とし、80歳近くを頂点とする第3の組織も誕生すると予想れる(図3左側)。その結果、60~64歳の約7割、65~69歳の約4割、70~74歳の約2割、75~79歳の約1割が働き続けることになる。2065年になると、図3の右側のように変化する。60~64歳の約8割、65~69歳の約5割、70~74歳の約3割、75~79歳の約2割が働き続けると推測される。


2018年02月19日

DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 2 月号 [雑誌] (課題設定の力)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 2 月号 [雑誌] (課題設定の力)

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 (1)特集の論文ではないが、クラウディオ・フェルナンデス=アラオス、アンドリュー・ロスコー、荒巻健太郎「現在のコンピテンシー水準とのギャップを埋めよ 潜在能力を開花させる経営リーダーの育成法」が個人的には非常に参考になった。

 現在でも多くの企業で運用されている職能資格制度では、職能を10程度定義し、例えば4~5級が係長、6~7級が課長、8~9級が部長、10級が経営陣といった具合に、役職と職能を紐づけている。そして、7級で要求される能力を習得すれば、8級に昇格し、部長に昇進できる権利を取得するという、いわゆる「卒業方式」が採用されている。だが、課長として優れているからと言って部長として優れているとは限らないし、部長として優れているからと言って経営陣として優れているわけではない。この点が職能資格制度の1つの弱点である。以前の記事「鈴木康司『中国・アジア進出企業のための人材マネジメント』―職能資格制度に関する一考」でも、オペレーション能力とマネジメント能力を完全に分けて考えたため、一般社員からマネジャーに昇進する際にはどうしても能力の断絶が生じてしまう(それでも人事コンサルかと言われそうだが・・・)。

 本論文では、経営トップに求められる能力として、①成果志向、②戦略性、③協働能力、④チームリーダーシップ、⑤組織育成力、⑥変革のリーダーシップ、⑦市場理解力、⑧多様性対応力の8つを指摘している。経営トップの候補がこれらの能力をあらかじめ習得しているに越したことはないが、たいていの場合は経営トップの候補がこれらの能力をどの程度身につけているのか、あるいはこれらの能力の伸びしろがどれくらいあるのかを事前に知ることは困難である。そこで、論文の著者は、(ⅰ)好奇心、(ⅱ)洞察力、(ⅲ)影響力、(ⅳ)胆力という4つの潜在能力を挙げ、それぞれの潜在能力と前述した経営トップの8つの能力との関係を明らかにしている。8つの能力の事前評価は難しくても、4つの潜在能力の評価を通じて、それぞれの経営トップ候補者が実際に経営トップになった場合のパフォーマンスを予想しようというわけだ。

 顕在能力だけでなく、潜在能力も合わせて評価することで、本当に上の階層の人材にふさわしいかを判断するというやり方は、是非取り入れてみたいと思う。一方で、ただでさえ大変な能力評価がさらに煩雑になるという懸念があり、どうすれば人事部や現場の運用負荷を軽くすることができるかも同時に検討する必要があるだろう。

 (2)本号の特集は「課題設定の力」である。課題解決のカギは、いかに上手に課題を解決するかではなく、いかに正しい課題を設定するかにあるとされる。正しい課題を設定することができれば、課題解決の90%は完了したも同然とさえ言われる。本号では、「リフレーミング」の方法(トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ「リフレーミングで問いを再定義せよ そもそも解決すべきは本当にその問題なのか」)や、「社会システムデザイン」の方法(横山禎徳「ロジックツリーの限界を超えて 課題設定は意思から始まる」)などが掲載されている。私のブログでは、課題を適切に再設定したことで、課題解決の方法ががらりと変わった事例を紹介したいと思う(いずれも、先輩のコンサルタントから聞いた話であり、事例は簡略化してある)。

 1社目はある製品を販売する企業である。このクライアントは、全国に販売店を多数抱えていた。クライアントの販売店側の担当者が最初に相談に訪れた時、本社から販売店に対して販促情報などありとあらゆる情報が五月雨方式に降ってくるので困っているとのことであった。そこで、コンサルタントは、本社と販売店とを結ぶイントラネットを改善すればよいと考えていた。

 ところが、このクライアントの事業を分析すると、取り扱っている製品に際立った特徴があることが解った。クライアントの製品は大きく3つに分類することができた。1つ目は競合他社と差別化されているユニークな製品A、2つ目は製品Aに次ぐ収益を上げている製品B、3つ目は成熟期に突入しており製品競争力が低く、撤退も検討しているという製品Cであった。

 今まで、全国の販売店は製品A~Cを全て取り扱っていたが、コンサルタントは製品別に販売店を再編成することを提案した。つまり、下図のように、製品Aだけを扱う販売店を軸として、製品Bだけを扱う販売店、製品Cだけを扱う販売店(この販売店は将来的に縮小する)に再編するのである。すると、本社からの情報は、製品Aに関するものは製品Aを扱う販売店に、製品Bに関するものは製品Bを扱う販売店に、製品Cに関するものは製品Cを扱う販売店にだけ届くようになり、情報が五月雨式に降ってくるという当初の課題は自然と解消する。つまり、課題は「どうすれば本社から五月雨式に降ってくる情報を効率化できるか?」ではなく、「どうすれば自社製品の強みを活かして市場に効果的にアプローチできるか?」ということであったわけだ。

本当の課題は何か?①

 2社目はやや古い事例になるが、中堅の保険会社である。このクライアントは、下図の左側にあるように5か年の中期経営計画を作成していた。売上高、利益の目標はそれほど無理のあるものではなかった。クライアントは、この中期経営計画を確実に達成するための方策について、コンサルタントに相談してきた。だが、コンサルタントはこの中期経営計画を鵜吞みにしなかった。というのも、ちょうどその頃、日本では保険業界の規制緩和が予定されていたからである。コンサルタントは、先行して保険業界の規制緩和を実施したアメリカを調査した。すると、中堅の保険会社は軒並み業績を大幅に落としていたことが判明した。このことを踏まえて、非常にラフではあるが、クライアントの2~3年後の業績を予測し、下図の右側のようなグラフを作成した。

 すると、当初は比較的楽に達成できると思われた中期経営計画が、非常にチャレンジングなものであることが判明した。規制緩和によって、売上高と利益は一旦大きく落ち込む。そこから5年後の目標値に向けて大きくジャンプアップしなければならない。当然、中期経営計画を達成するための施策もドラスティックなものが要求される。このクライアントの課題は、「過去の延長線上で中期経営計画を達成するためにはどうすればよいか?」ではなく、「規制緩和を挟んで業績をV字回復させるためにはどうすればよいか?」ということであった。

本当の課題は何か?②

 このように、課題解決では、出発点の課題をどう設定するかが重要である。しかし、それと同様に、あるいはそれ以上に大事なのが、「その課題は解決するに値するものであるか?」ということだと思う。旧ブログの記事「【2011年最後の記事】「問題を解決する気がない人」の問題解決にいつまでもつき合うな」でも書いたが、私は前職の教育研修&コンサルティングのベンチャー企業で、キャリア研修を売るためにマーケティング担当として様々な打ち手を展開していた。だが、社長から一般社員に至るまで、打っても響かない人たちに悩まされ、一向にキャリア研修の売上が上がらなかった(もちろん、彼らを動かすことができなかった私の実力不足も認める)。

 今になって考えてみると、キャリア研修は、社長が頭の中で描いているだけの「理想の人材開発体系」の1ピースになることが目的であり、マーケットインの発想で開発されたものではなかった。それに、社長の本音としては、単価が安いキャリア研修よりも、営業力強化研修のような高単価のビジネススキル研修を売りたがっているようでもあった。さらに、後から気づいいたことだが、以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第30回)】ターゲット市場がニッチすぎて見込み顧客を発見できない」でも書いたように、キャリア研修の市場規模は、実は非常に小さかった。だから、「キャリア研修をいかにして売るか?」という課題は、解決するに値しない課題であった。

 以前の記事「『致知』2018年4月号『本気 本腰 本物』―「悪い顧客につかまって900万円の損失を出した」ことを「赦す」という話」では、資格勉強のe-Learning講座を提供するベンチャー企業で、新規事業の一部として中小企業診断士の講座を提供することになり、私が講座を担当したという話を書いた。しかし、この企業の収益の柱は依然として司法試験であり、この企業にとって新規事業とは、新しい収益源を作ることではなく、メニューの豊富さを潜在顧客に印象づけることができれば十分であるということに気づくことができなかった。つまり、この企業にとって、「どうすれば新規事業が成功するか?」という課題は存在しなかったのである。ベンチャー企業絡みで2度も似たような失敗をした私は全くの愚か者である。

 (3)最近、柄にもなく日本の課題というものを考えることがある。1つ目は超高齢社会にいかに対応するかである。旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」では下図を用いた。

<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 これからはネットワーク社会になるとか、フリーランス中心の社会になるなどと言われるが、日本は伝統的に儒教の影響を受けた階層社会である。その伝統が今後数十年の間に完全にひっくり返るとは思えない。もう1つの日本の伝統が年功制である。私は過去の記事で様々な切り口から業績給を計算する手法を試してみたものの、どれをとってみても企業の業績を完全に個人の給与に反映させることはできない。だからと言って、さらに意固地になって業績給を厳密に計算しようとすれば、人事制度がますます複雑になり、社員の理解が得られなくなる。人事制度はシンプルでなければならない。結局、不公平さは残るが最も単純な人事制度とは年功制である。年功制は、年々生活費が上昇する社員の生活を保障する役割も果たす。給与を業績給や役割給ではなく生活給とするのも、社員を家族のように大切にする日本のよき伝統である。

 上図を見ると、20代を底辺とし、60代を頂点とする従来型の階層組織に加えて、40代を底辺とし、70代、80代を頂点とする新しい階層組織が生まれると予想される。新しい組織は、従来型の組織ではポスト不足により昇進が見込めない人が起業・転職することで誕生する。私は年功制は支持するが、終身雇用は支持していない。以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(下)』―「雇用の維持」は企業の社会的責任か?」でも書いたように、終身雇用の下では深刻なポスト不足をもたらすからだ。事実、現在の大企業を中心に、バブル期に大量採用した社員が課長職あたりに滞留し、それ以降に入社した社員の昇進を阻止してしまっている。

 私が考えている課題とは、いずれのタイプの階層組織も年功制を維持しながら、かつ企業としての持続的な成長も達成するためにはどのような戦略を実行すればよいのか?ということである。また、40代以降の人々が新しいタイプの階層組織にスムーズに移行するためにはどうすればよいか?40代以降に期せずして起業・転職をした人が高いモチベーションを保って働き続けるためにはどうすればよいか?さらに、増加し続ける後期高齢者の医療や年金を支えるために、企業活動を医療・年金システムの中にどのように組み込めばよいのか?も考えなければならない。上図は2030年の予想図であり、この課題を解決するために残された時間は意外と短い。

 もう1つの課題は、国際社会における日本のポジショニングである。先日の記事「『世界』2018年2月号『反貧困の政策論』―貧困を解決するには行政がもっと市場に介入して消費者にお金を使わせればよい、他」でも書いたように、朝鮮半島はそう遠くない将来に、社会主義国として統一される可能性が高いと考える。これまでは、冷戦の遺産を朝鮮半島という狭い空間の中に閉じ込めておき、日本は日米同盟に守られながら朝鮮半島を傍観していればよかった。ところが、朝鮮半島が赤化すれば、冷戦の遺産は朝鮮半島の新国家対日本という構図に引き継がれることになる。相手は強烈な反日であり、もしかしたら核を保有しているかもしれない。

 だからと言って、いたずらにこの新国家と対立すれば、東アジアは米中対立の代理戦争の舞台となり、米中の思うつぼである。日本も朝鮮半島の新国家も深刻なダメージを受けるだろう。本ブログでたびたび書いてきたが、小国には大国同士の二項対立に巻き込まれないようにするために、二項混合という受け身を取ることができる。対立する大国のいいところ取りをすることで、独自の体制を築くわけである(タグ「二項混合」の記事を参照)。

 日本の場合は、資本主義・自由主義に軸足を置きつつも、社会主義の長所を取り入れる。その結果、正面から見ると何の絵か解らないが、右側から見ると資本主義が、左側から見ると社会主義が浮かび上がるような絵を描き上げる。そして、朝鮮半島の新国家に対しては、社会主義に軸足を置きつつも、資本主義・自由主義の長所を取り入れるように働きかけ、日本と同じように見る角度によって異なる絵が浮かび上がるような国家の形成を支援する。以上はまだ理想論・概念論にとどまっており、これを実務レベルにまで落とし込むことが私の課題である。



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