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山本七平『山本七平の日本の歴史(上)』(2)―権力構造を多重化することで安定を図る日本人
『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』レビュー記事の補足
『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年07月26日

山本七平『山本七平の日本の歴史(上)』(2)―権力構造を多重化することで安定を図る日本人


山本七平の日本の歴史〈上〉 (B選書)山本七平の日本の歴史〈上〉 (B選書)
山本 七平

ビジネス社 2005-02

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 (前回の続き)

 (2)後半では北畠親房の『神皇正統記』の分析が行われている。先日の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」」でも書いたように、著者は天皇制を後醍醐天皇までの「前期天皇制」と、北朝以降の「後期天皇制」に分けている。『神皇正統記』は、北畠親房が南朝そして前期天皇制最後の天皇である後醍醐天皇の正統性を論じた書物である。

 南朝は最終的に北朝に吸収され、足利尊氏が「後期天皇制」を始めるのだが、ここで著者は、天皇制が「下剋上」を前提としており、下剋上なしには天皇制の秩序は保たれないという、興味深い議論を展開する。下剋上的秩序とは、「下が上に向かって実質的な権力を行使することはあっても、下が上を打倒して自らが上になることではなく、したがって、下は上に向かって権力を行使しうるために、あくまでも上下の関係を下が維持しようとする関係」と定義される。これは、下が上を打倒する「反乱」とは区別して考えるべきである。

 ここに、天皇を頂点としながら、実質的には幕府が権力を握るという二重構造が成立する。以前の記事「相澤理『東大のディープな日本史』―権力の多重構造がシステムを安定化させる不思議(1)(2)」でも書いたように、こうした権力の多重構造はしばしば日本に見られる。

 通常は、権力を強化しようと思ったら、階層を少なくするものである。一時期、「組織のフラット化」というキーワードがアメリカから輸入され、過剰なミドルマネジメントを駆逐して複雑な組織構造をスリムにしようとする動きがあった。これは、まさに残された階層の権力強化を狙ったものである。ところが、日本においてはあまり組織のフラット化が進まなかったように思える。それどころか、中間管理職の割合はむしろ増加を続けている(以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(上)』―実はフラット化していなかった日本企業」を参照)。

 アメリカ的な一神教の世界では、神と個人の直接的な関係が理想とされる。神と個人との間に何かしら別の組織が介在する場合には、その組織の正統性が厳しく要求される。政府も、企業も、家族も、神との関係において自らの正統性を証明しなければならない。その証明が不十分な場合には、組織を排除する運動が起きる。個人主義者は封建的な家族制度を嫌い、共産主義者は企業(資本家)を打ち倒し、アナーキストは政府や国家という枠組みを取り払おうとする。

 一方、日本では神と個人との間に様々な組織が介入することを容認する。やや簡易的すぎるが、日本では、個人―家族―学校―企業・NPO―地域社会―地方自治体―政府―天皇(―神?)という重層的な関係が成り立つ。下位の層は、上位の層を「天」としていただく。そして、「天」としていただく限りにおいて、下位の層は自由に振る舞うことを許される。

 下位の層の自由とは、上位の層の権力からの自由ではなく、上位の層の権力を受ける限りにおいての自由である。日本では、神と個人との関係が単線的であるよりも、神と個人との間に多重構造が存在している方が、全体のシステムが安定する(以前の記事「山本七平『日本人と組織』―西欧と日本の比較文化論試論」を参照)。

 同じことは、同一組織内でも起こる。例えば企業の内部では、経営トップを頂点として、ミドルマネジメントが幾重にも重なる。その方が安定した経営ができるからだ。先日の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」」に登場した「文化的影響力」と「政治的影響力」という2つの言葉を使ってもう少し厳密に記述するならば、上位の層になればなるほど「政治的影響力」が薄れていき、「文化的影響力」の比重が重くなる。逆に、下位の層は強い「政治的影響力」を持つようになる。これが日本の組織である。

 言い換えれば、経営トップは企業理念やビジョンという抽象的な構想で組織全体の求心力を保つことしかできず、日常のオペレーションを担う現場の方が実質的には強い権限を持つ、ということである。アメリカの経営学者は、現場のリーダーシップを高めるために「権限移譲(エンパワーメント)」を行うべきだと主張している。しかし、日本企業の場合は、現場に権限があるのは当然であって、権限移譲というのは不可思議な現象ということになる。

 こうした権力構造で1つ困るのは、上位の層になればなるほど「政治的影響力」、すなわち実質的な権限が薄れていき、自由度が下がることである。にもかかわらず、「文化的影響力」は強くなっているという理由で、責任だけは重くなる。日本の組織では、組織論の重要な原則である「権限―責任一致の原則」が通用しない。日本の組織では「権限<責任の原則」が成立する。

 内閣総理大臣は、政治家ならば一度はやってみたいが、一度やったらもうやりたくないと思うものらしい(その意味では、再登板した安倍総理は例外である)。実際、内閣総理大臣の権限は狭く、リーダーシップが阻害されていると問題になる。企業に目を向ければ、最近では管理職になりたがらない社員が増えているという。事実上の権限は小さくなるのに、責任だけは大きくなっていくことに耐えられないのだろう。だが、これは日本的な社会システムを前提とすれば当然の帰結である。そのような人生をどう実り多いものにしていくか?これが次の重要な課題かもしれない。

2014年01月17日

『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』レビュー記事の補足


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 01月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 01月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-12-10

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 昨日書いた「『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む」の内容が抽象的すぎて自分の中で納得がいかず、このままでは悔しいので(苦笑)もうちょっと文章を続けることにする。

 (1)昨日の記事を書き終わる頃に思ったことだが、人を動かすのは結局のところ「与える力」に集約されるように思える。つまり、"Give and Take"であり、「先憂後楽」であり、「損して得を取れ」というわけだ。上司は部下に対して、やりがいのある仕事を与え、職場の同僚と一体感を味わえる環境を与える。そして、仕事の結果に対して公正な評価を与える。

 社内で上層部の人たちを動かす場合には、組織の重要な目的やビジョンを再認識する機会を与える。言い換えれば、彼らの目を覚まさせる。短期的かつ部分最適的な行動に走るよりも、中長期的な視点に立ち、本質的な目的に向かって変革を推進することが、組織に大きな利益をもたらすことを彼らに自覚させる。上層部の利益は、組織の利益と密接にリンクしている。したがって、変革が成功した暁には、彼らは現状維持のままでは手にすることがなかった名誉や報酬を得ることができる。変革を推進する者は、上層部に対してその可能性を与えるのである。

 社外の利害関係者との交渉は、まさに”与え合い”である。通常、交渉担当者は、最初は相手の利益のことを考えず、自分の利益を極大化する条件を提示する。言い換えれば、まずは”ふっかける”(アメリカ人の交渉はこの典型だと思う)。自分の利益を少なくするような条件提示をする交渉担当者など、まずいないだろう。だが、相手も自分と同じように、相手の利益を極大化する条件を提示するので、利害対立が生じる。そこからお互いに自分の利益を少しずつ切り崩し、相手にそれを与えながら、双方が納得のいくポイントを探り当てることになる。

 人は、自分に何かを与えてくれた人に対しては、お返しをしたいと思う傾向がある。心理学の世界では、これを「返報性の法則」と呼ぶ。人を動かすことが上手な人は、この法則をうまく活用していると思う。人を動かす力の本質は、「与える」という行為にある。まず先に相手に与えることで、相手から望ましい行動を引き出すわけである。

 (2)中小企業診断士の仕事を本格的にするようになってから約1年になるが、診断士はチームで仕事をしたがる傾向が強いことが解った。だが、私はどうもこの風潮が好きになれない。というのも、チームを構成する診断士がそれぞれ個人事業主であったり、自分の会社を持っていたりして、必ずしも一枚岩にはならないからである。昨日述べた分類に従えば、「動かす相手が社外」で「相手との関係は、自分と対等か相手の方が上」というケースに該当する。

 チームのメンバー間で利害調整の対象となるのは、主に「仕事の量・範囲」と「報酬」である。それぞれの診断士が異なる事業を営んでいるがゆえに、同じ仕事であっても、ある診断士にとっては優先度が高く、別の診断士にとっては優先度が低い、ということが往々にしてある。また、お互いの事業構造が異なるから、それぞれが思い描いている適正報酬のラインもバラバラだ。メンバーは仕事内容とフィーの調整に時間を取られてしまい、肝心の顧客企業が置き去りになりやすい。本来、コンサルタントは顧客企業にとっての価値を最優先すべきなのに、この構造だと「最小限の仕事で最大限のフィーをもらおう」と自己中心的に考える診断士が増えてしまうのである。

 この問題を解決する手段は、チームなどという生ぬるい組織化の代わりに、診断士を社員とする中小企業特化型のコンサルティングファームを作ることであろう。そうすれば、中小企業の価値創造に貢献するという組織の目的に全てのメンバーが合意し、顧客視点に立ってもっとスムーズに仕事を進められるに違いない。もっとも、私自身も現在は1人で事業を営んでいるから、こんな綺麗ごとを言う資格などないのだが・・・。

 余談だが、診断士同士のチームでも苦労するのに、診断士以外の専門家が集まると、なお厄介な問題が起きる。例えば、事業再生の現場では、会計士、弁護士、不動産鑑定士など、様々な専門家とチームを組まなければならない。

 診断士同士なら、知識的な背景は同じだからまだ話も通じやすい。だが、異なる士業が混じると、会計士は損益計算書や貸借対照表を綺麗にすることに、弁護士は債務や労使関係に関する法的問題を解決することに、不動産鑑定士は顧客企業の不動産価値を適正に算出することに関心が集中してしまい、話が通じにくくなる。しかも、診断士がそれぞれ個別で活動しているように、公認会計士たちも自分の事務所を持っており、事務所の利害を優先させがちだ。こうなると、診断士同士のチーム以上に、チーム内の利害関係の調整に労力を割かなければならなくなる。

 最近、中小企業の支援を強化する目的で、「地域プラットフォーム」なるものが形成されている。地域プラットフォームは、金融機関(主に信用金庫・信用組合)を中心に、商工会議所や商工会、各種中小企業支援団体(この中に診断士の団体が含まれる)などを構成メンバーとして、中小企業の経営革新を一体となって促進するものとされている。

 ところが、構成メンバーがそれぞれ違う利害を持っているから、地域プラットフォームの仕組みは非常に解りにくくなっている。商工会や商工会議所は会員企業を増やしたい、金融機関は融資先を開拓したいと思っている。だから、支援を依頼したい中小企業は、まず商工会や商工会議所の窓口に相談し、それから金融機関の窓口に行き、その後でないと診断士を始めとする専門家を紹介してもらえない。本来は、コンサルティングをお願いしたい中小企業が、専門家に直接支援をお願いすれば済むだけの話である。それが、構成メンバーの利害を満たすために、顧客本位でない仕組みになっているのは非常に残念だ。

 もっとも、こんな状態になっているのは、診断士の認知度が低く、能力が社会的に評価されていないのも一因だろう。診断士が力を持っていれば、こんな仕組みは生まれなかった。中企庁は、診断士が頼りにならないので、金融機関をメインとする仕組みを考えたのかもしれない。

 (3)一般的には、「影響力を発揮するには、スピーチやプレゼンテーションが上手でなければならない」と考えられている気がする。確かに、世界中に強い影響力を及ぼすアメリカ大統領には、スピーチのコンサルタントがついているし、画期的なイノベーションでアップルを再建したスティーブ・ジョブズは、プレゼンテーションの天才と呼ばれた。彼らの力強く、淀みない、簡潔で明快なメッセージは、多くの人の心を動かす。彼らに憧れる人々は、彼らの演説やプレゼンが収められたDVDを購入し、スピーチの上達法に関する書籍を読んで、少しでも彼らに近づこうと努力する。

 だが、私は敢えて逆のことを主張してみたい。つまり、人の心を動かすのに、必ずしも話し上手である必要はない。むしろ、話し上手は胡散臭い印象を与えることがある。確かに、非常に重要なプレゼンテーションで、入念に準備する時間があり、話し手が聞き手に一方的に話しかけるような局面では、話し上手の方が有利だ。しかし、人を動かさなければならない場面では、話し手に圧倒的な主導権が与えられているとは限らない。いやむしろ、そういうケースの方が稀である。

 部下に難しい仕事を依頼する、顧客に高度な製品を提案する、上司に新しい企画を提案する、仕入先と新しい取引条件について交渉する、緊急の仕様変更を製造部門にお願いする、従来とは異なる販促活動を営業部門に展開させる、金融機関に追加の借入を申し込む、工場の近隣住民からのクレームに対応する・・・このような日常業務の大半の場面では、ジョブズのプレゼンほど準備の時間もなく、相手からの予期せぬ質問に真摯な態度で対応し、手厳しい意見や批判に対しても即座に回答しなければならない。

 私の個人的な印象だが、そういう局面においてなお、力強く、淀みない、簡潔で明快なメッセージがすらすら出てくる人というのは、どうも心の底から信用できない。私は、そういう人には心を動かされない。なぜならば、あらかじめ用意されたメッセージをただ機械的に発しているだけで、自分の頭で考えた言葉になっていないと感じるからだ。相手が若ければなおさらであり、上司が教え込んだ言葉か、マニュアルにある言葉をそのまま使っているのだろうと勘ぐってしまう。

 このような場面で相手の心を動かすのに、話し上手である必要はない。相手の言葉をしっかりと受け止め、自分の頭で考えた言葉を少しずつ絞り出せばよい。それでも相手が納得しないならば、別の言葉を探し出す。必然的に、その人が発する言葉はどこかたどたどしく、冗長になる。文法的には多少の誤りを含んでいるかもしれない。それでも、そのようなごつごつとした発話の裏には、「あなたのために一生懸命言葉を紡ぎ出している」という熱意が感じられる。私は、きっとその熱意に心を動かされるだろう。本当の話し上手とは、自分らしい言葉で語れる人のことである。

2014年01月16日

『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 01月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 01月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-12-10

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 DHBR2014年1月号の特集は「影響力」。『影響力の武器』で知られるロバート・チャルディーニのインタビュー記事「どのように人は動かされるのか 【インタビュー】よい影響力、悪い影響力」や、リーダーシップ論の権威であるジョン・コッターの名論文「有能なマネジャーと無能なマネジャーは何が違うのか 権力と影響力」などが所収されている。

 特集タイトルからも解るように、影響力とは「人を動かす力」である。だが、同じように「人を動かす力」を意味する言葉には「動機づけ(モチベート)」がある。私の印象論だけかもしれないが、影響力は自らの権威や魅力を高めて、人々を自分の方に引き寄せることを意味するのに対し、動機づけはこちらから相手に積極的に働きかけることを要求する。つまり、両者は「人を動かす」という同じ目的を持っていながら、その手段は正反対なのである。そのせいか、両者の研究も今のところバラバラであり、お互いの研究結果をうまく活用できていない気がする。両者の研究がクロスして、研究により一層の深みが増すことを望んでいる。

 両者の研究を私なりにクロスさせてみたい(クロスというか、単純につないだだけだが・・・)。人を動かさなければならない局面というのは、「動かす相手が社内か社外か?」、「相手との関係は自分の方が上か、あるいは自分と対等か相手の方が上か?」という2軸でマトリクスを作ると、4つに分けられる。「動かす相手が社内」で「相手との関係は自分の方が上」という場面は、典型的な上司と部下の関係である。動機づけ理論の研究は、この場面を中心としている。

 上司と部下の関係においては、旧ブログの記事「《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より」で書いた3つの原則、すなわち(1)公平感、(2)連帯感、(3)達成感に訴えることを基本とした方がよいだろう(こう書くと、1年ほど前の記事「『強い営業(DHBR2012年12月号』―「モチベーションのダイバーシティ」に基づく報酬体系の必要性」で書いた内容と矛盾してしまうのが悩みどころだが・・・)。上司には、もともと管理職という地位パワーが備わっており、その意味では部下を動かしやすい条件が整っている。この3原則は、上司という地位の正当性を高めるための条件である。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 あるいは、ドラッカーがフレデリック・テイラーの「科学的管理法」を批判しながら述べたように、(1)要素作業が組み合わさった多様な仕事であり、(2)仕事のセルフコントロールが認められ(自律性)、(3)本人にとって挑戦的であること、つまりやりがいのある仕事を与えることが、最大の動機づけになるに違いない(以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(下)』―フレデリック・テイラー「科学的管理法」に対するドラッカー評」を参照)。ある銀行幹部の方が、以前こう教えてくれた。「部下の給与を上げれば、1週間はモチベーションを上げられる。部下を褒めれば、それが1か月になる。やりがいのある仕事を与えれば、それが1年になる」

 「動かす相手が社内」で、「相手との関係は、自分と対等か相手の方が上」という場面は、組織の指揮命令系統を外れて、組織変革のために上層部を動かしたり、他部署の社員を巻き込んだりしなければならない場合が該当する。このケースは動機づけ理論ではなく、影響力の範疇に入る。このケースでは、上司と部下の関係のように地位パワーに頼ることができないため、先ほどの3原則とは異なる作戦を練らなければならない。

 地位パワーを持たない不利な状況にあって、唯一自分と相手が同じ土俵に立てるのは、組織の目的やビジョンをめぐってである。同じ組織に属する人間であるからこそ、自分が相手にお願いしようとしている行動が、組織の目的を達成する上で不可欠であり、組織のビジョンと合致することを訴求することができる。その要求が魅力的なストーリーに仕上がっていれば、相手はきっと心を突き動かされることであろう。上司が部下に対して使う命令の代わりとなるのが、このストーリーである。相手を動かす力の源泉は、「物語の構築力」にある(旧ブログの記事「地位パワーがなくてもリーダーシップは発揮できる(1)-『静かなる改革者』(2)」を参照)。

静かなる改革者―「しなやか」に「したたか」に組織を変える人々静かなる改革者―「しなやか」に「したたか」に組織を変える人々
デブラ・E・メイヤーソン 北川 知子

ダイヤモンド社 2009-07-03

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 「動かす相手が社外」で、「相手との関係は自分の方が上」という象限には、昔であればメーカーにとっての顧客が該当した。ところが、最近では顧客がめっきり力をつけてきており、力関係が逆転している。よって、このケースは、現実にはほとんど存在しないと思う。「動かす相手が社外」で、「相手との関係は、自分と同等か相手の方が上」という場面の方が圧倒的に多く、社外の様々なステークホルダーとの交渉ごとはほぼ全てここに当てはまる。そして言うまでもなく、このケースは影響力の研究範囲である。

 この場合は、組織が違う以上、もはや同じ土俵に立つことすら難しい。以前の記事「『リーダーは未来をつくる(DHBR2012年11月号)』―共有価値観で結ばれた利害関係者の生態系」などでしきりに私が使っている「価値観連鎖(Values Chain)」というコンセプトに従って、自社と関係を有する組織の目的や価値観が、自社のそれに近づくようにする(あるいは自社が相手の組織に合わせる)ことが一つの手段ではある。しかし、これは自社と社外組織がほぼ運命共同体のようなもので、お互いに相手が存在しなければ自社のビジネスが成立しない、というぐらい密接な関係にある場合に限定されるであろう。

 自社と社外組織は異なる目的やアイデンティティを持っている以上、利害も別物である。お互いにとって何が最大の利益なのかは全く違っており、その内容を近づけることは難しい。となると、残りはお互いに歩み寄りながら、「利害の最適化」を行うしかない。相手に何かを要求する代わりに、自社は何かを諦める。国家同士の交渉は、まさに条件という名のカードを出し合うゲームである。その繰り返しによって、双方が納得する最適化ポイントを見つけ出す(旧ブログの記事「合意形成の実践的手引書だね-『コンセンサス・ビルディング入門』」を参照)。

コンセンサス・ビルディング入門 -公共政策の交渉と合意形成の進め方コンセンサス・ビルディング入門 -公共政策の交渉と合意形成の進め方
ローレンス・E.サスカインド ジェフリー・L.クルックシャンク 城山 英明

有斐閣 2008-04-11

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