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DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(1)
鈴木康司『中国・アジア進出企業のための人材マネジメント』―職能資格制度に関する一考

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年08月14日

DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(1)


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-08-10

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 20代の初めにピーター・ドラッカーの著書を読んだ時、「トップマネジメントはチームで仕事をしなければならない」という記述を見て、社会人経験の浅い私は、「トップマネジメントと言えば社長もしくはCEO1人なのではないか?」と素朴な疑問を持ったものである。もちろん、今ではトップマネジメントはチームでなければ機能しないことを十分に理解している。CEOの他にCFO、CIO、CISO(最高セキュリティ責任者)、CMO、CDO(最高デジタル責任者)、CHRO(最高人事責任者)、CTO(最高技術責任者)、CKO(最高知識責任者)、CPO(最高購買責任者)、CSRO(最高社会的責任担当者)など、様々なCスイート人材がチームを組んで経営にあたっている。

 トップマネジメントチームの仕事は、一言で言えばもちろんマネジメントなのだが、マネジメントに関する業務を全て引き受けていてはチームがパンクする。ミドルマネジメントや現場社員に権限移譲できる仕事はどんどん委譲し、トップマネジメントチームはトップマネジメントチームでなければ遂行できない業務に注力するべきである。では、トップマネジメントチーム固有の仕事とは一体何であろうか?ドラッカーは、経営者が答えるべき問いとして、①我々のミッションは何か、②我々の顧客は誰か、③顧客にとっての価値は何か、④我々の成果は何か、⑤我々の計画は何か、という5つを挙げたが、この5つの質問に答えることだけが仕事ではないと思う。

 本号には、競争戦略論で有名なマイケル・ポーターと、ハーバード・ビジネス・スクール学長であるニティン・ノーリアによる「延べ6万時間のデータ分析から見える理想と現実 CEOの時間管理」という興味深い論文が掲載されていた。ポーターは近年、経済的価値と社会的価値の創出を両立させる「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」という概念を提唱しているのだが、その傍らで、2006年から大企業のCEOの時間の使い方を調査していたようだ。

 ドラッカーも、「時間の使い方をマネジメントするのが経営者である」と述べていたもののの、実際にCEOがどのように自らの時間をそれぞれの業務に配分しているのかという点に関する研究は少ない。ポーターによれば、ヘンリー・ミンツバーグが5人のCEOに5日間密着した研究と、ラファエラ・サドゥンが114人のCEOに1週間にわたって毎日電話をかけて実施した研究があるぐらいだそうだ(ただ、私の記憶によれば、変革リーダーシップ論で知られるジョン・コッタ―も、若い頃にCEOの仕事に密着した研究を実施したことがある。その研究結果は、1984年の『ザ・ゼネラル・マネジャー』の復刊本にあたる『J. P. コッター ビジネス・リーダー論』〔ダイヤモンド社、2009年〕で知ることができる)。ポーターの調査は、27人のCEOに3か月間密着した研究であり、調査期間の長さに特徴がある。収集したデータは延べ6万時間分に上る。

J. P. コッター ビジネス・リーダー論J. P. コッター ビジネス・リーダー論
ジョン P.コッター 金井 壽宏

ダイヤモンド社 2009-03-13

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 調査結果の具体的な中身は論文に譲るとして、この調査から明らかになったCEOの時間の使い方、すなわちCEOが実際に行っている仕事の種類をベースに、私がトップマネジメントチームにしかできないと考える仕事を7つ挙げてみたい。

 (1)企業文化の醸成
 私は、トップマネジメントチームが真っ先に取り組まなければならないのは、次に述べる戦略の立案よりも、この企業文化の醸成であると思う。具体的には、自社がよりどころとする価値観を定め、それを組織の隅々まで浸透させる。とはいえ、価値観は決して普遍・不変ではなく、トップマネジメントチームから現場社員に対して一方的に伝達されるものではない。トップマネジメントチームは価値観について社員と積極的に対話し、価値観に対する理解を深め、時に価値観を修正する必要がある。言い換えれば、価値観は組織的な学習プロセスを通じて進化する。

 価値観とは、自社が意思決定を下さなければならない時に判断の基準となるものである。ブログ別館の記事「稲盛和夫『生き方―人間として一番大切なこと』―当たり前の道徳を実践することの重要性」で書いたように、人間として当然守らなければならない基本的な道徳・倫理を価値観としている企業もあれば、もう少し複雑な価値観を持っている企業もあるだろう。重要なのは、価値観を組織の中に埋もれたままにするのではなく、全て可視化することである。トップマネジメントチームが我が社の価値観はこれで十分だろうと思っても、細かい価値観が業務慣行や職場環境などの中に埋め込まれていることがある。そのような価値観を発掘し、価値観同士の間で矛盾がないようにするのがトップマネジメントチームの仕事である。

 そして、その価値観を企業文化へと昇華させなければならない。つまり、価値観を戦略や製品・サービスといった企業の基本的要素、研究開発、マーケティング、購買、製造、物流、営業、販売などの各種業務プロセス、組織構造、人事制度、予算制度、情報システムといった企業のインフラに浸透させ、それぞれのコンポーネントが自社の価値観を完全に体現するものにすると同時に、各コンポーネント間で価値観をめぐる矛盾や対立がないようにする必要がある。これは非常に重要であるが、価値観が首尾一貫している企業は少ない。例えば、マスコミにとっては、国民の生命を守るための情報を提供することが重要な価値観の1つである。だが、NHKはニュースで「熱中症の危険があるため、日中の運動は避けよ」と呼びかける一方で、灼熱の甲子園で試合をする高校野球を放映して視聴率を稼いでいる。これは大きな矛盾である。

 (2)戦略の構想
 戦略にはマーケティング戦略とイノベーション戦略の2つがある。マーケティングとは、既存市場のパイを奪い合う行為である。これに対してイノベーションとは、新しい市場を創造するか、既存市場の産業構造やビジネスモデルを抜本的に破壊する行為である。トップマネジメントチームは常にこの2つの戦略を意識する必要がある。

 ただ、ブログ別館の記事「河合忠彦『複雑適応系リーダーシップ―変革モデルとケース分析』―複雑系の理論を取り入れたことで論理展開がカオスに」で述べたように、マーケティングに関しては、既に事業構造やビジネスモデルが確立しているから、現場への権限移譲を積極的に進めるべきである。既存の市場・顧客に関する情報は、トップよりも現場の方がたくさん持っている。もし、現場社員が生の情報に基づいて、製品・サービスの改良、価格の改定、販売チャネルの再構築、プロモーションの改善を思いついた場合には、そのアイデアをトップマネジメントチームが吸い上げ、マーケティング戦略を改善する。

 その過程で、トップマネジメントチームも受動的になっていてはダメであり、普段から定期的に重要顧客に会いに行き、ニーズを汲み取っておく必要がある。現場社員が個別の顧客から得た局所的なアイデアと、トップマネジメントチームが重要顧客から得た大局的なアイデアを突き合わせて、マーケティング戦略を高度化させる。ポーターの調査によれば、CEOが重要顧客のために費やす時間はわずか平均3%であり、これでは少なすぎるであろう。

 トップマネジメントチームがより注力すべきなのは、イノベーション戦略である。だが、これも非常に難しい。以前の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた「新市場開拓戦略」は、既存市場に新たな市場を付加するものであるからそれほど問題は起きない。だが、「代替品開発戦略」は、既存事業の製品・サービスに取って代わる非連続的な技術を用いた製品、顧客のニーズを別の形で満たす新製品・サービス、あるいは破壊的イノベーションなど、既存事業を脅かすものである。トップマネジメントチームのメンバーは、基本的に既存事業で成功を収めたことで現在の地位に上り詰めた人たちばかりである。イノベーション戦略は、彼らに自らの過去の成功を否定せよと迫るわけである。

 しかし、トップマネジメントチームがイノベーション戦略から目を逸らし、既存事業のマーケティング戦略に安住していれば、やがて新興企業がゲームのルールを破壊しながら参入し、自社を窮地に追いやるであろう。そして、トップマネジメントチームは業績不振の責任を取らなければならない。だとすれば、裏を返せば、自社が新興企業のイノベーションによって業績不振にならないよう、自ら能動的にイノベーション戦略に着手し、自社の構造を抜本的に刷新して経営の維持、業績の拡大を図ることは、トップマネジメントチームの責任に他ならない。

 (3)コア人材の育成
 日本企業も経営幹部の後継者育成に着手し、Aクラス人材を選抜して集中的に教育するプログラムを展開しているところが増えている。だが、後継者育成プログラムの対象となる社員数は、せいぜい数十人程度であろう。エド・マイケルズらの『ウォー・フォー・タレント―人材育成競争』(翔泳社、2002年)によると、海外の企業のトップマネジメントは、自社の300~500程度の重要なポジションについて、現在そのポジションについている社員(マネジャー)を育成し、彼らのその後のキャリアパスを想定すると同時に、彼らの後継者として誰を据えるかについて、事業部門のトップ、人事部門などを巻き込みながらかなりの時間をかけて議論をしているという。これらのポジションは、価値観を組織内に浸透させ企業文化を醸成するとともに、戦略の立案・実行において重要な役割を果たすから、トップマネジメントが育成に注力しているわけである。

 (※)『ウォー・フォー・タレント―人材育成競争』は、そのタイトルからして、労働市場において優秀な人材を奪い合う方法について書かれた本なのだろうと勝手に思い込んでいた。最近、アメリカではGoogleやApple、Facebookなど一部の強力な企業が優秀な人材を囲い込んだ結果、ますます企業間の競争力の差が拡大し、それが賃金格差の広がりにつながっているとして問題になっている。だが、本書を読んでみると、実際には内部人材をいかに育成するかに焦点が当てられているように感じた。だから、副題が「人材”獲得”競争」ではなく、「人材”育成”競争」になっているのであろう。本書については、ブログ別館でも取り上げる予定である。

ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)
エド・マイケルズ ヘレン・ハンドフィールド=ジョーンズ ベス・アクセルロッド マッキンゼー・アンド・カンパニー

翔泳社 2002-05-18

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 アメリカの場合、元々本社の人事部門の力が弱く、給与計算や福利厚生、全社共通の基礎的な研修の運営などが中心である。採用、配置、異動、評価の権限は、それぞれの事業部門の中に配置された人事部が持っている。だから、全社的に人材育成を行おうとすると、本社の人事部門に頼ることはできずに、各地に散らばっている事業部門のトップや人事部を一堂に集めて議論しなければならない。そのため、どうしても時間がかかる(トップマネジメントチームが重要顧客に会う時間が少ない要因の1つになっているかもしれない)。逆に、日本の場合は、本社の人事部に強大な権限がある。よって、トップマネジメントチームがコア人材の育成を行うには、本社人事部の力を大いに借りるとよい。本社人事部は、各社員の能力・経歴・キャリア志向などに関する情報をたくさん集めている。トップマネジメントチームはその情報を活用して、数百名のコア人材を育成する。そうすれば、アメリカ企業ほど時間はかからないであろう。

 (続く)

2017年06月14日

鈴木康司『中国・アジア進出企業のための人材マネジメント』―職能資格制度に関する一考


中国・アジア進出企業のための人材マネジメント中国・アジア進出企業のための人材マネジメント
鈴木 康司

日本経済新聞社 2005-08

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 本書の冒頭で次のようなケーススタディがあった。ある日系企業が中国に生産拠点を持っている。社長の直下には工場長と管理本部長がいる。工場長の直下には生産部長、開発部長、総務部長がいる。管理本部長の直下には営業部長と人事部長がいる。社長、工場長、管理本部長、生産部長、営業部長の4人は日本からの駐在員だが、総務部長と人事部長はローカルの社員である。拠点立ち上げ期からの社員で勤続年数が長く、会社の事情にも精通している。また、各部長の直下には各課があり、課のメンバーは皆ローカル社員である。この日系企業は経営の現地化を進めたいと考えている。それから、総務部長と人事部長は定年が近づいており、後継者の育成が急務である。それ以外にも、この生産拠点は人事面で様々な課題を抱えている(詳細は割愛)。さて、この日系企業に対してどのような助言をするか?というのが問題である。

 私は、この生産拠点を単純に現地化しただけでは、部長以上はローカル社員に置き換わるかもしれないが、その他大勢のローカル社員が出世するポストが圧倒的に不足すると感じた。そこで、この生産拠点を販売機能も持つ事業会社にし、戦略を抜本的に見直すことを考えた。販売機能を加えると、当然のことながら業務プロセスや組織体制ががらりと変わる。新しく生じたポストにローカル社員を積極的に登用する。ドラッカーは、「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てるべきだ」と主張していたが、20世紀の前半に経営難に陥ったIBMが人員削減をせず、経営陣が必死に仕事を作り出して雇用を維持したことを称賛していた。そのことが頭にあったので、敢えて「人に仕事を割り当てる」という方法を私は思いついたわけである。

 だが、著者の見解は異なっていた。まず、現在それぞれの職務・役職についている人がどのような仕事をしているのか棚卸しする。次に、その職務・役職に追加すべき仕事、逆にその職務・役職から取り除くべき仕事、また複数の職務・役職の間で役割分担を見直した方がよい仕事を検討する。すると、それぞれの職務・役職についてあるべき「職務定義書」ができ上がる。この職務定義書に基づいて、業務を遂行するために必要な能力・知識を整理する。共通する能力・知識が必要とされる職務・役職については、同じレベルの職能資格としてまとめる。こうして、日本企業のよさである職能資格制度を強化する形で改革を進めるというのが著者の提案であった。著者はタワーズワトソンの人事コンサルタントであるから、こういう案になったのだろう。

 著者の提案は、私の案に比べると漸次的である。以前の記事「『思いを伝承する(『致知』2016年8月号)』―最近の私の5つの価値観について(1)(2)」で、「大きすぎる目標を立てない」と書き、さらに「檜垣立哉『ドゥルーズ―解けない問いを生きる』―「To-Beを描いてAs-Isとのギャップを埋める」というコンサル手法を改められないものか?」で、常に変化する現状という川の中で顧客企業と一緒に泳ぎながら少しずつ理想の姿に近づけていくコンサル手法を編み出せないものかと書いておきながら、相変わらず抜本的な改革をしようとしていたことを反省した。長年染みついた慣習というのはかくも恐ろしいものである。

 職務・役職に求められる仕事・役割から職能資格制度を導く手順は大まかに以下のようになる(下図を参照)。まず、各部門の階層を全て書き出す。そして、それぞれの階層で要求される仕事や役割の内容を具体的に整理する。下図の例では、3つの事業部があり、A事業部は典型的な階層組織になっている。B事業部は事業規模が大きいため、部長補佐や課長代理がおり、スタッフも3階層に分かれるなど、階層の数が多くなっている。これに対してC事業部はまだ小規模であることから、階層の数が少ない。全ての仕事を書き出したら、それらの仕事で要求される能力・知識を洗い出す。下図の例ではマネジメント能力、オペレーション能力を6つずつ抽出している。

職務定義と職能資格

 それぞれの能力には1~5のレベルがある。例えば、オペレーション能力の「外向性」は、
 ・新しいネットワークを広げられる場に進んで出かけ、初対面の人にも自分から近づき、積極的に声をかけられる。
 ・社内外の関係者で、普段あまり交流のない人、自分と異なる視点や考えを持つ人とも積極的に話をすることができる。
 ・相手が話をしている時には、好奇心をもって耳を傾け、様々な質問を投げかけることができる。
 ・建前や体裁を気にすることなく、自分の思いや考えを率直に口に出して言うことができる。
 ・好奇心を持って新しい情報に触れ、様々なことにチャレンジすることができる。
などと定義し、
 Level5:高い成果を出す方法について、周囲の人に教えることができる。
 Level4:自分でやり方を工夫して、より高い成果を出すことができる。
 Level3:上司や同僚の助けがなくても仕事の大半を自主的に実行できる。
 Level2:上司や同僚の助けを少し借りれば仕事の大半を実行することができる。
 Level1:上司や同僚に大部分を助けてもらえば仕事の大半を実行することができる。
といったレベル分けをする。マネジメント能力の「実行・遂行力」は、
 ・周囲の動きを待つのではなく、自分がまず動いてみることで、自ら状況を変えることができる。
 ・「やる」と周囲に宣言することで、自分を行動に駆り立てることができる。
 ・実行プランはタイミングを逃さず、前倒しで実行することができる。
 ・必要以上に慎重にならず、やると決めたらためらわずにすぐに実行に移すことができる。
 ・場合によっては、関係者の意見調整に時間をかけるより、実績・結果を先に出してしまうことで周囲に認めさせることができる。
などと定義し、
 Level5:統括部長またはそれに相当する役職で能力を発揮できる。
 Level4:事業部長またはそれに相当する役職で能力を発揮できる。
 Level3:部長またはそれに相当する役職で能力を発揮できる。
 Level2:課長またはそれに相当する役職で能力を発揮できる。
 Level1:管理職の最下層またはそれに相当する役職で能力を発揮できる。
といったレベル分けをする。上図では、A~C事業部の各階層において、それぞれの能力に関しどのレベルが要求されるのかを簡単に示している。A事業部はオーソドックスなレベル分けになっている。B事業部にいる部長補佐や課長代理については、マネジメント能力のうち、一部の能力は部長や課長レベルまで要求しない設計になっている。逆に、C事業部は階層が少なく、部長でも事業部長レベルの能力が、課長でも部長レベルの能力が要求されることを示している。

 能力のレベル分けが終わったら、職能資格制度における等級を定義する。上図では、
 M5:マネジメント能力が全てLevel5以上。
 M4:マネジメント能力が全てLevel4以上。
 M3:マネジメント能力が全てLevel3以上。
 M2:マネジメント能力が全てLevel2以上。
 M1:マネジメント能力が全てLevel1以上。
 O5:オペレーション能力が全てLevel5以上。
 O4:オペレーション能力が全てLevel4以上。
 O3:オペレーション能力が全てLevel3以上。
 O2:オペレーション能力が全てLevel2以上。
 O1:オペレーション能力が全てLevel1以上。
という形で、合計10の職能資格を用意している。もちろん、これは非常に単純化した例であり、実際には能力や等級の定義方法はもっと多彩である。

 さて、企業は自社を持続的に発展させるべく戦略を立てる。そして、その戦略を実現するための業務プロセスを定義する。すると、現場ではどういう形で役割分担をした方がよいのか、現場の業務は何階層でマネジメントした方がよいのかが見えるようになり、あるべき組織像が明らかになる。その組織図のそれぞれのポジションに、どの社員をあてがっていくのかを計画するのが後継者育成計画である。3年後の戦略と目標を立てた場合には、3年目の初めにあるべき組織図が実現されている必要がある(3年”目”の組織体制で、3年”後”の戦略目標を達成するため)。以下に、A事業部の後継者育成計画のイメージを示す(事業部長とスタッフは省略)。

後継者育成計画

 組織図上のそれぞれのポジションに、3年目に誰をあてがうのか、具体的に名前を書いていく。P課はオーソドックスな昇進を考えており、課長(職能はM2)はM1から、係長(職能はO5)はO4から、リーダー(職能はO4)はO3からあてがうことを計画している(同じ候補者が複数のポジションに登場しても構わない)。一方のQ課は、新しい分野に挑戦することという戦略の下、若手の積極的な登用を考えている。そのため、課長(職能はM2)には、M1の候補者に加え、O5の優秀な社員の中から飛び級であてがうことも視野に入れている。ただし、思った通り適任者が見つからなかった場合の保険として、外部から中途採用することも同時に検討する。Q課の2つの係のうち、右側の係でも同様に中途採用が検討されている。リーダー層(職能はO4)については、O3から調達するだけでは人数が足りない可能性があり、新卒採用で補う計画である。

 もちろん、これはまだ会社都合で作られた未来の組織図にすぎない。マネジャー層は部下と面談を行い、部下が望むキャリアの方向性を把握する。その内容を反映させて、未来の組織図を修正していく。こうしてでき上がった組織図には、それぞれの社員が3年目までにどのようなポジションを目指す必要があるのかが書き込まれている。個々の社員について、あるべき姿と現状のギャップを分析し、ギャップを埋めるための人材育成・能力開発計画を作成することになる。

 以上が職能資格制度の大まかな運用方法であるが、職能資格制度にはメリットとデメリットがあると感じる。メリットは、全社員の能力レベルが全社統一基準で把握できるため、後継者育成計画を立てやすい、ということである。例えば、上図の例で言うと、A事業部にはM1という職能に相当する役職がない。そのため、課長(職能はM2)の後継者としてM1の社員をあてがうには、他の事業部から引っ張ってくる必要がある。仮に全社員の職能が人事部でデータベース化されていれば、データベースからM1の社員を簡単に探すことができる。

 デメリットは、それぞれの階層で要求される仕事のレベルを能力に落とし込む時に、情報がどうしても抽象化されてしまい、具体的で重要な情報が漏れてしまう恐れがある、ということである。職能資格制度は目標管理制度とセットで運用されていることが多いと思うが、この場合、社員は期初に、自分の職能資格で求められている能力の一覧を頼りに、目標を5個程度設定する。ところが、能力自体の定義は一旦抽象化された情報であるから、それに基づいて目標を設定すると、本来その役職・職務で要求される仕事のレベルと、目標のレベル感がずれることがある。つまり、能力という抽象的なクッションを1つ挟むことで、本来求められる仕事・役割と、設定した目標の中身が全く別物になってしまう可能性が高いのである。

 個人的には、職務定義で整理した職務要件からストレートに目標を設定するのが望ましいのではないかと考えている。それも、できるだけ小さな目標をたくさん立てるのが日本人には合っていると思う。アメリカ人はまず野心的な目標を立て、その目標を達成するカギとなるCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を特定して、そこに全エネルギーを集中させる。これに対して、日本人というのは、あまり明確で挑戦的な目標を立てない。日々の仕事の中で当たり前のことを当たり前に努力してやっていれば、自ずと結果がついてくるものだと信じている。

 その「当たり前のこと」が時に20~30個と非常に多岐に渡るのが日本の特徴である。目標の中には、役割・成果との結びつきが連想しやすいものから、5Sや自己啓発といった、一見すると業務との関連が解りにくいがよく考えると重要なものまで含まれる。こうした小さな目標を1つずつ地道にクリアしていくことに、日本人は働き甲斐を感じる。卑近な例えだが、気泡緩衝材(いわゆる「プチプチ」)の1つ1つの泡を潰すことに快感を覚えるようなものだ。もちろん、この方法をとった場合、目標の数が多すぎて管理できないのではないか?達成できなかった目標はどう評価すべきか?といった問題が生じる。また、職能資格制度と異なり、評価業務や後継者育成計画作成が非常に煩雑になる。これらの点をどうクリアしていくかが今後の私の課題である。




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