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【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察
【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年05月22日

【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察


アイデア

 《参考記事》
 (a)【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)
 (b)【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見
 (c)DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
 (d)DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)
 (e)DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他

 今回の記事は、上記の参考記事の内容をまとめ直したものである。企業の目的は何かと問われれば、私はピーター・ドラッカーの「顧客の創造」という説を真っ先に支持する。ここで言う顧客の創造とは、顧客の人数を量的に増加させることと、顧客に対する提供価値(顧客価値)を質的に増大させることの両方を含む。アメリカ人であれば、企業の目的は株主価値を増大させることだと即答するだろう。しかし、私はこの考え方を採用しない。なぜならば、株主価値の増大が目的であればその手段は何でもよいことになり、極端なことを言うと株主から預かった資金を全て投資に回して大きなリターンを得ることでも正当化されてしまう。仮に、全ての企業がこのような行動を取ったら、経済が回らなくなるのは目に見えている。

 企業の目的は顧客、社員、取引先、株主、金融機関、教育・研究機関、地域社会などステークホルダーの利益を最適化することだという立場もある。昨今、欧米から株主至上主義が流れ込んできても、日本企業にはこうした考え方が根強い。多様なステークホルダーのバランスを取ろうというわけだ。ただ、この場合、例えば顧客の利益を犠牲にして社員や取引先など他のステークホルダーの利益を調整することが正当化されてしまう。私はこうしたやり方にも与しない。

 企業にしかできないことは、経済を機能させるために顧客を創造することである。だから、企業の目的は顧客の創造という1点に尽きる。しかしながら、企業には様々なステークホルダーが関わっているのも事実であり、彼らは彼らなりの目的を持ち、存続を願っている。その点に配慮することが、企業が遵守しなければならないルールである。つまり、企業は、ステークホルダーを存続させるという要請から発生するルールを守りながら、顧客の創造という目的を達成しなければならない。例えて言うならば、100m走の目的は「他のランナーよりも速く走ること」という1点であり、スターティングブロックを使うこと、ラインの内側を走ることなどは絶対に破ってはならないルールであるのと同じである。これは、ステークホルダー間の利害を調整することとは全く異なる。

 以下、戦略立案プロセスを概観しながら、企業が守るべきルールを整理してみたい。

 ①事業機会の抽出
 外部環境アプローチに従う場合は、参考記事(a)で示したように、アンゾフの成長ベクトルを拡張したフレームワークを活用して事業機会を網羅的に洗い出す。内部環境アプローチに従う場合には、マクロの視点とミクロの視点の2つがある。マクロの視点に立つ場合は、資源ベース理論を活用して自社のコア・コンピタンスを特定し、それを活用し得る事業機会を考案する。ミクロの視点に立つ場合は、参考記事(c)で示したように、社員に対するキャリアコンサルティングの結果を活用して、社員の「『価値観―できること(能力)―やりたいこと』セット」を摘出する。

 ②事業機会の評価
 ①で抽出した事業機会のうち、どの事業機会に取り組むかを決定する。外部環境アプローチで用いられるPEST分析と、内部環境アプローチで用いられるVRIOフレームワークを用いる(ただし、参考記事(b)で書いたように、PEST分析はS(Society)を省略してPET分析としてもよい)。外部環境アプローチで抽出した事業機会についてはVRIOフレームワークによる分析を、内部環境アプローチで抽出した事業機会についてはPE(S)T分析を特に重点的に行う。

 ③競合他社の特定とその戦略の変化の予測
 ②で事業機会を絞り込んだら、競合他社を特定する必要がある。競合他社には、ⅰ)全く同じカテゴリに属する製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばビール会社)、ⅱ)類似の製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばチューハイ、カクテル、日本酒、焼酎、ワインなどの会社)、ⅲ)顧客が同じニーズを満たすことのできる別の製品・サービスを提供する企業(例:ビールを飲むのがストレス発散のためであれば、ストレス発散のためのカラオケ、レジャー施設、スポーツクラブなどが競合他社にあたる)の3種類がある。この3種類のカテゴリについて主要な競合他社を数社ずつピックアップした上で、その競合他社を取り巻く環境変化を分析し、競合他社がどのように戦略やポジショニングを変更してくるかを予測する。

 ④差別化要因・ポジショニングの決定
 ③の予測に基づいて、自社は②で選択した事業機会において、競合他社とどのような点で差別化を図るのか、どのようなポジショニングを取るのかを決定する。競合他社の戦略も変化する点はしばしば見落とされるので注意が必要である。現在の競合他社のポジショニングを参考に自社のポジショニングを決定した場合、競合他社が環境変化に伴って将来的にポジショニングを変更したら、自社のポジショニングが無効になってしまう。

 ⑤戦略的目標の決定
 ②で市場規模を、③で競合他社の数を把握しているので、その数値を基に、④のポジショニングに従って戦略を実行した場合の目標売上高、利益、市場シェアといった目標を設定する。

 ⑥CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ①の分析で外部環境・内部環境に関する情報はある程度収集できているが、参考記事(b)で書いたように、改めてクロスSWOT分析を用いてその情報を整理し直す。クロスSWOT分析は、「機会×強み」、「機会×弱み」、「脅威×強み」、「脅威×弱み」といった具合にクロスで見ることが重要であり、この4つの視点から、新しい事業を成功させるための要因(CSF)を導き出す。

 ⑦ビジネスモデルのデザイン
 ビジネスモデルとは利益創出の図式であるが、ヒト・モノ・カネ・情報・知識といった経営資源がどのように流通するのかも図式化した方がよい。一時期「ビジネスモデルキャンパス」が流行ったものの、要素間の関係が不透明で、ビジネスが筋の通った物語になっているかを検証できないという弱点がある。やはり、自社をはじめとする各プレイヤーと、プレイヤー間の関係を丁寧に図に落とし込んでいくのがよい。その際、モノを供給する取引先を描くことはもちろんのこと、ヒトを供給する家族、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関も描くのが望ましい。描かれたビジネスモデルは、⑥で特定したCSFが達成されていなければならない。

 ⑧ビジネスプロセスのデザイン
 ビジネスモデルは新しい事業に関与するあらゆるプレイヤーを描き込んだ全体像であるが、今度は自社の具体的なビジネスプロセス(業務プロセス)を設計する。ここでも、⑥で特定したCSFを達成することができるビジネスプロセスをデザインする必要がある。まずは、マイケル・ポーターの「バリューチェーン」のフレームワークを使って、各部門の大まかな機能を列記する。次に、それぞれの部門の機能を具体的な業務プロセスへと落とし込んでいく。

 ⑨目指すべき企業文化の定義
 参考記事(e)で述べたように、新しい戦略の実行には、企業文化の変化を伴うものである。ただし、企業文化は組織や社員に深く根を下ろしており、一気に変えることは大きな困難を伴う。企業文化は漸次的に変化させるしかない。まず、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現することができる企業文化とは何かと問う。次に、現在の自社の企業文化を分析する。両者のギャップが小さい場合には、簡単な行動変容プログラムを策定すれば十分であろう。しかし、両者のギャップが大きい場合には、せっかくの戦略も実行段階で頓挫する恐れがある。その場合には、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現するプロセスに段階(フェーズ)を設け、徐々に企業文化を変革するように配慮する必要がある。

 ⑩課題解決のための戦略的打ち手の導出
 ⑦のビジネスモデルを実現するための課題、⑧のビジネスプロセスを実現するための課題、⑨の企業文化を実現するための課題を整理し、これらの課題を解決するための戦略的打ち手を定義する。課題は、例えば単に「営業力の強化」と抽象的に掲げるのではなく、「既存顧客の購買履歴を活用するITの構築」といった具合に具体化する必要がある。課題を掘り下げるコツは、ビジネスモデルやビジネスプロセスに経営資源を投入する際の「仕組み」に着目することである。ヒト・知識であれば組織編成や人事・教育制度、モノであれば調達制度や物流の仕組み、カネであれば資金調達の仕組みや予算配分の制度、情報であればITの切り口から検討する。

 ⑪戦略的打ち手の優先順位づけ
 ⑩で出てきた複数の戦略的打ち手に優先順位をつけるには、「投資対効果の大小」と「導入の難易度の高低」という2軸でマトリクスを作り、それぞれの打ち手をマッピングするとよい。投資対効果が大きく、導入の難易度も低い打ち手があれば最優先で取りかかるべきだ。逆に、投資対効果は小さいのに導入の難易度が高い打ち手は思い切って捨てる。多くの打ち手は、「投資対効果が大きいが導入の難易度も高い」ものであるか、「投資対効果が小さく導入の難易度も低い」ものである。優先すべきは前者であるが、前者は効果が出るまでに時間がかかり、変革の取り組みが途中で息切れすることがある。そこで、後者の打ち手を適切に織り交ぜることで、早期に変革の効果を演出することがある。後者のような打ち手をクイックウィンと呼ぶ。

 ⑫実行スケジュールの策定とプロジェクトチームの結成
 戦略的打ち手に優先順位がついたら、その優先順位に基づいて実行スケジュールを作成する。同時に、新しい戦略の実現に向けたプロジェクトチームを結成し、誰がどの打ち手に責任を持つのか、誰がその責任者の下で実務的な作業を担うのかを決定する。

 ⑬将来の損益計算書、貸借対照表の試算
 ⑪でそれぞれの戦略的打ち手の投資対効果を試算し、⑫で実行スケジュールを策定しているので、これらの情報を踏まえて、将来(向こう5年程度)の損益計算書、貸借対照表を作成する。その際、新しい戦略を実行しなかった場合(既存事業をそのまま続けた場合)の損益計算書と貸借対照表も作る。両者を見比べて、新しい戦略を実施した方が累積利益が大きくなることをチェックする(稀に、新しい戦略を実行すると、初期投資がかさむ関係で、既存事業をそのまま経営した方が累積利益が大きくなるということがあるため要注意である)。また、⑤で設定した戦略的目標(売上高、利益、市場シェアなど)が達成できることも合わせて確認する。

 ⑭競合他社のアクションに対するリアクション
 新しい戦略を実行すると競合他社もそれに反応して新しい戦略を仕掛けてくる。競合他社の反応が③で想定した範囲内に収まっていれば問題ないが、想定と大きく異なる場合には、④のポジショニングをやり直す必要がある。さらに、競合他社が思いのほか強力で、とても勝ち目がない場合には、①に戻って事業機会の抽出からやり直さなければならないかもしれない。

 ⑮新入社員の入社に伴う組織学習
 新しい戦略の実行に伴って、新入社員(新卒・中途)が入社してくる。彼らは自社の価値観と一致し、自社が要求する能力を身につけていることが前提で入社してくるが、自社の価値観からははみ出る価値観や意外な能力を持っている可能性がある。よって、①に戻ってミクロ視点での内部環境アプローチにより、再び事業機会の探索を始めなければならない。

 ここからが企業が従うべきルールの話。従来の企業は、「経済的なニーズ」を「経済的な方法」で充足していれば十分であった。ところが、企業の社会的責任が強調されるに従って、「経済的なニーズ」を「社会的な方法」で充足しなければならないという流れになった。近年は、マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)というコンセプトを提唱しており、企業は「社会的なニーズ」の充足を事業化する方法を模索する必要性に迫られている。つまり、21世紀の理想の企業とは、「社会的なニーズ」を「社会的な方法」で充足する企業である。

 よって、まずは②で特定した事業機会が、私が「社会的ニーズのテスト」と呼ぶものに合格するかを問わなければならない。具体的には、新しく生み出そうとしている製品・サービスが、

 (1)顧客の健康をサポートするものであるか?
 (2)顧客の生活の衛生面を保つものであるか?
 (3)顧客の安全・安心な生活の実現に資するものであるか?
 (4)顧客が貧困から脱却するのを助けるものであるか?
 (5)顧客の自尊心を支えるものであるか?
 (6)顧客が他者との人間的な絆を構築するのに役立つか?
 (7)顧客の人間的・精神的成長を支援するか?
 (8)顧客に有意義な時間の使い方を提供するものであるか?
 (9)人的資源・地球資源の節約に貢献するものであるか?
 (10)顧客の人生を社会的規範・道徳的価値観と合致せしめるものであるか?

などと問う必要がある。もちろん、これら全てを満たすことは難しい。だが、できるだけ多くの項目に該当する社会的ニーズに企業は取り組む必要がある(参考記事(d))。

 社会的ニーズのテストを経た後は、その社会的ニーズを社会的な方法で実現するビジネスを設計する。⑦でビジネスモデルを、⑧でビジネスプロセスを設計する際、単に⑥で特定したCSFを反映させるだけでなく、社会的要請も汲み取る必要がある。1つのヒントとなるのが「SDGs(Sutainable Development Goals)」である。SDGsとは国連が地球規模の社会的課題について17の目標と169のサブ目標を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、下図の通りである。企業はこの中から、自社で取り組めそうな課題を選択し、ビジネスモデルやビジネスプロセスに反映させる(参考記事(d))。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 ⑧のビジネスプロセスの設計においては、社員のモチベーションにも配慮する必要がある。本来、社員は企業からお金をもらう立場であり、企業にモチベーションを上げてもらうのはおかしな話である。企業に対してお金を払う顧客が企業のモチベーションを上げようとはしないことを考えれば自明である。ただし、顧客はその企業が気にくわなければ別の企業に乗り換えれば済むが、企業の場合は社員に問題があっても簡単に首を挿げ替えることができない。今いる社員に頑張ってもらうしかない。ここから、社員のモチベーションに配慮すべき理由が生まれる。

 とはいえ、社員のモチベーションを上げることは、社員を甘やかしたり、社員におもねったりすることではない。社員が自分の力ではどうしようもできない職場環境については社員を満足させる必要があるが、社員の力が及ぶ範囲においては逆に不満足を感じさせた方が、かえって社員のモチベーションが上がるのではないかというのが私の考えである。ここから、職場環境と仕事の内容について次のようなルールが導かれる。

 <職場環境>
 (1)本人に裁量や権限を与える。
 (2)仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などを整える。
 (3)十分な研修、トレーニングの機会を与える。
 (4)必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられるようにする。
 (5)福利厚生制度を充実させる。

 <仕事の内容>
 (1)仕事の量を多くして忙しくさせる。
 (2)企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップを感じさせる。
 (3)難しい部下や後輩の育成を任せる。
 (4)顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを与える。
 (5)今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描くことを難しくさせる。

 ⑤に戻るが、⑤で設定した戦略的目標は企業の人員数の増加をカバーできるものになっているかも点検しなければならない。普通に考えれば、3~5年後には昇進によって管理職が増加し、新入社員も入ってくるため、企業の人員数や人件費は増える。彼らに対して十分な仕事やポスト、給与を支払うことができる戦略的目標になっているかどうかを確かめる必要がある。もちろん、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」でも書いたように、全員を昇進させ、無制限に新入社員を受け入れることは現実的に不可能であることは私も重々承知している。

 私は年功制は支持するが終身雇用は支持していない。企業は一定のルールに従って、一部の社員を退職させなければならない。以前は子会社が退職する社員の受け皿になっていたのだが、連結決算で子会社の業績が親会社の業績にも影響するようになると、子会社を単なる余剰人員の受け皿として使うことが難しくなった。そこで私は、一定の年齢に達した一部の社員を退職させる代わりに、彼らが起業や転職をする際の資金を提供する仕組みを作ってはどうかと考えている。具体的には、業界の各企業が資金を出し合って基金を組成するイメージである。もちろん、企業が解雇権を濫用することがあってはならない。今後は、企業の合理的な成長スピードを設定し、それでもなお仕事やポストをあてがうことができない社員は、公正な手続きの下に退職してもらうことになるだろう(この点だけは企業にとって有利なルールである)。

 ⑬の損益計算書、貸借対照表の作成まで終わったら、新事業の全体を総チェックする。

20180523_企業の目的と遵守すべきルール

 これからのビジネスは、1社単独で全てをまかなうことが難しくなり、他社(異業種の他社や時に競合他社)と水平連携する局面が増える。また、企業が社会的ニーズを充足するためにNPOとも水平連携する機会も出てくるだろう。他社やNPOも自社と同様に、「顧客の創造(量的・質的)」を目的としている。自社は他社やNPOから必要な時に必要な協力を仰ぐだけでなく、他社やNPOの事業にも貢献し、Win-Winの関係を構築しなければならない。具体的には、「他社/NPOの顧客増に貢献すること(顧客の量的創造)」、「他社/NPOの顧客価値の増大に貢献すること(顧客の質的創造)」というルールが課されることになる。

 自社にヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関に関しても、企業はルールを課される。家族の目的は、家族構成員の健康を保つことと家計を維持することである。よって、企業は家族の目的達成を支援するために、「社員の健康に配慮すること」、「生計を維持できるだけの給与を支払うこと」というルールに従う必要がある。取引先の目的は、顧客の創造である。取引先の顧客とは自社のことである。よって、取引先の目的達成を支援するために、「取引先との取引量を増やすこと(量的創造)」、「取引先の顧客価値(=自社にとっての価値)向上を支援すること(質的創造)」というルールに従う必要がある。親会社が下請会社の品質向上・人材育成を支援するのは一例である。

 株主・金融機関の目的は、投資に見合ったリターンを得ることと、社会的に責任ある投資家となることである。よって、企業は株主・金融機関の目的達成を支援するために、「資本コストを上回るリターンを上げること」、「経営資源の調達から顧客価値の創造に至るプロセスを透明・公正に保つこと」というルールに従う必要がある。最後に、教育・研究機関の目的は、有益な知を社会に提供することと、有益な人材を社会に輩出することである。よって、企業は教育・研究機関の目的達成を支援するために、「企業の知をフィードバックすること」、「教育・人材育成の取り組みを支援すること」というルールに従う必要がある。これらのルールは、産学連携をしている企業にとってはとりわけ重要な意味合いを持つ。

 上図のように、ヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関を自社よりも1つ下のレイヤーに位置づけている(欧米ならば株主を自社よりも上のレイヤーに位置づけるだろうが、私は株主は他の経営資源を供給するプレイヤーと同列に扱うべきだと考える)。自社はこれらのプレイヤーの上に位置するのだから、彼らに対して自由に要求すればよいように思える。しかし私は敢えて、下位に位置するプレイヤーの目的達成を支援することをルール化している。これを山本七平の言葉を借りて「下問」と呼んでいる。「あなた方の目的を達成するために我が社が支援すべきことは何か?」と問うことである。結局のところ、下位のプレイヤーの目的(アウトプット)=自社のインプットであり、下位のプレイヤーの目的達成を支援することは、自社にとってメリットとなって跳ね返ってくるのである。

2017年10月31日

【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見


グリーンアーミーメン

事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー事業戦略策定ガイドブックー理論と事例で学ぶ戦略策定の技術ー
坂本 雅明

同文舘出版 2016-07-01

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 戦略の立案プロセスについては、坂本雅明『事業戦略策定ガイドブック―理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016年)が比較的解りやすかった。本書の最初は、事業アイデアの検討から始まり、ここではSWOT分析が用いられている。「強み(Strength)」と「機会(Opportunity)」が合致する事業アイデアが最も望ましいが、「強み」を活かす事業アイデア、「機会」に乗じる事業アイデアでもよいとされている。ただ、これだと「弱み(Weakness)」や「脅威(Threat)」を検討した意味があまりないのではないかと個人的には感じた。

 SWOT分析はもう半世紀ぐらい前に開発されたフレームワークで、戦略立案の場面ではおそらく最も多く利用されているものであろう。しかし、フレームワークの自由度が高すぎるがゆえに、目的を明確にせずに分析すると、「使ってはみたものの、結局何が言いたかったのか解らない」という状況に陥りやすい。欧米には、「SWOT分析をやってみたが、SO WHAT?(それで何なの?)」というジョークがあるそうだ(このジョークも本ブログでこれまでに何度用いたことか)。

 私は一応中小企業診断士の資格を持っているのだが、中小企業診断士の2次試験(筆記試験+口述試験)に合格すると、「実務補習」と呼ばれる一種の実地研修を受けることになっている。実務補習では、基本的に5名程度のチームを組んで、実際に中小企業の経営を診断し、経営課題とそれに対する解決策の提言をまとめて、5日間で100ページぐらいの報告書を作成する。診断プロセスは中小企業庁や(一社)中小企業診断協会の意向を受けて概ね標準化されており、プロセスの最初にSWOT分析が位置づけられている。

 だが、実務補習に参加登録しても、診断対象企業の情報は事前には与えられず、実務補習当日の午前中になって初めて指導員(診断士の先輩)から教えられる。そして、診断対象企業についての事前調査がほとんどできないまま、その日の午後にはその企業の経営者にヒアリングをすることになる。翌日には、ヒアリングの結果をSWOT分析でまとめて、経営課題を導き出す。残りの3日間は課題の掘り下げと報告書の作成にあてられるというのが大体のケースである。私は、このやり方には大きく2つの問題があると考えている。

 まず、事前調査なしにヒアリングをするため、どうしても質問が総花的になりやすいということである。私は、1回目の実務補習では、灯油の巡回販売と水道工事、リフォーム事業という3つの事業を行っている中小企業を診断し、3回目の実務補習では、信号の工事とLED照明の製造・販売という2つの事業を行っている中小企業を診断したが、限られた時間の中で、全ての事業について事業環境から組織構造まで万遍なく質問しようとすると、表面的なことしか聞くことができない。2つ目の問題は、SWOT分析から課題を導く際に、往々にして、S、W、O、Tの内容の単なる要約になってしまうということである。特に、弱みを裏返しただけの課題になることが多い。ヒアリングで得た情報が表面的であるがゆえに、導かれる課題も底が浅いものになりがちである。私はどうも、実務補習におけるSWOT分析の使い方には納得がいかない。

 SWOT分析は、何を目的にするかによって、結果が全く違うものになる。冒頭で紹介した書籍では、事業アイデアの検討が目的となっている。これに対して、実務補習では、単なる事業環境の整理が目的になっているのではないかと思われる。私は、SWOT分析をこのような目的では使わない。SWOT分析は、事業のCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を導くために用いる。このことを説明するためには、私が考える「事業戦略の立案プロセス」について述べる必要がある。このプロセスは8つのプロセスから成り立っている。

 (1)事業機会の抽出と選択
 自社を取り巻く事業環境を観察して、事業機会(=儲けの機会)を洗い出し、自社にとって最も実現可能性が高そうな機会、取り組む価値の高い機会を特定する。
 (2)ターゲット顧客・差別化要因の決定
 (1)で選択した事業機会における顕在的/潜在的な競合他社を分析し、自社はどの顧客をターゲットとするのか、また競合他社とどのように差別化を図るのか決定する。当然のことながら、差別化要因は顧客にとって意味のあるもの、価値を生むものでなければならない。
 (3)戦略目標の設定
 (1)で選択した事業機会の推定市場規模や将来的な市場の伸び率、(2)で分析した競合他社の数や各社の市場シェア、市場におけるパワー、および各社が今後とるであろう戦略の予測などから、自社の中長期的な戦略目標を設定する。具体的には、「○○年後に、市場シェア○○%/売上高○○億円/販売数量○○個を達成する」といった目標を立てる。
 (4)CSFの特定
 (3)で設定した戦略目標を達成するために、カギとなる要素=CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を特定する。CSFは重要な経営課題と言い換えてもよいだろう。
 (5)ビジネスモデルの設計
 (2)のターゲット顧客に対して、競合他社と差別化を図りながら、(5)の戦略目標を達成するためのビジネスモデルを設計する。ビジネスモデルとは、自社を中心として、外部のどのようなプレイヤーと協力しながら儲けを生み出すのか、その仕組みを可視化したものである。重要なのは、ビジネスモデルは、(4)で特定したCSFを実現するものにしなければならないということである。CSFを反映したビジネスモデルを設計すると、その実現のために必要な施策が見えてくる。
 (6)ビジネスプロセスの設計
 (5)のビジネスプロセスが、業界における川上から川下までの全体像であったのに対し、(6)は自社内部の業務プロセスを設計するものである。ここでも(5)と同様に、(4)のCSFを反映したビジネスプロセスをデザインしなければならない。すると、(5)と同じように、そのビジネスプロセスを実現するために実施しなければならない施策が明らかになる。
 (7)施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 (5)と(6)から導かれた各種施策は、多くの場合一気に実行することが難しい。そこで、優先順位をつけて取り組む必要がある。優先順位の1つの目安となるのが投資対効果の大小である。言うまでもなく、投資対効果が高い施策の優先度が高い。ただし、投資対効果を試算しなくても、例えばBという施策を実行するためには先にAという施策を実行しなければならないという施策間の因果関係がある場合には、施策Aが優先される。施策間の優先順位がつくと、施策の実行計画を作ることができるようになる。実行計画では、必ず各施策の責任者を明確にしておく。
 (8)将来の損益計算書の作成
 (5)と(6)の各種施策を実行した場合の将来の損益計算書(A)をシミュレーションする。その際、新しい戦略を何も実行せず、成り行きに任せた場合の予想損益計算書(B)も合わせて作成するのが望ましい。(A)と(B)を比較した場合に、例えば向こう5年間の累積経常利益は、確かに(A)>(B)となっていることを確認する(ごく稀に、各種施策の投資は回収できるものの、累積経常利益ベースで見ると、成り行きのケースを下回ることがあるので要注意である)。また、損益計算書とは別に資金繰り表を作成すると、どのタイミングでいくらの資金(投資)が必要となるのかが明らかとなり、資金調達の必要性を認識することもできる。

 (1)の事業機会の抽出については、以前の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた。複数の事業機会の中から自社が取り組むべき機会を選択するには、PEST分析を用いるとよい。ただ、PEST分析は元々産業構造をマクロ的に分析するためのものであり、E(Economics)では景気動向や為替の変動など、S(Society)では文化や価値観などを分析するのが一般的である。しかし、ここでは事業機会をミクロ的に分析するのが目的であり、Eは市場・顧客分析に近い。すると、Sとの違いがほとんどなくなるため、Sを省略してPET分析としても構わないと考える。

PET分析による戦略機会の評価

 PET分析におけるP、E、Tの切り口の例を上に示す。Eの「市場ニーズはあるか?」、「関連・支援産業は成熟しているか?」、「競争はどのくらい激しいか?」、「人材は豊富に存在するか?」という4つの視点は、競争戦略論で有名なマイケル・ポーターの「ダイヤモンドモデル」を参考にしている。PとTの切り口は私が考えた例であり、これ以外の視点で評価しても全く構わない。(1)で抽出したそれぞれの事業機会について、P、E、Tの視点から採点をした結果、最も得点が高いものが自社にとって魅力的な選択肢となる。

 (2)、(3)については今回は省略させていただく。競合他社の分析方法や、より効果的に差別化を実現ためのポイントがいくつかあるのだが、機会を改めて書くことにしたい。

 さて、問題の(4)である。SWOT分析には2つのポイントがある。SWOT分析については、どういう切り口でどんな情報を書けばよいのかが解らないという声をよく聞く。そこで、1つ目のポイントは、まずはOとTの欄に、(1)のPET分析や(2)の競合他社分析で明らかになった情報を書き込むことである。そして、それらの情報について、できればもっと突っ込んだ調査を行う。OとTを埋めた上で、そのOとTに照らし合わせて自社の経営資源を見た場合に、何がSやWになるのかを書き込んでいく。こういう手順で作成すれば、少なくとも「社長のリーダーシップが強い」などという意味不明な強み(あるいは「社長がワンマンである」などという弱み)を書くことはなくなる。

 2つ目のポイントは、単にSWOT分析をするのではなく、”クロス”SWOT分析を行うことである。つまり、SとO、SとT、WとO、WとTを掛け合わせて、この事業機会で成功するためには何がカギを握るのかを明らかにすることである。これがつまり、CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)である。以下に、加工野菜工場を運営する中小企業のクロスSWOT分析の架空の事例を掲載する。ここでは6つのCSFが列挙されている。

クロスSWOT分析によるCSFの特定

 気をつけなければならないのは、クロスSWOT分析の段階で施策(ソリューション)を先取りしないことである。例えば、「○○システムの導入」、「○○人事制度の構築」などといった施策を書き込んではならない。施策は手段であって目的ではない。CSFとして書くべきなのは、あくまでも目的にあたる経営課題である。ある経営課題を実現する手段(ソリューション)は1つとは限らない。例えば、「営業プロセスの標準化」という経営課題があった場合、ITベンダーの人はすぐに「SFA/KMSの導入」というソリューションを提案したくなるかもしれない。だが、「営業プロセスの標準化」を実現するには、他にも「提案書雛形集の整備」、「チームセリングの実施」、「OJTの強化」、「マネジャーによる日報チェックの強化」など、様々な施策が考えうる。これらのうち、どれが最適なのかは、この後でデザインするビジネスモデルやビジネスプロセスによって決まる。

 CSFが特定できたら、そのCSFを実現するビジネスモデルとビジネスプロセスをデザインする。ビジネスモデルの例を以下に示す。これは、「食品スーパーが、これから料理を始める男性をターゲットに、『初心者お助けセット』という調味料のパッケージをPBで販売する」という架空の戦略に基づくビジネスモデルである。ビジネスモデルであるから、モノとカネの流れは最低限押さえておかなければならない。加えて、情報の流れも書いておくとなおよい。下段にある「外部企業を巻き込んだ低価格のセット製品開発」、「消費者ニーズのきめ細かい分析と製品への反映」、「facebookを活用したレシピ情報の自動増殖」、「SNSを活用したレシピ情報の自動増殖」、「消費者が納得する低価格と高品質の両立」の4つがCSFである。CSFの下に書かれている黄色い四角の内容が、CSFを実現するための各種施策となっている。

ビジネスモデルのデザイン

 ビジネスプロセスについても同様に、CSFを実現するためにはどのようなビジネス(業務)プロセスにするべきか、という視点で検討する。ビジネスモデルは業界全体を俯瞰的に描写するものであるのに対し、ビジネスプロセスは自社内部の業務プロセスを割と細かく設計するものである。よって、CSFからいきなりビジネスプロセスを導くのではなく、間に「ビジネスプロセスのあるべき姿の方向性」というワンクッションを挟むとよい。これは、CSFを1段階ブレイクダウンしたものであり、ビジネスプロセスをデザインする上での基本的な考え方、基軸を表している。

ビジネスプロセスのデザイン~あるべき姿の方向性

 上記の例では、「組織営業力の強化」というCSFに基づいて営業部門のビジネスプロセスをデザインしようとしている。そこで、まずは、自社にとって「組織営業力の強化」とは何を意味しているのかを咀嚼している。その結果、「A.組織連携を通じて、中長期的な視点で顧客とのリレーションを強化」、「B.顧客ニーズを深く理解し、製品価値を的確に訴求する提案営業の実施」、「C.標準的な営業プロセスの確立・浸透と、全体のマネジメントサイクルの確立」という3つの方向性を定めた。これらの方向性に基づいて、ビジネスプロセスをデザインしようとしているのが下図である。各プロセスのA~Cは、あるべき姿の方向性のA~Cに対応している。あるべきビジネスプロセスが固まれば、ビジネスモデルの場合と同様に、施策の検討へと移る。

あるべき姿のデザイン

 ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計の仕方については、今回はこれ以上は踏み込まない。別の機会にまた解説できればと考えている。また、今回全く触れなかった(7)と(8)についても、別途記事を書く予定である。今回の記事では、事業戦略立案プロセスにおけるクロスSWOT分析の位置づけとその使い方についてご理解いただければ幸いである。




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