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【事業承継の方法】中小企業が事業承継をする9つのステップ
【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト
【東京都補助金】平成26年度「中小企業経営・技術活性化助成事業」説明会のご案内

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年09月07日

【事業承継の方法】中小企業が事業承継をする9つのステップ


事業承継・バトンタッチ

 ざっくりとした数字遊びになるが、現在日本には約380万社(個人事業主を含む)の企業が存在する。うち、毎年の廃業率は5%前後であるから、毎年約19万社が市場から退出していることになる。これは、東京商工リサーチ「2017年「休廃業・解散企業」動向調査」が発表している休廃業・解散企業数=28,142社(2017年)を大きく上回る。というのも、東京商工リサーチの数字には、同社が保有するデータベースに登録されていない個人事業主などが含まれていないからだ。実際、中小企業庁『2014年度版中小企業白書』を見ると、廃業者の9割は個人事業主である。廃業の理由には色々あって、「自分自身の年齢・体力の問題」、「業績不振」、「元々自分の代で閉めようと思っていた」などが挙げられるが、白書のデータによると「後継者(事業承継)の見通しが立たない」が4.2%を占めている。つまり、先ほどの19万社のうち、4.2%にあたる約8,000社は、事業承継が上手くいかないせいで廃業しているのである。

 ここからは究極の数字遊びだが、この8,000社は、自分の代で事業を閉めようと考えていたような個人事業主とは違って、それなりの規模がある中小企業が大半であると推測する。仮に、その平均社員数を30人としよう。すると、8,000社の廃業によって、1年間で24万人の雇用が失われる。また、計算を単純化するために、その企業が生み出す付加価値(GDP)が人件費総額に等しいと仮定し、社員1人あたりの平均人件費が年間300万円だとすると、1年間で7,200億円のGDPが失われることになる。10年換算すれば、240万人の雇用と、7.2兆円のGDPが失われる計算である。中小企業庁が「2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)を失う可能性がある」(日刊工業新聞、2017年9月27日)と予測しているのは私は大げさだと思うものの、年間24万人の雇用と7,200億円の付加価値が失われることになれば、毎年小さめの産業が1つずつ丸ごと吹っ飛ぶのと同じぐらいである。

 だから、事業承継は喫緊の課題である。多くの中小企業は、事業承継の問題をずっと先延ばしにしてきた。その結果、この20年で経営者年齢の山は47歳から66歳へと移動した。経営者の平均年齢は67~70歳と言われるから、事業承継のために残された時間はもう限られている。事業承継に関しては、中小企業庁が「経営者のための事業承継マニュアル」を公表している。今回の記事では、このマニュアルを下敷きにしながら、私が考える事業承継の9ステップを整理してみたいと思う。なお、事業承継の手段の1つとしてM&Aがあるが、私自身はM&Aに詳しくないし、中小企業のM&A市場はだんだんと盛り上がりつつあるも未だに規模としては小さいため、今回の記事では通常の事業承継のパターンを取り上げる。

 (1)後継者、後継時期をえいやで決める。
事業承継計画表

 事業承継を始めるにあたっては、上記のような「事業承継計画表」を作成することが出発点となる。向こう10年程度の目標売上高・営業利益を記入するとともに、現経営者はいつ引退するのか、後継者はいつ経営を引き継ぐのかというマイルストーンを設定する。そして、後継者の引継ぎ時期に焦点を合わせて、後継者の経営能力をどのように養成するのか計画を立てる。さらに、現経営者の引退時期に向かって、現経営者が保有している株式などの資産を徐々に後継者に委譲するためのスケジュールを立てる。

 まず何よりも大事なのは、後継者と後継時期をえいやで決めてしまうことである。以前、ブログ別館「小島規彰『会社を継ぐあなたが知っておくべき事業承継 そのプロセスとノウハウ』―5年で事業承継を完了させるパッケージの必要性」という記事を書いて、同書では30代で経営者の資質を持っている親族を自社に入社させ、10~15年かけてじっくりと育成する方法を述べていたことに対して、それではとても間に合わないと嚙みついたことがある。

 前述の通り、中小企業にとって、事業承継のために残されている時間は少ない。せいぜい5年が限度であろう。だから、現経営者の引退時期は5年後と強制的に設定してしまう。また、時間に余裕があれば、経営者の資質を持った人材を幅広く検討することも可能であろうが、今の中小企業にはそれすらもできない。さすがに誰でもいいというわけにはいかないものの、この人なら何とか経営者が務まりそうだという人がいれば、すぐにその人を後継者に指名することにしよう。後は、「地位が人を育てる」という言葉を信じるしかない。

 (2)ミッション・ビジョン・価値観を明文化する。
 事業承継という言葉は若干語弊がある。承継するのは事業だけではない。事業を束ねる経営を承継するのである。だから、正確には経営承継と呼ぶべきである。そして、その経営の骨格をなしているのがミッション・ビジョン・価値観である。ミッションとは自社の社会的使命である。自社がなぜこの世にあるのか、その存在理由を明らかにするものである。ビジョンとは、ミッションを解りやすく言い換えたものである。自社の製品・サービスを使う顧客はどのような気持ちになり、どんな生活を送っているのか、その顧客を支える社員はどんな働きぶりをしているのか、取引先とはどのような協調関係を結んでいるのなど、それを聞けばまるで事業の中身が目の前に映像として浮かぶほど具体化されたものがビジョンである。価値観とは、ミッションやビジョンを達成するために、自社として順守すべき判断基準や行動様式のことを指す。

 現経営者が長年社長を務めている間に、こうしたミッション・ビジョン・価値観が曖昧になってしまうケースというのは多い。また、現経営者が創業者の場合は、ミッションなどが現経営者の頭の中だけにしか存在していないということもある。事業(経営)承継にあたっては、ミッションなどを明文化し、後継者に伝承することが重要である。言うまでもないことだが、ミッションなどは、現在の自社の主力事業や業務内容と整合性が取れていなければならない。中途半端なミッションを掲げると、先日の記事「【中小企業診断士】私が独立診断士として失敗した5つの原因」で書いたように、私と同じような失敗をしでかすことになる。

 (3)承継する資産と承継しない資産を峻別する。
 事業承継で承継する資産には、大きく分けると「知的資産」と「個人資産」がある。知的資産とは、製品・サービス、顧客情報をはじめとする情報資産、顧客や取引先との信用、コア・コンピタンス、コア・ケイパビリティ、事業のノウハウ、特許をはじめとする知的財産権などがある。これらのうち、次の世代にも活かすべき資産と、事業承継を機に切り捨てる資産とを区別することが大切である。そのためには、自社の戦略をもう一度よく見直してみるとよい。これは言ってみれば、引っ越しの際に、いる物といらない物を分別するようなものである。

 「個人資産」には、現経営者が保有している株式、現経営者が自社に貸与・供与している土地・建物などの資産、貸付金などがある。これらの資産をどうするかについては、私よりも税理士や公認会計士の方がよっぽど詳しい。贈与税・相続税対策、種類株式の導入、信託の活用、事業承継税制の利用など、様々な道があるので、専門家に相談することをお勧めする。

 (4)後継者に業務改善を行わせる。
 ここからは後継者の育成に入る。と言っても、事業承継までに残されている時間は5年ほどしかない。この5年で、経営者として必要な能力を相当程度習得する必要がある。また、後継者はすぐさま社内から歓迎されるとは限らない。突然入社してきた親族や外部の第三者が後継者である場合はなおさらだ。この人は本当に経営者にふさわしいのかを周囲の社員は厳しい目で見ている。彼らを納得させるために、後継者には結果が求められる。しかし、いきなり大きな成果を出すことは難しい。私は、後継者が経営者として必要な能力を幅広く身につけ、社員から認められるようになるには、3段階の改革を行うことが望ましいのではないかと考える。

 まずは、後継者を部長クラスで特定の部門に配属し、すぐに成果が出やすい業務改善に着手させる。後継者にとっては、自社の業務をよく理解し、社員ともコミュニケーションを取るよい機会になる。注意すべきは、あまりに抜本的な業務改革をしてはならないということである。社員の残業代が減ったり、まして人減らしにつながったりするような改革は、かえって社員の反感を買う。中小企業はマンパワーが不足している割に複雑な業務フローになっていて、社員に過度な負荷がかかっていることが多い。ここでの業務改善の目的は、その業務フローを整理し、社員を楽にしてあげることである。そうすれば、社員は「この後継者は自分たちによく配慮してくれる」と思い、味方になってくれるに違いない。この業務改善には2年ほどの時間を使う。
 
 (5)後継者に新規顧客の開拓をやらせる。
 部長として一定の成果を出すことができれば、後継者を取締役専務などに昇格させ、次の改革に着手させる。とりわけ中小企業の経営者に期待されるのは営業である。トップセールスができることである。だから、後継者には、新規顧客の開拓をやらせる。その際、業績があまり芳しくない部門に配属させて、修羅場を経験させるとよいかもしれない(本当に業績が芳しくない部門は、(3)の段階で整理の対象になっているから不適切である)。

 この改革には3年ほどを使う。単に後継者が新規顧客を開拓できるようになるだけではなく、そのノウハウを社員とも共有し、社員をトレーニングする。場合によっては、従来の営業スタイルを改め、営業ツールや社内ルールを見直し、販促やプロモーションのやり方も変える。ここまでを3年間で行う。本当は、事業承継までの5年間で3回の改革を行って、万全の状態で経営者となるのが理想である。だが、いかんせん時間が5年と限られていることから、承継前に実行できる改革は2回が限度となる。残りの1回は後述するように、事業承継後に実施する。

 (6)新社長はミッション・ビジョン・価値観を自分の言葉で再定義する。
 (4)(5)で結果を出し、晴れて新社長となった後継者がまずやるべきことは、先代の経営者から受け継いだミッション・ビジョン・価値観を、自分の言葉で置き換えることである。単に先代の経営者のミッションなどを繰り返すだけでは、社員の失望を買うばかりか、下手をすると「新社長は先代経営者の傀儡なのではないか?」という疑念を生む恐れがある。新社長は、(4)(5)の改革を通じて解った自社の事情や事業環境、また自分がこの企業にかける意気込みを反映させて、自分なりの言葉でミッションを語る必要がある。

 そのミッションは、新社長が折に触れてしつこく社員に語りかけなければならない。稲盛和夫氏は、「経営者は壊れたレコードのように経営理念を何度も繰り返し社員に語る必要がある」と述べていたが、これは決して、いつまでもバカみたいに同じフレーズを復唱していればよいという意味ではないと思う。新社長は、様々な角度から、ミッションを語れるようにならなければならない。言い換えれば、語彙を増やさなければならない。そのためには、日々の経営、事業、業務の変化に敏感になり、その変化をミッションの語り方に照射させることが肝要である。

 (7)新社長は自分の能力を補完してくれる右腕を確保する。
 経営者に求められる能力とは何だろうか?『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2018年2月号のクラウディオ・フェルナンデス=アラオス他「現在のコンピテンシー水準とのギャップを埋めよ 潜在能力を開花させる経営リーダーの育成法」という論文によると、①市場理解力、②戦略性、③協働能力、④チームリーダーシップ、⑤組織育成力、⑥変革のリーダーシップ、⑦成果志向、⑧多様性対応力の8つだという。新社長は、社長になる前から、この8つの能力がどのレベルにあるのかについて評価を受け、また(4)(5)の改革を通じてどの能力が伸びたのか、逆にまだ弱みとして残っている能力は何なのかを見極めてもらう。

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 8つでは多すぎると言うならば、以前の記事「比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた」で挙げた、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という4つの能力で評価してもよいと思う。肝心なのは、新社長の強みと弱みを明らかにすることである。本当は、社長に就くまでに全ての弱みを克服できるよう、3回の改革を経験できるのが望ましい。だが、既に述べたように、現実問題として5年で3回の改革を行うのはほとんど不可能だし、そもそもどんな人間であっても克服できない弱みは残るものである。よって、新社長は、自分の弱みを補ってくれる右腕となる人材を社内から探さなければならない。右腕人材は、新社長の能力を補うだけでなく、社長が陥りがちな孤独を緩和してくれる役割も果たす。

 (8)既存事業と親和性の高い新製品・サービスを開発する。
 新社長就任後、3回目の改革に着手する。その改革とは、新製品・サービスの開発・販売である。これは、新社長が先代経営者とは違う新鮮さを打ち出し、社員にそれを訴求する効果を持つ。ただし、間違っても、既存事業との関連性が薄い分野に手を出してはいけない。経営に慣れた社長であっても、シナジーが低い分野に進出するのはリスキーなのだから、社長になったばかりの人がそんな危険を冒してはならない。この改革は、後継者が新社長となり、社員から新しい経営者として認めてもらうための3段階の改革の総仕上げに該当する。だから、絶対に失敗が許されない。よって、既存事業とのシナジーが高い分野を慎重に選択するべきである。

 国は、開業率を英米並みの10%に引き上げることを目標として、創業補助金という制度を設けている。この補助金は、単に一から創業する人だけが対象ではなく、実は、事業承継を行う既存企業も対象となっている(第二創業)。ただし、第二創業で補助金を受けるためには、新社長が新規事業を立ち上げることが条件とされる。ここまでお読みいただいた方はお気づきかもしれないが、この条件はあまりにも恐ろしい。もちろん、新規事業の中身にもよるものの、新社長がいきなり新規事業にチャレンジするのはリスクが高すぎる。仮にその新規事業に失敗すれば、新社長の社内での評判は著しく傷つき、その後の企業経営に深い影を落とすことになるだろう。国は補助金で事業承継を潰すつもりなのかと思ってしまう。

 (9)公平な人事評価制度を構築する。
 経営には終わりがないのだから、事業承継もどこまでやれば終了なのかを明確に定めることが難しい。ただ、1つの区切りとして、(8)の改革が一段落ついたら、人事評価制度の整備に着手するべきだと思う。これは何も、MBO(目標管理制度)のような立派な制度を導入せよという話ではない。中小企業の場合、人事評価がそもそも行われていない、行われていたとしても社長の恣意的な評価で決まるということが多い。これでは、社員のモチベーションを保つことは難しい。新社長は、評価に対する社員の納得感を高める努力をしなければならない。(6)で新社長は新しいミッション・ビジョン・価値観を掲げたが、例えば、自社の価値観に沿った仕事をした社員を高く評価するようにするだけでも、評価に対する社員の満足度はがらりと変わる。

2014年01月19日

【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト


 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

 総務省の「科学技術研究調査」によれば、R&Dを実施している中小企業の売上高は、実施していない企業に比べて約3~5倍になるそうだ。、また、R&Dを実施している中小企業と実施していない企業で、2002年から2007年までの営業利益を平均したところ、約5.6倍の差があったという。この数値は、大企業の差と比較すると非常に高いものであり、R&D実施の有無が経営に与える影響は、中小企業の方が大きいと言える。だが、人材や資金が限られている中小企業が、自前でR&Dを行うのは容易ではない。そこで注目されるのが、大学の「知」である。産学連携は、中小企業が経営資源を節約しながら、効率的にR&Dを進める有効な手段である。

 とはいえ、大学と企業とでは組織の目的が異なるから、足並みが揃わないと失敗しやすい。九州経済産業局は、産学連携の成功要因と失敗要因に関する調査をまとめている。レポートでは、産学連携が失敗する理由として、以下の3つが指摘されている。

 (1)大学と企業との研究活動に対する事前協議・調整が不十分で、大学、企業の役割分担を含む適正な目標設定ができていない。
 (2)事業化までを見据えた対応や研究体制ができていない。
 (3)大学と企業とのコミュニケーションが不十分、推進体制の構築が不十分。

 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第24回)】行き当たりばったりでシナリオのないサービス開発」で、X社が大学と共同で、「携帯電話を利用した研修後の学習支援サービス」を開発しようとしたことを述べた。しかし、この共同研究は結局のところ実を結ばなかった。上記の3つの失敗要因を読むと、首が痛くなるほどうなずきたくなる。

 (1)大学と企業との研究活動に対する事前協議・調整が不十分で、大学、企業の役割分担を含む適正な目標設定ができていない。
 私が最初にこの共同研究プロジェクトにアサインされた時は、新サービスを開発するという話は全くなかった。成人学習(アダルト・ラーニング)に関する洋書を大学教授と一緒に翻訳して、出版実績を作るのが当面のゴールであった(もっとも、その翻訳作業も目的が曖昧だったが)。プロジェクトにアサインされたマネジャーは、翻訳予定の洋書の版権を持っている海外の出版社と交渉をして、翻訳権の獲得に動いていた。メンバーはキックオフミーティングまでにその洋書を読み込み、ミーティング当日は翻訳のスケジュールと役割分担を決める予定であった。

 ところが、キックオフミーティングで顔を合わせた教授は、開口一番「翻訳だけでこのプロジェクトを終わらせるのはもったいないですよ」と言ってきた。そして、自分の研究内容を紹介し、それをX社の事業に活用できないかと提案してきた。

 その教授は、小中高校生を対象に、携帯電話を活用して家庭学習をサポートする仕組みを研究しているという。授業の直後や、定期テストの前になると、生徒が間違えやすい問題が携帯電話に送られてくる(教授によれば、間違えやすい箇所は科目ごとに大体決まっているらしい)。生徒はその問題を使って復習をする。さらに、回答履歴や正答率などの情報は、親の携帯電話にもフィードバックされる。教授は、生徒による携帯電話の利用率や、フィードバックを受けた親と子どもとの間のコミュニケーションが、テストの成績にどのように影響するのかを調査していた。

 言うまでもなく、携帯電話を活用していた生徒の方が成績はよかったし、親子のコミュニケーションが密なほど生徒の成績はよかった。親は子どもが解いている問題の内容が解らなくても、「この前の問題、どうだった?」などと子どもに話しかけるだけで、生徒の成績に正の影響を及ぼすという。この研究結果に興味を持ったA社長は、その仕組みを自社の研修サービスに取り込むことを簡単に決めてしまった。プロジェクトの方針は180度転換されてしまった。

 (2)事業化までを見据えた対応や研究体制ができていない。
 教授の関心は、自分の研究がうまく行くかどうか、つまり、成人学習の場合であっても、携帯電話を活用した学習支援のデータが取得できるかどうかだけであって、そのサービスが儲かるかどうかは眼中にない。事業の妥当性を検証するのはX社の役割であるが、こういう行き当たりばったりの経緯で始まった新サービス開発であるから、事業計画など十分に検討されなかった。

 研修後の学習支援にニーズがあるとしても、それを実現する手段として、携帯電話が果たして有効なのか?研修で学習する内容は、仕事で求められる知識やスキルであるから、それを実践するのは当然現場となる。だとすれば、利用者が情報を入力するのは仕事中になるはずだ。利用シーンを考えれば、携帯電話ではなく、PC向けのシステムにしなければならないのではないか?そういう初歩的なことも議論されなかった。

 また、この手のサービスは、あくまでも研修本体の補完ツールであり、顧客企業からそれほどお金をいただくことは期待できない。となると、利用者数を稼がなければならない。では、利用者数がどのくらいになれば、このWebシステムはペイするのか?その利用客数を獲得するためには、何社にどのくらいの研修を販売しなければならないのか?こういった議論も放置されていた。教授が研究結果をまとめるのに必要なデータ数と、X社がこのサービスをビジネスとして成立させるのに必要な利用者数を比べたら、おそらく後者の方が圧倒的に大きかっただろう。だからこそ、事業化のプランを熟考すべきであった。

 (3)大学と企業とのコミュニケーションが不十分、推進体制の構築が不十分。
 このプロジェクトのアキレス腱は、プロジェクトリーダーであるディレクターにあった。このディレクターは開発・講師チームのメンバーであったが、実はX社の社員ではなく、自分で個人の会社を立ち上げて、X社と業務委託契約を締結している人であった。私は、そんなディレクターを責任者にしたところで、自分の会社の都合を最優先するだけであり、X社のためを思ってこのプロジェクトに強くコミットメントしてくれないと不安を抱えていた。

 そして、その懸念通り、このディレクターは次第にプロジェクトとの関わりが薄くなっていった。ディレクターは、教授との定例ミーティングに顔を出すだけで、肝心の携帯電話のシステム開発には一切首を突っ込んでこなかった。プロジェクトの中身に疎くなったディレクターは、ほとんど教授の言いなり状態で、自らの意見やX社としての見解を教授にぶつけることがなくなってしまった。

 このプロジェクトは開発・講師チームのメンバーが中心となって結成されていたが、将来的なサービス販売を視野に入れれば、営業チームやオペレーションチームとも適宜情報を共有すべきであった。そして、両チームからサービスに関する意見を吸い上げることも必要であった。ところが、プロジェクトリーダーがこんな具合なので、社内の情報共有が進まなかった。おまけに、プロジェクトが半年ほどずっと成果を出せなかったこともあり、営業チームやオペレーションチームからは、「あのプロジェクトはいつも密室で何をしているのだ?」と不満が出るようになった。

 不満を募らせた両チームは、ある時、プロジェクトの定例ミーティングに一斉に乗り込んできた。いきなり参加者が増えたことに教授は困惑していた。しかも、両チームのメンバーは、この教授やプロジェクトに対して疑いの目を向けている。両チームは、定例ミーティングを通じて、プロジェクトの状況やゴールを確認しようとした。しかし、半年かかってプロジェクトが蓄積してきた情報を、ミーティングに1回や2回出席したぐらいで理解できるはずがなかった。消化不良に終わった両チームは、以前にも増して不信感を強めたまま、現場の業務に戻っていった。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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2014年01月11日

【東京都補助金】平成26年度「中小企業経営・技術活性化助成事業」説明会のご案内


《2014年1月24日追記》
 1月22日(水)より各助成事業の申し込みが開始された。申請書を提出するにあたっては事前予約が必要のため、留意されたい。詳細は下記リンクを参照のこと(東京都中小企業振興公社のHPにジャンプします)。

 平成26年度「新製品・新技術開発助成事業」
 ●申請書提出希望日申込期間:平成26年1月22日(水)~4月25日(金)17:00(厳守)
 ●申請書提出日時:平成26年5月7日(水)~5月13日(火)の間で公社が指定する日時

 平成26年度「市場開拓助成事業」
 ●申請書提出希望日申込期間:平成26年1月22日(水)~2月13日(木)17:00(厳守)
 ●申請書提出日時:平成26年2月20日(木)、21日(金)、24日(月)のうち公社が指定した日時

 平成26年度「海外展開技術支援助成事業」
 ●申請書提出希望日申込期間:平成26年1月22日(水)~4月25日(金)17:00(厳守)
 ●申請書提出日時:平成26年5月7日(水)~5月13日(火)の間で公社が指定する日時


http://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/1311/0007.html 先日の記事「【中小企業補助金活用セミナー】答えはここにある!“アベノミクスでチャンスをつかめ!”」、「【創業・経営革新支援セミナー】オリンピックを事業機会に変える3つの方法」は、国が実施する中小企業向け施策の説明会であったが、今日は東京都の施策に関する説明会の案内。公益財団法人・東京都中小企業振興公社が主催する説明会で、1月22日(水)から3月4日(火)まで合計8回予定されている。

 説明会の対象となっているのは、次の3事業である。各事業の概要は平成25年度のものであるため、平成26年度は変更になる可能性がある点にご留意いただきたい。

(1)新製品・新技術開発助成事業
 ■申請資格:
 東京都内に主たる事務所を持つ中小企業者、個人事業者、都内での創業予定者等
 ■事業内容:
 中小企業等が自ら主体性をもって行う実用化の見込みのある新製品・新技術の研究開発に要する経費の一部を助成する。本助成事業には開発区分が3つあり、申請する際には、3区分のいずれかに該当するかを選択する。
 ①新製品・新技術の研究開発
 製造技術や生産性の向上等を目的としたハード面の研究開発で、試作品の設計、製作、試験評価および改良を対象とします。
 ②新たなソフトウエアの研究開発
 システム設計等ソフト面の研究開発で、データ処理装置や情報処理プログラムの開発および改良を対象とする。
 ③新たなサービス創出のための研究開発
 新たなサービスの提供による生産性の向上、高付加価値化を目的として、サービス関連業等が外部の技術を活用して行う技術開発である。
 ■助成限度額、助成率:1,500万円、2分の1以内

(2)海外展開技術支援助成事業
 ■申請資格:
 東京都内に主たる事務所を持つ中小企業者
 ■事業内容:
 都内中小企業が、自社の製品等を海外市場で販売(※)するために必要な海外規格への適合やISO等の認証取得等に要する経費の一部を助成する。
(※)海外向け製品の構成部品として、取引先に部品を納入することにより、当該部品が終製品に組み込まれ、輸出される場合を含む。

 ア.海外向け製品またはその構成部材として組み込まれる部品・材料等の改良、試験
評価、実証データ取得(海外規格への適合に関するもの)
 イ.海外規格への適合性評価、認証取得(ISO、IEC、CEマーキング、RoHS指令等)
 ウ.海外展開に向けた社内体制整備(ISOマネジメントシステムの構築)
(※)ア、イ、ウのうちいずれか一つでも複数でも申請可能。
 ■助成限度額、助成率:500万円(下限額50万円)、2分の1以内

(3)市場開拓助成事業
 ■申請資格:
 東京都内に主たる事務所を持つ中小企業者等で公社が指定した事業(※)において採択され、開発・製品化した新製品・新技術の販路開拓を目的とした方
(※)公社が指定した事業・・・
  ①経営革新計画
  ②東京都ベンチャー技術大賞
  ③新事業分野開拓者認定・支援事業 (東京都トライアル発注認定制度)
  ④東京デザインコンペティション事業(東京ビジネスデザインアワード)
  ⑤外国特許出願費用助成事業
  ⑥ニューマーケット開拓支援事業
  ⑦事業可能性評価事業
  ⑧東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞
  ⑨新製品・新技術開発助成事業
  ⑩社会的課題解決型研究開発助成事業
  ⑪革新的技術の事業化支援事業
  ⑫中小企業事業化支援ファンド
  ⑬地域資源活用イノベーション創出助成事業(地域中小企業応援ファンド)
  ⑭重点戦略プロジェクト支援事業
  ⑮都市課題解決のための技術戦略プログラム製品開発プロジェクト助成事業
  ⑯海外販路開拓支援事業(海外販路ナビゲータによるハンズオン支援)
  ⑰知財戦略導入支援事業(ニッチトップ育成支援事業)
 ■事業内容:
 東京都および東京都中小企業振興公社による一定の評価または支援を受け開発し、製品化した新製品・新技術等(以下「助成対象商品」という)の販路開拓を国内外の展示会に出展することによって促進する。助成対象商品の販路開拓のために、国内外の見本市への出展小間料、出展に付随する経費および新聞・雑誌に掲載する広告費の一部を助成する。
 ■助成限度額、助成率:300万円、2分の1以内




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