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小関智弘『町工場巡礼の旅』―日本のモノづくりを下支えする男たちの言葉

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年07月31日

小関智弘『町工場巡礼の旅』―日本のモノづくりを下支えする男たちの言葉


町工場巡礼の旅 (中公文庫)町工場巡礼の旅 (中公文庫)
小関 智弘

中央公論新社 2009-01

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 旋盤工でありながら作家でもあるという変わった肩書を持つ小関智弘氏の著書。昨年の夏に入院した時に、たまたま病院に置いてあったこの本を読んだのだが、最近改めて読み直してみた。「キサゲ」、「バイト」、「キリコ」、「三枚合わせ(三面摺り)」、「へら絞り」、「逆剃り仕上げ」、「スッポン」、「捨挽き」、「分子が詰んでいる」、「分子があたける」など、モノづくりの現場で使われている言葉のいい勉強になった。もっとも、単に言葉を知っているだけでは、町工場の職人から「しゃらくせえ」(※「小生意気だ」の意味。この言葉もこの本で知った)と一喝されてしまうだろうが・・・。

 昨年は予期せぬ入院によって、それまでの仕事をほぼ全て失ってしまった。この本を手に取ったのは、そんな絶望的な気分の中で、次の仕事をどうしようかと思案していた時だった。私は、職人たちがみな、特定の分野で傑出した技能を持っているのをうらやましく思った。それと同時に、これといった技能が自分にはないことをひどく恥じた。私もこの本の職人のようになりたいと、町工場の求人情報を隅々まで読みあさっていたこともある。

 結局、町工場には転職せず、元のコンサルティング業に収まったのは、ひとえに私の勇気が欠けていたためである。だが、この業界にまた戻ってきた以上、職人たちに笑われないようなクオリティの高い仕事をしなければならないと気を引き締めているところだ。

 モノづくりの言葉に加えて、職人の心構えも非常に勉強になった。以下、本書より印象に残った部分を引用する。現在の日本企業が忘れてしまった大切なことが、ここにはたくさん含まれているような気がする。
 マシニングセンタだのNC旋盤だのをいくら立派に並べてみせたって、あんなものは金を出せば買えるものね。でも、工場の隅っこにある旋盤を、丁寧に使っているかどうかを見れば、工場の技術がわかるんだ。あれは道具づくりには欠かせない機械だもの。それで、売っていない道具を工夫して作る。それを粗末にしているようじゃあ、いくら新しい機械が揃っていたって、そんな工場はたいしたことはないんだ。
 規格にはずれていないんだからこれでいいや、という人のネジと、規格にはずれてはいないけれど、こんなものを出荷したら工場の恥だ、と考える人のネジとでは、箱にたまったネジの山をひと目見たらすぐにわかります。美しさがちがいますよ。
 素人は、複雑に入り組んだ形をしたもののほうがむずかしいと思いがちだが、そうではない。肉厚の極端に薄いものや、長くて細いもののことを”薄もの””長もの”と呼んで、加工はむずかしい。金属というのは、削っていくうちに変形してくる。その変形を防ぐための工夫が、加工の知恵として要求される。多くの場合、治具と呼ぶ工具を自作することなしに、それは作れない。(中略)「治具づくりで手抜きをすると、必ずしっぺ返しを食うものね」
 「いまも不況知らずの工場というのは、工場で使う道具の7割は自前で作っていますね」石川さんは自問自答のようにしてそう言い、わたしはその言葉もメモしたのだった。石川精器の自己表現が、その言葉を裏付けるように”道具”にこだわり続けているのも、見逃せない。
 たとえばウチではリミットが100分の1ミリという精度を守って作っているのを、海外で100分の3ミリなら安く作れます。形は同じものだし、その部品を組み込んでも当初は大差なく機能します。でも、ガタがガタを呼ぶんです。100分の3のガタがあったら、100分の5や6になるのはアッという間ですよ。耐久性を考えないで、安く作ることが優先されています。それはこわいことですよ。
 大手メーカーと呼ばれるような企業の変質が、リストラの名のもとに進んでいる。メーカーの消費化という変質である。メーカーでありながら実はモノを作らず、できる限り安く買いあさる。おおよその設計と買い集めた部品を組み立てるくらいしかしないメーカーの仕事は、もはやマネージングであり、実業というよりは虚業に近い。
 職人とは、モノを作るみちすじを考え、モノを作る道具を工夫することのできる人間だと、わたしは思っている。工業製品のように均質で無個性のモノを作る人間を、どうして職人かといぶかる人は多い。(中略)

 わたしは、ものづくりとはプロセスが勝負だと考えている。モノを作る過程にこそ、人は個性を発揮する。わたしたちは、無個性で均質なモノを作るために、どのような段取りで、どのような道具を使うかに心を砕く。そのプロセスはとても個性的なもので、たとえばひとつの機械部品を削るためのコンピュータ・プログラムは一人ひとりちがっている。だから職人なのだとわたしは思っている。
 合理化や効率を追って作業の細分化が進むにつれて、若い労働者がたっぷりと”雑用”を体験する機会が少なくなった。わたしなぞは、そのぶん彼等を不幸だなと感じることがある。”雑用”は、マニュアルとはちがう言葉を持っている。マニュアルだけで純粋培養される技能技術は、創造性に欠ける。(中略)

「なあ小関くんよ、俺たちの工夫ってのはさ、机に向かって図面描いているときには出ねえのさ。現場に降りて、ヤスリのケツ押してると、ふっと浮かぶんだよな。わかるだろう」





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