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【日本アセアンセンター】ASEANにおける人事/労務/ビザ最新情報(セミナーメモ書き)
【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)
【日本アセアンセンター】ASEANの知的財産権事情(セミナーメモ書き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
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2017年07月21日

【日本アセアンセンター】ASEANにおける人事/労務/ビザ最新情報(セミナーメモ書き)


パスポート

 日本アセアンセンターのセミナーに参加してきた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 【Ⅰ.タイ】
 ・タイの一般就業数は約3,858万人(2012年)であり、そのうち38.9%が農業従事者である。タイでは2018年より生産年齢人口が減少すると予想されており、第2次・第3次産業の成長スピードを緩めないためには、農業従事者を第2次・第3次産業に移行させる必要がある。ただ、2018年後半に予定されている国民総選挙では、農業従事者の支持が強いタクシン派が反タクシン派に勝利すると予想されており、就業者の産業間の移行がどこまで進むか不透明である。

 ・タイに進出している日本企業数は約8,000社であるが、そのうち経営活動の実態を伴っているものは約4,000~5,000社と推定される。在留邦人数は67,424人(2015年10月時点)であると公表されているものの、近年は若干日本人が減少する傾向にある。それが顕著に表れているのが、日本人学校の生徒数の減少である。バンコクの日本人学校では、以前は1学年のクラスが16ほどあったのが、最近は13~14クラスに減少している。

 ・最近の大きな法改正としては2点ある。まず、①2016年11月、Provident Fund(退職金積立制度)の強制加入の草案が決定した。対象は、社員数100人以上の企業、上場企業、国営企業、公的機関、BOI企業である。財務省は本草案を2018年に法制化、発効させる意向である。タイでは日本以上のスピードで高齢化が進んでおり、それに備えるためのものである。次に、②タイではこれまで定年が定められておらず、一般的に55歳を定年とする企業が多かったのに対し、今後は60歳が定年とされ、定年時の解雇補償金の支払いが義務化される。

 ・タイには公的医療保険があるが、被保険者が受診する医療機関をあらかじめ指定し(指定外の医療機関では受診不可)、指定された医療機関には保険金が前払いされる仕組みとなっている。そのため、医療従事者にとっては、治療のインセンティブが低いという問題がある。そこで、ローカル社員からは、民間の医療保険に加入してほしいとの要望が強い。タイの日系企業のうち、約4割は民間の医療保険に加入していると言われる。

 ・他のASEAN諸国にも共通するが、タイでもジョブホッピングが盛んである。タイ人の転職活動の特徴としては、以下の点が挙げられる。①勤務地へのこだわりが強く、自宅からより近い企業が見つかるとすぐに転職する。②年収やボーナスは見ておらず、月収を重視している。ボーナスを含めた年収ベースではほぼ同額であっても、月収が高い方を選択する。これは、月々のローンが支払えるかどうかで判断するためである。③内定までの期間が短い企業を好む。面接は1~2回で、2週間程度で内定を出してくれる企業が選ばれやすい。④日本以上に高学歴志向である。新卒採用者の6~7割は、2~3年ぐらい社会経験を積んでから大学院に進学したいと言う。大学院を出ても、元の企業に戻ってくる人は非常に少ない。

 ・今までは経済が右肩上がりで成長していたため、多少仕事ができない人が混じっていても他の社員から不満はあまり出なかった。ところが、近年、タイ経済の成長が鈍化しているせいか、ローカル社員がお互いに給与額を見せ合うと(ASEAN諸国ではこうしたことが普通に行われる)、「なぜあの人は大した能力もないのに自分よりも高い給与をもらっているのか?」と不満が出るようになった。早急に公正な評価制度を整備しないと、優秀な人から順番に退職し、優秀でない人ばかりが残ってしまうというリスクがある

 【Ⅱ.シンガポール】
 ・シンガポールでは、景気に左右されず、毎年3.5~4.0%の割合で昇給するのが一般的である。昇給がない場合、暗に退職を促していると思われかねない。シンガポールでもタイと同じく、年収よりも月収を気にする。賞与としては、AWS(Annual Wage Supplement)に加え、月収の平均1.5~2か月分を支給する。AWSとは、所得税を補助する役割を持つ年間給与補助である。12月に1か月分給与に相当する額を固定ボーナスとして支給する。法律に定められた義務ではないものの、政府が推奨しており、多くの企業が導入している。

 ・若いローカル社員は上昇志向が強く、ジョブホッピングを頻繁に行う。一方で、現地企業の立ち上げ期から在籍している勤続20~30年のベテラン社員も増加傾向にあり、社内で人材層の二極化が進んでいる。定年退職が近いベテラン社員の後任に対するニーズが増加している。

 ・日系企業の中には、現地化を推進するため、日本人駐在員の後任として、現地採用日本人およびローカル社員の採用による補充を行うところが出てきている。しかし、依然として、日本人駐在員数名+各部門の現地採用スタッフという人員構成が多く、思うように現地化が進んでいない。また、シンガポールには地域統括企業が設置されることも多いが、地域統括企業においては、コーポレート機能強化(特に、内部統制やリスクマネジメント)のために日本人駐在員を配置しており、その右腕となるローカル社員のニーズが増加傾向にある。

 ・シンガポールの人口約561万人(2016年6月)のうち、外国人は30%の約167万人である。近年、外国人雇用に対するシンガポール市民の目が厳しく、就労ビザ(EP)の取得も厳格化されている(後述)。そこで、シンガポール市民、永住権保持者(PR)、配偶者ビザ(DP〔EP保持者の配偶者は就労が可能である〕)、マレーシア人(EP)の採用ニーズが上昇している。

 ・EP(Employment Pass)を取得するための給与条件は、月収3,300シンガポールドル以上であったが、2017年1月より3,600シンガポールドル以上に引き上げられた。しかし、現実的には3,600シンガポールドルでEPが取得できることは稀である。MOM(労働省)のサイトhttp://www.mom.gov.sg/eservices/services/employment-s-pass-self-assessment-tool では、国籍、年齢、大学、職種などを入力すると、EP取得に必要な月収をチェックすることができる(金額はあくまでも目安であり、EP取得を確約するものではない)。上記サイトによると、なぜかマレーシア人は3,600シンガポールドル以下でもEPが取得可能という結果が出る。

 EPが取得できない場合は、S-passを取得するという手もある。従来は熟練労働者向けのビザであったが、現在はそれ以外の職種でも取得することができる。給与条件は月収2,200シンガポールドル以上である。ただし、S-pass保有者を1名採用するごとにシンガポール市民を5~6名採用しなければならないという採用枠制限がある。

 ・シンガポール市民の雇用に協力的でない企業は、MOMのWatch Listに掲載される2017年3月には、250社をWatch Listに掲載したとMOMが発表した。Watch Listに掲載された企業は、雇用環境の改善に向けた取り組みに関する報告書を提出しなければならない。また、Watch Listに掲載されている期間中は、就労ビザが下りないという問題が生じる。

 【Ⅲ.マレーシア】
 ・マレーシアの労働者人口は約1,440万人であるのに対し、外国人労働者は約580万人(合法労働者約230万人、不法労働者約350万人)である。マレーシア政府は、外国人労働者依存の労働集約的な産業構造から脱却し、産業の高度化を急いでおり、外国人労働者規制に関する政策を矢継ぎ早に打ち出している。ただし、新経済モデルを目指す政府と、景気後退を警戒する経済界の間のやり取りで方針が二転三転している。例えばこんな具合である。

 ○2016年2月・・・バングラデシュ人労働者150万人の受入を発表するも、労働組合などの反対を受け曖昧にされた。
 ○2016年3月・・・全ての外国人労働者の新規受け入れを凍結すると発表。
 ○2016年4月・・・アーマド・ザヒト・ハミディ副首相は、マレーシア小売チェーン協会の会議において、一部のセクターにおいて雇用が不足していることを政府が認識しているとし、新規受け入れに向けて動きがあることを明かす。
 ○2016年5月・・・外国人労働者の受入凍結を解除する場合は、①マレーシア人を雇用しようとしたことを証明する書類、②従事させる仕事内容を明記した書類の提出を条件とすると指摘。

 ・マレーシア人求人の内訳を見ると、営業、事務、エンジニア、財務・経理、ITいずれの職種においても、マネジャー、エグゼクティブクラスの求人が高い割合を占めている。日本人の求人に関しては、ビザの発給条件がやや厳しくなっているものの、特に20~30代の若手層の求人割合が高く、現地で採用された日本人が急増している。

 ○営業・・・設備投資より営業力強化のニーズが強い。若手の営業担当者は常に枯渇気味。
 ○事務・・・秘書が多い。日本人の細かいフォロー、丁寧さを求めている。
 ○カスタマーサポート・・・在マレーシア邦人数が増加しており、彼らへのサポート業が多い。
 ○エンジニア・・・製造管理、品質管理、工場長など、シニア層がメイン。
 ○接客・飲食・・・日本食飲食店が激増しており、店長、シェフの求人が増加。
 ○財務・経理・・・事務の中でも割合が高いものの、英語力とのバランスが難しく苦戦。
 <参考>
 ○翻訳・通訳・・・基本的にビジネスは英語で行われるため、日本人の求人は少ない。
 ○IT・・・ここ数年で進出が増加しているが、基本的には本社からの派遣が多い段階。

 ・マレーシア人は、マレー系65%、中華系25%、インド系10%という構成である。同じマレーシア人でも、見た目、性格、得意職種が全く異なる。

 ○マレー系・・・温厚な性格で人柄はよい。家族・お祈りが最優先であり、仕事の優先度は低いことが多い。家族重視のため、家族向けの福利厚生を充実させると満足度が上がる。営業職は敬遠され、事務全般、エンジニア職が好まれる。
 ○中華系・・・ハングリー精神が強い。お金を稼ぐことに執着心があるので、仕事へのモチベーションは高い。数字を達成するなどの意識は高いが給与アップを目的とした転職も多く、安定しない。管理職、経理、営業に多い。営業職はコミッション制度が必須である。
 ○インド系・・・医者、弁護士などの専門職で特出した才能を示す人も多い一方、タクシードライバーにおけるインド系比率も多く、インド系の中でもステータスの格差が大きい。全体的に頭のよい人が多い一方、中にはよからぬ方法でお金を稼ぐことに頭のよさを使う人もいる。

 ・金正男殺害事件により、北朝鮮との国交断絶も疑われたが、北朝鮮との間で”何かの”合意を交わし、容疑者を北朝鮮に変換するとともに、頑なに拒んでいた遺体の引き渡しも実行した。ナジブ首相は、「我々は駐平壌大使館を閉鎖もしなければ、北朝鮮との断交もしない。マレーシア国内における北朝鮮労働者らの外貨獲得活動も引き続き認める」と発言し、引き続き良好な関係を築こうとしている。現地では何事もなかったかのような状況である

 【Ⅳ.ベトナム】
 ・日本企業の採用手法を見ると、大卒新卒者はカレッジリクルーティング、スタッフレベルの経験者は求人サイト、マネジメントレベルの経験者は人材紹介、ワーカーは自社募集が中心である。自社募集ではSNSが活用される。日本ではFacebookはどちらかと言うと年齢が上の人たちが使うものであるが、ベトナムでは20代のFacebookユーザが多い

 ・上位校出身者は昇進、昇給に対しての意識が強く離職率も高いため、中堅校のポテンシャル人材を採用し、教育を通じて会社に対するロイヤリティを高めるのも1つの手である。福利厚生を充実させることも重要である。ベトナムでは特に社員食堂の充実が求められ(「食事をおいしくしてほしい」という理由でストライキが起きる)、運動会、誕生日会、社員旅行が喜ばれる。

 ・ベトナムに関してはセミナーで得られた情報が少なかったので、代わりに私が今までに聞いたことのある情報を書いておく。

 ○ベトナム企業は、労働組合に対して、賃金総額の2%を毎年拠出しなければならない(日本では不当労働行為にあたり、法律で禁止されている)。
 ○ベトナムでは、テト(正月休み)前にストライキが起きやすい。在庫が少ないと、仕事が減っていると思われ、解雇されるのではと不安になって社員がストライキを起こす。よって、テトの前には在庫を積み増しするなど、工夫が必要である。また、ストライキの際には、トイレの落書きが決起のサインになっていることがあるため、日頃からトイレは入念にチェックする。
 ○採用時には診断書を提出させる。これは、麻薬などをやっていないかどうかを確認するためである。なお、診断書の偽物が流通しているとも言われており、診断書が本物かどうか注意すべきである(ちなみに、日本では採用段階で診断書を提出させることは違法である)。
 ○ベトナムの労働法では、有期雇用契約について、1回目の更新は有期雇用契約でも構わないが、2回目の更新からは無期雇用契約になると定められている。
 ○ベトナム人には、捨てたものは皆のものという意識がある。そのため、工場から出る廃材などを個人で勝手に売却してお金を得、仲間と分け合っていることがある。廃材を売却して得たお金は会社のものであることを教え、そのお金は福利厚生に使うとよい。
 ○ベトナムの歴史は外国からの支配の歴史であることから、表面的には穏やかであっても、内面には反抗心を持っている。したがって、上から目線で「指導」をすると反発を食らう。どの国に進出する場合でもそうだが、自社がその国のために仕事をしてやっているという感覚でいると失敗する。そうではなく、進出先国のローカル社員をパートナーと見なし、その国のおかげで事業をさせてもらっているという気持ちを持つことが大切である。

 最後に、以前私がASEAN諸国の労働事情を比較調査した際に作成したファイルをDropboxにアップしておいた。シンガポールとブルネイを除く8か国の情報をまとめてある。様々な書籍などの情報の寄せ集めであるため、抜け漏れ、誤りがあればご指摘いただきたい。
 https://www.dropbox.com/s/kgn7n6ijekmwvvq/20170721_ASEAN_employment.pdf


2017年05月17日

【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)


カンボジア・バイヨン遺跡

 (※)写真はカンボジアのバイヨン遺跡。アンコール遺跡を形成するヒンドゥー・仏教混交の寺院跡。クメール語の発音ではバヨンの方が近い。バは「美しい」、ヨンは「塔」の意味を持つ。

 日本アセアンセンターのセミナーに参加してきたので、その内容のメモ書き。2年前に同じタイトルのセミナーに参加して、その時の内容は「「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」にまとめたが、今回の記事はその内容のアップデートという位置づけ。

 ・まずはカンボジアの基礎知識について。
 【よくある質問①】カンボジアは地雷や内戦があったりして、危険な国ではないのか?
 ⇒【回答】外国人が立ち入る場所に関しては、既に地雷が撤去されている。また、カンボジア国内の地雷の被害者数は二桁まで減少している(地雷で亡くなる人より落雷で亡くなる人の方が多い)。現在、地雷を除去した新たな土地を貧困層に配分する事業を実施中である。ただ、ポル・ポト派が最後に立てこもった山岳部には、まだ何百万個の地雷が残っている。しかし、地雷を除去しても土地としての使い道がなく、お金をかけてまでやる意義があるのか疑問視されている。

 内戦に関しては、1992年にカンボジア和平が成立した。最後の武力衝突は1998年であり、その後は1998年、2003年、2008年、2013年と民主的な総選挙が行われている。国内の治安も、アジアの中では「普通」レベルである。外国人が巻き込まれる凶悪犯罪はかなり減少している。ただし、ひったくりと交通事故には要注意である。カンボジアの人口は日本の約10分の1、国内を走る自動車の数は日本の約100分の1だが、交通事故の犠牲者数は2,000人を超えている。

 【よくある質問②】カンボジアは秘境とジャングルの国ではないのか?
 ⇒【回答】世界遺産アンコールワットは観光の目玉であり、カンボジアを訪れる外国人は年間500万人にも上る。カンボジアでは観光が一大産業であり、GDPの約15%を占めている。アンコールワットの周囲にはゴルフ場や高級ホテルも多数存在する。それから、おそらく戦争映画の影響でカンボジア=ジャングルというイメージがついていると思われるが、実際のカンボジアは真っ平の国である。山岳部は限られており、プノンペンからタイやベトナムの国境線まで車で走っても、峠は1つもない。水田が地平線まで広がっており、農業国としても発展が見込まれる。カンボジアの米の生産量は年間約900万トンであり、既に日本を上回っている。

 【よくある質問③】カンボジアは貧乏な国ではないか?
 ⇒【回答】2016年の1人あたりGDPは1,228ドルであり、アジアの「普通の国」になりつつある。アジア通貨危機直後の1998年から2007年の10年間の平均経済成長率は9.4%であり、ASEANの中で最高である。また、最近5年間(2012~2016年)でも、年間平均成長率は7.2%と高水準を保っている。確かに、農村部に人口の8割が存在しており、貧困層が多いのは事実である。ただ、貧困率はこの10年で5割から2割に減少しており、農村部でも購買力が向上しつつある。味の素の使用量の伸び率と1人あたりGDPの伸び率には相関関係があることが知られており、カンボジアにおける味の素の使用量の伸び率はASEANの平均よりも上だという。

 ・カンボジアのマクロ経済の状況であるが、一言で言えば絶好調である。IMF、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)ともに、カンボジアの経済を高く評価している。カンボジア経済のエンジンである縫製品輸出、観光は好調が続いている。不動産・建設セクターもバブルが懸念されるものの(2017年に大量にビルが完成するという「2017年問題」を抱えている)、高成長を続けている。2016年の経済成長率は7.0%であり、、IMFは2017年の経済成長率を6.9%と予測している。ADBはカンボジアを「アジアの新たな虎」と呼んでいる。

 物価上昇についても問題はない。物価上昇率は2015年が1.2%、2016年が3.0%であり、2017年は2.7%と予測されている。日銀がどんなに異次元緩和を行っても物価が一向に上昇しない日本から見るとうらやましい限りである。カンボジアの経常収支は赤字であるが、輸出競争力の向上と輸出先の多様化により、縮小傾向にある。この輸出競争力の向上には、日系の労働集約型部品製造業がカンボジアに多数進出したことも大きく貢献している。

 外貨準備高も新興国としては非常に豊富である。2016年末時点で、輸入の4.5か月分にあたる63億ドルの残高がある。通常、外貨準備高は輸入の3か月分あれば十分とされる。IMFは、2017年末には74億ドル(輸入の4.8か月分)にまで増加すると予想している。カンボジアのGDPは約200億ドルであるから、実にGDPの3分の1に相当する。ちなみに、日本の外貨準備高は2015年末時点で約150兆円であり、GDP約530兆円の約28%に相当する。また、2015年の輸入は約78兆円であったから、外貨準備高は輸入の約23か月分ある(150÷(78÷12))。

 実質実効為替レートも2008年以降は安定的に推移している。とはいえ、カンボジアでは現地通貨のリエルはほとんど流通しておらず、キャッシュの8割はドルである。流通しているリエルは10~20億ドルと言われており、いざとなれば先ほど触れた外貨準備高で全額買い取ることも可能である。財政赤字も対GDP比2.6%と非常に低い。公共工事は外国からの援助がついたもののみを優先的に実行するという堅実な財政運営の結果である。IMFと世界銀行は、カンボジアの対外債務の状況を「低リスク」に分類し、当面問題ないと見ている。また、2016年7月には、世界銀行の分類で「低所得国」を卒業し、「低中所得国」に格上げされた。

 ・経済が絶好調なカンボジアであるが、リスクがあるとすれば政治が挙げられる。カンボジアでは人民党のフン・セン首相が1992年から25年にわたって長期政権を敷いている。ところが、2013年の総選挙では野党が躍進し、与党対野党=68対55という結果になった。強気になった野党は国会をボイコットした。また、同年末には縫製労働者の大規模デモが発生し、最低賃金が80ドルから100ドルに引き上げられた。年明けの2014年1月3日には、政府がデモ隊に向かって発砲し、5名が死亡するという事件が起きた。この事件を受けて、デモは全面的に禁止された。その後、与野党は約半年間の話し合いを経て、7月22日に選挙改革などを含む与野党合意に達した。2015年3月には、与野党合意に基づいて選挙法が改正された。

 しかし、与野党の「対話の文化」は短命に終わる。親中派のフン・セン首相と、アメリカが支援している野党のサム・レンシー氏の間で対立が再燃したのである。サム・レンシー氏は国外退去を余儀なくされたが、その国外退去中に、国内では野党議員への暴行事件が起き、野党副党首にスキャンダルが発覚し、さらに著名な政治評論家が殺害されるなど、きな臭い状況が続いている。また、フン・セン首相が南シナ海問題で中国寄りの姿勢を見せ、国内で強硬姿勢を見せていることに対して、欧米からは圧力がかけられている。2017年6月には地方選挙、2018年8月には総選挙があるが、その行方は未知数である。与党が勝利しても、2013年のようなデモが発生する恐れがある。また、野党が勝利すれば、政権交代をめぐって混乱が予想される。

 ・「タイプラスワン戦略」の候補国として、カンボジアはミャンマーに比べると優位である。その理由としては、カンボジアからタイへのアクセスが大幅に改善されたことが大きい。これにより、タイからカンボジアの工業団地に移ってきた日系企業も多い。一方、ミャンマーのインフラは未だに不十分であり、整備にはあと5~10年ほどかかる見込みである。カンボジアはタイとの国境沿いにあるポイペトに工業団地を建設しており、今後ますますタイとの結びつきが強くなるだろう。カンボジアの工業団地の開発を進めている「プノンペン経済特区社(Phonom Penh SEZ Co., Ltd.)」がこのたび上場し、調達した資金でポイペトに工業団地を建設する予定である。

 ・プノンペンからホーチミンまでは約230km、バンコクまでは約600kmであり、バンコク~プノンペン~ホーチミンは太平洋ベルトと同じぐらいの距離である。カンボジア自体は人口も少ない小国であるが、タイ、ベトナムを含めて3か国で国際分業ができれば、競争力の向上が期待できる。長らく課題とされてきたインフラについても、道路や港の開発は一段落ついた。現在、プノンペンとタイを結ぶ国道5号線を片側2車線にする工事を円借款で実施している。また、通信に関しては、最初から光ケーブルとワイヤレスのネットワークを集中的に構築したため、世界で見ても最安のインフラが整っている(プノンペンから日本に国際電話をかけても、1分10円程度)。

 問題は電力である。人口が少ないがゆえに、電力需要が400~500MWぐらいしかない。そのため、必然的に小規模の発電所とならざるを得ず、その分コスト高になる。カンボジアの電力需要の小ささは、福島第一原発の発電量が8,000MWであることと比べてみるとよく解る。


2017年05月15日

【日本アセアンセンター】ASEANの知的財産権事情(セミナーメモ書き)


アイデア

 ASEANにおける知的財産権協力の歴史は、1995年のASEAN知的財産協力枠組み条約(知財協力条約)の締結に始まる。同条約の起草過程では、ASEAN地域の中央特許庁、中央商標庁の設立というアイデアが示された。しかし、TRIPS協定の実施が優先課題である中で、一気にASEAN特許庁・同商標庁の設立に動くことへの警戒感が強く、条約ではASEAN特許制度・同商標制度設立の可能性を探求するという文言で決着した。

 1998年に策定されたハノイ行動計画では、2000年までにASEAN特許出願制度・同商標出願制度を導入することが合意され、特に商標については、ASEAN商標出願制度を実現するために、共通出願フォームを完成、実施させることとなった。1998年時点では、少なくとも出願段階において、地域独特の制度を設立するという点で、首脳レベルでの明確な合意があった。

 だが、次第にASEANの方針が変化していく。ASEAN知財行動計画2004-10では、ASEAN商標制度について、ASEANレベルの地域制度と国際出願制度との適切性を比較することが合意された。また、ASEAN特許制度についての言及がなくなった一方、新たにASEAN意匠制度の実現可能性を検討することとされた。さらに、新規加盟を促進するべき条約として、特許協力条約、マドリッド協定、ヘーグ協定が挙げられた。2007年のAECブループリントでは、ASEAN商標制度に代わり、マドリッド協定議定書への加盟を目指すこととされた。ASEAN意匠制度については、その設立を目指すとされたが、ASEAN特許制度への言及はなされなかった。

 ASEAN知財行動計画2011-15では、方針転換がより明確となった。すなわち、2015年までに、①全ASEAN諸国が特許協力条約、マドリッド協定議定書に加盟する、②ASEAN7か国がヘーグ条約に加盟するとの目標が設定された反面、ASEAN特許制度・同商標制度・同意匠制度といった文言が一切使われなくなった。ASEAN特許庁・同商標庁の文言も姿を消した。

 ASEANがASEAN特許制度構想、同商標制度構想を断念した理由は大きく3つある。1つ目は、ASEAN各国の知財制度の差異が挙げられる。ASEAN特許制度構想などが提示された1995年当時、強力な司法制度を有するWTO協定の一つとして、TRIPS協定が発効したばかりであった。ASEAN各国とも、最優先課題はTRIPS協定の実施であり、地域制度を議論する準備が十分にできていなかった。2つ目は、ASEAN企業にとって、ASEAN域内での知的財産権の保護よりも、世界レベルでの保護の方が重要であるという点が指摘できる。ASEAN諸国への出願のみが円滑化されるASEAN特許制度・同商標制度よりも、非ASEAN諸国への出願もカバーされる特許協力条約やマドリッドシステムのメリットの方が大きかった。

 3つ目としては、超国家的な組織に対するASEANの伝統的な警戒感がある。1967年に設立されたASEANが、組織的な根拠となるASEAN憲章を持ったのは2008年に入ってからであった。2015年12月31日には、ASEAN政治・安全保障共同体(ASC)、ASEAN経済共同体(AEC)、ASEAN社会・文化共同体(ASCC)の3つの共同体からなるASEAN共同体が発足したが、EU大統領、EU議会が存在し、ユーロという単一通貨があるEUとは異なり、ASEAN共同体はそこまで深い統合を目指しているわけではない(以上の内容は、石川幸一、助川成也、清水一史『ASEAN経済共同体と日本―巨大統合市場の誕生』〔文真堂、2013年〕より)。

ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生
石川 幸一 助川 成也 清水 一史

文眞堂 2013-12-13

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 ここからがセミナーの内容。まずは、ASEAN各国の知的財産権関連条約などの加盟状況について。その前に、主要な条約の内容を整理しておく。

 ○パリ条約
 1883年にパリにおいて、特許権、商標権などの工業所有権の保護を目的として、「万国工業所有権保護同盟条約」として作成された条約である。「内国民待遇の原則」、「優先権制度」、「各国工業所有権独立の原則」などについて定めており、これらをパリ条約の三大原則という。

 <内国民待遇の原則>
 パリ条約の同盟国は、工業所有権の保護に関して自国民に現在与えている、または将来与えることがある利益を他の同盟国民にも与えなければならない。また、同盟国民ではない者であっても、いずれかの同盟国に「住所または現実かつ真正の工業上もしくは商業上の営業所」を有する者(準同盟国民)に対しても、同盟国民と同様の保護を与えなければならない。

 <優先権制度>
 いずれかの同盟国において正規の特許、実用新案、意匠、商標の出願をした者は、特許・実用新案については12か月、意匠・商標については6か月間、優先権を有する。優先権期間中に他の同盟国に対して同一内容の出願を行った場合は、当該他の同盟国において新規性、進歩性の判断や先使用権の発生などにつき、第1国出願時に出願したものとして取り扱われる。

 <各国工業所有権独立の原則>
 特許権に関しては、特許権の発生や無効・消滅について各国が他の国に影響されない。商標権に関しては、同盟国の国民が、他の同盟国において登録出願をした商標について、本国で登録出願、登録、存続期間の更新がされていないことを理由として登録が拒絶、無効とされることはない。また、いずれかの同盟国において正規に登録された商標は、本国を含む他の同盟国において登録された商標から独立したものである。

 ○PCT(特許協力条約)
 複数の国において発明の保護(特許)が求められている場合に、各国での発明の保護の取得を簡易かつ一層経済的なものにするための条約である。本条約は、国際出願によって複数の国に特許を出願したのと同様の効果を提供するが、複数の国での特許権を一律に取得することを可能にするものではない。この条約などによって複数の国で特許権を取得したかのような「国際特許」、「世界特許」または「PCT特許」といった表現が使用されることがあるが、世界的規模で単一の手続によって複数の国で特許権を取得できるような制度は、現在のところ存在しない。

 ○ベルヌ条約
 著作権に関する基本条約である。著作権は、著作者による明示的な主張・宣言がなくとも自動的に発生する。条約の締結国においては、著作者は、著作権を享有するために、「登録」や「申し込み」の必要がない。作品が「完成する」、つまり作品が書かれる、記録される、あるいは他の物理的な形となると、著作者はその作品や、その作品から派生した作品について、著作者が明確に否定するか、著作権の保護期間が満了しない限り、直ちに著作権を得ることができる。

 ○マドリッドプロトコル(マドリッド協定議定書)
 商標について、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局が管理する国際登録簿に国際登録を受けることにより、指定締約国においてその保護を確保できることを内容とする条約である。締約国の官庁に商標出願をし、または商標登録がされた名義人は、その出願または登録を基礎に、保護を求める締約国を指定し、本国官庁を通じて国際事務局に国際出願をし、国際登録を受けることにより、指定国官庁が12か月(または、各国の宣言により18か月)以内に拒絶の通報をしない限り、その指定国において商標の保護を確保することができる。

 ◆ASEAN各国の知的財産権関連条約の加盟状況
ASEAN知的財産権関連条約加盟状況

 ASEAN各国の知的財産権法の整備状況は以下の通りである。ミャンマーは最も法整備が遅れている(以前の記事「「ミャンマー・エーヤワディー管区投資誘致セミナー」に行ってきた」を参照)。「△」は不十分ながら法律による一定の保護があることを示す。例えば、ミャンマーには商標法が存在しないが、別の法律で商標について一定の保護が与えられている。

 ◆ASEAN各国の知的財産権法の整備状況
ASEAN知的財産権法制度の状況

 ASEAN各国の知的財産権の出願件数は以下の通りである。

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数
ASEAN各国の知的財産権出願件数

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(特許)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(特許)

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(商標)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(商標)

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(意匠)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(意匠)

 その他、セミナーで参考になった点をまとめておく。

 ・公報全文が公開されていない国が多い。また、大半の国において現地語でしかアクセスできず、英語での検索機能は限定的である。さらに、国外からはアクセスできないことがある。

 ・知的財産権の審査担当者の審査能力が低く、権利化までに時間がかかる。基本的には、他国の登録査定を提出しないと登録査定を得られない。先に日本やアメリカなどで登録査定を獲得し、その資料を提出するとようやく審査が進行するというのが現状である。

 ・商標については、冒認出願(ある国で有名な商標について、海外の第三者が勝手にその国で商標出願し、権利を取得すること、など)への対策が必要である。冒認出願に対しては、真の商標権者による取消請求を法定している国も多いものの、期間には制限がある(概ね、登録から5年が目安)。一度冒認出願が登録されてしまうと、取消手続きが煩雑な上、費用もかかる。先に出願するのと、冒認出願を取り消すのとでは、費用が2桁違う。中国で「クレヨンしんちゃん」が冒認出願され登録されているが、この取消には7,000万円ほどかかると言われている。

 ・営業秘密については、それを保護する法律がASEAN各国に存在する。しかし、現実的には、営業秘密の保護は非常に難しいと言わざるを得ない。何が営業秘密に該当するのか契約書に明記しなければならないのだが、どうしても抜け漏れが発生する。

 ちなみに、日本でも営業秘密を保護することは困難である。営業秘密として認められるには、秘密管理性、有用性、非公知性という3要件を満たす必要がある。だが、裁判で秘密管理性が認められるケースは非常に少ない。例えば、企業の顧客情報がサーバから抜き取られて漏洩した場合、サーバへのアクセス権限は厳重に管理されていたか、サーバへのアクセスログは管理されていたか、サーバの情報をローカルPCに落とすことができないようになっていたか、ローカルPCからUSBへのデータ転送が禁止されていたか、サーバルームへの入退室は必要最小限の人に限定されていたか、サーバルームへの入退室記録は存在したか、などが問われる。

 ・ASEANにおいては、まずは審査官にとって解りやすい権利を取得し、権利侵害があった場合には刑事事件により解決するのがベストである。民事事件は数年かかるのに対し、刑事事件が費用が安く、早期に解決することが多い。また、刑事手続きであっても、被害に対する経済的補償の請求が可能な場合がある。一方、長期的に技術保護を図る場合には、特許出願しかない。PCT出願を利用して他国で権利化した後、ASEAN各国で権利化を行うことになる。



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