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個人の価値観が経営方針に与える影響について(私のケースを題材に)
『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「グダグダ銀行」が日本電産を成長させた、他

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年09月22日

個人の価値観が経営方針に与える影響について(私のケースを題材に)


 以前の記事「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)(2)(3)」で、私の(拙い)人生経験に基づいて10個の価値観を書き出してみた。ここで言う価値観とは、絶対的な基準ではなく、あくまでもその人に特有のルールである。だから、私の価値観とは異なる価値観も成立しうる。相手の価値観を無条件に破壊する暴力的な価値観でない限り、社会には様々な価値観が並立する(暴力的な価値観とは、例えば多様性を尊重するという価値観に対して自己の絶対性を主張したり、自由競争社会において自由競争を真っ向から否定したりするような場合である)。

 私の10の価値観については、以下のような異なる価値観が考えられる。

 (1)努力に惚れるのではなく、成果が出る努力をする。成果が出なければ努力を諦める。
 ⇔成果が出るまで努力し続ける。成果が出ないのは努力が足りないからである。

 (2)自分が愛する製品・サービスを顧客に提供する。
 ⇔顧客のためであればどんな製品・サービスであっても提供する。

 (3)自分の実力を120%出さないとできない仕事を引き受ける。
 ⇔無謀、不可能だと思えるような仕事でも積極的に引き受ける。

 (4)自分の価値を簡単に安売りしない。
 ⇔競合他社よりも圧倒的に安い価格で勝負する。

 (5)直観で人を評価しない。その人の価値観と能力をじっくり見極める。
 ⇔「この人とは馬が合いそうだ」という自分の直観を大事にする。

 (6)信賞必罰に頼らない。相手の成長を見守ることで相手を動かす。
 ⇔信賞必罰に頼る。人を最も効果的に動機づけるのはアメとムチである。

 (7)嘘やごまかしの効かない書き言葉によるコミュニケーションを重視する。
 ⇔自由度が高い話し言葉によるコミュニケーションを重視する。

 (8)模倣されることを恐れない。ナレッジはオープンにして全体の底上げを図る。
 ⇔重要なナレッジは自分の利益のために徹底的に保護する。

 (9)時間は万人に平等に与えられた宝。宝を壊す人を許してはいけない。
 ⇔時間に神経質になりすぎてストレスを溜めてはならない。

 (10)仕事に楽しみを求めない。わずかな楽しみのために多くの苦しみがある。
 ⇔仕事とは元来楽しいものである。仕事に対する満足度が高ければ成果も上がる。

 価値観がなぜ重要なのかと言うと、経営陣の個人的な価値観はその企業の経営方針や戦略、マネジメント、オペレーションに強く影響するからである。組織は、経営陣の個人的な価値観に基づいてデザインされる。組織を構成する各要素が、経営陣の価値観と矛盾なく精密に設計されていればいるほど、強い組織ができ上がる。また、各社員の個人的な価値観が、経営陣の価値観と一致していればいるほど、組織に対するロイヤリティは高まる。

 価値観が経営を左右するということは、価値観が異なれば経営の手法も異なるということである。仮に私が経営者になった場合には、価値観(1)に基づいて、どんなプロジェクトであっても撤退条件を厳密に定義することだろう。撤退条件に合致する場合には、それまでどんなに努力を積み重ねてきたとしても、プロジェクトをあっさりと放棄する。

 一方、例えば日本電産の永盛氏は、私と逆の価値観を持っている。永盛氏は「私に失敗というのはない。なぜなら、成功するまでやり続けるからだ」といった趣旨の発言をしている(永守重信「持続的エネルギーの源泉は何か 【インタビュー】仕事のストレスは仕事で癒す」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2014年9月号))。アフリカのある民族が、「我々が雨乞いをすると100%雨が降る」と言うので観察してみると、実は彼らは雨が降るまで雨乞いを止めないことが解った、という話を聞いたことがあるが、これも私とは対極の価値観であろう。

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 価値観(2)と価値観(4)に従えば、自分が「これだ」と思う製品・サービスを厳選し、それに付加価値をつけて販売する、というポジショニングを選択することになる。これに対して、私とは逆の価値観を持つ人は、幅広い製品・サービスのラインナップを揃え、低価格で大量に販売する、という戦略を選択するに違いない。これはどちらがいい・悪いという話ではない。どちらも現実にありうる選択肢である。ただし、私自身は低価格路線の企業で働くことは難しいだろう。

 価値観(5)(6)(10)は、人材マネジメントに影響を与える。私が人事の責任者であれば、採用プロセスは応募者の能力を多角的に評価するために、非常に長いものになる。現場の社員も面接官に任命して、何度も何度も面接を繰り返すに違いない。グーグルやゴールドマン・サックスは採用面接の回数が多いことで有名だが、私も同じような方法をとると思う。また、現場のマネジャーには、信賞必罰に頼らずに部下を動機づけるよう要請する。さらに、社員満足度を重視せず、むしろ「多少不満だが、モチベーションは高い」状態を作り出す仕組みを構築する。

 私とは反対の価値観を持つ人は、直観に依存した採用を行う。面接官は、「この人と一緒に働きたいと思えるかどうか?」を大切にするだろう。部下に対してはアメとムチを駆使する。また、社員満足度が上がるよう、職場環境を整えたり、福利厚生を充実させたりする。個人的にはあまり賛同しないが、こういう人材マネジメントもありうることは認める。

 私は価値観(7)に基づいて、組織に散らばる様々な知を形式知化し、全社員で積極的に共有するだろう。そのために、マニュアルや成功・失敗事例など、膨大なドキュメントを整備する。これは官僚主義的と言われるかもしれない。しかし、「官僚組織こそ理想の組織」という意見もある。良品計画には、店舗用の「MUJIGRAM」と本部用の「業務基準書」という2つのマニュアルがある。両方合わせると2,000ページにも上る。私はこういう運営方法をお手本にするかもしれない。

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 価値観(7)とは逆に、話し言葉によるコミュニケーションを重視する、という方針もありうる。良品計画とは違って、スターバックスには決められたマニュアルがなく、店舗スタッフは見よう見真似でオペレーションを学んでいく。しかし、私は社員の間で業務品質にバラつきが生じるのが怖いので、この手法はとらないだろう。また、部下育成を口伝に頼るような、暗黙知が中心で、昔気質の職人気質が根強い企業も苦手である。

 私が掲げる高付加価値路線と官僚主義は、相容れないと感じる方がいらっしゃるかもしれない。高付加価値路線では、顧客の複雑なニーズを汲み取ってソリューションを設計するため、業務をマニュアル化しにくい。マニュアル化は、画一的な手法で横展開を効率的に繰り返すことが必要な低価格路線でこそ威力を発揮する、と思われるだろう。

 しかし、高付加価値路線でも官僚主義的なマネジメントをすることは可能だと考える。例えば、世界で最も高いコンサルティングフィーを請求するマッキンゼー・アンド・カンパニーには、世界中のプロジェクトの成果物を格納したデータベースが存在する。コンサルタントは、戦略立案で使用する様々なフレームワークを参照することができる。フレームワークという”思考の枠”だけは全世界で共通にし、その枠にどんな情報を入れてどのような示唆を導くかは各プロジェクトに委ねることで、それぞれの顧客企業の実態に即した戦略の形成を可能にしている。

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 価値観(8)は、研修業界の特質に立脚している(旧ブログの記事「研修業界はまだまだ未熟な業界かもしれない」を参照)。研修業界は市場も各プレイヤーの規模もまだまだ小さい。よって、ナレッジをオープンにしたところで、競合他社がすぐに自分を潰しにかかることは考えにくい。それよりも、ナレッジの公開を通じて業界全体のレベルが上がり、市場が大きくなった方が私としては嬉しい。もっとも、これは研修業界だから成り立つ話である。製薬業界でこれをやったら、多額のR&Dを投入した特許が簡単に模倣されて、経営が立ち行かなくなることは言うまでもない。

2014年09月17日

『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「グダグダ銀行」が日本電産を成長させた、他


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○ポジティブに働くためのコンセプト ワーク・エンゲイジメント:「健全な仕事人間」とは(島津明人)
 本号の特集は「ハードワーク」であり、一見するとダイヤモンド社がワーカホリックを推奨しているかのように思えるのだが、ハードワークとワーカホリックは明確に区別されている。それが最もよく解るのがこの論文である。
 ワーク・エンゲイジメントとは「仕事に誇りややりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)の3つがそろった状態であり、バーンアウト(燃え尽き)の対立概念として位置づけられている。(中略)これまでの研究をまとめると、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、心身の健康度が高く、組織に愛着を感じやすく、仕事を辞めにくく、生産性が高いことがわかっている。
 島津氏は、「活動水準」と「仕事への態度・認知」という2軸でマトリクスを作成し、ワーク・エンゲイジメントと類似する概念の整理を行っている。

 ・活動水準=高、仕事への態度・認知=快・・・ワーク・エンゲイジメント
 ・活動水準=高、仕事への態度・認知=不快・・・ワーカホリズム
 ・活動水準=低、仕事への態度・認知=快・・・職務満足度
 ・活動水準=低、仕事への態度・認知=不快・・・バーンアウト

 ワーク・エンゲイジメントを、「高いモチベーションで熱心に働き、高い生産性を上げている状態」と言い換えるならば、島津氏の整理はモチベーションと満足度を区別していることになる。しばしば、「社員満足度を上げると、組織の業績が上がる」と言われる。だが、この議論は満足度とモチベーションを混同しているような気がしてならない。モチベーションは将来への意欲であるのに対し、満足度は過去の仕事や職場環境などに対する評価であり、時間軸が全く逆を向いている。

 個人的には、満足度を上げても実は業績向上にはつながらず、業績向上と関連があるのはモチベーションなのではないかと思っている。モチベーションと満足度を区別すると、モチベーションは高いが満足度は低いという状態もありうることになる。例えば、今の自分の成果に納得がいかず、もっとうまくできるのではないかと腐心するようなケースである。私は、下手に現状に満足し安住している人よりも、こういう人の方が組織への貢献度が大きいのではないか?と考える。

 《参考》
 「幸福感」と「モチベーション」の違いがよく解らない印象を受けた―『幸福の戦略(DHBR2012年5月号)』
 反証をぶつけて科学的研究の厳密さに迫るHBRのインタビュアーが秀逸―『幸福の戦略(DHBR2012年5月号)』
 『アナリティクス競争元年(DHBR2014年5月号)』―グーグルでも「社員満足度向上⇒利益増加」の説明は困難

○持続的エネルギーの源泉は何か 【インタビュー】仕事のストレスは仕事で癒す(永守重信)
 当社は、創業から十数年間、地元の地銀さんにお世話になりました。そのおかげで会社を成長させることができたのですが、当時はなかなか融資を認めていただくことができませんでした。こちらの事業説明に、納得していただけないのです。

 「グダグダ銀行」信頼していたからこそ、こっそりとそんなあだ名をつけました。それほど事業説明に入る突っ込みが多かったのです。しかし、地銀さんから「グダグダ」言われた事業ほど成功しているのですから不思議です。むしろ、こちらの説明を聞いて「素晴らしい」とすぐに融資に応じてくれた事業は、ほとんどがうまくいきませんでした。
 今月頭の記事「創業補助金の書面審査をして感じた7つのこと」で、創業に必要な資金は親族から簡単に借りるな、面倒でも金融機関に事業計画をきちんと説明して、金融機関から融資を受けた方がよい、と書いたばかりであったから、この記述には深く共感した。やはり、金融機関を事業成功のパートナーとみなして、上手につき合うことが重要なのだろう。だが、とある金融機関出身のベテラン中小企業診断士の方の話によると、最近は顧客企業の事業計画や財務諸表を深く読み込むことができる行員が減っているのだという。何とも残念な話である。

 旧ブログの記事「他人からのアドバイスにはどのくらい耳を傾ければいいんだろうか?―『リーダーへの旅路』」でも書いたが、私は他人からの批判やアドバイスについて、「批判の対象」と「批判をした相手」という2軸からなるマトリクスで捉えている。

 アドバイスの対象が「計画や施策などの内容」であるケースで、相手が身内の場合というのは、実はそのアドバイスはあまりあてにならない。身内であるがゆえに視野が狭くなっており、計画などに穴があっても気づかないことが多いからだ。こういう場合は、第三者からのアドバイスの方が有益である。日本電産が取引銀行からのアドバイスで事業を成功させられたのは、取引銀行が身内と呼べるような近い関係ではなく、第三者的な立場に立っていたからではないだろうか?

 アドバイスの対象が「本人の性格、資質」というケースもある。端的に言えば人格攻撃だ。この場合、先ほどとは逆に、相手が第三者であればそのアドバイスを聞く必要がない。第三者が本人の性格を深く知っていることは少ないからだ。よく国民は、「あの政治家は人格的に問題がある」などと言って政治家の資質を責めるが、この言葉は政治家にとってあまり意味がない。

 一方、身内から人格攻撃を受けた場合は、真摯に耳を傾け、しかと受け入れなければならない。人格攻撃は人間関係を破壊する恐れがある。そのリスクを冒してまで敢えて言わなければならないということは、本人の性格によっぽど大きな問題があると考えられるからだ。

 もう1つ、永盛氏のインタビューで共感した部分を引用。
 自分で自分を動機づけできる人間は少なく、せいぜい3%がいいところでしょう。だからこそ、経営者がそうした環境をつくるべきです。
 採用においては、「能力」と「熱意」のどちらを取るかが問題になる。松下幸之助は、「才能がなくても熱意がある者を採用せよ。熱意があれば努力によって才能を獲得できる」と述べているが、私はどうも賛同できない。「能力はあるが熱意はない人」と「能力はないが熱意はある人」がいたら、私は前者を採用する。よく、採用面接では、「なぜこの業界を志望したのですか?」、「当社に入社したら何がしたいですか?」と意欲を尋ねる。しかし、私にとってはあまり重要ではない。むしろ、これまでどういう仕事をしてきて、何ができるのか?といったことの方が関心がある。

 能力はそれほど簡単に変わらないのに対し、熱意は周囲の環境などによって簡単に変わる。乱暴な言い方だが、社員のモチベーションは経営者やマネジャーが”操作”できる。能力はあるが熱意はない社員に対し、マネジャーは能力が活かせる仕事を与え、快適に仕事ができる環境を整える。すると、もともと一定の能力はあるので、次第に成果が出せるようになる。自分が出した成果を目の前にすれば、本人は仕事の面白さが解り、モチベーションも徐々に上がる。

 これに対して、熱意はあるが能力はない社員に仕事を与え、環境を整備しても、能力は簡単には伸びないため、いつまでも成果が出ない。成果が出なければマネジャーから叱責され、同僚からは冷たい目線で見られる。すると、当初の熱意は失われてしまい、能力も熱意もないというお荷物社員に成り下がる(私はそういう人をたくさん見てきた)。「好きこそものの上手なれ」と「下手の横好き」という相反する2つのことわざがあるが、私は後者を強く信じる。

 一言つけ加えておくが、企業は社員の能力開発を放棄してもよいということではない。企業が要求する能力を100%備えている人などほとんどいない。だが、能力が20%か30%ぐらいしかない人を採用するのは明らかに失敗である。60%か70%ぐらいは能力がある人を採用し、教育研修で80~90%ぐらいに引き上げる。そして、現場に出た後はチャレンジングな仕事を与えて、本人の能力を120%まで引き出すことが重要であると思う。

 (続く)




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