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『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年02月23日

『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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 (1)以前の記事「会議に出席するだけで解る企業文化の7つの特徴(その1~3)(その4~7)」でも書いたように、会議とは意思決定の場である。しばしば、部門内・部門間の連携強化という大義名分の下に「情報共有会議」などというものが開かれることがあるが(私の全色の企業でも頻繁に開かれていた)、情報共有をするためにわざわざ社員を集めなければならないということは、日常業務の中でのコミュニケーションが死んでいる証左であり、恥ずべき事象である。

 そこまでひどくなくても、会議が本来の機能を果たしていないことはよくある。意思決定をしたからには、それを実行に移さなければならない。しかし、この実行計画が曖昧なまま、会議が閉会してしまうことが非常に多い。実行計画とはつまり、誰が、何を、いつまでに、どこで、どうやって行うのか?なぜそれを行うのか?その結果はどうやって把握するのか?結果に対しては誰が責任を負うのか?といったことを具体的に定義することである。

 トヨタの現場力の強さを表す有名な言葉に「WHY×5」があるが、実行計画を策定するにあたっては、「HOW×5」が重要だと思う。すなわち、そのタスクを行うにはどうすればよいか?さらにその細分化されたタスクを行うためにはどうすればよいか?という問答を5回繰り返して、社員が会議終了後からすぐに実行に移せるレベルの行動に落とし込むことが肝要である。

 本号には、計画の実行率を高める方法として、モチベーション科学における「条件をつけた計画」(if-then planning)というものが紹介されている。
 条件をつけた計画が有効なのは、条件に付随する行動が脳神経系に組み込まれるためである。人間は「Xならば、Yを実行する」という形で情報をコード化し、(えてして無意識にではあるが)、この行動を行動の指針として活用することに非常に長けている。(中略)

 条件をつけた計画を作成することで、目標を達成する可能性が約300%高まることが、200件を超える研究結果から明らかになっている。
(ハイディ・グラント・ハルバーソン「『条件』をつけるだけで達成率は変わる 個人に頼らず組織の目標を達成する法」)
 下図は、本号で紹介されていた、条件をつけた計画の作成例である。「毎月月初めになったら」、「金曜日の午前中になったら」などという表現が文章としてやや不自然だが、著者によれば、敢えて不自然な形態にすることで、社員がその計画を意識し続ける効果があるという。

条件をつけた計画

 個人的には、条件をつけた計画は、業務マニュアルを作成する際にも有効なのではないかと思った。多くの企業では、部門別、職種別などに業務マニュアルを持っている。また、ISOの取得や内部統制対策のために、膨大な業務マニュアルを作成した企業もあるだろう。ところが、マニュアルというのはどうしても形骸化しやすい。文書化のために文書化しているというケースに陥りやすく、社員はマニュアルの中身などすっかり忘れていることもある。

 業務プロセスとは、あるインプットを入力し、そのインプットに作業を施して、価値の高いアウトプットを出力することである。よって、条件をつけた計画に馴染みやすい。つまり、「Xというインプットを受け取ったら、Yという作業を行う」という形式で、あらゆる業務を記述するのである。

 (2)本号のサブタイトルは「結果を出す組織のPDCA」となっているものの、変則的なPDCAサイクルを持っている企業の記事が2本も掲載されている(星野リゾートとLINE)。
 私は目標を立てることは、組織としていま何をすべきかを共有できるので好きだ。一方で、多くの人が目標とセットで考えるのが計画だ。目標に時間軸のノルマを設定した時点で、それは計画に変わるのだが、私は計画が嫌いである。

 しばしば「来年は何件、新規案件を実行するのですか」「今後10年間で何件増やそうと考えているのですか」など、具体的に期限を決めた数値目標や計画を聞かれるが、このような数字を定めたことはない。
(星野佳路「計画達成よりノウハウ向上が成長のカギ 数値で管理すべきは結果よりプロセスである」)
 スマートフォンやインターネットの世界では、市場は怒涛のスピードで変化していきます。そもそも全体のパイがどれだけ大きくなるかさえだれにも予測できません。何か仕掛けても競合先がすぐに追従してくるので、優位性も見えにくい。そのなかで、シェアを予測することなどだれにもできません。計画を立てることに、あまり意味がないことがおわかりいただけるでしょう。競合より早くいいものを出すこと。これに集中するしか差別化をする方法はないのです。
(森川亮「新しいモノをつくる仕事がすべて 会社の成長に計画は不要である」)
 ただ、こういうポリシーは、旧ブログの記事「(※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています―『ストーリーとしての競争戦略』」で言及した「優れた戦略ストーリーの5C」のうち"Critical Core"に該当するものだと思う。すなわち、それだけを取り上げれば非合理的なのだが、その企業の長い戦略ストーリーにおいて、ストーリーを構成する他の要素と結びつけば、企業の競争優位性を説明できる、というものである。Critical Coreは、その企業の文脈の中においてのみ重要な意味を持つ。したがって、表面的に星野リゾートやLINEのやっていることを真似すると、とんでもない大火傷を負うことになる。

 一方で、両社のような経営方法は、もしかすると両社の文脈を離れて一般化できる可能性があるかもしれないとも思った。以前の記事「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて」、「『創造性VS生産性(DHBR2014年11月号)』―創造的な製品・サービスは、敢えて「非効率」や「不自由」を取り込んでみる」で、私は以下のような図を使った(※図は未完成)。

製品・サービスの4分類

 日本企業が強いのは「必需品&欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」という象限である。この象限は需要予測が比較的しやすいため、伝統的なPDCAサイクルが機能する。他方、アメリカが強いのは「必需品ではない&欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限である。ハリウッド映画やディズニー映画を全世界に配給したり、facebookやtwitter、instagramなどのWebサービスを全世界に配信したりする。この象限の特徴は、必需品ではないがゆえに、顧客の好みに左右されやすく、需要が読みにくい点にある。

 星野リゾートやLINEはどちらかと言うと、「必需品ではない&欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」の象限に属する企業である。だから、需要予測をして具体的な計画を立てるという伝統的なマネジメントになじまないのだろう。この象限では、顧客の好みがあらかじめ顕在化しない。となると、自社の社員たちが好きだと思い、心の底から楽しめる製品やサービスを作り出して、それに共感するファンを集めるという創造的な手法への転換が求められる。また、顧客の好みはすぐに変化するから、次々と新しい製品・サービスを供給する体制も不可欠となる。

 加えて、この象限に属する企業の競合他社は、類似の製品・サービスを提供する企業に限定されない。顧客は、自分のニーズはよく解っていないが、「娯楽などに費やしてもいいと考える金額や時間」の枠はおおよそ決まっており、その枠をどの企業の製品・サービスに配分するかをその時の気分で判断している。そう考えると、例えばLINEの競合はカカオトークなどの無料通話・ショートメッセージアプリだけではなく、「娯楽を提供する企業全般」ということになる。この象限のマネジメントについては、これらの特徴を踏まえた新しい方法を開発する必要があるかもしれない。




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