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【ベンチャー失敗の教訓(第41回)】自分の「時間単価」の高さを言い訳に雑用をしない

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年10月27日

【ベンチャー失敗の教訓(第41回)】自分の「時間単価」の高さを言い訳に雑用をしない


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 コンサルタントは人月単価が非常に高い。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第33回)】営業担当者任せにしすぎたプライシング」でも述べたが、一番ランクが低いコンサルタントで約200万円/月、マネジャークラスになると約400万円/月~500万円/月に上ることもある。私が一番下のランクのコンサルタントだった時、シニアマネジャーからよくこう言われたものだ。「君の人月単価を月の稼働時間=200時間で割ってみなさい。時給が約1万円になるはずだ。毎時間、1万円に値するアウトプットを出しているか厳しく自己管理しなさい」 こう教えられていたので、コンサルティングプロジェクト期間中は、おちおちトイレにも行けない雰囲気すらあった。

 だが、こうした「時間単価」の考え方が行きすぎると、ちょっと困った事態が生じる。X社やZ社では、コンサルタントの給与は約50万円/月、マネジャーの給与は約80万円/月~100万円/月に設定されていた。これを時給換算すると、コンサルタントは約2,500円、マネジャーは4,000円~5,000円となる。私の周りには、「自分の時給に見合った仕事でなければ絶対にやらない」というスタンスの人が少なからずいた。人手不足のベンチャー企業では、ちょっとした雑用が生じたら、今いる社員で助け合ってカバーするしかない。しかし、自分の時給の高さを自負する人は、そういう仕事に手を貸そうとしなかった。

 3社が入っていたオフィスには、コンサルティングや研修開発の資料として、数千冊の書籍が置いてあった。その数があまりに増えたため、一度整理をすることになった。ところが、Z社のシニアマネジャーは、誰に作業してもらうかを何日も議論し、挙句の果てに、本の整理に自社の社員を使った場合のコストと、アルバイトをスポットで雇った場合の人件費を計算して、後者の方が安く済むからアルバイトを使いましょう、とC社長に真面目に進言していた。そんな計算をバカ正直にやっている間に、有志を募ってさっさと片づけてしまえばいい。結局、それから数か月も経った後に、X社の有志が日曜日に集まって、3時間ほどで本を片づけてしまった。

 時間単価の高さを盾に取る傾向は、Z社の人たちに顕著であった。Z社は必ずしも稼働率が高くなく、手が空いているコンサルタントが何人かいた。彼らに対して、X社の研修のテキスト印刷の手伝いをお願いしたところ、Z社のシニアマネジャーから、「そんな仕事にうちのコンサルタントを使わないでくれ」とクレームが入ってしまった。印刷を手伝ったコンサルタントは、「そんな暇があったら、コンサル業務に役立つ勉強をしろ」と注意されていた。シニアマネジャーは言葉にこそしなかったものの、X社の事務作業はコンサルタントの時給に見合わないと言いたげであった。

 やや話が逸れるが、コピーを手伝うことは勉強の機会になる。私はこんな話を聞いたことがある。ある企業で、上司が部下にコピーを頼んだ。部下がコピーを上司のもとに持って行ったところ、上司はこう尋ねた。「君は原稿に目を通したか?」 コピーを頼まれただけだと思っていた部下は、「いえ、読んでいません」と答えた。すると上司は、「いいか、コピーも大事な勉強の時間だ。言われた通りにコピーするのではなく、印刷機が動いている間に原稿をよく読んで、職場でどういう仕事が行われているのか勉強しなさい」と叱責したのだという。

 テキスト印刷を手伝うよう頼まれたZ社のコンサルタントは、X社の研修内容を勉強するいい機会になったはずだ。そしてそれは、3社が事業シナジーの発揮を目指していたことを考えれば、決してコンサル業務の勉強に劣るものではなかったと思う。

 雑用に絶対に手を貸さないZ社に対して、X社は敵対的な目を向けていた。しかし、X社の人たちも、雑用を回避する傾向がなかったわけではない。重箱の隅をつつくような話だが、例えばシュレッダーはいつもごみくずで満杯になっていた。私がシュレッダーを使うと十中八九紙詰まりを起こすので、くず箱を確認してみると、ごみくずがぎゅうぎゅうに押し込められていた。ごみくずの袋の交換を嫌がったX社の社員が、ごみくずを無理やり押し込んでその場をしのいでいたわけだ。

 2009年の末にX社が大幅なリストラを行った際、事務作業を行っていたオペレーションチームもなくなってしまったため、事務員として派遣社員を1人だけ採用した。ちょうどその頃、コンサルティングプロジェクトを終えて顧客企業先での常駐勤務からオフィス勤務に戻った私は、正午になると全員が昼食で外出してしまうことに驚いた。電話番が誰もいないのである。普段電話番をしている派遣社員も休憩に入ってしまうのならば、X社の社員が交代で電話番をするべきであろう。オフィス勤務に戻ってからしばらくは、私がオフィスに残って電話番をしていた。

 人手不足のベンチャー企業では、誰の担当でもない雑用がどうしても生じる。それを誰かがやらなければ、会社の業務は回って行かない。雑用が放置される企業では、知らず知らずのうちにチームワークが蝕まれていく。誰かが困っていても、見て見ぬフリをするようになる。すると、本当に会社の一大事が訪れた時、全員でそれを乗り切ろうという雰囲気が生まれない。今まで誰もやったことがないが、誰かがやらなければならない仕事が発生しても、「それは私の時給に見合った仕事ではない」と言い逃れをしてしまうのである。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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