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『豊洲の地下空騒ぎ/大統領はどちらがマシだった?(『正論』2016年12月号)』―現代アメリカの虚像

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年12月05日

『豊洲の地下空騒ぎ/大統領はどちらがマシだった?(『正論』2016年12月号)』―現代アメリカの虚像


正論2016年12月号正論2016年12月号

日本工業新聞社 2016-11-01

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 クリントン氏もロシアを警戒しているでしょうが、驚くべき事実もあります。全米で読まれており、漫画にもなっている『クリントンキャッシュ』という本があります。私はこれを木村太郎氏に見せてもらったのですが、同書にヒラリー氏が国務長官時代に、ビル氏がモスクワで講演して50万ドル、5000万円の講演料を受け取ったことが書かれています。
(櫻井よしこ「いずれにしろ、もう米国頼りはだめだから」)
 以前の記事「アメリカの「二項対立」的発想に関する整理(試論)」で、アメリカは二項対立的な発想によって中国と対立しながらも、アメリカ国内でも親中派と反中派の二項対立が見られることが事態を複雑にしていると書いた。表面的には反中派が中国を攻撃するのだが、裏では親中派が中国を支援することで、中国が倒れることなく、むしろ中国が力をつけてアメリカと互角に渡り合えるようにする。『China 2049』の著者であるマイケル・ピルズベリーは、中国の100年戦略を知らずに、親中派を自負して中国を支援したことを後悔していた。だが、本当は、当初の狙い通り中国が強大になったことを喜んでいるのではないかというのが私の見立てである。米中の対立が先鋭化すれば、アメリカの軍需産業が潤い、その恩恵がアメリカ経済全般に及ぶ。

 以前の記事は、冷戦時代のアメリカと旧ソ連の間にも、似たような二項対立関係が見られたのではないかという仮説で止まっている。ここで、冒頭の引用文を読むと、現在の米ロ関係においては、表面的にはアメリカとロシアが引き続き対立しながらも、裏では親ロ派がロシアを支援している可能性があることを感じさせる。ということは、冷戦時代にも似たような支援関係があったと予測しても、あながち間違いではないように思える。
 米国にも一応、「市民が毎年、特定の政治家や政党に献金できる最大額は2700ドル」という規制がある。しかしこの政治資金規正法は、最高裁の「個人が特定の政治家や政党を支援するため、大量の私財を政治活動と広報活動に使っても、その行為は憲法で保障されている『表現の自由』にあたるから、法律で規制することはできない」という憲法解釈によって、有名無実化している。その結果、数兆円の資産を持つヘッジ・ファンド業者、企業乗っ取り業者、ラスベガスのカジノ業者の中には、1人で1年に百億円の資金をばら撒いている者がいる。
(伊藤貫「トランプを生んだアメリカの衰退」)
 アメリカは民主主義を理想とする国である。民主主義とは、どんな金持ちであっても、どんな貧乏人であっても、同じ1票を行使することができるから、結果的に弱者のニーズをより効果的に政治に反映させることのできる仕組みである。ところが、現在のアメリカは、政治家に多くの献金をした者が政治を動かしている。ウォール・ストリートや製薬業界、軍需産業からの献金は凄まじいようで、彼らの力で金融業界の各種規制は骨抜きにされ、患者の治癒など二の次で製薬会社の利益しか考えない新薬が大量にばらまかれ、世界各地で戦争が推進されている。アメリカは民主主義を普遍的価値として世界に普及してきたが、今その足元がぐらついている。

 《2016年12月10日追記》
 加藤尚武氏の『現代倫理学入門』より引用。
 民主主義は、歴史的にふりかえって見れば、少数者(国王)が多数者(市民)の利益を侵害する可能性のある状況では、その侵害を防ぐのに有効な方法だった。しかし、地域紛争のように多数者が少数者の利益を侵害する可能性、資源枯渇、環境汚染のように現在の世代が未来の世代を侵害する可能性にたいしては、有効な方法とは言えない。
現代倫理学入門 (講談社学術文庫)現代倫理学入門 (講談社学術文庫)
加藤 尚武

講談社 1997-02-07

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 アメリカの最高裁裁判官は、大統領によって指名され、上院の承認を経て就任する。任期は終身で、基本的には死亡ないし本人が引退表明しない限り、その座に就くことができる。定年が70歳と定められている日本の最高裁裁判官とはこの点で大きく異なる。現在、アメリカの最高裁裁判官は定員が9名であるが、1名の欠員があり、保守対リベラルが4:4の関係にある。ここで、もしヒラリー氏が大統領に当選していたら、次のような事態になっていたかもしれない。
 ヒラリー氏が大統領に当選し、進歩派の裁判官を就任させることに成功すれば、銃規制に関する憲法判断はくつがえることになろう。州や自治体レベルで、個人の銃保有をめぐる進歩、保守両派のせめぎ合いが活発化するはずである。ヒラリー氏が仮に1期4年限りの大統領に終わっても、80歳前後の最高裁判事がさらに3人(進歩派が2人、保守寄り中間派が1人)いることから、2~3人を50歳前後の進歩派と入れ換えられれば、最高裁はその後数十年にわたって進歩派支配が続くこととなる。
(島田洋一「徹底分析 ヒラリーVSトランプ」)
 実際にはトランプ氏が次期大統領となったため、最高裁判事が進歩派で固められる可能性はなくなった。しかし、逆にトランプ氏が最高裁判事を保守(トランプ氏の「保守」は一体何が保守なのかよく解らないが)で固めることは十分にあり得る。

 最高裁判所は立法や行政から独立した第三の権力である。その独立した権力に、大統領の息がかかった人物を送り込めるというのは、非常に危険な話だ。もちろん、日本の最高裁裁判官も、内閣が指名し天皇が任命するから、内閣寄りの人物を送り込むことは不可能ではない。だが、前述の通り日本の最高裁裁判官には定年制があり、また、人数が15人と多く、裁判官が一斉に入れ替わることが考えにくいから、内閣が最高裁に対して影響力を及ぼすことは難しい(もっとも、日本でも政治的圧力があったのではないかと疑われる判決があることは否定できない)。これに対して、アメリカの場合は、定員が9名と少ないため、引用文のような事態が起こりうる。ここでもまた、法の支配を普遍的価値とするアメリカは揺らいでいる。
 左翼主義が、政治の次元にあって慣習体系への固執としての(現実主義を標榜する)右翼主義にしばしば逆転することも予め知っておかなければならない。つまり、自由(そして平等、友愛、合理)の過剰が放縦(そして画一、偽善、システミズムつまり体系主義)をもたらしてしまうと、フロイド心理学でいういわゆるリアクション・フォーメーション(反動形成)として、抑圧(そして差別、酷薄、熱狂)に逆転していく。アメリカにおける「トランプ現象」がその見本例だ。
(西部邁「世界大戦の足音を聞きながらナチ・ファッショを夢想する(続)」)
 現在、アメリカだけでなく、ヨーロッパでも極右と極左が激しく対立している。極右は移民など、自らと異なるカテゴリの人々を排斥する。一方、極左は自由、平等の名の下に、あらゆる多様性を認めようとする。私の考えでは、極右と極左は同根異種である。つまり、「人間は絶対性・完全性を備えた神が創造した合理的な人間である」という考えを出発点としている。近代において啓蒙主義を経験した欧米は、宗教を世俗から切り離すことに成功したと思っているかもしれない。ところが、神は全く死んでいない。それどころか、宗教は世俗と完全に同期している。

 唯一絶対の神に似せて創られた人間は、それぞれの人間が1人の個体であると同時に、神=全体・無限に等しい存在である。自己と他者の間には境界線がない。つまり、全体主義である。全体主義においては、自己と異なる他者を想定することはできない。仮に、自己と異なる他者が現れた場合、その他者は神が創造した世界とは矛盾する存在と見なされる。だから、その他者は絶対的に排除されなければならない。したがって、極右は暴力的に異質を攻撃する。ヨーロッパで極右政党がやっていることと、ISが中東でやっていることは、実は同じである。

 人間は唯一絶対の神に似せて創られたはずだが、現実には個体差がある。ここで人間が取りうるもう1つの選択肢は、全ての差異を神が認めた解であると認定し、平等に扱うことである。だから、男女はともに社会に参画できなければならないし、LGBTの結婚は法的に認められなければならないし、マイノリティにも機会が開かれていなければならない。極左の主張のポイントはここにある。こうした強制的な平等化の波は日本にも迫っている。日本の小学校の中には、男女が同じ部屋で着替えをし、運動会では全員が手をつないで横並びでゴールをし、演劇発表会では全員が主人公を演じているところがあると聞く。

 オバマ政権の8年間で、白人以外の民族(特にメキシコからの移民)の受け入れが急速に進み、全米で同性婚が合法化された。これは民主党の中でも特に極左的な反応であると言えよう。そして、ここからが重要なポイントだが、極左的な運動が進めば進むほど、同根異種としての極右勢力が刺激されるのである。だから、トランプのような人物が現れて、メキシコとの国境線上に壁を作ると言ってみたりする。トランプが目指しているのは、白人中心の全体主義である。

 極右と極左の衝突を緩和するには、彼らの立脚する前提を崩すしかない。ただし、「神が唯一絶対である」という点は、彼らも絶対に譲れないだろう。一神教を信じる彼らにとって、その否定は耐え難い苦痛という表現では足りないほどの苦痛をもたらす。だとすれば、残された道は、「人間は不完全で非合理的な存在である」と認めることしかない。いい加減な言い方をすれば、「ちゃらんぽらんに生きる」ということである。自分が弱く不完全なことを受け入れる。同時に、他者もまた弱く不完全であると認めてあげる。ここに、本当の意味での寛容が成立する余地が生じる。




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