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鳥海靖『日・中・韓・露 歴史教科書はこんなに違う』―韓国の教科書は旧ソ連並みに社会主義的

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年06月21日

鳥海靖『日・中・韓・露 歴史教科書はこんなに違う』―韓国の教科書は旧ソ連並みに社会主義的


日・中・韓・露 歴史教科書はこんなに違う日・中・韓・露 歴史教科書はこんなに違う
鳥海 靖

扶桑社 2005-08

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 日本とアメリカ、ロシア(旧ソ連を含む)、韓国、中国の歴史教科書を比較した1冊。同じ歴史的事実であっても、国によって扱いが全然違っており興味深い。特に、中韓との比較に多くのページが割かれている。韓国は資本主義、民主主義という基本的価値観を日本と共有しており、日本のパートナーとなりうる国だと思っていたが、教科書の中身は社会主義国のそれを見ているようである。中国や旧ソ連の歴史教育が社会主義のイデオロギーに基づいているのは理解できるものの、韓国まで社会主義的な教育を行っているとはいささか残念である。

 韓国は自国史(韓国では「国史」と呼ばれる)の教育を非常に重視している。そして、初等学校から高等学校の全ての段階で、国史の教科書・指導書は国定である。国定の歴史教科書を使うという点では旧ソ連と共通であり、逆に、国(文部科学省)が学習指導要領という方針を示すだけで、民間企業が全ての教科書を作成する日本とは全く異なる。だが、教科書が国定であるということ以上に、韓国と旧ソ連の歴史教科書には見過ごせない共通点が3つあると感じた。

 (1)建国神話の過度な信奉
 旧ソ連には、「階級闘争の果てに社会主義が資本主義を打ち倒すのであり、ソ連こそが革命の先頭を走るミッションを帯びている」という建国神話がある。旧ソ連の支配の下に成立した東ドイツでは、資本主義の結果として生まれた帝国主義の申し子であるナチスを、社会主義が一掃したという建国神話があることは、以前の記事「岡裕人『忘却に抵抗するドイツ』―同じ共産主義が西ドイツでは反省を促し、東ドイツでは忘却をもたらした」で触れた。

 韓国では、檀君の古朝鮮建国(紀元前2333年)が、最初の国家形成として重要視されているという。しかし、紀元前2333年は中国最古の夏王朝よりもいっそう古いことになり、朝鮮半島に青銅器文化が出現する以前になるから、国史にある「青銅器文化を土台に古朝鮮の国家が建設された」という記述には矛盾があることになる。学者はこの点に薄々気づいているようだが、教育現場では今なお建国神話が強く信じられているらしい。

 もちろん、建国神話はその時代に生きた人々の意識を反映しており、何よりも国の原点を表すものであるから、無視することはできない。イギリスの歴史学者アーノルド・トインビーは、「12、3歳までに民族の神話を教えなかった民族は、必ず滅びる」と言っている。民族の連帯を図る上で、神話は非常に重要なのだ(この点、建国神話を簡単にしか取り上げていない日本の歴史教科書は弱い)。だが、神話を学ぶ上で本当に重要なのは、どこまでが史実で、どこからは物語なのかを峻別する冷静な意識ではないだろうか?建国神話を頑なに信じることは、科学的な理性を抑制し、「ない」ものを「ある」と言ってしまう捏造体質を身にまとうことになる。

 (2)愛国主義・民族主義・排外主義
 旧ソ連の教科書は愛国主義に満ちていたらしい。著者は1970年代に出版された旧ソ連の歴史教科書の日露戦争の部分を読んだことがあるそうだが、かつての日本の「国史」教科書にも遠く及ばない極端な愛国主義にうんざりさせられたという。愛国意識の醸成に欠かせないのが「英雄」の存在だ。日露戦争の箇所には、マカロフ、クロポトキン、ステッセル、コンドラチェンコなど日本人にもよく知られている軍人はもとより、日本人がほとんど知らない軍人たちが次々と登場し、英雄的な戦闘を繰り広げる場面がこれでもか、これでもかと描き出されていた。

 韓国の歴史教育は、民族史的・民族主義的視点を重視していることが、「国史」の「性格と目標」の中で明確に宣言されている。強い民族主義は、他の民族に対する優越感を生み出す。それが端的に表れているのが、古代の日朝交流を描いた場面である。そこでは、三国(百済・新羅・高句麗)が日本に対して自国の優れた文化を「伝えてあげた」という、上から目線の表現がされているそうだ(原文がどうなっているのか、是非見てみたい)。

 だが、強い民族主義は諸刃の剣であり、時に排外主義となる。自らの優越性を脅かす存在はすべからく敵となる。そして、韓国にとって最大の敵とは、他ならぬ日本だ。韓国からすれば、古代に自らの優れた文化を「伝えてあげた」民族が、自分たちに歯向かうことが許せなかったのだろう。国史においては、近代史の目的は、「日帝(日本)の武力侵略」と「過酷な植民統治」に対する「国権回復と独立」のための粘り強い闘争から、「民族運動家たちの独立精神と愛国心を模範とする」こととされている。そして、旧ソ連と同様、自国のために戦った英雄が次々と登場する。

 (3)偏った世界史観
 行き過ぎた愛国主義や排外主義の帰結として、偏った世界史観が導かれる。特定の敵ばかりにフォーカスするあまり、全体像が見えなくなってしまうのだ。旧ソ連の歴史教科書はヨーロッパ中心であったという。これは、社会主義が敵とみなす資本主義の起源がヨーロッパにあったことと無関係ではないだろう。

 韓国の場合、日本を強く敵視するあまり、それ以外の国を含む多角的な関係の把握が困難になっている。例えば、国史では日清戦争・日清講和条約がほとんど取り上げられていない。よって、同条約の第1条で清国が朝鮮国の完全無欠な独立を認めたという事実には触れられていない。さらに、日清戦争以前の清国と朝鮮の宗属関係についても全く説明されていない。清国と朝鮮の歴史的関係を抜きにして、19世紀末の日清朝露を中心とする東アジアの国際関係や日本の対朝鮮政策を適切に理解するのは困難ではないか?と著者は指摘する。

 また、日露戦争後の韓国支配についても、日韓では温度差がある。日本の場合は、ポーツマス条約、桂・ハリマン協定、第2次日英同盟協約などを取り上げて、韓国支配が米英などの承認の下に進められたことが説明されている。これに対して国史では、ハーグ密使事件に関して、「列強が日本の韓国支配を認めていた世界情勢の中で成功を収めることはできなかった」と一言述べられているにすぎない。これでは、日本の韓国支配が当時の国際社会の中でどのように受け止められていたか、十分な説明になっていないのではないか?と著者は疑問を呈している。

 旧ソ連の崩壊によって、マルクス=レーニン主義に支えられた歴史教育も崩壊した。現在のロシアは、「教条主義的な世界革命の神話」に固執したことを反省している。また、ロシアの国定教科書は依然としてヨーロッパ中心だが、地域ごとに使われている「地域教科書」を見ると、極東地域で使われているものの中には、日本との交流を説明したものが出てきているという。それに比べると、韓国の歴史教科書は、まるで旧ソ連時代のまま時間が止まっているようである。韓国は実質的に社会主義国家なのだ。韓国は現在、経済危機が指摘されているが、実は教育面からも崩壊するリスクをはらんでいるような気がしてならない。




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