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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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2017年08月14日

『小池劇場と不甲斐なき政治家たち/北朝鮮/憲法改正へ 苦渋の決断(『正論』2017年8月号)』―小池都知事は小泉純一郎と民進党の嫡子、他

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月刊正論 2017年 08月号 [雑誌]月刊正論 2017年 08月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2017-06-30

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 (1)先の東京都議会議員選挙で、小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会が自民党を破って大勝した。しかし、2016年に小池氏が都知事に就任して以来したことと言えば、
 東京五輪で使う国立競技場の屋根をなくしたぐらいではないですか。屋根の分、建設費が安くなったなどと言っていますが、真夏に屋根のない炎天下でサッカー競技をやるわけです。どうなるか、今から心配です。
(屋山太郎「ふくらんだ期待がしぼんでいる・・・ 小池よ急げ 今ならまだ安倍と”共闘”できるぞ」)
 小池都知事は、一時期小泉純一郎氏と近しい関係を保っていたことから、その政治手法には小泉氏の影響を見て取ることができる。「都民ファースト」というワンフレーズ・ポリティクスは小泉氏が最も得意とすることであったし、小泉氏が「自民党をぶっ壊す」と言ったように、小池氏は「都議会をぶっ壊す」と宣言している。本号には小池氏のインタビュー記事も掲載されていたが(小池百合子「小池百合子・東京都知事独占告白 私はマクロン 9条3項は唐突・・・」)、「まずは議会を変える」と明言している。しかし、このインタビュー記事は非常に内容が薄いものであり、「とにかくリベラルでも何でもいいから人を集めた。彼らは泥臭い選挙戦を戦い抜いてくれた。彼らが都政を変えてくれると期待している」といった程度のことしか書かれていない。

 議会の改革はあくまでも手段にすぎない。何か重要な政治的課題を解決するために、意思決定機関である議会を変える必要がある、と考えるのが通常のロジックである。小池氏の発言は、企業で例えれば、新任のCEOが「まずは取締役会を変える」と言っているようなものである。しかし、そんなことを口にするCEOなどまずいない。顧客視点で戦略を練り直して必要な改革を導き出し、その改革を実現するための一手段として、取締役会の意思決定機能やガバナンス機能を見直す、という流れになる。小池氏も、「都民ファースト」という名前をつけているぐらいであるから、まずは都民のニーズを丁寧に汲み取って、あるいはニーズを先取りして、どんな改革が必要になるのかを考え、その実現手段として議会改革を挙げる、という順番でなければおかしい。

 小池氏は、インタビュアーに対して、時に非常にそっけない回答をしている。
 ―意地悪な見方で恐縮ですが、彼ら(※当選した都民ファーストの会の議員)は小池知事と一緒に経験を積んだ後、国政に進出しようという計画ではないでしょうか?
 小池:それは知りません(笑)。
(小池百合子「小池百合子・東京都知事独占告白 私はマクロン 9条3項は唐突・・・」)
 ―都議選の間近、6月に入ってから自民党を離党されましたね。とはいえ、安倍晋三総理もそうかと思いますが、自民党の中には小池知事との連携に大きな期待を寄せている人たちもいるのではないでしょうか。
 小池:さあ。(同上)
 政治とは非常に複雑なプロセスである。多様な考え方を持つ様々な利害関係者が形成する網の目をかいくぐり、ある者は押し、ある者からは引くという微妙で繊細な駆け引きが必要である。こうした、選挙戦以上に泥臭い調整プロセスを経て、政治課題を実現していくものである。だが、小池氏は、離党したとはいえ自民党とどのような関係を構築していくのか、当選した大量の新人議員をどのように活用していくのかといったことに関する構想が描けていないのではないかと思ってしまう。もっとも、小池氏には達成したい政治的課題がはっきりとあるわけではないから、その実現ルートを検討するというところまで頭が回らないのは致し方ないのかもしれない。

 小池氏のやり方は、旧民主党のやり方にも通じるところがある。旧民主党が政権を奪取した時、最初にやったのは八ッ場ダムの建設見直しであった。八ッ場ダムについては、政府と自治体、地元住民が何十年も議論を重ねて、ようやく建設合意に達したところであった。それを、前原誠司氏の一言でストップさせてしまった。地元の失望は計り知れないものがあった。小池氏は就任直後、築地市場の豊洲移転問題を延期したが、この構図は八ッ場ダムとそっくりである。
 豊洲問題では、長い間かけて都庁や市場関係者が移転合意をとりつけ、さあ移転という時に、突如都知事として乗り込んできたあなたに、ぶち壊されてしまいました。民主党が政権を取った途端に、八ッ場ダム建築中止を決めた構図にそっくりです。(中略)結局、大騒ぎして、八ッ場ダムの建築は再開され、計画は大幅に遅れて竣工いたしました。
(犬伏秀一「拝啓 小池百合子さま 「自分ファースト」になっていませんか?」)
 結局、豊洲移転が計画から大幅に遅れて進行することになった点まで、八ッ場ダム問題とそっくりである。短期的に成果を出すために、国民や住民が注目しやすい政策に目をつけ、大幅なコストカットをちらつかせる(そして、結果的にはそのコストカットに失敗する)。これが旧民主党のやり方であり、小池氏のやり方でもある。ここまで書いてきたことを総合すると、私の眼には、小池氏は小泉純一郎氏と旧民主党の嫡子であるかのように映る。

 (2)杉田水脈「スポンサーにNHKも名を連ねる 欧州の反日フリーペーパーはこんなにヒドい・・・」では、フランスを拠点に配布されている「ZOOM JAPAN」というフリーペーパーが反日左翼に傾倒していることが報告されている。ZOOM JAPANの概要は以下の通りである。
 この「ZOOM JAPAN」という名のフリーペーパーは、2010年6月創刊。フランス語圏において、日本の文化を総合的に発信する唯一の無料月刊誌とのことです。現在、フランス国内約850ヶ所に配布拠点があり、フランスを中心に毎月7万部、多い時には15万部も発行されています。英語、イタリア語、スペイン語にも翻訳され、ヨーロッパ中で配布され、Japan Expoや国際旅行博覧会の会場をはじめ、多種多様な日本関連イベント会場でも積極的に配布をされています。
 ZOOM JAPANは、表向きは日本文化に関する情報を欧州の人々に発信するという形式を取っている。しかし、その内容をよく読むと、慰安婦問題、沖縄基地問題、日本会議などに関して、事実誤認を含む左寄りの記事も相当含まれているそうだ。そして、驚くことに、このZOOM JAPANには、NHKや政府観光局も広告を出稿している。『正論』では、左派が海外で日本に不利な情報を発信していることがしばしば取り上げられる。左派にとっての総本山が国際連合であり、国連は今や反日左翼NGOの巣窟と化している(本号では、仲新城誠「反基地・山城氏VS我那覇氏 国連人権理事会での戦い」という記事で国連の内情が報告されている)。

 なぜ、左派は日本を貶めたいのだろうか?まず考えられるのは、左派にとっては国家という権力が邪魔であり、それを取り除きたいからだということである。左派の究極の目標は世界市民社会の実現であり、世界中の人々が平等に政治に関与することである。そして、アリストテレスの古代から、人間が理性を発揮できるのは政治の舞台だとされてきた。左派は、今は国家権力が独占している政治を自らの手に取り戻し、理性ある人間として生きることを目指している。

 しかし、慰安婦問題、南京事件などをめぐる左派の対応を見ていると、ひたすら中国と韓国に謝罪するばかりである。内田樹氏は、中国人や韓国人に会うと、最初に「昔の日本人がひどいことをした。深くお詫びする」と言うそうだ。この心理を紐解くと、実は、左派は国家権力をなくそうとしているわけではないように思える。「日本は三流国家である。その三流国家が中国・韓国という一流国家を害した。大変申し訳ない」という国家の上下関係が透けて見える。左派にとって国家、特に中国・韓国のような強い国家(正確には声の大きい国家)は必要なのであり、その国家にへつらうことで自己の存在空間を確保している。それはちょうど、自己否定に悩む青年が、大人に憧れるという行為で自己を辛うじて規定するというナイーブな感情に似ている。

 左派は弱者の味方である。ややもすると権力に虐げられ、政治的課題から漏れてしまいがちな弱者の声に耳を傾け、弱者のニーズを政治に反映させることを信条としている。しかしここで今度は、先ほどとは逆の優越感が顔をのぞかせる。すなわち、左派には無知な弱者のことを十分に理解する知識があり、弱者を代表して政治の舞台に立つ能力を持っていることを示したいのである。弱者をだしにして、自らの有能さを誇示しようとしているのが左派という人間である。だから、近代西欧において民主主義が成立した時、その形式は「ブルジョワ民主主義」であった。ブルジョワとは、比較的裕福な商工業者である。彼らは、弱者よりも、知識、能力、資金の面で優れている。そのブルジョワジーに反感を持った弱者が試みたのがプロレタリアート革命であった。

 つまり、国家権力の存在しない究極の平等主義を志向しているのに、自分より強い国家に対してはへこへこと媚を売り、自分より弱い者に対しては、彼らの味方を装いながら内心は彼らに対する優越感を充満させる。平等主義どころか、保守も顔負けの上下関係重視である。これが左派、特に日本における左派の実態ではないかと思う。

 (3)朝鮮半島の情勢が相変わらずきな臭いが、私は最近、どんなシナリオをとっても、朝鮮半島が共産主義国家として統一されるのは避けられないのではないかと思うようになった。

 ①アメリカが北朝鮮の核開発を容認した場合・・・北朝鮮は数年内に、アメリカ本土に届くICBMを完成させる。すると、北朝鮮はアメリカをICBMで牽制しながら、韓国併合に向けて軍事行動を起こす。ただし、この作戦は多大な犠牲を払うことになるため、実現可能性は低い。

 ②中国が金正恩体制を揺さぶった場合・・・現在、アメリカが中国を通じて北朝鮮に圧力をかけている。その結果、金正恩政権が倒れ、北朝鮮の核は放棄されるかもしれない。北朝鮮には新たな政権が誕生するが、この政権は中国の傀儡政権である。また、中国が北朝鮮に圧力をかける代わりに、中国とアメリカが密約を交わしていると言われる。具体的には、在韓米軍の縮小であろう。つまり、アメリカは韓国を捨てるということだ。しかし、これで喜ぶのは、実は親北派の韓国・文在寅大統領である。南北で軍縮が進めば、平和裏のうちに南北統一へと進むことが考えられる(以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」を参照)。

 ③トランプ大統領が金正恩党委員長と交渉した場合・・・北朝鮮の核開発が相当程度に進んだ段階で両者の交渉が実現する可能性がある。両国はまず、双方の核兵器の削減を討議する。次に、北朝鮮はアメリカに対し、金正恩体制の承認を求める。アメリカはそれを認める代わりに、韓国に手出ししないことを約束させる。さらに、交渉では、北朝鮮が国境付近でソウルに向けている大量の大砲もテーブルに上がる。北朝鮮がこれらの砲台を削減する一方で、アメリカは在韓米軍の削減を約束する。すると、②と同様に、南北で軍縮が進むことになるため、南北統一の可能性が見えてくる(以前の記事「『韓国新政権と東アジアの未来/住宅保障 貧困の拡大をくいとめるために(『世界』2017年7月号)』―びっくりするほど呑気なリベラル、他」を参照)。

 元々、朝鮮半島が南北に分裂しているのが異常事態であったわけで、その両国が、社会主義国家がよいかどうかという点はともかく、統一されるということは、ノーマルな状態に戻ることを意味する。ただし、朝鮮半島に社会主義国家が誕生するということは、日本と朝鮮半島が資本主義と社会主義、別の言い方をすればアメリカと中国・ロシアの代理戦争の場になるリスクを秘めている。だから、以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」で、日本は冷戦の遺産と戦う覚悟を決めなければならないと書いたわけである。

 以前の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で、かなりざっくりとだが下のような図を使った。アメリカとドイツは自由主義の陣営、中国とロシアは専制主義の陣営に属し、お互いに対立しているものの、実は、アメリカは中国に、ドイツはロシアに接近している。一方、同じ陣営の中でも、アメリカとドイツ、中国とロシアは決して一枚岩ではなく、時に対立をしている、ということを表した図である。この図を描いた後、親ロシアのトランプ大統領が当選し、図が崩れてしまったと思ったのだが、最近はシリア空爆や米大統領選の不正疑惑をめぐって、アメリカはロシアと距離をとっている。むしろ、アメリカは急速に中国に接近しつつあり、この図はあながち間違っていないのではないかと思っているところである。

4大国の特徴

 最近、「アメリカが中国と組む可能性」について、『正論』の中でも言及される機会が増えた。個人的に「アメリカが中国と組む」というのはどういうことなのかよく解っていなかったのだが、具体的にはこういうことではないだろうか?まず、北朝鮮問題において、前述の②のような協力をする。これが引き金となって、朝鮮半島は社会主義国家として統一される。

 次に、アメリカは、中国の一帯一路構想に本格的に賛同する。一帯一路のうち、海を通る「一路」は南シナ海を通っている。よって、アメリカが中国の一帯一路構想に本格的に賛同するということは、中国の南シナ海における一連の軍事行動を容認することを意味する。さらに中国は、一帯一路構想の実現のために、アメリカに対しAIIBへの参加を強く求める。トランプ大統領はビジネスライクな人物であるから、投資対効果があれば簡単に参加OKと言うかもしれない。

 さらに米中の関係は深化し、中東と日本・中国を結ぶシーレーンの共同管理や、習近平国家主席が提案した「太平洋2分割管理」にアメリカが同意する可能性がある。ここで一番怖いのは、日本がアメリカからはしごを外されて、米中両国から日本が共通の仮想敵国と位置づけられることである。当然のことながら、日本が強固なものだと信じて疑わなかった日米同盟は破棄される。すると、日本は自主防衛へと舵を切ることになる。しかし、これは一筋縄ではいかない。
 武装中立はかっこいいですが、防衛費は現在の約5兆円から23~24兆円ほどに跳ね上がるという試算もある。それに、日米同盟を解消した瞬間に核抑止力がなくなります。核兵器の独自開発は、各国の妨害が確実なことから、10年以上かかり、実現可能性は低い。
(小川和久、矢野義昭「日本の核武装は是か非か」)
 米中は日本を仮想敵国とする。朝鮮半島の社会主義国家は日本を敵視する。つまり、日本の周りは敵だらけになる。私はここで、ウルトラC(?)として、ロシアと軍事同盟を結び、ロシアの核の傘に入るという選択肢が浮上すると考える。ロシアに対しては、同盟を結ぶ代わりに、北方領土を4島全て返還せよという交渉も可能になる。そして、先ほどの図に従えば、ロシアはドイツとつながりを深めているから、日本はロシアルートを通じて、ドイツを中心とするEUとの関係深化にも力を注ぐようになるだろう。もちろん、これはかなり過激なシナリオであり、日本としては、アメリカが簡単に中国と手を結ばないことを願うばかりである。

2017年07月07日

『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?

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正論2017年7月号正論2017年7月号

日本工業新聞社 2017-06-01

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 北朝鮮に関しては、「金正恩体制の維持or打倒」、「核開発の容認or放棄」という2軸でマトリクスを作ると、大きく4つのシナリオが存在する。まず、「金正恩体制を維持し、核開発を容認する」というシナリオであるが、これはほぼ現状維持である。本号でも、シナリオの1つとして「金正恩政権が存続 時間稼ぎをしながら核、ICBM開発を続行」(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)というものが提示されている。また、「米国は最終的に北朝鮮を核保有国として認める。その際、長射程ICBMを保持しないことを前提とする。また、金正恩体制はこれを崩さない」(織田邦男「日本がなすべきはタブーなき核議論だ」)というシナリオも示されている。トランプ政権が以前ほど強気でない今、十分にあり得るパターンである。

 次に、「金正恩体制は維持するが、核開発を放棄させる」というシナリオがある。トランプ大統領は「金正恩体制の打倒にはこだわらない」と発言をし、北朝鮮から核兵器がなくなれば十分と考えているようだが、実際には非常に実現が難しいと思われる。北朝鮮が核開発をするのは、金正恩体制をアメリカに認めさせたいからだとメディアは説明する。しかし、政権をアメリカに容認させるだけであれば、核兵器開発という危険な手段を取らなくとも、もっと平穏な外交的手段がいくらでもある。北朝鮮が核兵器を開発するのは、韓国を攻撃して朝鮮半島を共産主義国家として統一するためであるという見方がある。私は、これが北朝鮮の本音ではないかと考える。
 島田:対中強硬派とされる、トランプ政権の国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長のポッティンガーが、先日、重要な発言をしています。北朝鮮がアメリカに届く核ミサイルを開発しているのは、体制維持のため、主観的には自衛のためと言う人がいるが、それは間違いだと。北は、韓国に向けた高射砲を大量に持つことで、何十年も十分に戦争を抑止できていた、なのになぜICBMを持とうとしているのか。それは韓国に攻め込もうとしているからではないか。その際、アメリカから報復攻撃を受けないよう、アメリカ向けのICBMを開発している、つまりそこには攻撃的意図がある、という趣旨です。
(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)
 私は以前の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」、「『北朝鮮”炎上”/日本国憲法施行70年/憲法、このままなら、どうなる?(『正論』2017年6月号)』―日本はアメリカへの過度の依存を改める時期に来ている」で、アメリカは北朝鮮の核の能力が上がるのを敢えて待っているのではと書いた。北朝鮮の核の能力が中途半端なままでは、アメリカは北朝鮮に関する十分な情報を収集できない。この段階で、アメリカが北朝鮮を刺激した結果、北朝鮮が暴走するのが最も困る。北朝鮮の核の能力が相当程度上がれば、アメリカの元に精度の高い情報が集まり、対北朝鮮の戦略も練りやすくなる。また、北朝鮮も、核の能力が体制維持を困難にするほど大きくなれば、アメリカとの交渉のテーブルにつく可能性がある。ここで初めて軍縮に向けた対話が始まる。

 軍拡しながら軍縮するというのは、冷戦時代にはよく見られたことである。1975年、ソ連はSS-20中距離弾道ミサイルを欧州東部に配備した。当時のSS-20の射程は4,400km前後であり、ヨーロッパ全域が含まれるが、アメリカ本土には届かない。このSS-20の配備によって、西ヨーロッパの安全保障状況は激変した。NATO諸国の間に疑心暗鬼が生じ、アメリカの拡大抑止に対する信頼性に疑義がかけられるようになった。結局、この問題は次のように処理された。
 NATOは2つの方法でこれに対処した。1つはSS-20のような中距離核戦力の軍備制限をソ連に求めること。2つ目はSS-20と同等の中距離核戦力、つまり地上発射型の巡航ミサイル(GLCM)及びパーシングⅡミサイルをヨーロッパに配備することであった。軍備制限を求めつつ軍備増強を行う軍備管理戦略であり、「二重決定」(NATO Double-Track Decision)と呼ばれた。

 NATOの配備先の国では大規模な抗議行動が起こったが、反対を押し切って予定通り配備した結果、米ソは交渉のテーブルにつくことになり、結果的には中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)として実った。中距離核戦力(Intermediate-range Nuclear Forces、INF)と定義されたSS-20を含む中射程の弾道ミサイル、巡航ミサイルは全て廃棄されることになったのだ。
(織田邦男「日本がなすべきはタブーなき核議論だ」)
 ただし、北朝鮮がアメリカとの交渉のテーブルについたとしても、北朝鮮の要求は非常にタフなものになることが予想される。前述の通り、北朝鮮の元々の狙いは韓国を攻撃することである。その先には、朝鮮半島を共産主義国として統一するという野望がある。北朝鮮は、未だに共産主義の教義を心の底から信じており、自由市場経済を導入した中国を裏切り者だと思っている。北朝鮮だけが、真の共産主義を実現できる国家だと自負する。よって、アメリカに対しては、核兵器を放棄してアメリカを攻撃するという道を断念する代わりに、米韓同盟の破棄を要求するに違いない。アメリカは、自国本土に届く核兵器の脅威と、韓国との長年の同盟関係を天秤にかける。アメリカが自国主義に傾けば、韓国を切り捨てる可能性はゼロではない。

 3つ目は「金正恩政権を打倒するが、核開発を維持する」というシナリオである。具体的には、「北朝鮮内で”宮廷革命”」が生じ、「クーデターで金正恩を追放・処刑」するというものである(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)。ただ、久保田氏は「理想といえば理想」であるが「夢のまた夢」と述べている。仮にクーデターが成功したとしても、
 久保田:亡命した北朝鮮の元高官、黄長燁氏は「あの国は誰が後継者になろうが変わらない、統治システムとして出来上がっているんだから」と言っていました。また、統一戦線部出身で北朝鮮専門ニュースサイト「ニュースフォーカス」代表の張真晟氏も、「金正恩だけが死んでも、妹の金与正が後継者になって、政治体制は変わらないだろう」と分析していました。
(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)
という結果になって、核兵器の開発は続行されることになる。

 最後のシナリオは「金正恩政権を打倒し、核開発を放棄させる」というものである。これにはさらにいくつかのパターンがある。1つ目は、金正恩を斬首することである。私も以前の記事「『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他」で少し触れたが、現実的には非常に難しいようだ。
 リアルタイムで金正恩本人の所在を把握できることが作戦の前提だが、この情報は偵察衛星では得られない。2006年、アルカイダ系のザルカウイ容疑者を「斬首」した時のように、側近に裏切り者がいて、金正恩の行動が逐一把握できなければ、作戦の成功はおぼつかない。また、斬首作戦は1回のチャンスしかなく、失敗が許されない。失敗すれば北の独裁者に口実を与えることになり、金正恩は直ちに「火の海」「核攻撃」を命ずるし、金正恩は地下に潜り斬首作戦は更に困難となるからだ。
(織田邦男「日本がなすべきはタブーなき核議論だ」)
 2つ目は、「金正恩政権が崩壊!北朝鮮に親米親韓政権、民主化路線に」(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)というもので、アメリカが北朝鮮に全面攻撃を与えた場合に成立するケースである。アメリカが北朝鮮を攻撃する際には、北朝鮮が韓国、さらには日本を攻撃しないように、一気に畳みかける必要がある。ところが、
 1個空母打撃部隊と在韓米軍、在日米軍の兵力で北朝鮮を攻撃するのは明らかに兵力不足である。北朝鮮攻撃はシリアとは状況が全く異なる。38度線に集中する数千の火砲(多連装ロケット砲や長射程火砲など)はソウルを向いている。ソウルを「火の海」にしないためには、開戦初頭でこれらを一挙に無力化しなければならない。同時に、核施設や核貯蔵施設も完全に破壊しなければならない。これには兵力不足なのだ。
(織田邦男「日本がなすべきはタブーなき核議論だ」)
というのが現状であり、アメリカは容易には北朝鮮に手を出すことができない。

 最後に残るのが、「金正恩政権が崩壊!親中政府が成立し、”改革開放”路線に」(島田洋一、久保田るり子「金正恩5つの運命 徹底シミュレーション」)というパターンである。これは、アメリカと中国の協力が功を奏して、金正恩の追放に成功するケースである。この場合、アメリカは北朝鮮に中国の傀儡政権が生まれることを容認する。ただし、中国の責任で核を完全放棄させることが大前提となる。それが確保されるならば、北朝鮮の域内に中国軍が基地を持つことを容認し、一方、在韓米軍は朝鮮半島から撤退することになるかもしれない。こうなると、喜ぶのは韓国の親北派・文在寅大統領である。核の脅威がなくなれば、最初は南北の連邦制という形をとりながら、徐々に南北統一へ進んでいくと予測される。

 その際、統一国家は、中国軍と米国軍のどちらを取るのかという選択に迫られるが、親中政権の統一国家は迷うことなく米韓同盟を破棄し、中国軍を選択するのは間違いない。結局のところ、朝鮮半島とは、古田博司氏が度々指摘するように、地政学的には「行き止まりの廊下」であり、隣の大国・中国に付き従うしかない運命なのである。
 統一され、北の国境線が開けば、隣の大国の経済圏に呑みこまれる。高麗時代や日韓合邦時代がこれであり、コリアンは名前も民族も溶け、モンゴル人や日本人になった。次にそうなれば、今度はきっとチャイナ人になるだろう。
(古田博司「近代以降 憂鬱な朝鮮半島 No.37」)
 私は、最後に述べたシナリオ、つまり米中協力の下で北朝鮮に親中政権が成立し、その後、親中派の韓国によって朝鮮半島に親中の統一国家が成立するというシナリオが最も可能性が高いのではないかと見ている。すると、今までは朝鮮半島の中で、米中、米ソ対立の代理を行っていればよかったものが、朝鮮半島の親中統一国家VS日本という構図になる。

 思えば、太平洋戦争に日本が敗戦した後、ドイツのように日本もアメリカとソ連の間で分割統治される可能性があった。幸いにもその難を逃れ、1950年代に勃発した朝鮮戦争で、米ソ対立は朝鮮半島に持ち込まれることになった。その後、東アジアでは至るところで米ソ対立の代理戦争が発生したが、日本だけは地政学的に恵まれた位置にあることもあって、米ソ対立の代理戦争とは比較的無縁で、独自の路線を突き進むことができた。さらに、日米安保条約によりアメリカの核の傘に入り、アメリカに国防の大部分を依存することで、経済発展に集中していればよかった。その日本が今、初めて米ソ、米中対立の代理の舞台に引きずり出されようとしている。日本は、対岸の火事を眺めながらずっと先送りにしていた問題と戦わなければならない。

 本ブログでも何度か書いたように、小国が大国同士の代理戦争で大きな被害を受けないようにするには、対立する大国の一方に過度に肩入れせず、対立する双方の大国のいいところどりをする「ちゃんぽん戦略」が有効であると考える(以前の記事「『トランプと日本/さようなら、三浦朱門先生(『正論』2017年4月号)』―米中とつかず離れずで「孤高の島国」を貫けるか?」を参照)。日本はこれまでもこのちゃんぽん戦略をある程度実行してきたが、今後はそれをさらに加速させる必要がある。同時に、対立する一方の大国に過度に肩入れしないということは、日本の場合、アメリカの軍事力に過度に依存しないことを意味する。ちゃんぽん戦略で独自のポジショニングを確保しつつ、それでもなお大国から攻撃されるリスクを想定して、日本は自国を十分に自衛するだけの力を持たねばならない。これが21世紀の日本の大きな課題である。

2017年06月09日

『北朝鮮”炎上”/日本国憲法施行70年/憲法、このままなら、どうなる?(『正論』2017年6月号)』―日本はアメリカへの過度の依存を改める時期に来ている

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正論2017年6月号正論2017年6月号

日本工業新聞社 2017-05-01

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 クリントン大統領と北の核疑惑が顕在化した1993年からオバマ大統領が退任する2017年までの24年間、米国が実質的に何もしなかった間に、北朝鮮は核実験を重ね、ミサイルも日本までを射程に入れるノドン、テポドン、そしてグァムに到達するムスダンまで開発を進めてきた。核ミサイルにより一部とはいえ米国市民を脅すところまで来たのである。
(香田洋二「トランプVS金正恩の裏側 徹底分析!両軍の実力は・・・」)
 以前の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」でもやや突飛なことを書いたが、この24年間、アメリカは北朝鮮に対して何もできなかったのではなく、敢えて何もしなかったのではないかというのが私の考えである。北朝鮮が核兵器を開発し始めた初期の段階では、当然のことながらその能力はとても十分なものとは言えない。だが、能力が十分でないがゆえに、アメリカは北朝鮮の核に関する情報を十分に入手することができない。北朝鮮がどこに核開発施設を持っているのか、核兵器の破壊能力はどの程度なのかをアメリカは見積もることができない。

 この段階でアメリカが最も恐れるのは、アメリカがなまじ北朝鮮に制裁を行った結果、北朝鮮が暴走し、韓国を攻撃することである。同盟国である韓国が攻撃されれば、アメリカは否が応でも朝鮮半島に出向かなければならない。北朝鮮の軍事能力に関する分析も不十分で、戦略・戦術が明確に定まらないまま、アメリカは朝鮮半島の戦争にズルズルと巻き込まれる。いくらアメリカの軍隊が世界最強だからと言っても、こんな戦争をアメリカはやりたがらない。

 だから、アメリカは北朝鮮の核兵器の能力が上がり、アメリカが分析可能なレベルに達するまで待っていたのだと思う。ミサイルの能力が上がれば、北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返すようになる(まさに今そうなっている)。アメリカは実験の映像を分析することで、北の実力を正確に推定できる。また、北朝鮮の核兵器の能力が上がれば、核開発施設が大型化し、衛星からその存在を把握することも可能になる。そうすれば、アメリカは対北朝鮮の戦略を練りやすくなる。

 アメリカが北朝鮮に対して取っている態度は、中国に対して取っている態度とも同じである。アメリカは、敵国のレベルが上がるのを待って、「戦争か、交渉か」と迫る。これがアメリカのいつものやり方である。ただし、仮に戦争が選択された場合は、敵国も相当程度の軍事能力を保有しているため、大規模な戦争に発展する。そして、日本が巻き込まれる可能性は極めて高い。
 柳澤:それはアメリカが助けに来てくれたとしたら、その時は尖閣の取り合いでは済まない大戦争になっているということですよね。沖縄や西日本にミサイルが飛んでくる事態も覚悟しなければならない。今までと同じようにアメリカに守ってもらうことを政策目標にしていたら、無理が生じるのではないかという懸念も出てきているのです。だからこそ、日本にとって守るべきものはいったいなんなのか、守るためにはどれほどのコストを負担すべきなのかを含めて、抜本的に考え直さなければいけない。
(柳澤協二、潮匡人「護憲か、改憲か」)
 日本は、「アメリカが日本を見捨てる日」に備える必要があるのではないかと思う。現在のアメリカ大統領は、「アメリカ・ファースト」を公言してはばからない人物である。いくら安倍首相がトランプ大統領と密接な関係を構築して、日米同盟の磐石性を強調しても、アメリカがあっさりそれを放棄する可能性はゼロではない。日本はそのXデーに備えて、自力で自国を防衛できる能力を保有する必要がある。それが、日本が戦後レジームを脱却して「普通の国」になる道である。
 山田:では仮に、安倍内閣が河野談話を撤回するなんて表明したとしたら、「修正主義だ」などと騒がれて、喜ぶのは韓国や中国ということになってしまいます。ですのでやはり、モーガンさんのような方に、アメリカの一般の人たち向けに、この問題(※慰安婦問題)についての正確な情報をきちんと出していってほしいと思いますね。
(ジェイソン・M・モーガン、山田宏「トランプ大統領の靖国参拝で歴史問題は解決する
!」)
 ただ悲しいかな、戦後70年の歴史の中で、日本人は対米依存体質にどっぷりと浸かっているようである。上記の引用文は、韓国や中国が慰安婦問題に関して根拠のない情報を世界中にばらまいていることに対し、山田宏氏がアメリカ人のジェイソン・M・モーガン氏に正しい情報を発信してくれるよう依頼している場面である。ところで、この記事には次のような文章もある。
 モーガン:日本の学問は真実を追求していくのが原則なんですけれども、アメリカの学問はあくまでもイデオロギーありきで、いくら真実を語っても聞く耳を持たない、ということに気付かされたのです。イデオロギーに染まっている人は、何を言っても聞く耳を持たないので、証拠をいくら出してもムダというわけで、それはそれで一貫性があります。(同上)
 イデオロギーに染まって真実を聞く耳を持たない人に対して、真実を伝えるようにお願いするのは全く矛盾している。慰安婦問題や南京事件問題などに関しては、韓国や中国は莫大な予算をつけて世界中で広報キャンペーンをやっている。そこで、日本も広報予算を大幅に増額して、韓国や中国に対抗すべきだという主張をしばしば耳にする。しかし、はっきり言ってイデオロギーに染まっている韓国人や中国人に何を言っても徒労に終わるであろうし、良識ある第三国から「真実はこうなのですよ」と韓国や中国を諭してもらうことも期待できない。

 私は、韓国や中国がどんなに外野で騒いでも、日本人だけは事実を適切に認識していればそれで十分だと思う。韓国や中国のキャンペーンによって、過去の日本人に対して悪いイメージを持つ人々が世界中で増えるかもしれない。しかし、過去は過去と割り切って、それでも日本を必要とする諸外国との協力関係を誠実に維持することが重要である。そうすれば、「日本人は昔は悪かったかもしれないが、今は本当に信頼できる国民だ」と思ってもらえる。外交関係は過去に束縛されるのではなく、常に未来志向でなければならない。

 私は、安倍内閣になってから、アメリカへの依存度が高まっていることに少なからぬ不安を抱いている。安倍首相は何かにつけて日米同盟の強固さを強調する。現代は米中の2大国の対立の時代であり、中国の脅威から日本を守るためにアメリカとの関係をより深化させなければならないというのが政府の理屈であろう。しかし、以前の記事「山本七平『存亡の条件』―日本に「対立概念」を持ち込むと日本が崩壊するかもしれない」でも書いたように、二項対立の一方に過度に肩入れすると、日本は危機に直面するという特性がある。

 特に、理想と現実という二項対立の扱いが不得手である。歴史を振り返ると、少なくとも3度、日本人は理想の扱いでミスをしていると私は考える。1つ目は中世における仏教の扱いである。仏教はインドから中国を経由して日本に伝来した。よって、日本の仏教という現実に対し、インドや中国の仏教が理想という関係がある。インドが天竺であるのに対し、日本は粟散辺土である。中国が大国であるのに対し、日本は小国である。ところが、中世になると、日本が粟散辺土で小国であるがゆえに、仏教の理想国であるという考え方が現れるようになった。日本が仏教の発祥の地であるとする伝説も創作された。さらに、日本書紀の神々が仏によって書き換えられた。日本書紀は日本の成立を記した重要な書物であるから、それに手を加えるというのは一大事件である(ただし、私は神仏習合自体は日本独自の二項混合として評価している)。

 2つ目は、江戸時代における中国礼賛の動きである。古代から、日本国家は中国の制度を真似して作られてきた。中国では皇帝が大きな権力を有し、広大な土地を治めている。それに倣って、日本では天皇に影響力を集中させ、国家を統治するという機構が構築された。ここでは、中国が理想で、日本が現実という関係になっている。ところが、江戸時代に入ると、儒学者である山鹿素行が『中朝事実』を著し、日本こそが中国の理想を最もよく体現している、端的に言えば、日本こそが中国であるという主張を展開するようになった。山鹿素行は江戸時代初期の人物であるが、その影響は後代にまで長く及んだ。明治維新によって幕府が消滅し、天皇に権力が集中する体制が整備されたが、山本七平は明治維新のことを「中国化革命」と呼んでいる。

 ここにおいて、日本と中国の関係は、日本が理想で中国が現実という具合に逆転する。理想的な日本は中国という現実に直面するのだが、理想の扱いに慣れていない日本はここで失態を犯す。通常、理想と現実の間にギャップがあれば、その間を埋める施策を講ずるものである。だが、自国が理想だと主張してはばからない日本は、現実の中国を攻撃する。これが日中戦争である。もう1つの態度は、理想を捨てて現実の前に土下座するというものである。戦後、田中角栄が電撃的に中国との国交を回復したのはその表れである(以前の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」、他」を参照)。つまり、理想に強くしがみつくあまり、現実との間で上手く折り合いをつけられないのである。

 3つ目は、太平洋戦争である。明治維新以降、日本は西洋の価値観を手本としてきた。西洋が理想であり、日本が現実という関係である。ところが、いつしか日本こそが西洋であり、アジアにおいて西洋的な価値観を実現する使命を帯びていると考えるようになった。それが実行されたのが、太平洋戦争における満州国の建国であり、東南アジアにおける植民地の解放運動である。しかし、現代の我々は、いずれも失敗に終わったことを知っている。よく、日本人は東南アジアで欧米による植民地支配を打ち破ってくれたから、東南アジアには親日国が多いと言われる。しかし、実際にフィリピンで戦場に立った山本七平などは、日本軍に東南アジア経営のビジョンがなく、現地の激しい抵抗運動にあったと述懐しているのは見逃せない。

 現在、日本はアメリカを絶対的な理想としている。私が恐れているのは、アメリカが重視する基本的価値観を最もよく体現しているのは日本であり、日本こそアメリカであるという主張が現れることである。仮にそうなった場合、あまりに突飛な予測かもしれないが、日本がアメリカを総攻撃するか、ワシントンに土下座するといった日が来る恐れがある。これを防ぐためには、二項対立の一方に過度に肩入れしないことである。つまり、中国との関係も重視しなければならない。中国をいらずらに敵視するばかりではなく、中国に「日本を攻撃すると自国にとって大きな不利益となる」と思わせることが必要である。この点で、条件が整えば中国が主導するAIIBに参加してもよいと発言した安倍首相の態度は評価できると思う。


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