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カレル・ヴァン・ウォルフレン『誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀』―事実の裏づけなき検証
小沢一郎『日本改造計画』―あの時の「新しい保守主義」は一体どこへ?

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2012年12月14日

カレル・ヴァン・ウォルフレン『誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀』―事実の裏づけなき検証


誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀
カレル・ヴァン・ウォルフレン 井上 実

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-03-02

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 Amazonのレビューは高評価が多いみたいだけど、個人的にはうーんという感じ。

 Q.誰が何のために小沢氏を殺すのか?
 A.官僚組織が既得権益を守るために小沢氏を殺す。官僚組織にとっての既得権益とは、「日米同盟の下で安全保障をアメリカに丸投げし、自らは自国の経済発展(とそのおこぼれとしてもらえる利権)のみに集中すればよい」という、戦後から現在まで続く体制そのものである。政治主導を掲げて既得権益に踏み込もうとする小沢氏は反乱分子であるため、検察とタッグを組み、マスコミを利用して”人物破壊”を行っている。

 本書の内容をまとめればこのぐらいで収まる。ウォルフレンの著書は、昔読んだ『人間を幸福にしない日本というシステム』や『怒れ!日本の中流階級』などの方が切れ味が鋭かった気がする。思い出補正がかかっているのかなぁ?

人間を幸福にしない日本というシステム人間を幸福にしない日本というシステム
カレル・ヴァン ウォルフレン Karel Van Wolferen

毎日新聞社 1994-11-01

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怒れ!日本の中流階級怒れ!日本の中流階級
カレル ヴァン・ウォルフレン Karel Van Wolfren

毎日新聞社 1999-12-01

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 本書は、先日紹介した『約束の日 安倍晋三試論』ほどの細かい分析がなされておらず、前述の結論だけを最後まで強引に押し通した印象を受ける。日本に政治主導の政治が根づかず、官僚機構が非公式な権力を持つに至った歴史的背景も、またマスメディアがどのように小沢氏を攻撃したかについても、具体的な事実や新聞記事がほとんど取り上げられず、著者の主張だけがどんどん進んでいってしまう。

 意地悪な見方をすれば、確かに政治家主導によって官僚の仕事は多少減るかもしれないが、現代国家の構成要件の1つとも言える官僚機構そのものがなくなることは絶対にない。しかも小沢氏は、「官僚が経済だけに集中していてはダメだ。これからは軍事力の増強も考えなければならない」と主張しているわけであり、むしろ官僚の役割は増える可能性が高い。しかも、軍事産業という、これもまた利権が生まれやすいビジネスを、官僚にもたらしてくれるかもしれないのだ。その小沢氏を、官僚がみすみす殺そうとする意図が不明である。

 現在の内外の情勢を踏まえると、日本の政治のあるべき姿はこうである。そして、小沢氏の発想はまさにその方向性に合致しており、小沢氏の理想が実現されれば、官僚をはじめとする既得権益はこういう点で大きなダメージを受ける。したがって、官僚がマスコミ・検察を利用して小沢潰しにかかっている、という話の展開であれば、非常に納得感がある。ところが、一貫して官僚が悪い、マスコミが悪い、のオンパレードであり、最後の方は食傷気味になる。

 小沢氏はなぜ、普天間基地問題をめぐって日米関係が最も深刻な危機を迎えていた2009年末に訪中を行ったのか?小沢氏が賛同する「日米中正三角形論」を実現させる具体的な算段は、この時構想されていたのだろうか?

 あるいは、そもそもなぜ小沢氏が「右派と左派の玉石混合状態の政党」である民主党に身を置いたのか?民主党は先の衆院総選挙のマニフェストで、国民にたくさんのアメをちらつかせておきながら、政権交代が実現するや外国人参政権法案、人権救済法案など左寄りの法案を通そうとしていた。また、EUに倣った「東アジア共同体」構想では、政治的価値観や国家規模が近いヨーロッパ諸国と、体制や規模が全く異なるアジア諸国との違いを無視して、安易に「国家主権を共同体に委譲する」などと憲法草案に盛り込もうとした集団である。

 小沢氏は、こうした政党で活動をしながら、1993年の『日本改造計画』で掲げた「新しい保守主義」をどうやって実現させるつもりだったのだろうか?そこに実現可能性の高い戦略や戦術はあったのだろうか?そして、小沢氏の打ち手はどのようにして既得権益によって握りつぶされたのか?こういった論点に踏み込んだ内容ならば、もっと面白い本だっただろう。

2012年12月13日

小沢一郎『日本改造計画』―あの時の「新しい保守主義」は一体どこへ?


日本改造計画日本改造計画
小沢 一郎

講談社 1993-05-21

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 この本の初版は1993年5月。小沢氏はその翌月、自民党を離党して羽田孜氏らと「新生党」を立ち上げたのだが、新党で目指した政治の方向性が本書にまとめられている。正直言って、内容の濃さに驚かされた。政治家主導の政治を志向した官邸組織・選挙制度改革に始まり、地方分権の実現、保護主義・地域主義を脱した自由貿易の推進、日米同盟に基づく外交、経済大国としての国際責任の果たし方、ジャパニーズ・ドリームを可能にする自由主義の浸透など、小沢氏が目指す「新しい保守主義」の姿が実に綿密に描かれている。

 小沢氏は、日本が飛躍的な経済発展を遂げられたのは、本来ならばどの国家も自国を外敵から守るために軍事力を持つところを、日米同盟によってアメリカの庇護を受けながら、経済にのみ集中すればよかったからだと指摘する。今や世界第2位(本書の執筆当時)の経済力を持った日本は、国際社会で新しい責任を負わなければならない。日本は、経済力のみに優れた”片肺国家”から、国際的な使命をも果たす”普通の国家”へと成長する必要がある。普通の国家の使命とは、世界平和のために、自由と民主主義の原則を守ることである。具体的には、PKOやODAに対し、日本はもっと積極的になるべきだと主張する。日本が国際舞台でイニシアティブを発揮することが、短期・長期両方の視点から見ても日本の国益に適うとしている。

 失礼を承知で言うと、政治家の書籍とは思えないぐらいの鮮やかな論調に、ちょっとびっくりするぐらいだ。本書では、ユニークな政策も提案されている。例えば、現在の「税と社会保障一体改革」で論じられているような消費税増ではなく、東京一極集中から地方分権へと移行し、全国に散らばる各地方都市を結ぶインフラを整備するために消費税増を行う、といった政策だ(公共投資によって地方の活性化を図ろうとする発想には、小沢氏が初当選した時の首相である故・田中角栄の「日本列島改造論」が明らかに影響している)。

 小沢氏は、日本では政権交代が起こらず、自民党が長きに渡って政権に居座り続けていることが政治の停滞を招いてしまったと指摘している。そこで、小沢氏自身が政権交代を実現させようという意思を明確に表明している。そして、政権交代が実現した暁には、本書にまとめた改革案を一気に実行しようというわけである。

 しかし、それから20年近く経って、小沢氏はすっかり変わってしまったようだ。確かに、政治家主導の政治は、民主党政権の下で一応は部分的に実現した。ところが、民主党のマニフェストになかった消費税増を野田首相が強行すると、強い難色を示して民主党を離党してしまい、「デフレ下では消費税増を行わない」という短期的な視点でしかものを見なくなってしまった。「新しい保守主義」で見せた中長期的な視点はどこに行ってしまったのか?「地方分権のための消費税増」という政策が今も小沢氏の中に生きているならば、いずれにしても将来的には消費税増を行うわけであり、今はそのことをわざと隠しながら選挙戦を戦っていると言わざるを得ない。

 外交面の姿勢も揺らいでいる。「国民の生活が第一」の基本政策を読むと、文面上は今でも日米同盟を重視している。だが他方で、民主党政権が普天間基地問題を巡って迷走していた最中に、中国の要人たちとのパイプ作りにいそしみ、親中派の立場を強めているかのようにも見える(そういえば、故・田中角栄も親中派であった)。小沢氏は、幹事長時代の2009年12月10日から13日に訪中団を率いて北京を訪れた際、胡錦濤国家主席らに「日米中正三角形論」を伝えたとされる。しかし、この「日米中正三角形論」は非常に曖昧であり、結果的に鳩山元総理の「必ずしも三角形の辺の長さが同じだとは認識していない」という珍言を誘発してしまった。

 もちろん、20年前と比べて国内外の政治情勢が変わったのだから、それに合わせた政策変更も必要だろう。本書の中で小沢氏は国連の役割を重視しており、アメリカが国連とともに行動することを期待している。また、貿易面では、GATTが有効に機能することを前提としている。だが、アメリカは国連と協調するどころか単独主義を強めているし、GATTは本書が発表された2年後にWTO協定に移行しており、国際的に見ても地域主義が台頭している。現在の小沢氏は、貿易面に対して確固たる戦略を持っていないのか、「国民の生活が第一」の基本政策には、「TPPに反対し、FTA・EPAを推進する」という一項目があるにとどまっている。なお、「国民の生活が第一」の基本政策は、おおむね「日本未来の党」の政策に引き継がれているようである(「日本未来の党」の結党が小沢氏主導で行われたらしいので、これは当然と言えば当然だが)。

 個人的な印象論で片付けるのはやや乱暴だが、かつて国内外の両方に鮮やかな光を放っていた新しい保守主義は、今ではすっかり影を潜めてしまい、政争に明け暮れる内向きの政治家になってしまったみたいだ。小沢氏は肝心な時に姿を見せない。結局、政権交代したにもかかわらず、西松建設疑惑関連で公設秘書が逮捕された件もあって総理大臣にもならなかったし、「国民の生活が第一」を解党して「日本未来の党」に合流した後は自らが表に出ていこうとしていない。小沢氏の政策を一番聞きたい時に、小沢氏はいないのである。どうしてこうなってしまったのか、むしろその変貌ぶりに興味が出てきたところだ。




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