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【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)
「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)
『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年07月03日

【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)

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海外ビジネス

 「AGSコンサルティング」と「マイツグループ」共催のセミナーにご厚意で参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 <中国>
 ・2016年3月に第13次5か年計画が採択された。小康社会の全面的完成に向け、政府は発展の不均衡、不調和、持続不可能といった突出した問題に狙いを定め、イノベーション発展、調和のとれた発展、グリーン発展、開放発展、ともに享受する発展という5つの発展理念の確固たる樹立と徹底した貫徹に取り組むとしている。これにより改革が深化され、公平性の確保された透明性の高いビジネス環境の整備が期待される。

 ・近年、中国から日系企業が相次いで撤退しているとしばしば報じられる。事実、外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、中国の日本企業拠点数(支店、駐在員事務所を含む)は、2017年には33,390拠点だったのが2018年には32,313拠点となり、1,077拠点減少している。しかし、中国全体で見た場合、中国への対内直接投資額は着実に増加しており、2014年には1,285億ドルを記録して2年連続過去最高となった。2015年は1,262億ドルであるが、この数字には金融分野(銀行、証券、保険)が含まれておらず、金融分野を含めると、3年連続過去最高となるのは確実である。なお、直接投資の中心は製造業から非製造業にシフトしている。

 ・中国に進出している日系企業のうち、製造業は内販比率59.4%、外販比率40.6%、非製造業は内販比率75.0%、外販比率25.0%となっている。経営上の課題を尋ねたアンケートでは、製造業、非製造業ともに、1位は「従業員の賃金上昇」であるが、2位は製造業の場合「限界に近づきつつあるコスト削減」、非製造業の場合「新規顧客の開拓が進まない」となっている。製造業においては、製造原価に占める材料費の比率が平均59.5%であり、製造コストの低下に向けては材料費の削減(現地調達割合を上げるなど)に向けた取り組みが必要である。

 ・内販比率が高い湖北省、重慶市、北京市、上海市では、今後事業を拡大すると回答した日系企業が多い。一方、外販比率が高い福建省、山東省、広東省、遼寧省では、今後事業を拡大すると回答した日系企業の割合が相対的に低い。業種別に内販/外販比率と今後の事業展開の意向を尋ねたところ、内販比率が高い食料品、化学・医薬、輸送機械器具、卸・小売業では事業の拡大志向が高い。一方、外販比率が高い繊維では、事業の拡大志向が低い。

 <ASEAN>
 ・現在、海外拠点がある日系企業に対して、今後拡大を図る国を尋ねたアンケートによると、中国:56.5%(2014年)⇒52.3%(2016年)、タイ:44.0%(2014年)⇒38.6%(2016年)、インドネシア:34.4%(2014年)⇒26.8%(2016年)、ベトナム:28.7%(2014年)⇒34.1%(2016年)なっており、中国、タイ、インドネシアは減少傾向、ベトナムは増加傾向にある。中国が減少している理由は周知の通りである。タイは、近年経済成長が鈍化しており、投資が一服した感がある(タイのGDP成長率は、2013年2.73%、2014年0.92%、2015年2.94%、2016年3.23%。1人あたり名目GDPは、2013年6,157.36ドル、2014年5,921.09ドル、2015年5,799.39ドル、2016年5,899.42ドル)。インドネシアは人口の多さから市場として期待されてきたが、元々非常に複雑な多民族国家であり、簡単に事業化できないことが明らかになったことが原因と思われる。

 ・新興国の経済の発展は3段階に分けて考えることができる。①コストメリットを活かした生産拠点の受け入れ、②内需拡大による販売拠点の受け入れ、③研究開発などのさらなる高機能化、の3段階である。中国は2000年代半ばまで①のフェーズにあったが、2000年代後半は②のフェーズに入り、現在は③に移行しつつある。ASEAN諸国のうち、人件費が安いベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスは、現在①のフェーズにあり、中国から生産拠点が移管されている(チャイナプラスワン戦略)。他方、既に高度な経済成長を遂げたシンガポールやマレーシア、経済が成熟しつつあるタイは、①のフェーズを卒業し、②や③のフェーズに移っている(ただし、タイではR&D人材が不足していると言われる)。ベトナムは、人件費が安いため①のフェーズにあるものの、人口が多いことから②のフェーズもパラレルで進行している印象がある。

 ・海外に進出するにあたっては、進出の目的を明確にすることが非常に重要である。日本市場が成熟・縮小傾向にあるから海外に進出するという理由では弱い。自社の製品・サービスが海外においてどのような価値を創造することができるのか、進出先の地域においてどのような貢献ができるのかをはっきりさせる必要がある。また、海外進出にあたりフィージビリティスタディを実施する際に、経済産業省、JETRO、国連などのデータを用いて各国の市場の情報を入手することになるが、国別だけでなく、都市別にも分析を行うべきである。ASEAN諸国は、都市によって経済レベル、文化、生活習慣、インフラ、社会制度などがバラバラである(この点が、前述のように、インドネシアにおける事業展開を難しくしている1つの要因であろう)。

 ・中堅企業が海外進出する場合には、「小さく始めて大きく売る」ことを目指すとよい。特に、代理店を効率的に活用することが有効である。代理店は販売のリスクを低減してくれる。ただし、代理店を利用するにあたっては、代理店の信用調査を事前に入念に行うことが必要である。なお、海外事業を小さく始めるからと言って、本社が現地に任せっ放しにするのはよくない。ASEANの場合、英語でコミュニケーションが取れるとは限らないから、本社が現地にあまり触れたがらない傾向がある。しかし、現地は製造、購買、販売、人事労務管理、経理、行政への対応など、ありとあらゆることを少人数で行っている。本社のサポートは必要不可欠である。

 ・シンガポールに進出している日本企業拠点数は1,116拠点(2016年)である。このうち、シンガポールの商工会議所に登録している日経企業数は、2017年時点で836社である。商工会議所に登録している日系企業の内訳を見ると、製造業が10年前に比べて減少しているのに対し、金融・保険業は2007年の46社から2017年の64社へと1.4倍、観光・流通・サービス業は2007年の106社から2017年の249社へと2.5倍に増加している。

 ・シンガポールで就労するためには、EP(外国人就労ビザ)を取得する必要がある。シンガポールは多様な民族を受け入れることで急速に経済発展を遂げた国であるが、近年は自国民の雇用確保へと舵を切っている。そのため、EP取得の要件が2010年頃から厳格化されている。具体的には、2017年1月より、EP申請に必要となる最低月給が、3,300シンガポールドルから3,600シンガポールドルに増加した。また、実際に承認を受けるために必要な月給も上昇しているとの印象がある。EPを取得するために日本人駐在員の月給を上げると、人件費が増加してしまう。そのため、ローカル人材の活用を検討する必要がある。

 ・シンガポールでは、PIC優遇税制が2017年終了事業年度を最後に廃止されることが予定されている。PIC優遇税制とは、企業の自動化、効率化を促進する適格支出(パソコンの購入など)について、400%償却(つまり、10万円のパソコンを購入すると、40万円を減価償却費として計上できる)、または一定の条件の下で60%現金給付を与える(つまり、10万円のパソコンを購入すると、6万円戻ってくる)優遇制度である。これに代わるものとして、Automation Support Packageという優遇税制が創設されるが、現地出資が30%以上であることが条件であるなど、多くの日本企業は利用することができない見込みである。

 ・2015年1月にIRAS(シンガポール内国歳入庁)が公表した移転価格ガイドラインにより、シンガポールでも本格的に移転価格同時文書化が始まることとなった。法人税の確定申告期限(原則として、決算日の翌年11月末まで)に文書を作成する必要がある。ただし、棚卸資産購入取引が1,500万シンガポールドル以下、ロイヤルティ支払が100万シンガポールドル以下の場合など、少額の場合には文書化が免除されることがある。

 ・シンガポールや香港は、地域統括拠点として利用されることが多い。地域統括会社を利用すると、企業グループ全体の税負担を軽くすることができる。例えば、インドネシアとタイに子会社を持つ日本企業があり、インドネシア子会社で出た利益100をタイ子会社に再投資する場合を考えてみる。まず、インドネシアにおいて、源泉税10が引かれる(日インドネシア租税条約による)。次に、日本において100×5%×30%=1.5が引かれる(外国子会社配当金益金不算入制度による)。よって、タイ子会社に再投資できるのは、100-10-1.5=88.5となる。

 ここで、香港に地域統括会社を置き、インドネシアとタイの子会社を香港の地域統括会社の下に置いたとする。この場合、まずインドネシアでは源泉税5が引かれる(香港-インドネシア租税条約による)。次に香港であるが、香港では配当は非課税である。よって、香港の地域統括会社は、100-5=95をタイ子会社に再投資することができる。ただし、企業グループ全体の規模が大きくないうちは、享受できるタックスメリットよりも、統括拠点の維持コストの方が高くなる恐れがある。タックスメリットを目的として地域統括会社の設置を検討するのは賢明ではない。あくまでも、ビジネス的なニーズ(個社から地域ごとの経営管理への移行、バックオフィス業務の集約と効率化など)に基づいて、地域統括会社を設置するかどうか決定するべきである。

2016年06月10日

「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)

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中華人民共和国

 (※)中国の国旗。5つの星のうち、一番大きい星は中国共産党を、残りの4つは労働者、農民、小資産階級、愛国的資本家を意味しているそうだ。

 1日で中国、インドネシア、タイの3か国のビジネスリスクに関するセミナーに参加してきた(お腹いっぱい)。以下セミナー内容のメモ書き(本当はベトナムのセミナーにも参加したので4か国なのだが、長くなりすぎるので今回の記事からは省略)。

 【1.中国】
 (1)中国人による不正の事例は枚挙にいとまがないが、中国に派遣された日本人の総経理(=社長)が不正に手を染めていることがあるので要注意である。

 ・中国子会社A社は、中国人社員に対して会社のお金を貸し付けており、日本人総経理もそれを承認していた。本来、中国の法律では、このような金融行為は禁じられている。A社は、現金を「その他未収金」に振り替えることで、貸付を可能にしていた。中国では金利がまだ高いため、現金をそのまま銀行に預けていれば、利息収入が得られる。ところが、社員に貸付をすることで、利息収入の機会が失われる。したがって、日本人総経理の行為は背任行為である。

 ・中国子会社B社は、日本人総経理が承知の上で、簿外取引を行っていた。具体的には、発票(日本の領収書に相当。後述)を不要とする企業と現金で取引を行い、裏金を蓄えていた。簿外現金は、別会社の担当者に対する裏リベートに回された。簿外取引による売上未計上は脱税行為であり、税務調査による罰金や滞納金を追徴される可能性がある。また、B社に不満を持つ社員が密告したり、B社を脅迫したりするというリスクが生じる。

 ・中国子会社C社の日本人総経理は、経理に詳しくなかったこともあり、あらゆる支出を会社の経費で落としてした。その中には、ゴルフ会員権、ヨットクラブ会員権などがあり、個人的に購入したネックレスなども含まれていた。さらに、発票のない経費も計上していた。経理担当者は、日本人総経理の言いなりであった。C社のように発票の扱いが甘い企業は、偽の発票をつかまされる危険性がある。発票のない経費や偽の発票は、税務署による処罰の対象となる

 (2)発票(ファーピャオ)とは、中国における製品の売買、サービスの提供・受け取りなどの経営活動に関する証明書であり、経費の認定や増値税(日本の消費税に相当)の申告時に必須とされる。日本の領収書に相当するが、日本の領収書はプリンタで打ち出したものでも手書きでも何でもよいのに対し、発票は専用ソフトウェアが作成したデータを、政府指定のプリンタで印刷しなければならない。専用ソフトウェアはネットワークでつながっており、税務局は中国全土で行われているあらゆる取引を把握している

 日本のマイナンバー制度導入で、今までのように所得を過少申告することができなくなることに戦々恐々としている人がいるみたいだが、中国の発票制度は日本とは比べ物にならないほど厳しいと感じた。中国では、発票がなければ損金として認められない。ただし、この制度を逆手にとり、損金を膨らませたい経営者心理につけ込んで、偽物の発票を販売するあくどい業者がいるようだ。税務局は、発票が正規のものかを確認できるサイトを用意している(例えば、上海市の場合は、https://www.tax.sh.gov.cn/wsbs/WSBSptFpCx_loginsNewl.jsp)。

 (3)日本では、株式会社における取締役などの役員を除き、公務員や、みなし公務員が関与する贈収賄のみが処罰の対象となっている。一方、中国では、民間企業や社員間の贈収賄についても処罰の対象となる(反不正当競争法8条)。簿外で相手企業または個人にリベートを贈ること、相手企業または個人からリベートを受け取ることは贈収賄に該当する。値引きや仲介人に対する手数料については、必ず事実通りに記帳しなければならない。贈賄の立件基準は20万元、収賄の立件基準は5千元とされているが、これ以下でも立件されることがある。習近平政権が反腐敗運動に力を入れていることもあり、贈収賄には気をつけた方がよい。

 (4)中国セミナーでは、AOSリーガルテック株式会社による「フォレンジック調査」のソリューションについても紹介があった。フォレンジックとは、本来は法医学、科学捜査の意味である。現在では、事件関係者のPCなどに残されたデータを復元・解析して、事件の真相究明に役立てる手法を指す。同社は、Nuixという、オーストラリア企業の正規パートナーである。

 Nuixは、パナマ文書を解析したことで知られる(WEDGE INFINITY「パナマ文書をリークした不正調査ツール 国家間での情報戦争でも活用」〔2016年4月21日〕を参照)。また、東芝の粉飾決算事件でも、メール魔と呼ばれた田中久雄社長(当時)の復元にNuixが用いられた。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社などが行った第三者委員会の報告書には、データの復元・解析にNuixを採用したことが書かれている(東芝「第三者委員会調査報告書<要約版>」〔2015年7月20日〕を参照)。

 【2.インドネシア】
 (1)日本の場合、株式譲渡は一般的に取締役会の決議事項であるが、インドネシアの場合は社員などへの通知、債権者保護手続き、および公告も必要となる。株式譲渡によって親会社が変わる場合、社員には新しい親会社の下で働くのを断る権利があるとされるためだ。また、親会社が変わると、債務の返済能力にも影響が出るとの考えから、債権者保護手続きも要求される。また、スキームによっては、取締役会による株式譲渡の計画や、コミサリス会の承認も求められる。コミサリスとは、日本の監査役のような存在である。ただし、日本の監査役よりも権限が大きく、例えば取締役に重大な違反がある場合は、取締役に代わって任務を遂行できる。

 (2)1994年には、いわゆる「外資15年ルール」というものができた。これは、外資100%の企業は、設立15年を経過した時点で、株式の一部をインドネシア企業またはインドネシア人に譲渡しなければならないという、外資企業からするととんでもないルールであった。苦肉の策として、一旦インドネシア企業/人に株式を譲渡した後、すぐに買い戻すという方法が考えられたが、インドネシア政府は長らく通達によってこれを禁じていた。ただし、あまりに外資企業からの反発が強かったため、通達は2013年に廃止された。なお、2013年の新会社法施行以降に投資承認を受けた企業は、外資15年ルールの適用対象外である

 (3)インドネシアでは、海外からの借り入れを行う際には、借入先の格付けを取得する義務がある。つまり、日本企業のインドネシア子会社が、日本の銀行から借り入れをする場合、その銀行の格付けが必要となる。これも外資企業からの批判が多いものの、今のところルールは維持されている。ただし、親会社からの借り入れに関しては、格付けは不要という例外がある

 (4)インドネシアセミナーの講師は弁護士だったのだが、インドネシア(とベトナム)では、現地の地方裁判所で訴訟をしない方がよいとのことだった。インドネシアでは、裁判官も汚職に手を染めている。最高裁判所の長官が汚職で逮捕されるような国である。裁判が終わった後、裁判官から原告の携帯にショートメールが入り(それだけでも大問題なのだが)、"How much is it?"と尋ねてきた、という話もあるらしい。インドネシアでビジネスローに強い弁護士事務所は、汚職に巻き込まれたくないため、裁判を引き受けてくれない傾向がある。そのため、インドネシア企業と取引する場合には、仲裁地としてシンガポールなどを選択するとよい

 【3.タイ】
 (1)タイでは、製造業は100%外資による参入が可能であるのに対し、サービス業は49%に制限されている。ただ、法律上、サービス業の明確な定義はない。実務では、サービス業は非常に広くとらえられており、機械装置の設置、修理、保全、アフターサービス、リース、賃貸は全てサービス業とされる。49%だと過半数が握れないと思われるだろうが、実はここに1つからくりがある。外国人事業法が定める49%とは、株式の数のことであり、議決権の数ではない

 例えば、日本企業が株式数の49%を、タイ企業が株式数の51%を保有するタイの現地子会社があったとする。ここで、日本側の株式を「1株2議決権」、タイ側の株式を「1株1議決権」(または、日本側の株式を「1株1議決権」、タイ側の株式を「2株1議決権(1株0.5議決権)」)とすれば、日本企業は議決権ベースで過半数を握ることができる。この抜け穴は実際に結構使われており、今のところ摘発事例もないという。ただし、タイ政府は外国人事業法を改正する方向で動いているようだ(2015年に改正予定だったが、外資企業の反対で延期された)。

 (2)これはタイに限った話ではないが、現地パートナー企業と合弁会社を設立する場合、「解除できない」、「別れられない」契約を結ぶのは最悪である。赤字が何年続いたら合弁を解消するなどの基準を契約で明確にするべきだ。その際、競業避止条項や秘密保持条項も盛り込んでおく。また、解消時の株式の売却/取得価格の決定方法にも触れる必要がある。日本人はよく、契約書の条文で紛争が解決できなかった場合は「両者協議の上決定する」などと書いてしまう。しかし、これでは「協議しても決まらなかった場合」にどうすべきかが解らない

 なお、日本では出資比率が3分の2以上であれば、株主総会の特別決議を単独で実施できるが、タイ、インドネシア、インド、ベトナムでは、3分の2以上ではなく4分の3以上が要件となっている。この点にも注意されたい(以前の記事「『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足」を参照)。

2016年06月03日

『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足

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中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック

経済産業省 2016-03-14


中小企業基盤整備機構HPで詳しく見る by G-Tools

 中小企業が海外に進出する際に直面することが多いリスクを、進出計画段階、進出手続き段階、操業段階に分けて解説し、対応策を整理した冊子である。自社の潜在リスクを確認するチェックリストもついている。リスクマネジメントの一般論に加えて、国別、特にアジア各国に固有のリスクをまとめた表もあり、大変有益であった。今回はこの小冊子の内容について、私が知っている情報などを補足してみたいと思う(ページ番号は【詳細版】のもの)。

 【p14】このページに限らず、本マニュアルには「事業再編」という言葉が頻出する。実質的には撤退のことなのだが、撤退と言わずに事業再編と呼ぶのには2つの理由がある。1つ目は、撤退という言葉には後ろ向きのイメージがあるため、お役所が使いたがらないということである。中小機構が実施している「海外事業再編戦略推進支援事業」は、海外事業の縮小・撤退にかかる費用の一部を補助するものである。しかし、事業名はあくまでも「事業再編」となっている。

 2つ目は、国によっては撤退したくても撤退できないことがあるという理由である。その代表が中国で、中国で企業を清算することはまず不可能だと思った方がよい。当局は税の取りっぱぐれがないか、徹底的に調べ上げる。そして、何かと理由をつけては税金を要求する。当局とのやり取りは数年単位に及ぶこともあるため、それだけでも莫大な費用がかかる。だから、中国から撤退する場合には、企業を清算するのではなく、第三者に株式を売却した方が早い。

 【p37】合併先との交渉では、経営にどの程度影響を及ぼしたいのかを踏まえて出資比率を決めること必要だと書かれている。日本の場合は、議決権の3分の2以上を確保すれば安泰である。これは、3分の2以上を保有していれば、株主総会の特別決議を単独で成立させることができるためである。株主総会の特別決議は、定款変更、事業譲渡、解散・清算、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式併合、監査役の解任、資本金の減少など、とりわけ企業経営を左右する重要な事項について行われる(会社法309条2項)。

 一方、アジアの場合、日本の特別決議に相当する決議を行うのに必要な出資比率が3分の2以上ではないことがある。例えば、タイ、ベトナム、インド、インドネシアは4分の3(75%)以上が要求される(「アジア企業のM&Aに際しての実務上の留意点」を参照)。インドの場合はさらに注意が必要だ。インドの株主総会では、何と挙手で決議が行われる。しかも、議決権数ではなく、頭数で決まる。例えば、日本の親会社が75%の議決権を保有し、インドのパートナー企業3社が残りの25%の議決権を分け合っていたとする。株主は4名である。ここで、日本の親会社が特別決議事項に反対したとしても、インドの3名が賛成すれば、決議が成立してしまうのである。

 【p46、54】合弁先、提携先、仕入先、顧客企業については、事前に信用調査をすべきと書かれている。日本人は人がよすぎるせいか、相手の素性を密かに調べることに対して、何か申し訳ないことをしているかのように感じてしまう節がある。だが、海外ビジネスの場合は、見ず知らずの相手、価値観も考え方も全く異なる相手と一緒に仕事をしなければならない。中には、最初から日本企業を騙すつもりの人がいることも事実である。したがって、信用調査を通じて、ビジネスの相手として本当に適切かどうかを見極めることが欠かせない。

 信用調査はピンキリで、1社数万円でできる場合もあれば、百万円単位のお金がかかることもある。だが、これから年間数千万円の取引をするかもしれない相手がいたとして、仮に取引開始後にその企業の支払い能力に問題があることが発覚すれば、こちらは深刻な被害を被ることになる。そのリスクを百万円ほどの先行投資で予防できると考えれば、決して高くはない。

 仕入先の信用調査をする場合は、仕入先の顧客企業がその仕入先に対してどのような評価をしているのか、評判を調査できるとよい。仕入先は過去に品質問題を起こしていないか?仕入先はクレームに対して誠実に対応してくれるか?といったことが解る。顧客企業の信用調査をする場合は、支払い能力の程度を調べることが重要であることは言うまでもないだろう。過去3年分の財務諸表は最低限手に入れたい。そして、相手が誰であれ調査するとよいのが、訴訟履歴である。その企業がどんな訴訟を起こしてきたのか、逆にどんな訴訟を起こされたのかを見ると、企業の経営方針、組織体質、潜在的な債務などが見えることがある。

 【p46】5Sを徹底せよと書かれている。5Sを徹底すると品質が向上するという効果が期待できるのはもちろんだが、その他の効果もある。アジアの工場では、工具や治具、原材料が頻繁に紛失する。社員が盗んで売ってしまうためだ。そこで、5Sを徹底して工具などの置き場を明確にする。こうすれば、何が盗まれたのかすぐに解る。加えて、工場の守衛の協力を得ることも大切である。工場からモノが盗まれる場合、たいていは社員と守衛がグルになっている。つまり、窃盗を見て見ぬふりをしている。だから、守衛には窃盗を見つけたらボーナスを与えることにする。こうすれば、盗難の被害はぐっと減る(逆に言えば、ここまでしないと盗難は防げない)。

 日本人は自分で掃除をするというのが当たり前の習慣になっているが、アジアではそうでない場合も多い。イスラーム圏のマレーシア、インドネシアでは、掃除は使用人の仕事と見なされている。また、カースト制が未だに根強く残るインドでも、掃除は身分が低い人間がするものだとされる。一般の人は、自分がごみを捨てれば彼らの仕事が増えるのだから、自分はよいことをしているのだとさえ考える。こういう人たちに、日本の5Sを浸透させるのは容易なことではない。

 【p55】各国の風俗・宗教に配慮すべきと書かれている。具体例が列挙されているが、マニュアルではどこの国のことか明示されていない。おそらく、次の通りではないかと思われる。

 ・「他人の子供の頭をなでる行為は、地域によっては「頭は神聖な場所であり、他人が触れてはいけない」という考え方があり、極めて失礼な行為と捉えられる可能性がある」⇒タイ、ミャンマー。なお、マレーシア、インドネシアなどのイスラーム圏でも、「頭を触ると子どもの成長を妨げる」と考えられているので、注意しなければならない。
 ・「取引先担当者の信仰を確かめずにクリスマスカードを送る等の行為は控える」⇒マレーシア、インドネシア。イスラーム圏では、クリスマスカードを送ることは失礼にあたる。
 ・「宗教上の習慣(勤務時間中のお祈り等)には配慮する」⇒マレーシア、インドネシア。就業規則でお祈りの時間を定めたり、工場内に簡易的なモスクを設けたりなどの工夫が必要である。
 ・「飲酒が禁忌とされる宗教もあるため、コミュニケーションの一環として、飲酒を伴う接待への誘いは控える」⇒仏教国の中ではタイがお酒に厳しい。マレーシア、インドネシアなどのイスラーム圏では、クルーアン(コーラン)の中でお酒が禁じられている。
 ・「従業員を人前で叱るなどの面子をつぶすような対応はしないよう配慮する」⇒ほとんどのアジアの国に該当する。タイでこのようなことをすると、叱られた側の親族が報復として殺害行為に及ぶことがある。そのぐらい、面子は重要である。本マニュアルの他の箇所を読むと、インドネシア、中国、フィリピン、マレーシアが面子を重んじる国であると指摘されていた。

 【p68】突発的な残業を指示しても、社員に断られる場合があると書かれている。アジアの労働法は、日本と比べると概して労働者寄りである。そのため、残業が厳しく制限される、割増賃金が異常に高い、残業をさせる場合には法定の手続きを踏む必要があるなど、様々なルールがある。これに関しては、各国の労働法に関する情報を個別に収集するしかない。

 ただ、日本人が残業もいとわないことに対して、多くのアジア人は否定的な見方をしていることは共通の事実のようである。日本人は、時間に対して極めて正確であることを誇りとしている。ところが、アジア人に言わせると、「日本人は時間を守らない」という評価が返ってくる。「日本人は就業規則で1日の労働時間を9時~17時と定めているのに、17時に仕事が終わらない。だから、時間を守らない」というのがアジア人の言い分である。

 【p74】進出先の政治的・宗教的記念日には、テロや暴動が起きる可能性があるとあり、中国の例に触れられている。だが、肝心の日付が書かれていない。中国で重要なのは、①9月18日(満州事変)、②7月7日(盧溝橋事件)、③12月13日(南京大虐殺)、④9月3日(抗日戦争勝利記念日)の4つである。こういう日に新店舗をオープンするなどというのは自殺行為である。


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