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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年08月26日

【海外】タイビジネス最新情報―銅とアルミには気をつけよう


タイ国旗

 タイの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・タイの失業率はここ数年ずっと1%を切っており、最新のデータでも0.7%である。しかし、バンコクを歩いていると日中からブラブラしている男性をたくさん見かけるので、とても失業率が0.7%とは思えない。日本の内閣府が、タイの失業率がなぜ低いのか調査したものの、原因は不明であった。タイ政府の数字を当てにしない方がよい。肌感覚だと、失業率は3%ぐらいである。タイは失業率が低く採用が難しいと言われているが、実際にはそれほど採用では苦労しない。

 ・タイの実質GDP成長率は3.2%、物価上昇率は0.2%であり、経済の成長が鈍化している。ところが、賃金に関しては、物価上昇率が5%だった2008年に賃金を5%上げる企業が多かったため、その流れで現在でも賃金上昇率は5%にしなければならないという雰囲気がある。

 ・タイでは北部の農村部に支持基盤があるタクシン派と、都市部、軍隊、中間層を支持基盤とする反タクシン派が対立しており、しばしばクーデターが起きるので、危険な国というイメージが強い。しかし、実際には無血クーデターであり、政治は混乱していても経済は普通に回っている。前国王であるラーマ9世(プーミポン国王)は、タクシン派と反タクシン派の代表者を呼びつけて双方をなだめる役割を担っていたことから、国民からも高く支持されていた。

 ところが、現在のラーマ10世(ワチラロンコーン国王)は、国民の評判がすこぶるよくない。まず、国民の前に出て話をしている映像が存在しない(タイの映画では、冒頭に国王の動画を入れるのが普通であるが、ラーマ10世の場合は静止画しかない)。身体には刺青を入れており、ドイツにいる愛人のところへ足繁く通っている。「国民が選挙をすると汚職する人ばかり選ばれるから、選挙はやらない方がよい」とfacebookで発言し、慌てて政府が火消しに走ったこともあった。それでも、タイには不敬罪がある関係で、国民は国王のことを悪く言うことができない。

 ・タイでは、少子高齢化と大学進学率の上昇により、建設・工場における肉体労働者や飲食サービス業のスタッフが不足している。不足分は、周辺国のミャンマー、カンボジア、ラオスからの出稼ぎ労働者が担っている。ただ、タイ人はプライドが高く、周辺国の人々を見下す傾向があり、工場では周辺国の人と仲良くできない。不足しているのは肉体労働者やサービス労働者だけはない。大卒のエンジニアや日本語通訳も不足している。大卒のエンジニアは英語が話せる人、日本語通訳は日本語検定1級に合格している人のニーズが高い。日本語検定1級に合格している通訳は、月給6万バーツ(約18万円)でも採用ニーズがある。しかし、現実的には1級合格者が少ないため、3級合格者を採用して訓練する企業もある。

 ・日本は資金調達がしやすい国であるが、タイでは資金調達が非常に難しい。審査が厳しい上に担保主義が根づいている。また、日本の信用保証協会に相当する機関がない。「1,000万バーツ貸してほしい」と金融機関に言うと、「1,000万バーツを現金で用意せよ」と要求されるのがタイである。こうした事態を改善するために、2016年に「事業担保法」が成立したものの、金融機関の対応に変化は見られない。「法律は立派でも機能しない、運用できない」ことがタイではしばしば起こるが、事業担保法はその典型である。タイでは、業歴5年以上の企業が6割であり、業歴が浅い企業は生き残ることが難しい(日本の場合、『中小企業白書』によると、業歴5年以上の企業の生存率は82%である)。結局、信用力のある財閥にお金が集まり、信用のない中小企業にはお金が回ってこないというのが現状である。

 ・タイ企業のほとんどは同族企業である。日本には「3代目が企業を潰す」という言葉があるのに対し、タイでは3代目がどんどん企業を発展させている。これは、タイには相続税、固定資産税がないからである。厳密には、相続税については2016年2月から開始されているのだが機能していない(建前上、1億バーツ以上の相続に対して10%の相続税)。また、固定資産税に関しても2017年8月から施行されることになっていたが、翌年に先延ばしされた。

 ・日本企業は、タイのローカル企業といきなり新規取引をして、債権回収不能に陥るケースが多い。新規取引をする際には、相手企業の信用調査が必須である。タイでは、商務省が全ての企業の決算書を保有しており、多少テクニックは必要であるが、通訳を連れていけば決算書を閲覧することができる。また、概要レベルであれば、商務省のHPで見ることが可能である。

 これ以外に、タイの信用調査で気をつけるべき点は以下の2点である。まず、①華人系の企業の場合、子どもの間で企業を分けることがある。よって、単体の企業ではなく、グループ全体を調査した方がよい。次に、②裏に軍隊、警察、政治家、公務員がいないかを確認する。法人登記簿を取得すると、株主、役員の情報を取得することができる。株主や役員に軍隊、警察、政治家、公務員がいる場合は要注意である(なお、政治家だけは役員になることができない)。

 ・タイ子会社の不正に関して一番多い相談は、「購買担当者が仕入先からキックバックをもらっているかもしれない」というものである。最近は、購買担当者にATMカードを渡すという手口が増えている。タイでは、日本と異なり、通帳には振込人名が印字されないから悪用されやすい。しかし、実際にキックバックが行われていることを立証しようとすると、①キックバックを行っている場面の写真、②キックバックを行った時の音声、③渡した人と受け取った人の供述が必要であり、立証はまず不可能である。企業にできることと言えば、「最近、キックバックが行われているらしい」という噂を社内に流して、購買担当者を自主退職に追い込むことぐらいである。

 ・製造業では、価値のある製品、油、原材料(銅、アルミ、貴金属)、市中で転売が利く完成品(家電、タイヤ、アフターマーケット製品)が横領されやすい。99%は内部の組織犯である。まずマネジャーがヘッドとなり、アシスタントがコーディネーター役となって、各種書類の操作や関係者の調整を行う。運送業者・廃棄物処理業者を持ち出し役、警備員を見逃し役とし、あとはキャッシュ化する役の人を決めておけば、横領は発覚しにくい。また、原材料を注文したのに工場に入ってこないこともある。この場合は、購買担当者、検収担当者、運送業者が結託している。

 ・家電のように金や銀を使う場合は倉庫管理が必須である。それでも、金庫ごと盗まれることがある。そのため、倉庫をさらに柵で囲うなど、二重、三重の管理が必要である。地金でないプラチナも在庫から消えることがある。地金でないプラチナは換金しにくいから盗まれないと思ったら大間違いである。在庫管理の甘さを放置しておくと、さらなる不正につながる恐れがある。

 ・ワーカーをたくさん抱える企業では、賭博、麻薬、闇くじ、金貸し、社内売買に注意が必要である。企業に対する直接的な損害はないが、社内の不正行為を放置することになる。また、これらの行為にはお金がかかるため、横領や窃盗につながりやすい。これらの行為が工場で蔓延するのは、ワーカーという顧客が多いこと、顧客の顔が見えやすいこと、工場には警察が入ってこないこと、市中より高い価格で売れること、などが挙げられる。なお、金貸しとは、社員から集めたお金を原資とし、金利10%程度で社員に貸す互助会のようなものである。ある月はAさんが親になって社員に貸す、翌月はBさんが親になって社員に貸す・・・というのを繰り返す。問題なく返済が行われている間はよいが、途中でしくじる社員が出てくるとトラブルに発展する。

 ・タイの工場では「ヤーバー」と呼ばれる麻薬が蔓延していることがある。ヤーバーを砕いてアルミの上に乗せ、下から火であぶって煙をかぐ。ヤーバーの体内残留時間はそれほど長くなく、仕事が終わると抜けてしまうので、終業後のチェックでは見抜くことが難しい。ただし、ヤーバーを吸うのはたいていトイレの中であり、ワーカーは使用済みのアルミをトイレの窓の桟に残していることがある。もし、トイレの窓の桟からアルミが見つかったら、麻薬使用の可能性を疑った方がよい(ある企業では、大雨が降ってトイレの管が破裂し、中から大量のアルミが出てきたことがあった。ワーカーが使用済みのアルミをトイレに流していたのである)。

 ・タイ子会社のローカル化は重要な課題であるが、①往々にしてトップになったタイ人がグループ全体の利益よりもタイ子会社の利益を優先し、重要な情報を本社に報告しないというケースがある。この場合の打開策としては、親会社側から積極的にコミュニケーションを図ることに尽きる。また、②トップになったタイ人が好き勝手にしないよう、モニタリングの仕組みを作ることも重要である。ある企業では、トップが勝手に個室を作って個室に鍵をかけ、PCには社内規定に定められていないのに勝手にパスワードを設定していたことがあった。

 ・タイでは日系企業が増加しているとはいえ、現地に派遣される駐在員が皆優秀とは限らない。肌感覚では、駐在員のレベルはここ10年で落ちている。日本本社は、もっと赴任前研修に力を入れて、コミュニケーションの取り方や倫理観、正義感について教育をするべきである。タイ子会社で不正が起きるかどうかは、駐在員のレベルにかかっている。なお、不正防止のために「目安箱」を設けるケースが見られるが、これはあまりお勧めできない。まず、タイ人社員にとっては、書いたところを同僚に見られると仲間外れにされる恐れがあるので、二の足を踏んでしまう。また、タイ語を日本語に翻訳する段階で誰が書いたか解ってしまい、匿名性が担保されない。目安箱よりも、適切な内部通報システムを導入する方が効果的である。

 ・タイも賄賂が多い社会である。身近な例で言えば、新車を購入して仮ナンバーを普通のナンバーに変更する際に、警察に賄賂を渡す必要がある(実際には、ディーラーが賄賂の分をかぶっている)。ドイツ企業は賄賂に関する立ち回りが上手い。具体的に言えば、簿外金庫を作っている。経費の水増しやキックバックなどによって裏金を作り、これを賄賂の原資としている。


2017年08月23日

【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア


インドネシア国旗

 インドネシアの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・インドネシアには「パンチャシラ」という建国5原則があり、憲法より上に位置づけられている。5原則とは、①唯一神の信仰、②公正で文化的な人道主義、③インドネシアの統一、④合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、⑤全インドネシア国民に対する社会的公正、である。なお、①唯一神の信仰とは、同じイスラーム圏であるマレーシアのようにイスラームを国教としているわけではなく、国民は誰しもどれか1つの宗教を持つべきであるとの意味である。2017年より、6月1日がパンチャシラの日に制定された。近年、パンチャシラの精神が薄れてきているとの危惧から、パンチャシラの精神をもう一度強化しようというものである。

 ・インドネシアを理解するキーワードとして、上記の①パンチャシラ(Pancasila)の他に、②多様性の中の統一(Bhineka Tunggal Ika)、③ムシャワラ(Musyawarah、話し合いの意)、④ムファカット(Mufakat、全会一致の意)がある。これらの言葉はインドネシアの会社法、労働法など様々な法律に登場する。例えば、会社法においては、株主総会の決議は、全会一致の精神が望ましくムシャワラによって採択されるべきだと規定されている。全会一致ができなかった場合には、過半数の決議が有効となる。また、労働法においても、会社と労働組合が締結する労働協約に関しては、ムシャワラで合意に達するべきだと定められている。

 ・インドネシアは過去石油の輸出国であったが、現在は石油の純輸入国に転じている。また、中国経済の減速の影響もあって、インドネシアの輸出額は2012年以降減少傾向にある。そのため、政府は鉱物の輸入を制限するなどの策を打った。にもかかわらず、2013~2015年の貿易収支は赤字であり、これがGDP成長率の鈍化に影響を与えている。2016年のインフレ率は3.02%、GDP成長率は5.0%であるが、肌感覚ではデフレ、マイナス成長のように感じられる。ユドヨノ政権が絶頂だった2011年は、GDP成長率が6.5%であり、7%も夢ではないと言われていたが、今やその目標は遠のいてしまっている。

 ・インドネシアの二輪車市場、四輪車市場における日本企業のシェアはそれぞれ99%、95%であり、圧倒的に日本企業が強い。ただ、二輪車の年間販売台数はユドヨノ政権が絶頂だった2011年に800万台を超えて以降減少傾向にあり、2016年には590万台にまで落ち込んでいる。四輪車の年間販売台数は2012年に初めて100万台を超えた。インドネシアの1人あたりGDPは3,570ドル(2016年)であるが、一般に1人あたりGDPが3,500ドルを超えると二輪車から四輪車への移行が進むと言われている。ところが、2013年以降の四輪車の販売台数は横ばいであり、政府が目標とする150万台の達成にはまだまだ時間がかかりそうである。

 ・外資企業の投資要件は、最低資本金額25億ルピア(約2,000万円)、資産規模100億ルピア(約8,000万円)とされている。インドネシアは、外資企業の中でも大企業を誘致したいと考えている。インドネシアの外国投資政策は、景気が悪くなると外資比率が上がり、景気がよくなると外資比率が下がるという解りやすい特徴がある。ただし、最後の砦と言われているのが小売業であり、よほどインドネシアの経済が悪化しない限り、外資には開放されないだろうと言われる。

 ・インドネシアでは毎年約220万人の新規労働者が労働市場に参入してくる。これをカバーするためにはGDP成長率が6%以上必要とされるものの、2013年以降GDP成長率は6%を下回っている。ということは、失業率が悪化しているはずだが、失業率は2013年以降ずっと5%台で推移している。ただし、この統計にはからくりがあって、政府は週に働いた時間が1時間未満の者を失業者と定義している。これを、週に働いた時間が35時間未満の者を失業者と定義して統計を取り直すと、2010年以降の失業率はずっと35%前後という高い水準になる。

 ・インドネシアのフォーマルセクターの構成は次の通りである。税務番号取得者は2,750万人(21%)、そのうち納税者は1,020万人(8%)、社会保険加入者は3,860万人(30%)、労働組合加入者は170万人(1%)、35時間以上就労している者は8,700万人(66%)である。逆に言えば、税務番号を持たないインフォーマルセクターが70%以上存在する。ただし、政府は貧困さえなければインフォーマルセクターを容認する考えを示している。政府が恐れているのは、インフォーマルセクターの貧困化にオイル価格の上昇が重なって、政府への批判が高まることである。

 ・インドネシア労働法の第46条は、人事に関する業務に外国人が就くことを禁じている。これは労働法の最大の欠点である。政令では、階級、役職、勤続年数、学歴、能力などに応じた賃金テーブルの作成が義務づけられているが、外国人はこの作業を実施できない。また、社長、取締役であっても、外国人が人事関連の業務を行うことはできないと認識されている。人材育成は企業にとって重要な課題であるにもかかわらず、インドネシア人に任せるしかないという問題がある。とはいえ、インドネシア人に人材育成の能力が十分にあるとは必ずしも言えない。

 ・インドネシアの最低賃金は、2000年以降地域別、事業分野別に定められてきたものの、近年は特に複雑化しており、地域、事業分野ごとの整合性をとるのが困難になっている。そこで、2016年に方針転換し、原則として賃金上昇率をインフレ率+経済成長率(2017年の場合、3.07+5.18=8.25%)で定めることとした。しかし、この足し算にどのような意味があるのかは不明である。また、これはあくまでも原則であり、実際には地域、事業分野ごとに労働組合と交渉しなければならない。本来、最低賃金は1月1日に発表しなければならないのに、ブカシ市内では3月に、カラワン県では6月に発表がずれ込んだというケースもある。

 ・一般ワーカーの月給を見ると、ASEAN新興国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の賃金が急上昇しているため、インドネシアの賃金も未だに競争力がある。労働集約型である縫製業もまだまだインドネシアでは盛んである。製造マネジャー、営業マネジャーの月給を見ると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンでは、2011年に比べて2016年の方が月給が下がっている(フィリピンの営業マネジャーのみ例外)。一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは、製造マネジャー、営業マネジャーの人材不足によって賃金が高騰しており、月給ベースでは先の5か国とあまり変わらない状況になっている。

 ・インドネシアでは、物品を輸入した段階で前払い法人税が発生する。期末に法人税額が確定した結果、予納額を下回った場合、日本であれば喜んで還付請求をするところだが、インドネシアの場合は還付請求をすると必ず税務調査を受けることになる。この税務調査が非常に厳しく、例えばインドネシア子会社が日本の親会社に支払っているロイヤリティーが利益移転だとして否認される(※1)、為替差損が利益の過小評価だと見なされる(ルピアは弱い通貨なのでこのリスクが高い)、機械装置の減価償却期間が8年から16年に変更される(※2)、旅費交通費や接待交際費などが否認される、といったケースが報告されている。

 (※1)ロイヤリティーは、概ね3%を超えると否認される傾向がある。通常、ロイヤルティーは付加価値額に対してかかるものだが、インドネシアの税務局は売上高をベースに見ている。よって、売上高の3%を超えるロイヤリティーは否認される可能性が高い。最近は、パテントの裏づけがあっても否認されるケースが増えている。
 (※2)日本の減価償却は数百種類存在するのに対し、インドネシアにはグループ1からグループ4までの4種類しかなく、多くの場合はグループ3の16年が適用される。

 確定額が予納額を上回った場合は、確定額と予納額の差額を納めれば終わりというわけではない。翌年は、前年の確定額と予納額の差額の12分の1を毎月前納しなければならない。結果的に、前年の法人税と同じ額を前払いすることになる。確定した法人税額が予納額を下回れば、還付申請はできるが税務調査を受けなければならない。したがって、インドネシアではいかにして毎年利益を確保し続けるかが非常に重要な課題となる。

 ・過去のスハルト政権は非常に国民思いであり、石油の輸出と対外債務で政府の財源を賄おうとした。ところが、スハルト政権が倒れた後、ルピアが暴落したため、国の作り方が間違っていたという反省が生まれた。政府にとってきれいな収入とは税収しかないということで、現在のインドネシアの国家歳入の85%以上は税収が占めている。ここにきて、ジョコ大統領がシンガポールを意識して、法人税率を現行の25%からシンガポール並みの17%に引き下げる方針を打ち出している。ということは、今後ますます税務調査が厳しくなる可能性がある。

 ・労務問題に関しては、労使間で日頃から密にコミュニケーションが取れている企業ではさほど問題は生じない。ソニーのインドネシア子会社は、現地社員から「牛乳を1本つけてほしい」という要望を受けたが、本社はこれを否認した上、インドネシアでのビジネスを諦めてしまった。もっと労使間で意思疎通が取れていれば、こんな事態にはならなかったであろう。労使間の関係が良好な企業では、労働組合が結成されることは少ない。万が一、労働組合、しかも上部組織とつながりのある労働組合が結成された場合には、会社と労働組合に労働局を交えて、いかにしてストライキを回避するか議論する必要がある。労使問題が起きた場合、経営者側が悪いケースが7割である。悪い社員を育ててしまった企業側の責任であると思った方がよい。


2017年07月03日

【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)


海外ビジネス

 「AGSコンサルティング」と「マイツグループ」共催のセミナーにご厚意で参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 <中国>
 ・2016年3月に第13次5か年計画が採択された。小康社会の全面的完成に向け、政府は発展の不均衡、不調和、持続不可能といった突出した問題に狙いを定め、イノベーション発展、調和のとれた発展、グリーン発展、開放発展、ともに享受する発展という5つの発展理念の確固たる樹立と徹底した貫徹に取り組むとしている。これにより改革が深化され、公平性の確保された透明性の高いビジネス環境の整備が期待される。

 ・近年、中国から日系企業が相次いで撤退しているとしばしば報じられる。事実、外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、中国の日本企業拠点数(支店、駐在員事務所を含む)は、2017年には33,390拠点だったのが2018年には32,313拠点となり、1,077拠点減少している。しかし、中国全体で見た場合、中国への対内直接投資額は着実に増加しており、2014年には1,285億ドルを記録して2年連続過去最高となった。2015年は1,262億ドルであるが、この数字には金融分野(銀行、証券、保険)が含まれておらず、金融分野を含めると、3年連続過去最高となるのは確実である。なお、直接投資の中心は製造業から非製造業にシフトしている。

 ・中国に進出している日系企業のうち、製造業は内販比率59.4%、外販比率40.6%、非製造業は内販比率75.0%、外販比率25.0%となっている。経営上の課題を尋ねたアンケートでは、製造業、非製造業ともに、1位は「従業員の賃金上昇」であるが、2位は製造業の場合「限界に近づきつつあるコスト削減」、非製造業の場合「新規顧客の開拓が進まない」となっている。製造業においては、製造原価に占める材料費の比率が平均59.5%であり、製造コストの低下に向けては材料費の削減(現地調達割合を上げるなど)に向けた取り組みが必要である。

 ・内販比率が高い湖北省、重慶市、北京市、上海市では、今後事業を拡大すると回答した日系企業が多い。一方、外販比率が高い福建省、山東省、広東省、遼寧省では、今後事業を拡大すると回答した日系企業の割合が相対的に低い。業種別に内販/外販比率と今後の事業展開の意向を尋ねたところ、内販比率が高い食料品、化学・医薬、輸送機械器具、卸・小売業では事業の拡大志向が高い。一方、外販比率が高い繊維では、事業の拡大志向が低い。

 <ASEAN>
 ・現在、海外拠点がある日系企業に対して、今後拡大を図る国を尋ねたアンケートによると、中国:56.5%(2014年)⇒52.3%(2016年)、タイ:44.0%(2014年)⇒38.6%(2016年)、インドネシア:34.4%(2014年)⇒26.8%(2016年)、ベトナム:28.7%(2014年)⇒34.1%(2016年)なっており、中国、タイ、インドネシアは減少傾向、ベトナムは増加傾向にある。中国が減少している理由は周知の通りである。タイは、近年経済成長が鈍化しており、投資が一服した感がある(タイのGDP成長率は、2013年2.73%、2014年0.92%、2015年2.94%、2016年3.23%。1人あたり名目GDPは、2013年6,157.36ドル、2014年5,921.09ドル、2015年5,799.39ドル、2016年5,899.42ドル)。インドネシアは人口の多さから市場として期待されてきたが、元々非常に複雑な多民族国家であり、簡単に事業化できないことが明らかになったことが原因と思われる。

 ・新興国の経済の発展は3段階に分けて考えることができる。①コストメリットを活かした生産拠点の受け入れ、②内需拡大による販売拠点の受け入れ、③研究開発などのさらなる高機能化、の3段階である。中国は2000年代半ばまで①のフェーズにあったが、2000年代後半は②のフェーズに入り、現在は③に移行しつつある。ASEAN諸国のうち、人件費が安いベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスは、現在①のフェーズにあり、中国から生産拠点が移管されている(チャイナプラスワン戦略)。他方、既に高度な経済成長を遂げたシンガポールやマレーシア、経済が成熟しつつあるタイは、①のフェーズを卒業し、②や③のフェーズに移っている(ただし、タイではR&D人材が不足していると言われる)。ベトナムは、人件費が安いため①のフェーズにあるものの、人口が多いことから②のフェーズもパラレルで進行している印象がある。

 ・海外に進出するにあたっては、進出の目的を明確にすることが非常に重要である。日本市場が成熟・縮小傾向にあるから海外に進出するという理由では弱い。自社の製品・サービスが海外においてどのような価値を創造することができるのか、進出先の地域においてどのような貢献ができるのかをはっきりさせる必要がある。また、海外進出にあたりフィージビリティスタディを実施する際に、経済産業省、JETRO、国連などのデータを用いて各国の市場の情報を入手することになるが、国別だけでなく、都市別にも分析を行うべきである。ASEAN諸国は、都市によって経済レベル、文化、生活習慣、インフラ、社会制度などがバラバラである(この点が、前述のように、インドネシアにおける事業展開を難しくしている1つの要因であろう)。

 ・中堅企業が海外進出する場合には、「小さく始めて大きく売る」ことを目指すとよい。特に、代理店を効率的に活用することが有効である。代理店は販売のリスクを低減してくれる。ただし、代理店を利用するにあたっては、代理店の信用調査を事前に入念に行うことが必要である。なお、海外事業を小さく始めるからと言って、本社が現地に任せっ放しにするのはよくない。ASEANの場合、英語でコミュニケーションが取れるとは限らないから、本社が現地にあまり触れたがらない傾向がある。しかし、現地は製造、購買、販売、人事労務管理、経理、行政への対応など、ありとあらゆることを少人数で行っている。本社のサポートは必要不可欠である。

 ・シンガポールに進出している日本企業拠点数は1,116拠点(2016年)である。このうち、シンガポールの商工会議所に登録している日経企業数は、2017年時点で836社である。商工会議所に登録している日系企業の内訳を見ると、製造業が10年前に比べて減少しているのに対し、金融・保険業は2007年の46社から2017年の64社へと1.4倍、観光・流通・サービス業は2007年の106社から2017年の249社へと2.5倍に増加している。

 ・シンガポールで就労するためには、EP(外国人就労ビザ)を取得する必要がある。シンガポールは多様な民族を受け入れることで急速に経済発展を遂げた国であるが、近年は自国民の雇用確保へと舵を切っている。そのため、EP取得の要件が2010年頃から厳格化されている。具体的には、2017年1月より、EP申請に必要となる最低月給が、3,300シンガポールドルから3,600シンガポールドルに増加した。また、実際に承認を受けるために必要な月給も上昇しているとの印象がある。EPを取得するために日本人駐在員の月給を上げると、人件費が増加してしまう。そのため、ローカル人材の活用を検討する必要がある。

 ・シンガポールでは、PIC優遇税制が2017年終了事業年度を最後に廃止されることが予定されている。PIC優遇税制とは、企業の自動化、効率化を促進する適格支出(パソコンの購入など)について、400%償却(つまり、10万円のパソコンを購入すると、40万円を減価償却費として計上できる)、または一定の条件の下で60%現金給付を与える(つまり、10万円のパソコンを購入すると、6万円戻ってくる)優遇制度である。これに代わるものとして、Automation Support Packageという優遇税制が創設されるが、現地出資が30%以上であることが条件であるなど、多くの日本企業は利用することができない見込みである。

 ・2015年1月にIRAS(シンガポール内国歳入庁)が公表した移転価格ガイドラインにより、シンガポールでも本格的に移転価格同時文書化が始まることとなった。法人税の確定申告期限(原則として、決算日の翌年11月末まで)に文書を作成する必要がある。ただし、棚卸資産購入取引が1,500万シンガポールドル以下、ロイヤルティ支払が100万シンガポールドル以下の場合など、少額の場合には文書化が免除されることがある。

 ・シンガポールや香港は、地域統括拠点として利用されることが多い。地域統括会社を利用すると、企業グループ全体の税負担を軽くすることができる。例えば、インドネシアとタイに子会社を持つ日本企業があり、インドネシア子会社で出た利益100をタイ子会社に再投資する場合を考えてみる。まず、インドネシアにおいて、源泉税10が引かれる(日インドネシア租税条約による)。次に、日本において100×5%×30%=1.5が引かれる(外国子会社配当金益金不算入制度による)。よって、タイ子会社に再投資できるのは、100-10-1.5=88.5となる。

 ここで、香港に地域統括会社を置き、インドネシアとタイの子会社を香港の地域統括会社の下に置いたとする。この場合、まずインドネシアでは源泉税5が引かれる(香港-インドネシア租税条約による)。次に香港であるが、香港では配当は非課税である。よって、香港の地域統括会社は、100-5=95をタイ子会社に再投資することができる。ただし、企業グループ全体の規模が大きくないうちは、享受できるタックスメリットよりも、統括拠点の維持コストの方が高くなる恐れがある。タックスメリットを目的として地域統括会社の設置を検討するのは賢明ではない。あくまでも、ビジネス的なニーズ(個社から地域ごとの経営管理への移行、バックオフィス業務の集約と効率化など)に基づいて、地域統括会社を設置するかどうか決定するべきである。



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