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『生産性―競争力の唯一の源泉(DHBR2017年7月号)』―生産性に関するデータを収集・分析する業界団体・シンクタンクが必要、他
『オフィスの生産性(DHBR2015年3月号)』―前職の会社のオフィスレイアウトはどうあるべきだったか?
ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年07月12日

『生産性―競争力の唯一の源泉(DHBR2017年7月号)』―生産性に関するデータを収集・分析する業界団体・シンクタンクが必要、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)

ダイヤモンド社 2017-06-09

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 ○偏見を叩くだけでは効果は上がらない 差別の心理学:ダイバーシティ施策を成功させる方法(フランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフ)
 2016年のマッキンゼー賞受賞論文である。ダイバーシティ・マネジメントが未だに女性活躍推進とほぼ同義で使われている日本企業に比べると、諸外国ではダイバーシティ・マネジメントが進んでいるだろうと勝手に思っていたが、実際にはそうでもないようだ。ダイバーシティ・マネジメント推進のための研修、業績評価制度における公正な評価の実施、公式な苦情申立制度などを導入しても、かえってマイノリティに対する偏見を助長するだけだと論文の著者は指摘する。

 ではどうすべきかというと、1つにはメンター制度が有効であると言う。ただ、同じ人事制度でも、業績評価制度はNGでメンター制度はOKであるという理由が判然としなかった。仮に、マイノリティ中心にメンターをつけたとすれば、それもやはりマイノリティに対する偏見を生むのではないかという疑念が拭えない。著者はもう1つの方策として、ダイバーシティ・マネジメントに関して社会的な説明責任を負わせることが重要であると言う。人は対外的に説明する責任を負うと、より公正であらねばならないと感じることが心理学の研究で明らかになっている。ただし、これもやはり、業績評価制度との違いを説明できないと感じた。というのも、業績評価制度においても、評価結果の根拠を少なくとも社内にはオープンにしなければならない。社内への説明では不十分で、対外的な説明なら効果があるとする理由が論文からは読み取れなかった。

 ダイバーシティには「表層のダイバーシティ」と「深層のダイバーシティ」の2層がある。表層のダイバーシティとは、人種、性別、年齢、障害の有無など、違いが目に見える属性のことである。これに対して深層のダイバーシティとは、価値観、考え方、文化、出身地、学歴、職歴、収入、コミュニケーションスタイル、所属組織、支持政党、宗教、結婚の有無、働き方のスタイルなど、目に見えない違いを指す。ダイバーシティ・マネジメント後進国の日本に住む私がこんなことを言うのはおこがましい話だが、ダイバーシティ・マネジメントは表層レベルのダイバーシティを追求してはならないと思う。深層レベル、特に考え方や価値観の多様性を追求することを第一とし、結果的に表層レベルのダイバーシティが実現されるという形になるのが望ましい。

 ダイバーシティ・マネジメントの目的は、市場の変化や多様性に対応することである。企業は放っておくと、市場/顧客と同じ考え方を持った社員が集まる。市場の変化が小さい時には、その方が効率的に製品・サービスを顧客に提供することができる。ところが、市場や顧客のニーズが変化すると、新しいものの考え方を組織に注入しなければならない。その新しいものの考え方を組織に取り込み、あるいは先取りして、新しい製品・サービスを開発・提供するためにダイバーシティ・マネジメントが必要となる。社会学者のニクラス・ルーマンは、組織が外部の複雑性に適応するためには、組織内部にその複雑性を取り込むことが重要であると述べている。

 もちろん、多様な考え方を持った社員を誰彼構わず採用すればよいというわけではない。企業には、企業として絶対に譲ることができない価値観が存在する。この価値観については、どの社員も共感している必要がある。これを第1層の価値観と呼ぼう。通常、第1層の価値観は5~10程度で簡潔に表現されることが多い。ところが、企業にはそれ以外にも大小合わせると多くの価値観が存在する。日常の意思決定やオペレーションには、実に様々な価値観が投影されている。これを第2層の価値観と呼ぼう。ダイバーシティ・マネジメントにおいては、この第2層の価値観について、企業側の価値観と社員の価値観の衝突を敢えて推奨する。そこから新たな価値が生まれる可能性があるからだ。よって、企業は、単に多様な考え方を持った社員を採用するのでなく、価値観の衝突を上手にマネジメントできる能力を有する社員を選ぶ必要がある。

 ○生産性向上が社会の格差と不満を解消する 知識労働とサービス労働の生産性(ピーター・ドラッカー)
 ドラッカーが1991年に著した論文である。ドラッカーは、知識労働者の生産性を上げるための処方箋として、①必要のない仕事をやめる、②仕事に集中する、③生産性の意味を考える(量が重視されるのか、質が重視されるのか、量と質の両方が重視されるのか)、④労働者をマネジメントのパートナーとする(このように書くと、マネジメントが知識労働者の方に歩み寄るかのような印象を受けるが、実際には、知識労働者に対し、生産性と成果に対する責任を組み込むことが重要であると述べている)、⑤継続して学習する、⑥他人に教える、という6つを挙げている。

 製造業では、IEの発達などによって、生産性を図る指標が整備されている。他方、サービス業では、生産性を図る統一的な指標が存在しない。私は一応IT業界の出身であるのだが、IT投資をめぐっては必ず投資対効果(これも一種の生産性である)が問われる。工場の建設であれば、導入した機械の種類や整備した生産ラインの形状などから、1日あたりの生産量をほぼ正確に計算できる。ところが、ITの場合は、例えば販売管理システムを導入するとどのくらいの投資対効果があるのか、在庫管理システムの場合はどうなのか、などといった問いに答えることができなかった。システムを導入する企業の規模、業務プロセスの複雑さ、プロジェクトの期間や難易度などによってバラバラであると答えるのが精一杯であった。

 ただ、このままではいつまで経っても顧客企業に対して説得力のあるIT投資提案ができない。そこで、IT投資対効果に関するデータを業界全体で収集し、標準的な投資対効果を算出しようという機運が高まった時期があった。現在の私はIT業界から離れてもう長いため、今どのような動きになっているのかご存知の方がいらっしゃったら教えていただきたい。

 私の前職は組織・人事コンサルティングと教育研修サービスを提供するベンチャー企業であったが、この世界もまた、生産性に関する標準的な指標がない世界であった。一応、経験則的に、「この作業ならばこのぐらいの時間が標準的」というものは存在した。コンサルティングのプロジェクトでは、書籍や資料を読み込み、関係者にヒアリングをし、パワーポイントやワードで資料を作成し、プロジェクトメンバーや顧客企業と会議を行い、会議の議事録を残すというのが大まかな仕事の流れである。私がマネジャーから教わったのは、書籍や資料は1時間あたり約60ページ読み、ヒアリングは相手が経営者であれ現場社員であれ30分~1時間、パワーポイントは1時間で1枚、ワードは1時間で1,000字、進捗会議は30分~1時間、顧客企業と重要な意思決定を行う会議は2時間(逆に言うと、進捗確認や意思決定以外の会議は行うな、ということでもあった)、議事録は会議に費やした時間と同じ時間で作成する、というものであった。

 コンサルティング業界は、業界団体らしい団体が存在しない珍しい業界である。理想的なのは、コンサルティングの業界団体ができて、生産性に関するデータを収集し、作業ごとの標準的な時間を明らかにすることである。そして、これはコンサルティング業界に限らず、他の知識・サービス労働の業界全てに共通して言えることである。業界ごとに生産性に関するデータが集まれば、今度は業界横断的に生産性を研究するシンクタンクが設立されて、どの業界にも共通する生産性の指標が開発され、その指標の数値について業界ごとの比較ができるようになるとよい。そうすれば、日本のサービス業の生産性向上に大きく寄与するに違いない。

 ○1312社のデータ分析に基づく提言 日本企業の生産性は本当に低いのか(永山晋)
 しばしば、日本企業の生産性は低いと言われる。OECDが発表しているランキングでも、日本は下から数えた方が早いくらいである。この現実に対し、本当に日本企業の生産性は低いのか、上場企業の従業員数と営業利益のデータを使って検証した論文である。論文の著者は、日本企業の生産性は必ずしも低くないと結論づけているものの、ちょっと待ってほしい。分析の対象は上場企業1,312社となっているが、この上場企業の内訳が問題である。

 上場企業業種別企業数

 上のグラフは、上場企業3,805社の業種別割合を示している(「上場企業サーチ:上場企業データベース」より作成)。グラフから解るように、上場企業の半分近くは製造業である(ちなみに、日本の全企業数約400万社のうち、製造業は約40万社で1割程度にすぎない)。そして、これもまたよく言われているように、日本の製造業の生産性は、世界でもトップクラスである。だから、上場企業の生産性を分析すれば、その数値が高めに出るのは当然である。この論文は、我々が既に知っている常識を単に裏書きしているにすぎない。

 日本の生産性の足を引っ張っているのは、日本企業の99.7%を占める中小企業である。これは中小企業庁が発行している『中小企業白書』からも読み取れる。もちろん、大企業を上回る生産性を達成している高業績の中小企業も存在するが、その割合はわずかにとどまる。全体を押しなべて見ると、下図のように、中小企業の労働生産性は大企業のそれを大きく下回る。

労働生産性と労働構成比

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向 第3章 中小企業の生産性分析」より。

 これは、中小企業の作業効率が悪いというだけの問題ではない。中小企業は大企業に比べて、圧倒的に社員1人あたりの売上高が低い。そしてさらに悪いことに、売上高が伸び悩んでいるにもかかわらず、販路開拓に注力していない中小企業の割合が拍子抜けするほど高いのである。販路開拓は、普通の企業ならば普通に行うことである。その販路開拓を行っていない中小企業が20%も30%も存在するのは、はっきり言って異常である。日本の生産性を上げるためには、中小企業の営業力の強化こそが不可欠である。

1人あたり売上高の分布

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第2部 中小企業の稼ぐ力 第6章 中小企業の稼ぐ力を決定づける経営力」より。

業種別、商品・サービス別に見た販路開拓の取組状況

 (※)中小企業庁『中小企業白書2015年度版』「第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍 第1章 中小企業・小規模事業者のイノベーションと販路開拓」より。

2015年03月11日

『オフィスの生産性(DHBR2015年3月号)』―前職の会社のオフィスレイアウトはどうあるべきだったか?


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-02-10

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 オフィスのレイアウトに関する特集であり、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの特集としてはかなり珍しいものである。社内のコミュニケーション活性化を図るという名目で大部屋方式を取り入れたり、フリーアドレスのデスクを導入したりする企業は多い。しかし、何のためにコミュニケーションを活性化させるのか?誰と誰とのコミュニケーションを活性化させたいのか?をはっきりさせないと、オフィスレイアウトの変更は失敗に終わる。
 ペントランドは優れたコミュニケーションのカギを握る3つの要素を発見した。それは、探求(自分とは異なるさまざまな社会集団に属する人と交流する)、関与(自分と同じ社会集団に属する人と、できるだけまんべんなく交流する)、活力(全体としてより多くの人と交流する)の3つである。(中略)

 特定の成果を達成するために、探求、関与、活力のいずれかを重視した空間設計をすることができる。たとえばコール・センターの生産性を高めるには、チーム・メンバーの交流が活性化するような、関与を重視した空間にすべきである。一般に、関与が活性化するのは開放的でソーシャルな空間ではなく、壁で仕切られたこじんまりとした仕事場と、それに隣接した小人数向けのコラボレーション・交流スペースだ。(中略)

 イノベーションや変革に挑む、たとえばテレノア(※ノルウェーの通信事業者)のような企業では、関与の活発化が悪影響をもたらすことがある。なぜなら、他グループや社外と交流する貴重な探求の時間が奪われてしまうからだ。テレノアのフレキシブルな空間は、関与よりも探求をより重視した設計である。
(ベン・ウェイバー、ジェニファー・マグノルフィ、グレッグ・リンゼー「オフィスはコミュニケーションの手段 仕事場の価値は多様な出会いにある」)
 部門内の生産性を上げたいのであれば、比較的クローズな空間を構築し、社員をできるだけ密集させると同時に一人一人が作業に集中できる環境を整え、必要に応じて時々社員同士がディスカッションできる場を補足的に設けるのが望ましい。逆に、部門間連携を通じて創造性の発揮を期待するのであれば、オープンな空間を構築して、様々な部門の社員が頻繁にそこに流入しては偶然に衝突する機会を演出するのが効果的である。

 だが、ここでパブリックVSプライベートという問題が出てくる。イノベーションを引き起こすためにオープン・スペースを設けても、社員がなかなかそれを利用してくれないことがある。頻繁にオープン・スペースを使っていると、周囲から「彼は仕事をしていないのではないか?」と疑いの目を向けられる可能性がある。それに、イノベーションにつながる大事な、しかしまだ不十分なアイデアは、いきなり公の場で披露するよりも、気心が知れた人にこっそりと教えたいものだ。
 筆者の研究結果は、オープンな職場環境に関するさまざまな研究結果を補完するものであり、透明性が高ければ高いほどよい環境とは限らないと示唆している。業績向上には、他人の目や干渉から自由になれる「プライバシー」も必須なのだ。
(イーサン・バーンスタイン「4つの境界線の活用方法 『ガラス張りの職場』に潜む罠」)
 会社の中のプライベート空間といえば、喫煙ルームが代表的だろう。喫煙ルームでは、仕事のプレッシャーから一時的に解放された各部門の社員が集まって、面白いアイデアが生まれると言われる(「生まれる」と言い切れないのは、私が喫煙者ではなく、実体験がないためである)。ただし、最近は(私を含め)喫煙者が減っているので、喫煙ルームに代わるプライベート空間を構築するために、コーヒースタンドや自動販売機、オフィスグリコなどの活用が注目されている。

 先ほどコミュニケーションのカギを握る3つの要素を引用したが、探索に比べれば関与の方がまだプライバシーが確保されている。各社員のデスクが固定されており、場合によってはデスクがブースで区切られたりもしている。それでも、突然舞い込んでくる電話やメール、急に仕事の指示にやって来る上司や、相談を持ち掛けてくる同僚によって、仕事が頻繁に中断する。こうした空間においても、プライバシーの確保は重要な課題となっている。
 コラボレーションには自然なリズムがある。まず、単独あるいは2人くらいでアイデアの創出や情報の処理に集中する必要がある。その後、グループで集まってそれらのアイデアを膨らませたり、共通の見解を発展させたりする。そして解散すると再び個々に、次の段階へと移行する。コラボレーションすべき仕事が労力を要するものであればあるほど、1人になって考察したり充電したりする時間も必要になる。(中略)

 我々の研究によれば、仕事に没頭するためだけでなく、近頃の仕事の激烈さに対応するためにも、人々は再びプライバシーの必要性をより切実に感じている。
(クリスティン・コンドン、ドナ・フリン、メラニー・レッドマン「行きすぎた職場オープン化への警告 協働スペースと個人スペースの絶妙なバランスとは」)
 本号を読んで、私の前職の会社ではどういうオフィスレイアウトにすればよかったのか、改めて考えてみた。私の前職については「シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】」で散々書いたので詳しくは触れないが、以下のようなオフィスに、X社(教育研修&組織・人材開発コンサルティング:約25名。私はX社に所属していた)、Y社(人材派遣、ヘッドハンティング:約10名)、Z社(戦略コンサルティング:約15名)の3社が入っていた。

座席表


 《「シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】」より》
 【ベンチャー失敗の教訓(第42回)】いびつなオフィス構造もコミュニケーション不全を引き起こす原因に
 【ベンチャー失敗の教訓(第43回)】じりじりと生産性を阻害するオフィスレイアウト

 本来はこんな使い勝手が悪いオフィスを使っていること自体が問題なのだが、合理的なデザインのオフィスなどそうそう借りられるわけではないから、与えられた環境の中でいかに最善を尽くすかを考える必要がある。3社の経営陣はシナジーを期待していたものの(「【ベンチャー失敗の教訓(第11回)】シナジーを発揮しない・できない3社」を参照)、実際には各社とも独り立ちするのに精一杯で、とても他社のことは考える余裕がなかった。そのため、コミュニケーションの目的を、企業間の創造性の発揮ではなく、各企業内の生産性の向上に置くこととする。

 まず、3社の中で最も関連性が薄いY社は、左下の「中央部屋」に集める。この部屋に入れられるとどうしても隔離された感じになるのだがやむを得ない。人材紹介やヘッドハンティング事業を行っていたY社は、顧客企業や転職希望者、ヘッドハンティング候補への電話が非常に多かった。この電話が、1人で集中して作業をしたいX社とZ社のコンサルタントにとっては煩わしかった。コンサルタントに静かな作業環境を確保するという意味でも、Y社は中央部屋に配置する。

 X社とZ社は右側の「大部屋」に入れる。図にあるような4人島だとデッドスペースがたくさんできるため、普通のオフィスのように、2列で向かい合わせになったデスクを並べる。図には描かれていないが、4人島の机の間には1.5メートルほどの間仕切りがあり、半ブースのようになっていた。ところが、この高さでは、座るとお互いの顔が見えなくなる程度で、プライバシーを確保するには不十分であった。そこで、間仕切りを高くして、完全なブース形式にする。

 こうすることで、コンサルタントが集中して作業できる環境を整える。コンサルタントと言うと、いつも会議をして激しい議論を戦わせているイメージがあるかもしれない。しかし、実際には、1人で調べ物をしたり、報告書を作成したりする時間の方が圧倒的に長い。とにかく、X社とZ社の生産性向上に寄与するレイアウトにする。あわよくば、業態が似ている両社の間で何かシナジーが生まれればよい。それよりも、各々の会社がちゃんと利益を出すことが先決である。

 左上の「小部屋」には、社員のデスクは置かない。ここに入れられた社員は、中央部屋以上に疎外感を味わう。そこで、その性質を逆手にとって、小部屋はプライベートな空間とする。具体的には、大部屋にある書籍を全部この部屋に移動させ、自動販売機やコーヒーメーカー、オフィスグリコを置いて、資料室兼休憩室にする。私のオフィスレイアウト変更案は、創造性よりも生産性を重視するものであるから、この小部屋はおまけのようなものだ。3社の社員間で何か面白い創造的なアイデアが生まれれば御の字である。

 大部屋に集められたX社とZ社の社員にブースが与えられたとしても、前述のように完全なプライバシーは保障されない。仕事の邪魔をされたくないコンサルタントの中には、耳栓をしたり、「今は集中して作業をしたい時間帯なので話しかけないでください」というプレートをブースに掲げたりする人もいた。そういうことが行われるのであれば、いっそトリンプの「がんばるタイム」みたいなものを設けるとよかったのかもしれない。これは、昼休みが終わってからの2時間、しゃべらず、電話にも出ず、机にしがみついて、集中的に仕事を行う制度である。こういう制度で無理やりにでもプライバシーを確保すると、両社の生産性は向上したかもしれない。

2014年12月24日

ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」


自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ
ウィル シュッツ Will Schutz

春秋社 1995-12

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 非常に読みにくい本で苦労した(苦笑)。本書では、社員がモチベーションを上げ、チームの創造性と生産性を高めるための要素として、以下の3つを挙げている。

 (1)仲間性(インクルージョン)
 集団(チーム)形成プロセスの初期段階において重要な要素であり、私が集団の中にいたいのか、外にいたいのかを意思決定することである。仲間性が高い人は「私は集団の他のメンバーにとって重要である」という感情を持つことができ、生き生きすることができる。反対に、仲間性が低い人は、自分が他のメンバーから重要と思われず、無視されていると感じる。

 (2)統制(コントロール)
 統制の問題は、集団が形成され、人間関係が発展し始めた後に起こる。適度な統制は、私の人生をある程度私自身で統制したいと思わせる。その結果、私は有能感という感情を入手できる。しかし、統制が行き過ぎると、他人にも干渉するようになり、独裁者のように振る舞うことになる。独裁者がしばしば他人を統制したがるのは、自分の無能を他人に気づかれたくないからである。他人に命令している限り、独裁者は自分が有能であると他人に信じさせることができる。

 (3)開放性(オープンネス)
 長い期間一緒に働くチームは、第3の課題に直面する。それがこの開放性である。開放性が高い組織では、オープンなコミュニケーションが取られ、秘密や隠しごとがなく、相手から正直なフィードバックを得ることができる。逆に、開放性が低い組織では、各メンバーのプライバシーが過度に尊重され、最低限の情報しか伝えない慎重なコミュニケーションとなり、相手の感情を傷つけないように非常に気を遣うことになる。

 この3つの要素は、モチベーションや組織の生産性に関する他の研究と整合性が取れていると感じた。例えば、デビッド・シロタ他『熱狂する社員』は、モチベーションを刺激する要因は人それぞれだと前置きした上で、あらゆる人に共通する動機づけ要因として、(1)公平感、(2)達成感、(3)連帯感の3つを指摘している。3番目の連帯感が、上記の仲間性と共通する(旧ブログの記事「《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より」を参照)。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 また、自己統制がモチベーションに影響するという点は、ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」を想起させる。フローとは、「集中が焦点を結び、散漫さは消失し、時の経過と自我の感覚を失う。行動をコントロールできているという感覚を得、世界に全面的に一体化していると感じる」状態で、「よどみなく自然に流れる水」に例えて名づけられた。チクセントミハイはフロー体験の構成要素を8つ指摘しているが、その6番目に「自分を統制しているという感覚」がある。

フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
M. チクセントミハイ Mihaly Csikszentmihalyi

世界思想社 1996-08

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 開放性が組織の生産性を向上させるという点は、「組織IQ」の研究と関連する。組織IQでは、組織を内外の情報をインプットし、意思決定というアウトプットを行う情報処理システムとみなす。そして、外部から情報を受け取る仕組み、組織内に蓄積された情報や知識を共有・再利用する仕組み、情報を処理して迅速かつ適切な意思決定に転換できる仕組みが整っているかを数値化する。具体的には5つの組織特性を調査するのだが(詳細は「情報システム用語事典:組織IQ|ITmedia エンタープライズ」を参照)、3番目の「内部知識流通」が上記の開放性と類似する。

経営スピードを加速する 組織IQ戦略経営スピードを加速する 組織IQ戦略
鈴木 勘一郎

野村総合研究所広報部 2001-02

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 私自身の考えを述べておこう。私も『熱狂する社員』と同様に、動機づけ要因は人によって様々だという考え方を支持するが(以前の記事「エニアグラムのタイプ別に見たモチベーションの上げ方(私案)」、「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―単純化するアメリカ人、複雑なまま理解する日本人(モチベーション理論を題材に)」を参照)、それでも人のモチベーションを上げる仕事にはいくつかの共通点があると思う。それは、

 (1)顧客からのフィードバックがあること
 (2)一定の裁量を与えられていること
 (3)複数の能力を使わなければならないこと
 (4)能力のストレッチが要求されること
 (5)周囲の社員との協業が必要であること


である。自分がやった仕事に対して顧客から生の声が返ってくると、たとえそれが厳しいものであっても、モチベーションアップにつながりやすいものである。規模が大きくなって顧客と直接接する社員の割合が少なくなった組織は、顧客の声が組織全体に浸透するような仕組み作りを心がけた方がよい(旧ブログの記事「お客様からの褒め言葉は、時に上司の激励よりも効果的―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』」を参照)。

 (2)は上記の統制の問題と同じである。(3)を入れたのは、同じ能力ばかり要求される仕事では単調作業になってしまい、飽きてしまうからである。しかし、いくら複数の能力が要求される仕事であっても、自分の能力が伸びなければ、自己成長感を味わうことができず面白みがない。それを回避するために、(4)が重要となる。最後の(5)は、人は孤独では生きていけないという単純な理由に起因している。本書の仲間性や、『熱狂する社員』の連帯感とも共通する要素である。

 このような仕事を社員に与えてモチベーションを上げることは、企業側の目的にも適っている。言わずもがなだが、企業は顧客の声に耳を傾けなければならない。その顧客の声を、具体的な製品・サービスに落とし込んでいくのだが、経営陣がいちいち社員に命令するのは非効率である。だから、社員には自分の頭で考えてもらう必要がある。また、企業としては、できるだけ資本効率性を高めたい。人的資本の効率を上げるには、1人の社員に様々な仕事を任せるのが得策である。そして、企業が社員に協業を求めるのは、組織の性質からして当然である。


 《2016年4月9日追記》
 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年5月号の「4つのバイアスが行動を型にはめる なぜ「学習する組織」に変われないのか」(フランチェスカ・ジーノ、ブラッドレイ・スターツ)という論文では、多様性のある仕事、チームワークが必要とされる仕事の方が、モチベーションや生産性が高いという研究が紹介されている。
 我々は日本の銀行で実施した研究において、データ入力の担当者が同じ作業を繰り返し行った場合(「特化した経験」)と、異なる作業に切り替えて行った場合(「多様な経験」)とでは、成果に違いが出るかを考察した。1日だけだと、特化して作業を行った者が最も速かった。しかし長期的には、日によって別種の作業を担当したほうが従業員はより多くを学び、やる気も保たれた。
 ソフトウェア開発会社、コンサルティング会社、医療機関、研究所などさまざまな組織で研究を行った結果、同じ人々と繰り返し働くことで協調性が高まり、グループ内の貴重な専門知識を最大限に活用し、新たな状況により迅速に対応し、自分たちの知識をうまく組み合わせて問題を効果的に解決できるようになることがわかった。
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2016-04-09

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 しばしば、金銭的な報酬だけで動機づけるのは難しいから、非金銭的な報酬も与える必要がある、と言われる。非金銭的な報酬には、上記のようないわゆる「やりがいのある仕事」も含まれる。ただ、忘れてはならないのは、社員のモチベーションを上げるにあたって、金銭的な報酬を過小評価してはならない、ということだ。試しに、自社の社員に「明日から皆さんは無給となります。それでも会社に来て仕事をしてください」と言ってみるとよい。おそらく、9割9分の社員は仕事に来なくなるだろう。そのくらい、お金の持つ力は絶大なのである。

 非金銭的な報酬を重視しようという主張は耳障りがよいので、安易にそちらに流れたくなる。しかし、動機づけの基本はやはり金銭的な報酬であって、社員の仕事の成果を適正に評価した上で、正当な金額を支払う必要がある。だが、社員の成果を完璧に算定する人事制度の構築には、未だかつて誰も成功したことがない。だから、金銭的な報酬を完璧に配分することは不可能であり、どうやっても何かしらの不満やしこりが残る。金銭的報酬の不十分な部分を、非金銭的な報酬で調整して、できるだけ100%の公平感を目指す、というのが私の考え方である。

 ここまでは、「どうすれば部下のモチベーションを上げられるか?」について見てきたが、ここでもう1つ、こんな問いを考えてみよう。「なぜ、上司は部下のモチベーションを上げる必要があるのだろうか?」 上司と部下の関係というのは、上司が仕事のオーダーを出し、部下がそれに応えて成果を納品する、という関係である。そして、その成果に対して上司がお金(給料)を払い、部下がそれを受け取る。端的に言えば、顧客と供給業者の関係である。

 ここで考えるべきなのは、一般の商習慣として、顧客が供給業者のモチベーションを上げる必要があるか?ということである。例えば、トヨタの車がほしい人は、ディーラーの営業担当者のモチベーションを上げなければならないのだろうか?この問いに対しては、圧倒的多数の人がNoと答えるだろう。ところが、こと上司と部下の関係になると、上司(=顧客)が部下(=供給業者)のモチベーションを上げるべきだ、などという話が出てくる。挙句の果てには、社員満足度調査の中で「上司が自分のモチベーションを上げてくれない」などと不満を言う社員まで出てくる。

 ディーラーの営業担当者が自らモチベーションを高めて、顧客に車を買ってもらうのと同様に、部下のモチベーションを上げるのは、第一義的には部下自身の責任であると私は考える。本書の話題からもう随分と長いこと脱線してしまったが、本書の内容に話を戻すと、本書では仲間性や統制、開放制の問題を解決すべきなのはマネジャーだとは書かれていない。あくまでも、チームを構成する各メンバーの問題として捉えられている。この点は非常に重要である。

 それでも上司が部下のモチベーションを上げなければならない理由を探すとすれば、それは上司と部下の特異な関係に求めることができるだろう。一般の商取引では、顧客は供給業者を自由に選択できる。供給業者が気に入らなければ、別の供給業者に乗り換えればよい。他社の製品・サービスの品質や機能に関する情報を入手することはそれほど難しくない。

 ところが、上司と部下の関係においては、上司が部下のことを気に入らなくても、簡単に部下をすげ替えることができない。労働者の権利が法律で保護されていることもあるが、仮に解雇要件がアメリカ並みに緩和されたとしても、部下を自由に入れ替えるのは困難である。部下を解雇したら、新しい部下を探すために何人もの候補者と時間をかけて面接を行う必要がある。なぜなら、人間の能力は目に見えないからだ。しかも、往々にして、いい人材だと思って採用した人でも、企業が要求する能力水準とは多かれ少なかれギャップがある。だから、採用後も研修やOJTなどを通じて根気強く育成をしなければならない。これは非常に手間とコストがかかる。

 だから、上司は部下を簡単に解雇するのではなく、今いる部下を最大限活用し、関係を維持することが最善である。そのために、部下のモチベーションに特別の配慮をしなければならない。


《2015年1月18日追記》
 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年2月号に収録されていたLINE代表取締役CEO・森川亮氏のインタビュー記事に印象的な箇所があったので引用する。
 企業はプロフェッショナルを採用しているわけですから、会社にモチベーションを上げてもらわなければならないような人はプロとして失格です。(中略)

 大企業の人から、マネジャー・クラスの人が疲れているという話を耳にします。部下の教育や評価もしなければならなしい、決算もしなければならないし、リポートも書かなければならない。しかも一日中会議らだけで、家に持ち帰って仕事をしなければとても追いつかないというのです。これは優秀な人の使い方を誤っていると思います。

 企業の主力となるマネジャー・クラスの人に、人が面倒を見なければいけない部下をつけるのが生産的かと。そもそも、そういう社員を抱えていることに問題の本質があるのではないでしょうか。
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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