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DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(2)
DHBR2017年10月号『グローバル戦略の再構築』―日本の中小製造業がこれから海外進出する際の5つのポイント
日本とアメリカの戦略比較試論(前半)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年08月15日

DHBR2018年9月号『発想するチーム』―トップマネジメントチームにしかできない7つの仕事(2)


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年9/号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-08-10

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 (前回の続き)

 (4)業績のモニタリング
 仕事をすればその結果を知り、改善につなげていくことはマネジメントの基本である。よって、業績のモニタリングもトップマネジメントチームの重要な仕事である。トップマネジメントチームは、価値観の浸透度合い、戦略の進捗、製品・サービスの販売量や品質に関する指標、研究開発、マーケティング、購買、製造、物流、営業、販売などの各種業務プロセスや、組織構造、人事制度、予算制度、情報システムといった企業のインフラがどの程度上手く機能しているかを判定する指標を持たなければならない。指標は多すぎても少なすぎてもダメである。デルはコックピット経営を導入していることで有名であったが、トップマネジメントチームがモニタリングしなければならない指標は100以上に上っていたという。これは人間の理解力を超えているだろう。

 仮に、先ほど挙げた各分野について、1分野につき3個の指標を設定したとすると(例えば、価値観の浸透度合いを測る指標を3個設定する)、全部で15分野×3個=45個となる。これでもまだ多い方かもしれない。同じくコックピット経営を導入しているカルビーが設定している指標の数はわずか20である。トップマネジメントチームが各指標について十分に議論するためには、このぐらいの数に絞った方がよさそうだ。目標管理制度が機能していれば、トップマネジメントチームの指標はミドルマネジメント、現場社員へと適切に展開されているはずであるから、細かい指標のモニタリングと改善については、ミドルマネジメントや現場社員に任せられるはずである。

 (5)日常業務の問題解決
 トップマネジメントチームがどんなに現場への権限移譲を進めても、現場では解決できない問題は生じる。こうした問題はトップマネジメントチームが解決するしかない。最近、フレデリック・ラルーの『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)という本が注目されている。同書については機会を改めて書こうと思うが、一言で言うと、ティール(進化型)組織では社員が皆経営者であり、各部門、各チームが自主経営を行っている点に特徴がある(同書は、権限はトップから部門・チームに委譲されるのではなく、初めから各部門・チームにあるという考えに立っているため、権限移譲という言葉を使っていない)。

 部門・チーム内、あるいは部門・チーム間の問題解決も、基本的には当事者に委ねられる。だから、トップマネジメントの仕事は非常に少ない。とはいえ、当事者だけではどうしても解決できない問題もあるから、ティール組織では「紛争解決メカニズム」という公式の手続きが定められており、トップマネジメントがこの手続きにコミットしていることが多いという。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 トップマネジメントチームが日常業務の細かい問題にまで首を突っ込むのはやりすぎだと思われるかもしれない。しかし、トップマネジメントチームによる日常業務の問題解決には重要な側面がある。それは、悪い情報が現場から上がってくるルートを作っておくということである。言うまでもなく、衰退する組織では、現場がトップマネジメントチームにとって都合の悪い情報を隠蔽する体質ができ上がっている。それを防ぐために、トップマネジメントチームは日常業務の問題に関与し、組織に悪い芽が芽生えていないか目を光らせておかなければならない。

 もう1つの重要な側面として、現場からの例外情報を吸い上げるという点がある。前述の「(4)業績のモニタリング」で、トップマネジメントチームがモニタリングできる指標の数はせいぜい数十程度だと書いた。すると、トップマネジメントチームはその数十の指標に関する情報のみに敏感になり、それ以外の情報には疎くなる傾向がある。もしかすると、指標には表れないが、自社の経営を脅かす重要な兆候・変化が現場で起きているかもしれない。日常業務の問題解決に関与することは、そうした例外情報をキャッチする絶好の機会となる。重要な例外情報があれば、トップマネジメントチームはその情報が意味するところを議論し、必要に応じて価値観や戦略を見直して、それに伴い各種指標も再設定する必要がある。

 (6)取締役会・株主への対応
 取締役会はトップマネジメントチームの上司である。株主の代表として企業に送り込まれた取締役に対して、株主が投資した資金がどのように使われ、どのようなリターンを生み出したのかを説明する責任がトップマネジメントチームにはある。さらに、インプットとアウトプットのみに着目するのではなく、アウトプットを創出するプロセスが合理的であったかについても、取締役会に対して保証しなければならない。換言すれば、適切な部統制システムを整備し、運用するということである。加えて、トップマネジメントチームが新たな投資で資金を必要とする場合も、目的と目指すべき成果は何か、その成果をどのようなプロセスで創出するのか、成果を得るためにはいくらの資金が必要なのかを、取締役会に対して論理的に説明する義務を負う。

 ただし、特に日本企業の場合はそうだが、トップマネジメントチームのメンバーが取締役を兼ねているケースが多く、上記のような説明責任が上手く果たせないことがある。その場合は、直接株主に対して説明責任を果たす(それでも、中小企業のように、株主=代表取締役社長となっているオーナー企業では難しい)。株主と経営者の関係は、プリンシパル(本人)とエージェント(代理人)の関係に例えられることがある。この場合、プリンシパル=株主のエージェントである経営陣は、株主の意向通りに企業を経営しなければならないことになる。しかし、実際には、経営陣に一定の裁量が認められているのが普通である。トップマネジメントチームは、どういう考えの下にその裁量を発揮したのか、株主に対して適切に説明することが求められる。

 (7)社会的責任(CSR)の遂行
 企業に社会的責任を要求する声はますます高まっている。社会的責任の概念自体はさほど新しいものではなく、ドラッカーが半世紀近く前に既に言及している。ドラッカーは、「自社が責任を持てない分野には手を出すべきではない」と述べて、社会的責任の範囲をかなり限定していた。だが、資本主義の機能不全により社会問題が噴出すると、そうも言っていられなくなった。資本主義の担い手は企業である。だから、昨今の社会問題を引き起こしている原因も企業にある。これまで、そのような社会問題は、行政やNPOが解決するものとされてきた。ところが、行政の考え方は、弱者を救済するという目的で価格を安く設定する代わりに、NPOに対して補助金を与えるというものである。しかし、私が知る限り、補助金頼みのビジネスは例外なく腐敗する。というのも、顧客が市民なのか補助金をもらっている行政なのかが解らなくなるからだ。

 結局、社会問題の解決は、その問題を生み出した企業に期待されることになった。ドラッカーは資本主義は富の偏在を招くとして敬遠していたものの、近代以前から続く自由市場主義のことは信頼していた。社会問題はなかなかお金にならない領域であるが、企業はマネタイズの方法を知っており、事業のマネジメントのノウハウを持っている。企業は、自由市場主義の原則に基づいて、社会問題の解決に乗り出さなければならない。社会問題の解決とは、今まで市場にならなかった分野を市場化するという意味で新市場の創造であり、イノベーションの一種である。したがって、前述の「(2)戦略の構想」の延長線上で、トップマネジメントチームの仕事となる。CSR部門を作って、そこに一任しておけばよいという話ではない。

 社会問題はなかなかお金にならないと述べた。ということは、企業が社会問題の分野で自社の事業規模に見合った事業を育て上げるためには、相当広範囲にまたがって社会問題の解決に取り組む必要があることを意味する。本号には、ロバート・キャプラン、ジョージ・セラフェイム、エドゥアルド・トゥーゲントハット「企業の枠を超えたパートナーシップを構築する インクルーシブ・グロース実現への道」という論文がある。本論文によれば、企業のCSR活動の多くが失敗したのは、規模が小さすぎる、もっと単刀直入に言えば「野心」が足りなさすぎるためだという。その場しのぎの対処療法ではなく、政府やNPO/NGOなど異なるセクターのプレイヤーと手を取り合って、社会全体の新しいエコシステムを描き直すくらいのつもりでなければならない。こうしたイノベーションを実行できるのは、トップマネジメントチームしかいない。

 以上が、私の考えるトップマネジメントチームに固有の7つの仕事である。次の問題は、これらの仕事をチームメンバー間でどのように分担するかということである。個人的には、厳格な役割分担をしない方がよいのではないかと思っている。

 本号の後半には、性格テストに関する論文が収められていた。性格テストと言うとMBTIやFFMなどが有名であるが、近年は脳科学をベースとした性格テストが登場しているようだ。スザンヌ・M・ジョンソン・ビックバーグ、キム・クライストフォート「脳科学で見極める4つの性格タイプ」によると、人間の性格は①パイオニア(先導役)、②ドライバー(牽引役)、③ガーディアン(見守り役)、④インテグレーター(まとめ役)という4つに分けられる。例えばパイオニアとガーディアンは対立関係にあるが、チームに両者が存在するとお互いの役割を補完し合い、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができるという。

 また、ヘレン・フィッシャー「脳の働きを理解すれば誰とでもうまくやっていける」によると、人間の性格特性には、①ドーパミン/ノルアドレナリン、②セロトニン、③テストステロン、④エストロゲン/オキシトシンという4種類のホルモンが関係しているそうだ。ドーパミン系が多い人は好奇心、創造性、自発性、熱意にあふれている。セロトニンが多い人は社交性が強く、集団に帰属しようとする傾向が強い。テストステロンが多い人は現実的、率直、決然、疑い深い、きっぱりと主張するといった特徴があり、エンジニアリング、力学、数学など規則性のある分野で力を発揮しやすい。エストロゲン/オキシトシンが多い人は直感的、想像にふける、信じやすい、共感しやすい、状況を基に長い目で物事を考えるという傾向が見られる。ここでも、それぞれのホルモンの特徴を活かしてチームを構成することが重要であるとされている。

 ただ、私は個人の性格をまるでパズルのように組み合わせるという考え方はあまり受け入れられない。パズルが静的で完全であれば、各ピースを隙間なく並べられるだろう。だが、トップマネジメントチームの仕事は動的である。チームの仕事が変化したのに、あるメンバーが「自分の仕事はこれだけである」と限定してしまうと、メンバーの誰も手をつけない仕事が生じる恐れがある。だから、一見非効率かもしれないが、メンバーの仕事はある程度重複していた方がよい。やや異なる分野の研究になるものの、新製品開発においては、マーケティング担当者と開発担当者のタスクが重複している方が、そうでない場合よりも高い成果を上げられるという報告もある(川上智子『顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス』〔有斐閣、2005年〕)。トップマネジメントチームの仕事にとっても示唆的な内容だと思う。

顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス
川上 智子

有斐閣 2005-08-01

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2017年10月24日

DHBR2017年10月号『グローバル戦略の再構築』―日本の中小製造業がこれから海外進出する際の5つのポイント


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 10 月号 [雑誌] (グローバル戦略の再構築)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 10 月号 [雑誌] (グローバル戦略の再構築)

ダイヤモンド社 2017-09-08

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 本号にはホンダの八郷隆弘代表取締役兼CEOのインタビュー記事が掲載されていた(八郷隆弘「需要地生産の理念と収益性を両立させるホンダの要諦 ローカルで愛され、グローバルで儲ける」)。ホンダは、創業者である本田宗一郎の「需要のあるところで生産する」というモットーに従って、世界6極体制(日本、中国、アジア・オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米)を構築してきた。つまり、中国の自動車は中国で、ヨーロッパの自動車はヨーロッパで生産するという体制である。ところが、昨今は世界経済が不安定になり、各地域の需要変動が大きくなりつつあるため、例えばアジア・オセアニアで生産した自動車を南米に持っていくなど、生産能力をグローバル規模で調整し、融通し合うことを検討しているという。ただ、これは海外進出の歴史が長い大企業だからこそ直面している課題であり、また解決可能な課題であると言えよう。

 私は一応中小企業診断士なので、これから海外に進出することを検討している中小企業、特に中小製造業に向けて、今回の記事を書いてみたいと思う。製造業に注目しているのには理由がある。本号にも書かれている通り、製造業はサービス業と違い、規模の経済によって生産性を大きく向上させることができる。しばしば言われるように、昨今の深刻な経済格差を解消するには、生産性向上がカギを握っている。また、製造業には雇用の乗数効果がある。製造業の雇用を1創造すると、サービス業の雇用が1.6創造されるという。「自動車組立工場を作ると隣にウォルマートが来る。だが、ウォルマートができても自動車組立工場は来ない」という言葉もある(アイリーン・ユアン・サン「産業革命の次なる舞台 ”世界の工場”は中国からアフリカへ」より)。

 私は決してサービス業を軽視しているつもりはない。しかし、製造業は様々な機能、職能、技術の複雑な集合体であり、その経営には高度な知識とノウハウが必要とされる。よって、製造業に強い国こそが世界で高い競争力を持つと思っている。アメリカやドイツが第4次産業革命、インダストリー4.0を掲げているのは至極真っ当なことだと思う。製造業が凋落したからと言って、金融業にシフトしたイギリスがますます落ち目になってしまったのとは対照的である。最近の日本では、スマートフォンのゲームアプリで何百億円もの売上高を上げたとか、Youtuberが1億円を稼いだといったことばかりが話題になるが、私が見たい未来はそういう未来ではない。

 今回の記事では、これから海外進出する中小製造業が注意すべきポイントを5つ挙げる。1つ目は、海外市場で売れる「最終製品」を開発することである。日本の中小製造業は、最終製品を組み立てる大企業の下請として、各種部品を製造しているところが多い。しかし、大企業の工場は今や海外に移転してしまった。さらに、大企業はコスト削減のために現地のサプライヤーと新たな関係を構築している。日本に残された中小製造業が、後からその関係に割って入ることは難しい。そこで、今まで部品製造で培ってきた技術を活用して、海外市場向けの最終製品を作る。これは、アンゾフの成長ベクトルで言うところの「多角化戦略(新しい製品を新しい顧客に提供する)」に該当し、最もリスクが高いが、中小製造業が生き残るにはこれしかない。

 日本企業は、顧客に直接会い、顧客の声に耳を傾け、ニーズを丁寧に拾い上げて製品に反映させる能力に長けていると思う。アメリカ企業が大量のデータを駆使して統計的に顧客のニーズを分析したがるのとは対照的である。本号でも、海外、特に新興国では「プッシュ型戦略(企業が売りたい製品を顧客に売る戦略)」ではなく「プル型戦略(顧客を企業側に引きつける戦略)」が有効とされている。具体的には、①顧客が直接表明する怒り、いらだち、不安、苦痛を理解する、②顧客が代替品で何とかやりくりしている問題に着目する、③顧客が法律を歪曲して対応している問題に注目する、といった手法が挙げられている(クレイトン・クリステンセン他「潜在的なニーズをいかにつかむか 市場創造型イノベーション:アフリカを開拓する新手法」より)。

 中小製造業が、日本で製造していた部品と同じ部品を海外で安く製造するのではなく、全く異なる最終製品を海外で製造するのにはメリットがある。ある中小企業は、取引先の親会社からの要請に基づいて、コストダウンのために国内工場の一部を海外に移転させた。海外では何とかコスト削減に成功したが、その後親会社はとんでもないことを要求してきた。「海外でこれだけ安く作れるのだから、御社が国内で我々の日本本社に納めている部品についても、同じ価格で納品してほしい」。親会社が海外でその中小企業の海外子会社から購入している部品と、親会社が日本でその中小企業の日本工場から購入している部品は同じなのだから、親会社の要望は解らなくもない。ただ、中小企業にとっては、とても対応できる問題ではない。もしも国内と海外で別々の製品を製造していれば、こういうリスクは回避することができる。

 本号にはアフリカに関する論文がいくつか所収されていた。アフリカのリスクは、①賄賂・汚職が蔓延している、②インフラが未整備である、③能力を持った人材が欠如している、④(BOP理論で増加が予想されていた)中間層が育っていない、といったことが挙げられる。ただし、これらは程度の差はあれ、アジアの新興国にも該当することである。特に①~③の問題に対処するために、できるだけ自前主義をとるという方策がある。これが2つ目のポイントである。

 前掲のクレイトン・クリステンセン他論文では、ナイジェリアで「インドミー」というインスタント麺の製造・販売を行うドゥフィル・プリマ・フーズ(インドネシアのトララム・グループ傘下の企業)の事例が紹介されている。新興国では、原材料の横流しや、仕入先への賄賂などが頻発する。同社はこうした不正を防ぐために、外部のパートナーに頼らず、自社で原材料から製造することにした。また、ナイジェリアはインフラが未整備で工場の稼働に支障をきたしていたため、同社は電力・水道事業にも着手した。さらに、製品を納品するために、自前のトラックを活用したサプライチェーンを構築し、流通倉庫や小売店も設けた。加えて、ナイジェリアの学校を好成績で卒業した人材を採用し、自前の研修を通じて電気工学、機械工学、ファイナンスなどを教えている。

 ただ、日本で部品製造に特化し、業界のバリューチェーンの一部を占めるにすぎなかった中小製造業が、海外でいきなりバリューチェーンの全部を構築するのはハードルが高い。どうしても現地企業をパートナーとして活用せざるを得ない。そこで、川上や川下のプレイヤーに対して、強いパワーを発揮することが重要となる。原材料メーカーには、高いレベルの品質マネジメントシステムを導入してもらう。そして、定期的に工場の内部監査を行い、5Sが徹底されているかといった基本事項から始まり、高品質と低コストを両立させる製造ラインが整備されているかを直接目で見て確認する。販売店・代理店に対しては、厳しい与信管理を行い、きめ細かく業績管理をする。そして、必要に応じて契約内容やインセンティブを見直す。さらに、川上・川下の両プレイヤーに対して共通することだが、現地パートナーの人材育成に積極的に力を貸すことである。

 日本で新規事業を立ち上げる際には、顧客の生の声を吸い上げると同時に、各種機関が公表している統計データや、市場調査会社から得られる情報に基づいて、緻密な事業戦略を構想することが可能である。ところが、海外の場合は、信頼できる客観的なデータが入手できないことが多い。したがって、厳密なフィージビリティ・スタディは困難である。だから、最後は経営者の直観に頼る部分が大きくなる。ただ、1つだけ明確に決めておくべきことがある。それは「撤退基準」である。撤退基準をはっきりさせておくことが3つ目のポイントである。例えば、「進出後○○年後の累積赤字が△△円になったら撤退する」といった具合である。海外進出で失敗する企業を見ていると、撤退基準を設定しておらず、ずるずると赤字を垂れ流しているのに、「いつか事態は好転するだろう」と楽観視して、結局膨大な負債を抱えてしまう、というケースが少なくない。

 日本の新規事業がそうであるように、海外の新規事業も最初の数年間はほぼ間違いなく赤字になる。日本本社は、海外事業が軌道に乗るまでは、その赤字を補填しなければならない。補填可能な金額が撤退基準であると言えるだろう。海外事業の赤字を補填するためには、日本本社の利益を上積みする必要がある。逆説的なことだが、日本の市場が飽和状態であるから海外に進出するのに、海外事業を成功させるには日本の事業を拡大させなければならないのである。ただし、1つ朗報がある。『通商白書2012』によると、海外での売上高が増加している企業のうち、約5割が国内の売上高も増加しており、海外での売上高が減少している企業のうち、約6割が国内の売上高も減少している。つまり、海外売上高と国内売上高はトレードオフの関係というより、同じ方向に動く傾向が高いことが解っている。

 化学薬品商社である「江守グループホールディングス」は、福井市で100年以上続く名門商社であったが、2015年4月に民事再生法を適用した。同社は2000年代に入ってから中国に進出し、中国事業を積極的に拡大していた。中国事業の売上高は、日本事業の売上高をはるかに上回るまでに成長した。ところが、実は中国子会社では架空売上の計上など粉飾決算が日常的に行われており、実態は大幅な赤字であった。中国事業の実際の累積赤字が発覚すると、その額があまりにも大きすぎたため、日本本社でカバーすることができず、最後は倒産してしまった。これは、中国子会社のガバナンスが機能不全に陥っていたことと、撤退基準が明確でなかったことが重なって引き起こされた悲劇であると言えるだろう。

 4つ目のポイントは、一度ある国に進出したら、中長期的にその国にコミットメントするべきだということである。コスト削減を目的に進出する日本の大企業は、現地の賃金が上がると、すぐにもっと労賃の安い国に工場を移す傾向がある。大企業には余剰資源と体力があるから、それも可能である。しかし、中小企業にとっては、工場を頻繁に移動させることは難しい。一度その国に進出したら、10年、20年はその国でビジネスをする腹積もりでいなければならない。

 アジアの新興国では、政治家の人気取り政策によって、最低賃金が毎年10%以上上がるということも珍しくない。それに耐えられない大企業はすぐに他の国に移ってしまう。だが、これは見方を変えると、最低賃金が上がる分だけ、その国の人々の生活水準が上がるということでもある。今、この記事では、中小製造業が現地で売れる最終製品を製造・販売することをテーマとしている。現地の生活水準が上がったら、今度はより高付加価値製品にシフトしていく。今、新興国で何が売れるのか解らないわけだから、将来的にどんな高付加価値製品が売れるようになるのかを予測することは不可能に近い。しかし、新興国に進出する以上は、長い目で見た時に高付加価値製品にシフトすることも視野に入れておくことが肝要である。

 最後のポイントは、4つ目のポイントとも関連するが、進出先の国の発展に貢献するのだという意気込みを持って進出しなければならないということである。本号には、新興国で電気バイク、電気三輪車を製造・販売するテラモーターズの代表取締役社長である徳重徹氏の記事があった(徳重徹「テラモーターズは失敗から学ぶ 新興国で勝ち残る5つの鉄則」)。これによると、新興国企業のリーダーは非常に愛国心が強いという。そして、社会的意義の高い事業を行おうとしている。日本の中小製造業は彼らと競争することになる。国内市場が頭打ちだから、何となく海外の方が稼げそうだからといった生半可な気持ちで進出すると手痛い目に遭う。

 ただ個人的には、「採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その6~10)」でも書いたように、事業の社会的価値を強調しすぎるのもいかがなものかと感じる。大言壮語でビジョンを語られると、かえって胡散臭さを感じてしまう。進出先の国の”全国民”を豊かにするといった類のビジョンは、私はかえって邪魔だと思う。それよりも、経営者が直接観察して発見した、先進国なら当然存在する製品・サービスが欠けているために困っている人たちを助けたいという”リアルな”思い、経営者が雇用したローカル社員に少しでも高い給与を払って彼らの生活レベルを上げたいという”リアルな”思いの方がはるかに重要である。そして、以前の記事「『致知』2017年10月号『自反尽己』―上の人間が下の人間に対してどれだけ「ありがとう」と言えるか?、他」でも書いたように、「この国で事業をさせていただいている」という謙虚な姿勢を忘れないことである。

 新興国は国策として外国からの投資を呼び込んでいる。よって、新興国に進出する中小製造業は、政府や行政と良好な関係を構築することが必要になる。『コークの味は国ごとに違うべきか』の著者であるパンカジュ・ゲマワットは、本号の論文で、現在各国で問題になっている収入格差を解消するために、政府は保護主義ではなく、セーフティーネットの整備、最低賃金の引き上げ、税制改革、職業訓練などを施すべきであり、企業がこれらの政策の支持を表明すれば大きなメッセージになると述べている(パンカジュ・ゲマワット「多国籍企業は混乱の中でどこに向かうべきか トランプ時代のグローバル戦略」より)。

 ただ、これはどちらかというと大企業向けの提言であり、中小製造業が実施するには困難が伴う。中小製造業は身の丈に合った形で政府の政策に協力し、社会的責任を果たせばよい。例えば、繰り返しになるが、最低賃金すれすれの賃金ではなく、社員にとって魅力的な賃金を支払うこと、また、社員に対して十分なトレーニングを実施し、能力の向上に貢献することなどである。これらの取り組み1つ1つは小さなものかもしれないが、日本の多くの中小製造業が新興国に進出するようになれば、確実にその国の発展に貢献する。

2015年07月13日

日本とアメリカの戦略比較試論(前半)


 以前の記事「日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考」に続いて、またしても乱暴な(?)日米比較論を書いてみたいと思う。

製品・サービスの4分類(修正)

 この図自体もまだ作成中で乱暴なのだが、世の中の製品・サービスは、「必需品か否か?」、「製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが大きいか否か?」という2軸でマトリクスを作ると、上図のように分類できると考える。ただ、右上の「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」に該当する製品・サービスは、ほとんど存在しないと考えられる。必需品でないということは、需要予測が難しいことを意味する。また、顧客の生命・事業に影響を与えないようにするためには、高度な事業経営が要求される。このようなハイリスクの領域は、普通はどの企業もやりたがらない。

 左下の「必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限は、食料品や日用品、基本的な家電などが該当する。経済発展の初期段階では、この象限を担う地場のメーカーが次々と現れて、成長を牽引するのが理想である。逆に言えば、先進国のグローバル企業が規模の経済を活かしてこの象限に参入するのは、あまり好ましくない。途上国や新興国では、グローバル企業の攻勢をかわすために、保護主義的な政策が見られる。

 アメリカ企業は、左上の「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限に強い。映画、テレビドラマ、音楽、スポーツ、ファストフード、スマートフォンアプリ、Webサービスなどがそうだ。イノベーションによって新しい製品・サービスを生み出し、それを世界中で展開する。イノベーションは、まだ顕在化していないニーズを先取りする活動である。そのため、「世の中の顧客は何をほしがっているか?」と問うのではなく、自分自身を最初の顧客に見立てて「私は何がほしいか?」、「私は何が好きか?」という問いから出発する。

 アメリカはキリスト教・一神教の国である。「私はこういう製品・サービスがほしい」、「私が考えた製品・サービスを他の人々にも広めたい」という構想を固め、唯一絶対の神にその実現を誓う。これが、キリスト教における”契約”であり、マズローの欲求5段階説で言うところの”自己実現”である。こうして、アメリカでは数多くのイノベーターが神と契約を結ぶ。

 しかし、本当に”真”である契約は、神しか知らない。大多数のイノベーターは、神と契約を”結んだ気分”になっているにすぎない。彼らは時が経つにつれて、神と真の契約を結んだごく一部のイノベーターに駆逐される。成功したイノベーターと失敗したイノベーターの間には、大きな格差が生まれる。加えて、イノベーターのような構想を描くことができない、言い換えれば神に対する信仰が薄い人々は、成功するイノベーターによって道具のように利用される。アメリカにおいて信仰が薄いということは人間ではないことと同義であり、したがって道具扱いされても文句は言えないのである。こうしてアメリカでは、成功者とその他大勢の間に、天と地ほどの差が生じる。

 左上の象限は必需品ではないことから、顧客の好き嫌いに大きく左右される。よって、製品・サービスの当たり外れが大きく、経営が非常に不安定になりやすい。正社員を毎年採用し、組織全体の人数を少しずつ成長させるという常識的な経営は難しい。そこで、この象限の経営者は、リスクを分散させるために、正社員契約ではなく業務委託契約を結ぶ。タレント事務所、レコード会社、映画制作会社、プロスポーツチーム、ITサービス会社(BtoC)と俳優、アーティスト、クリエーター、スポーツ選手、プログラマとの契約はそのようになっている。

 イノベーターは、イノベーションの出発点となった自分自身の「好き」を人々にも押しつけようと、ゴリ押しマーケティングやステルス・マーケティングなど、強引な手法に出る。企業側の思惑通り、そのプロモーションに感化された人たちは、その製品・サービスを熱狂的に受け入れるコアなファンとなる。しかし、プロモーションを生理的に受けつけない人は、その製品・サービスを徹底的に毛嫌いする。彼らには、その製品・サービスに信者が存在することが全く理解できない。

 これは別の視点からすると、成功した製品・サービスを生み出した企業の要因を分析することが難しいことを意味する。また、仮に分析できたとしても、その企業を真似すると、市場から「あの企業は二番煎じだから嫌い」と評価されて失敗する。イノベーターの成功は1回限りのものである。アップルを真似できる企業は存在しない。だから、未来のイノベーションは、過去のイノベーターのやり方を否定しなければならない。つまり、イノベーターにはリーダーシップが必須となる。

 成功したイノベーターであっても、その成功は永続しない。なぜならば、契約には期限が定められているからだ。キリスト教においては、時間は始点から終点まで直線的に把握される。これをギリシア語で「テロス」と呼ぶ。テロスには目的や完成という意味もある。つまり、この世には終わりがあり、その時に神の目的が完成すると考えられている。

 イノベーターは、イノベーションを世界に普及(布教?)させるという目標を達成した後は、衰退の一途をたどる。ただし、アメリカでは衰退=悪ではない。むしろ、衰退の”品”が問われる。多額の内部留保を抱えた成熟企業が自社株買いで株主に報いるのも、サービスがある程度軌道に乗ったところで大企業に会社を売り払うITベンチャーも、若いうちに稼げるだけ稼いで早くセカンドライフに入ろうとする金融マンも、考えていることは皆同じである。


 《2016年4月9日追記》
 ラリー・ダウンズとポール・F・ヌーネスは、「安定した事業を、ほんの数か月、時にはほんの数日で破壊する新たなタイプのイノベーション」を「ビッグバン・イノベーション」と呼んでいる。ビッグバン・イノベーションは、左上の象限に該当するものと考えられる。ビッグバン・イノベーションは、急激な売上増の後に、急激な落ち込みに見舞われるという特徴がある。
 (マイクロソフトの)キネクトは、発売わずか60日で800万台を売り上げる空前の大ヒットとなり、発売から1年ちょっとで2400万台を販売した。

 だが、ビッグバン・イノベーションの破壊的な成功はすなわち、急速な市場飽和と急速な落ち込みを意味する。発売から半年もしないうちに、キネクトの売上ペースは急落。発売から10か月でキネクトはほぼその使命を終えた。
ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ
ラリー・ダウンズ ポール・F・ヌーネス 江口 泰子

ダイヤモンド社 2016-02-13

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 左上の象限は必需品ではないから、もっぱら顧客の経済的ニーズに応えるものである。しかし、世界には未だに、基本的な衣食住もままならず、劣悪な環境で働く人たちが数多く存在する。彼らのニーズは社会的ニーズと呼ばれる。競争戦略の父であるマイケル・ポーターは、経済的ニーズと社会的ニーズを同時に満たすCSV(Creating Shared Value)というコンセプトを主張し、アメリカ企業に戦略の転換を迫っている。ところが、多くのアメリカ企業は、左上の象限で稼いだ額を社会的ニーズの充足のために移転するという方法で、社会的責任を果たすにとどまる。

 アメリカ企業が常にイノベーションを起こし続けなければならないとすると、アメリカという国家自体が非常に不安定になる。そこでアメリカは、イノベーションを取捨選択する仕組みの構築に着手する。具体的には、集合知を活用したプラットフォームを形成する。つまり、神に近づくわけである。グーグルもYoutubeもアマゾンもネットフリックスも、プラットフォーム型のビジネスで成功した。インターネットはプラットフォームを支える究極のインフラである。アメリカはインターネットを世界中に広めることで、世界各地で発生するイノベーションの恩恵にあずかろうとしている。

 (続く)




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