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神永正博『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』―統計が教える不都合な7つの真実

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年05月21日

神永正博『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』―統計が教える不都合な7つの真実


不透明な時代を見抜く「統計思考力」 (日経ビジネス人文庫)不透明な時代を見抜く「統計思考力」 (日経ビジネス人文庫)
神永 正博

日本経済新聞出版社 2013-11-02

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(1)「アメリカでは起業家が盛ん」は本当か?
 一般に、「日本では起業家が少ないが、アメリカでは若者を中心に起業が盛んである。また、ベンチャーキャピタルがリスクの高い投資を引き受けており、それが新しいビジネスを生み出す原動力となっている」と考えられている。しかし、ケース・ウエスタン・リザーブ大学のスコット・シェーン教授の調査によると、以下のような事実が明らかになったという。

 ・若いビジネスオーナーはわずかである。ビジネスオーナーが最も多いのは、45~64歳で、全体の53%を占める。18~34歳のビジネスオーナーは、9%にすぎない。
 ・起業時にVCから資金を調達しているケースは0.03%以下とほとんど無視できる程度であり、多くは自分の貯金を使って起業している。スタートアップ資金の中央値は約2万ドルである。
 ・たいていは、全く革新的ではないビジネスをやっている。他社が提供していない製品・サービスを扱うのは、わずか10%である。37%の企業は、何の競争優位性も持っていないと考えている。

(2)「若者の読書離れ」は本当か?
 「若者の読書離れが進んでいる」と言われる。しかし、もう少し細かく見ていくと、違った事実が見えてくる。小学生、中学生、高校生については、全国学校図書館協議会と毎日新聞が共同で行っている調査がある。1か月間の読書冊数平均の推移を見てみると、小学生(この調査では、読書の習慣がまだついていない小学3年生以下は除外)と中学生は、2000年以降平均値が上昇している。高校生は横ばいに近いが、昔よりも本を読まなくなっているとまでは言えない。

 ただし、平均というのは曲者で、一部の生徒が本をよく読み、全く本を読まない生徒が増えているだけかもしれない。そこで、1か月間本を1冊も読まない小中高校生の数を見てみる。すると、本を全く読まない生徒はむしろ減少傾向にあることが解る。

 大学生については、全国大学生協連合会の消費生活実態調査のデータがある。これを見ると、読書時間の減少は70年代から一貫して続いている。インターネットの普及によって大学生が本を読まなくなったと言われることもあるが、これは適切ではなさそうだ。著者は、読書時間の減少の原因は、大学進学率の急激な上昇にあると分析している。つまり、「よく読んでいる層」以外に、「ほとんど読んでいない層」がどんどん大学に入ってきているためだと考えられる。

 ここで私が1つ疑問に思ったのは、高校生の読書量は変化していないのに、大学生の読書量が二極化しているという点である。これは一体どういうことだろうか?実は、高校生の1か月間の読書量の平均は、約30年間にわたって1冊台で推移している。2012年の調査では、小学生が10.5冊/月、中学生が4.2冊/月であったのとは対照的だ。月に1冊というのは、時間に換算すれば約3~4時間であろう。これは、ほとんど読んでいないに等しい。一方、大学生の平均読書時間は、1日あたり約30分であり、月に換算すれば約15時間となる。

 つまり、小中学校では本をよく読むが、高校生になると本を読まなくなる。その後大学に進学すると、勉強熱心な学生は再び本を読むようになるのに対し、そうでない学生はそのまま本を読まない、というのが実態ではないだろうか?

(3)「勉強が楽しければ成績もよくなる」は本当か?
 勉強が好きなら成績がよくなるのか?それとも、好きなら進んで勉強するのだから、成績も上がるのだろうか?実は、話はそう簡単ではない。TIMSS2011という国際的な学力調査(中学校2年生の数学)の結果を見ると、「数学の勉強を楽しいと思う生徒の割合」と「数学の平均得点」の間には、逆相関の関係が見られる。つまり、数学の勉強を楽しいと思う生徒の割合が増えるほど、数学の平均得点が下がる傾向にある。

 もちろん、相関関係と因果関係は別物であるから、楽しい授業を増やすと数学の得点が下がるとか、ましてや数学が嫌いになるように仕向ければ得点が上がると主張したいわけではない。好きという気持ちは、必ずしも結果に直結しない、という点が重要である。

(4)「小泉改革によって格差が拡大した」は本当か?
 小泉政権の構造改革によって格差が拡大したと言われるが、これもデータをよく見てみると怪しい。格差を直接測定する経済指標はジニ係数である。確かに、ジニ係数は小泉政権時代に増加しているが、その90%は平均世帯人数の減少と高齢化で説明がつく。また、OECDの調査では、逆にジニ係数は小さくなっており、ジニ係数の変化は格差拡大の証拠としてはやや弱い。

 ジニ係数以外に、完全失業率、平均給与、1人あたり実質GDP、非正規雇用者数、ワーキングプアの数、生活保護世帯数、ホームレスの数、ネットカフェ難民(≒住居喪失不安定就労者)の数を見ても、必ずしも小泉政権時代に悪化しているというわけではない。これらの指標の悪化が始まったのは、おおむね97~98年である。時の首相は橋本龍太郎であった。橋本内閣は、タイを震源地とするアジア通貨危機に直面していたにもかかわらず、消費税増と緊縮財政を行った。経済の不安定化がこれらの指標の悪化につながった、というのが著者の見立てである。

(5)「バイオ燃料によって二酸化炭素が減少する」は本当か?
 地球温暖化対策の切り札として、トウモロコシなどからエタノールを取り出して燃料にするという「バイオ燃料」がある。ティモシー・サーチンガーは、ガソリンとバイオエタノールの利用によって放出される地球温暖化ガスの量を比較した。具体的には、(a)原料の生産プロセス、(b)原料を燃料に変えるプロセス、(c)燃料を燃やすプロセス、(d)大気中の二酸化炭素の吸収過程という4つのプロセスにおいて放出される温室効果ガスの量を測定した。すると、バイオエタノールの場合は(d)の値がマイナスになるため、その分トータルの温室効果ガスの量がガソリンより少なくなる、という結果になった。

 しかし、サーチンガーはここで重要な点を指摘した。バイオエタノールが高く売れることが解れば、農家は森林地帯をトウモロコシ畑に変えようとする。土地や森林は、長い期間をかけて大気中の炭素を取り込んでいる。もし土地や森林をトウモロコシ畑に転用したら、取り込んでいた炭素が大気中にばらまかれてしまう。この点を考慮してサーチンガーが再び試算したところ、ガソリンよりバイオエタノールの方が温室効果ガスの量が大きい、という結果になってしまったのである。

(6)「株価は正規分布に従う」は本当か?
 ロバート・マートン、マイロン・ショールズ、フィッシャー・ブラックの3人は、オプション(デリバティブの1つ)の価格を決める公式「ブラック・ショールズ評価式」を開発した。マートンとショールの2人は、1997年にノーベル経済学賞を受賞している(ブラックは死去していたため、受賞できなかった)。私は金融工学に疎いので詳しいことは全く理解できていないのだが、フィッシャー・ブラック評価式が立脚しているのは、「株価の動きは、『正規分布』を使って書ける」という仮定である。

 ところが、株価は正規分布ではなく、「べき分布」に従うと考えた方が実態に即している。この違いは実に大きい。べき分布では極端な例外値が登場する。これを正規分布でとらえるということは、株で大儲けする可能性を低く見積もると同時に、株で大損する可能性も過小評価することにつながる。マートンとショールズが在籍していたLTCM(Long Term Capital Management)という投資会社は、何万年に1回という大変動で、その資産のほとんどを失った。その大変動とは、1997年のアジア通貨危機である。

(7)「株価には何らかの周期性がある」は本当か?
 (6)の株価の話の続きだが、株で儲けようとする人は、過去の株価の動きから何らかの周期性を導き出し、売買の適切なタイミングを導き出そうとする。26週移動平均線や52週移動平均線などは、その代表例であろう。移動平均線を見ていると、株価には一定の波があるように見える。

 だが、こうした周期性はフェイクの可能性がある。例えば、乱数を200個作成する。そして、5項移動平均(連続する5個の平均をとったもの)を計算して線でつなぐと、周期性があるかのようなグラフができる。元になったデータは乱数であるから、周期性などあるはずがない。このような周期性は「見せかけの循環」と呼ばれ、専門用語では「ユール・スルツキー効果」と言われている。




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