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「経営革新計画」、「特定研究開発等計画」の概要、申請方法、メリット、承認・認定件数
飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(後半)
飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(前半)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年05月23日

「経営革新計画」、「特定研究開発等計画」の概要、申請方法、メリット、承認・認定件数


 平成26年度の補正予算で実施されている「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス革新補助金)」の1次公募が5月8日(金)に締め切られた。私のところにもいくつか質問が寄せられたのだが、その中で考えさせられる(?)質問が1件あった。

 ものづくり補助金には、主に「革新的サービス」と「ものづくり技術」の2タイプがある。その申請書様式(※リンクは東京都のもの)の「3.対象類型」を見ると、「革新的サービス」には「申請時に有効な経営革新計画の承認を受けている」というチェックボックスが、「ものづくり技術」には「『中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律』の法認定を受けている」というチェックボックスがある。「『中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律』の法認定を受けている」とは、「特定研究開発等計画(特定ものづくり基盤技術に関する研究開発およびその成果の利用に関する計画)が、経済産業局長から認定されていることを指す。

 ものづくり補助金の公募要領を読むと、ここにチェックが入っている、すなわち「経営革新計画」の承認または「特定研究開発等計画」の認定を受けていると、審査の際に加点対象になるとある。だが、経営革新計画の承認件数に比べて、特定研究開発等計画の認定件数は少ないはずだ。よって、相対的に承認されやすい経営革新計画を持つ企業の方が審査で有利なのではないか?というわけである。私も気になったので、両計画の承認・認定件数を調べてみた。

経営革新計画(2014年3月末時点)
 北海道経済産業局 959
 東北経済産業局 2,266
 関東経済産業局 22,110
 中部経済産業局 6,727
 近畿経済産業局 7,852
 中国経済産業局 6,439
 四国経済産業局 1,340
 九州経済産業局 7,512
 沖縄経済産業部 298
 ――――――――――――
 合計 55,503

○特定研究開発等計画
(※経営革新計画のように全国のデータが集計されていない。そのため、各地域の経済産業局のHPを見て、過去のニュースから情報を探さなければならず、ちょっと大変だった・・・)
 北海道経済産業局 156(2014年7月18日時点)
 東北経済産業局 313(2014年7月18日時点)
 関東経済産業局 1,933(2014年10月20日時点)
 中部経済産業局 680(2014年7月28日時点)
 近畿経済産業局 989(2014年7月8日時点)
 中国経済産業局 210(2014年7月10日時点)
 四国経済産業局 103(2014年7月14日時点)
 九州経済産業局 206(2014年8月1日時点)
 沖縄経済産業部 28(2014年7月14日時点)
 ―――――――――――――――――――――
 合計 4,618

 質問者の指摘通り、特定研究開発等計画は、経営革新計画の10分の1足らずしか認定されていない。この結果からは、相反する2つの見方ができると思う。1つ目は、加点を大きくして結果的に革新的サービスの方がものづくり技術よりも優遇されることになると、公平性という面で問題が出るため、実は加点はそれほど大きくないのではないか?という見方である。

 とはいえ、今回のものづくり補助金では、国(中小企業庁)がサービス業重視の姿勢を明確に打ち出している。公募開始直前には「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」が公表され、公募要領ではものづくり技術よりも先に革新的サービスの説明が出てくるぐらいだ。よって、経営革新計画の承認を受けているサービス業を優先的に採択する可能性も否定できない。これがもう1つの見方である。どちらの見方が当たっているかは、具体的な得点配分が私には解らないので何とも言えない。

 以下、経営革新計画と特定研究開発等計画の概要・申請方法・メリットに関するメモ書き。

【経営革新計画】
○概要
 「中小企業新事業活動促進法」に基づき、中小企業が取り組む「新たな事業活動」について、「実現性がある数値目標」を具体的に定めた中期的な経営計画書を「経営革新計画」として承認する。計画が承認されると様々な支援策の対象となる他、計画策定を通して現状の課題や目標が明確になるなどの効果が期待できる。

○要件
 (1)新たな事業活動
 これまで行ってきた既存事業とは異なる新たな取組(新事業活動)を行う計画であること。新事業活動とは、以下の4つの分類に該当するものをいう。
 ①新商品の開発または生産
 ②新役務の開発または提供
 ③商品の新たな生産または販売の方式の導入
 ④役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動

 (2)実現性がある数値目標
 3~5年の計画で、経営指標の数値目標を達成できる計画であること。また、その数値目標を達成可能な実現性の高い内容であること。
 条件①:付加価値額または1人あたりの付加価値額の伸び率=年率3%
 条件②:経常利益の伸び率=年率1%
 ◆付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
 ◆1人あたりの付加価値額=付加価値額÷従業員数
 ◆経常利益=営業利益-営業外費用(支払利息、新株発行費など)
 ※年率3%ないし1%とは、計画期間中の平均である。3年計画の場合、3年後に付加価値額または1人あたりの付加価値額が現在と比べて9%増加、経常利益が現在と比べて3%増加していればよい。1年目は追加投資によって付加価値額などが減ることも考えられるが、長期的にその落ち込みをカバーする増加を実現できればよい。

○申請方法
 各都道府県の指定書式(※リンクは東京都のもの)に計画を記入し、その他必要書類を揃えて、原則として本社がある都道府県を所轄する経済産業局に提出する(その他のケースについてはこちらを参照)。提出から受理までには何度か修正が発生するのが普通である。最終的に承認されるまでには、1~2か月ほどかかる。

○メリット
 経営革新計画の承認を受けると、計画期間中、以下の支援措置を活用できる。なお、支援措置を受けるためには、承認を受けた後に、それぞれの支援機関などにおける審査が必要となる(経営革新計画の承認は、支援措置の適用を保証するものではない)。
 1.政府系金融機関による低利融資制度
 2.中小企業信用保険法の特例
 3.中小企業投資育成株式会社の特例
 4.起業支援ファンド(旧称:ベンチャーファンド)
 5.高度化融資制度
 6.小規模企業者等設備導入資金助成法の特例措置
 7.特許関係料金減免制度
 8.販路開拓コーディネーター事業
 9.株式会社日本政策金融公庫法の特例
 10.貿易保険法の特例

【特定研究開発等計画】
○概要
 中小企業のものづくり基盤技術の高度化を支援することにより、我が国製造業の国際競争力の強化および新たな事業の創出を図ることを目的とした「中小ものづくり高度化法」が2006年4月19日に施行された。

 中小企業は、単独または共同で、特定ものづくり基盤技術に関する研究開発およびその成果の利用に関する計画(特定研究開発等計画)を作成し、経済産業局長の認定を受けることにより、戦略的基盤技術高度化支援事業、日本政策金融公庫による低利融資、中小企業信用保険法の特例、特許料等の特例等の支援措置を受けることが可能となる。

○要件
 研究対象となる技術が、特定ものづくり基盤技術に該当し、川下産業のニーズ充足、競争力強化に資するものであること。
 ◆特定ものづくり基盤技術・・・デザイン開発、情報処理、精密加工、製造環境、接合・実装、立体造形、表面処理、機械制御、複合・新機能材料、材料製造プロセス、バイオ、測定計測。

○申請方法
 指定書式(※全国共通)に計画を記入し、その他必要書類を揃えて、研究開発を行う拠点となる施設がある都道府県を所轄する経済産業局に提出する。中小企業庁のHPには、認定審査は概ね3か月に1回行うと書かれているが、実際にこの頻度で審査を行っているのは関東経済産業局だけであり、他の経済産業局は概ね1年に1回となっている。

○メリット
 特定研究開発等計画の認定を受けると、計画期間中、以下の支援措置を活用できる。なお、支援措置を受けるためには、認定を受けた後に、それぞれの支援機関などにおける審査が必要となる(特定研究開発等計画の認定は、支援措置の適用を保証するものではない)。
 1.日本政策金融公庫の低利融資
 2.中小企業投資育成株式会社法の特例措置
 3.中小企業信用保険法の特例措置
 4.特許料などの減免
 5.戦略的基盤技術高度化支援事業
  ◆補助事業期間:2年度または3年度
  ◆補助金額:当該年度に行う研究開発などに要する補助金額の合計が4,500万円以下。
   (1)大学・公設試験機関(補助率:定額、補助金額の合計のうち1,500万円を上限)
   (2)中小企業・小規模事業者(補助率:2/3以内)
   2年度目以降は、原則として次の通り交付申請できる。
   2年度目:初年度の補助金交付決定額の2/3以内(定額:1,000万円以内)
   3年度目:初年度の補助金交付決定額の半額以内(定額:750万円以内)
 ※経営革新計画の場合は融資の優遇措置が中心であるのに対し、特定研究開発等計画は「戦略的基盤技術高度化支援事業」という補助金に応募できるようになる点が最大の違いである。補助金の額は、中小企業向けとしては非常に高額である。

2014年06月03日

飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(後半)


目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法
飯田 順

税務経理協会 2009-10

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 (前回からの続き)

(3)戦略の方向性が「高品質化」、「低コスト」に偏りすぎ
 仮に戦略が立てられていたとしても、この2つに偏っていることが非常に多いという印象を受ける。私は、高品質化と低コスト(低価格)は「ジリ貧の戦略」だと思っている。どんな製品であっても、無限に品質を高めることはできないし、無限にコストを下げることはできない。

 物理的に限界があるというのももちろんだが、無限に品質を高めると過剰品質になり顧客がついてこられなくなる。また、無限にコストを下げると、競合他社も値下げで対抗し、利益の出ない不毛な争いに突入してしまう。高品質化と低コストは、一見すると戦略を立てたようであって、実は中小企業診断士が戦略を十分に練ることができなかった時の逃げの口実なのだ。

 本当の戦略とは、顧客にとっての価値を明確にすることであり、顧客価値を実現するための機能を取捨選択することである。別の言い方をすれば、顧客のニーズでまだ満たされてないホワイトスペースを発見し、そのスペースを埋める新機能を開発することである。このような戦略から生み出される製品・サービスは、競合他社のものと単純に機能を比較することができない。そもそも、競合他社の製品・サービスの機能から”ずれた”機能で勝負しているのである。そういう差別化要因をひねり出すことに、中小企業診断士の価値があるのではないだろうか?

(4)戦略を実現するための施策の数が多すぎる
 戦略を画餅に終わらせないためには、具体的な施策=戦術に落とし込む必要がある。経営革新計画でも、施策を列記し、実施時期、評価指標と評価方法、評価の頻度などを一覧にすることが求められる。ただ、本書でもそうだったが、施策の数が多すぎるような気がする。いくら3~5年計画とはいえ、10も20も施策を並べるのは非現実的ではないだろうか?リソースが限られている中小企業には荷が重すぎるはずだ。

 以前の記事「中小企業診断士が断ち切るべき5つの因習」でも書いたが、中小企業診断士は施策だの提言だのをやたらとたくさん並べ立てるきらいがある。その結果、レポートが膨大な枚数になることもしばしばだ。たくさん提案をすれば、仕事をした気になるのかもしれない。

 しかし、10の提案をして1つも実施されないのであれば、10の提案は無価値である。それよりも、提案は3つだけだが、3つとも実施される方がよっぽど価値が高い。私の知り合いに、中小企業診断士ではあるが診断士活動からは距離を置いているコンサルタントがいるのだが、彼は「クライアントに提案する施策は2、3個に絞っている」と言っていた。私も彼の意見に賛成である。

(5)「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」は革新的か?
 これは中小企業診断士が責められる問題ではなく、中小企業庁の問題なのだが、経営革新計画の数字面での要件が緩すぎるのではないか?ということである。下表は財務省の「法人企業統計」に基づいて、過去10年間の1社あたり付加価値額、経常利益の増加率をまとめたものだ。

 もちろん、この表の数字は大企業によって上振れしている可能性があるし、株主の期待に応えるため経常利益をできるだけ稼ごうとする上場企業と、節税のために経常利益を低く抑えたがる中小企業を一緒くたに論じるのは乱暴かもしれない。ただ、平均的な企業であっても、「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」を達成するのはそれほど困難ではないように見えるのである(特に、2003年~2006年はそう感じる)。

1社あたり付加価値・経常利益(法人企業統計)
(※クリックで拡大表示)

 「経営革新」というからには、もっと高い目標を課すべきではないだろうか?優遇措置によって一時的に金融機関の利率が下がったり、政府の税収が減ったりするが、それ以上に認定企業の事業が中長期的に拡大することで、新たな資金需要が生まれ、多くの税収が見込めるようになる、というのがこの制度の狙いのはずである。「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」という数字は何を根拠に設定されたのか?優遇措置による企業への”先行投資”を回収できる目標値になっているのか?かなり疑問が残るところである。

2014年06月02日

飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(前半)


目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法
飯田 順

税務経理協会 2009-10

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 「経営革新計画」とは、中小企業が「中小企業新事業活動促進法」に基づいて、新製品の開発や生産、新サービスの開発や提供などの新たな取り組みを行い、経営基盤を強化するための計画である。経営革新計画の提出先はその企業が事業を営んでいる都道府県であり、都道府県から承認を受けると様々な優遇措置を受けることができる。例えば、政府系金融機関による低利融資制度、信用保証の特例、高度化融資制度、小規模企業設備資金貸付制度の特例、設備投資減税などがある。

 恥ずかしながら、私は事業戦略を策定する通常のコンサルティングはいくつも経験したが、経営革新計画の作成支援を行ったことがない。私みたいな中小企業診断士があまりに多いので、中小企業庁が中小企業診断士に見切りをつけてしまい、中小企業をサポートする専門機関として「認定支援機関」という制度を作ってしまった(以前の記事「認定支援機関制度で岐路に立たされる中小企業診断士」を参照)。

 しかし、認定支援機関の大多数は税理士だ。これは、1万人以上の税理士を束ねるTKCグループが、税理士に対して認定支援機関になるようハッパをかけたためである。税理士は会計処理はできるものの、経営支援ができる税理士はほとんどいないと言われている。こういう”名ばかり認定支援機関”に負けてはいけないと思い、私も経営革新計画について学習することにした。

 ただ、経営革新計画の策定プロセスは、以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(3)~一般的な戦略策定プロセスに沿って整理」で述べた戦略策定プロセスとそれほど大きな違いはないことが解った。最後の投資対効果のシミュレーションの部分だけ、私のコンサルティング経験ではROIの試算で終わることが多かったのだが、経営革新計画の場合は、毎年の資金需要と資金調達計画、さらに返済計画まで細かく立案しなければならないという違いがある(本当は私の経験したコンサルティングでも、そこまでやるべきだったのかもしれない)。この点は勉強になった。

 本書の著者は中小企業診断士である。本書でもそうだが、中小企業診断士が策定する戦略や経営革新計画は、私からすると「?」となることがある。そこで、私がよく突っ込みを入れたくなるポイントを5つほど整理してみた。もちろん、私の考え方が全て正しいとは思わないが、こういう突っ込みどころをなくしていかないと、中小企業診断士も税理士と同様に信頼を失ってしまうのではないか?と心配になる。

(1)ターゲット市場に関する定量分析がない
 飲食店や商店街の戦略を立てる時はさすがに商圏分析を行うけれども、中小製造業などによく見られるBtoBビジネスになった途端に、市場分析がなおざりになる傾向がある。もちろん、「元請企業からこういう要求を受けている」という定性的な情報はあり、それはそれで重要である。しかし、それ以上に重要なのは、同じようなニーズを持っている潜在的な顧客企業がどのくらいいるのか?という定量的な情報である。

 経営革新計画では、「付加価値額または従業員1人あたりの付加価値額が、年率平均3%以上伸びていること」、「経常利益が年率平均1%以上伸びていること」という2つの条件を満たす必要がある。そして、この条件を満たす3~5年スパンの収支計画書を作成しなければならない。当然のことながら売上高の目標を設定するわけだが、そのためにはターゲット市場の規模がどのくらいで、競合他社が何社ぐらいひしめいており、自社はその市場でどの程度のシェアを目指すのか?という定量的な分析をしなければ、目標設定などできないはずだ。

 BtoBビジネスはBtoCビジネスと違って統計情報が十分ではなく、市場規模を調べようと思ってもすぐにはたどり着けない。だが、普通の人がすぐにはたどり着けないからこそ、中小企業診断士=コンサルタントの出番なのである。手に入る限られた情報に様々な仮説を組み合わせながら、何とか推計値を導き出す力が要求される。これは、一時期「地頭力」と呼ばれていたものだ。

(2)何でもかんでもSWOT分析で戦略を導こうとする
 多分、私が一番辟易しているのはこの点かもしれない。中小企業診断士の試験に合格した後に実施される「実務補習」では、標準的な企業診断プロセスが定義されており、その中には戦略を立案するためのツールとしてSWOT分析が入り込んでいる。その影響もあってか、中小企業診断士はとにかくSWOT分析で戦略を導こうとする。

 経営学者のヘンリー・ミンツバーグは、過去の戦略論を体系化した大著『戦略サファリ』の中で、SWOT分析を「デザイン・スクール」(スクール=学派)に位置づけており、また私もいろんなSWOT分析を見てきたが、はっきり言ってSWOT分析は戦略策定のフレームワークでは「ない」。本書で例示されているSWOT分析からは「生産体制の整備」、「販売部門の強化」、「競合他社との提携」といった”戦略”が導かれているものの、これらは戦略ではなく”戦術”である。

 戦略とは、自社が市場でどう戦うのか?というポジショニングである。言い換えれば、誰(=Who)に対して、何(=What)を、どのように競合他社と差別化を図りながら(=How)提供するのか?という基本構想である。その基本構想を実現するために必要な戦術が「生産体制の整備」なのかもしれないし、「販売部門の強化」なのかもしれない。

 SWOT分析では、強みと弱み、機会と脅威の境界線が曖昧になりやすいと言われる。つまり、同じ要因が見方によって強み(機会)にも弱み(脅威)にもなるというわけだ。その原因は、評価基準がきちんと定まっていないことにある。逆に言えば、この評価基準を明確にするものこそ戦略である。戦略が明白であれば、その戦略に照らし合わせて何が強み・弱みで、何が機会・脅威なのかを峻別しやすくなる。例えば、特定の市場をターゲットと定めた場合に、どのような機会が存在し、逆に何が脅威となるのか?また、ある差別化要因を実現するにあたって、自社の経営資源の何が強みとなり、何が弱みとなるのか?といった具合である。

 戦略を基軸としたSWOT分析から導かれるのは、戦略を実現するための手段、すなわち戦術である。よって、SWOT分析は戦略ではなく戦術を導出するためのツールだと私は考える。

 (続く)




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