このカテゴリの記事
DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他
『続ける力(DHBR2017年2月号)』―経営者がやるべき100のリスト(ベンチャー企業の失敗を教訓に)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Top > 習慣 アーカイブ
2018年02月28日

DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 3 月号 [雑誌] (顧客の習慣のつくり方)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 3 月号 [雑誌] (顧客の習慣のつくり方)

ダイヤモンド社 2018-02-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)顧客が自社の製品・サービスを(できれば無意識のうちに)継続的に購入するように「習慣づけ」するためには、「累積優位性」を築くことが重要だと言う。その時のポイントは、「顧客の選択の手間を省いてやる」ことである。脳は、処理を迫られると何度も同じことをしたがるという傾向がある。これを「処理流暢性」と言う。また、最近はどの店舗にも様々な製品・サービスが並んでいるが、あまりに多くの選択肢を見せられると、顧客はかえっていつも慣れ親しんだ製品・サービスを選ぶようになる。これを「認知的負荷」の忌避と呼ぶ。

 P&Gの元CEOであるアラン・G・ラフリーと、元トロント大学ロットマン・スクール・オブ・ビジネス学長の論文「累積的優位を築く4つのルール 顧客の「選択」を「習慣」に変える」によれば、累積的優位性を築くための4つのルールとは、①早く人気を獲得する、②習慣づけを「仕組む」、③ブランド内でイノベーションを起こす、④コミュニケーションをなるべくシンプルにしておく、である。私は最近、商店街の支援をする機会が増えたので、近隣住民が商店街を利用することを習慣とするためにはどうすればよいかと考えることがある。その際、この4つのルールは残念ながら役に立たない。というのも、1つ目のルールで商店街は早くもつまずいてしまうからである。
 マーケティング担当者は、早期に勝つことの重要性を昔から理解していた。タイドは急成長を続けていた自動洗濯機市場に狙いを定めて発売され、P&Gで最も賞賛され、成功し、利益を生むブランドの1つとなっている。P&Gは1964年にタイドを発売すると、すぐにこの分野では最も大きな広告宣伝費をかけた。さらに、当時米国で販売されていたすべての自動洗濯機には常に1箱のタイドを無償提供し、顧客の習慣付けも図ったのである。タイドはすぐにこの「最初の人気コンテスト」に勝利し、その後、後ろを振り返らなかった。
 商店街は、近隣の大型スーパー、コンビニ、チェーン店、ドラッグストア、カテゴリーキラーなどの競合他社に人気コンテストで負けている。商店街関係者は認めたくないだろうが、商店街は敗北からスタートしなければならない。これらの競合他社に向かっている顧客の足を商店街に向かわせるためにはどうすればよいか?言い換えれば、既に染みついてしまった習慣を変化させるためにはどうすればよいか?そのヒントが、渡邊克巳「なぜ同じ商品やサービスが選ばれ続けるのか 顧客の習慣を科学する」という論文にあるような気がした。
 筆者は、習慣的な購買行動を取るもう1つの要因として、自己同一性、いわゆるアイデンティティの維持があると考えている。選択を簡単にすること以上に、この動機が習慣化をより強固にするのではないだろうか。

 これも仮説ではあるが、自己同一性の維持は、社会の中で個人が活動する際に非常に重要な意味を持っている。言動に一貫性があることは、(本当にそうであるかどうかは別にして)「私はあなたに簡単には操作されませんよ」という牽制になるからだ。また人間が社会的動物である以上、他者から信用を得なければ生きていけない。言動の一貫性は、自分が信頼できる人間であることの証明でもある。さらに自己同一性の維持は、他者からの信頼を得るだけでなく、自分自身の快にもつながる。自分は意志に基づいて行動していると思うほうが満足を得やすい。自分の一貫した言動を周囲に見せることで、他者の評価を高め、みずからの満足感にも貢献するという、社会的な機能が存在すると考えている。
 私は首都圏の人間なので、地方で高齢化が急速に進んでいる商店街ではなく、商圏に子育て世代が増加している商店街を前提に話を進めることをご容赦いただきたい。子育て世代、特に小さい子どもを持つ両親の自己同一性とは、「できるだけ節約をしたい」というものもさることながら、「子どもには特別な思いをさせてあげたい」というものではないかと考える。

 平日には子どもを連れて八百屋に行き、店主から「今日の晩御飯は何にするんだい?」と聞かれて、すかさず「ハンバーグ」と答える子どもを制し、「ハンバーグは今度のテストでいい点を取ったらね。今日はピーマンとニンジンを食べてもらうよ」と母親が答え、店主に「ははは、坊やテスト頑張るんだよ」と励ましてもらう。ある時は、子どもに胸肉200g、ひき肉300g、アジの開き4尾といったちょっと難しいお使いをさせ、肉屋と魚屋の店主に手助けしてもらいながら何とか目的のものを購入させる。休日には近所の理髪店に連れて行き、店主と学校の出来事を話す練習をさせる。洋服店では、店主から「あらー、会うたびに大きくなるね」と驚かれながら、洋服をコーディネートしてもらう。そして、夜になるとたまには家族で外食をし、店主に「今日のおすすめはこれだよ、○○君好きでしょ?」などと促されるままに、この日ばかりは大好物を食べさせてもらう。

 多感な時期には、こういう1つ1つのちょっとした特別な出来事が人格形成にプラスの影響を与えるのではないかと思う。そして、大人になってふと子どもの頃を振り返った時に、あの八百屋で、あの肉屋で、あの魚屋で、あの理髪店で、あの洋服店で、あのレストランであんなことがあったなと思い出をかみしめる。これが故郷というものである。

 私の場合、子どもの頃には近所の商店街が既にシャッター商店街化していたため思い出がほとんどないのだが、大学時代を過ごした京都のことはよく覚えている。いつまで友達としゃべっていても怒られなかったオランジュ、から揚げ定食のコストパフォーマンスが異常に高いハイライト、ご飯とルーの比率が明らかにおかしいというくらいにご飯が多かった久留味、まずいが安くて量が多く、昼に食べると午後の授業に間に合わなくなる鷭、鶏白湯ラーメンで有名だった天天有、焼きたてでふわふわのパンがおいしい進々堂、大して旨くはないがなぜか飲み会の後の締めに食べたくなる長浜ラーメンなど、ちょっと個性的なお店のことはよく覚えている。それが多感だった大学時代の思い出に彩りを与えている。だから、京都は私にとって心の故郷である。貧乏だからと言って毎日吉野家などを使っていたら、思い出が貧弱になっていたかもしれない。

 話を元に戻そう。仮に子育て世代が毎日イトーヨーカドーやローソンで買い物をし、週末にはQBハウスで子どもの散髪をし、しまむらで洋服を購入し、ガストで食事をしていたら、子どもの思い出が画一的になり、人格に深みが出ないだろう。もちろん、私はイトーヨーカドーなどの企業を全面否定するわけではない。就職したての20代前半から30代にかけてのお金がない独身時代には、効率・低コスト一辺倒でこういう大手企業を利用するのもよいだろう。だが、結婚して子どもを持ったら、自己同一性にも自ずと変化が現れるのではないだろうか?
 これを購買行動に当てはめると、積極的に「使える言いわけ」を与えることは、習慣を崩すうえで効果的な可能性がある。特に、法律や規制の改正、卒業・就職・転職などのように、外的要因に変化が生じる機会は新たな習慣に誘導するチャンスだと考えている。
 子どもが生まれることも、重要な外的要因の変化である。商店街はこのチャンスを利用しないわけにはいかない。まずは、商圏にどんな子どもがいるのかを観察して子どもたちの顔を覚える、子どもに積極的に挨拶をする、子どもにサービスをする(私の知っているある八百屋では、卸売業者がリンゴの箱につけているシールを子どもに配り続けたら、子どもが親の手を引っ張って「このお店で買い物してほしい」と言うようになったという)、こういったことを通じて、子どもが利用しやすいお店であることを親に訴求することから始めるのが効果的ではないかと考える。

 (2)ハイディ・K・ガードナー「がん研究所はどのように文化を変えたのか 卓越したプロフェッショナルをコラボレーションに巻き込め」という論文は、がん研究所という非常に専門性の高い組織内でいかにしてコラボレーションを実現したかについて述べられた論文である。私は中小企業診断士なので、連携というと企業間連携や産学連携を思い浮かべる。資本提携や業務提携のように、強固なコラボレーションが予定されているものよりも、もう少し緩やかな連携である。資本提携や業務提携であれば、双方の共通目的・目標を設定し、価値観や行動規範を共有し、業務プロセスや組織の様々な仕組みを高度に統合するといったことが成功のカギとなる(この辺りについては、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年12月号に詳しい)。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)

ダイヤモンド社 2016-11-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 一方で、業務提携まで至らない企業間連携では(中小企業の場合はこのケースが圧倒的に多いだろう)、それぞれの企業がもう少し”欲をかいても”よいのではないかと考える。もちろん、連携によって達成すべき目標をバランス・スコア・カード(BSC)などで設定するものの、連携から得られるメリットを本業にも活かし、本業の業績も同時に向上させるというシナリオを描く。下図はその一例である。A社がPという技術を、B社がQという開発環境を保有しており、技術Pと開発環境Qを組み合わせて新製品を共同開発するケースである。共同開発という目標と同時に、A社はP技術を活用して既存のX技術を改良し、顧客満足度の向上を狙っている。同様に、B社はQ開発環境の改善を通じて既存製品のカスタマイズ能力を高め、売上増を狙っている。

中小企業の連携におけるBSC(①企業間連携)

 産学連携の場合は、もっと欲をかいてよい。日本産学フォーラム『協働による知の創造―米国での産学共同プロジェクト実施ガイドライン』(2002年11月)によると、企業と大学では目指すべき目標が全く異なることに注意しなければならないとされている。
 大学とその企業パートナーは常に研究協働はそれ自身目的ではないということを心に留めておくべきである。それは、学界、産業界の科学者が自らの研究を発展させることができる手段であり、企業が迅速に新製品を市場に送り出すことができる手段である。
 ライトン氏が言うには、最優先事項は、参加する双方の人々が「自分たちのゴールが何なのかはっきり述べる」ことである。企業と大学のゴールは互いに異なり、それぞれがそのゴールを達成するという意味で協働から確実で明確に利益を得ることができなければならない。
 企業の最終目標は新製品・サービスを迅速に市場に投入することである。これに対して大学の最終目標は学術的に貢献をすることであり、具体的には論文や書籍を出版することである。この違いを念頭に置いてBSCを作成しなければならない。図にすれば下図のようになる。プロセス目標は産学で共有するものの、最終目標は両者で異なっている。そして、繰り返しになるが、企業も大学も、産学連携から成果を獲得することは当然として、その過程で得られる様々な成果を双方の本業にも活かすことが重要である(図中の太矢印)。

中小企業の連携におけるBSC(②産学連携)
 「協働が機能するには、それぞれのパートナーがその努力から恩恵を蒙らなければならない。この点については参加者全員が独善的であって良い」とアレン氏とジャーマン氏は書いている。それが製品開発、または研究、教育、サービスのどれであろうと、「協働プログラムは、協働しない場合には、中核事業のひとつとして各機関が独自に行うような、開発対象でなければならない」。
 面白いことに、産学連携では、仮に産学連携が行われなかったとしても、企業や大学が単独で実施することができたであろう独立性の高い事業を連携して行う時に望ましい効果が得られると述べられている。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト」で、私が前職で経験した恥ずかしい失敗談を書いたが、この時は自社としてやりたいことが明確でなかった。経営陣は、自社のブランドイメージに学術的な”箔”がつけばよいという程度の考えしかなかった。だから、産学連携の最初の目的は、企業研修に関する洋書を大学の教授と共同で翻訳するというものであった。そこに、脂の乗った大学教授が入り込んできて、自分の研究テーマはこういうものだから、それに関係することをやりたいという話になり、いつの間にかその教授の研究の下請け機関のようになってしまった。

2017年02月08日

『続ける力(DHBR2017年2月号)』―経営者がやるべき100のリスト(ベンチャー企業の失敗を教訓に)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 02 月号 [雑誌] (続ける力)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 02 月号 [雑誌] (続ける力)

ダイヤモンド社 2017-01-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 以前の記事「『青雲の志(『致知』2017年1月号)』―人間は利己的であるべきか、利他的であるべきか?、他」、「【現代アメリカ企業戦略論(補論)】日本とアメリカの企業戦略比較」で書いたことの繰り返しになるが、アメリカ人は将来的に実現したい大きな目的を明確に設定し、その目的と因果関係の強い少数のCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を特定して、CSFの達成度合いやKPIの数値の推移をモニタリングする。一方の日本人は、大胆で明快な目的を立てるということをそもそもしない。ただし、目標管理はしっかりとやる方で、アメリカ人よりもはるかにたくさんの目標を設定する。その1つ1つは小さいものだが、目標が束になると将来的に望ましい状態に至ると信じている。

 『致知』や『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』などで日本企業の様々な経営者のインタビュー記事を読んで感じるのは、高業績企業の経営者は「当たり前のことを1つ1つ当たり前にやる」ということを愚直に実践しているということである。本号にも、創業500年を誇る老舗の和菓子屋である虎屋の代表取締役・黒川光博氏の次の言葉がある。
 変えてほしくないのは、働いている社員の「芯」にあるものです。(中略)全力を尽くして、誠実に事に当たってほしい。そういう人が集まる会社でありたい。
(黒川光博「【インタビュー】誠実さがあってこそ事業は続く 伝統より「いま」と向き合う」)
 私は、ここ10年ほど「革新」という言葉をみずからは使っていません。「革新」と言えるほど思い切ったことは、はたしてどれくらいあるかと考えると、そうたくさんはないと思ったからです。そんな大層なことの前に、いまのお客様のために何をするのかを考え、即座に実行していく。それは必然であって革新ではないと思うからです。(同上)
 言い換えれば、目標を細分化して達成しやすくし、それらの積み重ねていけば自ずとよい成果が自らの方に引き寄せられる。目標と成果の因果関係はアメリカほど明確ではない(むしろ非常に曖昧である)が、日本の場合はそれでもよしとされる。この「目標の細分化」は、本号の特集テーマである「続ける力」=習慣化にとって非常に重要である。
 「社内で営業成績が一番になる」という報酬は大きすぎる例である。そこで、もう一度勝利条件を変更し、「大きな報酬」を「小さな報酬」に変換することが大切となる。

 たとえば「毎日、顧客の訪問件数を1件増やす」という小さな報酬で十分である。その場合、「訪問件数を1件増やすにはどうすればいいのか」という「小さな問い」が生まれやすい。「小さな問い」ができれば、好奇心に導かれて「行動」に至り、想定していた結果が得られること―求めていた「報酬」につながれば、また次の「小さな問い」が生まれる。このきっかけ→行動→報酬→きっかけというループが回ることで、継続と成長の習慣が生まれる。
(石川善樹「アスリートに学ぶ「勝利の習慣」 継続とは「小さな問い」を立てること」)
 もちろん、たくさんの小さな目標を設定することには、リスクもある。一番解りやすいのは、目標が多すぎるがゆえに、一部の目標が達成できないというリスクである。これに対して石川氏は、必ずしも完璧主義者になる必要はないとアドバイスする。「雨が降ったら運動しなくてよい」、「飲み会が入ったら勉強しなくてよい」といったように、ルールを見直すことが重要であるという。それから、目標を設定したという事実に満足してしまい、その後のアクションに結びつかないという問題もある。心理学ではこれを「偽りの希望症候群」と呼ぶそうだ。例えば、「英語を話せるようになりたい」という目標を持つと、脳がそれだけで気持ちよくなって、満足感を覚えてしまう。そういう場合には、続ける理由を発見することがポイントとなる。

 以前の記事「ケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』―経営に活かせそうな6つの気づき(その1~3)(その4~6)」でも書いたが、目標を達成すると、別の目標で手抜きをしたくなる誘惑にかられることがある。手抜き程度ならまだましなのだが、目標達成の反動で、反倫理的、反社会的な行動に手を染めることがある。簡単な例で言うと、「今日はいつもよりもたくさん顧客企業を訪問したから、道に落ちている千円札を拾って自分のものにしても構わないだろう(その千円札は、目標を達成したご褒美だ)」などと考えることである。

 こうした倫理・道徳からの逸脱を厳しく諫めているのが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンである。彼の「「人生のジレンマ」を克服するために プロフェッショナル人生論」という論文は、クリステンセンがハーバード・ビジネス・スクールの卒業生に贈った言葉である。この論文を読むのは実は今回で3回目なのだが、ようやくその内容が腑に落ちるようになってきた。クリステンセンは、人生における重要な3つの質問について、経営学・経済学の知見を活かしながら答えている。その3つの質問とは、①どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか、②どうしたら伴侶や家族との関係を揺るぎない幸福の源にできるか、③犯罪者にならないためにはどうしたらよいか、というものである。

 ③に関して、クリステンセンは経済学の「限界費用」という概念を持ち出す。企業が投資の選択肢を評価する際、埋没費用や固定費は無視して、個々の投資に伴う限界費用と限界収益に基づいて意思決定する。人が悪事の誘惑にかられる際、頭の中では、「いけないことだと解っているけれども、今回1回だけなら許されるだろう」と考える。つまり、限界費用は小さいと見積もる。ところが、その道が最終的にどこに至るのか、その1回の選択から生じる総費用について思いをめぐらすことがない。これが犯罪者へと転落するパターンである。

 クリステンセンは、埋没費用の話をする際に、オックスフォード大学でバスケットボール部に所属していた時代のことを引き合いに出す。クリステンセンは敬虔なクリスチャンであり、毎週日曜日には必ず教会に通っていた。ところが、ある重要なバスケットボールの試合が日曜日と重なってしまった。しかも、クリステンセンはセンターとして先発出場することになっていた。バスケットボールの試合を取るのか、教会を取るのか?クリステンセンが出した答えは後者であった。
 しかし振り返ってみると、「この状況なら一度くらい許されるだろう」というこの誘惑に打ち勝ったことが、私の人生で最も重要な判断の1つであったことは間違いない。なぜかというと、人生は「例外が許されてもいい特別な状況」が果てしなく続くものだからである。私がその一度だけ足を踏み外していたら、その後の人生で繰り返し同じことをしていたに違いない。
 クリステンセンの選択は、社会的、道徳的な問題ではないから、この例はやや極端であるという印象は否めない(もちろん、敬虔なクリスチャンであったクリステンセンにとっては、この問題が非常に道徳的な問題だったのかもしれない)。しかし、反倫理的、反社会的な誘惑を断ち切るには、このぐらいの厳しさが必要であることを教えてくれる。一般論としては、一部の目標を達成できなくても、我々は完璧主義者ではないから悲観する必要はないだろう。だが、こと倫理や道徳に関連する問題に限っては、潔癖で完璧主義を貫かなければならない。

 ここまで、「小さな目標をたくさん積み重ねることが重要である」と書いてきた。では、その「小さな目標」とは具体的に何なのかについて、ある程度私の見解を述べておく必要があるだろう。体系的に考え出すとおそらくキリがないに違いないが、私は4年前に「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓(全50回)」という記事を書いた。この記事の内容を裏返せば、経営者がなすべきことが見えてくるだろう。以下、思いつくままに列挙してみる。

 (1)毎日、経営ビジョンの内容を自分なりに解釈する。
 (2)毎日、経営ビジョンの内容を社員に語りかける。
 (3)経営ビジョンに関する社員の解釈を経営ビジョンの内容に反映させる。
 (4)重要顧客とは定期的に会い、潜在ニーズを把握する。
 (5)最重要顧客との商談では、経営者自らがクロージングを行う。
 (6)製造現場を直接目で確認し、問題点を指摘する。
 (7)品質に関する重要な指標をモニタリングし、問題の早期解決を図る。
 (8)新製品・新規事業開発の際には、事前に十分なフィージビリティスタディを行う。
 (9)外注・パートナー頼みのビジネスモデル、事業計画を立案しない。
 (10)事業・組織規模、身の丈に合ったオフィスを選択する。
 (11)秘書、顧問、間接部門は最小限にとどめる。
 (12)お酒で失敗しないよう、お酒の量を控える。
 (13)顧客に対して、製品・サービスなどに関する情報を密に発信する。
 (14)顧客から、製品・サービスに関するフィードバックを受ける。
 (15)一般常識に従って、社会人として恥ずかしくない行動をする。
 (16)毎日、自社の行動規範の内容を社員に語りかける。
 (17)社員の行動が行動規範に則っているかチェックする。
 (18)行動規範に合致した行動は褒め、合致しない行動はすぐさま是正する。
 (19)自社が買いたいと思う製品・サービスを開発する。
 (20)事業間・製品間のシナジー目標を設定する。
 (21)事業間・製品間シナジー目標の責任者を任命する。
 (22)事業間・製品間シナジー目標をモニタリングし、問題の早期解決を図る。
 (23)野心的・非現実的すぎる事業目標を設定しない。
 (24)事業目標を達成するシナリオを社員に提示する。
 (25)競合他社を特定し、その強みやビジネスモデルを把握する。
 (26)競合他社との差別化ポイントを簡潔に示す(3つ程度)。
 (27)資金調達の目的を明確にする。
 (28)目的に合致した最適な資金調達手段を検討する。
 (29)顧客からの面倒な要望を嫌がらない。
 (30)多品種、少量、異形、不定期、低頻度に対応する。
 (31)新製品・新規事業開発の際には、投資対効果を算出する。
 (32)新製品・新規事業開発の際には、前提を変えて数パターンの投資対効果を見積もる。
 (33)新製品・新規事業開発の際には、撤退基準を設定する。
 (34)新製品・新規事業の開発にずるずると追加投資しない。
 (35)顧客のポートフォリオ管理を行い、ランク分けする。
 (36)それぞれの顧客からの期待売上を基に次年度の予算を立案する。
 (37)(23)の目標と(36)の予算とのギャップを埋める現実的な施策を立案する。
 (38)リストラ(人員削減)をする際には一発で終わらせる。
 (39)リストラによるコスト削減だけでなく、その後の売上回復シナリオも描く。
 (40)社員に企業の重要な業績指標を公開する。
 (41)業績指標や財務諸表の読み方について社員にトレーニングを行う。
 (42)製品ごとの原価と利益を見える化する。
 (43)目に見えないサービスの場合、サービスの効果を可視化する。
 (44)外注先とはコミュニケーションを密にして基本的な価値観を共有する。
 (45)外注先と価値観が対立したら、その解消に乗り出す。
 (46)製品・サービスのコアを見極め、コアだけは必ず自社で製造・提供する。
 (47)アウトソーシングした場合は、将来的に価格競争に突入することを覚悟する。
 (48)新製品を開発する際には、見込み顧客の具体的なニーズから出発する。
 (49)新製品を開発する際には、ターゲット顧客層を明確にする。
 (50)ターゲット顧客層は一定のボリュームが存在することを確認する。
 (51)見込み顧客が声に出さない潜在的なニーズを拾い上げる。
 (52)顕在ニーズと潜在ニーズを合わせて、トータルの顧客価値をデザインする。
 (53)顧客価値に見合う適切な価格を設定する(安易な安売りは悪)。
 (54)顧客を100%満足させるためには、120%の力を出し切る。
 (55)顧客から無理難題を突きつけられても、顧客の悪口は絶対に言わない。
 (56)マネジャーの役割と責任を明確にする。
 (57)マネジャーには、部下が迅速に仕事をできるよう、権限委譲する。
 (58)会議は予定時刻通りに開始する。
 (59)会議は予定時刻通りに終了する。
 (60)会議の主催者が責任を持ってアジェンダと討議用資料を準備する。
 (61)会議では参加者全員に発言させる。
 (62)会議終了時には、終了後のアクションとその責任者を特定する。
 (63)営業で失注したら、敗因分析を行う。
 (64)失注は学習の機会であり、失敗ではないという組織風土を醸成する。
 (65)標準営業プロセスを確立し、属人化を防ぐ。
 (66)営業プロセスの進捗度合いをモニタリングする指標を開発する。
 (67)自社や製品の認知度を維持・向上するためのメディアミックスを検討する。
 (68)値下げを営業担当者任せにしない。自社としての値引き率の上限を決める。
 (69)社員が多様なスキルを身につけられるようなトレーニングを実施する。
 (70)人事評価はこまめに行う。
 (71)社員を採用する際には、求める人材要件を明確に定義する。
 (72)社員の採用にはできるだけ多くの人を関与させ、直観で判断しない。
 (73)新卒採用では、基本的な性格(素直さ、責任感、コミュニケーション)を重視する。
 (74)中途採用では、前職と自社の価値観の対立をマネジメントできる人材を重視する。
 (75)相性のよさではなく、能力の補完関係を考慮してチームを結成する。
 (76)タスクフォース、委員会、分科会、分社化など、組織の細分化は極力避ける。
 (77)部門横断型組織を兼任メンバーだけにしない。必ず専任メンバーを入れる。
 (78)社員の遅刻に対して厳重に注意する。
 (79)社員には仕事の納期を守らせる。
 (80)経営者が自ら率先して雑用をする(掃除など)。
 (81)進んで雑用をする「縁の下の力持ち」的な社員を褒め称える。
 (82)経営者が自ら進んで社員に挨拶をする。
 (83)社員同士のコミュニケーションが生まれるようなオフィスレイアウトを工夫する。
 (84)社員同士のコミュニケーションが生まれるような親睦会などを実行する。
 (85)仕事を割り当てる際には、最低限要求される能力を満たしていることを確認する。
 (86)仕事を割り当てる際には、その仕事を通じてどのように成長してほしいか伝える。
 (87)社員の能力を定期的に棚卸し、強みと弱みを把握する。
 (88)自社の要求と、社員のキャリア意識を定期的に擦り合わせる。
 (89)顧客から理不尽な要求を受けたくなかったら、仕入先に理不尽な要求をしない。
 (90)自分の仕事を定期的に棚卸し、捨てるべき仕事、効率化すべき仕事を見極める。
 (91)社員に日報・週報を記録させ、仕事の生産性をチェックする。
 (92)社員に業務の効率化につながるアイデアを提案させる。
 (93)社員からの提案をどのように検討し、どんな結論になったかフィードバックする。
 (94)新しい改革に取り組ませる時には、まずは既存業務を効率化し現場の負担を減らす。
 (95)他社・大学と協業する場合には、共通の価値観を設定する。
 (96)他社・大学と協業する場合、お互いに異なる目的を追求していることを尊重する。
 (97)他社・大学と協業する場合、メリットを受けるだけでなく、相手にメリットを与える。
 (98)毎日の資金繰りを管理する。
 (99)会社としての撤退条件を定める(債務超過が3年続いたら解散するなど)。
 (100)会社全体の業績に対する最終的な責任は経営者が負う。

 この中には必ずしも「小さな目標」ではなく、考え出すとなかなか奥深い目標も含まれているのだが、まずは第1版として提示した。余裕があれば、経営者が追求すべき「小さな目標」集なるものを体系化したい。さらには、目標の達成度合いと企業の業績との関係を分析できるようなツールを開発することができれば面白いのではないかと考えている。




  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like